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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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火の覚醒

登場人物

・キイタ…火のANTIQUEに選ばれた能力者。悲壮な決意を胸に旅立ったが、人見知りな性格と自信のなさが災いし、未だその能力に覚醒しきれていない。

・ガイ…雷のANTIQUEに選ばれた能力者。三年間能力を鍛え続け、今や自在に雷の力を使いこなす。アスビティ公国公軍の隊士であり実力は高い。


エクスヒャニク…アテイル一族四天王の一人智の竜の異名を持つズワルドが時空を超えて搔き集めた機械でできた戦闘用ロボット。作成者の性格を継承するのか極めて残忍。



前回までのあらすじ

エクスヒャニクを取りまとめる謎の人物クロム。その特殊な攻撃の前にガイは生きたまま氷漬けとなってしまう。余裕を見せた二体のエクスヒャニクは負傷中のシルバーやココロよりも、一人イーダスタの森へ向かった火の能力者、キイタを追う事にしたらしい。機械でできたエクスヒャニクを倒す為には何としてもガイの雷の力が必要だと判断した大地はココロとシルバーにガイを託し、自分は単身キイタを救うべくイーダスタへと向かう。しかし、宙を舞い追いかけて来たクロムの前に、大地は腹を撃ち抜かれそのまま一人荒野の中意識を失ってしまった。一方、キイタが残した小さな炎を使い何とかガイを救い出したココロとシルバーは復活したガイに事のあらましを説明する。話しを聞いたガイは馬を駆り、一人キイタを救出する為森へと馬を走らせたのだった。





 たった一人仲間からはなれイーダスタの森へと逃げ込んだキイタは、テリアンドスの荒野で起きている事など知るよしもなく咄嗟とっさもぐんだしげみの中で小さな体をさらに小さくしてうずくまっていた。

 敵に見つかるまいと必死におさえていても、空気を求め荒くなった呼吸をしずめる事ができなかった。早鐘はやがねのように激しく打つ心臓の音がうるさい程耳に響く。絶え間ない小刻こきざみな体の震えも止まらなかった。

(何をしているのだろう―――)

 キイタは自分の両膝りょうひざを胸に抱えながら思った。自分は一体何をしているのか?ANTIQUEの能力者となってココロや大地に誘われるまま旅の仲間になったものの、何一つ役に立つ事もなく、ココロを置き去りにして一人こんな所で震えている…。

 そう考えた途端キイタは、自分自身の事がいやたまらなくなってきた。このままここで誰に知られる事もなく消えてしまいたい。そんな弱気が胸を支配しはいする。

 何が、選ばれしANTIQUEの戦士だ。世界を守る?敵の一人も倒す事なく、それどころか戦う事すらできずに、ただただみんなに守られ迷惑をかけ…、そんなの、足手まとい以外の何者でもない。

 もうやめよう。ここを無事に切り抜け、もう一度ココロに会ったらそう言おう。度台どだい、自分がこんな役目をう事など無理があったのだ。世の中には自分などよりももっと、火の能力者に適した人間がいるはずだ。

