深夜の帰国
登場人物
アリオス…かつてガイの下で副分隊長を務めていた男。ガイとは対照的に冷静な判断力で第四分隊の猛者達を指揮してきた知将。
パッキオ…巨漢、禿頭の隊士。アリオスが最も信頼する冷静沈着な隊士。
ハリス…第四分隊最年少の隊士。薬草に詳しく、医療を得意とする。
コスナー…山岳育ちの中堅隊士。若手からの信頼が厚い兄貴分。
エミオン…明るく気の好い隊士。火薬、火の取り扱いに長けている。
マルコ…ハリスに次いで若い隊士。アリオスに憧れている。
ユーリ…コスナーと同郷。理解力に少々難あり。
ブルー…元アスビティ公国特別行動騎馬隊でシルバーの部下だった男。現在はシルバーの推薦で第二境界警備小宮警備隊に属している。ANTIQUEや魔族の存在を知る数少ない人間の一人。
前回までのあらすじ
慣れぬ山道に思い通り進む事のできないココロ達ANTIQUE一行は、旅に出て以来初めての野宿をする事になった。どう見ても戦い慣れているとは思えない大地や事あるごとに弱気な発言を繰り返すキイタの姿に、ガイは旅の行く先に強い不安を抱く。
一方、国王不在のンダライ王国を守る代行執政官ポルト・ガスは、アリオス達第四分隊の面々に、国王崩御からンダライの塔での戦いに至る数年間のあらましを話して聞かせた。王国を滅亡寸前にまで追い詰めた張本人であるガスにとってそれは血を吐くよりも苦しい告白であった。その苦しみを押して全てを話してくれたガスに感謝と共闘の誓いを立てたアリオス達一行は、祖国の危機を知り一刻も早く帰国を果たそうとンダライを後にする。
「止まれ」
先頭に立って山道を進んでいたアリオスが、突然片手を上げ、後ろに続く仲間達に合図を送った。細い道を一列に並んでいた男達は何事かと慌てて馬を止めた。
「アリオス、どうしたの?」
すぐ後ろにいたマルコがアリオスの背中に声を掛ける。
「何かある」
振り向かず前方を見つめたままアリオスがそう言った途端、マルコとその後ろにいたハリスが素早い動きで馬から降り立ち、アリオスの馬を追い越して駆け足で前へ進み出た。
最後尾についていたパッキオとコスナーがすぐに馬を反転させ、後方に注意を払う。中央のエミオンとユーリも、いつでも剣が抜ける状態を作って周囲に目を走らせた。
暗くなり始めた山道ではそれが何であるのかすぐにはわからなかった。しかし、確かにそこには何かが細い一本道を塞ぐように地に横たわっていた。
その謎の物体の正体を探ろうとするマルコとハリスも、腰の剣に手をあて慎重に近づいて行く。若い二人の背中をアリオスは馬上からじっと見つめていた。
「うぉ!」
「これは…」
やがて道の先で二人のそんな声が聞こえたかと思うと、ハリスが一人急ぎ足でアリオスのところまで戻って来た。
「アリオス、馬だ。死んでる」
「馬の死体か…」
ハリスの報告を聞いたアリオスは軽く息を吐き出してから呟いた。
「それが…」
ハリスが言い辛そうに続ける。
「ん?どうした?」
アリオスが馬の上からハリスを見下ろしながら訊き返すと、ハリスは怪訝そうな顔をして言った。
「何だか妙なんだ…。ちょっと、見てくれないか?」
冗談を言っているとも思えない彼の表情にアリオスは何も言わずに馬から降りると、ハリスを先に立てて歩きだした。
若い二人に続き、今やリーダーとなっているアリオスまでもが馬から降りたのを見たユーリとエミオンは、思わず後ろにいるコスナーとパッキオの方を振り返った。年上の二人も何事かと言う顔で二人を見返している。
結局残りの四人も全員馬から降り、暗くなり始めた山道を前に歩き出した。アリオスが馬の死体の傍に身を屈めてしきりに何かを見ている。
「どうした、アリオス?」
パッキオが前を行く仲間を押し除けるようにしてアリオスに声を掛ける。
「この死んだ馬、首がない…」
「え!?」
思わず声を上げたのはエミオンだった。パッキオはアリオスの隣にしゃがみ、同じように馬の首の付近をよく見ようと顔を近づけた。
「凄まじい切れ味だ…」
「しかし、刃物の傷とも違う」
アリオスの答えに、パッキオは一度深く頷いてから続けた。
「熊か?」
「いや、この山にこんな芸当ができる程大きな熊がいるなんて話し、聞いた事がない。それに見ろ」
そう言ってアリオスは馬の胴体を指さす。つられるように全員がアリオスの指さす方を見る。
「体の方もかなり食い荒らされているがすべて小動物の歯形だ。こいつは首だけを引きちぎって姿を消している…」
「一体…」
パッキオは訳がわからない、と言った表情で再び馬の首の傷口を見た。傷口もさる事ながら、そもそも引きちぎられた馬の頭部は一体どこへ行ったのか…?
