頂上決戦
●登場人物
ANTIQUE
・ココロ…幼いころから予知能力を持っていた為、「始まりの存在」であるゲンムに選ばれた公国令嬢。来年母国で成人を迎える予定の14歳。
・吉田大地…土のANTIQUEに選ばれた地球の少年。右腕から発動させる能力で石や土を自在に操る。17歳の高校二年生。
・シルバー…剣術と馬術に秀でた戦士。鋼のANTIQUEに選ばれ能力者として目覚める。その才能を買われ、21歳の若さにしてエリート部隊の隊長に抜擢された。現在28歳。
・キイタ…内気で人見知りであるが、誰よりも国を愛する大国の王女。双子の姉を補佐し、母国発展の為に人生を捧げようと胸に誓っている現在13歳。
アテイル
・メロ…アテイル四天王と呼ばれる首領格の一人。歪んだ性格で、残酷。人が苦しむ姿を見るのが何より好き。
・エルーラン…アテイルの戦士。部下同胞への想いは強く、一族の絆を何よりも重んじている。
●前回までのあらすじ
敵の手に落ちたココロとキイタを救うべくンダライの塔へと飛び込んだ大地とシルバーは、次々と襲い来る敵を打ち払い二人の囚われている最上階へとあと一歩のところまで来ていた。
そんな二人の前に、ココロ達を攫った張本人であるアテイルの戦士エルーラン率いる五人の強敵が現れる。四人の猛者をシルバーに任せた大地は、単身エルーランへと挑み掛かるが、土の能力の性質を見破られ、徐々に防戦一方へと追い込まれていく。
そしてついに一瞬の隙をついたエルーランの剣が、大地の首を狙い大きく振り上げられた。
(間に合わない!)
大地は、自分の首が切り離されるのを覚悟し、固く目を瞑った。次の瞬間、敵を一掃したシルバーが、迫るエルーランと棒立ちの大地の間に雄叫び(おたけ)びを上げながら割り込んできた。
デュールの力を発動させたシルバーはエルーランの剣を左腕で受けると、右手に持った剣を振り下ろした。
エルーランはすぐさま後方へと飛び、これも躱す。目を開けた大地の前にシルバーが立ちはだかる。
「大地!戦士として戦う以上、首が体から離れる時まで目を瞑るな!諦めた瞬間、敗北は決まる!」
そう言われた大地だったが、そもそも戦士ではない。へたへたと足の力が抜け、その場に尻をついてしまった。
恐怖なのか、安堵なのか自分でもわからなかったが、とにかく足に力が入らなかった。しかし、闘争心だけはまだ失っていなかった。
「何とかしなきゃ、何とかしなきゃ」
呟きながら、言う事を聞かない両足を拳で殴りつける。脇にある階段が目に入った。上に向かう階段…、あそこを上がれば、ココロとキイタがいる!
大地は、大声で叫ぶと、再び巨大に膨れた右腕をシルバーの足元に叩きつけた。そこから大きな亀裂が一直線にエルーランめがけ伸びて行く。
完全に大地の技を見切ったエルーランは軽々と宙に舞い、これを躱す。次の瞬間、獣のような声を上げながら大地が床に置いた右腕を頭上に大きく振り上げた。
すると、驚いた事に、床を走っていた亀裂が、エルーランを追うように後方の壁を這い上っていく。
「うぉ!?」
虚を突かれたエルーランが、空中で背後の壁を振り向きながら叫ぶ。既に止められず、足をつけた壁が音を立てて崩れる。
空中でバランスを失い、床に背中から落ちたエルーランの上から、崩れた壁の破片が次々と降り注ぐ。
「シルバー!階段だ!」
大地が叫ぶ。一瞬、階段とエルーランを交互に見たシルバーは、一直線に階段へと向かう。大地も、その後を追って走った。その時、体の上に崩れ落ちてきた瓦礫を四方八方に弾き飛ばしながら、エルーランが立ち上がった。
僅か一飛びで二人が登る階段の下までやって来たエルーランに、階段の上で振り向いた大地が攻撃を加える。
エルーランの登りかけた階段が崩れ落ちていく。その隙に大地とシルバーは階段を駆け上がって行った。最上階へと続く階段を。
