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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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発信

●登場人物

・ココロ…はじまりの存在にバディとして選ばれた少女。アスビティと言う名の小さな公国の公爵の娘。全ての能力者とコンタクトを取れるテレパシスト。

・吉田大地…土のANTIQUEに選ばれた地球の高校二年生。六年前闇のANTIQUEに捕らえられた幼馴染を助け出す為ココロの呼びかけに応じてプレアーガへとやって来た。

・シルバー…鋼のANTIQUEに選ばれた元アスビティ公国のエリート隊士。剣術馬術に長けており、熱い忠義の心と正義感を併せ持つ。戦闘においては常に先方を務める。

・キイタ…火のANTIQUEに選ばれたンダライ王国の第二王女。魔族の手に落ちたと思われる双子の姉、イリアを見つけ出し共に国へ帰る事を目的に仲間に加わった。

ガイ…雷のANTIQUEに選ばれたアスビティ公国の軍人。元はシルバーの部下であり、ANTIQUEの能力者となった今でもその信頼関係は強固である。


アテイル

・ゴムンガ…アテイル四天王と呼ばれる幹部の中の一人。並外れた巨体と怪力を誇る戦闘型でありながら作戦は緻密。兵法に詳しく地上での戦いに長けている。

・ダキルダ…アテイル四天王の補佐を命じられた正体不明の魔族。どうやらアテイルとは種族が違うようではあるが、旅の始めから執拗にココロ達をつけまわす厄介者。

・クロム…ゴムンガの仲間、四天王の一人ズワルドが開発したエクスヒャニクの目付け役。本人自身はエクスヒャニクではないようであるが、不思議な能力を身に着けた難敵。




●前回までのあらすじ

エクスヒャニクの目付け役であるクロムの攻撃の前にテリアンドス帝国とイーダスタ共和国、国境を接する二つの国に分断されてしまったANTIQUEの能力者達一行。瀕死の状態で発見された大地を抱えテリアンドスから動けずにいたココロとシルバーは、夜の内にイーダスタへ入国しようと動き出す。意識のない大地の体を抱くシルバー自身もエクスヒャニクとの戦闘で激しく傷ついていた。次に襲われれば敗北は間違いないと言う極限の状態の中、満身創痍の三人は宵闇を頼りにイーダスタの森を目指した。

一方、イーダスタの森奥深くへと迷い込んだキイタとガイの二人はココロ達とは逆に夜明けまで動かず待機する事を選択。広い洞窟の中で火を焚き、休息を取る中で自分の中の不安を消そうと明るく振舞うガイの姿を見たキイタは激しい後悔とともにガイへの想いを改めた。自分は自分のままでいい、そうガイに言われたキイタはまどろみの中、ガイとの友情の証として自分を呼び捨てにするよう呟くのだった。








「なるほど」

 丸太のような腕を組んだままアテイル四天王の一人、ゴムンガは静かにつぶやいた。場所はテリアンドスより北西、アスビティとンダライに国境を接する国ジルタラス。ゴムンガの後ろにはテリアンドスの戦いに参加したクロムが立っていた。

 この北の果てにおいてANTIQUE一行をむかとうと多数のエクスヒャニクをしたがえ陣を張っていたゴムンガは、クロムの報告を聞いてうなずいた。

「ANTIQUE五名と戦闘となり、我が陣営は全滅。敵は二人と三人に分かれ現在テリアンドス、イーダスタ領内りょうないにそれぞれとどまっていると言う事で間違いないか?」

「間違いありません」

 ゴムンガの確認にクロムが答え、続けて言う。

「土の能力者は我が手にて打倒うちたおしました。鋼の能力者はエクスヒャニクとの戦闘において負傷した模様もよう。今、奴らの戦力はいちじるしく低下しているものと思われます」

「…」

 ゴムンガは考え込むように押し黙った。今の報告を鵜呑うのみにし、即座そくざ討伐とうばつに出かけるべきかとも考えられた。しかし移動の時間は長い。わずか五騎の相手がその間にどのような行動を取るか予測は難しかった。

 イーダスタ、ジルタラスのいずれかに現れると踏んだANTIQUE一行が選んだのはイーダスタに向かうテリアンドスの荒野だった。

 自分の出向いたジルタラスには来なかったが、まったく想定が外れた訳でもない。たまたま自分が選んだ方に奴らが来なかったに過ぎない。

 奴らの予測進路に二つの陣営を張り一方は当たった。その結果ANTIQUEの内一人を打倒うちたおし、一人は負傷したと言う。その上、せっかく集めた仲間はその戦闘のさ中二手に分断されたようだ。

