蠢く闇
・登場人物
・アリオス…元公軍隊士。ANTIQUEや魔族の存在を知る数少ない人間の一人。ココロ達を補佐する為仲間を集めようと奔走する。
・ロズベル…境界第二警備小宮付き第二警備隊の隊長。実際にアテイルの襲撃を受けたが未だにその実態を知る事ができていない。
・ブルー…境界第二警備小宮付き第三警備隊第八分隊長。ココロ直筆の手紙をココロの父親である公爵へ届ける途中、アテイルの襲撃を受け重傷を負う。
・ウルカ…アスビティ公国公軍唯一の女性隊士にしてデューカ守備隊第三分隊長を務める。公軍大臣の娘であるが、剣術では部下の誰にも負けた事がない。
・パッキオ…アリオスの部下。冷静な判断力と高い戦闘力を併せ持つ頼れる男。
・ハリス…アリオスの部下の中では最年少であるが理解力に優れている。医学の心得を持つ。
・コスナー…アリオスの部下。先読みの能力はシルバー、アリオスに引けを取らない。
・エミオン…アリオスの部下。気が弱く優しい男。足が速く火薬の扱いが得意。
・マルコ…アリオスの部下。ハリスに続いて年少だが剣の腕はアリオスに次ぐ実力者。
・ユーリ…アリオスの部下。山岳育ちでロープの扱いが得意。理解力にやや難あり。
●前回までのあらすじ
四年前の戦争で命を落としたハリスの兄、デスターの残した形見を英兵霊廟に納める式典が華々しく催される中、一人仲間から外れロズベルとの密会に臨んだアリオスは未だに立ち上がる事のできないブルーが寝かされている部屋でロズベルの話しを聞く事にした。部屋には境界第二警備小宮で経理係を担当していたイルファーが一人ブルーの身辺警護にあたっていた。
ロズベルは自分達の守る第二境界警備小宮にココロが到着した日から自分の身に起きた事を余すところなくアリオスに話して聞かせた。
ココロとの晩餐、その日の内に起きた襲撃。
ココロとシルバーを追ってンダライのダルティスに向かいそこで大地と出会った事。ブルーに裏切られ、まんまとシルバーに逃げられた事。
そして帰国の途中、シルバーの直近の部下であるアローガまでもが姿を消してしまった事。
取り急ぎ町の中に緊急の詰め所を設け第二、第三警備隊々士と住み込みの女房や料理人達をそこへ残したまま分隊長を始めとした主だった面々で中央まで上がってきた事…。
そして三日前、アリオスにブルーから目を離すなと忠告されたロズベルはそのままブルーの寝かされた外部兵舎第三号棟にあるこの部屋へと急いだ。
幸いその時は何事もなかったが、それ以降ロズベルは片時もブルーの傍を離れようとしなかった。そんなロズベルに注意を喚起した者がいた。
「ギース外務大臣の息がかかった奴だった」
「ギース外務大臣の?ではシュリ殿か?」
「シュリ?ああ、あいつも一回位来たかな?だが、しょっちゅう来てたのは奴じゃない。他の補佐官か何かだった。名前は忘れたが」
アリオスは意外に思った。ブルーの証言を恐れ彼の口を塞ごうと近づいてくるのは剣を携えた隊士の姿をしていると考えていたのだ。
なぜ政府高官である補佐官がわざわざ兵舎まで足を運んだのだ?
