戦いの相性
登場人物
・吉田大地…土のANTIQUEに選ばれた地球の少年。現役の高校生であり、戦闘の経験は皆無であるが、持ち前の負けず嫌いな性格と、冷静かつ優秀な頭脳を駆使して仲間を助ける。
・シルバー…鋼のANTIQUEに選ばれたアスビティ公国のエリート剣士。責任感が強く、戦いにあっては常に先頭に立ち得意の剣を振るう。
・ガイ…雷のANTIQUEに選ばれた元アスビティ公国の公軍隊士。お調子者で自信家。ガサツで頭はあまりよくないが、馬術剣術ではシルバーに引けを取らない。
エクスヒャニク…三種の魔族の一つ、アテイル一族の首領格「智の竜」と異名を取るズワルドが作り上げた機械兵士。頑丈な肉体を持ち、痛みや恐れを知らぬ最悪の敵。元となった道具の特性を活かしANTIQUEの能力者に集団で襲い掛かる。
前回までのあらすじ
フォルトの町で宿を取り一時の休息を得たココロ達ANTIQUEの能力者一行は、夜明けと共に町を出た。次に目指すは大きな森と雄大な川の流れる国”イーダスタ”。
テリアンドス帝国とイーダスタ共和国の国境を成す広大な砂の荒野に辿り着いた時、ココロは自分の頭の中に走る奇妙な声のようなものを感じ取る。或いは六人目の仲間からのメッセージかと一同期待を込めるが、謎の声はそれきり二度と聞こえる事はなかった。
気を取り直した五人は、遠くに見えるイーダスタの森を目指し荒野に足を踏み入れた。その時、アテイル一族四天王の一人、「智の竜」ズワルドが同胞ゴムンガの為に送り込んだエクスヒャニク達が襲い掛かってきた。
突然始まった戦いに、大地は咄嗟にココロとキイタを非難させる。シルバーの指示の下戦いの補佐に回った大地は、剣を振るい挑み掛かるシルバーとガイの戦い振りを具に観察する事で何とかこの新たな敵の弱点を見破ろうと試みる。しかし、近代科学の力で生み出されたエクスヒャニク達の体に、シルバーやガイの剣はまったく通用しなかった。
「シルバー!」
大地は馬を走らせながらシルバーの元へと駆け寄った。
「大地!来るな!」
シルバーは敵から目を離さないまま叫んだ。
「考えて!イメージするんだ!今、最も適した能力の使い方を!剣に拘らないで!デュールの能力を最大限に引き出すんだ!」
大地はそう叫びながら輪の外周を走り抜けるとそのままシルバーから遠ざかって行った。
シルバーの能力は鋼と呼ばれているが正式には鋼ではない。人工的に生成された金属ではなく、あくまでも自然界に存在する鉱物、つまりは石の能力なのだ。
鉄の成分を多く含み、硬度の高い物質を自分の力で鍛え上げられた鉄や鋼としてその身に帯びる事ができるちから、それがデュールの能力だ。
同じ鉄ならばこの世界で作られた戦う為の剣と、化学技術の進んだ時代で作られた家電とではどちらが強いのだろう?大地にもそれはよくわからなかったが、デュールの能力で生み出された武器の固さは少なくとも現存するあらゆ鉱物の特質を併せ持っていると想像できた。
だとすればシルバーは自分が操る鉱物の硬度を上げる、若しくは体を変化させて生み出す武器の形を自在に変える事もできる筈だ。
大地のその考えが正しいのかどうかはわからなかったが今はその考えに賭けるしかなかった。ここで立ち止まって戦いに参加したところで自分が大して役に立たない事を大地は充分に認識していた。だからそのままガイの元を目指し、止まらずに馬を走らせた。
(今、最も適したデュールの能力?)
