最後の宴
●登場人物
・ココロ…14歳の少女。アスビティ公国領主の娘であり、ANTIQUEのリーダー、はじまりの存在のバディでもある。
・吉田大地…17歳の高校生。地球人であり、土のANTIQUEのバディ。
・シルバー…28歳の剣士。元はアスビティ公国の公軍隊士。鋼のANTIQUEのバディ。
・キイタ…13歳の少女。ンダライ王国の第二王女にして、火のANTIQUEのバディ。
吊り橋の山賊
・ガイ…24歳の元アスビティ公国特別行動騎馬隊分隊長。雷のANTIQUEのバディ。戦闘のプロであり、人情家。自らを犠牲にしても誰かを救おうとするその人柄に部下からの信頼も厚い。
・アリオス…27歳の元アスビティ公国特別行動騎馬隊副分隊長。冷静な判断力でガイを補佐するチームのサブリーダー。
・パッキオ…26歳の元アスビティ公国特別行動騎馬隊隊士。大柄で無口。アリオスと共にガイの補佐をする。
・ハリス…16歳の元アスビティ公国特別行動騎馬隊隊士。チーム最年少。4年前の戦争で兄を失っている。
・マルコ…17歳の元アスビティ公国特別行動騎馬隊隊士。年の誓いハリスとは何かと一緒に行動する。
・コスナー…24歳の元アスビティ公国特別行動騎馬隊隊士。チームの中堅で若手のまとめ役。
・エミオン…20歳の元アスビティ公国特別行動騎馬隊隊士。明るくチームのムードメーカー。
・ユーリ…19歳の元アスビティ公国特別行動騎馬隊隊士。少々抜けているが気の好い男。
●前回までのあらすじ
シルバーの裏切りが誤解であった事を知った山賊達の胸から、数年間蟠ってきた恨みの怨念は氷解した。戦後自分達の安否を心配し続けたシルバーの想いに触れ、涙ながらに和解した彼らはココロ達一行を自分達のあじとである木こり小屋へと案内する。
半刻後―――。
ガイ達山賊一味に連れられたココロ達は、そのあじとである粗末な丸太小屋に落ち着いていた。
「よぉーし!宴の準備だぁ!」
小屋に着くなり男達はそう叫ぶと、それぞれ準備に散っていった。今、食堂となる部屋の中には五人の能力者がいた。
その他に、ガイの部下の中で一番若いハリスが、シルバーとガイの治療の為残っていた。
「はい、次はお頭ね」
治療と言っても煎じた薬草を布に塗って作った湿布を傷口にあて、包帯で抑える程度の事だ。それでも、ガイに食らった電流の為に体のあちこちにできた火傷には、その薬草が心地よく沁みた。
「痛ぇ!痛えなこの野郎!」
シルバーの鉄拳で殴られた口元に小さな湿布をあてられたガイは、大袈裟に騒いだ。
「子供みたいに騒がないでくださいな。隊長の方がよっぽど重症なんですよ?なのに、声も出さなかったじゃないっすか…」
ハリスがぶつぶつ言いながらガイの治療を続ける。
「うるせぇ!」
「ああ、はいはい動かない動かない。はい、おしまい」
そう言うとハリスは治療を終えた。
「まったく…お~痛ぇ」
恐る恐る口元をさすりながら言うガイに、服を着たシルバーが話しかける。
「ガイ、聞かせてくれないか?あの戦争の後、お前達がどう言う経緯でこのテリアンドスまで来て、何故山賊の真似事などするようになったのか」
それを聞くとガイは、自嘲のような笑みを浮かべ、話し始めた。
「なに、経緯って程のもんはないっすよ。とにかく、あの戦いを生き残った俺は、他にも生きている仲間がいないか戦場中を捜し回り、何とか八人になった」
「私は、一人も見つけられなかったというのに…もう少し、時間をかけて捜せばよかった…」
「まだ敵がいるかもしれない、新手が攻めてくるかもしれないと言うあの場所で、隊長がたった一人で?そんなの無理に決まってるじゃないっすか」
再び自責の念に駆られ、顔を伏せるシルバーにガイが言った。
「その通り」
そう言いながら人数分のコップを乗せた盆を手にしたアリオスが部屋に入ってきた。
「さぁ、どうぞ」
アリオスは部屋の中の一人一人にコップを配りながら言った。
