オヤシロサマ
●登場人物
・オヤシロサマ…三種の魔族の一つフェズヴェティノスの首領。その正体は未だ不明。
・ハナ…桃色の巫女としてヤック村の住民を魅了しているが、その実態はオヤシロサマの孫娘でフェズヴェティノスの実質的なリーダー。
・ガウビ…フェズヴェティノスの一人。正体は九本の尾を持つ狐のような姿をしており戦闘能力も高いが、本人は暴力を嫌い、知恵で戦う事を信条としている。
・ラプス…フェズヴェティノス、オオグチの一族の長。真っ黒な狼のような姿をした魔族。オヤシロサマとその孫娘であるハナには絶対の忠誠を誓っている。
・ヒカル…シキの一人で黄色の巫女。
・タマ…シキの一人で白の巫女。
●前回までのあらすじ
ココロ達が潜むイーダスタの森のすぐ近く。ヤック村では今日もオヤシロサマの”言葉卸の儀”が盛大に執り行われていた。それは厳粛とは程遠いまるでアイドルグループのライブのような様相であった。
まだ電気が発明されていない筈のプレアーガにあって煌々と闇を照らす光の洪水の中で「シキ」と呼ばれる三人の若い娘達が激しく踊り、歌っていた。
やがて降ろされるオヤシロサマの予言。シキの演舞に魅せられた村人達は一様に傅き、オヤシロサマの言葉を崇拝していた。
しかし、こうして純朴な村人達を魅了し、オヤシロサマの信者として先導していくハナ達「シキ」はシュベルの力で蘇った三種の魔族の一つ、フェズヴェティノスであった。
シキの演舞が終わり、今夜の御言葉卸しの儀式も大盛況の中幕を閉じた。
あれ程の熱気に包まれていた会場も、村人が去った後は先程までの狂気じみた喧噪が嘘のように静まり返っていた。
しかし、神殿の中はまだその熱気の余韻で満ちていた。全力で演舞を奉納し、舞台を降りたシキのメンバーが上気した顔のまま戻ってきたところであった。
いつもならメンバーを出迎える為にテキパキと指示を飛ばす筈のガウビがいないせいで神殿に暮らす信者達はオロオロとしていた。
何とかガウビなしでいつものように振舞おうとする信者達へ、早速ハナの怒声が飛んだ。
「ちょっと、何やってんのよ!私は儀式の後はリンゴジュースって決めてるの知らない訳じゃないでしょ!」
「ね~、私のタバコは~?もう、用意しておいてよ~」
別の場所でヒカルが文句を言っている。彼女達から苦情が出る度に信者達は泣きそうな顔で謝りながら走り回った。
「ガウビはどうしたの!?」
「そ、それが…」
一人の信者がハナの質問に答えようとした時だった。神殿の奥から当のガウビが現れた。
「私ならここに」
大騒ぎの広間に、一人ガウビだけが静かに佇んでいた。
「ガウビ!あなた何やってるの!」
ガウビの姿を見るなりハナがヒステリックな声で怒鳴りつける。
「この子達じゃ全然私達の世話ができないじゃない!」
「申し訳ございません」
言われたガウビは素直に頭を下げた。しかし、その様子にいつもと違う何かを感じたハナは、すぐにまた質問した。
「一体どこへ行っていたの!?」
しかし問われたガウビはすぐに答える事ができず、困ったような表情で怒りに満ちたハナの顔を見た。
「あ…その…」
いつものガウビらしくない歯切れの悪い反応に、ようやくありつけたタバコを深々と吸ったヒカルと大好きな猫とじゃれ合っていたタマも顔を上げて彼を見た。
注目を浴びたガウビは益々きまり悪そうに目を泳がせていたが、不意に速足でハナに近づくと、素早くその耳元で囁いた。
「お嬢様、少々問題が…できれば奥でお話しを…」
言われたハナは一瞬 睨むようにガウビを見たが、それに怯む事のないガウビの真剣な目に見つめ返され、正体のわからない不安感を覚えた。
「わかったわ。ヒカルちゃん、タマちゃん、お疲れ様。次もよろしくね」
「うぃ~っす」
「おーつかれニャー」
ヒカルとタマの挨拶に送られて、ハナは悠然とした足取りで奥の間に姿を消した。その後を追おうと歩きかけたガウビは、その場で振り向くと残ったシキの二人に声を掛けた。