「俺達小宮の人間が中央に来たところでやる事なんかねぇ。一通りの報告を終えたら復興の為に小宮に戻るまでそれこそここで拘束されているだけだ」
ロズベルは恨みを吐き出すように続けた。
「だが、ブルーの傍にいると何かにつけて俺を呼び出しやがる。何事かと行ってみりゃ何の事はない、昨日報告した内容をそっくりそのまま繰り返す羽目になる。そんな事が日に何度も起きやがる」
ロズベルはブルーの顔を見て憎々しげに言った。
「誰に、何の話をするのだ?」
アリオスは尋ねた。
「色々だが…大抵は災害対策課の何だか偉い奴だった。さすがに俺も尋ねた、なぜ何度も同じ事を聞くのだと」
「そうしたら?」
「ギース外務大臣からの命令だそうだ」
クロだ―――。
咄嗟にアリオスは思った。何とかブルーを孤立させようと何度もロズベルを呼び出す。その黒幕がギースならば…。
あの男は四年前の戦争以降に大臣の座に就いたとシュリが言っていた。
アリオスの中であのでっぷりとしたギース外務大臣は敵だと認識された。アテイルの化けた偽物か、或いはンダライのポルト・ガスのように操られているのか…。いずれにせよ魔族の手の者である可能性が極めて高い。
「だが俺は…」
アリオスがそんな事を考えているとロズベルが再び口を開いた。
「自分がこの部屋を離れる時にはさっきのように必ず誰かをここに残した。実際、俺がいない時に一人の隊士が無断で入り込んできた事があった。俺が呼び出された直後だったらしい」
「それで?」
「そいつはここに警備隊の隊士がいる事に慌ててすぐに逃げ出した。その時ブルーの傍についていたゲイザンと言う俺の仲間はいささか年をとっていてな、逃げ去る男を追う事ができなかった」
危ない話だとアリオスは思った。もし入ってきたその隊士がアテイルであったとしたら、そして逃げ出さずにブルー暗殺を実行していたなら恐らくそのゲイザンと言う警備隊士も共に殺されていた事だろう。
「その日の夕方、ブルーが意識を取り戻すと俺達への規制は益々 厳しくなった。俺は夜こっそりとこの部屋に忍び込み、剣を抱えたままこのベッドの下に潜り込んだ」
自分の冒険談でも語るようにロズベルはブルーの寝ているベッドを指さして言った。
「俺はベッドの下に隠れながらブルーから今までの話を聞いた。俺達と別れた後、ブルーが経験した事の全てをブルー自身の口から聞き出していた」
アリオスはそっとブルーの顔を見る。彼は蒼白な顔を窓の外に向けたまま何も言わなかった。
「姫から公爵様 宛の親展の封書を預けられ、途中で合流したアローガと共にこの公爵宮を目指した。ところが…」
ロズベルは、一瞬言葉を飲み込むとそっとブルーの顔を見た。ブルーは相変わらず無表情なまま窓の外を見ている。
「アローガは敵だった…」
「なるほど」
その点についてアリオスは特に驚きはしなかった。ブルーはあの山中で突然 本性を現したアローガと言う男に襲われ負傷した。そのうえ崖から墜落したと言う訳だ。
一命を取り留めた彼は帰国の為たまたまそこを通りかかった自分達に救助されたと言う事なのだろう。
信頼していた男が急に剣を抜いて襲ってきたのだ、体の傷以上にブルーが受けた痛みはさぞ痛烈であった事だろう。
「小宮じゃあ隊士同士が切り合いを始めた。聞いてみりゃブルーはあのアローガに襲われたって言う…。俺ぁもう何が何だかさっぱりわからねぇし、誰を信じていいのかも…」
「それで、その晩敵は?」
「来たよ」
アリオスの質問にロズベルはあっさりと答えた。
「ブルーのすぐ近くまで来て剣を抜きやがった。音でそれがわかったんでな、俺のいる場所から見える相手の両足を思い切り剣で薙ぎ払ってやった」
アリオスはその時の情景を思い浮かべ緊張した顔でロズベルの話を聞いていた。
「ひっくり返った相手にとどめをさしてやろうと俺はベッドの下から飛び出した。そこには治安部隊の隊士が仰向けにひっくり返っていたよ」
「治安部隊の、隊士…」
