五人目の声
●登場人物
ANTIQUE
・ココロ…アスビティ公国令嬢にして、始原の存在であるゲンムに選ばれた能力者。ANTIQUE一行のリーダーとして仲間を探し続けている。
・吉田大地…土のANTIQUEに選ばれた地球の少年。闇のANTIQUEに攫われた幼馴染、白石ましろを救い出し、共に地球に帰る事を旅の目的としている。
・シルバー…鋼のANTIQUEに選ばれた能力者。アスビティ公国随一の剣の使い手である。ココロには絶対的服従を誓っている。
・キイタ…火のANTIQUEに選ばれたンダライ王国の第二王女。敵の手に落ちたと思われる双子の姉、イリアを探しだし、一緒に国に帰る事を目的として仲間になった。
・テテメコ…大地をバディに選んだ土のANTIQUE。身長1m程の男の子の姿をしている。
・デュール…シルバーをバディに選んだ鋼のANTIQUE。体長は2m以上。銀色の鎧を纏った獣の姿をしている。
アテイル一族
・クロノワール…アテイル四天王の一人。「剣の竜」の異名を取る作戦司令官。
・メロ…アテイル四天王の一人。「撃の竜」の異名をとる女戦士。ANTIQUEとの初戦に敗れ重症を負う。
・ダキルダ…アテイル四天王を補佐する魔族。敵でありながら何故かココロのテレパシーを聞く事ができる。
●前回までのあらすじ
メロの呪いから目覚め、全ての記憶を取り戻したンダライ王国代行執政官のポルト・ガスは、自らの行いを悔い、王権をキイタへ返還する事を申し出た。しかしキイタはココロと共にANTIQUEの戦士として旅立つ事を決意し、その申し出を拒む。途方に暮れるガスを支えたのはそのガスに一度は罷免されたかつての仲間達であった。正気を取り戻したガスは、そんな仲間達とンダライ再建の誓いを立てた。
一方ドルストの宿からンダライの塔での戦闘を通じ、敵を倒す事の辛さを痛感した大地にゲンムは、魔族は死なない、と説明をする。アテイルをはじめとする三種の魔族は全て肉体を失った後は、元いた「虚無」へと帰るだけなのだと言うのだ。その言葉にようやく笑顔を取り戻した大地を囲み、戦いを終えた一同は、束の間の休息を得るべくンダライ王宮へと向かう。
そんなココロ達一行の姿を物陰から見つめる二つの影があった。深い恨みを露わにするこの影の正体は一体…?
ハドリア国、ライドマリネ渓谷に隠れ建つ死者の城。その謁見の間の中央では今、心身ともに打ちのめされたメロが苦し気な呻き声を上げながら横たわっていた。
メロの顔を焼き続けた火のANTIQUEの炎は、クロノワールの手によって今ようやく完全に消す事ができた。
しかしメロの受けた被害は相当に酷かった。首から上は完全に火にまかれ、それが数時間に渡り燃え続けたのだ。その火を消そうと払った両手もまた、肘の近くまで熱傷で爛れていた。
「ううう…」
食いしばった口から低い呻き声を漏らしながらメロは、その焼け焦げた両腕で体を起こそうとした。
「メロ、まだ無理をするな」
付きっ切りで火を消す為に尽力したクロノワールがメロを制そうとした。その途端、上半身を起こしたメロの頭から栗色の髪の毛がごっそりと抜け落ちた。
「あ…あぁ!ああ!」
兜に守られた頭頂部付近を除き、長く豊かにたなびいていた自慢の髪の毛は全て燃え尽き、バラバラと床に散り落ちた。
メロは絶叫を上げ、両手を頭に当てた。
「メロ!」
クロノワールが厳しい声を出す。しかし頭に当てた手をそのまま顔に下したメロは、更に大きな悲鳴を上げた。
「顔、顔が…、私の顔が!」
