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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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エクスヒャニク

●登場人物

ANTIQUEの能力者

ココロ…アスビティ公国令嬢である十四歳の少女。ANTIQUEのリーダーである始まりの存在に選ばれた能力者。強力なテレパシスト。

吉田大地…日本で生まれ育った高校二年生。土のANTIQUEに選ばれた能力者。六年前闇のANTIQUEに攫われた幼馴染、白雪ましろを連れ戻す為ココロの仲間になった。

シルバー…アスビティ公国の元公軍隊士。剣術と馬術に秀でた優秀な軍人であったが、鋼のANTIQUEに選ばれココロの旅に同行する。

キイタ…ンダライ王国の第二王女である十三歳の少女。火のANTIQUEに選ばれた。魔族に攫われた双子の姉イリアを助け出し、衰退した国を立て直す事を目的に仲間になった。

ガイ…元アスビティ公国公軍隊士でシルバーの部下だった男。恵まれた体格と公軍仕込みの戦闘術を持つ雷のANTIQUEに選ばれた能力者。お調子者だが儀に熱い男。


アテイル

ゴムンガ…アテイル四天王の一人で「剛の竜」の異名を持つ。人間離れした体格と怪力の持ち主。ANTIQUE討伐の為、一人別行動を取っている。

ダキルダ…アテイル四天王の作戦を補佐する為暗躍する。本来はアテイルとは別の種族である。にもかかわらず四天王に協力する真の目的は今のところ不明。


エクスヒャニク

アテイル四天王の一人、「智の竜」の異名を持つズワルドにより生み出された機械の種族。

クロム…銀色の仮面をかぶった謎の人物。間違いなく人間のようであるが、ズワルドの命令に従いエクスヒャニク達を連れゴムンガの応援に駆け付けた。


 ガイを加え五人となったココロ達ANTIQUEの能力者達は森の入口にたたずみテリアンドスの広大な地を見つめていた。

 たった今彼らに何度も感謝の言葉を残し、七人の山賊達が馬に乗って走り去ったところだった。

 彼らの姿が見えなくなるまで見送ったココロ達五人は未だその馬が巻き上げた砂塵さじんうすく残る光景をしむように(なが)めていた。

「よし、行くか」

 シルバーがその思いを断ち切るように声を出す。その声に他の者も移動の身支度みじたくを始めた。

 シルバーは変わらず御者台ぎょしゃだいに乗り、ココロとキイタは仲良く馬車の荷台に上がった。

 自分の馬の手綱を取った大地は、森を振り返るガイの姿に気が付いた。

「いざ離れるとなったら寂しい?」

 からかうような声でガイの背中に言った。ガイは振り向き大地の顔を見ると、むきになって言い返した。

「ばか言うんじゃねぇ!俺はな、今妙にワクワクしてんだよ。四年間 くすぶっていたこの森と別れもう一度隊長と一緒に戦える事にな」

「へー」

「何だその疑ったような声は」

 ガイが右手を振り上げる。奇声を上げて大地が逃げる。

「ガイ」

 大地とじゃれあっているガイにシルバーが声をかけた。ガイがその声に振り向く。

「これから我らは同じ目的を持つ仲間として旅に出る」

「はい」

 シルバーの改まった言い方に、捕まえた大地から手を放したガイは姿勢を正した。

「それにあたって一つ注意したい。上官としての最後の命令だと思って徹底(てってい)してほしい」

「何でしょう?」

「今後一切、私の事を“隊長”と呼ぶな」

「え?」

「前にも言ったが私は公軍隊士としての資格を剥奪はくだつされている。それにな、敵は(すで)にココロ様が始まりの存在である事に気が付きつけ(ねら)っているのだ。道中、我らはその身分を隠したまま進む必要がある」