「やっぱベッドの下から振るっただけじゃあ大した攻撃はできなかったようだな、そいつはすぐに飛び起きた。ただ、その起き方がよ、なんかこう…、まるで人間じゃねぇ。しかもそいつは一気に俺の背丈位まで飛び上がると俺の右肩を踏み台にして、あの窓を破って飛び出していった…」
ロズベルが指さす先にはブルーが外を見つめる縦に大きな窓がある。今はしっかりとガラスが嵌め込まれており修繕されているが、その敵はここを突き破って逃げ出したと言う事らしい。
ロズベルの話にある敵の動きを聞けば、それがアテイルである事は簡単に想像がついた。やはり既にこの公爵宮にも敵は入り込んでいるようだ。
「ロズベル、ブルー」
ロズベルの話が一通り終わったとみたアリオスは二人の名を呼んだ。窓の外を見ていた二人がアリオスの方に顔を向ける。
「もうすぐ俺の仲間達がこの部屋に来る。そうしたら俺達の話を聞いてくれ。今、この世界で何が起こっているのか、すべてを話す」
アリオスが言ったちょうどその時だった。三人のいる部屋のドアが密やかにノックされた。
不安げな顔をドアに向けるブルーを安心させるように頷くと、アリオスはすぐにドアに近づき小さな声で尋ねた。
「誰だ」
「パッキオだ」
ドアの外から短く答えた声にアリオスは急いでドアを開けた。そこにはパッキオの大きな体があった。パッキオは禿頭を突っ込みギョロリと部屋の中を睨むように一度見回すと体を横にずらした。
そこにできた隙間からエミオン、ユーリ、マルコ、ハリスと彼らに連れられたウルカが部屋に入ってきた。
その後からパッキオ、続いて最後まで廊下の様子を伺っていたコスナーが入る。彼は音を立てぬようにそっとドアを閉めた。
「つけられなかったか?」
「大丈夫だ」
アリオスの問いにパッキオが短く答える。狭い部屋の中は十人の人間でたちまちいっぱいになった。
「アリオス様、これは一体?」
ウルカが不安そうな顔でアリオスに尋ねる。アリオスはすぐにはそれに答えずハリスに声を掛けた。
「ハリス、ドアを見張れ」
言われたハリスはすぐさまドアの近くに立ち、聞き耳を立てる。
「ウルカ殿、申し訳ない。あなたの話と言うのを私もどうしても聞きたかったのだ。しかし、それ以上にこれから私の話す事をあなたにもぜひ聞いていただきたい」
「話?」
「ロズベル、ブルー、二人も知っておいた方がいい…。いや、知っておいて欲しいのだ」
アリオスがそう言うと、ブルー、ロズベル、ウルカの三人は一体何事かと訝しげに顔を見合わせた。
「そうだな、話は二週間程 遡る…」
そんな三人に構わずアリオスは話し始めた。
「その頃俺達七人は、ンダライ王国とテリアンドス帝国の国境付近で生活をしていた。事の起こりはそこにいるマルコとハリスの二人が近所の飯屋で聞きつけた噂話だった」
「噂話?」
ロズベルが訊き返すとアリオスはそれに一つ頷いて続けた。
「ああ、内容はこうだ。ンダライの首都ハンデルにおいて反乱が起きたと…」
「それは噂ではありません、事実です」
突然ウルカが口を挟んだ。
「ンダライの情勢に怒った国民が蜂起したらしい。既に戦闘が始まっているとの情報がアスビティにもたらされた時、実は既に反乱は終息していたとか…」
そのウルカの言葉にアリオスは首を振った。
「あれは反乱ではない」
「え?反乱ではない?」
「ンダライの法政機関であったンダライの塔は瓦礫の山と化した…。それをやってのけたのは国家に虐げられていたンダライの民ではない。我が国の令嬢ココロ姫と、第三警備隊長のシルバーだ」
ロズベルとウルカは目も口も大きく開いたまま一瞬言葉を失った。
「お…」
ようやくロズベルが声を出す。
「そんなバカな!なぁぜ姫とシルバーがンダライで争い事など…。第一、その二人でンダライの塔を崩壊させたなんて」
「そうですよ、いくら何でもそんな事ある訳が…」
ロズベルの言葉に賛同したウルカも否定の言葉を吐いたが、微笑みもしないアリオスの真剣な眼差しに後の言葉が出てこなかった。
「みんな」
突然アリオスが後ろを振り向き部下達に声を掛けた。
