謁見
●登場人物
元第四分隊
・アリオス…かつてガイの元で副分隊長を務めていた。猪突猛進型のガイを補佐する非常に冷静な頭脳の持ち主。意外な特技は料理。
・パッキオ…アリオスの部下。巨体怪力の持ち主だがアリオスに負けず頭脳は明晰。無言実行を常とし、上官部下双方から頼られる優秀な男。禿頭で見た目は恐ろしい。
・ハリス…アリオスの部下。の生き残りの中では最も若い元隊士。四年前の戦いには公軍幼年部より抜擢された優秀な剣士。医学の心得を持つ。
・コスナー…アリオスの部下。飄々としており一見軽そうに見えるが、若手の良き兄貴分としてアリオスを補佐する。山岳地帯の出身でロープ術に長けている。
・エミオン…アリオスの部下。少し気が弱いが優しく明るい性格。メンバーの中では一番の俊足の持ち主であり、また火や火薬を扱うのを得意とする。
・マルコ…ハリスと同じく幼年部より抜擢された隊士。剣の腕はメンバー内でも上位に位置する。アリオスを非常に慕っており、最近は彼を真似て料理の腕前も上げて来た。
・ユーリ…コスナーと同郷の若者でやはりロープを使った作戦を得意とする。理解力に欠け、天然なところがある為年下のハリスやマルコからもからかわれているが、愛すべきマスコットキャラ。
アスビティ公国行政部
・ギース外務大臣…四年前の戦争終結直後に大臣に就任した男。背は低く腹が出ている。気位が高く好人物ではないがその強引な手腕で諸外国との交渉をまとめるのが得意。
・シュリ…外務大臣付き筆頭書記官。長身で物静かな男。学業優秀にして穏やかな性格。微笑みを絶やさず優しいが個人的意見を決して口にしない公務員。
●前回までのあらすじ
ンダライ王国を出発し、途中傷ついたブルーを救出したアリオス達元第四分隊の一行が故郷アスビティに到着して数日が経過していた。自室で目覚めたアリオスはぼんやりとした頭で今日までの事を思い出していた。
重傷を負ったブルーを連れ、援助を求め立ち寄った境界第二小宮は想像していた以上に破壊し尽くされ、その場を守護する筈の警備隊たの隊士は一人として残っていなかった。瓦礫と化した第二小宮のあちこちに戦いの痕が見られた。アリオスはそこでアテイルの死体を見つけ強い衝撃を受ける。
夜明けと共に出発し、ようやく公国首都公爵官邸に到着したアリオス達であったが、そこで彼らを待ち受けていたのは歓待とは程遠い祖国の余所余所しい態度であった。
「お連れいたしました」
アリオスを案内した男がその白い扉を僅かに引き開け中へ声を掛ける。
「入りなさい」
静かに答えた声は、先程門前で会ったシュリと言う政府官僚の声とわかった。
「失礼します」
男が扉を大きく開き体を避ける。道を開け、アリオスに入るように仕草で命じる。戸惑いながらも部屋に入ったアリオスは更に緊張の度を増した。
奥行は余りない。最初に仲間達と通された部屋の半分程しかない空間であったが、横に間口が広く、左の壁に開けられた大窓からは明るい陽射しが部屋いっぱいに注がれていた。
光に照らし出された調度品は見た事もない豪勢な品で埋め尽くされていた。
一介の軍人であったアリオスは政府機関のこんな奥深くまで入った経験がない。その迫力に飲まれ、言葉もなく立ち尽くしていた。
突然後ろで扉の閉まる音が響く。驚いたように振り向いたアリオスは、案内の男が役目を終え引き下がった事を知った。
「アリオス殿」
名を呼ばれたアリオスが再び正面に顔を戻す。大きなテーブルを挟んだ向こう側に、真っすぐに立つシュリの姿があった。線の細い男であったが背はアリオスよりも高い程であった。
剣を握った事などないと思われる細い指先で、何やら資料のようなものを持っている。随分と古ぼけた公儀書簡のようだった。
細く、素直な灰色の前髪が目に掛かっている。その前髪の下の目と薄い口元が静かな笑みを浮かべている。