 ガイはまじめな顔に戻り、黙ってシルバーの言う事を聞いている。

「だから私を隊長とは呼ぶな、シルバーでいい。ココロ様を姫と呼ぶの事も固く禁ずる」

「えぇ?」

「ココロで良いんだよ」

 笑顔でそう言うココロの顔をガイは情けない顔で見た。

「そんな…」

「私も、キイタでいいからね」

 ココロの横でキイタが言う。

「いや…」

 ガイは増々泣きそうな顔をして言った。

「俺は大地でいいからな」

「お前の事は気にしてない」

 便乗びんじょうして言った大地にガイがすぐに言い返す。

「ちぇ、なんだよ」

 不満げな大地を無視してガイが自信のなさそうな声で言った。

「こりゃぁ結構キツイぜ。隊長に姫に王女様を呼び捨てにしろってか?」

「世界を救う為だと思え、それが必要なのだ」

 シルバーがきびしい声で命ずる。

「そう言うシルバーもまだ時々“姫”とか言うけどね」

 荷台からココロが口を挟んで茶化ちゃかす。

「ひっ…ココロ様、どうかその事は…」

「あ、今ひって言った、ひって!」

「ココロ様!」

 シルバーがたしなめるように言うが、ココロはキイタと二人で荷台に転がって爆笑している。

「と、とにかくだ」

 やや紅くなった顔をガイに向けたシルバーは一つ咳払せきばらいをすると最後に言った。

「これは作戦 完遂かんすいの為の絶対条件だ。厳守げんしゅするように」

「わかりました」

 まだ少し戸惑(とまど)いながらも笑い転げるココロにつられて笑顔を見せたガイが答えた。

「ねえシルバー」

 話は済んだようだと判断した大地が馬にまたがりながらシルバーを呼ぶ。

「行くかはいいけど、この後はどうする予定なの?」

 大地がそう問いかけると、自分達もそれが知りたかったと言うようにココロとキイタが身を起こした。

「そうだな。今の所他の能力者から反応がないようなので、予定通りクナスジアを目指すつもりだが」

 シルバーの答えにガイが東の方角に指を向けて言った。

「四年前、俺達は東のラテルと南のフラードとの国境付近を抜け真っすぐにテリアンドスまで来た」

「北上し、イーダスタを抜けトリアンヌの港から船に乗る手もある」

「ていあーん」

 大地が馬上で手を上げる。提案と言いたかったらしい。

「プレアーガの者でないお前に案などあるのか?」

 シルバーが大地の顔を見上げて言った。

「地理は全然わからないけど、とにかく町に出たい」

「そうね、少しでもにぎやかな所に行きたいと私も思うわシルバー」

 大地の提案にココロが賛意(さんい)を示す。

「なるほど。では北へ向かい山を越えよう。何、高い山ではない。馬車でも十分に通れる。明後日にはテリアンドスのフォルトの町に着くはずだ」

 ガイが馬上から仲間の一人一人を見ながら言う。

「明後日かー」

 大地が不満そうな声を出す。

「そうだなぁ、俺と隊長だけなら…、あ、いや俺とシルバーだけなら一日でけ抜けて見せるがな。馬車を引いてではどうしても一日は山中泊になるな」

 ガイはシルバーの事をつい隊長と呼んでしまい慌てて言い直す。

「大地、何か慌てる理由でもあるのか?」

 シルバーが聞く。

「俺はガイを風呂に入れたい!」

大地が唐突とうとつに力強い口調で言った。

「な、何?」

 ガイが狼狽うろたえた声を出す。

「ガイくさいんだもん」

 無邪気むじゃきな声で遠慮えんりょなくズバリと言われたガイは慌てて自分の体のあちこちをいでみる。

「臭い…ですか?」

 ガイがココロやキイタの方を見る。

「うんくさい」

 ココロも言葉を飾らずストレートに言う。その横ではキイタが苦笑(にがわら)いをしながら(ひかえ)えめにうなずく。

「それにその見苦しいひげった方がいいな。このメンバーの中じゃ浮くんだよね。さっきシルバーも言ったけど、敵が(ねら)ってくるかもしれないからね、目立つ格好かっこうけたい」

「む…わかった…」

 言われっぱなしのガイはそれでも素直に受け止めると、最も近いフォルトの町を目指す山越えのルートを提案した。

 ここに着くまでココロが乗っていた体の小さなアスビティの馬には大地が乗った。

 大地と出会ったア・グランツェ・ツェンマと言うダルティスの宿でロズベル隊長以下、第二小宮の隊士達に襲われた際、勝手に連れて来た大きな馬にはガイが颯爽さっそうまたがった。さすがは元アスビティ特別行動騎馬隊の分隊長、その姿は様になっていた。

 ここに来て、いい加減これらの馬を取りえようかと言う話も出たが、ガイ達が飼っていた馬に比べればこの二頭の方が余程よほど健康であると判断し再び共に旅をする事になった。

