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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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キイタの想い

●登場人物

ココロ…アスビティ公国の公爵令嬢。自然界における始原の存在である”はじまりの存在”にバディに選ばれ、ANTIQUEのリーダーとして旅立った。

吉田大地…土のANTIQUEに選ばれた地球の少年。三番目の能力者としてココロの仲間になる。

シルバー…アスビティ公国元公軍隊長。鋼の能力を身に着け、最初の仲間としてココロの前に現れた。

キイタ…アスビティの隣国ンダライ王国第二王女。火の能力者。四番目のに仲間になった。

ガイ…アスビティ公国元公軍分隊長。雷の能力者として選ばれ、五番目の仲間となる。左腕は義手。


アリオス…アスビティ公国元公軍副分隊長。ガイの腹心の部下。冷静沈着で料理が得意。

ハリス…アスビティ公国元公軍隊士。ガイの仲間では最年少の十六歳。先の戦いで兄を失っている。



●前回までのあらすじ

ガイのバディである雷のANTIQUE、ウナジュウ。その名前に触発されたのか、米食に飢えた大地は軽いホームシックに罹ってしまう。アリオスからルードイルと言う国に大地の知る鰻重とよく似た食べ物がある事を聞いた大地は必ずその国で鰻を食べると誓うのであった。

一方、仲間達を置いて旅には出られない事を何とかココロに伝えようと緊張していたガイは、当のココロから先に自分の話しを聞けと説明を拒まれる。ココロはガイ以外の七人の山賊達に戸籍の回復を請願する公式文書を渡す。

部下の未来が保証された事を知ったガイは、涙ながらに五人目の仲間としてココロに付き従う事を誓うのだった。




「アリオス…」

 男達の泣き声が小さくなった頃を見計らい、シルバーがアリオスに近づいた。

「…はい」

 涙にれた顔を上げたアリオスが答える。シルバーは、最後に手の中に残った封書を彼に差し出して言った。

「これを領主様へ渡してくれ」

「これは…?」

「姫からの請願せいがんだ。あの戦争で行方知らずとなった隊士達をもう一度国を挙げて探し出してもらいたいむね、他に、国に戻った隊士を無条件で受け入れ国籍を復活させてほしい旨、更にそのような帰国者を迎え入れる事を世界的に発信してもらえるよう書かれている」

「何と…」

 アリオスが驚きの声を上げた時、不意にキイタが立ち上がりアリオスに近づいた。その手にもやはり一通の封書があった。

「アリオス、アスビティへ戻る途中ンダライを通りますね?今ンダライはポルト・ガスと言う代行執政官が一切を取り仕切っております」

 ココロとは対照的な、遠慮えんりょがちな声でキイタが言う。アリオスは小さな隣国の王女を黙って見下ろしていた。

「この中には、アスビティの戦争難民捜索せんそうなんみんそうさくの仕事を全面的に支援するよう書きえてあります」

「キイタ!」

 どうやらココロの作戦を知ったキイタなりの援護射撃えんごしゃげきであったようだが、ココロは聞いていなかったらしく驚いた声を上げた。見ればシルバーも同様に驚いた顔をしてキイタを見つめている。

 キイタは目を落とし、さみし気な笑顔のまま言葉を続けた。

「ンダライは今 復興(ふっこうの真っ只中ただなかにあります。期待程の支援はできないかもしれません…。でも、どうか私達にもできるだけの事をさせていただきたいのです」

「王女…」

 言うとアリオスはゆっくりとキイタの前に(ひざ)をつき、両手でキイタの手から封書を受け取った。

「何と、勿体もったいない…」

 キイタはアリオスのかたわらにしゃがむと、涙を浮かべながら言った。

「戦争とは何とひどいのでしょうね?何も知らなかった。私は今、とても恥ずかしい思いでいっぱいです。あなた達がこのような思いの中で、死ぬよりも辛い体験をしながら、国を守ってくれていたなど…知りもしなかった…」