そんなシュリの横、中央の椅子に年配の男が座っていた。椅子に深く背を預け、厳しい目つきでアリオスを見上げている。
アリオスも黙って男を見返した。シュリとは異なり、決して友好的な雰囲気ではなかった。
「四年前の資料を出してくるのに少々手間がかかりました。お待たせしてしまったが、お許しいただきたい」
場の空気を和ますようにシュリが口を開く。穏やかで静かな口調であった。
「ギース外務大臣です。緊急の呼び出しに応じご足労いただきました」
シュリが正面に座る年配の男を紹介した。アリオスは最低限の礼節をもって浅く一礼する。
「どうぞ、お座りください」
シュリがギースの正面にある椅子をその細い指で指し示す。一瞬目を泳がせた後、アリオスは意を決したように椅子を引くと再び無言で一礼し席についた。
姿勢を正し、真っすぐにギースを見る。座っているのでわかりづらいが背は余り大きくないと思えた。それに反し体は丸々と太っている。頭髪が大分後退していた。
「クナスジア遠征に参加したそうだな?」
前置きもなくギースが単刀直入に訊ねてきた。自分が問われたのだと気が付いたアリオスは、緊張で張り付く喉から短く返事を返した。
「所属と役職は?」
さっきも言ったのに、とチラリとシュリの顔を見る。目が合ったシュリは小さく頷き先を促す仕草を見せた。
アリオスは軽く一つ咳払いをすると話し始めた。
「第十一クナスジア遠征大隊、特別行動騎馬隊第四分隊にて副分隊長の任についておりました」
「第十一大隊はソーノドス居留地にて補給作業中、敵の奇襲にあい全滅と報告を受けている」
間髪を入れずにギースが返す。初めから質問もその答えも決められている茶番を演じているようにアリオスには感じられた。
「その辺りの事情をご説明するには、少々お時間をいただきます」
「聞こうじゃないか」
ギースは両手の太い指を組み合わせると前のめりになって答えた。いやに威圧的な言い方をする男だった。
「ソーノドスでの戦闘の様子からその後の四年間。今日、私の前に現れるまでの経緯を…。時間が掛かっても構わん、委細漏らさず報告してもらいたい。シュリ、記録しろ」
「は」
命ぜられたシュリは大きな窓を背にした椅子に静かに座ると筆記の準備を整えた。準備が終わると、アリオスの顔を見て静かに頷く。話せ、と言う事らしい。
アリオスは少し慌てた。とにかくココロとガスに託された文書を侯爵に渡し事情を知ってもらう事。自分達の身元を保証し、再びアスビティ公国の人間として戸籍を復活させてもらう事が目的であった。
その手続きをする為に思い出したくもない四年前の地獄の様子を語るところから始めなければならないと言うのか?こうしている間も旅を続けるANTIQUEの能力者達は自分達の暮らすこの世界を救うために命懸けの戦いを展開しているかもしれないと言うのに…。
「アリオス殿」
ペンを持ったままの姿勢で待っていたシュリがなかなか話し出さないアリオスに催促をした。呼ばれたアリオスは一つため息をつくと話し始めた。
「わかりました、お話ししましょう。それが、必要だと仰るのであれば…」
シュリが無言でテーブルに目を落とし聞き取る態勢に入る。まだ、何から話せばいいのか纏まってはいなかったが、とにかく事実をありのままに話そうとアリオスは口を開いた。
「四年前、第一節…。ソーノドス居留地は、冬の真っただ中でありました…」
話し始めた途端、アリオスの頭の中に小雪の散り振る居留地の情景が鮮やかに蘇った。
アリオスがギース外務大臣と謁見する為一人去って行ったあと、残されたパッキオ達は何の音沙汰もなく最初の広間に留め置かれていた。
パッキオは去り際にアリオスが命じた通り、全員からココロの書いてくれた身分証明書を回収していた。
「それにしても…」
自分の証明書をパッキオに渡しながらエミオンが呟く。
「アリオスの奴、渡さなければいけない文書の殆どを置いていっちまって本当に良かったのかな?」