 体が小さく頭のいいアスビティの馬を大地は気に入っていたので、この結果には少しホッとした。

「なるべく走りやすい道を行きます。続いてください」

 ガイが後ろの仲間に声を掛け、馬を進める。それを合図に大地は馬を、シルバーは馬車を(あやつ)りその後に続いた。

 こうしてンダライ、テリアンドス国境を後にしたANTIQUE一行の背中を森の中から静かに見つめていたのはアテイル一族の世界征服作戦を補佐するダキルダであった。

 ダキルダは走り去る五人を見送ると、得意の瞬間移動で姿を消した。



 次にダキルダが姿を現したのはアテイルの(おさ)、クロノワールが拠点(きょてん)としている死者の城が建つハドリア国であった。

 しかし、ダキルダがやって来たのは死者の城ではなくハドリア国の外れ、国境付近であった。

 文明のきざしを全く見せない未開の地ハドリア国。昇る朝日に照らされ見える世界は、ただただ自然の生み出した広大な芸術品とも言えるプレアーガ最大の渓谷けいこく、ライドマリネ渓谷けいこく雄大ゆうだいな景色であった。

 その景色を見渡す高台で朝日に照らされた重々しい甲冑かっちゅうを身に着け座り込んでいるのはアテイル四天王が一人、「剛の竜」と呼ばれるゴムンガであった。

「ゴムンガ殿」

 そんな声が聞こえたかと思うと、ゴムンガの背後にダキルダが現れた。

「最新の情報をお伝えに上がりました」

 ゴムンガは何も言わず、動く事もしない。ダキルダは無反応なゴムンガに構わず話を続けた。

「ANTIQUE一行、動きだしました。ンダライ、テリアンドス国境付近を後にし北へ向かっております。残念ながら次の目的地までは察知できませんでしたが…」

 ダキルダはそこで一度言葉を切った。様子ようすうかがうが、やはりゴムンガは動かない。それを見て取ったダキルダは更に続けた。

「奴らは新たな仲間を得、現在総勢五騎。断定はできませんが、この後は北上を続けイーダスタへ入るか、あるいは西に進路を変えジルタラスを目指す可能性が高そうです。六人目の能力者が現れるきざしは今の所はございません」

 報告すべき事は以上であった。それでもゴムンガは動かなかった。ダキルダはその場で待った。

 話は全部聞いていたはずだ。今ゴムンガはダキルダの報告を聞き、何事か考えをまとめているのだろう。いずれ何かしら話し出すと思えた。

「メロが、やられたそうだな?」

 かなりの間黙っていたゴムンガがようやく言った言葉だった。

「はぁ、命に別状はございませんが当分の間作戦からは外すとのクロノワール様の申しつけでございました」

「なるほど」

 そう言うとゴムンガはまた黙り込んだ。やがてゴムンガが身に着ける甲冑(かっちゅう)が細かな音を立て始めた。

 その背中が小さく揺れている。まさかと思うが泣いているのか?ダキルダは怪訝けげんな顔をして半歩ゴムンガに近づこうと身を動かした。

 次の瞬間、さえぎるもののないライドマリネ渓谷けいこくの空にゴムンガが高らかに上げた笑い声が響き渡った。

 ダキルダは想定外のゴムンガの行動と、その余りにも大きな声に体を固くした。ゴムンガは立ち上がると高台から渓谷(けいこく)を見下ろした。そうしながらようやく笑いを(おさ)め、言った。