 この結果だけを見れば今回の作戦もあながち失敗とは言えないのではないか?この先も同様に最新の情報を元に追い詰めていけば、近い内自らの手でANTIQUE一行を打ち滅ぼす事はできそうだ。

 ここで功をあせり無駄に動けばメロの二の舞になりかねない。戦争を知り尽くしたゴムンガは冷静に次の行動を思案しあんした。

「ちび、ご苦労であった。下がれ」

「は」

 ゴムンガに言われたクロムは一礼して身を退くと、漆黒しっこくの闇の中一人陣営を離れた。

 草木の生えない荒涼こうりょうとした岩の大地と冷たくそびええる急峻きゅうしゅん不毛ふもうの山。ジルタラスのその武骨ぶこつな姿は今、夜の闇に沈み見えない。ごつごつとした冷たい地面を踏み進めていく先にダキルダが立っていた。

「ゴムンガ殿は何と?」

 ダキルダがたずねる。クロムは少し上目遣うわめづかいにダキルダを見ると答えた。

「ありのままを報告した。ゴムンガ様がそれを聞き、その後どうするかは私の知った事ではない」

「なるほど、聞いていない訳だ。どう出ると思う?」

 自分のすぐ横まで歩いてきた相手にダキルダは質問を重ねた。聞かれたクロムは立ち止まると、ダキルダの顔を横目で見る。相変わらず感情のこもらない冷たい目だった。

「なぜ?」

「別に。それによって私の次の行動も決まるし…。いや、正直に言おう。興味があるのさ、この戦いがこの先どう展開していくのかにな」

「悪趣味だな」

 クロムは冷徹れいてつに言い放つとそのままダキルダの横を通り抜けた。

「そうかい?だって面白いじゃないか」

「ANTIQUEの一人は倒れた」

「何?」

 ダキルダは心底しんそこおどろいた声で相手を振り返った。クロムは背中を見せたまま立ち止まっていた。

「土のANTIQUEだ、私が倒した。とどめまで刺してはいないがな、手応てごたえはあった。助かりはすまい」

 ダキルダはドルストの宿で一度だけ言葉を交わした土の能力者を思い出した。戦士としては小さな、黒髪の少年だったはずだ。

 自分をにらみつける目の力は、その体格からは想像できない実力を感じさせたものだが…。

「鋼のANTIQUEは負傷中だ。始まりの存在はそもそも戦闘向きではないので論外ろんがい。テリアンドスに残ったこちらの三名は、容易よういに片づける事ができるだろう」