 とりとめもなくそんな事を考えている内に、ようやく呼吸が落ち着いてきた。

 静かだ―――。風が森の木々をらしている。すぐそばで小さな川の流れる音が聞こえる。

 いつの間にか体の震えも収まっていた。キイタは自分の気持ちが落ち着いて来るのをはっきりと感じ、目をつむって大きく一つ息をついた。

 その時だった。自分のかくれているしげみが突然大きく割れた。はっとして顔を上げるが目の前には何もなかった。

 再び体が震えだす。キイタはゆっくりと顔を右側に巡らせた。そのキイタの顔から十cmと離れていない場所に、赤く光るガラス玉のような目をした銀色の顔があった。

「見ぃつけた」

 その顔が、笑いをふくんだ声でそう言った。


 馬をり森の中へと入ったはいいものの、ガイはどちらへ向かえばいいのか皆目かいもく見当けんとうがつかず戸惑とまどっていた。

 一度馬を降り、地面に目をらす。湿気しっけふくむ茶色い土の上にキイタか、あるいはその後を追ったエクスヒャニクの痕跡こんせきがないものか探そうとしたのだった。

 そんなガイの耳に突然 甲高かんだかい悲鳴が届いた。慌てて立ち上がり声のした方向を見極みきあめようと神経を集中させる。

 遠くに、追われ、逃げる慌ただしい雰囲気を感じ取る。

「キイタ様…」

 そうつぶやくとガイは再び素早く馬の背に飛び乗り、当たりをつけた方角に顔を向けるとすさまじいいきおいでけ出した。

「キイタ様ぁ―――――!」

 無我夢中むがむちゅう絶叫ぜっきょうしながらガイは、風のように森の中をけ抜けた。


 キイタは胸が張り裂けそうな程の息苦しさを覚えながら走っていた。呼吸が乱れあごが上がる。

キイタを見つけた敵はすぐにキイタを殺す事もできたはずだ。しかし恐怖の叫びを上げ、しげみから飛び出したキイタを敵はゆっくりと追い詰めていった。

 正に逃げ場を失ったネズミをいたぶりながら殺す猫のように、森の中を逃げまどうキイタを追いかける事に残忍ざんにんな喜びを覚えているようであった。

 キイタは走った。枝がその体を傷つけ、風が赤い髪を乱し、体中を汗が流れた。ぬかるんだ地面に足を取られ泥水の中に顔から倒れた。

 すぐに起き上がり後ろを振り向く。しげみの向こうから銀色の体に赤いラインの入った奴と、いつの間に増えたのか、不格好ぶかっこうに手の大きい緑色の敵が二人並んでキイタにせまってきていた。

 走ったのに、あんなに走ったのにその距離は全く開いていない。体力は限界であった。それでもキイタは生きるために立ち上がった。自分でも気づかぬ内に目からは止めどなく涙がこぼれていた。

 足がふらつく、意識が薄れる。最早もはや真っ直ぐ走る事すらできない。そのスピードは歩くよりもなお遅い程であった。それでも止まる事はしなかった。

 み、胃の中のものが逆流してくるようなと息苦しさを感じながら走り続けた。

 しかし、そんな鬼ごっこも終わりをむかえた。細い、ほんの一跨ひとまたぎ程度の川とも呼べない水の流れを超えた向こうには巨大ながけが立ちふさがりその進路を断ち切っていた。

 キイタは、絶望的な眼差まなざしでそのがけを見上げた。ゆうに十m以上はあるだろう。土をき出しにし、枝の一本も見えない切り立った崖を登る事など、不可能であった。

 キイタの思考しこうは停止した。頭の中は真っ白だった。その時、背後からせまる敵の足音が聞こえた。振り向いたその目に、先程と同じ歩調ほちょうせまる二体の敵が映る。

 キイタは髪を振り乱し、一歩でも敵から離れようと前に進んだ。足を取られ、再び水の流れへと頭から突っ込む。

 息を切らしながら手をついて立ち上がる。フラフラと歩きながら伸ばした手にがけの土が触れた。ゴール。ここから先は一歩も進めなかった。

 キイタは振り向きせまる敵を見た。呼吸は乱れ、声も出ない。がけに背をぴったりとつけ、無駄とわかりつつもその背をがけに押し付けた。二体の敵がゆっくりと近づき、川の手前で立ち止まる。

「チェックメイトだ、おじょうちゃん」

 銀色のエクスヒャニクが表情のない声で言う。キイタは息を切らせ相手をにらみつけていたが、やがてその胸に絶望の波が押し寄せると激しく嗚咽おえつし、涙をこぼしながらズルズルとその場にしゃがみ込んだ。