「バカなメス竜だ。ろくな準備もなく場当たり的にANTIQUEに挑むなど…。おい、小僧」

 ゴムンガは背中のままダキルダに話しかけた。

「戦いにおいて大事なものは何かわかるか?」

 そう問いかけたゴムンガが初めてダキルダを振り返る。大きい。人間のスケールでは考えられない巨漢きょかんであった。

 その巨大な体につけた甲冑(かっちゅう)は攻撃的にとがり、頭にかぶる(かぶと)にも鋭い角が何本も突き出ていた。

 朝日を背に影となったその姿は、人のような形はしているものの、明らかに人 あらざる者である事を知らしめた。

「わ、私は…」

 ダキルダにしては珍しく言葉をまらせながら答えた。

「私は戦闘員ではございません。兵法へいほうなどには明るくはありませんが…」

 ダキルダの返答にゴムンガはニヤリと笑ったように見えた。ゴムンガは再びダキルダに背を向けた。

「圧倒的な力!相手を凌駕りょうがする技!敵を圧する数!そして、それを指揮する統率力とうそつりょく…。戦場においてはこれらが勝利に不可欠。…しかし」

 ゴムンガはそこで一度言葉を切ると大きな体をひるがえして歩き出した。

 何も言わないが、その背中がダキルダに「ついて来い」と言っているように見えた。ダキルダは自分の三倍はあると見えるゴムンガの巨大な背中を追った。

「戦場でそれらを如何いかんなく発揮(はっき)する為にはそれなりの準備と訓練が必要だ。作戦を立て、万全の態勢で敵を迎え撃つ。だとするならば…」

 剛と呼ばれるゴムンガの事だ。ただ押しの一手で敵を襲い、なぎ倒すばかりが能かと思っていたがどうやらそうではないらしい。

 この男は「戦争」を熟知している。個の能力におぼれる事なく、最終的に軍団を勝利に導く術を身に着けた正真正銘しょうしんしょうめいの戦士なのだ。

 当初のイメージとのギャップに戸惑(とまど)いながらも、ゆっくりと歩くゴムンガの後に続きながらダキルダはゴムンガと言う男の底知そこしれぬ恐ろしさを感じていた。感情に走り、自らの能力を過信かしんして敗北したメロとは比べ物にならない恐ろしさであった。

 先に立って歩くゴムンガはがけふちで足を止めると、下を見下ろしながら途中で切った言葉の続きを話し出した。

「だと、するならばだ…」

 ダキルダは遠慮(えんりょ)がちにゴムンガの脇に立ち彼の見下ろす先を自分でも確かめた。

「勝敗は、戦場に立つ前に(すで)に決まっているとは思わないか?」

 そう言ったゴムンガの声が遠くに聞こえた気がした。自分の足元に広がる光景にダキルダは圧倒され、言葉を失っていた。

 二人が立つ(がけ)の数m下にわずかに広がる平地には、たくさんの兵隊が雑多ざったに集合していた。

「こ…これは…」

 最初の衝撃しょうげきが去った時、ダキルダはようやくそれだけを口にした。

 数としては五十程、中隊程度の規模(きぼ)だ。しかし、そこにいる兵士の姿は異様(いよう)であった。

 どう見ても人間ではない。さりとて動物とも見えない。今までダキルダが見てきたアテイルの一族ともまた違うようであった。

 そこに規律きりつなく集う兵士達はみな鉄の体を持っていた。ガチャガチャと奇妙な金属音を響かせながらうごめいている。(よろい)を着けているようには見えなかった。

 様々な形があったが、その体自体が金属でできているとしか思えない形態をしている者も多く見えた。

 その異様いような光景にダキルダは全身を冷たい汗が流れ、鳥肌が立つのを感じた。力の程は知れぬが、直接感情に訴えるような根拠こんきょのない嫌悪けんおを感じさせる、恐ろしい連中であった。

傀儡くぐつだ」

 ダキルダの反応に満足そうな顔を見せたゴムンガが低い声で言葉少なに言った。

「く、傀儡くぐつ?」

 ダキルダが聞き返す。

「クロノワールがズワルドに言っていたであろう?俺の所に兵士を回せと。それがこいつらだ。生意気に自分達をエクスヒャニク、などと呼んでいるが、ようは命を持たぬ機械人形だ」

 ゴムンガが足元の兵士達を見下しながら続ける。

「エクスヒャニク…」

 ダキルダは自然とその名前を口にした。

「ズワルドはあらゆる世界を(めぐ)りこのプレアーガではあり得ない文明、技術をザシラルと言う国に集結させている。そこで奴は道具自体に考える力を与え、ある作戦を遂行すいこう中だ」

「ある作戦?」

 ダキルダも眼前(がんぜん)の想像を(ぜっ)する光景を見つめたまま聞き返した。

 しかし、ゴムンガの答えはない。それに不信を覚えたダキルダがかたわらのゴムンガを見上げると、彼はじっとダキルダを見下ろしていた。

 豪快ごうかいで思考など持たないように見える容姿(ようし)に反して全てを見透(みす)かすような静かな目にはメロやエルーランには感じなかった知性の色が見え、ダキルダをおびえさせた。

「真の闇の王であられるシュベル様にしか(あやつ)れぬ闇の力を人口的に生み出している」

 ゴムンガの答えにダキルダは衝撃しょうげきを覚えた。

「それを大量に生産し、この世界に拡散かくさんする。どうなると思う?」

「闇の力におかされた人間どもは己の欲望のままに争い合う事でしょう」

「そうだ。そうして自ら滅ぼし合う末路まつろを歩む事になる…」

 ダキルダは再びエクスヒャニクの兵士達を見た。見るもおぞましい光景であるにも関わらず、なぜか目をらす事ができなかった。

 彼らを見つめながら、ダキルダは思った。


(何と恐ろしい計画を思いついたものか…。)


