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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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イーダスタ国境を目指して

登場人物

ココロ…始まりの存在に選ばれた公国領主の娘。十四歳にして能力者のリーダーとして世界を救う為仲間探しの旅に出た。

吉田大地…土のANTIQUEに選ばれた地球の少年。現在高校二年生の十七歳。

シルバー…鋼のANTIQUEに選ばれた元公国公軍隊士。若くして隊長を務めた二十八歳の実力者。

キイタ…火のANTIQUEに選ばれた王国王女。同じ十三歳の双子の姉イリアを探す事を目的に仲間となる。

ガイ…雷のANTIQUEに選ばれた能力者。二十四歳にして分隊長となった剣と馬の達人。



前回までのあらすじ

大地が馬に慣れていない為なかなか予定通りに進めなかったココロ達ANTIQUEの一行であったが、ガイの適切な指導もあり、何とか日暮れまでに目指すフォルトの町へと辿り着く事ができた。そこで四年振りの入浴を果たしたガイであったが、そのがさつでデリカシーのない言動にキイタ、ココロの怒りを買ってしまう。それでもガイを信じると言い切るココロの態度に、益々ガイは仲間達の中で浮いた存在になっていく自分に戸惑っていた。







 翌朝―――。

 宿を後にしたココロ達五人の能力者達はいつも通りそれぞれの位置についた。大地とガイは馬にまたがりシルバーは荷馬車の御者台ぎょしゃだいに、ココロは荷台に乗った。そしてキイタは今日もシルバーの横に座る。

 歩き出してすぐガイが歩調ほちょうゆるめ馬車の横につく。隣にはキイタがいた。

「あ、あの~、キイタ王女…その、昨夜は、真に…」

 ガイがどもりながらも、キイタにびの言葉を掛けようとした途端とたん、キイタはシルバーのひざの上を越え反対側に回った。

「わ!ちょ…キイタ様!?」

 手綱たづなを取られそうになったシルバーが慌てる。キイタはシルバーの体をたてにするようにしてそのかげから片目だけをのぞかせてガイをにらんだ。

 結局あの後、キイタはココロと入れわりに食堂を出て行ったまま部屋に閉じこもってしまい、食事の席にはつかなかった。今朝もガイと同じ食卓につく事をがんとして拒み、まだ彼とは一言も言葉を交わしていない。

「あ…」

 声を出した後、ガイはため息をついてしょんぼりと項垂うなだれた。

「ちょっと可哀かわいそうな気もするんだけど…」

 同じように馬のスピードを落としキイタの横につけた大地が言うと、キイタは今度は大地をにらみつけた。

「そんな怖い顔しないでよ」

 大地が苦笑しながら言うが、キイタはプイっと顔をそむけてしまった。

「しょうがないよね~、ガイは信じられない位下品なんだもん」

 荷台からニヤニヤしながらココロが言う。

「はうはうはうはう…」

 今にも泣きそうな顔で言葉も出せずにガイがココロを指さしながら大地に何かうったえようとしてくる。その顔を見ても困ったような笑いを返す以外大地には何もできなかった。

「大地、私 誤解ごかいをしていたわ」

 突然キイタが言いだした。

誤解ごかい?」

「ええ、そう。私、ガイが苦手なんかじゃなくて、嫌いなのよ」

 キイタにしては珍しくきっぱりとした口調で言い切った。大地は慌ててガイの顔を見る。ガイはこの世の不幸を全て背負ったような顔のまま固まっていた。

 きっと、頭の中では今のキイタの言葉がリフレインしている事だろう。

 嫌い、嫌い、嫌い、嫌い…みたいな。

 ガイは、信じられない位小さくなって背中を丸めたままトボトボと馬車の前に戻って行った。大地はため息をつきながらシルバーを見る。シルバーも大地を見返していた。

 やれやれ、四人でいる時は何とか仲良くやって来たし、人見知りのキイタも気を許してくれていたと言うのに、こんな事でチームワークが乱れたりしたら今後の戦いに支障を来すんじゃないか?大地はそんな事を心配していた。

「そ、それはともかく、ココロ」

 大地が気分を変えるように言った。

「何?」

「ガイはせっかく風呂に入ったのにあのボロ服じゃ結局 くさいままだからさ、町を出る前に何か着るものを買ってあげようよ」

 そう言われたココロは前を行くガイを見て言った。

「それもそうね。わかった、私が見立ててあげるわ。シルバー、適当てきとうな店で馬車を停めて」

「わかりました」

 こうして一行は、街はずれに建つ一件の仕立屋したてやの前で停まった。恐縮しながらもココロに連れられてガイが店の中に消えていく。キイタも馬車を降りると、一人別の商店の方へと歩いて行った。暇潰ひまつぶししに店をのぞきに行ったようだった。

