湖の見える砦【第二境界警備小宮】
●登場人物
ココロ…プレアーガにある、アスビティ公国公爵令嬢。始まりの存在であるANTIQUE、ゲンムのバディとなり、世界を救う為に仲間を集めようとしている。
ゲンム…宇宙誕生と同時に生まれた最古のANTIQUE。「始まりの存在」と呼ばれ、全ANTIQUEを統括する。ココロに自らの能力を与え、共に仲間を探す旅に出ている。
ココロの生まれたアスビティ公国は永久的戦争放棄国である。その為、「軍隊」と呼べる組織は原則的には存在しなかった。
領主である公爵を警護する為の「デューカ守備隊」、領土内の緊急出動を目的とした「治安部隊」及び「警察隊」、同盟国からの依頼に応じて戦闘以外の国外活動を展開する「特別行動騎馬隊」。そして陸続きの隣国の動きを監視する為、国境付近要所に設けられた境界警備小宮に配備された「警備隊」。これだけが公的に存在するアスビティ公国の全戦力であった。
その中でも国領内に複数建てられた境界警備小宮は、隣国の動きを監視する事が主な使命であり、友好同盟を交わした大国の援軍が到着するまで敵の進撃を食い止める為の最低限の武力しか保持しておらず、それはとても戦争ができるような装備ではなかった。
本来の目的を果たす事など創設以来一度としてなく、外敵からの国境守護と言うよりは、公爵家族の格好の別荘として活用される事の方が多かった。
だから、組織に入った男達は勇退の時までまで殆ど活躍を期待できないこの「小宮付警備隊」の仕事を閑職として嫌った。
アスビティ公国の北の外れ、ロットウォールと呼ばれる低い山を挟み隣国ンダライと国境を接する場所に、国境警備を目的として建てられた小宮の一つである第二境界警備小宮。そこは各所に存在する小宮の中でも取り分け美しい景観を持つ事で知られている。
宮は湖の畔に建ち、その宮内からは光り輝くベディリィ湖が一望できる風光明媚な場所であった。
この小宮付第二警備隊及び第三警備隊の隊士達も国中から選び抜かれた屈強な男達ではあったが、こんな場所に長く勤めているせいか、皆どこか牧歌的で平和な者達ばかりであった。
そんな第二境界警備小宮は今日、朝から上を下への大騒ぎであった。
公爵令嬢であるココロ様が本日より静養の為、暫く滞在をするとのお達しが出されたからである。
夜も明ける前から女房達が宮中内の掃除をし、分隊の隊士達は手分けして最高級食材の確保に町中を走り回った。
国内屈指の美しい景観以外にはにこれと言って特筆すべき観光資源もないこの町は、アスビティ公国の中でも輪をかけた田舎町である。その為、公爵家の長期滞在も稀であった。
この度のココロ姫の滞在についても、体調を崩した姫の静養を目的としており、お付の警備隊士やお抱えの医師団の同行はあったものの、父公爵は勿論、その他の家族が来る事はなく、ココロ姫単身での入宮であると聞かされていた。
それでも、昼過ぎに到着したココロ姫の「ご旅行行列」は長年の小宮勤務ですっかり田舎者と化してしまった隊士達を驚かせるには十分な絢爛さであった。
ココロがこの第二小宮に来たのは決して自らの意思ではなかった。
ゲンムと出会い、魔族との決戦を決めたココロは、自分の見たビジョンの恐ろしさと能力者達へメッセージを送る事に没頭するあまり、極端に口数が減ってしまった。
それまでは元気過ぎて両親を困らせる程お転婆なお姫様であっただけに、その余りの変わり様にココロの父親であるドナル三世公爵は、娘が悪い病にかかったのではないかと考え、ほぼ一方的にココロの「静養」を決めてしまったのだった。
しかし、日ごと夜ごとメッセージを送り続けているにも関わらず、未だたった一人の能力者とも出会えていなかったココロにとって、能力者との出会いの可能性を広げるこの旅行は正に渡りに船であった。
建物の周囲を堀で囲まれた第二小宮では、正面門に辿り着く為には石造りの頑丈な橋を渡っていく必要がある。
ココロの到着を出迎える為、今その橋から小宮正門まで、ほぼ全員の隊士が整列してココロを乗せ門へ向かう白く豪勢な馬車を見守っていた。
しかし、その馬車にはしっかりと日よけの布がかけられ、出迎える隊士達からは、数年の内にすっかり美しくなられたであろう、間もなく成人を迎える公爵令嬢の姿を見る事はできなかった。
馬車の窓に掛かるカーテンの隙間から外を覗いたココロの目に、自分に敬意を払い整然と居並ぶ逞しい隊士達の姿が見える。
(ああ、この中に私と共に戦ってくれる能力者はいないかしら?)