 その作戦が成功すれば、アテイルや他の魔族達が手を下すまでもなく人間達は勝手に滅んでいく事だろう。シュベルの望む人間族 一掃いっそうの計画は驚異的きょういてきな速さで進行する。

 そして、ゴムンガ達魔族はその作戦 遂行すいこうの邪魔になるANTIQUEの打倒だとうにだけ集中すればよいと言う事になる。

 ザシラルと言えば北方の半島にある本来は一つの町だ。その面積に比して人口は多い。

 近年、突然にザシラルを名乗り国としての独立を宣言した。当然周辺国はその独立を認めてはいなかった。

 国交はあるものの非常に閉鎖的(へいさてき)な国で、その国民性も明確に理解されてはおらず謎に包まれた国である。

 プレアーガに明るいダキルダも、まだ足を踏み入れた事のない場所であった。

 現在ココロ達のいる場所からはかなり距離をへだてている。旅を続けるANTIQUEの一行がいずれたどり着くとしても、それはまだかなり先の話であると思えた。

 その時ダキルダはその異様な光景の中に一人、不自然に見える者の姿を見つけた。

 ダキルダが見つけたその人物は、機械でできたエクスヒャニク達の中において唯一、人間にきわめて近い姿をしていた。

 白を基調とした美しい衣をまとっていた。大きなフードをかぶりその顔は見えなかったが、エクスヒャニクの中では極端に小さな体をしていた。

 たっぷりとしたマント状の服を着ている為その体の形状は定かではなかったが、自分やクロノワール同様人の形をしていると見えた。

「あの者は?」

 どうしても気になったダキルダはゴムンガに尋ねた。ダキルダの見る方向に目を向けたゴムンガもそれに気づきすぐに答えた。

「ああ、あれか。あれは人形ではないようだ。よくは知らぬが、こいつらの目付めつけとしてズワルドが送って寄こした」

目付めつけ?」

「大方、お主と同じように我らに肩入れする物好きであろう」

「…私と同じ…なるほど」

「しかし、都合つごうがいい」

 ゴムンガが独り言のようにつぶやいた。

「お主の話ではANTIQUEの連中が次に目指すはイーダスタかジルダラス…ここで隊を二つに分け、いずれかの地点で奴らを迎え撃つ…。一隊はあのチビに指揮をとらせよう」

 やはり無反応をつらぬきながらもダキルダの話はしっかりと聞いていたようであった。

「ANTIQUEを抹殺まっさつするおつもりか?」

 突然と言った具合でダキルダがゴムンガに問いかけた。

「ん?」

「ANTIQUEは命を持たぬ単なる現象。それをつかさどる能力者の体を滅ぼしたところで次の能力者が現れるだけ…」

 ダキルダはメロにしたのと同じ説明をゴムンガにも話した。

「いずれにせよ、ANTIQUE自体を消滅させる事は不可能。この上はいっそ十一人の能力者が集うのを待ち一気に叩く事が得策(とくさく)かと愚考ぐこういたしますが?」

「うむ、そうか…。まさに愚考ぐこう

「は?」

 ダキルダの考えをおろかと切り捨てたゴムンガは、再びダキルダに目を向けると言った。

「いいか小僧。俺は戦いたいだけなのだ。今ここで半数に当たる五人の能力者を抹殺まっさつする事ができれば奴らが体制を整え直すのにどれだけの時間が掛かると思う?その間に我らの世界 侵攻しんこうをどこまでし進められるか…。それを考えるのはクロノワールやズワルドの仕事だ」

 そう言ってゴムンガはにやりと恐ろしい笑いを浮かべた。

「次の能力者が現れるならば、それもまた俺が倒すまで。どのような能力者であっても繰り返し戦えばその性質もつかめると言うもの…。仮にその途中で俺が倒されるような事があれば…」