「参ったね、こりゃ」

 留守番るすばんをする形になった大地が小さな土産物屋みやげものやのぞいて回っているキイタの背中を見ながら同じく残ったシルバーに声を掛けた。

「まあ仕方あるまい。私だって初めはお前を気に入らなかった。その内、時間が解決するだろう」

「俺は未だにシルバーの事なんか嫌いだけどね」

「こいつぅ~、面白い事を言うようになったじゃないか」

 笑いながらシルバーが両手の拳骨げんこつで大地のこめかみをつかむ。その目はまったく笑っていなかった。

「痛い、痛い」

 大地が悲鳴を上げる。

 三者三様に過ごしていると、やがて店の中からココロとガイが出て来た。

「おお」

 大地がガイを見て声を上げる。新しい服を身に着けたガイは見違みちがえる程凛々しくなっていた。

 冬の到来とうらいを意識してか、厚手の服に厚手の手袋、首元をおお襟巻えりまきを着けている。ただでさえ体の大きいガイが更にたくましく見えた。

「かっこいいじゃん!」

「そ、そうか?」

「うむ、見直したぞ」

 シルバーも素直にめた。ガイが照れたように頭をく。

「キイタ行くよー」

 土産物屋みやげものやから出て来たキイタを見つけたココロが大声で呼ぶ。その声にキイタは顔を上げた。

 キイタは黙って戻ってくると、ガイの前を通り過ぎ馬車に向かった。

「あ、キイタ様…」

 御者台ぎょしゃだいに上がろうとするキイタに手を貸そうとガイが左手を差し出すと、キイタは汚いものでも見るようにまゆひそめ、わずかに身を引いてその手をかわすと、自力で御者台ぎょしゃだいへとよじ登った。

 大地、ココロ、シルバーがそっと目を見交す。これは相当そうとう根が深い。

「何もあんな、ばい菌を見るような目で見なくてもいいのに」

 馬止めから手綱たづなを外しながらガイが泣き言を言う。その横で同じく馬の準備をしていた大地がはげます。

「めげない、めげない。俺はガイの事好きだぜ?」

 大地がそう言うと、ガイはじっと大地の顔を見た。大地は無邪気むじゃきにも見える笑顔で見返す。

「う、うれしくねーよ」

 ガイはそう言い返すと、馬を連れて馬車の方に戻って行った。

「さて、この後の行程こうていだが」

 ガイと大地が戻ってくるとシルバーが全員の顔を見回しながら言った。

「ここはテリアンドス帝国、イーダスタ共和国、ジルタラス共和国の三国が境界を成す付近だ」

 馬にまたがったガイが説明を始める。

「俺達は、この三国のふちをなぞるように進んで来た。この先は東に向かいテリアンドスの中央部を突っ切って行くか、北東に進路を取ってイーダスタに入るか、後は北西方向へ向かいジルタラスを目指すかの三択さんたくだ」

 ガイの話を聞いたシルバーがココロの顔を見る。それに気づいたココロが言う。

「六人目の能力者から返答はないわ。多分、このテリアンドスにはこれ以上能力者はいない、って事だと思う」

「東へ突っ切ればクナスジアには近づくが、そうするとテリアンドスを抜け出るのに相当日数が掛かる。能力者を求めて別の国へ急いだ方がいいのなら、目指すは断然だんぜんイーダスタでしょう」

 ガイの言葉にココロとシルバーがうなずく。

「ジルタラスはダメなの?」

 未だにプレアーガの地理が頭の中でうまくぞうを結ばない大地がたずねる。

「北西のジルタラスに向かうとなれば、雰囲気的には少し戻る感じになる」

 シルバーが大地の顔を見て答えた。

「もちろん、ジルタラスに仲間がいる可能性もあるが、取りえずの目的地をクナスジアと定めた以上このまま東へ進む方がいい」

「なるほど」

「それに」

 ガイがシルバーの説明に更に言葉を乗せる。

「ジルタラスは急峻きゅうしゅんな岩山と低木が広がる荒涼とした国だ。小さな村が点在しているが、あまり人は多くない」

「じゃあ、決まりだね」

 大地がそう言うのを合図としたかのように、一行は豊かな森と雄大な川の流れる国、イーダスタ共和国を目指すべくまずは進路を北に取って進みだした。



 それから数時間。五人は黙々と馬を進めて行った。見事な紅葉を見せる森を通り、美しい街並みを抜けてしばらく行くと、ガイの言った通りイーダスタ共和国との国境付近は見るべきものもない平野が続く単調な景色に変わった。

 やや高台になった場所でガイは馬を停める。大地も歩調ほちょうゆるめその横に付いた。そこから見える景色は、砂漠と言う程ではないがやわららかい砂地がただただ広大に続く平らな地面だった。