 一度止まった涙が再びアリオスのほほを流れた。

「許してください。私はこの旅を終え国に帰った時、必ずや、必ずやおろかな争いのない国を作って見せます。その事を、今ここにいるあなた達の前で約束します…」

 アリオスは増々激しく泣きくずれた。頭を床にりつけんばかりに下げ、体中を震わせて泣いた。

 ココロは急に全員に背を向けると、食堂の出口に向かった。キイタの申し出にあふれ出た涙をかくそうとしている事はすぐにわかった。

「ココロ様」

 シルバーが呼び掛ける。するとココロは背中のままそれに答えた。

「やはりまだ眠い。もう一度寝なおします」

「かしこまりました」

 シルバーは笑顔のまま低頭しココロを見送った。大地は椅子から立ち上がると、そんなココロを追って部屋から出た。

「ココロ!」

 薄暗い廊下の途中でココロを呼び止める。ココロは立ち止まったものの、振り向きはしなかった。それにかまわず大地は言った。

「ごめん、悪かった」

「…何の事?」

「いや、約束だろ?山賊達を救ってガイを仲間にできたら謝るって」

「…」

 相変わらず振り向きもせずココロは黙ったまま立っていたが、その内ポツリと言った。

「そうだっけ?よく覚えてないや」

 まだ涙は止まらないらしい。大地は微笑んだままココロの背中を見つめた。

「大地…」

 ココロが言う。

「何?」

「ありがとう」

 そう言うとココロは、ハリスいわくスウィートルームと呼ばれる奥の部屋に向かって去って行った。その背中を見送った大地は急いで食堂に戻った。

 食堂は、先程と打って変わって大騒ぎになっていた。感動の涙が去り、歓喜の笑顔に満たされていた。

 大地は、シルバーの横に並んで立つガイの前に行くと右手を差し伸べた。

「土のANTIQUEの能力者だ。改めてよろしく」

「おう」

 すっかり笑顔になったガイが大地の手をしっかりと握る。熊のような凄い力だった。その時、大地の体が薄黄色に揺れるような光を放ち、その肩の上にテテメコが現れた。

「で、これが土のANTIQUE、名前はテテメコ。よろしくね」

「こりゃぁバディ共々、ちび助だなぁ」

「大きなお世話だよ」

 大地が笑ってやり返す。そばでシルバーとキイタも笑っていた。大地は後ろを振り返った。他の三人も大地の見た方に目を向ける。

 そこでは七人の男達が大騒ぎをしていた。未だに泣き続けている者もいた。はしゃぐように踊り狂っている者もいる。早速旅立ちの準備に取り掛かろうとしている数人を見て大地が言う。

「今にも出発しそうな勢いだけど…シルバー、大丈夫?」

「ん?そうだな。ココロ様が寝なおしてしまったからな。今日中の出発は難しいかもしれんな」

「え!」

 シルバーの答えに、キイタが絶望的な声を出した。大地にすればこの山賊達との別れが例え一日でも先延ばしにしなるのは嬉しい限りであったが、それに反しキイタは一秒でも早くここを出たいと思っていたのだ。

 しかしそんなキイタの思いに気づきもせず、ガイが出発は明日になる事を高々と宣言し男達は今夜もうたげだと更に気勢を高くした。


 秋を迎えているハンデルの日暮れは早い。ココロのお陰で帰国の目途めどがついた山賊達が喜びの涙を流してから数時間経った今、既に太陽は西に傾きつつあった。

 そんな中、気温も下がってきたと言うのにキイタは一人、森の中にある小さな草原でしゃがみ込んでいた。

「キイタ」

 そう自分を呼ぶ声に振り向くと、小屋の方から大地が駆け寄ってくる。キイタは特に立ち上がりもせず、大地がそばまで来るのを待った。

「少し冷えてきたねー」

 肩をすくめながら大地が近づいてくる。

「何をしていたの?」

 大地はキイタの隣に座ると、その手をのぞき込んだ。キイタが黙って差し出した手には草をんで作った小さな指輪があった。

「これキイタが作ったの?起用なもんだなぁ!いい?」

 大地はそう断ってからその指輪を受け取り、しげしげと見つめた。しっかりとみこまれた草は指先でつまんでも形がくずれる事はなかった。

 裏や表をひっくり返して見た大地は、そっとその指輪を自分の人差し指にはめてみる。指輪は大地の指の第一関節辺りで止まってしまった。

「俺には小っちゃいや」

 そう言って笑いながら指輪をキイタに返すと、キイタは微笑みながらそれを受け取り自分の指にはめた。キイタの細い指に草のリングがぴったりとはまる。

「こりゃかわいい」

 大地が言うと気を良くしたのかキイタは、指輪のはまった手を日にかざすように目の高さまで上げて見せた。それからふと気が付いたように大地に問いかけた。

「みんな食事の準備?」

「ああ、またみんな張り切っているよ」

「そう…」

 大地が答えるとなぜかキイタは憂鬱ゆううつそうな顔をして手をおろした。

「どうした?元気ないね?まだ疲れているんじゃないの?」

 大地が心配して声をかけると、キイタはため息をついて言った。

「ううん…。ただ、ちょっと気が重いの」

「何が?」

「…あのね…」

 少しの沈黙の後、キイタはぽつぽつと話し出した。

「私、あの男の人達決して嫌いじゃないの。いい人達だとも思うの…ただ…」

「そうか…キイタは、彼らが苦手なんだね?」

 言われた大地はすぐにわかった。

「こんな事を言う自分が嫌でたまらないのだけど…」

「いや、わかるよ」

「え?わかるの?」

「わかるよ、いい奴だとわかっていても苦手な人って、いるもんだよね?あ、それ言ったら俺なんかシルバーとか超苦手だし」

「うそ、二人仲いいじゃない」

 大地はそれをすぐに否定した。

「仲なんかいいもんか。ただシルバーはいい奴だし好きだよ?でも生きていた世界が違い過ぎると言うか、価値観が違い過ぎると言うか、彼の考え方にはついていけない時がある」

