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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
42/440

ンダライ城にて

登場人物

・アリオス…元アスビティ公国特別行動騎馬隊第四分隊副隊長。冷静な判断力で生き残った仲間達を率いる。ココロとキイタに忠誠を誓う。現在四年振りの帰国を果たす為祖国アスビティ公国を目指している。

・パッキオ…アリオスの部下。体が大きく怪力の持ち主。言葉数は少ないが、アリオスに劣らぬ冷静な思考の持ち主。

・ハリス…アリオスの部下。第四分隊の生き残りの中では最年少の元隊士。四年前の戦いで兄であるデスターを亡くしている。

・コスナー…アリオスの部下。中堅どころとして隊を纏める。若手からの信頼は厚く、心強い兄貴分。

・エミオン…アリオスの部下。やや臆病な元隊士。明るく心根の優しい青年。祖国に残した妹を常に気に掛けている。

・マルコ…アリオスの部下。ハリスと同じく幼年部隊から戦場へと駆り出された若者。ハリスと行動を共にする事が多い。

・ユーリ…アリオスの部下。お調子者で天然なところがある為いつも仲間からからかわれている。


ポルト・ガス…キイタ不在のンダライを支える代行執政官。亡き国王から最も信頼されていた腹心の部下であったが、アテイル四天王の一人メロの策略に嵌まり国を滅亡寸前にまで追い込んでしまった張本人。



前回までのあらすじ

ココロとキイタの計らいにより四年振りに祖国アスビティに帰る事となったアリオス達七人の山賊達。彼らの旅立つのを見送った能力者達はいよいよテリアンドスを出発する事になった。大地の提案によりフォルトの町を目指す事を決めた彼らは、ガイを案内に立て、山越えのルートを進み始めた。

一方旅立っていく能力者達を物陰から見つめていたアテイル一族のダキルダは、四天王の一人、ゴムンガの元へと行き能力者達の動向を伝える。人間離れした巨体と、その姿に似合わぬ冷静かつ正確なゴムンガの戦闘論を聞かされたダキルダは、ゴムンガと言う男に得も言われぬ恐怖を覚えた。そこでダキルダがゴムンガに見せられたのは、遠くザシラルにいるもう一人の四天王、ズワルドから送られた兵隊、機械人形の集団であるエクスヒャニクであった。その異様な姿に愕然と言葉を失うダキルダ。しかし、その機械でできたエクスヒャニク達の中に、ただ一人生身の体を持つクロムと言う人物を見つけたダキルダは強く興味を惹かれ声を掛けた。無表情な銀色の仮面をつけたクロムは記憶がなく、戦う理由もないままズワルドに命じられジルタラスまでやって来たと言う。








「執政官!」

 そんな声と共にンダライ王国城内、その行政ぎょうせいエリアにある会議室の扉が大きく開かれた。そこには国王不在中のンダライを任されたポルト・ガスを中心に、大臣達が今後の復興計画ふっこうけいかくについて話し合いの真っ最中であった。