 嫌だ、死にたくない。怖い、怖い―――。

 目の前にせまけようのない死の恐怖にキイタの心と体がはげしく反応している。

「提案だが…」

 突然緑色の敵が切り出した。

「何だ?」

 銀色の敵がキイタから目をらさないままそれに答える。

「あの小さいのは、俺にやらせてくれないか?」

「そりゃ別にかまわんが?」

「恩に着るぜ」

 そう言うと緑色の敵が一人、ゆっくりと川をまたいでキイタに近づいてきた。銀色の敵は傍観ぼうかんを決め込んだらしくその場で腕組みをしたまま動く気配がない。違和感を覚えるのか、不愉快そうに首を回している。その姿は異様ながら、仕草しぐさはまるで生きた人間のようだ。

 この二体にとってキイタの小さな体を破壊はかいし、その命をうば残虐ざんぎゃく行為こういは単なるゲームでしかないようだ。

 やがて、キイタの目の前に緑色のエクスヒャニクが立ちはだかった。震えながら見上げるキイタは最早もはや恐怖の感覚すらなくなり、呆然ぼうぜんとその巨大な体を見上げた。

 敵の肩越かたごしに見える森の木々の間からは、午後をむかえたやわらかい秋の日差しがこぼれていた。

 突然エクスヒャニクがその巨大な手でキイタの真っ赤な髪を鷲掴わしづかみにした。そこにいたってようやく恐怖を思い出したキイタが悲鳴を上げる。

 エクスヒャニクはキイタの髪の毛をつかんだまま、その体を軽々と上に放り投げた。ゴムボールでも投げ上げるかのような何気なにげないその動作で、キイタの体は三m程の高さまで簡単に放り上げられた。

 緑色のエクスヒャニクは落ちてくるキイタの首を片手でとらえると、そのままがけに押し付けた。

「弱い…」

 エクスヒャニクがつぶやきをらす。

「何て弱いんだ!それに、このもろい体!なぁにがANTIQUEの能力者だ!見ろ!この細い首は俺がこの指先にほんの少し力を込めただけでちぎれて取れてしまいそうだ」

 いや、実際その通りだと思えた。このエクスヒャニクの一握ひとにぎりでキイタの細い首はあっさりとどうからはなれてしまうだろう。

 地からはなれたキイタの細い両足が痙攣けいれんを起こし始める。意識が遠のいて行く。それでも涙だけは止まらずに次から次へとあふれてはほほを伝わり、自分の首をめつける敵の手をらした。


(フェルディ―――)


 キイタの頭の中に、いやに冷静な自分の声が聞こえた。

(フェルディ…、ごめんなさい…。私は、あなたを恐れた…あなたを、受け入れる事ができなかった…。あなたの存在をこばみ続けた…。もう何年も、何年も共に生きて来たあなたを…)

 キイタは、もう一度頭上を見上げた。涙にかすむ視界に、高々とそびええる木々達が自分を見下ろしているのが映る。

(幼い頃から、あなたはずっと私の中にいた…。私達は、本当に長い時間を共に過ごした…。なのに…)

 意識が遠のいて行くのに反して心はおだやかに静まっていった。

(なのに私は、あなたの声に耳をかたむけなかった…そこにいたあなたから、目をらし続けてきた…)

 最早もはや痛みも感じなかった。

(これがそのむくいなのね?ごめんなさいフェルディ…。私は、火の能力者には、なれなかった…あなたのバディには、なれなかった…)

 キイタは静かに目を閉じた。

(私が死んだら…私が死んだら急いで、今度こそあなたの力を存分ぞんぶんに生かせる能力者を探して…。必ず、いるはず。私以外にも、あなたの声を聞き、あなたの姿を見る事ができる人間が…)

「全く、ズワルド様やゴムンガ様が何だってこんな連中を恐れるのか皆目かいもくわからん」

 緑色のエクスヒャニクは全く抵抗ていこうを見せないキイタの反応に一気に興味を失ったらしい。

(その新しいバディと一緒に、お願い、世界を…救って…)

「つまらん」

 そう言うといよいよこのゲームを終わらせる気になったらしく、指先に力を込めた。

(フェルディ…ココロ、シルバー、大地、ガイ…さようなら…)

その瞬間、キイタの中で何かがはじけた。

(新しい、バディ…。新しいバディ?その人は、世界を救えるの?いいえ、そうだとしても…イリアは?)

