政府の決定
●登場人物
アスビティ公国元特別行動騎馬隊第四分隊
・アリオス…元の副分隊長。ガイと別れ現在は実質チームのリーダーとなっている。
・パッキオ…アリオスの部下。禿頭巨漢の恐ろしい見た目に反し非常に冷静な隊士。
・ハリス…アリオスの部下。チームで最も若い隊士。
・コスナー…アリオスの部下。
・エミオン…アリオスの部下。
・マルコ…アリオスの部下。
・ユーリ…アリオスの部下。
アスビティ公国行政部
・ドナル三世…公国領主でありココロの父親。
・シュリ…外務大臣付き筆頭補佐官。
・ウルカ…デューカ守備隊第三分隊長。
・ケシミ…公軍大臣。ウルカの父親。
・チャーザー…公軍大臣付き筆頭補佐官。
・ロズベル…シルバーと共に境界第二警備小宮を守護する警備隊々長に任についていた。
●前回までのあらすじ
アリオスとギース外務大臣の謁見の間に突如現れた現公国領主であるドナル三世は別まで待たされていたパッキオ達も部屋と呼び寄せると、エミオンが持っていた全ての文書にその場で目を通し始めた。ここでドナルに読まれたココロとガスからの手紙はすべて今後一切ドナルの許可なく閲覧する事の許されない重要公文書扱いとなった。ドナルはアリオス達元第四分隊の面々に今までの苦難を労う言葉と共に次の招集まで自宅で待機するよう命じ部屋を出て行った。
緊張の謁見から解放された六人に声を掛けてきたのは、全公軍隊士中唯一の女性隊士であるウルカであった。ハリス、エミオン、マルコ、ユーリら若い仲間達はウルカの美貌に心を奪われてしまう。公軍大臣の娘であるウルカは現在のデューカ守備隊々長の地位に満足が行かず特別行動騎馬隊への移動を強く希望しているとアリオスに打ち明ける。その理由として彼女は、世界各国で起こる不穏な動きをいくつか挙げて見せた。公軍大臣の娘と言う情報を入手しやすい立場にいるウルカを仲間に引き入れる事を思いついたアリオスは父親の周囲で見聞きする情報を自分達に回してもらえるようウルカに依頼をする。
ウルカと別れたアリオスを待っていたのは、境界第二警備小宮付き第二警備隊々長のロズベルであった。出会った当初はいがみ合っていたものの、ロズベルの中に揺るぎない正義を見たアリオスはブルー身に危険が迫っていると助言をした。
ドアを叩く音はまだ部屋に響いていた。アリオスはベッドの上に身を起こす。最低限の家具しかない粗末な家ではあったが、四年を過ごした木こり小屋に比べれば天国であった。
アリオスは軽く頭を振る。寝間着などと言った洒落たものは持ち合わせていない。裸も同然の下着姿でベッドを降りたアリオスは、秋が深まり確実に冬が近づいている事を実感した。
アリオス達七人が、瀕死のブルーを連れてアスビティに戻ってから、丸二日が経っていた。この同じ日の朝、ココロ達はイーダスタの森へ足を踏み入れているが、その間ただただ自宅で待たされ続けたアリオスにはそれを知る由もなかった。
「わかった、わかった」
絶え間なく続くノックの音に答えながらアリオスはドアに近づく。
「アリオス!アリオス!」
自分の名を呼ぶ声はハリスのものだった。
「おはよう、ハリス」
アリオスはドアを押し開けるなり言った。果たしてそこには息を切らせたハリスが立っていた。彼の後ろには一人の公軍隊士がいた。身に着けた制服からデューカ守備隊の隊士であるとわかった。
「政府からの招集がかかった!」
ハリスの言葉にアリオスは一瞬目を見開き、その後すぐに言った。
「少し待て」
言うが早いがアリオスは部屋の中に取って返す。再び閉じられたドアに向かいハリスが叫ぶ。
「急いで!」
ほとんど待つ事もなく支度を終えたアリオスが出てくる。
「早っ…!」
ハリスがその余りの早業に思わず声に出す。
「隊士の心構えだ。他のみんなは?」
「みんなそれぞれ迎えが来て、もう公共館に向かっている筈だ」
「急ごう」
アリオスとハリス、政府からの迎えらしい隊士の三人は朝の町を速足で公共館を目指し歩き出した。
「ハリス」
「え?」
