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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
71/440

ポーラーのこと

●登場人物

・ガイ…雷のANTIQUEに選ばれた能力者。がさつで余り頭は良くないが、戦闘能力は高くシルバーと双璧を成す実力者。また、友情に熱く、人情家。

・アクー…水のANTIQUEに選ばれた能力者。ココロよりも背の低い少年だが、頭脳派明晰。身体能力に優れ、特に弓の腕はぴか一。皮肉屋でいつも相手を小馬鹿にしたような態度を取るのがたまにキズ。


・ポーラー…イーダスタの森の中でアクーと一緒に暮らす放浪者。巨体のガイをも凌ぐ長身を誇りながら、その性格は穏やかで優しい。いつもどこか飄々とした態度で過ごす。



●前回までのあらすじ

無事に大地の治療を終えたポーラーは、アクーとガイが連れ立って森へと狩りに出掛けてしまうと、自分とアクーとの出会いを残ったココロ、シルバー、キイタの三人に語って聞かせた。

アクーはまだ寒い日に川の中で倒れていたところをポーラーに救われていた。しかし意識を取り戻したアクーは発見されるまでに一切の記憶を失っていたと言うポーラーの話しに三人は言葉を失った。

時折寂しそうな顔を見せるアクーは、きっと自分の記憶を取り戻したがっている。その為には、本当の仲間と共に、本当にあるべき場所へと行き、本当にやるべき事をしなくてはならない。そう考えたポーラーは、ココロに、何とかアクーをこのイーダスタの森から連れ出して欲しいと頼む。

一方、夜の森で大きな牡鹿を仕留めたアクーも、同行したガイに本音を漏らす。ココロとガイを襲った魔族はフェズヴェティノスだと伝えたアクーは、彼らに対する理由のわからない憎しみを訴えた。

アクーが素直に自分達の仲間にならないのは、そのフェズヴェティノス達から森とポーラーを守ろうとしているからだと話しを聞いたガイは感じた。

お互いを思いやる余りすれ違い、矛盾した思いを抱えるアクーとポーラー。果たしてココロ達は無事にアクーを仲間にする事ができるのか?







