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ANTIQUE 作者:ook&yok
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シーリング・スタンプ

●登場人物
・ココロ…ANTIQUE一行のリーダーであるが、お転婆で涙もろいお姫様。最近意外と酒癖が悪い事が判明した。
・吉田大地…地球から時空を超えて仲間になった土の能力者。普段は冷静を通り越して冷血にも見える態度をとるが、実は隠れ熱血漢。
・シルバー…ココロに忠誠を誓うアスビティの剣士で鋼の能力者。戦闘能力はチーム中最強であり、幼いココロの補佐をするがプライドが高く感情的。
・キイタ…ンダライ王国の第二王女である火の能力者。心優しく、最も常識を心得ているが人見知りな上に自分を過小評価するネガティブ思考の人。

吊り橋の山賊
・ガイ…戦争で生き残った部下を引き連れ山賊の頭目に収まっていた雷の能力者。義と情に厚く、根っからのお人好し。がさつで物事を深く考えない直情型な性格。
・アリオス…ガイの補佐をするサブリーダー。ガイの人柄に惚れ込んでいるが人間的には遥かによくできた人。
・パッキオ…滅多に声を出さない巨漢の山賊。しかしながら冷静な判断と強力な戦闘力でアリオスと共にガイを補佐する。
・コスナー…酒豪でお調子者だが気のいい兄貴分として若手をまとめる。ガイ、アリオス不在時には現場指揮官として敏腕を振るう。
・ハリス…一味の中では最年少。冷静で観察力に優れている。また薬草に詳しく、メンバーが負傷した際には治療にあたる。
・マルコ…剣術ではアリオスに次ぐ実力者。彼をリスペクトし過ぎて最近では料理の腕前まで盗もうと奮闘中。
・エミオン…少々臆病で気の弱いところもあるが、心根の優しい青年。火器の取り扱いに長けており、また一味の中で最も俊足。
・ユーリ…細かい事は気にしない若者。いつも天然でとぼけている為、一味のいじられ役になっている愛すべき青年。

前回までのあらすじ
 果てしなく続く宴の席を抜け出したシルバーは、そこでガイから一緒に旅には出られないと打ち明けられる。自分がいなくなった後の部下達の事を思うと、彼らを置いてここを離れる事はできない、そうガイはシルバーに打ち明けた。説得を諦めたシルバーは、その旨自分の口からココロに伝えるようにとガイに言う。
 偶然二人の会話を聞いてしまった大地は、酒に酔い上機嫌になったココロを台所に呼び出すと、頭から水を浴びせかけた。山賊達が国に帰る事ができない現状をココロに訴え、何とかしろと彼女を焚きつける。
 大地の言葉と態度に怒り狂ったココロは、自分の手で何とかして見せると啖呵を切った。果たしてココロは山賊達全員を救い、無事ガイを仲間にする事ができるのか?
 翌日―――。目を覚ました大地は体の痛みに驚いた。かたい床の上で眠ってしまった後遺症こういしょうらしく、体中のあちこちがギシギシときしんでいるようであった。
 苦し気な声を上げながら両腕を伸ばす。一息ついて周りを見回すと、そこかしこに山賊達が眠り込んでいる。大地が眠る時にはいなかったはずのシルバーも、いつの間に戻ったのかかたわらの椅子いすで腕を組んで眠っていた。
 ふと気が付くと、小屋の中には何とも言えない良いにおいが充満じゅうまんしていた。それに気づいた大地が鼻をひくひくと動かしたその時、空気を引き裂くような銅鑼声どらごえが響き渡った。
「おらぁ、てめぇらいつまで寝ていやがる!朝だぁ、起きろぉぃ!!」
 驚いた大地が声の方を見ると、昨夜大地の体を軽々とかつぎ上げた巨漢きょかんの山賊、パッキオが怒鳴り散らしていた。
 辛そうな声を上げてもぞもぞと体を動かす仲間達の体をり飛ばし、乱暴に叩き起こしていく。ふと、そんなパッキオと目が合う。
「お、起きてます、起きてます」
 自分までり飛ばされてはかなわないと思った大地が慌てて申告する。
「おうダイチ。朝飯になる、顔を洗ってきな」
 そう言ってパッキオは薄汚れた布きれを大地に投げて寄こすと、再び他の連中を起こしにかかった。