アリオスが立ち上がり馬の周りを調べるように歩き出した。アリオスがいなくなったところで、他の者もおっかなびっくり馬の死体を覗き込んだ。
そんな仲間達に背を向け一人地面に目を向けながら歩き回るアリオスに気が付いたコスナーが声を掛けた。
「アリオス?」
アリオスは地面から目を離さないまま独り言のように呟いた。
「ここで、戦闘があった」
「え?」
馬の周りに集まっていた者達も一斉に顔を上げる。
「こりゃあ、ンダライの執政官が言っていた魔族って奴の仕業か?」
パッキオが呟くと、皆 一斉に剣を抜き周囲を見回した。
「慌てるな」
そんな仲間達を窘めるようにアリオスが言う。相変わらず地面を方々見ながら更に続ける。
「その馬の死体を見る限り最低でも死んでから二日は経っている。最早近くに敵はいないだろう」
アリオスのそんな言葉に、皆 戸惑いながらも剣を鞘に戻した。
「アリオス…」
近くでアリオスについて回っていたコスナーがもう一度声を掛ける。
「何度も剣を地面に突き立てている」
答える代わりに呟いたアリオスの言葉にコスナーも地面を見る。
「転がって躱している…」
更に身を屈めるようにしてアリオスは地面に残る戦闘の跡を追って動いた。
「大勢ではないな…。恐らくは、一騎打ち…」
崖の淵まで来たところで漸く地面に変化を見つけた。乱れてはいたが深く体重の乗った足跡とわかった。
「立ったな…」
そう言うアリオスとコスナーは同時に地面から顔を上げた。目の前は切り立った崖だ。アリオスがその先を覗き込む。彼は崖下を指さすとコスナーに言った。
「見えるか?」
問われたコスナーも同じように身を乗り出して下を覗き込んだ。
「あの辺り、不自然に枝が折れている…。落ちたんだ」
「アリオス、あれ!」
突然コスナーが鋭い声を出し、目線より上の方向を指さした。コスナーの指し示す先を見たアリオスは、そこに茂る木の葉に茶色い染みがついているのを見た。
「コスナー、手を貸せ」
そう言うとアリオスは、コスナーの手を握り、体をいっぱいに伸ばして崖の先にあるその葉を数枚ちぎった。アリオスの手に握られた葉を、二人はしげしげと見つめた。
「血だな…」
「ここで切られ、下に落ちた…」
アリオスに続いてコスナーも呟く。と、突然アリオスは手に持った葉を投げ捨てるとコスナーの顔を見て言った。
「降りられるか?」
「ロープは持ってきている」
コスナーがすぐに答える。
「よし、行け」
「ユーリ!」
言われたコスナーはすぐに自分の馬の元へ戻ると、その背に括りつけられていたロープの束を取りながらユーリの名を呼んだ。
「準備しろ、降りるぞ!」
名指しされたユーリは目を剝いた。
「お、降りるって、ここから?」
「ああ、そうだ。山岳生まれの力を見せてやろうぜ」
「俺はコスナー程ガチじゃねえし…」
「だが俺より若さがある。ぐずぐず言ってないで支度をしろ!パッキオ!ロープを頼む!」
言いながらコスナーは素早く自分の腰にロープを巻き付け、反対の端を手頃な木に縛りつけた。
「まかせろ」
言いながらパッキオが近づく。ユーリはまだぶつぶつと不平を零しながらもコスナーに倣って手早く準備を進めていた。
しっかりと根付いた木とパッキオの太い腕に支えられたコスナーとユーリが降下の態勢に入る。そんな二人に崖の上からアリオスが声をかけた。
「何でもいい、見つけたらすぐに声を掛けろ。完全に暗くなる前に上がって来い、いいな」
「了解!」
そう言うと、山国育ちの二人は事も無げに垂直に近い崖をするすると降り始めた。
「明かりの準備をするか…」