手に触れる自らの顔は、ごつごつとした溶岩のような手触りであった。戦闘前の、陶器のような滑らかな肌はどこにも感じる事ができなかった。
見るまでもなく、その顔は以前の面影もなく焼け爛れている筈であった。
狂ったようなメロの絶叫を止める事を諦めたクロノワールは無言で立ち上がると、メロを置いたまま謁見の間から立ち去ろうと歩き出した。
「クロノワール様…」
喉の奥まで焼き尽くされたのか、その声はまるで老婆のようにしわがれていた。
呼び止められたクロノワールは振り返る。床に手をつき半身を起こしたメロは、決してクロノワールに顔を向ける事なく言った。
「殺してください」
「それはできぬ」
「すぐに蘇ってみせます!生産者の手によって、すぐに戻って参ります!」
「できぬ!マニチュラーの生み出す事ができるのは下等竜の肉体のみだ。それも、失敗する可能性を秘めている。兵士ならばそれもよかろう、しかしアテイル四天王の肉体精神をそのまま蘇らせる事など、如何に生産者といえどもどだい無理な話だ。それがわからぬお前ではなかろう?」
やがて、二人きりの謁見の間に、メロの嗚咽が響き始める。その背中は、以前同様、美しいシルエットを保っていた。
人間であれば確実に命を落とす重症であった。しかしアテイルであるメロにとって、今まで通り戦う事にさして障害にもならぬ傷であった。
肉体の美しさに絶対の自信を持っていたメロにとって醜い姿のまま生き続け、この先も親愛の情深いクロノワールと共に過ごさねばばらない現状は、むしろ死ぬよりも残酷な事であった。
それがわかるだけに、クロノワールもかける言葉を持ち合わせなかった。しかし、こうなった原因は、メロ自身にある。今の状況で、わずか四人とは言え、ANTIQUEの能力者と一戦を交えるとは、早まったとしか言いようがない。
「次の戦いまで体を休めておけ。今、四天王を抜ける事は許さん」
そう言い捨てて、クロノワールは謁見の間を出た。出た所にダキルダが立っていた。
「ああなる前に手だてはなかったのか?」
クロノワールがダキルダに尋ねる。
「恐れながら、既に手遅れであると申し上げました」
感情のこもらない声でダキルダが答える。クロノワールの顔を見ようともしない。
「ンダライの塔で、何人の同胞が死んだ?エルーランも、戦死したとか?」
「仰る通りエルーランは戦死いたしました。最後の最後まで、能力者にたった一人挑み続けた見事な最期。今回の能力者 討伐の為にメロ様の召喚されたアテイルは一人残らず倒されました。一人、残らず」
「お前はそれを、見ていたのか…」
そこでダキルダは初めてクロノワールに顔を向けた。
「私は戦闘員ではございません。四天王の補佐役でございます。この非力な体を投げ打ち無謀な戦いに身を投じるよりも、委細逃さず見届け、クロノワール様にご報告申し上げる事こそ本命と考えた次第です」
淡々と話すダキルダを、クロノワールは無言で見返した。
「ご異存がございますれば、何なりとご処分を」
ダキルダが更に言うとクロノワールは、静かに目を逸らした。
「異存?…異存などはない」
「では、次のご指示を」
ダキルダは変わらず感情のこもらない声で言った。
「メロは暫く作戦から外す。ANTIQUE共の動向はどうか?」
「始まりの存在は未だンダライの国から出てはおりませぬ。闇夜では動けぬ人間共の事。恐らく出立は夜明け以降かと」
「では、奴らから目を離すな」
そう言ってクロノワールはダキルダに背を向けると、長く暗い廊下を去って行った。