歩きながらアリオスがハリスに声を掛ける。
「デスターの剣はどうした?」
「二日前に押収されたきりだ。渡す時、戦死した兄の形見だと伝えたから粗末な扱いはされてないと思うけど…」
「そうか」
あの日、侯爵官邸に入る前に押収されたアリオス達の武器はそのまま返却されなかった。ココロが言った通り、現在のアスビティでは隊士以外の一般市民による武器の携帯は許されていなかった。
隊士どころか、未だに生きた人間としてすら認められていないアリオス達に政府は、絶対に武器を持ち帰らせはしなかった。
然程時間もかからず見えてきた公共館の前には、既にパッキオ達が顔を揃えていた。そこには何故か警備隊々長のロズベルも混ざっていた。
「ロズベル」
意外な面持ちでアリオスが声を掛ける。
「政府の結論が出たようだな。思ったより早かった」
挨拶もそこそこにロズベルが答えた。
「冗談じゃない、お陰でこっちは丸二日も狭苦しい家の中で監禁状態だ」
「アリオス」
ロズベルが急に声を顰めながら顔を近づけてくる。軽口をたたいていたアリオスも表情を引き締めて耳を近づけた。
「昼の休みになったら、時間を作ってくれ。話がある」
「ブルー殿は?」
「大丈夫、一昨日の晩遅くに意識を取り戻した」
敢えてあらぬ方を見ながら聞いていたアリオスも、その報告に思わずロズベルの顔を見る。目が合ったロズベルは何も言わぬまま厳しい顔で頷いた。アリオスもそれに返して軽く頷き返すと、ロズベルを残し他の仲間達と共に公共館へと向かって行った。
落ち葉の舞い散る前庭を歩み去る彼らの背中をロズベルが立ったまま無言で見送っていた。
建物に入ると、アリオス達七人は暫く待つように言われた。そこは公共の広間と呼ばれる広いロビーで、ここまではアスビティの一般市民も自由に立ち入る事が許されている。しかし、朝早いこの時間には彼ら以外人影はなかった。
「エミオン」
次の指示を待つ間、アリオスがエミオンの名を呼ぶ。
「姪には、会えたのか?」
呼ばれて振り向いたエミオンの顔が一気に崩れる。
「会ってきたよ。何て言うか、あれだね?何でもちっちゃいのは可愛いよな」
だらしなく笑うエミオンの様子に、アリオスも自然と顔が綻んだ。そのまま今度はパッキオの方に顔を向ける。
「パッキオ、お袋さんは元気だったか?」
「思った以上に年をとっていた」
「そうか…。さぞ、苦労されたのだろうな…。ハリスは?」
訊ねられたハリスが困った顔で答える。
「ほら、姫に言われた通りにさ、兄貴のさ、手甲をぉ持って帰ったからさ、親父もお袋も大泣きで…。参ったわ」
わざと憎まれ口をきいているが、四年ぶりの家族の再会を満喫したようであった。
「マルコは?」
ハリスの答えに満足げに頷いたアリオスが体を回してマルコを見た。しかし彼は自嘲気味な笑みを浮かべながら、低い声で言った。
「実家には、姉貴夫婦が一緒に住んでいたよ。なんだか余所余所しくてさ、俺が帰ってきて迷惑だったみたい」
「そんな事はあるまい。死んだ筈の息子が帰ってきたんだ、戸惑うのも無理はないだろう。コスナーとユーリは家には帰れたのか?」
「遠出は禁止されていたからね、まだ」
コスナーが答える。中央から遠く離れた地方出身の二人は揃って軽く肩を竦めて見せた。
「では、まだ両親はお前達の事を?」
「さあ?政府が連絡してくれているのかどうか…」
「そうか」
アリオスがロズベルに監禁状態だと言ったのは決して大袈裟な話ではなかった。この二日、仲間達とは一度も連絡を取り合っていない。四年間、毎日共に過ごした仲間だ、たった二日会わないだけで随分と久しぶりな気分になった。既に両親を亡くし兄弟もいないアリオスにとって、この二日間は孤独だった。
「お待たせしました」
物思いに耽っていると声が掛かった。見れば、二日間にも会った外務大臣付筆頭書記官のシュリが相変わらず控えめな笑顔で立っていた。
「皆様お待ちです、どうぞこちらへ」
そう言うとシュリは男達を先導して歩き始めた。
(皆様?)