「何だ、騒々しい!会議中だぞ!」

 飛び込んで来た衛兵に向かい、末席の大臣がしかりつけた。

「申し訳ございません、緊急のご報告を…」

「申せ」

 長いテーブルの一番奥に座るポルト・ガスが息を切らせる衛兵に命じた。

「はっ」

 衛兵は一度軽く頭を下げると報告を始めた。

「たった今 門兵もんぺいから伝達がありましたところ、城の前に馬に乗った怪しい風体ふうていの男数名が参り、執政官への謁見えっけんを要求しているとの事」

 それを聞いた大臣達は一様いちようしぶい表情を作った。

大方おおかた職にあぶれた連中がまたぞろ文句を言いに来たのであろう。ガス殿、いちいち相手にしていたらキリがありませんぞ」

 一人の大臣がガスへ注進ちゅうしんする。

「その通り、今正にその対策を検討中だと言うのに、まったく…」

 更に一人の大臣が便乗びんじょうするように同意を表した。

「いや、今こそ国民の信頼を取り戻す事に最も力を注ぐべき時。許される限り、国民との時間は取りたい」

 ガスが発言した二人の大臣の顔を交互に見ながら言う。

「しかし、執政官が暴政ぼうせいいた本当の理由を知らぬ国民達の中には、あなたを相当恨んでいる者もいるはず。不用意な行動は危険をともないます」

 更に他の大臣が言うと、その場の全員が「そうだ、そうだ」と言う風にうなずき合った。

「しかし…」

「誰か詳しい要件を聞いておけ。追って執政官自ら書状にて回答すると申し伝えよ」

 ガスの言葉も聞かず、大臣の一人が衛兵に命令口調めいれいくちょうで言った。

「それが…」

 意外にも衛兵は引き下がらず、手に持った封書を前に差し出しながら言った。

「その者達が、これを…」

「何だ?それは」

 大臣達だけでなく、ポルト・ガスも怪訝けげんな顔をして聞き返す。

「そ、その、これは…我が国第二王女キイタ様の、公式書状であります…」

「何ぃ!?」

 衛兵の言葉を聞いた瞬間、そう叫びながら会議の席についていたほとんどの者が立ち上がった。

「キイタ様の、書状?」

 ポルト・ガスも同じく立ち上がり、呆然とした声で言った。

「なぜそれを先に言わん!」

 次の瞬間そう言いながら席を離れたガスは、ほとんど走るような勢いで衛兵に近づくと、その手から手紙をうばいい取るようにしてその封蝋印ふうろういんを確かめた。

「間違いない、キイタ様からの書状だ。私宛となっている…」

 ガスがつぶやくと周りでのぞき込むようにして集まっていた大臣達の口から小さなどよめきが起きた。

「おい貴様、これを持っていたのはどのような者なのだ!」

 大臣の一人がみつくような勢いで衛兵に聞くと、その迫力に押されながらも衛兵は必死に答えた。

「は、はぁ、その男達は人数は七人ばかり。皆薄汚れ、とても真面まともやからとは思えません。その中の一人がこの書状を差し出し、自分はアスビティ公国特別行動騎馬隊第四分隊の隊士であると、そう名乗りました」

「アスビティだと…?」

「一体なぜそんな怪しい連中がキイタ様の書状を?」

「ええい、そんな事より中身だ。何が書いてあるのだ!」

「おお、そうだ。それこそが肝心かんじん

 周りの大臣達が口々に勝手な事を言い合う中で、まだ呆然自失の表情で手紙を見つめていたポルト・ガスは、表情を引き締めると、意を決したように封蝋印を指先で一気に破り取った。


随分ずいぶん待たせるな」

 ンダライ城の門前もんまえで馬に乗ったままぼやいたのはガイの部下、国境の山賊の一人コスナーだ。

 ガイと別れた七人の山賊達は、祖国アスビティを目指し旅立った。その途中キイタから預かった手紙を代行執政官であるポルト・ガスに渡すべくンダライ城へと立ち寄ったのだった。