「ヒカルさん、タマさん、お疲れ様でした。表にはまだ信者の子が残っているかもしれません。私は少々ハナさんと話しがありますのでこれで失礼いたしますが、神殿からは出ませんように。できれば早めにお休みください」
「へぇい」
代表する形でヒカルが返事を返すが、天井へ煙を伸ばしたまま彼の方を見もしなかった。ガウビは力のない苦笑を見せた後、すぐに踵を返すと速足でハナの後を追って行った。
「一体何事?」
奥の間にガウビが入ると、既に待ち構えていたハナがすぐに問い掛けてきた。一度部屋の外を見たガウビは、他に人気のないのを確認するとハナの近くに寄って来て片膝をつき話し出した。
「実は、先程ボランティアで会場係をしてくれている村の若者から報告がありまして…」
儀式を終えた労いも、出迎えに出られなかった詫びの言葉もなくガウビは単刀直入に本題に入った。
大きな椅子に体を沈めたハナも別段それを咎める様子もなく、黙ってガウビの話を聞いている。
「川を流れてきた死体を引き上げたとの事でした」
「死体?」
「はい」
ガウビはすぐに頷く。
「それが、少々 厄介な事になりまして…」
「厄介って?」
「流れ着いたその死体は…森へ入った同胞のものでした」
ガウビが言った途端、ハナは丸い眼鏡の奥に光る目を驚く程大きく見開いた。
「うそ…」
「嘘ではありません、お嬢様」
それを聞いたハナは大きな目を泳がしながら、何かを思案している風であったが、突然 椅子から立ち上がると、ガウビに向かって大きな声を出した。
「ラプスは!?ラプスはどうしたの!?」
「それが、ここ数日連絡が取れていません」
「何よそれー!?全然ダメじゃん!」
「申し訳ありません」
「何やってんのよ!そんなんじゃあんた、頸にするよ?」
「それはご勘弁を」
「じゃあ殺すよ?」
「殺さないでください」
「あんた私の事なめてるでしょ?」
「とんでもございません、我らがなめるのは行灯の油と相場が決まっておりまして…」
「マジむかつくんですけど?」
「申し訳ありません」
「それ聞き飽きた!」
怒りの形相で叫んだハナが勢いよく立ち上がると、驚いたガウビが尻もちをついて懇願した。
「お、お嬢様、どうか落ち着いて!この口が!この口が!どうにも性分でありまして!」
「あんたの言い分なんて信じる訳ないでしょう?化かし上手が!」
「ど、どうか命ばかりは!」
ガウビが白い顔を益々白くして命乞いをすると、突然二人のいる部屋に老人の声が響き渡った。
「ハナ」
呼ばれたハナは勿論、傍にいたガウビもその声にハッと顔を上げた。
「オ、オヤシロサマ!」
ガウビは今まで以上に怯えた声で姿勢を正すと、その場で深く頭を下げた。
「じっちゃん?」
声だけで姿の見えない老いた声に、ハナが話し掛ける。それに答えるように再び姿なき声が部屋の中に響いた。
「ラプスはここにおる。お前も来い」
「ラプスが?じっちゃんの所に?」
しかし、聞こえていた声はそれ以上何も語ろうとはしなかった。ハナは一つため息をつくと、足元に傅くガウビを睨みつけ、命令口調で言い放った。
「ガウビ!じっちゃんの所へ行くよ!あなたも来なさい!」
言いながら部屋の出口へ急ぐハナは、すれ違いざまガウビの頭を一つ平手で叩いた。
「痛っ!は、はい!」
ガウビの裏返った返事も聞かず、ハナは急いでその部屋を出て行った。その後を背中を丸めたガウビが慌てて追いかける。
真っ直ぐに前を見つめたまま長い廊下を大股でズンズン進んで行くハナの後ろから、背を丸め、もみ手をしながら続くガウビは、歩きながら話し続けていた。
「まったく、一体全体何があったんでございましょうねぇ?オオグチの長ともあろうものが身勝手に…。これは一つ厳しく問い詰める必要がありそうですよお嬢様!大体あの獣は、変化の術もろくにできない落ちこぼれ。残忍で暴力的なだけが取り柄の愉快な筋肉馬鹿野郎です。預言実行が成された今となっては最早何の使い道もありません!あれこそ更迭すべきです。そもそも我らと奴らは根本的に別種の生き物なのですよ、敵を倒すには何よりも知恵!これに限ります。まだ本来の敵と遭遇すらしていないこの段階でこの体たらくでは、これからの共闘も考えものかと…」