そう言って動き出したのはエミオンだった。彼は自分の馬に戻ると三つのカンテラを持ち出し、いつでも明かりを灯せるように準備を始めた。
一番若いハリスは無言のままやはり馬の傍へ行き、自分の荷物の中から最低限の治療道具を用意する。
それぞれが特別な指示を受ける事なく、段取りよく流れるように役割を果たしていく。これがシルバーに誰よりも信頼された当時の特別行動騎馬隊第四分隊の特色であった。
崖の上に残った面々は言葉もなく降りて行った二人からの合図を待った。時折木々を鳴らして吹く風は秋の色を濃くし、肌寒さを感じさせた。
「コスナー!」
突然 崖の下からユーリの叫びが聞こえた。その途端、コスナーにつながれたロープが左から右へ大きく移動を始めた。
「何か見つけたな、準備しろ!」
パッキオが言うとマルコとハリスが急いでその後ろにつき、いつでもロープを引き上げられるように態勢を整えた。
エミオンは既に明かりをつけはじめ、今、最後のカンテラに火を入れたところだった。その最後の一つを手に持つと、崖の下を見つめたまま動かないアリオスの傍に立ってカンテラを頭上に掲げた。
降りて行ったコスナーとユーリの姿は見えない。しかし二人が下で何かの作業に没頭しているらしい事はロープの動きでわかった。
「上げてくれ!」
やがて崖の底からユーリの声が響いた。パッキオ、マルコ、ハリスの三人はコスナーを支えるロープから手を放し、ユーリにつながるロープを引き始めた。
「ゆっくりだ!」
怪力のパッキオがいるせいか特に苦労もしなかったが、ロープの先はユーリ一人とはとても思えない重さがあった。
下を覗き込むアリオスとエミオンの目に、ゆっくりと上昇してくるユーリの頭が見え始めた。何か大きなものを抱えている。一本のロープを軸に時々体が回転しそうになるのをユーリが必死に抑え込もうとしているのがわかった。
「手を貸せ」
アリオスが短く命じると、持っていたカンテラを無言でアリオスに渡したエミオンがすぐ足元まで上がってきたユーリの元へ駆けつける。
「マルコ、行け」
パッキオが言うと、ロープを引っ張っていたマルコもエミオンと同じようにユーリの所へと走った。
下から押し上げるユーリに上から引き上げようとするエミオンとマルコ。何か相当重たいものを釣り上げたようだ。
苦労する三人を見かねたようにアリオスも走りよると、カンテラを足元に置き、マルコ達が引き上げようとしているものに手を伸ばした。
それは人間だった。顔は土で汚れ、その人相を見極める事はできなかったが、若い男である事はわかった。
その男を完全に引き上げるとロープが軽くなった。そう感じた瞬間ハリスはロープをパッキオ一人に任せ、傍に置いた袋を持って地面に横たわったまま動かない男の元へと走った。
すぐに男の首に手をあて脈を計る。胸の動きに注意し、呼吸の有無を調べる。そうしている内にマルコは這い上がろうとしているユーリに手を貸し、それを確認したエミオンはコスナーを支えるロープをパッキオと二人で引き始めた。
「死んでいるか?」
アリオスがハリスに訊ねる。
「いや、息はある」
そう答えたハリスは素早く男の体を見回す。体を包むフード付きのマント。その左の鎖骨付近に刃物で切られたような傷が見える。ハリスは腰に付けた短刀を抜くと、躊躇なく男のマントを切り裂いた。
「あ!」
「これは!」
マントを切り裂いたハリスと傍で見守っていたアリオスが同時に驚きの声を上げる。漸く上がって来たコスナーや、それに手を貸していたユーリとエミオン、ロープを引いていたパッキオとマルコもそんな二人の声に何事かと顔を向けた。