「まあそうあせるなコスナー」

 門兵もんぺいに手紙を渡す為 下馬げばしていたアリオスがンダライ城を見上げたまま言った。

「そうだ、慌てずともアスビティは逃げはせん」

 禿げ頭のパッキオも言う。

「今まで俺達は四年もの間待ったのではないか。ここで後数時間待ったとしても、どれ程のものか」

 アリオスが優しい声で言う言葉に、ぼやいたコスナーのみならず他の山賊達も納得し黙った。

「なぁ、アリオス」

 暇潰ひまつぶしのつもりか、マルコがアリオスに声を掛ける。

「ん?」

 アリオスが馬上のマルコを振り返る。

「あんたは国に帰ったらどうする?やっぱり、隊に戻るのか?」

「そうだな…」

 アリオスは再びンダライ城の城門に目を向けながら答えた。相変わらず門兵もんぺいが訝し気にこちらを見ているのが目に入る。

「先の事はどうなるかわからんが…取り敢えずしばらくはゆっくりとしたいものだ。そうだ、まずは落ち着いて嫁さんでも探すかな?」

 アリオスの答えに一同は笑い声を上げ、冷やかした。その下品な笑い方にンダライ王国の門兵もんぺい眉間みけんしわを寄せる。

「もし…」

 仲間の笑い声が収まった頃、アリオスが再び口を開いた。

「もし、隊に戻らなかったとしたら、国で飯屋を始めると言うのもいいな」

「そりゃぁいいね」

 マルコが真っ先に賛同する。

「アリオスの作る飯が食えるなら俺は通うぜ」

「おう、俺もだ」

「俺も俺も」

 全員がアリオスの発案に賛成して声を上げる。

「俺はとにかく妹を訪ねる。めいっ子の顔を早く見てみたい」

 そう言ったのは、シルバーから妹が娘を産んだと知らされていたエミオンだった。

「お前と似ていないといいな」

 ユーリがからかうと、またどっと笑いが起きた。

「だけど…」

 一番若いハリスが声を出す。

「シルバー隊長は、俺達の家族の事までずっと見ていてくれたんだな…」

 皆、一瞬黙り込んだ。マルコがポツリと言う。

「そういやぁ、俺の両親は元気だって、言ってくれたな」

「姫が、隊長は第二警備小宮に飛ばされたと言っていたけど…、それでも妹のタイラーが子供を産んだ事をちゃんと知っていた」

 エミオンもしんみりした声で言う。

「ずっと…、遠く離れていてもずっと気にかけてくれていたんだ」

 再びハリスが言う。

「だから」

 アリオスが仲間達を振り向き言った。

「俺達はどこへ行こうと、何をしようと、もしもう一度あの人達の力になれる時が来たならば、また集まるのだ。隊士だろうが、飯屋のおやじだろうが、大工だろうが、なんであってもだ」

「そうだな、じゃなきゃ罰があたるってもんだ」

 パッキオが低い声で言う。

 その後、男達は口々に今後の夢を好き勝手に語り合い、これから帰る祖国へと思いをせた。その時、ンダライ城の城門より数人の男が現れた。先頭に立つ男がアリオス達に声を掛けてくる。

「この書状を持って参ったのは、貴殿達か?」

如何いかにも。我等はアスビティ公国特別行動騎馬隊第四分隊の者である!」

 アリオスが大声で答えた。それに対し、ンダライの男も答えた。

「書状は確かに検分けんぶんいたした。代行執政官、ポルト・ガスが謁見えっけんを認めた。入城を許可する!」

配慮はいりょ、痛みる」

 アリオスがそう返答すると、他の六人もやれやれと言う具合に馬を進めようとした。その途端とたん、ンダライの男が更に大声を出した。

「ただし!!」

 その声に、進みかけたアリオス達は足を止めた。

「入城、謁見えっけんには条件がある」

 馬上の六人は瞬時に互いの目を見交わした。

「その条件とは?」

 アリオスが問い返す。

「この場にて下馬げばの上、武器の類は全て預からせていただく!」

 それを聞いたアリオスは一瞬考えるような顔をしたが、すぐに答えを返した。

「もっともの条件、承知したぁ」

 そう返事をしておいて、仲間を振り返り命じた。

「全員馬から降りて、剣を預けろ」

 アリオスにそう言われた山賊達は不安そうな顔を見合わせたが、駆け寄って来た門兵もんぺいにアリオスが馬の手綱と、鞘ごと腰から引き抜いた剣を渡すのを見て自分達もそれにならった。

 すっかり丸腰になったアリオス達七人は巨大な門のそばまで歩き、出迎えの男達の目の前に立った。

「ご案内願いたい」

 アリオスが目の前の男に言うと、なぜか男は顔をしかめて半歩身を引きながらこんな事を言い出した。

「そ、その前に、最後の条件がある」

「最後の条件?」

「執政官との謁見えっけんの前に、全員風呂に入ってもらう。お気づきか?いずれの任務の帰りかは知らんがそなた等、相当にひどい姿をしておられるぞ?」

 それを聞いたアリオスは一瞬驚いたような顔して、後方の仲間達を振り返る。そこに並ぶ男達は確かに全員ひどい有様ありさまだった。

 アリオスはにやりと笑うと、案内の男に向かって言った。

「願ってもない」


 それから二時間程が経過した後、アリオス達山賊一同はンダライ城の執政官室に顔を揃えていた。ンダライ城で風呂を借り、体を清めひげを落とした七人は見違える程 綺麗きれいになっていた。ただし服は以前のボロ服のままであった。