ペラペラとガウビが早口で捲し立てている間ハナは一言も発せずにただ廊下を歩いていたが、大きな扉の前でいきなり立ち止まり、放っておけばこのまま朝まで喋り続けそうな勢いのガウビを振り向いた。
急に自分の方を向いたハナに怯えたようにガウビも止まり、更に喋ろうと開きかけたままの口を閉じるのも忘れて呆けた顔でハナを見つめた。
「そうね、確かにラプスは脳みそ足んないと私も思う」
「…で、ですよねぇ?マジ脳筋野郎でして…」
賛意を得たと安心したガウビがひきつった笑顔で言った。
「でも」
「は?」
「じゃあ、あんた、ANTIQUEが現れたら戦闘に参加する?」
「ANTIQUEと戦闘?」
ガウビは普段見た事もないハナの真剣な表情に、ゴクリと唾を飲み込むと慌てたように答えた。
「め、滅相もございません、私めはそんな野蛮な…」
「あんただって滅法強いって話だけど?」
「え、ええ、そりゃぁまあ…。あ、いやいや!私は暴力は好きではありません。私は、ここ、ここで戦います」
ガウビは細い目を更に細めた笑顔で、自分の人差し指でこめかみの辺りを指し示した。
「ふうん」
そう言うとハナは再びガウビに背を向け目の前の扉を見つめながら一呼吸置くと、その把手に手をかけた。
「じゃあ、やっぱりラプスを頸になんてできないさ。それに、あいつは別種の生き物なんかじゃない」
白く、大きな扉が重々しくわずかに開いた所で、ハナはもう一度顔だけでガウビを振り返り言った。
「あいつはれっきとしたフェズヴェティノスだよ。正真正銘、私達の仲間だ」
そう言うとハナはガウビの答えも聞かずに白い扉に守られた神殿 最奥の部屋にその身を滑り込ませた。
「…は?お嬢様?なにをぉ~…?」
取り残されたガウビはハナの意外な反応に言葉を失って佇んでいた。
「ガウビ!早く入っておいで!殺すよ!」
部屋の中からハナの怒鳴り声が聞こえた途端、ガウビは本当にその場で一m飛び上がると、慌てて部屋の中に飛び込んだ。
ハナとガウビが入ったその部屋は、一面白一色に染め上げられたとてつもなく広い部屋であった。
まるで現実の世界ではないような一種独特の雰囲気を持つこの部屋の中で、一際異彩を放っているのが、部屋の中央奥に設けられた階段の上に建つ、一棟のお堂であった。
形は小さく、間違いなくお堂ではあったがその造りはまるで日本古来の城を思わせた。豪勢にして絢爛、そして厳かな佇まいであった。
そのお堂の建つ階段の下に、疲れ切った様子のラプスが足を延ばして座り込んでいた。
大きな口から赤い舌を出し、その長い毛で覆われた逞しい胸は激しい呼吸に大きく上下していた。
赤一色に輝く瞳のない目は遠くを見つめるように焦点があっていない。
「ラプス!」
その姿を見るなりガウビが甲高い声を出し、ハナを追い抜いてラプスに近づいた。
「お前…!」
ピクリとも動かないラプスに挑みか掛かるように叫びかけたガウビが、慌てた様子で身を引き、そのしなやかな指先で自らの鼻をつまんだ。
近づいてみると、全身の毛がぐっしょりと濡れたラプスは、雨に打たれた獣のような嫌な臭いを体中から発していた。
「何て姿だ、まるで濡れネズミだな?え!一体何があってそんな姿でオヤシロサマの部屋に入り込んだのだ!」
耳をつんざくようなガウビの甲高い声に、ラプスの赤い目が一瞬 揺れた。次の瞬間、目にもとまらぬ速さでラプスの巨大な手がガウビの細い足首を掴んだ。
「おや?」
眉間に皺を寄せ、あからさまに不快な表情を作ったガウビがややたじろいだ様子で自分の足を見つめて言った。
「これは何のつもりかな?ラプス君。この私に逆らおうと言うのか?負け犬の分際で!」
負け犬、その言葉をラプスの尖った耳が捉えた瞬間、完全に生気の戻ったラプスの燃える目が、自分を見下ろすガウビを睨みつけた。
食いしばった歯の間から、威嚇するような唸り声が漏れる。
「何のつもりだと訊いているのだ、この野蛮な野良犬めが!」
ガウビが自由な片足を振り上げ、ラプスの顔面を蹴ろうとする仕草を見せた途端、ラプスはガウビの足を掴んだ手に力を込めた。