 そこまで言うとゴムンガはダキルダから目をらし遠くを見つめながら言った。

「俺の運もそこまでだったと言う事よ」

「しかしクロノワール様がそれをどう思いますか…」

「奴には俺の性分(しょうぶん)が十分にわかっている。わかったうえで俺のANTIQUE 討伐とうばつの提案を飲んだのだ。何も言うまい」

「なるほど」

 ダキルダはそれ以上の説得を(あきら)め、ゴムンガの考えに賛意を示した。

 ゴムンガが如何いかに高い戦闘能力を持っていようと、一人でANITQUEの能力者達に挑めば倒される可能性はある。

 しかしその力に合わせ集団を指揮する能力を発揮し、明確な作戦を持ってのぞめば、逆にANTIQUE達を滅ぼす事も可能であると思わせた。

 クロノワールとは別の意味で、何があっても敵に回したくない男であった。

「とは言え…」

 ゴムンガがぼそりと(つぶや)く。

「今はまだ我らの存在が広く人間どもに知られるのは得策(とくさく)ではないとするクロノワールの考えもわかる。ANTIQUEを追うにしても夜の闇に乗じて動くほかあるまい」

 あらぬ方を見ながらそう言うと、ゴムンガは一歩前に進み下に集う機械の軍団に向け(さけ)んだ。

「聞けぃっ!!」

 世界中を震わせるかと思わせる程のゴムンガの声に、ガチャガチャと動いていたエクスヒャニク達が一瞬にして動きを止める。それを見たゴムンガが指示を出す。

「これより隊を二班に分ける!一隊は俺と共にジルタラスへ向かう。おい、そこのチビ!」

 ゴムンガに呼ばれた白いフードの人物が顔を上げる。朝日に照らし出されたその顔は仮面であった。

 銀色に光るその仮面には目の辺りに視界を得る為の穴がある他は、鼻も、口もないシンプルな形をしていた。

「貴様は残り半数を連れイーダスタ方面を目指せ。テリアンドス国内国境付近の山中にじんを張り、目指すANTIQUE一味が現れた場合にはイーダスタに入る前に戦闘を仕掛しかけろ。一匹でもいい、奴らを倒せ。ただし全滅はするな!チビ、貴様は必ず取り逃がした能力者の数と逃げた先を確認し俺の元に報告に来い。出発は日暮れと定める!」

 そう言うとゴムンガはダキルダには目もくれずその場から立ち去った。

 その背中を見送ったダキルダはゴムンガの姿が完全に見えなくなった時、意を決しエクスヒャニクの集団の中に移動した。

 仮面の人物のすぐそばに身を移したダキルダは、その相手に声をかけた。

「おい、お前」

 仮面の人物は無言でダキルダを振り返る。

「お前は魔族ではないな?何の目的で戦いに参加している?」

 仮面の人物は何も答えぬままダキルダから目をらしたが、かと言ってそこから立ち去る気配けはいも見せなかった。

「名前は?口がけないのか?」

「名前…」

 初めて仮面の下から声がれた。男とも女とも判断のつかないか細い声であった。えて言うならば、変声期へんせいき前の少年の声のように聞こえた。その体つきも正に子供そのものであった。

「話せるじゃないか」

 ダキルダがため息交じりに言う。

「クロム…」

 仮面越しのくぐもった声で相手は答えた。

「クロム?それがお前の名か?」

「さあ?」

「さあ?」

「周りの者は私をそう呼んでいた」

「お前…」

「私には記憶と言うものがない。だから名前もない。戦う理由も、勿論もちろんない…」

「戦う理由もない?そんな…」

 ダキルダが言いかけた時、クロムの体がふわりと宙に浮いた。

「え!?」

 突然の事にダキルダが声を上げる。自分以外に浮遊(ふゆう)の技を持つ者を見た事がなかったダキルダは(あせ)った。

 クロムの体はみるみる上昇し、さっきまでダキルダとゴムンガのいた場所に行き着くとそこに着地した。

 クロムは一度ダキルダを見下ろすような仕草を見せると、すぐに身をひるがえし立ち去って行った。

「おい…」

 そう言って手を伸ばしかけたダキルダの目に、朝日に照らされて光る大量の何かが自分めがけて落ちてくるのが映った。

 その正体はわからなかったが、とにかくダキルダは身を引いてそれをけた。

 次の瞬間、ダキルダの目の前に大量の液体がかたまりとなって落ちてきた。

 叩きつけるような勢いで地に落ちたその液体は、細かい飛沫しぶきをあげながらはじけた。

 ダキルダは地面に残ったその液体を指先でそっとでてみる。それは触った指先がしびれる程冷たかった。

「水…?」

 ダキルダはつぶやき、指先についた液体の匂いをいでみる。何の匂いもなかった、ただの水であるようだった。

 問題はそのただの水がなぜ今ここに落ちてきたのかと言う事であったが、その答えは出なかった。

 ダキルダはクロムが姿を消した崖の上を見上げながら、その答えを探し求めた。


















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