「我々はあの時、死人も同然の有様でした。分隊長は左腕を吹き飛ばされ、完全に気を失っていましたし、ここにいるハリスなど、恐怖のあまり周りの死体を自分の上にかぶせて息を潜めていたのです」
「いや、もう怖くて怖くて…」
アリオスに名指しされたハリスは照れくさそうに頭を掻いた。
「あの数百の死体の中で生者と死者の識別などとても無理。まして、見つかるまいと隠れるような奴を見つけるなど、できる筈がない」
「しかし…」
尚も言おうとするシルバーを遮るようにガイが言った。
「なぁ隊長、もうやめにしようぜ、キリがねぇ。あんたは俺達を捜してくれた。国に帰った後も捜してくれた。俺達はそんな事とも知らずにあんたに逆恨みをしてきた、それだけの話だ」
「ガイ…」
「もっとも、逆恨みでもなんでも、そのお陰で何があっても生きてやろうって気にはなりましたけどね。正直、何とかアスビティに帰ろうとしたんだ。だが、このテリアンドスで力尽きた」
すると突然ハリスが叫んだ。
「デスターが、兄貴が死んだんです!」
その言葉にシルバーだけでなく、大地も、ココロ、キイタも顔を上げた。
「覚えていますかシルバー隊長?あいつら…あの時の敵、最新兵器の“火薬”を使っていたじゃないですか?」
シルバーも覚えていた。火のついた鉄球の中には炸裂する火薬が仕込まれており、引火すると鋭い鉄球の破片が近くにいる者の体を引き裂くのだ。そんな物騒な武器を敵は石投げの要領で投げつけてきたのだった。
ハリスは冷静な声に戻って話し続けた。
「その一発が、兄貴の足元に落ちた。分隊長はアホだから、左腕一本でデスターを庇おうとして…」
そこまで言うとハリスは、辛そうに言葉を切った。
「…ん?おい、お前今アホだからって言ったか?」
暫くしてからガイが言われた事の失礼さに気が付き、抗議した。
「だって、そうでしょう?あんなもん、人間の腕一本でどうにかなる訳ぁないのに…。結局分隊長はアホだから左腕を失って、デスターも重症を負った。でも、ここに着くまでデスターは生きていたんです。他のみんなも全員大けがしてるってのに、分隊長はアホだから、自力で歩けないデスターを絶対に見捨てなかった、絶対に!」
「褒めるのかけなすのかどっちかにしねぇかこの野郎!」
「この小屋の裏に、デスターは眠っているのですよ」
最後にアリオスが、ぽつりと言った。
力尽き、倒れた仲間の葬られた場所を離れる事ができず、そのまま居ついて山賊になったのだ。そうアリオスは言った。
凄まじい話だった。彼らは事も無げに話すが、その戦場の描写は衝撃であった。特にココロとキイタにとっては、身近な存在であった軍人が、普段はあんなに優しく笑う彼らが、自分達の知らない戦場でどんな体験をしたかを知り、泣き出しそうな思いに駆られた。
「まぁ、結局…」
ガイがため息交じりに言った。
「国から給金をいただき、剣を抜くか、馬を乗り回すしか能のない俺達には、山賊になる他生きていく術がなかったって、まあそんな、恥ずかしい話しさ。たまたまこのテリアンドスは鉄鋼業の盛んな国だった。取り敢えず、こんな鉄の腕をつけてみた」
「一体、どんな仕組みで動いているの?それ」
大地が興味津々に聞く。
「仕組みなんかねぇさ。もともとは単に手の形をした鉄の塊だったんだ。三年前、ウナジュウと出会った後、この腕が自由に動くようになった。同時にあの雷の力を手に入れたって訳さ」
気にするな、と言われても気にしない訳にはいかなかった。シルバーは改めてあの日、彼らを見つけてやれなかった自分を恨めしく思い、今からでもしてやれる事はないかと考えていた。
それはココロとキイタも同じだった。やり場のない、取り返しのつかない悲しみや、悔しさや後悔に言葉を失い、しんみりと顔を伏せた。
「はい、おまちどーさまー!」
そんな雰囲気を一気に吹き飛ばすように、国境の山賊達がどやどやと部屋に入ってきた。皆、手に手に料理を盛りつけた皿や、酒樽を抱えている。
「うひょぉ!すげぇ!」
そのボリュームに大地が感嘆の声を上げる。
「お、来た来た」
ガイが腰を上げる。