大地が振り向くと、薄暗い階段の先に不気味に輝く二つの赤い光が見えた。脅威の跳躍力で、崩れた階段に飛びつき追ってきているエルーランの目が、炎のように光っているのだ。
両手両足を使いながらよじ登り、そのまま四つん這いの姿勢で追いかけてくるエルーランの姿は、最早体長二mを超す巨大なトカゲ以外の何物でもなかった。
「早く早く!」
大地は、先に行くシルバーの背を押すように急かした。にも関わらず、シルバーは立ち止まった。
「何やってんだよシルバー!追いつかれちまうだろ!」
大地は後方から迫るエルーランと、シルバーの背中を交互に見ながら叫んだ。それを無視するようにシルバーが呟いた。
「最上階だ…」
「え?」
大地はシルバーの体越しに前方を見た。今まで通過してきた各階と変わらず、そこに部屋の入口が見えた。
「行こう、シルバー!このままここにいてもやられちまう!」
「あそこに、ココロ様が…」
「シルバー早く!」
シルバーは、一際強く剣を握りなおすと、一気に残りの階段を駆け上がった。大地は振り向きざま、更に一発壁を叩いた。
天井に向かって壁を走った亀裂は、迫るエルーランの真上で広がり、再びその上から瓦礫の雨を落とした。
奇妙な声を上げてエルーランが潰される。しかし、息の根を止めたとはとても思えなかった。大地は、階段を見上げる。既にシルバーの背中は部屋の入口に差し掛かっていた。大地も、慌ててその後を追う。
「ココロ様ぁ!」
シルバーが絶叫しながら部屋に突入する。大地も続いて部屋の中へと入った。その部屋は、今までのどの部屋よりも明るかった。壁中に開けられた窓穴からは、午後の日差しが燦燦と差し込み、豪華な大理石の床や、真っ白な太い柱を照らしていた。
その部屋の中央に置かれた椅子に、ココロとキイタがそれぞれ縄で縛られた姿で座っていた。
「シルバー!大地!」
ココロが、身動きの取れないまま叫ぶ。そこへ、立ち塞がるように一人の女が現れた。アテイル四天王の一人、「撃の竜」メロだ。
メロは、長い鞭を床に垂らし、不敵な笑いを浮かべながら二人の能力者を待ち受けていた。
「待ちわびたぞANTIQUEの能力者共」
長身の女は一瞬大地とシルバーが動きを止めてしまう程美しい姿をしていた。そんな二人の反応に満足そうな笑みを浮かべた女が続けて言った。
「我が名はメロ。アテイル四天王が一人。さあANTIQUEの能力者達よ、見事この私を打ち倒し、姫君を救ってみるがよい」
「ココロ様、キイタ様、いましばらくのご辛抱です」
一瞬気を削がれたシルバーは、メロの言葉にすぐ意識を取り戻しそう言うと、右手の剣を体の脇へ上げ攻撃態勢に入った。
大地は、後方から追ってくるであろうエルーランを警戒し、部屋の入口から目を離さない。
一つ気合いを入れるように声を上げたシルバーがメロを倒そうと一歩踏み出した瞬間、メロの右手が目にも止まらぬ速さで振り上げられた。その手に握られた鞭が伸び、シルバーの剣に絡みつく。
「う!?」
相手の思わぬ攻撃にシルバーが一瞬怯む。しかし相手はどう見ても腕の細い女だ。力比べならば決して負けはしないと考えたシルバーは、その輝く鞭を振り払おうと剣を両手で持ち、強く引いた。
その瞬間だった。シルバーの公軍 随一と言われた自慢の大刀が、まるでチーズでも切るように音もなく三つに分断された。破壊された剣は音を立ててシルバーの足元に散らばった。
驚きに声も出ないシルバーに、間髪入れずメロの第二の一振りが襲った。咄嗟に体を鋼鉄に変えたシルバーが左腕でそれを受ける。
「ぐぁ!」
しかしシルバーは苦痛の悲鳴を上げた。メロの鞭が掠めた左腕がめくれ上がっている。
メロが高らかに笑いながら頭上から次の鞭を振り下ろす。横っ跳びに床を転がりながら、シルバーはこの攻撃を避けたが、今までに経験した事のない焼けるような痛みが左腕に走っている。
休む事なく仕掛けられるメロの攻撃が、床に膝)ひざ)をついたシルバーの右足首を襲う。それを受けたシルバーの体が一瞬宙に浮きあがり、尻もちをついた。