 みるみる暗くなっていく森の道を、ガイはアク―の背中を見失わないように気を付けながら歩いていた。

 たよりなげに小さく薄い背中だが、自信をみなぎらせてまっすぐ立つアク―の背中には、言いようのない力強さを感じた。

「なあ」

 鹿の体を背負い直しながらガイがそんなアク―の背中に話し掛ける。

「何?」

「いや…。助けてくれた礼をまだ言っていなかったな」

 ガイがそう言うと、足を止めたアク―が振り返った。相変わらず表情のない顔でガイをじっと見る。

「正直、俺一人だったら姫を守る事も難しかった。恩に着るよ」

 そう言われたアク―は、ぷいっと顔を背けると聞き取れない程の小さな声で言った。

「そんな事…、別に」

 アク―のそんな態度に、ガイはニヤリと笑った。生意気なまいきな事ばかりを言っているが、子供っぽい照れ隠しのそんな仕草しぐさが何とも可愛かわいらしく見えたのだ。

 勿論もちろんそんな事を言えばプライドの高いアク―がまた怒り出すのは間違いがない。ガイはニヤニヤしたまま話を変えた。

「あの時のあの敵、あれは一体何だ?」

「フェズヴェティノス」

「え?」

「三種の魔族の一つだよ。知能の低い、乱暴な奴らだ」

「フェズヴェティノス…」

 新たな敵の名前を口に出してみたが、その後はもう何も言わず歩みを止めないまま語るアク―の話をガイは聞いた。

「僕はいつも森の入口を見張って奴らの姿が見えたら、かたぱしから射倒いたおしてきた」

「ああ」

 鹿を背負せおったまま、ガイが何かを思い出したように声を出す。

「だからあの時あいつらはお前の姿を見て、“またあいつだ”とさけんだんだな?」

「あいつらを森には入れさせない…」

 アク―はガイに向かってと言うよりは、ひとり言のようにつぶやいた。

 それからしばらく二人とも無言のまま歩いていたが、前方にねぐらの明かりが見え始めた頃、ガイがアク―の背中に声を掛けた。

「それか?」

「え?」

 ガイの言葉の意味をつかみかねたアク―が振り返る。鹿を背負せおったガイが真剣な顔で見返してくる。

「それがお前の言う、色々な問題ってやつか?お前はこの森をを守っているんだな?だからすぐには俺達と一緒に行けないって、そう言う訳だ?」

 アク―はガイのその質問にすぐには答えず、再び前方に向き直ると歩き始めた。

「それだけじゃない」

 さらしばらく歩いた所でアク―が言った。

「それだけじゃないって?」

 ガイがくとアク―は、背中で小さなため息をついてから答えた。

「ポーラーがここを出ると言うのなら僕も一緒に行くつもりだった、昨日までは…。森を守るとか、そんな事じゃないよ…」

 言葉の続きを待つようにガイは黙っていた。アクーは一度歩みを止めたが、振り返る事はせずに口を開いた。

「それ以上に僕は奴らが嫌いなんだ。理由はわからない。あのフェズヴェティノスの連中を見ると、ワケもなく腹が立って…皆殺しにしたくなるんだ」

 静かな、さりげない口調で語るアク―の言葉に異様いような迫力を感じたガイは、何も言えずにつばを飲み込んだ。

「それは多分ね…」

 ガイが何も言わないのを確認したように再びアク―が話し始めた。

「ANTIQUEとは関係のない、僕の過去にまつわる何かが理由なんだと思う」

「お前の過去って?」

 ガイがき返す。アク―は足を止め、その足元を見つめた。

「わからない」

「え?」

 アク―は静かにガイを振り返ると、少し微笑ほほえんだような表情で言った。

「僕には、ポーラーと出会う前の記憶がないんだ」

 ガイはまた言葉を失い、道の先から自分を見返すアク―の顔を見つめた。アク―は、ふっと息をらすとガイから目を外し、また歩き始めた。

「でもね…」

 歩きながらアク―は話す事を止めない。ねぐらはもうすぐ目の前まで近づいていた。

「ポーラーには帰る場所があるんだ。彼は別に一人で森の中で暮らしていた訳じゃない。本当はどこかに家があって、家族もいるはずなんだ。だけど…」

 アク―は再び足を止めた。どうやらこの話をガイ以外の者の前で話す気はないらしい。

「ポーラーは僕の事を何も聞かない代わりに、自分の事も何も話さない。それはそれでかまわわないけど、少なくとも、この森にいる内は僕が守ってあげないと…」

「そこまでしてポーラーを守ってやるのは、何か理由があるのか?」

「え?」

「ココロ様の声は聞こえていたんだろう?ANTIQUEの能力者が十人 そろわなけりゃポーラーだけじゃない、この世界、宇宙全てが魔族に滅ぼされてしまうんだ」

「知っているよそんな事。ハルに散々聞かされたからね」

「じゃあ、どうしてだ?」

「僕はポーラーに拾われたんだ。このイーダスタの森の、川の中で倒れていたらしい。ポーラーはそんな僕を連れて帰り、手当てをしてくれた。それだけじゃあない、僕に弓の使い方や動物のさばき方を教えてくれたのもポーラーだ」

「何があった?」

「言ったでしょ?ポーラーの元で目をます以前の記憶はほとんどないんだ」

「なるほど、一宿一飯いっしゅくいっぱん恩義おんぎってやつか、忠犬だな」

 ガイがからかうように言うと、アク―は殺意のこもった目でニヤつくガイをにらんだ。

「わざと僕を怒らせようとしている?それとも君は死にたがりなのか?いい趣味じゃないな、君の冗談は笑えない」

「センスの問題じゃないかぁ?そんな怖い顔するなよ、何でそんなにこだわる?」

「さあ?でも犬呼ばわりされて喜ぶ奴もいないと思うけど?」

 するとガイは背中の鹿を一度背負い直し、ニヤリと笑った。

「じゃあこうしよう、まずは俺ら全員で獣狩けものがりだ」

「は?」

 何を言っているの?と言いたげな表情でアク―がガイを見る。

「その、フェズヴェティノスを俺らで殲滅せんめつしようぜ。そうすりゃぁ森も安泰あんたい、お前も安心してポーラーを見送り、俺らの仲間になる事ができる」

 能天気のうてんきな笑顔で自分を見ながら語るガイの顔をアク―はじっと見つめた。やがてアク―はため息をつくと、顔をねぐらに向けながら言った。

「お気楽だねぇ」

 アク―はあきれたと言った風に首を振りながら足を踏み出した。その背中に即座そくざにガイが声を掛ける。

「そうやってやりもしない内からあれもダメこれもダメとあきらめてポーラーのそば居座いすわる気か?」

 そう言われたアク―はきっとした顔でガイを振り返った。

「簡単に言わないでよ!君だって僕が助けなかったらやられていたくせに!あの土の能力者と鋼の能力者だって戦うどころか、まともに動く事だってできないじゃないか!こんな状態でフェズヴェティノスを殲滅せんめつだなんて、一体どうやったらそんな考えが浮かぶんだ!」