憧憬の眼差しで自分を見つめる隊士達の頼もしい姿を見ながら、ココロはそんな儚い希望を胸の中で膨らませていた。
やがて橋を渡り終えた馬車は正面門を潜り、小宮内へと入っていく。ここまで来ると、出迎えの隊士の位も上がり、ココロの知っている顔もいくつか見られるようになってきた。
第二警備隊隊長のロズベル。最後に会った時より確実に年は経ているものの、相変わらず逞しい体格をしている。アスビティ公軍きっての怪力の持ち主で、帯びた大刀を片手で振るうだけで、一度に三人の首を刎ねると噂されていた。
第六分隊筆頭隊士のフルゥズァ。ココロより僅かに年上の彼は、警備隊とは言えその若さで筆頭隊士を勤める出世頭だ。
彼の祖父も父もデューカ守備隊の所属と言う由緒正しい家柄の青年だ。やがて数年の内には彼も中央首都へと戻り、それなりの役職に就くのだろう。小宮配属前はアスビティの首都にいた為、ココロとは幼い頃から親交があった。
第三警備隊隊長のシルバー。アスビティ公国の人間としては珍しい極端に色素の薄い真っ直ぐな長い髪が、初秋の光を浴びて美しく輝いている。
前職は特別行動騎馬隊の隊長と言う、エリート中のエリートであった彼が、どんな経緯で境界警備小宮付へ転属となったのかは定かではないが、その剣技は公軍随一と定評があった。
同じく副隊長のアローガ、剣技指南役のペステラーザ、第四分隊筆頭隊士メイジャー、各隊副隊長、筆頭隊士、ジャルア、ゲイザン、国外からの永住者隊士ロストバン…。
みんなみんな、ココロと幼い頃から親兄弟のように親しく接してくれた者達ばかりであった。
馴染みの深い者達の顔を見るにつけ、つくづく、そんな彼らが共に戦う同志、ANTIQUEの能力者であったならどんなに心強いだろうかと思う。
勿論ココロ自身、そんな都合のよい話が容易に起きるなど、儚い期待であるとよくわかっていた。
そんな思いの中で、深いため息をついた丁度その時、馬車が小宮の正門前に横付けとなって停車した。
「ココロ様、到着でございます」
城から高齢をおして共をしてくれた世話役のロッドニージが声を掛けてくる。程なく彼の手により馬車の扉が恭しく開かれた。
ココロは城を出て以来今日まで、このロッドニージ以外とは一切口をきいていない。
「ココロ様、各隊隊長及び副隊長と、滞在中、身の回りのお世話をする女房達が挨拶の謁見を望んでおりますが、いかがなさいましょう?」
ロストニージがすっかり灰色になった立派な口髭を揺らしながら、馬車から降りるココロに手を貸しつつ申し出た。
一瞬、考えるように動きを止めたココロは、一つ息を吐き出すと、力なく答えた。
「疲れたの、部屋で休みたい。ごめんなさい、挨拶は夜にしてもらって。女性は部屋へ呼んでちょうだい」
「かしこまりました」
まず滅多に感情を表に出す事のないロッドニージだが、ココロが子供の頃から傍に仕え、そのやんちゃぶりに散々手を焼いてきただけに、ココロのこの変わりようには強く胸を痛めていた。
ココロを子供の頃からよく知る数人の隊士達も、ココロの成長したその美しい姿よりも、小宮へと入っていく僅かに見えた表情にみな一様に顔を曇らせた。
特に幼い頃、身分の差もなくココロの弟王子であるレイナスと三人で、城の庭で子犬のようにじゃれあって遊んでいたフルゥズァはココロの元に駆けつけたい衝動に、半歩体を動かした程だ。それ程、ココロの表情は暗かった。