「シルバー!」
ココロが悲痛の叫びを上げた。その時、入口から猛獣のような雄叫びをあげながら、エルーランが侵入してきた。
すぐに大地を見つけたエルーランは、恐ろしいスピードで大地に襲い掛かる。崩れた階段を這いあがる為剣を捨てていたエルーランは、その巨大な拳を振り上げ、大地に殴りかかって来た。
大地に躱されたエルーランの拳は、固い大理石の床を叩き割った。
「冗談じゃねぇよ」
顔面を蒼白にした大地が呟く。あんなパンチを一発でも食らったら、自分の頭は熟れたトマトみたいに簡単に潰れてしまう。
背中から後頭部にかけて、悪寒が一気に駆け上がってくる。大地は恐怖でいっぱいになりながら、エルーランの次の攻撃に備えた。
メロの鞭に打ちのめされたシルバーは焦っていた。鞭の当たった右足首にも強烈な痛みが走っている。見れば、くるぶしの辺りがざっくりとえぐれていた。
「なぜだ…」
シルバーが呟いた。デュールの能力を発動しているにも関わらず、相手の攻撃を跳ね返す事ができない。
メロが静かに笑いながら動けなくなったシルバーにゆっくりと近づいてくる。
「お前は鋼の体を持つ能力者か」
メロが、立ちあがる事のできないシルバーを見下ろしながら言う。
「無駄だ、この世に竜の鱗うろこ)に勝る硬度をもつ物質は存在しない」
シルバーは、声もなくメロと言うアテイルを見上げた。その顔には絶望が広がっていた。メロの持つ鞭を形成している鋭い刃物の一枚一枚は、竜の鱗であると言うのか。
「理解したか?例えお前がダイヤモンドの体を手に入れたとしても、私の攻撃を防ぐ事はできないのだよ」
メロの両目に、残忍な光が燃え上がる。じわじわと獲物を嬲り殺す快感に浸りきっているようであった。
(だめだ…)
ダイヤモンドでも歯が立たない刃物に、鉄の固さでどう立ち向かえと言うのか…。ちらりと横を見れば、部屋の端で大地が一方的に敵の攻撃を受けている。辛うじてその攻撃を躱すのが精いっぱいのようだ。
しかし、躱すばかりで攻撃に転じる事ができなければ、いずれはやられてしまうだろう。
ココロとキイタを見る。二人とも絶望の表情でシルバーを見つめている。汗が大量に流れる。呼吸を乱しながらシルバーはメロを見上げた。最早、打つ手が見つからなかった。
その時、シルバーの頭の中に声が響いた。力の差に呆然としていたシルバーは、その声に我に返った。
「シルバー、諦めるな」
そう語りかけてくる低い声は、シルバーのバディ、デュールのものだった。
(デュール!)
遠のきかける意識の中でシルバーは答えた。
「お前自身が大地に言ったのだぞ?最後の時まで諦めるなと。諦めた瞬間に、敗北は訪れるのだ」
(しかし、私ではこいつには勝てない)
「思い出せ、シルバー。お前と私の能力は、単に相手の攻撃から身を守る為だけのものではない」
(………?)
「私の能力で、お前は攻撃をする事ができる」
(鋼の能力は、守る為だけのものではない?)
シルバーは、相変わらず余裕の笑顔で目の前に立つメロの顔をもう一度見上げた。
一方、シルバーの見た通り、大地は防戦一方の状況に追い込まれていた。シルバーだけではない、このまま逃げていてもいずれは捕まり、殺されてしまう。それは戦っている大地自身が一番強く感じていた。
(だめだ、とても相手にならない…)
そう考えた大地の頭の中にも、シルバーと同じようにテテメコの声が聞こえてきた。
「なにやってんだよ大地、逃げてばっかりじゃ倒せねーだろ!」
(テテメコか!?うるせーな、わかってんだよんなこたぁ!だけど、攻撃する暇がねえ)
「そんなことないだろ!」
(言うのは簡単だよ!でも、この闘いは全然性に合わない!こいつめちゃくちゃ相性悪いぜ!)
「なんでだよ」
(なんでもくそもあるか!こんな近くでぶんぶん腕振り回されちゃ、テテメコの能力を発動する隙がないんだって!もっと離れてくんなきゃ!)