 ダキルダを悪趣味と切り捨てながらもクロムは、何を思ったのか今までにない程よく話した。

「一方、イーダスタに入った二人は強敵だ。まともにぶつかればかなりの苦戦を覚悟する必要がある」

「火と、雷か…」

「そう。よりによって最強の戦士が二人、一緒に行動している。しかし…」

「ん?」

「それとて、始まりの存在と言う指揮官があってこそ。規律から外れた独立隊だ、本来の力を発揮する事はできまい。こちらは、作戦次第」

「お前ならどうする?」

 するとクロムは一瞬黙った後、その横顔をダキルダに見せるように振り返り言った。

「今、分散ぶんさんしたANTIQUEを再び出会わせない事。奴らの頭脳、すなわち始まりの存在をこちらの手中に収める事…」

「つまり攻略すべきはテリアンドスの三人で、イーダスタは放っておけと?」

「ゴムンガ様は、イーダスタへは行くまい」

「なぜ?」

「…あそこには、フェズヴェティノスがいる」

「ああ、あの獣達けものたちか」

あなどるな、三種の魔族の一つだ」

「別にあなどっちゃいないさ。と言うと、ゴムンガ殿はあの獣達けものたち遠慮えんりょして遠征えんせいを取りやめると?」

「それはわからない。わからないし、私は興味がない」

 そう言うとクロムは、再びダキルダに背を向ける。そんな相手にダキルダが最後の質問をぶつける。

「で?お前はどうする」

「ここでの役目は終わった。ズワルド様の元へ帰る」

「ザシラルへ?」

「エクスヒャニクの本拠地ほんきょちだ。そこで次の展開を待つ。たのめるか?」

「遠いな…途中までしか飛ばせないだろう」

「海を渡れればそれでいい」

 クロムがそう言うとダキルダは右手を差し出した。黒い球体が生まれ、クロムの小さな体を包み込む。

「クロム」

 球体に包まれ、空中へ浮き上がった相手を見上げながらダキルダが声を掛ける。初めて名を呼ばれたクロムはダキルダを見下ろした。

「私達は、またどこかで会うだろうか?」

 クロムはしばらくの間それには答えずダキルダを見つめていた。ダキルダも深くかぶったかぶとの中から目をらさないでいる。

「運命が、それを望むなら」

 クロムが静かにつぶやく。次の瞬間、その体はダキルダの前から消えた。

―――運命が、望むなら…―――

 静かに右手を下したダキルダは、クロムの消えた虚空こくうを見上げたまま立ちくした。無数の星がその頭上でまたたいている。

しかし―――

 ダキルダは、すぐに次の思考しこうに移った。

(土のANTIQUE…やられただと…?)

 何を思ってかダキルダは足元に目を落とすと、そのまま石にでもなってしまったかのように夜の闇の中に立ったまま動かなかった。





 国境を接するテリアンドスとイーダスタは当然同時に朝を迎えていた。森を見渡せる高台の洞窟どうくつの前で、ガイは不安げな顔のままたたずんでいた。

 ひまさえあればココロの名を呼び続けたがいまだに応答はない。ココロはまだイーダスタに入っていないのだろうか?だとすればそれは何故なぜか?

 後から追いかけてくるはずだったのに彼らと別れ一体どれだけの時間が過ぎたか。それでもなお連絡が取れないと言う事は何か動けない事情があるのか?それとも、その身に何か起きたのではないか?言いようのない不安がガイの胸を支配した。

 やはり戻るべきだ。もしかすると二人は今ピンチにおちいっているのかもしれない。二人?そう言えば、先にキイタを助ける為イーダスタに向かったと言う大地は今一体どこにいるのだ?

 ガイの中に新たな不安がふくれ上がる。自分より先に出発した大地の姿をいまだに見ていない。ココロ達と一緒にいるのか?敵にやられたのか?それとも、この広大なイーダスタの森の中で迷ってしまったのか?

 何もわからなかった。余りにも少ない情報の中で想像ばかり働かせていても不安が増すだけだ。

「出発しよう」

 意を決したガイは、口に出して言うと、キイタを起こす為再び洞窟どうくつの中へと入って行った。





 それから三十分程の後、キイタとガイの二人は共に一頭の馬の背にられていた。クロムの襲撃を受けた二人は必死に馬をり、道なき道を森の奥深くへと入り込んでしまっていた。ココロ達を捜しにテリアンドスへ戻ろうにも、自分達が今どこにいるのかすらよくわかっていなかった。

まいったな…」

 ガイがぼそりとつぶやく。元の道を辿たどろうとしても一部はキイタが完全に破壊してしまい通る事すらできないはずだ。

 そうなれば迂回うかいする他はないが、かんに頼って動けばさらに道に迷ってしまう。動き出したはいいものの、どこを見回しても同じような景色の続く森の中でガイは途方とほうれた。