 キイタは再び目を開いた。

(新しい火の能力者は、世界を救えるかもしれない…でも、イリアを見つけ出す事は、できない…。新しい火の能力者は、全世界の人類を救えるかもしれない。だけど、ンダライの人々を救う事は、できない…)

「ん?」

 キイタの首をつかんでいたエクスヒャニクが怪訝けげんそうな声を出す。

(それができるのは、私――――!)

「何だ、何のつもりだ!」

 キイタは、自分の首をめつける巨大な鋼鉄の腕に、力なく手をえている。

(イリアを見つけ出し、父様とうさま母様かあさまの愛したあのンダライを守る事は、私にしかできない!)

 キイタは大きく開いた目で自分をとららえる敵を見下ろした。その目に涙はなかった。そして、そのひとみは赤く、紅蓮ぐれんの炎のごとく真っ赤に燃え上がっていた。

「フェルディ…」

 めつけられたキイタののどからしぼり出されるようにかすれた声がこぼれる。

(キイタ――――)

 キイタの頭の中に突然別の誰かが話し掛けてきた。

(フェルディ!)

(キイタ、今こそ我を受け入れよ。我は火…。全てを焼き滅ぼす灼熱しゃくねつ業火ごうかなり。我のそば沿い、我と共に歩め…。お前こそが、我が、バディなり)

 突然キイタの口からその体からは想像もできない程大きな声があふれ出た。その声は更にその大きさを増しながら、途切とぎれる事なく、長く長く森の中に響き渡った。

「貴様!」

 キイタの突然の異変にエクスヒャニクが狼狽うろたえた声を出す。腕を組んで様子ようすを見ていた銀色のエクスヒャニクも何事かと身を乗り出す。

 長く長く尾を引いて響いたキイタの発する雄叫おたけびが静かに余韻よいんを残して消えた瞬間だった。突然キイタの体が真っ赤な光に包まれたかと思うと、その長く赤い髪が突風とっぷうに巻き上げられるようにはげしく乱れた。

 紅色くれないいろのその髪は、逆巻さかまく炎と見紛みまがう勢いで乱れ動いた。キイタが再び爛々と光るの瞳で相手をにらみつけたその時、キイタの首を千切ちぎり落とそうとしていたエクスヒャニクが突然大きな悲鳴を上げた。

 後ろで見ていた銀色のエクスヒャニクは自分の目を疑った。燃えている…。何と、目の前で仲間の体が突然、何の予告もなく、唐突とうとつに火をいたのだ。

「うぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!!」

 恐ろしい絶叫ぜっきょうを上げた緑色のエクスヒャニクは、キイタの首から手を放しその体についた火を消そうと狂ったように暴れだした。

 地面に降り立ったキイタは片膝かたひざをつき、一度苦し気にせきをした。

「貴様ぁ!」

 緑色のエクスヒャニクはキイタの予想外の反撃に怒り狂いキイタに飛び掛かった。すぐに顔を上げたキイタは襲い掛かって来る相手をにらみつけ、左手をその相手に向かい差し出した。