二人が驚きの声を上げたのは切り裂いたマントの下から現れた正体不明の男が身に着けた服を見たからであった。
それは軍服であった。しかも、その胸についているのは三日月と二色に塗られた五芒星の文様。間違いようもない、懐かしいアスビティ公国の国章、ヘルブストレリャであった。
「アスビティの隊士だったのか…」
ハリスが呆然としたような声を出す。
「ハリス急げ!」
アリオスの声に我に返ったハリスは傷口の様子を確認する為、慌ててその軍服の合わせに手を掛けた。その下に着ていた肌着はマント同様、短剣で腹の辺りから切り裂いた。
左の胸から肩口に抜ける一本の傷が露になる。ハリスはその傷口に目を近づけた。
「明かりを」
ハリスに言われるまでもなく両手にカンテラを持って待機していたエミオンがすぐに近づいて傷口付近を照らす。
「どうだ?」
アリオスが訪ねる。
「下から切り上げられている」
「それであんな高い場所に血が飛んでいたのか」
ハリスの答えを聞いたコスナーが思い出したように呟く。
「でも切っ先が掠めた程度だな、そんなに深くはない。血ももう止まっている。木の枝がクッションになったんだろう、骨が折れている様子もない。運のいい男だよ」
いっぱしの医者のような口を利きながらハリスはごそごそと荷物の中を掻き回すと、ペースト状に煮詰めた薬草と布を取り出した。
「どんな状況だった?」
アリオスがにユーリの方へ顔を向けて訊く。
「ここからは見えないけど、下の方に出っ張った岩があるんだ。そこに引っかかってた。そこに落ちた、と言うよりは、もっと下まで落ちてそこまで這い上がって来たんだと思う。多分、そこで力尽きて意識を失ったんだね」
「天井桟敷みたいになっていたから、そこで体をロープで結わえて引き上げてもらった」
ユーリの報告にコスナーが補足する。二人の話を聞いたアリオスは納得したように何度も小さく頷きながら、目覚めない男の顔を見つめた。
ハリス特製の万能湿布、と言うより、この他に薬と呼べるようなものを持っていなかったのだが、それを貼る為にハリスがもう一度傷口に手を触れようとしたその瞬間、怪我人の左手がいきなりハリスの手を掴んだ。
「わぁあ!」
意識がないと思っていた男の手が突然動いた事に、腕を掴まれたハリスではなく近くで見ていたエミオンが驚きの声を上げた。思わず仰け反り、尻もちをついたエミオンだったが、両手のカンテラだけは離さなかった。
腕をとられたハリスは、揺れるカンテラの灯りの中、冷静に男の様子を見る。泥だらけの顔に薄く開けた目が光って見えた。
「気が付いたか?」
アリオスが身を乗り出す。
「おい聞こえるか!私はアスビティ公国特別行動騎馬隊第四分隊副分隊長のアリオスだ!」
怪我人に通じるようにゆっくりと、大きな声でアリオスが自己紹介をする。正式には既に副隊長でも軍人でもなかったのだが。
「…騎馬、隊…」
重傷を負った男が聞き取れない程小さな、掠れた声を出す。近くに立っていたマルコがすぐに革製の水筒を持って男の顔の近くにしゃがんだ。水筒の吸い口を怪我人の顔に近づける。
「ゆっくり」
「わかってる」
ハリスの注意に答えながらマルコは慎重に男の口に水筒の中の水を注ぎ込んだ。かなり少量ずつ垂らしたつもりだったが、口に水が入った途端、怪我人は激しくむせ返り、その振動でぶり返した痛みに顔をしかめた。
「所属と名前を言えるか?」
痛みが治まった様子を見計らい、アリオスが続けて訊ねる。ハリスはマルコから受け取った水筒の水で傷口を洗い始めた。
「…」