 大地は投げられた布を手に持つと早々に食堂を出た。こんな明るい内から起きてちゃんと朝ご飯を食べるとはなんて健康的な山賊達なんだ。
 そんな事を考えて苦笑いをしながら大地が台所に差し掛かると、そこではアリオスが一人、全員分の朝食作りに奮闘ふんとうしていた。どうやら先程感じた良い匂いの正体はこれであったらしい。
 大地は手早く作業をするアリオスの背中を見ながら、彼らが過ごしてきた四年間の生活に思いをせた。こんな風に彼らは一生懸命に生きてきたのだろうな、と。
「おはよう」
 大地は、アリオスの背中に声を掛ける。
「おお、ダイチか?」
 料理の手を休めず背中のままアリオスが返事をする。
「もうすぐできるからな!」
「うん」
「よく眠れたか?」
「う…うん、お陰様で」
 そんな事は全くなかったが、大地は取り敢えずそう答えておいた。
「そうか、それは良かった」
 初めて振り返ったアリオスは笑顔を作ってそう言った。その顔を見た大地は本当に、本当に彼らの事が大好きになっている自分に気が付いた。
 忙しく働くアリオスに気を使い、大地はそのままそっと台所を出た。出た先にキイタが立っていた。
「あ、おはようキイタ。…どうしたの?何だか顔色が良くないけど?」
「うん」
 青白い顔をしたキイタは照れたような微笑で答えた。
「ちょっと夜更よふかししちゃって…」
「また?ンダライ城にいる時も眠れないって言っていたけど」
「うん…それとはちょっと、違うんだけど…」
「まだ寝ていた方がいいんじゃない?」
「うん…だけど…大丈夫、起きる」
「そう…。あ、もうすぐ朝食だって」
 そう聞くとキイタは、小さなため息をついて言った。
「それは…私はいいかな?」
 そうかもしれない。昨夜散々飲み食いしたのだ。やはりまだ体の小さな十三歳なのだろう。若い山賊達に混じってった食事はキイタには重過ぎたのかもしれなかった。
 キイタと別れた大地が表の水瓶みずがめで顔を洗っていると、パッキオに起こされた面々がれぼったい顔をしながらぞろぞろと出て来た。みんな行儀ぎょうぎよく一列に並んで洗面を済ませていく。
 つくづく悪人の似合わない男達だ。何だか可愛らしいものを見た思いで大地が笑いながら食堂に戻ると、アリオスとマルコがテーブルの上に配膳はいぜんを済ませていた。
 煮込み料理や卵料理などが主で、朝からすごいボリュームだ。主食はやはりパンのようだった。うまそうなにおいがただよっていたが、大地はなぜか食欲がわかなかった。腹は空いていたのだがどうにも食べる気になれない。
 大地にはその理由がわかっていた。自分は米にえているのだ。プレアーガに来て十日程が過ぎていた。それでもまだ旅は半分も終わっていない。こんな事なら白米と梅干を持って来ればよかったと大地は後悔した。どうやらホームシックとは、食から始まるようだ。
「ねえ、アリオス」
「ん?」
 大地の問いかけにアリオスが顔を上げる。
「鰻重って、知ってる?」
「ウナジュウ?」
「そう、ウナギをさ、こう、開いて米の上に乗せた…」
「おお、ウナギか!」
「そう、ウナギ」
「ウナギは世界中色々な国で食われているがな、残念ながらこの辺じゃあ獲れない。それに、どこも大概たいがいぶつ切りにして揚げるか、焼くか、煮込むか…。米も、この辺りでは食わないしな…」
「アリオスあれじゃない、ウナジュウって前にお頭が言ってた…」
 そこでマルコが口を挟んだ。そう言われたアリオスは、準備の手を止め少し上を見上げるようにして何かを思い出そうとする表情を見せた。しばらくすると小さく声をあげた。
「ああ、あれか」
「何々?」
 興味を引かれた大地が聞く。
「うん、東方にルードイルと呼ばれる小さな島国がある。その国は独自の文化を築いていてな、外国との交易こうえきをずっとこばんでいたのだ」
 話し出したアリオスを見てマルコが一人で準備を進めた。大地は手近な椅子に腰かけると、アリオスの話をしっかりと聞く体制を整えた。
「もう七年…いや、八年前になるか?そのルードイルと言う君主国に自由交易を持ち掛ける為の使者としてアスビティ公国の貴族が遥々おとのった事がある。その時入隊直後だった分隊長は警護要員として同行したのだ」