「生きていた、世界…」

「そう。王女様として育ったキイタと、軍人として、山賊として生きて来た彼らとがいきなり全部理解し合って昔からの友達みたいに振舞ふるまえと言ったってそりゃ無理な話だよ。でもそれは嫌っているのとは違う、そうでしょ?」

 キイタは、話す大地の顔をじっと見ている。

「キイタがみんなの為にポルト・ガスへの手紙を書いたり、彼らの話を聞いて戦争をしない国造りを誓った姿を見れば、キイタがみんなを嫌っている訳じゃないのはちゃんとわかるよ」

「嫌いなんかじゃない」

「そうだよね?」

「ただ…」

「苦手なだけ」

 大地はにっこり微笑む。

「そう…。そうちょっと、苦手かな?」

「わかった、じゃあ今夜のキイタの食事は部屋に運んでもらおうか?」

 大地がそう提案すると、キイタは突然立ち上がって言った。

「それはだめ!」

 大地はキイタの急な変わりように驚いてその顔を見上げた。

「あ…ごめんなさい…。でも私、夜の食事には出ます。ずっとココロのそばにいる。今夜はもう絶対ココロにお酒を飲ませない。そして、明日こそちゃんと出発するの!」

 キイタのなかなかの必死さっぷりに大地は吹き出した。

「わかった」

 そう言って尻のゴミを払いながら大地も立ち上がる。

「俺も一緒にココロを見張るよ」

「本当に?」

「ああ、本当だ。ココロに酒は飲ませない。約束だ」

 その時、草原を渡る風がキイタの赤い毛を巻き上げて走った。

「ほら、風が冷たくなってきた。もう帰ろう」

「うん」

 キイタは大地の言葉に素直にうなずくと、並んで小屋に向かって歩き出した。

 二人が小屋の裏手に差し掛かった時、そこにしゃがみ込んでいるハリスの姿を見つけた。大地とキイタはハリスの前に太い木の枝を地面に立てただけの粗末な墓標ぼひょうがある事に気が付いた。

 顔を見合わせ、どちらからともなくそっとハリスに近づく。二人が葉を踏む足音に気付いているはずだったが、ハリスはこちらを振り向こうとはしなかった。

「これが、お兄さんのお墓?」

ハリスのすぐ後ろに立った大地が声をかけた。

「ああ」

 ハリスは振り向かないまま、思いがけず明るい声で答えた。

「年は俺より五つ上でな。四年前にここで死んだ時、今のダイチと同じ十七歳だったよ」

 そう聞いて大地は改めて驚いた。今の自分と同じ年で剣を手に敵と戦い、そして死んだ。と言う事は、今目の前にいるこのハリスはその時 わずか十二歳だったと言う事になる。

 確かシルバーが士官したのは十五の年と言っていなかったか?一体どう言うシステムなのかわからなかったが、いずれにしても信じられないような話だ。大地の生きていた世界では、十二歳と言えばまだランドセルを背負って集団登校をしている年齢だ。

「最期の時まで国に帰りたがっていたが、死ぬ間際の言葉は、“ハリス、死ぬなよ”だった」

 そう言うとハリスは小さく笑った。

「おかしいよな?自分が死ぬ所だって言うのに兄貴は、俺の事を心配していた」

 大地は静かにハリスの横に座った。見上げる墓標代わりの木の枝には、デスターの愛用したものか一振りの剣がさやに納まったままくくりつけられていた。

「本当に、いい人だったんだね?」

「ああ。本当に、いい人だった」

 大地とハリスは黙ったまま墓標ぼひょうを見つめ続けた。

「さて」

 しばらくするとそう言いながらハリスが立ち上がった。

「いつまでもさぼっていちゃみんなにしかられちまう」

 そう言ってハリスは大地達に背を向けるとそのまま小屋に向かって去って行った。デスターをほうむったこの地を離れられずに、ここで山賊家業さんぞくかぎょうを始めたとアリオスが説明してくれた。

 明日になれば彼らはここから旅立つ。国に帰りたいと望みながら志半こころざしなかばで命を落とし、最期の瞬間まで弟の身を案じ続けたデスター。彼を置いていかなければならないハリスの気持ちは複雑だろう。

「大地…」

 キイタが大地の名を呼んだ。

「明日早起きをして、出発の前に手伝ってほしい事があるの」

 振り返った大地はキイタの顔を見た。

「うん、いいよ」

 キイタが一体何をしようとしているのかは全くわからなかったが、大地は自然とそう返事をしていた。










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