 そこは会議室のような広い部屋ではない。アリオス達七人を迎えたのはンダライの代行執政官ポルト・ガスの他、わずか二名の大臣のみであった。

「まさか…キイタ様が我らをたばかりテリアンドスに入国しておられたとは…」

 大臣の一人がつぶやいた。

「いや、それについては急きょ予定を変更する事情ができたか…或いは、我らに心配をかけぬようにとの配慮はいりょであろう」

 ガスは今一度アリオス達に目を向けた。

「そなた達がキイタ様と出会い、別れた経緯はわかった。また、キイタ様のこの書状の内容についても了解した。ンダライの代表として、了解した。今、アスビティ公国 領主殿りょうしゅどのへ書状をしたためるゆえ、今 しばし休息いただきたい」

「恐れ入ります」

 代表してアリオスが頭を下げる。アリオスはキイタとの出会い、ガイの存在などの一切をンダライの三人に話して聞かせた。勿論もちろん自分達が山賊家業をしていた事はうまく伏せたままである。

「旅に必要なものがあれば何なりと申しつけてくだされ。できるだけのものを用立てようと思う」

「重ね重ね…」

 アリオスがもう一度頭を下げるのを見たガスは小さくうなずくと、部屋を後にした。

「さて…」

 残された大臣の内の一人が口を開く。

「お聞きの通りだ、諸君しょくん。ご入用いりようのものはお有りかな?食料、衣服、金銭であっても、何なりとお望みのものを」

 金銭と聞き山賊達の目が一瞬輝いた。しかし、この寛大かんだいな申し出にアリオスは静かに答えた。

「ではお言葉に甘えまして…、古着を人数分用立てていただきたい」

「古着?古着でよいのか?」

「どのような古着でも、今我らが着ているものに比べれば幾分いくぶんかはましでありましょう」

 アリオスは笑顔を作って言った。

「それと…、我らの馬は少々くたびれている。できれば馬を交換こうかんしていただきたい」

「他には?」

「他には何も。国境の山を越えればすぐに祖国です、それ程の長旅でもない。服と馬があれば十分である」

 アリオスがちらりと仲間の方へ顔を向ける。皆、少々不満そうな顔をしていた。

「わかった」

 そう言って大臣二人はゆっくりと立ち上がった。

「服はすぐに見繕みつくろわせよう。その間に馬房ばぼうを案内させる。どれでも気に入った奴を連れていくがいい」

 そう言い残して二人の大臣は部屋を出た。自分達だけになったのを見計みはからい、早速さっそくユーリがアリオスに文句を言った。

「おいおいアリオス、何で古着と馬だけなんだよ?」

「まったくだ、金でも何でもくれるって言ってんのによぉ」

 エミオンがユーリに便乗びんじょうするように言った。アリオスは静かに仲間達の顔を見た。

「そうだな、勿体もったいない話だと俺も思う。だが俺達はもう山賊じゃあない」

 それを聞くと、ユーリとエミオンも気まずそうに黙り込んだ。

「なあ、みんな。俺達はこの四年間、俺達の為に必死になってくれていたシルバー隊長を恨み、人から金銭をうばい取って生きてきた」

 六人の男達は何も言わずアリオスの顔を見た。

「国境の山賊は、退治たいじされたんだよ…。俺達は、栄光のアスビティ公国特別行動騎馬隊第四分隊士として、胸を張って国に帰りたいじゃないか?」

 アリオスはそこで一度言葉を切ると、仲間一人一人の顔を見回した。皆、目をらす事なくアリオスを見返している。

「ンダライは私達隊士の仲間を救う手助けをしてくれる。そうさせたのは、キイタ王女の取りはからいだ。その上、復興に全力を尽くすこの国からあと一体何をもらおうと言うのだ?」

 アリオスは言いながら静かに立ち上がった。その動きに合わせ、皆も目線を上げる。アリオスは、そんな仲間達の目を見つめながら話し続けた。

「一度失くしたと思った祖国に帰れる事になった。それは、ココロ姫の温情おんじょうのおかげだ。俺達は国と共に、この四年の間に失ったほこりを取り戻すべきだ。もう、山賊なんかではない。公軍隊士の誇りを胸に、家族の元へ、帰りたいじゃないか?その為に今、服と馬以上に一体何が必要なのか、言える者がいたら教えてくれ」

 答える者はいなかった。公軍隊士の誇りを失うのに四年の歳月は十分過ぎた。元来がんらい粗野そやな男達である、山賊の気質を持った暴れ者達だ。この四年の間に、すっかり山賊としての考え方がみついている自分に誰もが驚き、恐怖すら感じた。