一度ココロと共に小宮の中に入ったロッドニージは、お付の女房にココロを引き渡したとみえ、再び正門前に姿を現した。
「隊士諸君、ココロ様到着に際し丁重なる出迎え恐れ入る。整然たる隊列、日々の訓練の賜物とお見受けした。この様子、しかと公爵様へとお伝えし、ご安心いただくこととしよう」
まずは隊士達を労い、褒め称えたロッドニージは、ここで一度声を改めると続けて自分を見つめる猛者達へココロの希望を伝えた。
「さて、ココロ嬢においては、道中長旅の疲れがひどく、ご休息をご希望された。ついては、予定されていた各隊士代表 謁見は夕刻へと繰り越したい。なお、今回の入宮にあっては先刻承知の通り、病気療養が目的である。なにぶん滞在中、ココロ様には健やかなる時をお過しいたたけるよう、みな心がけていただきたい。この後、各隊隊長及び副隊長にあっては、伝達の旨があるので、私のところへ集合していただきたい。以上、ご苦労であった、随時職務に戻られよ」
「各筆頭分隊士指示により、職務復帰!解散!!」
ロッドニージの話が終わると同時に、第二隊長ロズベルの号令の下、小宮付隊士達は一糸乱れぬ所作で最敬礼をし、その後三々五々持ち場へと散って行った。その道すがら話す話題は、ココロ姫の病状を憶測し、心配する内容に終始した。
部屋に入り、世話役の女房に一通りの指示を出し下がらせたココロは、一人になると、そっと窓辺に近づいた。
窓一面に広がるベデリィ湖の湖面は今、波の一つも立っていない。そこに初秋特有の柔らかな日差しが降り注ぎ、まるで鏡のように美しく輝いていた。
アスビティ公国内二十二 箇所に設けられた小宮の中でも随一の美しさを誇る第二境界警備小宮の景観は、その定評に恥じない午後の景色を見せていた。
窓辺に立ち、ココロはゲンムの石を両手で包み込む。初めてゲンムに出会ってから間もなくひと月が経とうとしていた。その間、数え切れない程 繰り返した動作だ、もう目で見て確認する事なく、自然と石の位置を覚えていた。
(能力者、能力者、お願い応えて。私と一緒に戦ってくれるANTIQUEの能力者、お願い、誰でもいいから、お願い、応えて!)
青白い顔は表情のないまま、心の中だけで強く強く、これもこのひと月の間、何度も祈るように繰り返した言葉を念じ続けた。
返事はない、その予感すらしない。宇宙に放たれた自身の念は、本当に仲間達に届いているのか?その手応えは全く感じられなかった。
今日までにあの恐ろしい終末の夢を三度見た。仲間から反応がない中で、未来を予測した不吉な夢だけはココロを追いかけてくる。
いつも、夢と現実の区別がなく、目が醒めるまで夢とは気づけない悪夢の中で、もう何度も愛する者達が恐ろしい化け物の手で無残に命を奪われていく。そんな感覚を実体験し続け、心身ともに疲弊しきっていた。
もうこのまま誰の助けも得られぬまま、またあの夢を見て、でもそれは夢ではなく二度と悪夢から醒めない、そんな日が来るのではないか?そんな弱気が日に日に増していった。
気の狂いそうな重圧の中で、ココロは硬く目を瞑り、強くゲンムの石を握りながら念じ続けた。
(応えて、お願い!応えて、お願い!誰か応えて、お願いだから!)