「は」
ダキルダはその背に答え軽く一礼をすると、自分もクロノワールに背を向けた。
次の瞬間、ダキルダの背後で凄まじい轟音が鳴り響いた。何事かと振り向いたダキルダは、怒りと屈辱に体を震わせたクロノワールが、廊下の壁に拳の一撃を食らわすのを見た。
一人 謁見の間に取り残されたメロは、再び震える両手で自らの顔を撫でていた。何度触ってみたところで何も変わらなかった。
ひび割れたような顔の皮膚が時々黒い煤となって足元に落ちた。二目と見られぬその焼け爛れた顔の中でも、右頬にとりわけ深く走る一本の傷を感じる事ができた。
右腕を剣に変えたシルバーが与えた傷である事はすぐにわかった。
「火のANTIQUE…。ンダライ王国第二王女、キイタ…」
呆けたように空を見つめたままメロが呟く。
「鋼の、ANTIQUE…」
言いながらその焼き尽くされた頬を伝い、止めどなく涙が溢れ流れ落ちた。
「殺す…。お前達は、必ずこのメロが殺して見せる…」
止まらぬ涙を流したままメロは笑った。笑うとその口元がバリバリと音を立て、ひび割れた肌が床へと剥がれ落ちていった。
アテイル四天王が一人、撃の竜メロに暗い怨念に満ちた誓いを立てられているとも知らず、遠く離れたンダライ城の一室ではシルバーがベッドの上に地図を広げていた。
すぐ隣のベッドではやはり疲れたのであろう、大地が泥のように眠っていた。ンダライの塔での戦いから既に四日が経っていたが、大地は未だに戦いの疲労を強く残しているようであった。
「う~~~~~ん」
そんな声を上げて突然大地がむっくりとベッドの上に起き上がる。焦点の合わない目でキョロキョロと周りを見回すと、髪の毛をバサバサと掻き毟りながら床に降りた。
「どうした?まだ眠っていていいんだぞ?」
「………おしっこ」
大地は半分以上目を閉じたままドアに向かった。ドアノブに手をかけた大地がぼんやりした声で言う。
「ここ、どこだっけ?」
「おいおい、しっかりしろ大地。ンダライ城だろうが」
「………………」
しばらく大地はドアノブを握ったまま無言で立ち尽くしていた。
「あ…そっか」
そう一言 呟くと、大地はドアを開け廊下へと姿を消した。
「まったく」
シルバーは苦笑いと共に呟くと、再び広げた地図へと目を落とした。アテイル一族が侵入していた第二境界警備小宮を焼け出され、半ば追われるように隣国であるンダライ王国へと入ったココロとシルバーであったが、今後はもっと計画的に動く必要がある。
そう考えたシルバーは、あてがわれた部屋の中で不自由な足を投げ出したまま地図を睨み、明日からの行程を考えていた。
暫くすると大地が戻ってきた。そのまま無言で再びベッドへと潜り込む。すぐにまた眠ってしまうのかと思われたが、それに反して大地がシルバーへ声をかけた。
「まだ寝ないの?」
「ん?ああ、もう少しな」
シルバーがそう答えると、大地はもぞもぞとベッドから這い出し、近づいてきた。シルバーの傍らに立ち、首を傾げるようにして一緒に地図を覗き込む。
「難しい顔しちゃって、何してるの?」
「ん?そろそろ出発する事をな」
「そっか…。で、どうするの?」
「そうだな…」
そう言うとシルバーは、自分の考えを話し始めた。
「ココロ様のお考えでは、なるべく人の多いところを目指したいという事だった」
「そうだね」
「そうなると、とりあえずの目的地はクナスジアだと思う」
「クナスジア?」
それは、シルバーの左遷のきっかけとなったアスビティ公国の友好国の名ではなかったか?