「あら?」

 突然キイタが声を上げた。

「ん?」

 ガイが胸元のキイタを見下ろすと、彼女は前方を指さしながら言った。

「こっちを見ている」

 ガイがキイタの示す方を見ると、そこに一匹の犬が座っていた。灰色の毛並みをした中型の犬であった。それがキイタの言う通りじっとこちらを見つめている。

「山犬か…腹を減らしていたら狼並に危険だ。一頭だけなら問題はないが…」

 ガイはそう言うと、その犬を刺激しげきしないよう静かにその場を離れた。犬は離れていく二人の姿を黙ったまま見つめ続けていた。

 それからさら半時はんとき程をついやし森をさ迷ったが明確な道を見出みいす事はできなかった。

 自分の中ではテリアンドスに向かっているつもりではいたが、それが間違っていないかどうかを示すものは何一つ見つける事が出来なかった。

「あ…、また」

 あせり始めたガイをよそに、キイタが声をあげた。ガイがキイタの見つめる先に目を向けると、先程の灰色の犬が再び二人の前に姿を現した。

「俺達をつけているのか?だとしたらまずいな、いつの間にか群れに囲まれているような事になると厄介やっかいだ」

 そう言うとガイは馬の顔を犬からそむけ、再び別の方向に向かう素振そぶりを見せた。その瞬間、背後で犬が鋭く一つえた。

「待ってガイ」

 犬の方を振り返ったキイタが言う。

「は?」

「あの子の目…」

「目?」

 言われたガイは振り返り、改めてその犬を見た。犬は変わらずその場にしゃがんだまま自分達を見つめている。

 口を閉じ、大人しく座る姿に警戒けいかいの色や攻撃の素振そぶりは見えない。そしてその目は例えようもない程にんだ美しい光を放っていた。

 間違いなくキイタとガイを意識してそこを動かない犬は、やがて静かに二人から目をらすとたくましい四肢ししを伸ばして立ち上がり、歩き始めた。

「何だか、私達について来いと言っているみたい」

 キイタが尾を向けて歩き去る犬の姿を見ながらポツリと言った。

「まさか…」

 ガイは半信半疑はんしんはんぎで答えた。しばらく二人して遠のいて行く犬の姿を見送っていると、犬は立ち止まり、二人の方を振り返った。じっとこちらを見つめている。

「こりゃあまいったな。俺にもそう見えてきました」

 少なくともその犬に危険を及ぼす野生動物の様子ようすは見られなかった。

 もしかすると人間に飼われている犬なのかもしれない。そうであるならば、人の住む場所まで連れて行ってくれるかもしれない。

 ガイとキイタは一度言葉もなく目を見合わせると、犬の後について馬を進めてみた。すると、それまでじっとこちらを見つめていた犬がガイが馬を進め始めた途端とたん、再び背を向けて歩き始めた。