アリオスはシュリの言葉に違和感を覚えた。皆様とは一体誰の事か?不審に思いながらもアリオスはシュリの後について歩き出した。パッキオ達もそれに続く。
確信は持てなかったが、どうやら二日前とは違う場所に案内されているらしい。シュリに連れられて黙ったまま歩く男達はみな一様に緊張の面持ちであった。
長い廊下を歩く。いつの間にか床には柔らかな絨毯が敷き詰められていた。既に一般人が気安く出入りできる場所ではないようだ。アスビティ公国 執政のエリア奥深くへ足を踏み込んだのだと感じた。
やがて彼らはつづら折りに上へと向かう大きな階段の下に出た。この間は見る事のなかった大階段を、どうやら今日はのぼるらしい。ここでシュリとはぐれたら元の場所に戻る事すら危うい。
黙々と階段を上がる男達の最後尾についていたハリスは、一段目に足を掛けようとしたところでいきなり服を引かれて立ち止まった。何事かと振り向けば、そこにはハリスの服の端を握っているデューカ守備隊分隊長のウルカがいた。
「ウ…」
ハリスが彼女の名を口にしようとした時、ウルカが自分の口に指をあててそれを止めた。ウルカはハリスにしか聞こえない声で囁いた。
「午後の式典には私も参加します。その後で、お話しが…」
「午後の式典?何の事?」
ハリスに訊き返されたウルカの方が驚いた顔を見せた。
「聞いていないの?」
その時だった、二人の頭上から声が掛かった。
「ウルカ分隊長」
二人が見上げると先頭に立つシュリが見下ろしている。
「何か?」
「あ…」
シュリに問われたウルカは一瞬言葉に窮した。
「その、か、彼の背中にゴミがついていたもので…」
「…そうですか。用が済んだのならすぐに持ち場に戻りなさい」
「はい…」
ウルカは慌てたようにシュリに一礼すると踵を返した。
「あの、ありがとうございました!」
咄嗟に話しを合わせようと、走り去るウルカの背中にハリスが声を掛ける。ウルカは足を止めないまま一度振り向きハリスを見たが、何も言わずに再び背中を見せるとそのまま走って行っったしまった。暫くその姿を見送っていたハリスが階段を見上げると、シュリの他全員が自分を上から見つめている。
「あー…、こう言う所ってやっぱあれっすね、ゴミとか、うるさいんすね?へ、へへへへ」
意味のよくわかからない笑い声を立ててみたが、上にいる男達は誰一人笑わない。
「お急ぎを」
シュリはそれだけ言うと再び階段を上がり始めた。アリオスはまだ少しの間ハリスを見つめていたが、やがてシュリを追って上がって行った。
ハリスはもう一度ウルカの去った方へと目を向ける。しかし、そこにもう彼女の姿は見えなかった。ハリスは皆を追って階段を駆け上り始めた。
やがて彼らが辿り着いたのは、二日前とは比べ物にならない程 厳重な警備が施された巨大な扉の前であった。長槍や巨大な斧で武装した八人もの隊士で守られたその扉を見てアリオス達は言葉を失くした。
「ここまで来られたのは初めてでしょう?」
シュリが話し掛けてくる。
「ええ」
アリオスが短く答えると、シュリは振り向きにっこりと微笑んで言った。
「さあ行きましょう、侯爵閣下がお待ちです」
「侯爵が!?」
アリオスが驚いた声を出す。今日呼ばれたのは何の為か?自分達の国籍が復活するかどうかの結果を聞かされ、もしかしたらココロ達の事や魔族の事を訊かれるかもしれない。そんな風に漠然と考えてはいた。
それにしても、シュリのような書記官か、補佐官級のせいぜい官職にある者と話す程度と勝手に思い込んでいたのだ。それが、侯爵閣下直々に今自分達と会う為にを待っていると言う。
アリオスは目の前に聳えるように立つ重々しい扉を見上げた。後ろで誰かが生唾を飲み込む音が聞こえる。彼らの緊張はピークに達していた。
するとシュリは、そんな彼らをますます緊張させるような事を言い出した。