 キイタが手を上げた瞬間、エクスヒャニクは今まで以上の絶叫ぜっきょうを上げ地面に倒れた。

「熱い!熱いぃぃぃ!」

「バカな!」

 銀色のエクスヒャニクが叫んだ。

「俺達の体が燃えるなんて、そんなバカな!」

 目の前で現実に起きている事が信じられないといった様子ようすで必要以上に大声で言い、頭を抱えだした。

 エクスヒャニクの鉄の体が発火するとは、この小さな能力者は一体何度の炎を生み出しているというのか。

 そうしている間にも火のついたエクスヒャニクは、苦しまぎれに近くに流れる浅い流れにその体を横たえ消火をしようと試みていた。

「ひい!ひぃぃぃ!」

 体がちていく恐怖におびえた叫びを放ちながら、必死に水の上を転げ回った。しかし…

「きぃえない!消えないぃぃ!熱い、熱い!助けて!助けてくれぇ!」

 水に入ってもキイタの放った炎は消える事がなかった。むしろ小さな水の流れはその炎の触れる先から蒸発を始め、おびただしい水蒸気を放つ。

 燃え上がったエクスヒャニクの体はすでに真っ赤に焼けた鉄の色となり、助けを求めて仲間に差し出した手はその目の前でドロリと溶けて流れ落ちた。

「たぁす、け、てぇ…、たぁす…け…」

 最早もはや声を出す事すら困難こんなんになったのか、真っ赤に焼け落ちる鉄のかたまりとなりつつあるエクスヒャニクがかすかな音のような声で言った。

 それが最期であった。幾筋いくすじもの煙と、時々スパークする小さな稲妻を放ちながらその巨体は見る見る縮んでいった。

 やがて溶け落ちていくエクスヒャニクが声を発しなくなり、完全に動きを止めた時、そこには熱く燃え上がる溶岩のような一山があるのみであった。

 原形をとどめない程にはげしく焼けくずれたエクスヒャニクは、完全に破壊し尽くされ、機能を停止した。それと同時にキイタの体を包む赤い光はまたたく間にうすれ消えていった。

 燃え上がる炎のように逆巻さかまいた髪の毛も元の姿に戻り、サラリとその背中に流れ落ちた。

 その途端とたんキイタはその場にくずれるように手をついた。息を切らし、あと一人残った敵を見上げる瞳の色もいつものそれに返っていた。

「貴様…」

 呆然ぼうぜんとひとかたまりの溶けた鉄屑てつくずに成り果てた仲間の姿を見つめていた銀色のエクスヒャニクが言った。

「貴様、よくもぉぉぉ!」

 そうさけぶやいなや、銀色のエクスヒャニクは空高く跳躍ちょうやくすると、しゃがみ込んだキイタ目がけ上空から襲いかかった。

 空中で体を弓なりに反らせ、鎌状かまじょうになった腕を高々と振り上げると、落下の速度を利用してそのままキイタの顔面をねらい鋭く巨大なつめを振り下ろした。

 キイタにはその敵の動きが見えていた。全て、見えていた。ふせげる、そう思った。再びフェルディの能力を発動させ、この敵の攻撃に立ち向かう事ができると冷静に考えていた。

 しかし、すでに体力の全てを使い切っていたキイタの体は、その指一本すら動かす事ができなかった。

 キイタは、自分の顔目がけ振り下ろされる銀色に光る鋭いつめを見ながら思った。

(ああ、やっぱり…ここまでか…結局、私は、ここで…)