「みんなも言いたい事はあるだろうが補足は俺の話しが終わってからにしてくれ」
そこから始まるシルバーとガイとの戦い、そしてココロやキイタ、大地達と過ごしたあの木こり小屋での二日間のできごとを思い出した六人は、話したい衝動をアリオスのその言葉でぐっと飲み込んだ。
アリオスは再びロズベル達の方へ顔を戻すと話し始めた。
「俺は、元分隊長のガイと共にハンデルに入った。そこでンダライの塔が崩れ去る瞬間をこの目で見た…」
アリオスの口から語られるその後の話しが終わるまで、ロズベル、ブルー、ウルカはもう二度と口を挟まなかった。
部屋には中庭で午後の訓練を始めたらしい隊士達の勇ましい声が小さく届いていた。
アリオスが全てを語り終えた時、深まる秋の日は既に陰り始めていた。
いつしかブルーのベッドに腰かけてその話を聞いていたロズベルは項垂れたまま動かずにいたが、アリオスが話し終えるなり大きなため息を一つ吐き出した。
「とても…」
静まり返る部屋の中で最初に声を発したのはウルカだった。
「とても信じられない」
その声にアリオスが顔を上げると、ウルカはアリオスが口を開くよりも早く自分の心情を語り始めた。
「だってそうじゃないですか?この世界を滅ぼそうとする魔族がいて、姫や隊長がそれらと戦う為に選ばれた超能力戦士だなんて、そんな…いくら何でも…信じろって言う方が無理だわ」
「そうでしょうな」
アリオスが小さく言う。
「…っ!アリオス様は私達をからかってらっしゃるのですか?」
「いや、ウルカさん…」
ユーリがウルカを宥めようと声を掛けるがウルカはそれすらも聞かずに話し続ける。
「ンダライでクーデターが起きたと言われた方がまだ納得がいきます。そんなバカな話、どうやって信じろって…!」
「静かに!」
ドアの近くに立っていたハリスが鋭く言った。その声にはっとしたウルカは目を瞑ると興奮を抑えるように大きく息を吐き出した。
「俺は…」
元の態勢のままロズベルがぼそりと言う。
「いや、俺も、俄かには信じられんが…。だが…実際奴らを見ちまってるからなぁ…。こうだと言われりゃ、そうかと思うところもある…」
「ロズベル隊長!」
こんな夢物語のような話を信じるような事を言い出したロズベルにウルカが非難めいた声を出す。
「やっぱり…」
その時、ブルーの静かな声が聞こえ皆が一斉に彼を見た。ブルーは血の気の失せた白く端正な顔に小さな笑みを浮かべながら話した。
「やっぱり隊長は無事でありましたか…。ンダライの塔で敵を殲滅したとは…。さすがだ…」
「ブ、ブルー?」
ロズベルが突然 独り言のように話し出した部下に戸惑った声を出した。その瞬間、ブルーは微笑みを消すと真剣な顔をロズベルに向けた。
「ロズベル隊長、アリオス殿の話に偽りはありません」
「あなたは今の話をそのまま信じられるというのですか?」
ウルカはまるで怒ったような声でブルーに言った。ブルーは静かにロズベルからウルカへと目を移す。
「ウルカ分隊長私は…。私はアリオス殿の話を信じているのではありません。知っているのです。姫と隊長、お二人から直に話を聞きました。彼らの能力も、この目でしかと垣間見ました。そして何より私自身、人に非ざる者とこの手で剣を交えたのです…。それも一度ならず二度までも」
ウルカはブルーの言葉に一言も言い返す事ができなかった。
「分隊長をからかう為に、誰が身動きも取れない重傷まで負いましょうか?います…。今、この世界には我々の理解を遥かに超えた驚異の存在が確かにいます」
ブルーはウルカの目を見つめたまま静かだが断固とした口調で言い切った。
先に目を逸らしたのはウルカだった。ウルカは突然力を失ったようにぺったりと床に座り込んでしまった。
「だとしたら…」
途方に暮れた目をあらぬ方に向けウルカが呟く。
「だとしたら、こんな事をしている場合ではありません…。一刻も早く、一刻も早く姫をお救い申し上げなければ…」
「それはいけません」