「侯爵様だけではありません、国政を司るすべての大臣が揃ってお待ちになっております」
―なんだって?―
その疑問は驚きの余り声にならなかった。アリオスが思わず振り返ると、エミオンやマルコの不安げな顔が見えた。普段表情に乏しいパッキオですら、そうとわかる程緊張した表情を見せている。
「さあ」
シュリが促す。立っていた隊士達が両側からその扉を引き開けた。
「元特別行動騎馬隊、第四分隊の皆様をお連れいたしました」
眩しく輝く室内に一声掛けたシュリがアリオスを振り向く。軽く右手を奥へ差し出した。入れと言う事らしい。その案内に従い、まだ覚悟も決まらぬ内にアリオスは一歩を踏み出していた。
「さあ、皆さんも」
後ろでシュリの声がする。皆、緊張と戸惑いで足が止まっているのだろう。アリオスは入口に立つと深々と頭を下げた。
「よく来た諸君。入り給え」
部屋の中からドナル侯爵の声が聞こえた。アリオスは恐る恐る顔を上げる。広い、二日前にギースと謁見した部屋も広く豪勢であったが、ここはその比ではない。
やや高くなった場所に据えられた巨大な円卓の向こう半分を囲むように十一人の大臣達が座り、その全員が自分を見つめている。
その更に奥、一段高くなった位置に置かれた椅子にドナル三世侯爵閣下が上品に座ったままアリオスを見下ろしていた。
深い緑色のマントを金色の大きなボタンで左肩に留めている。そのマントの下の着衣には、月と星を象ったアスビティ公国の国章、ヘルブストレリャが美しく刺繍されているのが覗いて見える。
右手には王家の錫杖が握られていた。正式な公務に出席する際の領主としての正装であった。実際の年齢よりも若く見えるドナルの端正な顔を見た途端、あまりの神々しさにアリオスは自然と再び頭を下げた。
「そちらへ」
部屋の隅に立っていた、大臣の筆頭補佐官と思われる一人の男が言った。彼の指さす場所には、ドナルと正対するように七つの椅子が置いてあった。アリオスを先頭に七人の男達は、言われるままおずおずとその前に立つ。
アリオス達を案内して来たシュリが壁際へと進み、アリオスに立ち位置を教えてくれた補佐官らしき男の隣へ立つと、部屋の中はシンと水を打ったように静まり返った。
「掛けなさい」
ドナルの物静かな声が部屋に響く。促されたアリオスは緊張で気が遠くなりながらもどうにか椅子に腰を下ろした。続いて他の者達もぎこちない動作でそれに倣う。全員が腰掛けると、部屋の中は再び張り詰めた静けさに包まれた。
「さて」
全員の着席を見届けたドナルが話し出す。静かだが、その声は高い天井に反響しはっきりと聞き取れた。
「諸君が我が娘、ココロより渡されたと言う諸々の文書について私達は精査をした。結果…、これらはすべてココロ自身が書いたものであると証明された」
アリオス達は緊張で体を強張らせたままドナルの声を聞いていた。目の前に座る大臣達も、壁際に立つ数人の書記官や補佐官、隊士達も人形のようにぴくりとも動かない。
「と同時に、我々はこれらが決して強要されて書かれたものではないと判断した」
恐らく、何者かに脅されるなどして無理やり書かされた場合には一部の人間にだけそうとわかるような印や暗号が決められているのだろう。それが、今回は見つけられなかったと言う訳だ。
アリオスがそんな事を考え、一人納得してている間にもドナルは話しを続けた。
「つまりこれは、ココロが自らの手で、自らの意志で書いたものであると我々は結論づけた。ガロル」
ドナルに名を呼ばれ、大臣の一人が立ち上がる。
「総務大臣のガロルだ」
男はそう名乗ると、美しい曲線を描く短い階段をアリオス達に向かい降りて来た。壁際に立っていた一人の書記官が大きな黒い角盆を手にガロルの後ろからついて来る。
「アリオス殿」
「はっ」