 言われたガイはこたえた様子ようすもなくニヤニヤ笑ったまま言った。

「まあ、俺ゃぁ頭は良くないからな」

 アク―はさらにガイを罵倒ばとうしようと口を開きかけた。その時、背後から自分を呼ぶポーラーの声が聞こえ、軽くそちらを振り向く。

「アク―?戻ったのか?」

 き火の光が届かない場所に立つ自分を、ポーラーはまだ見つけていないようだった。ガイと言い争う自分の声が聞こえたのだろう。

 アク―は小さく息をつくと、打って変わって冷静な声に戻り、めた目でガイを見つめて言った。

「君に話したのは無駄むだだったようだね」

 そう言い放つとガイに背中を見せ、残りの道をかけて行った。

「結局お前は、ポーラーのそばにいたいんだろう?」

 ガイはもう一度鹿を背負い直すと、アクーに聞こえない程度の声音こわねつぶやき、自分も歩き出した。

 アク―が姿を見せると、心配そうな顔をしていたポーラーが安心したように微笑ほほえんだ。アク―は無言でそんなポーラーを押しのけるように洞穴ほらあなの中に入ると、狩猟しゅりょう道具一式を外し、投げ出すようにすみの方に置いた。

「ほい、ただいまぁ」

 無言のアク―の後から一際ひときわ明るい声を出しながらガイが現れた。現れるなりガイは、仲間の輪の中心に背中の鹿を下ろした。

「こいつはすごい」

 ポーラーがつぶやく。

「だろぉ?アク―の腕は大したもんだ、俺なんかほら、これだけ」

 言いながらガイは腰にぶら下げた二羽の鳥を差し出した。

「これもありがたくいただくよ」

 ポーラーは笑顔でガイの差し出す獲物えものを受け取った。

「ポーラー、準備をしよう」

 アク―が少し苛立いらだったような声で言うと、背中を向けて暗がりへ歩み去って行った。ガイが何の事かとポーラーの顔を見る。

「隣のもう少し小さい岩屋には水がいている。獲物えものさばくにはもってこいだ」

「なるほどな。手伝うぜ、取りえずこれは俺が運ぼう」

 そう言うとガイは一度下ろした鹿の体を再び背中に背負せおい、ポーラーと共にアク―について行った。

 先に向かったアク―が準備をしたらしく、すで松明たいまつの光がれていた。ポーラーが中に入るのに続き、ガイも鹿を背負せおったまま岩屋の中に足をみ入れた。

 奥の小さな滝の辺りまで進んだ。こちらの洞穴ほらあなせまい代わりに天井が高く、ガイやポーラーが立ったままでも奥まで入り込む事ができた。

「ここでいいか?」

 一応確認をしてからガイは背中の鹿を滝の近くに横たえた。腰を伸ばし、改めて中を見回す。

「おい、アク―!何やってる!」

 突然ポーラーが叫んだ。見ればアク―が大きな包丁を鹿の腹にあてようとしていた。

「お前はこっちの鳥をさばけ」

「何でさ、僕だってできるよ!」

 アク―が包丁を片手に抗議こうぎの声を上げる。ポーラーはため息をつくとアク―に近づいて言った。

「そうだろうが今夜の獲物えものは俺達だけの食事じゃあない、失敗はできない」

 言いながらポーラーは右手を腰に回すと、一本の細身のナイフを取り出した。半月状はんげつじょうり返った、珍しい形のナイフだった。余程よほど念入ねんいりに手入れをしているのか、松明たいまつの明かりを受けたその刃はまぶしく光った。