「なぜ!?一体何なのですか!まるで壮大な物語のような話を事実と語り信じろと言う!信じたら信じたで今度は何もするなと言う!アリオス様はこの話を私に聞かせて一体何をしたいのですか!?」
「だからウルカさん声でかいって!」
ハリスが慌てて窘める。
「情報を制する者が、戦いを制する…」
アリオスが三日前にも言った言葉をもう一度ウルカに向かって呟いた。
「え…?」
ウルカの表情に冷静さが戻ったと見えた途端、彼女の顔はみるみる不安の色に染まり始めた。
「ウルカ殿…。今日の午前中、ハリスに言った話と言うのを聞かせてはいただけませぬか?我らと別れた後、丸二日の間に何を見、何をお聞きになった?」
アリオスに諭されるように言われたウルカは急激に威勢を失い床に目を落とすと、囁くような声で語り始めた。
「三日前…アリオス様に言われた通り、あれから私は父の言動に可能な限り注意を払って過ごしました」
「やっぱ告白じゃなかったな」
エミオンがハリスの傍に寄って来てそっと声を掛けた。
「当り前だろ」
「父の書斎にも忍び込み、何かないかと探ってみました」
ウルカの報告は続いた。
「今最も注目されているのは北のザシラル。フェスタルド王国が侵攻の動きを見せつつあると」
「制裁だ」
突然ロズベルが呟くように割り込んできた。
「制裁?」
アリオスが訊く。
「クナスジアを上回る大国を自認するフェスタルドは、北の半島を統一した上でこれを傘下に収めようとしているんだ」
「しかし…」
口を挟んだのはコスナーだった。
「ザシラルって言えば人口はそこそこ多いとは言え単なる一都市だろ?それを、なんだってフェスタルドみたいなでかい国がそんな躍起になって?」
「自分達が管轄しようと目論んでいる半島の中で、唯一 刃向かう姿勢を見せているのがザシラルだ。フェスタルドはその反抗的態度に制裁処置を加える事で、世界に自国の力を見せつけようとしているんだ」
コスナーの疑問にアリオスが答える。それに納得したコスナーは口を噤んだ。
「それと…」
ウルカが自分の話を続けようと再び口を開いた。アリオスはウルカに目を戻し、聞く態勢をとる。
「何者かに襲撃を受けた第二境界警備小宮の復興の為に先発隊を出すと言う話が」
「何だって!?」
今度はロズベルが大きな声を出した。アリオスがすぐにロズベルに訊ねる。
「聞いているか?」
「とんでもない!俺達は明日から復興の為に第二小宮に帰ると聞いていた」
「俺もそう聞いた…」
「こりゃぁ…」
「ああ、間違いない…。先を越されたな」
敵は、表向き明日より復興作業としておきながら裏では先発隊を出し、見られては都合の悪いものを早々に処分、隠滅してしまおうと言うつもりだ。
見られて都合の悪いもの、それはそう、例えばアテイルの死体などの事だろう。
「父は突然の先発隊の結成に心底驚き、憤慨すらしていたようです。自分は何も聞かされていなかったと。その先発隊には父の管轄する公軍隊士が投下されると言うのに」
ウルカが話し始めると、アリオスとロズベルは再び口を閉ざし耳を傾けた。
「それは、どうもギース外務大臣の発案らしく、それを父に報告に来たのは、父の補佐官であるチャーザーでした」
アリオス達は侯爵との初めての謁見の際、自分達に座るよう命じたチャーザーの顔を思い浮かべた。
「そうだ、そいつだよ」
ロズベルが声をあげる。
「何が?」
「ギース大臣からの呼び出しだと言って度々俺をここから連れ出したのは」
「なぜチャーザーがギース大臣の命令で?彼は私の父の補佐官ですよ?」
「なぜだかは知らん。しかし確かにその男だった」
ロズベルがそう言ったのを最後に部屋の中には重苦しい沈黙が支配した。こうして個々の情報をつなぎ合わせていった時、そこには根の深い陰謀が渦巻き、何かが動き出そうとしている事がその場にいる全員に感じ取れた。
しかし、それが一体どのようなもので何を狙っているのかとなると雲を掴むように実態が見えて来なかった。それが一層不気味で、彼らの不安を煽った。