「ここだ」
そう言ってシルバーは広げた地図の一点を指し示した。
「クナスジアは、現在世界一の大国だ。経済的にも、軍事的にも、政治的にも、人口も。何もかも、正にこのプレアーガ全体のリーダー的な存在だ。世界中の人種が集まっている国だと言っても、過言ではない」
なるほど、地球で言うところのアメリカみたいなところか。と大地は思った。
「今、俺らはどこ?」
「ンダライはここだ」
シルバーが更に別の場所を指し示す。
「遠いね」
「遠いな。しかしまあ、とりあえずの目的地だ。ここを目指す間に他の仲間が見つかればそれでよし。問題は、そこに行くまでの行程だ」
「行程?」
「はっきり言って、世界中のどこを通っても最終的にはクナスジアに辿り着く。だが、そのルートは様々だ。地球から来た大地にはわかり辛いかもしれないが…」
そう断ってからシルバーは、ンダライを指した指をそのまま南下させた。
「南へ下れば、隣国はシュードルと言う君主国になる。小さいが、活気のある港町だ。ハンデルの町からだと少し距離があるし、その先へ進むにはどうしても一度船に乗って海を渡る必要があるが、時間や手段を択ばないのであれば人も多いし、比較的安全な道だと思う」
そう言うとシルバーは動かした右手の指を再びンダライに戻し、その指を今度は上に上げた。
「逆に北へ迎えば、ジルタラス共和国がある。アスビティ、ンダライの両国と北側で国境を成す国だ。国境までの距離はシュードル国よりも近いが、何せ道が険しい。切り立った岩山だらけの土地だ」
もう一度指をンダライに戻し、今度は地図の右側、東の方向に滑らせた。
「最も近いのはこの東の隣国、テリアンドス帝国を目指す事だ。国境はこのハンデルの町からそれ程遠くはない」
「何か問題でも?」
大地が尋ねる。
「いや…ただ…」
「ただ?」
「うむ…テリアンドスは、アスビティ公国やンダライ王国に比べ国土が広い。都市部はむしろアスビティよりも栄えている位だが、ンダライから入国すると、まずは荒涼とした広大な土地を抜け、山を越える事になる」
「険しいんだ?」
「いや、平地が多いのでそれ程でもない」
「じゃあ、悩む事ないじゃん」
「険しくはないが、ここを踏破するには数日はかかる。宿は勿論、そもそもほとんど人の住んでいない場所だ。野生の動物もいる。そんな中で野宿をしながら進む事になる」
「何だ、それを心配してるの?だから…」
「大地の言いたい事はわかる。我々は皆、その位の覚悟を持ってこの旅に臨まなくてはならない。それは前も聞いた」
大地は黙ったままシルバーの次の言葉を待った。シルバーは言いかけた口を開いたまま、大地の顔を見つめ、固まってしまったように動かない。
暫くするとシルバーはようやく大地から目を逸らすと、大きくため息をついた。
「なあ大地。確かにこのまま旅を続ければ、いつかは野宿をする必要も出てくるだろう。だが、まだ早すぎるとは思わないか?」
そう言いながら、見返した大地が口を挟む気がないのを見たシルバーは続けた。
「ココロ様とキイタ様は、それはお強い覚悟を持ってこの旅に出ている事はわかる。しかし、お二人とも一国の王女だ。今までこのような経験をした事はない。ココロ様と共にいるゲンムは、元々戦闘向きの能力がある訳ではないし、キイタ様は…」
シルバーは一度言葉を切ると、軽くため息をついた。
「まだ、ANTIQUEの能力者としての自覚が浅い。それは、先日の戦いでよくわかった筈だ…。どうしても、お二人を守りながらの道程になる。私と、大地と二人でだ」
大地は目を落とし、考え込む表情をした。どうやら完全に目が覚めたようだ。
「言いたくはないが、そう言う大地も…」
自分の名前が出てきたところで大地がもう一度顔を上げる。
「お前だって、実際に戦闘をしたのは初めてだろう?この四日、まるで死んだように眠っていたぞ?」
「そりゃ仕方ないでしょうよ。めっちゃ疲れたもん」
「そうだ、仕方がない。だが、今の我々で今後アテイルのような敵を相手にするんだ」
大地の頭に、シルバーを手玉に取ったメロや、大地の能力をいとも簡単に躱すエルーランの姿が蘇った。
「お二人が戦力とならなければ、我々二人の戦闘員としての負担は大きくなる。このままの状態が続けばいずれは…恐らく、私、大地、キイタ様の順で倒されていくのは目に見えている」