ガウビの細い体が風に舞う木の葉のように宙に浮かんだ。ガウビの体を投げ飛ばした瞬間、ラプスは肩を怒らせて立ち上がり、戦闘の体制に入った。
しかし、投げ飛ばされたガウビは空中で軽々と身を反転させると、音もなく一度壁を蹴り、空気のように静かに床に着地した。
「いい度胸だ…」
そう呟いだガウビの顔に黒い文様が浮かび上がり、手の先には一瞬にして鋭い鉤爪が生えそろった。首や腕に金色の長い毛が溢れるように伸びる。
見る見る姿を変えていくガウビにラプスが大きな声で吠え掛かる。二本足で立つラプスが上げた、部屋中の壁を震わせる程の威嚇の雄叫びは、まるで追い詰められた手負いの獣の声そのものであった。
「この低能なケダモノめ」
そう呟くガウビの口元から鋭く光る牙が覗き、その目は金色に輝き始めた。その瞬間、九本の太く光り輝く美しい尾が、まるで孔雀の羽のように彼の背中で広がった。
「そこまでだ!」
今まさに二匹のフェズヴェティノスが激突しようとしたその瞬間、先程聞こえた低く深い老人の声が大きく響き渡った。その声は階段の上にそそり立つお堂の中から聞こえた。
「オヤシロサマの御前だよぉー」
老人の声と間を置かず、ハナの緊張感のない声が追いかける。ハッとしたように動きを止めたガウビは一瞬の内に元の線の細い男の姿に戻ると、その場に片膝をついて頭を下げた。
その声に背後を振り返ったラプスは、気が抜けたようにそのままその場に崩れ落ちてしまった。
「ラプス」
今度はハナがラプスに近づく。
「何があったの?」
ハナが近くに立つとラプスは慌てたように体を起こし、片膝の姿勢でハナに正対した。
「我らオオグチの一族、総勢十七名。宿敵を探し今日も森へ入りました…。しかしながら、返り討ちに合い、私を除く全員が、絶命…」
「全員倒されたぁ!?」
ガウビが大きな声を出す。
負け犬、野良犬と散々 罵ったものの、このラプスを首領とするオオグチの一族はフェズヴェティノスの中でも最も戦闘力に長けている事をハナも、罵った本人であるガウビもよく承知している。
そのオオグチ一族をもってしても倒す事ができず、それどころか逆襲にあい全滅させられた。言葉少なに語られるラプスの報告に、ハナもガウビも茫然とした顔で声を失くした。
「一体何者?」
三人のフェズヴェティノスの誰もが無言でいた所に、姿なきオヤシロサマの声が響いた。
「え?」
ハナがその言葉の意味を掴みかねて顔を上げると、同時にガウビが即座に反応した。
「そうか、おいラプス、オヤシロサマの仰る通りだ。お前、誰を相手にしてやられたって言うんだ?」
聞かれたラプスが低い声で答える。
「森に巣食う、青髪の狩人…」
「狩人?」
「ガキだ。チビだが、これがやたらと腕が立つ。その動きは俊敏にして我らと張り合う。遠方にあって放つ矢は、一中必殺のうえ、百発百中ときている」
「誰だ?」
ラプスは再び首を振りながら言った。
「わからん…。いや、わからなかった、今日までは…」
「どう言う意味だ?」
「今日、我らは別の獲物を見つけた。人間の若い男女だった。村の人間ではない、恐らくは旅人。俺達はそいつらに襲い掛かったが、同胞の一人はその旅の若い男に倒された」
「何だって?馬鹿を言うな!お前達オオグチを簡単に倒す事のできる人間なんかいる訳がないだろう?」
そう問われたラプスの赤い目が、妖しい炎のように揺らめいた。
「ANTIQUEだった…」
「え!」
「何っ!?」
ラプスの口から洩れた思いも掛けぬ言葉にハナとガウビが同時に叫んだ。
「お前、それは確かなのか⁉間違っていましたでは済まぬ事だぞ?」
「間違いなどではない。奴は、我が同胞が組み付いた瞬間、その腕から雷を生み出し瞬時に同胞の体を焼き滅ぼしたのだ」
「雷の、ANTIQUE…」
ラプスの語る敵の姿に心当たりがあるのか、オヤシロサマが呟く。
「そのうえ青い髪のガキだ。名をアクーと名乗った…。そいつは今まで矢を打って我らに対抗していたが、今日はその矢を射ち尽くした。すると奴は我らを水辺まで誘導した」