「悪かった」

 ユーリが言った。

「あんたの…副分隊長の言う通りだ」

「俺も…」

 エミオンが追うように言い出した。

めいっ子に、堂々と名乗れるようになりてぇ」

 パッキオが腕組みをしながら何度もうなずいている。

「わかってくれたか」

「風呂に入って、ひげってよ。その上穴の開いていない服が着られりゃそれで文句はねえな」

 コスナーの言葉に今度は全員がうなずいた。

「失礼します」

 その時、部屋のドアが叩かれンダライの兵士が一人入室して来た。

「自分は一等兵士のタスニットと申します。皆様を馬房ばぼうへ案内するよう言いつかりました。よろしければ早速さっそくご案内いたしますが」

「手数をかける。お願いしたい、タスニット殿」

 アリオスが答えると他の山賊、いや、特別行動騎馬隊第四分隊の隊士達は一斉いっせいに立ち上がった。

「それでは、どうぞこちらへ」

 タスニットの案内に導かれ、七人はぞろぞろと部屋を出て行った。


「すげ…」

 ンダライ城の馬房ばぼうは想像以上に大きく、馬の数も多かった。その光景を見たハリスが思わず声をらした。

 そもそも国の規模きぼがアスビティとは段違いに大きなンダライであれば当然なのであろうが、アスビティ公国しか知らぬアリオス達は素直に驚いた。

「さあ、どれでもお好きな馬を選んでください」

 案内をしてくれた若いタスニットに言われたが、そう言われたところで馬の数が多過ぎる。とても選べるとは思えなかった。そこでアリオスはここでも控えめに言った。

「いや、どれも素晴すばらしい馬ばかりだ。こちらは明日までに国境の山を越えたいだけ、健康であればどんな馬でも構わぬ。どうかそちらの都合で七頭、見繕みつくろってはいただけぬか?」

 タスニットは、人懐ひとなつっこい笑顔を見せると言った。

「そう言う事であれば、夜道に強い奴を選んでおきましょう。あとは服でしたな。そちらの準備もそろそろ整っていると思うので、ご案内しましょう」

 そう言って案内に立ったタスニットについて辿り着いた部屋で、七人は再び言葉を失った。

 その大部屋では、さっき部屋にいた大臣の指揮の下、大勢おおぜいの女達がとても古着とは思えぬ立派りっぱな服を何着も用意していた。

 七人は、それぞれ身に着けていたボロ雑巾ぞうきんのような衣服をぎ取られ、あっという間に新しい服に着せ替えられた。

「あったけぇ!」

 マルコが声を上げる。

「めっちゃ手触てざわりが気持ちいいな、これ」

 コスナーも感動して大きな声を出した。

「これ一着で今年の冬は越せそうだ」

「これ、本当にもらっちゃっていいの?」

 他の者達も口々に自分の着た服を絶賛ぜっさんした。

「これは…」

 あてがわれた一着にそでを通したアリオスも、そう言ったきり絶句ぜっくした。

「お気にしたかな?」

 そんな声に振り向くと、部屋の入口にポルト・ガスが立っていた。

「執政官殿…」

 アリオスが戸惑とまどったような声を出した。

「私は、古着をお願いしたのであります。このような過分かぶんなものを用意されては…」

「何を言うか」

 ガスに代わって答えたのは、ンダライの大臣であった。

「そなたに言われ、大急ぎで城の兵士達の中からお主達と体格の似通にかよった者共へ通達し、それぞれ着なくなった古着を持ち寄らせたのだ。これは、正真正銘しょうしんしょうめいの古着である」

「とても、そうは思えぬが…」

「アリオス殿」

 ガスが笑顔で声を掛ける。アリオスは、ポルト・ガスの顔を見た。

「あなたは思い違いをしている」

「は?」

 ガスの言っている意味をつかみかね、アリオスが聞き返す。

「ここはンダライ、世界一の縫製ほうせいの国ですぞ?この国では服はおろか、布きれ一枚とっても、最高水準のものしか置いていなのだ。何も気にする必要はない」

「しかし…」

 なおも言葉を続けようとするアリオスをさえぎるようにガスが話し出した。

「キイタ様の書状に書かれていた。この手紙を持参する者達へは最大限の礼節れいせつをもって接するように、とな。むしろ、そのような着古きふるしをお渡しする事こそ心苦しいばかりだ」