「やなこと言うなぁ」
「だが現実だ。みっともない話だがな、事実私は深手を負った。だが、今後も戦いになれば率先して前に出なくてはならないのは私、次がお前だ。これはもう男女が同じ部屋に泊まるのがよくないとか、そう言うレベルの問題じゃない」
「…確かに。戦闘だけを考えれば、俺やキイタがバディに選ばれる訳ないもんな。あくまでも、ANTIQUEの声や姿を見聞きできる者、と言う条件の中での人選だったんだろうな」
シルバーの言うもっともな話に、大地はそれ以上返す言葉もなくもう一度地図を見下ろした。今の話を聞けば、当然道は絞られる。明日は南へ向かい、シュードルと言う港町を目指すのが一番だと思えた。
「何とか早くキイタに目覚めてもらう事だね」
地図を睨み無言の二人の耳に、そんな声が聞こえてきた。
「え?」
驚いた大地が顔を上げると、いつの間にか自分の左肩にひょっこりテテメコが顔を出していた。
「テテメコ」
「どう言う意味だ?」
シルバーがテテメコを見上げながら聞いた。
「キイタがね、早くフェルディの力を使いこなせるようになればいいんだよ」
テテメコが、無邪気な声でそう言った時、傍らのナイトテーブルに置かれた銀色のメダルから、デュールの声がした。
「その通り。全てにおいてキイタとフェルディのシンクロが重要なカギとなる」
「キイタ様と、炎のANTIQUEがカギとは、どういう意味だ?デュール」
シルバーが、ぼんやりと光を放つ卓上のメダルに話かける。
「だって」
続けたのはテテメコだった。
「十二のANTIQUEの中で、最も大きな破壊力を発揮できるのは火の力だもの」
「キイタが完全にフェルディの力を使いこなせるようになれば…」
デュールが後を引き継いで話し始める。
「十一人の中で最も強い戦士となるだろう」
大地とシルバーは、二人のANTIQUEの話に顔を見合わせた。あの体の小さなキイタが、ほとんど城からも出た事がないと思われるキイタが、メンバー最強の戦士。そう言われてもにわかには信じられなかった。
「まあ、そうなるまでは、何とか二人が体を張ってココロとキイタを守るしかないね」
そう言うとテテメコは大地の体を降りて、ちょこちょこと床を歩きだした。よじ登るようにベッドに上がると、トランポリンの要領で一人遊びを始めた。テーブルの上のメダルは光を納め、もう声を出さなかった。
「まあ、いずれにせよ…」
大地が、部屋の静寂を破るように話し出した。
「今のところは俺ら二人が踏ん張るしかないと言う事だね」
「そうだな、それにしても厳しい事に変わりはない。せめてあと一人、戦闘向きの能力者が現れてくれれば…即実戦で使えるような…」
「ないものねだりをしても仕方ないね。ま、次の能力者がシルバーみたいな軍人である事を祈るばかりだな。次もお姫様だったりして」
「冗談ではない。これ以上守る対象が増えたら、それこそどうにもならなくなってしまう」
「そうだねぇ」
言いながら大地は自分のベッドへ向かうと、キングサイズのそのベッドに仰向けに倒れこんだ。
二人が無言で今後の事を考えていると、部屋の扉を叩く音がした。大地とシルバーは目を見交わした。
「どうぞ、開いてますよ」
代表して大地が答えると、静かに扉が開き顔を覗かせたのは、今話題になっていたキイタだった。
「キイタ様…」
シルバーは慌てるように地図をどけた。
「あ、動かないで。あら、テテメコもいるの」
キイタは、遊び疲れてベッドの上におとなしく座るテテメコを見て微笑んだ。
「どうしたの、こんな時間に?ん?ってか今何時?」
大地が誰ともなく聞いた。
「何だか眠れなくて…二人の部屋に明かりが見えたものだから…」
キイタが消え入るような声を出す。
「ココロは?もう寝た?」
大地が尋ねるとキイタは静かに首を横に振りながら言った。
「ココロは今、他の仲間に必死にメッセージを送っているわ。少し休んだらって、言ったのだけど」
能力者は自分達の発信や受信の能力をコントロールする事ができる。ココロは同じ城にいる三人の仲間を除いてテレパシーを発しているらしい。如何にもココロらしい気遣いだった。
「ココロね」
再びキイタが話し始める。
「すごく気にしているみたいなの」
「気にしてるって?何を?」