 そこまで話すとアリオスも大地の前の椅子に腰かけた。
「さっきも言った通りルードイルは小さな島国だ。主な産業は農業と漁業で、国民の数も大した事がない。だがその先の大陸をのぞんだ時、交易こうえき拠点きょてんとしても、軍事的拠点ぐんじてききょてんとしても実に都合の良い場所にあったのだ。そこで、世界中の大国がルードイルに開国を迫り、使者を出していた。ルードイルの国民は政治的にはかたくなであったが、心根こころねは優しく、使者の一団を手厚くもてなしてくれたそうだ。ただ…」
「ただ?」
「うむ、もともと粗食そしょくな国民ばかりのせいか、出てくる食事は貧相ひんそうで満足のいかないものばかりだったそうだ。量も少なければ味も薄いと来ている。国民も皆体が小さくやせ細っていたと聞く。」
そう言うとアリオスは、目の前のコップに茶をついで唇を湿らせると続けた。
「特に農業中心の島国なだけにその内容はほとんどが穀物こくもつ海産物かいさんぶつで、結局最後まで肉は出てこなかったそうだ。国土は狭いが四季があり、自然豊かな国だから当然動物もいたのだろうが、そもそも肉食の文化がなかったようだな」
 聞きながら大地は歴史の授業を受けているような気分になった。
「ただ、そんな中一度だけ口にしたウナギの料理だけはえらく感動したと分隊長が事あるごとに言っていた。俺達には想像もつかないがな、甘いような、辛いような不思議な味に煮詰められたウナギを、米の上に乗せた食べ物で、それが確かウナジュウ、と言ったような…」
(アリオス、それだよ)
 大地は悩ましい表情をして目をつむった。
「だが大地の言うような開きではなかったそうだが?分隊長もウナギ料理は食った事があるそうだが、その料理は世界中のどのウナギ料理とも違いとても美味びみであったそうだ」
 大地は大きくため息をつくと顔を伏せた。
「どうしたダイチ?」
 アリオスが心配してのぞき込む。
(ああ、米が食いたい)
 こうなってみて初めて当たり前のように出てきていた親の手料理のありがたみを感じる大地であった。そしてこの旅の間に何としてもルードイル国の鰻重を食ってやる、と固く胸に誓うのであった。
 大地達がそんな話をしている所へ、顔を洗い終わった面々がどやどやと入って来た。にぎややかな朝食が始まった。しかし、その席にはココロとキイタはつかなかった。
「ココロは?」
 大地はシルバーに声をかけた。するとシルバーは小さく笑って答えた。
「昨夜は大分楽しまれたようだ。まだ眠っている」
「そう」
 言いながら大地はそっとガイの顔を盗み見る。にぎややかで怒声どせいや笑い声の絶えない山賊達の朝食の席で、ガイだけは言葉少なく黙々と食事をしていた。
 恐らく、これからココロに対して共ができないと伝える事に少なからず緊張しているのだろう。昨夜眠る前に自室にシルバーを呼び、遅くまで何やら作業をしていたようであるが、さて、ココロは一体どうする気なのだろう?山賊を全員救った上でガイを仲間に入れて見せると言い放った昨夜のココロの怒った顔を大地は思い出していた。

 朝食が終わった後、山賊達は日課となっているらしいそれぞれの仕事に従事じゅうじしていた。
 薪割まきわりをする者、狩りに出かける者、小屋の修繕しゅうぜんをする者…。しかしそんな中、ココロが目覚めない限り出発もできない大地達はする事もなく漫然まんぜんと時を過ごしていた。
 寝起きのひどい有様ありさまでココロが食堂に入って来たのは、間もなく昼になろうかと言う頃であった。出かけていた者達も既に戻り、部屋の中には全員が顔をそろえていた。
「おはようございます」
 一番に声をかけたのはシルバーであった。シルバーの声でココロに気が付いた元アスビティ公国特別行動騎馬隊々士であった山賊達は一度に立ち上がり続いて挨拶あいさつをした。
「おはよう…」
 まだ半分眠ったような声でココロが答える。ガイの表情は一層緊張の度合どあいを増し、大地も心配そうにココロの言動に注意を向けた。ココロはゆっくりとした動きでテーブルにつくと言った。
「だれかお願い、飲み物をいただける?」
 その言葉に一番若いハリスとマルコがはじかれたように立ち上がり、冷ました茶の入ったコップを持って来た。