名前を呼ばれたアリオスは椅子を鳴らして勢いよく立ち上がった。アリオスの目の前で足を止めたガロルは、後ろに控える書記官が両手で持つ盆の中から一枚の紙を手に取ると、アリオスへと差し出した。
渡されるまま受け取ったアリオスが素早く目を通すが、その紙に書かれている文字を読んでも意味がよくわからず、思わず怪訝な顔をガロルに向けた。
しかしガロルは小さく微笑むだけでアリオスの前から離れ、隣に座るパッキオの前に移動してしまった。パッキオの名を呼んだガロルはアリオスにしたのと同じ事をパッキオにもした。その後もガロルは、コスナー、エミオンと順に名を読んでは手にした紙を一枚づつ手渡して行った。
やがて全員にその紙を渡し終えたガロルは再び階段をあがり自席に戻ると、着席はせず立ったまま説明を始めた。
「今諸君に渡したものは、侯爵閣下発行の生存証明書だ」
言われたアリオスは改めてその書類に目を落とす。「生存証明書」などと言うのは聞いた事もなかった。
「侯爵様 発令の特別処置により、君達の失われた戸籍については、本日付けをもって復活する」
ガロルが芝居掛かった言い方で宣言した。アリオス達全員が顔を上げる。戸籍が戻る、再びアスビティ国民として正式に認められたと言う事だ。
まだ実感がわかず、茫然とした顔の七人に向かいドナルが静かに語り掛けてきた。
「長い事ご苦労であった。諸君の身元は、我がアスビティが責任を持って保証する」
その言葉を聞いた瞬間、書類を持つ全員の手が震えた。ユーリが小さく息を吐き出す。その頬を一筋の涙が伝った。
「とは言え」
ガロル総務大臣が後を引き継ぎ話し始めた。
「一度は死亡 認知がなされてしまっている。これから職に就く時、海外へ出掛ける時などには必ず今渡した生存証明書を持参するように。面倒を掛けるがこの先一生、何かにつけてその証明書が必要となるだろうから、決して紛失したり破損したりする事がないように、管理には十分気を付けてほしい」
そう言い終えてガロルが座ると、別の大臣が立ち上がった。
「経済大臣のザックだ。あなた方の家族に支払われてきた遺族年金について侯爵閣下の下された結果をお知らせする。今日までに支払われてきた年金において、国家はこの返還を一切求めないものとする。ただし、これ以降の支払いは本日をもって停止とする」
言い終わるとザックは着席した。それに続いてウルカの父親であるケシミ公軍大臣が立ち上がり、ゆっくりとした穏やかな声で話し始める。
「お聞きの通り、これからは君達自身、自らの手で日々の糧を得、家族を養っていかなくてはならない。そこで、諸君等の復職についてだが…。希望する者はそのように取り計らうようにと侯爵閣下より指示が出されている。ただし、長期間 公務から離れていた事を考慮し、入隊適正の最終審査だけは受けてもらう事になるがね」
笑顔でそう言ったケシミ公軍大臣は立った時と同じく静かに腰を下ろした。これを聞いた一同は更に驚いた。隊に帰る事ができる。何もかもがあの戦争以前に戻るのだ。吊り橋の山賊はこの瞬間、完全にこの世から消滅したのだ。
言葉もなく茫然自失としたアリオス達をそのままに、また別の大臣が立ち上がった。
「厚生大臣のマキインだ。もし、君達の中で復職を望まず国内での仕事を探す者がいるならば、できる限りの口利きをしよう。その際には、あそこにいるトリノ補佐官に相談したまえ」
マキインと名乗った厚生大臣はそう言うと、窓際に立つ一人の男を指さした。気のよさそうな青年が笑顔で頭を下げる。彼の隣ではシュリが優しい笑顔でこちらを見返していた。
なんと言う厚遇だろうか。命懸けで戦場に赴き、そして帰還した隊士達に、アスビティ公国は絶大なる恩恵をもって迎え入れようとしている。
七人は改めてココロの取り計らいと、それを全面的に受け入れたドナルの温情に感謝をした。