シルバーはハッとしたように顔を上げると突然目の前の敵に背を向けて走り出した。しかし向かった先にはまた別の敵がいる。
走るシルバーの前に立ち塞がる敵は、左腕が巨大な鉄球になっていた。重々しい鋼鉄の鎖で繋がれた鉄球を振り回し、シルバーめがけて投げつけてくる。
シルバーは迫る鉄球を左腕で受け流した。腕に嵌めていた手甲は粉々に砕けたが、その下にある自らの体は鋼鉄に変えていた為傷つく事はなかった。
それにしても重い。まともに正面から受けていたら真後ろに吹き飛ばされていただろう。しかし右に避けながら迫る鉄球を後方にやり過ごしたお陰でシルバーの体は右方向に弾かれた。
シルバーの後ろから迫っていた掃除機の足元に仲間の鉄球が落下する。掃除機は砂を巻き上げながら急旋回をするとこれを躱した。
「危ねえな、この野郎!」
「やかましい!そんなところをウロチョロしてるから悪ぃんだ!」
「何を!?そいつは俺様の獲物だ!てめえこそ引っ込んでろ!」
計算通り右方向に飛んだシルバーは、敵が仲間割れを起こしている隙に落下地点から目的の場所まで這うようにして走った。
シルバーの目指す場所には、戦いの中で折れ飛んだ自分の剣が落ちていた。掃除機の化け物に背を向けた時から、そこに自分が捨てた剣が落ちている事は承知の上だった。シルバーは折れた剣の柄を掴むなり砂を巻き上げて立ち上がった。
「お、おい、あいつはどうした!?」
口汚く罵り合っていた二体のエクスヒャニクは、シルバーの姿が見えなくなっている事に気が付き慌てた声を出した。しかし、少し離れたところにこちらを向いて立つシルバーの姿をすぐに見つける事ができた。
掃除機は慌てて軌道修正すると、もう一度シルバーめがけて突っ込んで来た。
(デュール…)
シルバーは折れた剣を顔の前に上げると念じるように呼び掛けた。銀色の長い髪が揺れ、その体が白銀色の光を放ち始める。
(お前に初めて会った時から私の中のお前が手にしていた物は、この私にも扱えるものであろうか?)
前からは敵が速度を上げて真っ直ぐに迫ってくる。しかしシルバーはそれを避ける素振りも見せない。それどころかその場で静かに両目を閉じてしまった。
(デュール…)
(シルバー)
やがてシルバーの頭の中で静かに鋼のANTIQUEであるデュールの声が響き始めた。
(お前の想像通りだシルバー。私はお前の求めるどんな姿にでもなろう)
「死ぃねぇぇぇぇぇぇぇ!」
敵が甲高い声を上げながらシルバーに迫る。その後ろから鉄球の化け物もシルバーに向かって来ていた。
掃除機が今正にシルバーを手に掛けようとしたその瞬間、シルバーは目を見開き、両手に持った折れた剣を横払いに振るった。
シルバーの体を包む銀色の光が一際強くその輝きを増したかと思うと、襲い来る敵の体は上半身と下半身を二つに分けられ宙を舞った。
声もなく、訳の分からない破片を周辺に撒き散らして、掃除機は激しく放電しながらバラバラになって地面に落ちた。
後から迫っていたエクスヒャニクが慌てて足を止める。白銀色の光を身に帯びたまま佇むシルバーの手には、巨大な槌が握られていた。
銀色に光る柄、その先端に重々しくある巨大なハンマーヘッドには斬撃を兼ねた鋭い刃が光っていた。それはデュールが獣の姿となって現れる時にいつも手にしていたあの大槌だった。
シルバーはゆっくりと顔を上げると敵の方を見た。鉄球使いのエクスヒャニクは、一瞬 怯んだような仕草を見せたがすぐに気を取り直し、自慢の大玉を振り回しながら再び足を進めて来た。
それを見たシルバーも静かに大槌を両手で持つと、顔の高さに構え、迫りくる相手に対して走り出した。
互いに徐々に速度を上げていく。それに合わせて双方の口から雄叫び漏れ始めた。
まだシルバーが間合いに入っていないと見定めたエクスヒャニクは重たい鉄球をシルバーめがけて投げつけて来た。避ける間もないスピードで今度こそその軌道は真正面からシルバーを捕らえた。
鉄球がシルバーにぶち当たる感触が手に伝わって来る。勝利を確信した次の瞬間、自慢の鉄球にひびが入り始めた事に気が付いた。驚く間もなく鋼鉄の大玉は粉々に砕け散ってしまった。
舞い上がる破片の向こう側から、まったくスピードを落とさないまま走り来るシルバーの姿が現れた。
迷いなくぐんぐんと近づいて来るシルバーが絶叫と共に両手に握った大槌を右肩に背負うように振り上げる。
「ひっ!」