 のどを鳴らして茶を飲むココロを見つめていた大地の隣に、どこへ行っていたのかキイタが静かに座る。キイタがそっと大地の手に自分の手を重ねてきた。
 驚いた大地がキイタの顔を見ると、自分を見つめるキイタの大きな目とぶつかった。
(大丈夫)
 声には出さなかったが、キイタの口がそう動くのを大地は見て取った。
「え?」
 何の事かと大地が口にしかけた時、茶を飲み終えたココロが大きく息をついた。
「ありがとう」
 ココロはそう言うと、自分を見つめる男達の中にアリオスの顔を見つけ微笑んだ。
「アリオス、不思議ねあなたのお酒。あんなに飲んだのに全然頭が痛くなったりしないの」
「それが自慢でして」
 アリオスが少し胸を張るようにして誇らしげに言った。
「あの…」
 ガイが体に似合わぬ小さな声で言いながらココロの前に進み出た。
「姫、お話が…」
 ココロは目の前に立つガイの顔を下から見上げるようにしながら言った。
「今すぐでなくてはだめ?」
「できますれば…」
「そう…」
 いよいよだ。大地はそう思い、手に汗を握る思いで成り行きを見守った。
「では、その前に私の話を聞きなさい」
 ココロはガイを見上げながら気怠けだるそうに言った。ガイは慌てたように言い返す。
「いや姫、できれば私の話を…」
「シルバー」
 ココロはガイの言葉を完全に無視してシルバーを呼んだ。
「はい」
 シルバーが静かに立ち上がり近くへ寄る。シルバーはなぜか小さな荷物を手に持っていた。
「例のものを持ってきてちょうだい」
 尊大そんだいとも思える態度でココロがシルバーに命じる。部屋にいた男達はその雰囲気に何かが始まる予感を覚え、お互いの顔を見合わせた。
「それでしたら既にここに」
 そう言ったシルバーは手に持った荷物の中から封書ふうしょの束を出して見せた。
「あなたから、お願い」
 そう言うとココロは椅子の背もたれに深く身を預け、目をつむってしまった。
「かしこまりました」
 シルバーはそう言うと不思議そうな顔で自分を見つめる山賊達に目を向けた。手にした封書の一つに目を落とし、その表書きを確かめると声に出して読み上げた。。
「アリオス」
「はい?」
 アリオスが何事かと返事をすると、シルバーは無言で一番上に重ねた封書ふうしょをアリオスに差し出した。訳がわからぬままアリオスがそれを受け取ると、シルバーはすぐにアリオスから目を離した。
「パッキオ」
「え?」
 いきなり名前を呼ばれたパッキオは面食らったように言ったが、やはりシルバーは何の説明もなく同じように封書ふうしょを差し出した。
「ああ、はい」
 戸惑とまどったように受け取り、その封書を確かめる。驚いた事に封書の裏はココロの封蝋印ふうろういんめられていた。アスビティ公国 公女こうじょとしての公式な文書であった。
 驚いて顔を上げたパッキオはアリオスを見る。アリオスも狼狽うろたえた表情でパッキオを見返していた。
「コスナー」
「エミオン」
「ユーリ」
「マルコ」
「それに、ハリス」
 シルバーは次々と山賊達の名前を呼びながら一人に一通ずつ封書ふうしょを渡していった。何が起きているのかさっぱり理解できないガイは、ただ無言でシルバーの行動を見ていた。
 大地もココロとシルバーが何をしようとしているのかわからずに黙っていた。ただ、隣に座るキイタだけはココロ達が何をしようとしているのかわかっている様子だった。
 全員に封書を配り終わったシルバーが静かにココロの脇に立つ。全員に配ったはずであったが、シルバーの手にはもう一通封書が残されていた。
 シルバーが横に立ったのを確かめたココロは、だるそうに天井に向けていた顔を正面に戻すと静かに立ち上がった。目の前に並ぶ男達は皆一様に教師に呼び出された中学生のような不安そうな顔をしていた。
 ココロは一度その男達の顔を見回すと、静かな声で話し出した。
「今渡した手紙は、私の父に宛てたものです。私の紋章もんしょうが押された公文書こうぶんしょです」
 そう言われた七人の男達は、一斉に手の中にある手紙を見た。公爵令嬢の封蝋印ふうろういんが押された領主宛ての公文書こうぶんしょ。それは一介いっかいの隊士であった彼らにとってただの紙以上の重さを感じさせた。