「わかってないなぁ大地は。だからもっとちゃんと練習しとけって言ったのに」
(何がぁ!?)
「イメージして、理想の形を思い浮かべるんだ。できるよ、僕達にもすぐ近くの敵と対等に渡り合う戦い方が」
(どうしろってんだ、剣もないのに!)
テテメコと会話しながらも大地は、休みなく襲ってくるエルーランの攻撃を必死になって躱し続けていた。
「イメージするんだよ、理想のカ・タ・チ」
(てめぇ、むかつくんだよ!何なんだよ理想の形って!)
「大地はぁ、こいつをぉ、どうしたかったんだっけ?」
(ああ?こいつを!?………こいつを………俺は…)
その時、大地の中に、この闘いに向かう前の感情が蘇った。
「俺は、俺は…」
目を血走らせ、歯を剥き出ししにしたエルーランが絶えず襲い掛かってくる。呼吸が荒くなり、胸が張り裂けそうに痛んだ。体力は、とっくに限界を超えていた。しかし、それに反して大地の思考は怖い程 冴えていた。
「俺は、こいつを…」
次の瞬間、部屋の入口から大量の瓦礫が宙を飛んで入って来たかと思うと、大地の光る右腕に吸い付くように集まって来た。
やがてその瓦礫はすっかりと大地の右腕を覆い隠し、そこに岩の拳を作り上げた。
大地は、岩で固められた腕で初めてエルーランの攻撃を受けた。強烈な衝撃が襲い、体が前屈みに腹から折れる。
「俺はこいつをぉ」
前屈みの体制から大地は素早く顔を上げると、一気に右腕を持ち上げた。
「ぶん、殴りたかったんだぁ―――っ!!」
そう叫びながら振り上げた岩石の腕は、見事にエルーランの顎を下から打ち上げた。
何本もの鋭い牙を宙にまき散らしながら、エルーランは声もなく執政官室の壁に向かってすっ飛んで行った。その体が、激しく壁に叩きつけられる。
「見事だ大地!」
シルバーが叫んだ。攻撃を受けたエルーランに目を奪われていたメロは、シルバーのその声に我に返ると、鬼のような形相でシルバーの頭上に鞭を振り上げた。
その隙を逃さずシルバーは、無事な左足一本で素早く立ち上がると、そのままメロに体を預けるように飛び掛かった。その時、剣を持たぬ右腕をメロの顔めがけて伸ばしていた。
「う!」
思わぬ攻撃にメロは、咄嗟にシルバーの拳を避けた。しかし躱したその拳が掠めた右の頬に思いもよらぬ痛みが走り、メロは動揺した。
慌ててシルバーから離れる。シルバーはそのまま前方に倒れこんだ。倒れこんだ勢いのまま、床を転がり、ココロとキイタを背に庇うように状態を起こした。
何が起きたかわからないような表情で、メロは痛みの走る右頬に手を当てた。その手にべったりと血が付いている。
驚いてシルバーを見る。この男の剣はついさっき破壊した筈、一体何が私の顔を傷つけたのだ?
そんな思いでシルバーを見たメロは、更に驚き、自分の目を疑った。
「その武器や鎧は貫けなくとも、剥き出しの肉体は鋼でも十分通用するようだな」
そう言って笑うシルバーの右腕は、それ自体が一本の鋭い剣と化していた。
デュールに言われたシルバーは、思い出していた。ドルストの宿で、襲い掛かるアテイルの体を殴りつけた時、その拳は相手の体を突き破り、貫いていた。
恐らくあの時、自分でも気づかぬままこの新しい力を発動していたのだろう。部下を全員失い、自分一人だけが生き残る羽目になったあの日の戦場で、激しくこの能力を呪い、嫌った為に、今日まで全く鍛えてこなかった。
しかし剣を失い、敗北を目の前にした時、シルバーはようやく鋼の能力の真の力を使いこなしたのだ。
それは、大地も同じだった。本当の理由はともかく、本人 曰く「スマートじゃないから」と言う理由で鍛錬を怠って来た土の能力。しかし、未経験の戦いの場に身を投じる事で一気にその能力を開花させ、成長させた。
ココロ率いるANTIQUEの能力者の中でも、主力となる戦闘員として二人は今、完全に覚醒したのだった。