「もったいない…」

「さて、アリオス殿」

 そう言うとガスはアリオスへ近づき、一通の封書を差し出した。

「これは貴殿の領主りょうしゅ殿へ宛てたンダライ王国執政官からの正式な返信だ。キイタ王女のご命令に従いンダライは、アスビティ公国へ対しできる限りの助成を申し出たいむねしたためてある。どうか届け、手渡していただきたい」

 アリオスは差し出された封書を見つめ、やがて両手で丁寧ていねいに受け取って言った。

「しかと、うけたまわります」

「うむ」

「時に、執政官殿…」

 ガスの書状をしっかりと服の胸にしまい込んだアリオスが言った。ガスが大臣に目配せをする。それを見た大臣が女達に命じた。

「よし、ご苦労であった。皆さがってよいぞ」

 十人ばかりいた女達が次々と一礼をしながら部屋を出て行く。ユーリやエミオンがだらしのない笑顔でそれにいちいち手を振っていた。

 女達が出て行くと、ここまで案内役を務めてくれたタスニットも同じく部屋を出て行った。全員の退室を見届けたアリオスは、改めてガスに言った。

「もし、ご存じであれば教えていただきたい。キイタ王女は、一体何をしようとしておられるのか?」

「ん?」

「私は、ンダライの塔が崩壊ほうかいするのを見た」

 アリオスが静かな眼差まなざしのまま言った。ガスはハッとしたように顔を上げ、アリオスを見た。

「何と、あの時お主はハンデルにいたと申すのか?」

如何いかにも。ンダライで反乱が起きたとのうわさは、我らのいたテリアンドスにまで届きました。そこで私は分隊長のガイと連れ立ち、様子ようすを見る為ハンデルへ…。町は混乱しておりましたが、一体誰が蜂起ほうきし、誰と戦っているのかが、今一つはっきりとしなかった。その内に、あのンダライの塔が真っ二つに裂けるように片側だけを残してくずれ去るさまを、この目でしかと目撃もくげきいたした」

 ガスが苦し気な顔をしてアリオスから目をらせる。それを見ながらアリオスは続ける。

「我ら一同、王女から受けた御恩ごおんに対し、いつ、なん時であろうとその身に災いが及ぶ時には、何をおいてもせ参ずるとお約束申し上げた。だから、知っておきたいのだ。今、何が起きていて、我らが戦う時が来るとするならば、その敵とは、一体何者であるのか」

 その身に着けた服の、余りの着心地きごこちの良さに浮かれていた他の六人も、はしゃぐのをやめ黙って事の成り行きを見つめていた。

「ん…うん。まあ…」

 アリオスの真っすぐな目に見つめられ、ガスは言い辛そうに更に目を伏せた。

「執政官殿、何もンダライ王国の事をうかがおおうと言うのではない。我が国の姫であるココロ様、そして、我が国公軍の隊長及び分隊長、更には貴国の第二王女に…身元、出自の判然はんぜんとしない、大地と言う少年…。この面々を見ただけでも、事はンダライ一国の問題でないのは明白。そうであるならば、我らは国境などにこだわらず、同じプレアーガの住民として立ち上がるべきと存じるが、いかがか?」

 言い返す間もなく立て並べるアリオスの顔をガスが振り仰ぐ。怖い程真剣なアリオスの眼差まなざしとぶつかる。ガスはもう一度目を伏せると、大きなため息を一つついた。

「お主達も、関わってしまったのだな。この戦いに…」

「は?」

 ガスは顔を上げ、もう一度アリオスの顔を見ると、言った。

「いいだろう、お話ししよう。私の知る範囲はんいでしかないが…」

 ガスは部屋にいる者全ての顔を見回した。

「場所を変えよう。先程の執政官室で…そこで、話す」

 そう言うとガスは、落胆らくたんしたように両肩をおろし、憂鬱ゆううつそうに部屋から出て行った。

 アリオスは、一度仲間達の方へ顔を向ける。皆どうしてよいのか戸惑とまどったような顔をしていた。

 アリオスは仲間の顔から眼をそむけると、先に出て行ったガスの背中を追って部屋を出た。お互いの顔を見合わせていた六人も、慌てたようにその後を追って続いた。

 部屋にはただ一人、ンダライの大臣だけが残り、大量の服の中で全員が部屋から出て行くのを黙って見送った。















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