 中には慌てて両手で大事そうに持ち直す者もいた。そんな彼らの驚愕きょうがくを気にもめず、ココロは話を続けた。
「中にはあなた方一人一人の氏名、所属隊しょぞくたい出生履歴しゅっせいりれき、両親の名前及び、四年前の戦争に従事じゅうじした事が書かれています」
 そう言われてもまだ男達はそれに何の意味があるのかわからなかった。ただ一人、封書ふうしょを渡されなかったガイも、これから起きようとする事が何なのか明確に知る事はできなかった。
「全ての手紙に、アスビティ公国々民としてあなた達の国籍を復帰させるように請願せいがんした一文が記されています」
 ココロがそう言った瞬間、全員が驚いた顔を上げココロを見た。
「それを持ち、アスビティ公国公爵宮へお行きなさい。かならずや国民として受け入れられる事でしょう」
 ココロは普段の子供のような態度とは打って変わり、威厳いげんに満ちた声で男達を真っすぐと見たまま言った。
復職ふくしょくしくはその後の生活が安定されるようはかる事、一度支払われた家族への遺族見舞金いぞくみまいきん返還へんかんを求めない事もあわせて書かれている。安心してほしい」
 ココロの言葉をおぎなうようにシルバーが優しい声で言い加えた。
 言葉もない七人の男達は飛び出さんばかりに目を見開き、更に重みを増した手の中の封書ふうしょを見た。
(なるほど)
 大地は息を吐きながら背もたれに体を倒した。ココロはこれを考えていたのだ。そして一人一人の名前や経歴(けいれきを詳しく聞き取る為に昨夜、自分の部屋にシルバーを呼んだのだ。
 大地は、にやりと笑った。
(やりよるのぉ)
 旅の装束しょうぞくを身にまとい、ボロボロの小屋の中に座るココロとその横に立つシルバーの姿は、しかし、どんな豪華ごうかなお城の中にいる時よりも、どんなに立派な服を着ている時よりも光り輝く威厳いげんに満ちた姿に見えた。大地は体中に鳥肌が立つのを感じた。
 と、突然奇妙な声を上げてエミオンがひざまずいた。そのまま体を前に倒す。
「帰れる…国に、帰れる…」
 切れ切れにそうつぶやくエミオンは泣いていた。落ちる涙に手紙がれないように封書ふうしょを両手で押し頂くように頭の上に掲げている。
 エミオンに続いてユーリが、マルコが、コスナーが、そして巨漢のパッキオまでもが涙を流し始めた。
 髭面の屈強くっきょうな男達が次々とくずれるようにして泣き始める。やがてその押し殺した鳴き声は号泣ごうきゅうへと変わり、慟哭どうこくとなり、まるで絶叫のような声となって部屋を満たした。
 シルバーが静かにガイを見る。血の気を失ったような表情のガイは、言葉もなく泣きくずれる仲間達の姿を呆然ぼうぜんと見つめていた。
「ガイ」
 その声にハっとしたようにガイが顔を上げる。見ればココロが静かな眼差しで自分を見返している。
「アスビティ公国の為、よく働いてくれました。そのように恩あるあなた方に対し国の取った政策は決して正しくはなかった。公国公女として、改めてびる」
 ガイはおびえているようにも見える表情で首を振った。
「今の私にはこんな事しかしてやれぬ事も、申し訳なく思っている」
 ガイは更に大きく首を振る。そうする度に大粒の涙が床に散った。
「約束しようガイ。お前の部下達の未来は、アスビティ公国が責任を持って守る。だからどうか、私についてきてほしい。お前の力が私には必要だ」
おおせのままに!」
 驚きのあまり大地の体が五cm浮き上がる程の大声でガイは言うとその場に片膝かたひざをつき、ココロに絶対の忠誠ちゅうせいを誓う態度を見せた。
おおせのままに!このガイ、今一度この命を姫にお預けいたします!お預け…い、いた…」
 その先は流れ落ちる涙にさえぎられて言う事ができなかった。
「五人目…」
 大地が小さくつぶやき、隣に座るキイタを見た。キイタは満面の笑みで大地を見返した。その嬉しそうな笑顔の瞳には、とても綺麗きれいな涙の粒が光っていた。













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