全員分の証明書を改めながらパッキオが答えた。
「これは何とか大臣様に渡す書面じゃねえ。侯爵様に直接手渡す手紙だ。例え出せと言われても、持っていなきゃあ渡す事はできねえ」
「じゃあアリオスは侯爵様以外には絶対に渡さない覚悟でこれを置いて行ったって事か?」
ハリスが聞く。
「お前ら行儀よくしろよ」
パッキオが全員の顔を見ながら注意する。
「え?どゆこと?」
意味のわからないユーリが訊き返した。
「アリオスはこの手紙と引き換えに、何としても侯爵様を会見場に引きずり出そうとしているんだ」
パッキオに代わってコスナーが答えた。
「アリオスは例え拷問を受けたって侯爵様以外の誰にもこれを渡す気はないんだよ。いずれにしろ、姫と隣国代表の直筆の文書と言われりゃ政府も放っておく訳にはいくまい」
「じ、じゃあ、その内俺らも呼ばれるって事か?」
「円満に話が進めばそうなるだろうな」
「マジか!?侯爵様と直接会うってのかぃ?俺らが?待ってくれよ、俺緊張して絶対何かやらかしそう…」
まだそうと決まったわけでもないのに、ユーリは既に汗だくになって言った。
「コスナー」
マルコがやや不安そうな顔で切り出した。
「ん?」
「円満に進めばって、進まなかったら?」
「公軍の隊士に取り囲まれて力づくで奪われる」
当たり前だろう、と言った感じでコスナーが答えた。
「え?」
聞いたマルコのほか、パッキオ以外の全員が驚きの声を上げた。皆今にも泣きそうな表情をしていた。何せ武器と言う武器は小刀に至るまですべて押収されてしまっている。
「まあ、そう心配するな」
自分より若い連中の情けない顔を見てコスナーが笑顔を見せる。
「本当にそんなつもりなら今俺らをこんなに自由にしておかないだろう。見張りの隊士位はつける筈だ」
そんな言葉にハリスやエミオンもほっとした表情を作る。
「とは言え…」
ここまでコスナーに任せていたパッキオが再び口を開いた。
「慎重になっておいて損はない」
そう言いながらパッキオは、服にしまった自分の証明書とアリオスに託された二通の公文書を取り出した。
その中には、結局今に至っても意識を取り戻さないブルーの持っていたココロの手紙も含まれていた。
パッキオはそれらを今全員から集めた各自の証明書と合わせ束ねると、そのままエミオンの前に差し出した。
「は?」
出されたエミオンは意味が分からず目をパチクリさせてパッキオの顔を見る。
「お前が持っていろ」
「は?俺?何でよ?」
いきなり重要任務を押し付けられたエミオンは大いに慌てた。今まで戦場においてですらそんな重責を任された事がない。
「お前が一番、逃げ足が速いからだ」
パッキオはにこりともせずに答えると、すぐに囁くような声で付け加えた。
「いいか、最悪の場合俺ら全員で隊士を食い止める。お前はその隙にこの手紙を全部持って逃げろ」
「に、逃げろって、一体どこに?」
「そんなもん知るか。絶対に見つからないところだ」
「そ、そんな…」
エミオンはほとんど泣き出しそうな顔で声を裏返した。
「情けない声を出すな。最悪はンダライのガス執政官を頼れ。ただし、国を出るなら急げよ。国境に手配が回る前に行動しなくちゃはならないからな」
パッキオの助言は言う程簡単な事ではない。エミオンは益々弱った顔になっていった。そんな彼の気も知らずコスナーが話を進める。
「第二小宮は無人だったが、あそこの警備隊の連中が全員中央に引き上げたとも考えにくい。恐らくは町中に詰めている筈だ。だから、やつらの所に連絡が行くよりも早くンダライを目指して走れ。いいな?」
黙って聞いていたエミオンは年長者二人の顔を交互に見る内、徐々に表情を引き締めていった。最後には強く頷くと覚悟を決め、差し出された手紙の束を受け取った。
「ま、そんな心配は万に一つもないとは思うがな」
パッキオが体を起こして言う。