「この間の戦いでね、自分だけが何の役にも立たなかったって。だから一日も早く次の仲間を見つけ出すのが、今の自分の役目なんだって言って休もうとしないの」
「何と…」
シルバーが絶句する。
「そんな事、気にしなくていいのに…」
ココロの思いがわかるだけに、大地もそれ以上言葉がなかった。
「そうだよね、それを言ったら私なんか仲間も見つけられないし、戦う力もないし…」
キイタが寂し気な微笑みのまま言う。正直、たった今キータの戦闘力について悩んでいた男達は何と言っていいかわからず気まずく押し黙っていた。
と、キイタが思いつめたような顔を二人に向けて言った。
「ねえ。私、本当についていってもいいのかしら?ただの足手まといにならない?」
「いや…」
「そんな…」
大地とシルバーが同時に否定の声を上げようとした時、テテメコが割り込むように声を出した。
「なるだろうね」
三人の人間は、一瞬テテメコの言葉の意味が分からず言葉を失った。そんな三人を見回して、テテメコがもう一度言う。
「足手まといに、なるだろうね」
「テテメコ!」
シルバーが咄嗟に声を出すが、最早取り返しはつかなかった。キイタは顔を伏せ小さく呟いた。
「そう…だよね」
「だからさ」
慌てて取りなそうとするシルバーを抑え込むようにすぐにテテメコが話し出す。
「キイタが早く火の能力を強くすればいいんだよ」
キイタが顔を上げ、テテメコを見る。
「でも、私にできるかな?」
「何も体を鍛えろとか、力持ちになれって言ってる訳じゃないし。武器を上手に使えって言っている訳でもないし。ただ、フェルディを受け入れてシンクロする事。そうすればキイタの力はどんどん強くなっていくから」
テテメコの話に、大地とシルバーはデュールの言った最強の戦士は火の能力者だと言う言葉を思い出し、互いを見合わせた。
キイタは、今テテメコに言われた事を考えているのか、そのまま黙り込んでいた。
「あ…」
暫くそうしていたキイタが思い出したように声を出した。二人の男はその声にキイタを見る。キイタはシルバーに向かって言った。
「シルバー、ケガの具合は?」
「お陰様で。ンダライは織物だけでなく、医学も見事なものをお持ちです」
「城の医師団が驚いていました。とても人間とは思えない回復力だと」
「はい、生まれてこの方、このようなケガをした事がないので少々心が挫けてはおりますが。実は既に右足を地につけて歩く事ができます」
「え!そうなの!?」
聞いていた大地が驚きの声を出す。
「ああ、本当だ」
「では、医師たちの言う事は決して大袈裟ではなかったのですね?」
「私自身驚いているところです。これも、ANTIQUEの特殊能力の一つなのでしょうか?」
シルバーがそっとテーブルの上のメダルを見ながら言った。
「そりゃそうだよ」
人間達の会話を黙って聞いていたテテメコが言い出した。
「自分の手足として使おうと思っていた人間が体が不自由じゃあ、話にならないからね。でも、光のANTIQUEがいれば回復はもっと早い」
「そうなの?」
大地が聞く。
「光のANTIQUEの能力は仲間の回復だ。傷ついた者を癒し、完治させる」
「何と頼もしい。一日も早く仲間にしたいものだ」
シルバーが言う。しかし大地は知っていた、その頼りになる筈の光のANTIQUEは今、暴走を続ける闇のANTIQUEを追ってこの時空の狭間のどこかを飛び回っている筈だ。
「歩く位ならさほど不自由はございません」
そう言ってシルバーはベッドから降りると、両の足を床につけて立って見せた。
「だめだよ、無理はしないで…」
慌てたキイタが一、二歩シルバーに歩みかけた時、突然部屋の扉が勢いよく開かれた。驚いた三人が扉の方を見ると、そこには息を切らしたココロが立っていた。
「ココロ様?」
「どぉしたのココロ?」
シルバーと大地が声を出した。ココロは、呼吸を激しくしたまま立ち尽くし、なかなか話そうとしない。
「よもや、またあのダキルダとか言うアテイルが?」
シルバーがそう言いかけると、ココロは激しく首を振りそうではない、と言う意思を見せた。
「聞こえたの…」
ようやくココロが声を発した。
「五人目の能力者の声が、私に答えたの!!」
「えぇっ!?」
ココロの言葉に三人は、大声を出した。