「話は終わりだ。今日は全力で歓迎するぜ、隊長、ココロ姫、キイタ王女。山賊料理をとっくり味わってくれ」
そう言っている間にも、男達が小ぶりな酒樽から杯を満たしていく。
「おら」
マルコと呼ばれた若い男が、そう言いながら中身の溢れた杯を大地の前に乱暴に置く。
「いや、俺酒は飲めないから…」
と言ったものの、誰も聞いていない。ガイが真っ先に杯を持つと、声高らかに音頭を取り始めた。
「全員聞けぃ!今日はめでてぇ日だ、俺達の恨みは終わった…ようやく、戦争は終わったんだ。祝おう!すべてを水に流して、浴びる程飲んで、俺達の過ごした四年の月日を今夜取り戻す…覚悟して喰らえ!!」
そう言ってガイが手に持った杯を高々と上げた瞬間、男達が小屋全体が揺れる程の声を上げながら杯をぶつけ合い、宴が始まった。
とっくに終わった筈の戦争を、このような人里離れた森の中で今も尚終えられなかった男達がいた。その傷跡を癒す術もなく、恨みと怒りで自らの精神を引き裂きながら生き続けてきた男達…。しかしそれも、男同士の一対一の戦いとココロの平手打ちで、今ここにようやく終結したのだ。
全員が笑い、泣き、歌い、栄光のアスビティ公国特別行動騎馬隊の隊士であった男達は、恐らくは今宵が最後となるであろう、山賊としての自由で、下品で、荒っぽい宴の席に心ゆくまで酔いしれた。
大地はとにかく食った。どれもこれもただ塩をかけて丸焼きにしたような料理ばかりだった。季節柄か、果物はあったが野菜はまるでない。肉、肉、肉のオンパレードだ。しかし、うまかった。どう言う訳だか、昨日まで食べていたンダライ城で出された洗練された美しい料理よりも、こちらの方がずっと口に合った。
一心不乱に食らいつく大地に、ハリスが声をかける。
「よく食うな客人、うまいか?」
「うー」
口いっぱいに肉を詰め込んだ大地は、肯定の呻き声を上げる。
「酒も飲めよ、アリオスさんお手製の果実酒だ、最高だぜ?」
「もえままめふぁもえまい、みうもうえ…」
「あ?何だって?」
大地は涙を浮かべながら必死に口の中のものを飲み込むと、周りの喧騒に負けないように大声でハリスに言った。
「俺はまだ酒は飲めない、水をくれ!」
するとハリスは、まったく理解ができないと言った様子で、きょとんとした顔をした。
「酒が、まだ飲めないってのは、どう言う事だ?」
「まだ酒が飲める年じゃないの」
「酒を飲んじゃいけない年なんてあんのか?だいたい客人、あんた一体いくつなんだ?」
「十七だよ」
そう大地が答えると、ハリスの目がこれでもかと言う程見開かれた。驚きの余り声が出ないようだ。
「じ…十七ぁ!?」
「そうだよ、それがどうかした?」
「うそだろ?おぃ、俺より一つ年上じゃねーか!」
ハリスの言葉に今度は大地が驚いた。
「なーにぃー?まじか!あんた、十六ぅ?あんたが、十六歳?え?十六?」
目の前のハリスはこの中で一番若いようではあったが、それでも背は大地より頭一つ大きく、その上顔の下半分は伸び放題の髭で覆われている。大地から見れば三十代にも見えた。
お互いの年齢を知りそれぞれ言葉も失くす程驚いたが、そこで大地がはっと我に返り言った。
「何だよお前、十六のくせに酒なんか飲んで、だめじゃんか!」
「だから何で飲んじゃダメなんだよ!」
「お酒は二十歳になってから!」
大地は、プレアーガで通用する筈もない地球の標語を力強く言った。
「ばか言うな!俺が十六で酒飲んじゃだめなら、あれはどうするんだ!」
そう言ってハリスが指さす先ではココロが数人の男達から次々と酒をつがれ、またそれをひょいひょい平らげている。
「お…」
そう言って大地は次の言葉がなかなか出てこなかった。
「ココロ!」
それでも何とかそう叫ぶと、はしゃぐ男達を掻き分けココロのもとへと走り寄った。
「何やってんだよココロ!」
そう言うなり大地は、ココロの持つ杯を奪い取ろうとした。
「お、何だ何だ?」
「なんだいきなり!」