「だが、最悪の時はみんないいか、何があってもエミオンだけは守り抜け」
パッキオの言葉に、全員が厳しい表情を見せて頷いた。
アリオスは目の前に座るギース外務大臣に向け、四年間に渡る長い物語を語り終えた。その間、時折背を伸ばして天井を見上げたり、窓の外に目を向けるなどしていたギース大臣であったが、最後まで口を挟む事なく大人しくアリオスの話しを聞いていた。
今、部屋の中にはシュリ補佐官の走らせるペンの音だけが響いていた。やがて聞き取りを終えたらしいシュリがペンを置き、傍らの分厚い書簡と自分の書いた文章を簡単に見比べると、それも済んだのか書簡をパタリと閉じた。
椅子を引いて立ち上がったシュリは自分の書きとった文章をギースの前に置き、また席に戻った。
「どうであったか?」
ぼそりとギースが言う。自分が質問された事をすぐに察したシュリが答える。
「戦闘区域での出来事については四年前になされた報告と整合性はとれているものと思われます。それ以降の事については今回初めてされた報告でありますので真偽の程は測りかねますが、概ね筋は通っているかと」
シュリが淀みなく回答する。アリオスは静かに息を吐き出した。事実をありのまま、とは言え自分達が分隊長のガイと共に世間を騒がせた吊り橋の山賊である事は何とか話さずに済むように進めてきた。どうやらその点について突っ込まれる心配はなさそうだった。
「よくわかった、アリオス元副分隊長」
シュリの報告を聞いたギースがアリオスの顔を見て言った。
「君の話は実際にその場にいた者でない限り語れない内容であるようだ。これだけでも、君の身の証明は成されたと思っていいのだが…」
ギースはそこまで言うと、勿体振るように少し間を置いてから続けた。
「もう一つ、君の身の証を立てる根拠となるようなものは、何か持ってはいないかね?」
アリオスは自分の胸を指し示しながら答えた。
「ここに、ココロ姫 直筆による身元証明書を持参しております。私の出自、両親の名などが記されております」
「見せてはもらえるかな?」
一瞬 躊躇を見せたアリオスだったが、やがて懐から一通の封書を取り出した。テリアンドスの山小屋でココロに渡された自身の身元証明書だ。
アリオスは一度手の中の封書に目を落とすと、意を決したようにそれをテーブルの上に置き、ゆっくりと手を机の下へとに下げた。
すぐにシュリが傍に歩み寄りその封書に手を掛けようとする。その瞬間、再びアリオスの手が素早く動き、その手紙を押さえた。
シュリが無表情にアリオスの顔を見る。アリオスも睨むように横目でシュリの顔を見返しながら低い声で言う。
「これは我が命…。再びアスビティ公国の子として生きていく為に姫から授かった大切な書状。姫手ずから書き示し、封蠟を施されたものだ。くれぐれも、取り扱いにはお気を付けいただきたい」
暫くじっとアリオスの目を見つめていたシュリは、やや緊張を宿した声で静かに答えた。
「承知しました。ご心配には、及びません」
それを聞いたアリオスは一際時間を掛け手を下した。シュリもそれに合わせるようにゆっくりと封書を手に取ると、両手で大事に持ち、向かいに座るギースの元へと持って行った。
シュリから封書を受け取ったギースはそれを裏返し、少し驚いたように目を見開いた。
「間違いなく、ココロ様の封蠟印と見える…」
「見える?」
アリオスが遺憾とばかりに声を出す。
「正真正銘、ココロ様の封蠟印に相違ない」
言われたギースはちらりとシュリに目配せをすると、次の瞬間その封蠟印に太い親指をかけた。
「あ…」
「お気を付けを!」
シュリが慌てた声を出すのと、アリオスが鋭く注意する声が同時に響いた。ギースの指が印に掛かったまま止まる。アリオスが畳みかけるように続ける。
「姫の封蠟印ですぞ?誰でもが軽々に開封してよいものではございませぬ」
ギースは睨みつけるようなアリオスの目を不愉快そうな表情で見返していたが、やがてぽつりと言った。