 馬を停めたガイは遠くを指さし大地に向かって言った。

「見えるか?」

 ガイの指さす方向を見ると、はるか遠くにこんもりとしげった森が見える。

「あの森はすでにイーダスタの領内りょうないだ。かたい地面ではないので馬の速度は上げられない。それでもまあ、二時間も歩けば自然にイーダスタに入る」

 ガイの説明に大地がうなずく。

「よし、じゃあ行こう」

 そう言うとガイは、一度馬の顔を横に向ける。下の砂地へ降りる道へ向かったようだった。大地もそれにならって馬を進め、その後からシルバーのあやつる馬車が続く。

 その時だった、ココロが急に大きな声を出した。

「待って!」

 その声にガイ、大地、シルバーが慌てて馬を停め、ココロの顔を見る。ココロは荷馬車の上に立ち上がるようにして一点に目を向けている。

 その目の先を見ると、さっきガイが指さしたイーダスタの森が見える。

「ココロ様?何か?」

 シルバーがそう問いかけてもココロは答えず、じっとイーダスタの森を見つめている。

 しばらく黙ってココロは立ちくし、他の者もそれ以上声を掛けずにココロを見つめていた。

「ごめん」

 やがてココロはそう言うと、ストンと腰を下ろした。

「一体何だったの?」

 大地が聞く。

「うん…何だろう?何かを感じたような気がしたんだけど」

「もしかして、新しい仲間?」

 キイタが御者台ぎょしゃだいから身を乗り出すようにして言った。

「それとも、敵?」

 シルバーが不吉な事を口にする。しかしココロは首を横に振ってそれに答えた。

「わからない、単に気のせいかもしれない。今は何も感じないの。ごめんなさい、進んで」

 そう言われ、ガイは再び馬を歩かせた。大地もそれに続き、ココロを気にしながらシルバーも馬車を動かし始めた。

 やがて五人は高台となった岩場から天然のスロープを下って砂地の平野へ降り立った。

 広く、白い砂の地面の所々に、今彼らが立っていたような赤い岩場が点在している。地面は見た目以上にやわらかい。馬はまだしも、馬車をあやつるシルバーは度々荷馬車の車輪を取られ、苦労している様子ようすであった。

 これは、想像以上に時間が掛かるかもしれないな、と大地は思った。目指すイーダスタの森は正面に見えているにも関わらず一向に近づく気配がない。ガイも馬は得意かもしれないが、荷馬車でここを通った経験はないはずだ。見込みが甘かったかもしれない。

 それでも砂浜のように完全に砂地な訳ではない。今のとろこは何とか前に進んでいる。時間は掛かるかもしれないがこのまま進んでいけば今日中にはテリアンドスを脱出できるものと思われた。

 その時突然ココロの悲鳴が響き渡った。大地とガイが何事かと馬を反転させた。見れば、三人の乗る荷馬車が右にかたむいている。どうやら右の前輪が破損はそんしたらしい。

 しかしシルバーの様子ようすがおかしい。彼は剣を手に取ると、慌てた様子ようす御者台ぎょしゃだいから飛び降りようとしている。

 そんなシルバーの姿に、このトラブルの理由が、車輪が砂にまったとか岩に乗り上げた事ではないと大地にもわかった。

「敵だ!!」

 シルバーが叫ぶ。次の瞬間、荷馬車の下から何かが飛び出て来た。そいつは地面の下にひそみ、上を馬車が通るなり砂の中から攻撃を仕掛けて来たらしい。

 シルバーの動きを見ていた大地とガイの後方から叫び声が上がる。振り向けば地面の中から次々と正体不明の何かが奇声きせいを発しながらい出してくる。大地の目にはそれが昔観たゾンビ映画のワンシーンのように映った。

「大地!ココロ様とキイタ様を!」

 ガイはすぐに剣を抜き放ちそう叫ぶと、馬を敵に向けて走り出した。

 大地は荷馬車に向け馬を走らせる。ココロが自分の荷物の中から剣を取り出しているのが見える。その向こうではシルバーが馬車を襲った敵と対峙たいじしている。

 シルバーの相手は一匹だけだが、ガイが向かった方向には少なくとも十匹の敵がいた。大地は瞬時に考え、行動した。

「ココロ!」

 大地は叫ぶと馬を飛び降りた。大地の乗るアスビティの馬はココロでも十分に乗りこなせる大きさだ。

「キイタと一緒に早く!あの岩場にかくれて!」

「わかった!」

 ココロは剣を持ったまま大地から渡された馬に飛び乗った。大地はすぐに馬車から降りたキイタの元へ向かう。その手を取るとココロの元へ連れていき、馬に押し上げた。

 地面がやわらかく走りにくい。ここで土の能力を発揮する事はできるのだろうか?わからなかったが、ココロとキイタを馬に乗せ走らせると、大地はすぐにシルバーの戦っている方へ向かった。その腕は、戦闘の準備を終えすでに薄黄色く光を放ち始めていた。



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