エクスヒャニクは両手で自分の体を庇うように身を退いた。躊躇する事なく打ち出されたシルバーの新たな武器は、この敵の体も鉄球同様 粉微塵に吹き飛ばした。
一方、鎌に鎖で繋がれた分銅を振り回すガイの周りには六体程の敵が取り巻いていた。 斬撃よりも打撃が効果的である事はわかったものの、こんな小さな分銅一つでは何とも心細かった。
(次に動くのは、こいつだ…)
全方向を敵に囲まれたガイは一発勝負で真横に立つエクスヒャニクに的を絞った。
その予想は当り、右横で身構えていた相手が一歩を踏み出した瞬間、ガイは分銅を放った。重たい分銅が空気を切り裂いて飛び掛かって行く。
次の瞬間、仲間を犠牲にして目の前にいた敵がガイに襲い掛かって来た。分銅は狙いを外す事なく横にいた敵に命中した。
ガイは飛んでいく分銅ごと鎖鎌を手放すと、正面から迫る相手に向かって左手を伸ばした。
上から襲い掛かってきた相手と組合う。仲間がガイの体に取りつき、その自由を奪ったと知った他のエクスヒャニク達も、一斉にガイに突っ込んできた。
「ウナジュウ!」
ガイが一声叫ぶと、掴みかかってきていた敵の体が眩しく発光した。
突然の事に驚いた周りの敵が足を止める。激しい明滅の中で痙攣を起こしたように暴れる機械人間の体がやがて静かになった。
ガイの体から光が消えていくと、雷の能力を全身に浴びた相手は体のあちこちから黒い煙を吐き出しながら地に倒れ、二度と起き上がらなかった。
ガイは自分の左手を見た。咄嗟に得意の雷の力を出したが、まさかここまで効果があるとは思わなかった。
「ガイ―――っ!!」
呆然としていたガイは、自分の名前を呼ばれ我に返る。声の方を見ると大地が馬を駆り、物凄いスピードで自分の方に向かってくるのが見える。
「何だ、ありゃ?」
ガイは周りにまだ敵がいるにも関わらず、思わず呟いたまま大地から目が離せなかった。ガイにとって、戦闘態勢に入った大地を見るのはこれが初めてだったのだ。
炎のように揺らめきながら黄色い光を放つ巨大に膨れた腕に言葉を失くす程 驚いていた。
残ったエクスヒャニク達も一斉に大地の方を見た。大地は走る馬の背から思い切り敵の輪の中に飛び込んで行った。それはシルバーやガイの見事な跳躍とはとても比べ物にならない、無様な飛びようであった。
「げ…!」
驚いたガイは慌てて空を飛ぶ大地に向け手を伸ばしたが、その手をすり抜け大地の体は思い切り地に叩きつけられた。しかしそれは決して事故ではなかった。
大地なりの計算をもってそこに飛び降りたのだ。黄色く輝く巨大な腕が地面を叩いたその瞬間、ガイを取り巻いていた敵達の足元からまるで仕込まれた爆薬が炸裂するように砂の柱が勢いよく立ち上がった。その衝撃に敵は全員後方に吹き飛んだ。
ガイは目を剥いて周囲を見回す。砂塵の薄くなった地面には敵が皆 仰向けに転がっていた。
大地はむっくりと起き上がると、ガイが電撃で倒した敵の体を調べ始めた。その後ろで混乱しているガイが大地に質問する。
「い、今のが土の能力か?」
「そうだよ」
大地は動かない敵の体を検分しながら答えた。
「じゃあ、さっきのこれもお前が?」
「あ?」
さっきのこれ、と言われて何の事かわからなかった大地がガイを見る。ガイが指さす方に目を向けると、二十の敵を一度に倒したドーナツ状の溝が走っていた。
「そうだよ、当たり前じゃん!」
何を今さら、といった具合に大地が少し苛ついた声を出す。
「お前、すげぇな…」
「そんな事よりガイ聞いて!」
それどころではないと言いたげな口調で大地がガイを振り向く。周りでは、大地の能力に吹き飛ばされた連中が漸くギシギシと奇妙な音を立てながら立ち上がり始めていた。やはり致命傷までには至らなかったようだ。
「こいつらはね、機械なんだ!」
「キカイ?」
「そう、このプレアーガには存在しない、未来の化学力で作られた道具達なんだよ!」
「…え、え~っと、よくわからないんだが…」
「あぁ、もぉ!とにかく、こいつらはみんな電気で動いているんだ!」
「デンキ?」
「そこからか!くそっ!いい?こいつらを動かす力はガイの雷の能力と同じなんだ!俺達の体に血が流れているみたいに、こいつらの体には雷が流れていて、それで動いているんだよ」
「え~~~~~~っとぉ…」
「うるさい黙れ!聞け!とにかく、こいつらの体に流れている雷よりももっとでかい雷を落としてやればこいつらは動きを止める!」
「と、言う事はぁ…」
「そう!」