「今回の件に限り、一任を受けておる」
言うと同時にギースは躊躇う事なくその封を一気に切り開くと、荒々しく中身を取り出して広げた。
ギースが内容に目を走らせている間、困ったような顔つきでシュリがアリオスを見返してくる。
「なるほど」
内容を確認したのか、ギースはその手紙をたたむとテーブルの上に投げ出した。そして、その内容に触れる事もなく話しを続ける。
「この他にも封書があると聞いたが?」
「如何にも」
アリオスが言葉短かに答える。
「いずれも姫の封蠟印が?」
「…。如何にも」
「拝見したい」
「お断りいたす」
間髪を入れずにアリオスが即答する。
「何!?」
ギースの顔色が変わる。シュリも驚いたようにアリオスの顔を見る。
「再三に渡り申し上げている通り、これらの書状は侯爵様へ直に手渡せとココロ姫より賜っております。我が身を証明する証書一通までならまだしも、その他のものに関しては侯爵様以外の誰にお渡しする事も致しかねる」
「貴様…」
ギースの顔色がますます変わっていく。
「無礼は承知。しかしながら我ら公軍の隊士にとって、大臣閣下の命よりも侯爵令嬢のお言葉を重んじるは当然!…ご理解いただきたい」
テーブルの上に握られたギースの拳がわなわなと震える。その顔は怒りの形相で歯を食いしばっている。
「その書状は、今こちらに?」
シュリが取りなすように聞いてくる。
「広間で待つ部下に託した。私が持って参ったのは今ご覧いただいた一通のみ」
「すぐに取りに行かせろ!」
ギースがシュリに命じる。
「それには及びませぬ!」
アリオスがギース以上の大声を張り上げる。ギースとシュリがその声にはっとしてアリオスを見た。
「今すぐ書状を持った我が部下達をこの場にお呼びつけください」
「いや…」
シュリが戸惑った声で言いかけるのを、アリオスはすぐに遮った。
「ご心配はご尤も、身元明白に非ざる男どもをこのような奥の間にまで通す事に不安を覚えるのは理解する。幸いこの部屋は広い、お好きなだけ武装した隊士を呼べばよい。我らは既にすべての武器をお預け申した、抵抗のしようもない。それでも尚心配されるのであれば、我と我が部下に手枷を嵌めればよかろう。ただし!何があろうと、例え誰であろうと、これ以上のものは侯爵様より先にお見せする事はできぬ!我が命に代えても!」
「隊士を呼べ!」
ギースが勢いよく椅子を蹴って立ち上がる。
「大臣、落ち着いてください!」
シュリが押しとどめる。
「このような者が!この私に向かい無礼にも程がある!何が特別行動騎馬隊だ!貴様はおめおめと生き残り、あまつさえその場を放棄した逃亡兵であろうが!当時見つかっておれば極刑ものだぞ!それが恐ろしくて四年もの間こそこそと隠れ暮らしていたのであろう!その間、我らがあの戦争の後始末にどれだけの労力を注いだ事か…」
震える太い指でアリオスをさし、唾を飛ばすギースの顔は茹でたタコのように紅く染まっていた。
「貴様のような腰抜けにはわかるまい!」
それでもアリオスは席も立たず黙ってギースを睨みつけていた。
「筋は通っております!」
「何ぃ!?」
その言葉にギースは今度はシュリの顔を睨みつけた。
「どうか、大臣」
ギースの両肩に手を掛けたシュリが静かに言い、彼を座らせる。
「私が、侯爵様への確認を手配いたします。アリオス殿、済まぬがいったん先程の部屋へお下がりいただけぬか?」
シュリがギースの肩に手を掛けたままアリオスを見て言う。ギースが乱暴にその手を払い除けたその時だった。
「その必要はない」
部屋の奥の扉が開き、新たな声が入ってきた。
「あ…」
ギースが驚きの声を上げる。
「侯爵!」
そこには、数人の隊士と政府官僚と思われる男達を引き連れ、アスビティ公国第六代 領主にしてココロの父親である、ドナル三世 侯爵閣下が立っていた。