周りの男達から一斉にヤジが飛ぶ。ココロはいい加減笑顔を赤く染め、大地に言った。
「どうしたの大地?これすっごいおいしい。こんなの飲んだ事ないよ?」
「でしょぉ?これはアリオスさんお手製の果実酒で、まずお城なんかじゃ飲めないっすよ」
ココロのすぐ傍にいたエミオンが、さっきハリスが大地にしたのと同じ説明をし始めた。
「いや、ココロ…」
大地が言いかけると、後ろからハリスが叫んだ。
「おい、みんな!何と驚け、そちらのお客人、年は俺より上の十七歳だそうだ!」
「何ぃ!?」
ハリスの声を聞いた男達は、本気で驚き、叫んだ。
「何て小さいんだ!」
「本当に十七か!?」
「絶対に栄養が足りてないぞ客人!もっと食え!」
「小さい時ちゃんと食べさせてもらえなかったのか?」
口々に大地に向かって叫び始める。
「うるさいな!確かに背は大きい方じゃないけど、栄養は足りてるよ!」
「おい、ぼうず、高い高いしてやろうか?」
山賊の中でも一際体の大きなパッキオが、ずいっと前に出てきた。勿論大地をからかっているのだが、それを相手にムキになる大地ではない。
「おぅ、おもしれーじゃねーか。やってもらおうか!」
売り言葉に買い言葉のように受けて立った大地は、両手を左右に大きく広げて見せた。
「どうれ」
そう言うとパッキオは丸太のような腕を大地の両脇に差し込むと、一気にその体を抱え上げ、肩車をした。周りの男達が爆笑しながら囃し立てる。
「おーぼうず、いきなり背が伸びたなぁ!」
「どうだ客人!俺達を見下ろす気持ちは!」
すると大地がパッキオの頭をペタペタと叩き始める。乱雑に乱れた長髪の山賊達の中で、パッキオだけはただ一人頭髪のない坊主頭であった。
「やい海坊主、しっかり立ってろよ!」
大地がそう言うと男達がまた一際大きな笑い声を上げる。
「海坊主はよかった!」
「うまい事を言うな客人!」
そんな男達に向かい、大地が天井に届きそうな位置から叫びおろす。
「やいお前ら!俺はぼうずでも小僧でも、客人でもない!俺の名前は大地だ!覚えろ!」
「いいぞダイチ!」
「気に入ったぞダイチ!」
男達は叫びながら大地に向かって酒を浴びせかける。
「やめろ!酒はいらない、肉をよこせ!」
「そら、ダイチ!」
大地が堪らず叫ぶと、山賊の一人、コスナーが両手で抱えた肉の塊を大地に投げてよこす。肉にかかっていたソースがパッキオの顔にかかる。更に笑いは高まった。
「ダイチ!ダイチ!」
誰からともなくダイチコールが始まり、テーブルや皿を叩き、椅子を鳴らしての大合唱となった。
その中心に立つパッキオの肩の上で、豪快に肉に噛り付いた大地に歓声が沸く。すっかり大地を主役に盛り上がるのを尻目に、ついにココロは一人 手酌で酒を啜り始めた。
「あれは、何者なんです?」
盛り上がる宴を眺めながらガイが隣にいるシルバーに尋ねる。
「あれか?名前は大地。土のANTIQUEの能力者だ。何者かと聞かれると、何なのかな?頼りになる仲間である事は間違いがない。だが、実のところ私もまだ掴み切れていないのだ。冷たいと言えるほど冷静で理論的かと思えば、時に熱く感情的にもなる…。」
「へぇ…」
シルバーの説明にもならない説明を聞いたガイは、珍しいものでも見るような目でパッキオの肩に乗った大地を見つめた。
「私は、既に魔族と戦った」
「え?」
ガイが唐突に言い出したシルバーの顔を見る。シルバーは薄く笑いを浮かべ大地を中心に騒ぐ男達を見ながら言った。
「危なかった、挫けそうになった…」
「隊長が?まさか」
「いや、本当さ。しかし大地がいたから乗り切れた。勿論、キイタ様にも助けられたし、ココロ様がいなくてはこうしてお前に会う事もできなかった」
そこで初めてシルバーはガイを見た。
「魔族に対して、私一人の力などたかが知れている。だが我らANTIQUEの能力者が十一人 揃えば必ず勝てる。私は大地と出会って今日までの間にそれを確信した」
ガイは一度伏せた目をすぐ大地に向けると呟くように言った。
「そう、ですか…」