 その足取りはゆるやかで見失う心配はなかった。その犬が二人の案内をして先導している事に、最早もはやうたがいの余地よちはなかった。





 一方、夜の内にテリアンドスの岩場をったココロとシルバーはすでにイーダスタの森へと足を踏み入れていた。

 朝の森では、あちこちで鳥がうるさい程鳴いていた。ココロは時々立ち止まると、キイタとガイにテレパシーを送り続けた。

 しかし、やはりこたえはない。

「何で?」

 ココロが苛立いらだった声を上げる。

「ココロ様?」

 体の前に大地を抱えたシルバーがゆっくりと近づきココロに声を掛ける。ココロは森を見上げて怒ったような声で言った。

「どうしてこたえてくれないの?ガイもキイタも!ここはもうイーダスタ共和国ではないの?」

 シルバーにもその問いに答える術はなく、気まずく黙り込んでしまった。その時、大地が苦し気なうめき声をあげた。

「大地!?」

 答えはない。昨日よりも呼吸が浅く、早くなっている。苦し気にしわのよった額には冷たい汗がき出していた。

 ココロは慌てて馬を降りると、大地とシルバーの元へった。二人がかりで大地の体を馬から降ろし、地面へと寝かせる。

「大地!聞こえるか?」

 シルバーが怒鳴どなるように問うと、大地がうっすらと目を開けた。

「大地!」

 ココロとシルバーが同時に叫ぶ。しかし、大地は再び目を閉じてしまった。呼吸は決しておだやかではない。

 発熱しているのか、体が熱い。色を失ったくちびる小刻こきざみに震えている。最早もはや末期まっき症状しょうじょうに見えた。

 大地が死ぬ。そう思うと再びココロの瞳に涙があふれた。それと同時に言いようのない怒りが胸の中で爆発した。

 ココロは突然立ち上がると、頭上を見上げて叫んだ。

「ガイ!ガイ!キイタ!どこにいるの?こたえて!こたえなさい!!」

 我を忘れてココロは叫んだ。その時、ココロの胸に下がる石が薄桃色うすももいろに輝きゲンムが出現した。

「ココロ、落ち着いて」

「ゲンム!どうして?どうしてキイタとガイはこたえてくれないの!!?もうとっくに国境を越えているのよ?聞こえていないはずがないのに!」

「ココロ、国境は関係がない」

「…え?」

「国境など、お前達人間が勝手に決めた境界でしかない。私達には関係のない事だ」

「だったら尚更なおさらどうして二人はこたえてはくれないの?絶対に近くにいるはずなのに!」

「理由はいくつか考えられる」

 シルバーは大地の額に浮かぶ冷たい汗をぬぐいながら耳だけはゲンムとココロの会話を聞いていた。

「まずは単純に距離の問題。それと、双方のバディの身体的、精神的状態」

「身体的、精神的状態?」

「そう。ココロ、あなた自身の精神がテレパシーを送り、また受け取れる状態にないのかもしれない」

 確かに、城のベッドでゆっくりと横たわり全神経を集中して念を送っていた頃に比べて今の環境は悪すぎる。

あるいはガイとキイタの方に問題があるのかもしれない」

 それを聞いたシルバーが顔を上げる。

「まさか…ガイがやられたとでも?」

「それはわからない。今、私は土のANTIQUEと話す事はできるがあなた達は大地と話す事はできないだろう?」

 まさか、大地のみならずキイタやガイまでもが敵の手によって倒されたと言うのか?ゲンムの言葉にココロとシルバーは顔の色を失った。

「それともう一つ…」

 二人の不安を意にもかいさずゲンムが続けた。

「近くに我らの会話を妨げる悪意が満ちているか」

「悪意?」

「敵が近くにいると言う事か?」

 シルバーが割り込む。二人の不安に反し、どこまでも冷静な声でゲンムがそれに答えた。

「あくまでも可能性の問題だ。ココロ、あなたが気持ちを強く持たなければあなたに送られる仲間の声をとらえる事はできない。どんな時も、あなたの思いの強さこそがこの戦いの行く末を決めるカギとなるのだ」

 そう言うと辺りを照らしていた薄桃色うすももいろの光は急速に薄れ、ゲンムの姿は消えた。

「ココロ様の…思い?」

 シルバーがつぶやくが、ココロは何も話さなかった。その背中をシルバーが不安げに見つめる。 大地が大きく息を吐き出した。ココロとシルバーが慌てて目を向けると大地の体が痙攣けいれんするように小刻こきざみに震えている。

「大地!」

 シルバーがその名を叫ぶ。ココロは馬の背から毛布を引きずり出すとそれで大地の体を包んだ。そのまま大地の上におおいかぶさるような姿勢しせいのまましばらく動かなかった。

「シルバー」

 ココロが大地の首筋に顔を埋めたまま呼ぶ。

「は、はい」

「大地を、お願い」

「は?」

 するとココロは静かに身を起こし、立ち上がった。シルバーは何事かとココロを見上げる。その顔はさっきまでの苛立いらだち、狼狽うろたえたものとは明らかに違っていた。

しばらく私に声を掛けないで」

「ココロ様…」

「私のすべてをそそぎ込んで呼びかける。必ず、キイタとガイを見つけるから」

 そう言うとココロはぎこちなく微笑ほほえみ、シルバーに背を向けた。二人から距離をとったココロは一つ大きく深呼吸をした。

 清涼せいりょうな朝の森の空気を胸いっぱいに吸い込み、ゆっくりと吐き出す。もう一度。少し気持ちが落ち着いてきた。

(私の気落ち次第しだい、私の、思い次第しだい…)

 ゲンムに言われた事を胸の中でり返しつぶやく。体の力を抜き、静かに目を閉じる。胸に下がるゲンムの石を両手で優しく包み込む。

(ANTIQUEの能力者よ…)

 風が木々をらす音が頭上で大きくなる。それに反して鳥達の声がぴたりとやんだ。

 シルバーが顔を上げた。ココロの声が頭の中に響いた。ココロはすべての能力者に向けてメッセージを送り始めたのだ。

 キイタとガイだけではなく、持てる能力のすべてを開放して、初めてそうした時のようにANTIQUEの能力者全員に向けて呼び掛けているのだと言う事がわかった。その中には勿論もちろん、大地もふくままれているのだろう。

(ANTIQUEの能力者達よ、私の声が聞こえますか?我が名はココロ。はじまりの存在のバディ)

 シルバーは思考しこうを止めた。周りの気配だけに意識を集中した。自分に声を掛けるなとココロは言った。それは、テレパシーも同じ事なのだろう。ココロの呼び掛けを邪魔じゃましてはならない。その集中を途切れさせてはならない。

(私の声が聞こえた者はこたえてください。我が名はココロ。ANTIQUEの能力者よ、我が呼びかけにこたえよ、我が元へ、集え…)

「え?」

 そんな声にシルバーは再び顔を上げてココロを見た。ココロもこちらを見ている。どうやら今の声はテレパシーではなく、ココロの口をついて出たもののようだった。

「ココロ様?」

 シルバーが立ち上がりかけると、ココロはそれを制するように左手を差し出す。目をらし、何かに神経を集中させるように目を泳がせた。

 やがて、ココロが戸惑とまどったようにつぶやいた。

「あなた、誰?」













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