「そら、これを貸してやろう。鳥を頼む」

 そのナイフを見た途端とたん、アク―の青い瞳がいつも以上にキラキラと輝きを増した。アク―はそっとポーラーの手からナイフを受け取ると、新しいおもちゃをもらった子供のような目で手の中のそれを見つめた。ほほも心なしか上気したように赤みがさしている。

 アク―は、そのナイフを手に鹿の側を離れた。入れ替わるようにポーラーが鹿の前に立つ。アク―は部屋のすみに寝かされた二羽の鳥の近くへ移動した。

「まだ修行中って訳だ?」

 自分のかたわらで鳥の羽をむしり始めたアク―にガイが声を掛ける。

「いつまでっても大きな獲物えものを任せてくれない」

 手を休めずにアク―が不満そうな声を出す。

「俺の仲間に料理の得意な奴がいたけどな、そいつもやっぱり他の連中には手を出させなかったな」

「もう僕だって鹿位 さばけるのに…。てんで子供扱いなんだから」

「実際子供じゃねーか」

 ガイが言うと一瞬手を止めたアク―が鋭い眼差しでにらんでくる。ガイはニヤニヤ笑いながら肩をすくめる。

「本当に皮肉屋ひにくやだね、君は」

 言いながらアク―は作業に戻る。無駄のない、見事な手捌さばきであった。

「そんなに大きな動物をさばいてみたいのか?」

 そんなアク―の手先を見ながらガイが言った。

「みたいね。生き物の体がどうなっているのかもっと知りたい」

 手を休めずにアク―が答える。

「大きな動物の方が人間に近い。体の仕組みがわかれば病気や怪我けがで苦しんでいる人を助ける事だってできるはずだ。そうだ、あの土の能力者が助からなかったら僕に彼の体を解体させてよ」

 澄ました声でアク―が言った途端とたんそばにしゃがみこんでいたガイが素早い動きで立ち上がった。しかし、それよりもさらに早いスピードでアク―が一歩下がり身構みがまえる。いつの間にかポーラーのナイフを逆手さかてに持ち、ガイをにらみつけている。

「アク―!」

 突然 にらみ合いを始めたガイとアク―に驚いたポーラーが叫ぶ。

「今の冗談は笑えねぇぞ」

 ガイが今にも相手を殺しかねない怒りに満ちた声を出す。

「センスの問題じゃない?」

 ナイフを体の前にかまえながら不敵ふてきな笑いを浮かべつつアク―が言い返す。

「ちょおっと、ちょっと!」

 包丁を置いたポーラーが言いながら二人の間に割り込む。

め事はごめんだよ。喧嘩けんかするなら二人とも出て行ってくれるかな?」

 言うとポーラーは一息つき、アク―の方へ体を向けた。

「アク―、そのナイフはそんな事に使うためのものじゃない。それがわからないようなら、まだまだそのナイフはあげられないな」

 生徒に言い聞かせる教師のような口調でポーラーが言う。それでもアク―はまだガイをにらみつけていた。

「なるほど」

 ガイがポツリと言う。

「皮肉には皮肉って訳か、仕返しのつもりか?」

「さあね」

 答えるアク―はまだナイフを下ろそうとしない。ガイは身構みがまえたこぶしを下ろすと、息をくような声で言った。

「仕返しだってんなら先に仕掛しかけたのは俺の方だ、すまなかったな」

 突然怒りを収めあやまりだしたガイに、アク―はきょを突かれたような顔で棒立ちになった。

「ポーラー」

「え?」

 ガイに呼ばれたポーラーが振り向く。

「鳥なら俺にもさばける。今後アク―が怪我人けがにんを助けるのに必要だと言うんだったら、鹿をさばくのを手伝わせてやってくれ」

 言うとガイは、最早もはや興味きょうみを失ったと言った顔でかたわらの鳥に手を伸ばすと、アク―がしていた作業の続きを始めた。

 そんなガイを見たアク―は、ムッとした顔のまま手にしたナイフをポーラーに差し出した。ポーラーはそれを受け取ると、後腰につけた皮のさやにしまった。

「まったく…」

 そう言った後、ポーラーは改めてアク―の顔を見つめる。いたずらがバレた子供のようにねた顔で目をらすアク―に向かい、ため息交じりに言った。

「しょうがないな。今日のところは見るだけだぞ?」

 それを聞いたアクーは相変わらず目をらしたまま、それでも黙って素直にうなずいた。






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