床を見つめたまま淡々と語られるラプスの話に、ハナはぎゅっと拳を握り唾を飲み込んだ
「それは奴の策略だった…。我らは、奴が自在に操る水に飲まれ、一斉に流された…」
「それで川で奴らの死体が…」
ここに来てようやく事の次第が掴めたガウビが呟く。そう、会場係の若者達が見つけ引き上げたと言う死体は、アクーに倒されたオオグチ一族のものであったのだ。
「つまり、水のANTIQUEであったのだな?」
再びオヤシロサマの声が部屋に響く。それを聞いた瞬間ラプスは膝をついたまま体を百八十度回転させ、階段の上に建つお堂に向き直った。
「恐らくは…。今にして思えば、アク―と名乗った人間の子供は我らの襲った雷のANTIQUEを救う為に現れたとしか思えませぬ。つまり奴らは仲間。そしてあの特殊な能力、奴らがANTIQUEの能力者である事は疑いようもございません」
「やった…」
突然ハナが呟いた。
「は?」
この場にそぐわぬハナの言葉にガウビがしかめ面を作る。
「やったじゃん!見事ANTIQUEの能力者を見つけ出した。奴らをやっつける為に私達は歌ってたんだよ?バッチリ作戦通りじゃんよ?違う?」
「それは…まあ…」
ガウビが渋々と言う感じで認める。
「あとはANTIQUEちゃん達をどうぉやって村におびき寄せるかだよねえ?村人達に言う事を聞かせる為にもガウビ、次の作戦を考えて」
「え?」
「それがあなたの仕事でしょう?」
「はあ…」
「それからラプス」
「はっ」
ラプスは再び体を回しハナに向き直った。
「せっかく見つけたANTIQUEをみすみす逃しちゃだめだよ」
「承知しておりますお嬢様。明日から再び森へ入ります」
それを聞いたハナを大きく頬を膨らませた。
「もーぅ、ラプスはバカなんだからぁ!」
「は?」
「今からすぐに決まってるでしょ!」
眼鏡の奥の大きな目をキラっキラさせながらハナが満面の笑顔で言い放つ。
「承知、いたしました」
ANTIQUEとの戦闘で仲間を多数失い、自分自身も命からがら逃げ戻ったラプスはハナの言葉に強い眩暈を覚えたが、それを表には見せず答えた。
ラプスはフェズヴェティノス最強と謳われるオオグチ一族の長として精一杯の威厳を保ちつつ立ち上がると、ふらつく足に力を込めてゆっくりと部屋を後にした。
「ハナ…」
「あん?」
ラプスの退室を見届けたハナにオヤシロサマの声が呼び掛ける。
「お前はANTIQUEと争うつもりか?」
「何言ってんの?当り前じゃん、そんなの。やだなぁ、じっちゃん心配してんの?大丈夫だよぉ。ANTIQUEの能力者なんて結局ただの人間だし、私達だってもともとANTIQUEみたいなもんなんだから、全然負ける気とかしないし」
そう言うとハナは金魚の尾のような桃色の衣装をひらめかせて振り向くと、上機嫌で部屋を出て行った。
「あ、で、では私めも、これにて…」
一人部屋に残されたガウビが、慌ててオヤシロサマのお堂へ一礼するとそのまま背を向けた。部屋から出ようとする彼の背にオヤシロサマの声が追いかけてきた。
「ガウビよ」
「は、はいっ!」
呼ばれたガウビは機械仕掛けの人形のようなぎこちなさで慌てて振り向く。
「ANTIQUEとの戦、勝てるか?」
「は…、お嬢様は少々相手を軽視し過ぎているかと…。しかし、戦い方によってはこの地にてANTIQUEにある程度の打撃を加えてやる事はできるものと…」
ガウビは恐る恐ると言った風に一度下げた頭を上げると、続けて言った。
「これよりクウダン、モリガノと共に作戦を練ります。我らにとっては使い古された手ではありますが、こちらの被害は最小限に抑え、より効果的な攻撃ができるよう努めます」
「うむ」
短く答えたオヤシロサマに深く一礼したガウビは、今度こそ部屋を出て行った。
部屋を出たガウビは暫く背中の扉に寄り掛かったまま思案顔で佇んでいたが、やがぼそりと独り言を呟いた。
「ANTIQUEと戦だって?冗談じゃないや」
そう言うと顔を上げ、来た時に通った長い廊下を逆に辿り始めた。