その時、胸の石が光を放ち、ココロの前にゲンムが現れた。
「落ち着きなさいココロ、そんなに自分を追い込んではいけない」
ココロは閉じていた目を開き、ゲンムを見た。
「そんなに痩せてしまって…」
ゲンムが心配そうに眉根を寄せて言う。
「大丈夫だ、私達の声は確かに仲間の元へ届いている。いい?私達の声は時空すらも超える。でも他のANTIQUE達にその能力はない。我らと同じ地に立たない限り応答はできない。それに、私達の声は全員の仲間に届くけれど、私達以外のANTIQUE同士のテレパシーによる会話はできない」
小さなゲンムが成人を迎えようとするココロに言い聞かせるように話していた。ゲンムは手のひらに乗る程小さく、可憐な少女の姿をしているが、実はこの宇宙の誕生と同時に生まれた、この世でもっとも古い存在なのだ。
「全員が私達の声を聞く事はできても、テレパシーで会話ができるのは私達だけ。今頃私達の声を聞いたANTIQUEの能力者達は、私達の声を目指して集結しつつあるのだ。まだ、ここまでその体が到着していないだけだ。だから焦らなくていい」
「だけど!じゃあ、仲間はいつ来るの?その間に魔族が動き出したら?あんな夢を見続けるのはもう耐えられない!」
声に出さなくともゲンムには通じる、そうわかっていても叫ばずにいられなかった。ゲンムに強い言葉を叩きつけると、ココロは窓辺を離れベッドまで走り、頭を抱えるように突っ伏した。
音もなくココロの頭の上に飛んで来たゲンムが、優しい声でココロに話かける。
「気持ちを強く持ってココロ。仲間は集まる、それが摂理なのだから。心配はいらない。それより、今あなたが自分を傷つけてどうする?仲間が集まった時、あなたが先頭に立つのだよ?食事を摂って、眠りなさい。肉体の疲労は気持ちの疲労につながる。まったく、肉体を持つ生命体の不便なところだと同情はするけれど、いい?私にとって、この全宇宙にとって今、あなたの命が何よりも大切な希望なのだと言う事を、忘れないで」
ココロは泣きはらした顔を静かにあげた。
(この世界にとって、私の命が…希望…)
「ココロ様、どうかなされましたか?」
先程のココロの叫びを聞きつけた世話役の女が男を連れてきたらしい。遠慮がちなノックの後、心配げな隊士の声が扉越しに呼び掛けてきた。
「大丈夫です、何でもないの。少し眠るので、夕飯までは下がっていてください」
できるだけ気丈な声で答えた。
「…かしこまりました、何かございましたら、お申し付けください」
やがて扉の前から気配が消えた。気がつくと、ゲンムの姿も消えていた。
「そうだよね、戦う前から私が倒れでもしたら…せっかく集まってくれた仲間達に、笑われてしまう…」
(眠ろう、またあの恐ろしい悪夢を見るかもしれない。それでもいい、少しでも体を休ませよう。そして、夕飯になったら、できるだけ食べるのだ。頼もしく、懐かしい隊士達や、優しい女房達に囲まれて。今夜は、久しぶりに笑ってみよう、嘘でもいい、そうしたら、明日は本当に、本当に笑えるかもしれない…。)
気が張っていてとても眠れないと思っていたココロだったが、ベッドへ横になるとやはり体は疲れきっていたのだろう、間もなく深い眠りの中に落ち込んでいった。安らかな眠りではなかったが、ココロは、敢えて自分の精神が闇に落ち込んでいく感覚に身を委ねた。
どの位眠ったのだろう?ココロは、自分を呼ぶ声に目醒め、ベッドの上に体を起こした。カーテンを開けたままの窓の外には、既に夜の闇が広がっていた。
(夢は、見なかった…)
ほっとため息をつく。眠りから目醒めた時、夢を見なかった事に安心する自分をココロは悲しいと感じた。また気持ちが落ち込んでいく。
「ココロ様、お目醒めでしょうか?ココロ様」
気がつくと、部屋の扉が表から叩かれている。控えめな女の声が自分を呼んでいる。どうやら目醒めた時に聞いたのはこの声であったらしい。