 その時、一つの影が突風とっぷうのように襲い掛かる敵と動けずにいるキイタの間に飛び込んできた。金属と金属が激しくぶつかり合う音が木々の間にこだまする。

 キイタの目の前に、敵の鋭いつめ先端せんたんがあった。顔まであとわずか数cmの所でそのつめは止まっている。

 膝立ひざだちをしていたキイタは、今度こそ全身の力を失いぺったりと尻もちをついた。

「お待たせいたしました」

 目の前に一人の男がいた。うつむいた顔をかくす、長く波打つ見事なまでの金髪が、木漏こもれ日に照らされて輝いていた。

 その男がキイタをかばうように差し出した左腕を、敵の鋭いつめつらぬいている。しかし、完全に敵の腕が突き刺さっているその左腕からは一滴の血すら流れていなかった。

「キイタ様、お見事な戦いぶりでした」

 そう言いながらキイタに向けられた笑顔は、雷の能力者ガイであった。

「ここからは、この私めにお任せください」

 左腕に大穴を開けられながら不敵ふてきみを浮かべたガイは、そう言うと義手に突き刺さった腕が抜けずにあわてているエクスヒャニクを肩越かたごしににらみつけた。

 ガイが氷漬けにされたことを知っているエクスヒャニクは、驚いた声を上げた。

「お、お前は!クロムの技で凍った…」

「てめぇ…」

 相手に全てを話させずガイはつぶやいた。その顔は、一変して鬼の形相ぎょうそうとなっていた。

「よくも…」

 ガイは、手に腕をつらぬかせたまま強引ごういんに立ち上がろうとした。このままガイをおさえ込み、空いたもう一本の腕でガイを倒せると気が付いたエクスヒャニクは、ガイを立ち上がらせまいと力任ちからまかせにおさんできた。

「ぐおお…」

 声を上げながらガイが全身に力をめる。太ももの筋肉がふくれ上がる、腹筋が割れ、肩が盛り上がる。ガイの義手と、エクスヒャニクの体がギシギシと金属音を上げていく。

 ジリジリと二人の体が持ち上がっていく。どうやら力比べでは怒りを爆発させたガイにがあるようだった。

「貴様!」

 形成不利けいせいふりを悟ったエクスヒャニクは、半ば強引に自由な腕を振り上げガイに突き立てようとした。

「よくもぉぉぉ!」

 しかし振り下ろされた敵の腕が自分の体に突き刺さるよりも早く、ガイは大声を出しながら相手の体を強力な力で押し始めた。

 バランスを失った相手は一気に押し切られ、後方へ連れていかれる。

 どのようにしてあの氷地獄から抜け出したものか、雷の能力者の肩越かたごしに今一歩で殺せたはずの火の能力者が遠ざかっていく。

 敵を押して走るガイは、そのままショルダータックルの要領で大木に相手の背中を叩きつけた。叩きつけたその瞬間に一気に発動させたANTIQUEの能力で、敵の体にありったけの雷を流した。

 そのまばゆいばかりの金色の光は相手の体を突き抜け、大木を光り輝く巨大な柱に変えた。

 ガイの肩と大木にはさまれたまま強烈な電撃を喰らった銀色のエクスヒャニクは、声もないままただ体をはげしく痙攣けいれんさせていた。

 やがて、一際ひときわ大きな放電を放ちガイの攻撃は終わった。体中から煙をいたエクスヒャニクのその顔面は真っ二つに割れ、ガラス玉のような赤い目玉はその顔から外れていた。

 糸を切られたマリオネットのように力なく崩れる。フン、と一つ鼻を鳴らしたガイが意気揚々とキイタの元へ行こうとすると、首や手足の千切ちぎれかけたエクスヒャニクの体がブランブランとついてくる。

「あ、そうか」

 相手の腕が自分の腕に突き刺さっている事を思い出したガイは、さんざん苦労しながらようやくそれを引き抜く。

 敵の体は物言わぬガラクタと成り果てて地面に崩れ落ちた。それを見下ろしてもう一度鼻を鳴らしたガイは、今度こそ得意満面とくいまんめんの顔でキイタの元へと向かった。

(助かったんだ…)

 金髪をなびかせ、胸を張ったガイが笑顔で近づいて来るのを見ながら、キイタは生きている事を実感した。収まっていた涙が再びほほを流れ落ちる。

 やがてキイタの前に立ったガイは、その場で片膝かたひざをついた。

「遅くなりまして、申し訳ございませんでした」

 深々と頭を下げる。そのままガイは続けた。

「もう二度と、もう二度とキイタ様をこのような目には合わせません。キイタ様はこのガイが、命に代えてお守りする事をここにお約束いたします」









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