「こいつら俺にピッタシの相手って事?」
「そう言う事だよ!」
「そう言う事か…」
まだポカンとしたような顔で周囲を見回すガイの目にぎこちない動きで迫ってくる敵の姿が映った瞬間、ガイはニヤリと笑みを浮かべた。
「そう言う事かぁ!!」
そう叫ぶなりガイは大地のすぐ後ろに迫っていた敵めがけて左手を突き出した。大地が慌てて頭を抱えてしゃがみ込む。
ガイの指先から放たれた細い稲妻が獲物に襲い掛かる蛇のように敵の体に絡みつく。喰らった相手は体を小刻みに震わせながらすぐ煙を吹き始め、やがてボンっと頭を飛ばして倒れた。
「わぁお」
ブスブスと煙を吐きながら動きを止め地に倒れた敵の姿を見て大地が思わず声を上げる。
「イェイ」
ガイも得意げな顔で言った。その時、大地の頭上で大きな爆発音にも似た音が轟いた。慌てて空を見上げると、何かが物凄いスピードで飛んでいくのが見えた。太陽の光に照らされた銀色の何か…。
そいつは二百m程先に着地すると、大地の方を振り向き笑った、ように見えた。
「あいつは!」
それは、大地が土の足枷をつけて足止めをしていた筈の、昆虫に似た姿をしたエクスヒャニクだった。
どうやら奴はジェットエンジンのような物を体に搭載しているらしい。その勢いで土の足枷を引きちぎったのだ。
長い距離を飛ぶ事はできないのか、そいつは前に向き直ると今度は飛ばずに走り出した。
「まずい…」
敵の走り去る方向を確認した大地は呟いた。そいつが向かっているのは、大地がココロとキイタを逃がした岩場のある方向だった。
あいつは見ていたのだ、大地が二人を馬に乗せて走らせるのを。このままではココロとキイタが襲われてしまう。そう考えた大地は慌てた。
(馬…馬はどこだ?)
ガイの元へ駆けつけた時に勢い余って乗り捨ててしまった馬を探した。見回すと少し先にポツンと立ってている馬が見えた。ホッとした顔で大地は、すぐ馬に向かって駆け出した。
「ガイ!ここを頼む!」
「まかせろぉー」
勝利の法則を手にしたガイは舌なめずりをしながら言った。大地は馬の背に飛び乗るとすぐさま走らせた。遠くに銀色に光る敵の背中が小さく見えている。
走り出す時一瞬ガイの方に目を向けた。大地に背中を見せるガイは周りを敵に囲まれながら高々と左腕を天へと突き上げている。晴れ渡った空に、ガイの頭上にだけムクムクと黒い雲が湧き始めた。どうやら落雷を起こし迫る敵を一網打尽に仕留めようと言う気らしい。
その頼もしい背中を見て安心した大地は再び前を行く敵に目を向けようと顔を巡らせかけた。その時だった、大地の視界に不自然なものが飛び込んできた。
それは走る馬の上で顔を巡らせた時、一瞬目に入ったに過ぎない。しかしまるでスローモーション映像でも見るように嫌にはっきりと大地の目に映った。
それは、自分達の戦いの輪から遠く離れた赤い岩の上に立つ人物の姿だった。身に纏う真っ白い服が日の光を受け輝いて見えた。
しかし距離が遠い上に大きなフードをすっぽりと被ったその人物の表情はまったく読み取れなかった。
(何だあいつは…?)
戦いを目の前にして指一つ動かさず、まるで高見の見物でもしているかのように立ち尽くすその存在がやけに気に掛かった。
(いや、そんな事より今はココロとキイタだ)
大地は自分にそう言い聞かせ気持ちを切り替えると馬の速度を上げていった。耳元で風が鳴り始める。顔はとうに前に向けられていた。そこに敵の背はまだ見えていた。
「あいつらは…」
馬を駆りながら大地は独り言を呟いた。
「アテイルじゃないとしたら、三種の魔族の一つか?」
「違うね」
突然馬を操る大地の左肩に現れたテテメコが答える。
「テテメコ⁉」
大地はテテメコの出現に驚いた声を出した。それに構わずテテメコは話しを続けた。
「魔族達はみんな、どこかこの世界の生物に姿を似せている。本来は体なんか持たない奴らだけど、この世界に憧れ、この世界に住みたいと願ってそんな真似をするようだ」
大地はテテメコの話しを聞きながら黙って前だけを見つめ馬を走らせ続けた。
「あれは恐らく次元を行き来できる魔族の一種があらゆる場所でかき集めたガラクタの寄せ集めだ。それに一時的な命を吹き込んだ傀儡だな」
「傀儡…」
ふざけやがって―――。
大地は思った。道具に命を与えて戦わせるなんて、ふざけるのもいい加減にしやがれってんだ。
大地の胸の中に言いようのない怒りに似た感情がふつふつと湧いてきた。