「はい」
扉に向かってココロは答えた。
「ああ、ココロ様、お食事の用意が整いました。食堂へ来られますか?ご気分がすぐれないようでしたらお部屋へお持ちしますが」
返事を返した事で心底安心したようで、女が提案をしてきた。
「いえ、下へ降りてみなとご一緒します。着替えるので暫く待ってもらえますか?」
「お手伝いする事はございませんか?」
「大丈夫、すぐに支度をします」
「ここにおりますので、お済みでしたらお声をおかけください」
「ありがとう」
ベッドから降りるとココロは着ていた服を脱ぎ始めた。療養に来た小宮の中とは言え、隊士達と食事を共にするとなれば、公爵令嬢として最低限の装いは必要だ。
すでに世話役の女房に衣装棚へ移してもらった持参の衣服の中から無難な一着を選び、手早く着替えを始めた。
(落ち込んではだめ、悪い事ばかり考えていたら状況は悪い方にしか向かないわ。さあ、ごはん、ごはん。ごはんをいっぱい食べて、お風呂に入って、そうしたらまた…仲間にメッセージを送るんだ)
自分を奮い立たせながら着替えを進めるココロの中に、突然声が響いた。
(姫)
ココロは手を止めた。はじめ、新たに隊士の一人が迎えに来たのかと思い、扉の方を振り返った。それ程その声ははっきりと、ココロに聞こえた。
しかし、ココロにはわかった、その声は、廊下に立つ隊士のものなどではないと。それを裏付けるように、胸の石が光り、ゲンムが姿を現した。ココロはゲンムと目を合わせる。
(今のは…)
ゲンムに問いかけようとした瞬間、再び声が聞こえた。
(姫、聞こえますか?)
(聞こえる!聞こえます!あなたは誰!?)
(私は鋼…、鋼のANTIQUEに選ばれし能力者。姫のお声、確かに受け取りました)
(姫?私を姫と呼ぶと言う事は…あなたはアスビティ公国の者ですか?)
公爵の娘であるココロは正式には「姫」ではない。しかし、城の中の従者、隊士から国民に至るまでアスビティの人々は、親愛の情を込めてココロの事を、「姫」と呼んだ。
「ココロ様、大丈夫でしょうか?」
扉の外で女房の心配そうな声がした。
「あ、はい!今、今行きます」
ココロは着替えを済ませると部屋の扉を開け、廊下に出た。優しい笑顔の女房が迎え、食堂に向けて先に立って案内を始めた。最初の角で、室内用の短槍を手にした隊士がココロの後ろについた。
前を女房、後ろを隊士に挟まれ、静かに歩きながらココロは必死に鋼の能力者と名乗った男に呼びかけた。
(あなたは誰?どこにいるの?お願い、姿を見せて)
(姫、そのままお食事を。我がバディ、鋼のANTIQUEデュールが、敵の存在を感じ取っています)
ココロは驚きの余り立ち止まりそうになった。後ろの隊士の存在がそれを思いとどまらせた。
デュールと名付けられたらしい鋼のANTIQUEが感じ取ったと言う敵の存在も気になったが、それ以上にココロを驚かせたのは、今能力者の言った言葉だった。
(食事を摂れ?あなたは…あなたには私が見えているの?この小宮の中にいるの?)
(姫、何事もないようにお振る舞いを。敵は、我が陣内に入りこみ、味方の振りをして姫の近くに迫っております。この会話も察知される恐れが…)
(そんなばかな、私達の会話は他のANTIQUEにも聞こえないのでは?)
(私の声を他のANTIQUEに聞かれる事はなくとも、姫の声は全てのANTIQUEに届きます)
(だからと言って、何か問題がありますか?)
(それはまだわかりません。しかし、ご用心を。今夜半、お目にかかります、必ず)
(待って!あなたは…)
言いかけてココロはテレパシーを送るのをやめた。いつの間にか食堂に着いていた。ここからは、小宮の者達との会話が必要になる。集中しなくてはならなかったし、最早鋼の能力者から返事が返ってくる気がしなかった。