男は口を僅かに動かしながら何かを話そうとしている。その様子を見たアリオスはマルコを押し除けると相手の口元に耳を近づけた。
「…ア、アスビティ、公…国…だ、第二境界、警備、小宮…付、警備隊、第…六分隊…ブルー…」
「警備隊の、ブルーだな?」
アリオスが辛うじて聞き取れた言葉を繰り返す。男はアローガに化けたアテイルに襲われ、その消息を絶っていたブルーであった。
「ブルーだと!?」
パッキオが珍しく上げた大声にアリオスが振り向く。
「パッキオ、知っているのか?」
「直接関わりはないが…」
そう言いながら今度はパッキオが男に近づき、声をかけた。
「おい貴様!貴様は以前、特別行動騎馬隊に所属していたブルーか?」
そう訊ねるとブルーは苦し気な顔のまま微かに頷く仕草を見せた。
「覚えているか?俺はパッキオだ」
「…パッ、キオ…」
ブルーは薄目を開けてパッキオの顔を見ようとしたが、上げかけた頭を再びがっくりと地に落とした。
「動かない方がいい」
ハリスが静かな声で忠告する。
「て…、がみ…」
「何、手紙?」
ブルーの声を聞き取ったアリオスとハリスが目を合わせる。ブルーに目を戻すと、力の入らない右手を動かし、しきりに何かを訴えようとしている。
それを見たハリスがブルーの胸元を探ると、そこに一通の封書を見つけた。服の中からそれを引っ張り出しアリオスに渡す。
受け取ったアリオスはブルーから身を退き、その封書の表書きと裏の封蝋印を確かめた。気を利かしたユーリがすぐに一つ残っていたカンテラを持って近づく。
アリオスは自分の胸にしまってあった手紙を取り出し、ブルーの持っていた手紙と見比べる。
「これは…」
アリオスがそう言ったきり絶句する。パッキオとコスナーもアリオスの手元を覗き込んできた。
「ココロ姫の書状だ」
「え!」
「何だって?」
「姫の!?」
思いがけず出たココロの名に、周りの者達が口々に驚きの声を上げる。
「しかも侯爵様へ宛てたものだ」
アリオスは、再びブルーに近づくと、大きな声で言った。
「貴様なぜこんなものを持っている?一体何があった?」
「姫…ココロ姫…、シルバー、隊長…」
ココロに続いてシルバーの名前まで飛び出した事で、アリオス達は更に驚きお互いに顔を見合わせた。周りの者の反応を見る余裕もなく、苦しい息の中でブルーが続ける。
「お二人…危険が、迫って…いる…」
「どんな事情かわからんが、ココロ様とシルバー隊長なら今朝まで我らと共にいた。お二人ともご無事だ、安心せよ」
アリオスにそう聞かされたブルーは、一度目を大きく見開くと、気が抜けたように脱力した。しかし、すぐに再び力を振り絞り顔を上げた。すかさずマルコがその首を支え、一口水を飲ませる。
「そ、その書状を…侯爵様、に…」
「ブルー、我々も同じだ。ココロ様からお父上である侯爵様へお渡しする書状を預かっている。貴様の手紙も共に届けよう」
たどたどしく話すブルーを安心させようとアリオスが申し出たが、ブルーは首を横に振った。
「急ぐのだ…!私の、私自身の手で、直接 侯爵様へ、渡せと…姫の、ご命、令…」
「ご命令と言っても…」
そう言いながらアリオスは戸惑ったようにハリスの顔を見る。
「動かさない方がいい。だけど骨折はないようだし、できればいち早く医者に診せて傷口を縫合した方がもっといいと思う」
ハリスが真剣な顔でアリオスに答える。それを聞いたアリオスは一瞬考え、すぐに決断した。
「パッキオ」
「おぅ」
立ち上がったアリオスに名を呼ばれたパッキオがすぐに応える。
「お前がブルーを連れていけ。みんないいか、少々きついがこのまま休まず、中央を目指す!」




