能力者迎撃態勢
●登場人物
ANTIQUE
・ココロ…全宇宙の始原である「始まりの存在」に選ばれた少女。能力者のリーダーで、共に戦う能力者を集める為旅に出た。
・キイタ…ンダライ王国の第二王女。火のANTIQUEに選ばれた能力者。敵に奪われた母国を救う為、悲壮な覚悟を胸にココロ達一行に加わる。
アテイル
・メロ…真の闇の王と呼ばれるシュベルの力によって復活した三種の魔族の一つアテイル一族の首領格。「撃の竜」と呼ばれる四天王の一人。人間体では美しい女の姿をしている。
・ダキルダ…世界征服の野望達成を目指すアテイルに協力する謎の人物。アテイル四天王の一人「剣の竜」クロノワールに従い、暗躍を繰り返す。テレポーテーションの能力を得意とする。
・エルーラン…クロノワールの命によりダキルダと共に暗躍するアテイル。怪力の持ち主で仲間想いだが短絡的。性格は極めて残忍、攻撃的である。
人間
・ポルト・ガス…ンダライ王国代行執政官。国王、王妃を立て続けに失ったンダライ王国で、これに変わり政治を司る。メロの謀略によりンダライ没落の引き金を引いてしまった。
●前回までのあらすじ
ドルストの町でダキルダ率いるアテイル一族に襲われたココロとキイタは、そのまま敵の本拠地であるンダライの塔へと連れ去られてしまう。
二人を守る事のできなかった大地は激しく自分を責め悔やむ。しかし、二人を守ろうとたった一人で数十のアテイルと死闘を繰り広げた大地に、頑なだったシルバーの心は氷解し、大地に対し強い信頼を生む事となった。
二人は力を合わせ、ココロとキイタを救う為、ンダライの塔を目指し旅立つのであった。
「ココロ、ココロ!」
自分を呼ぶ声に意識を取り戻したココロはうっすらと目を開けた。焦点が合うまでに少し時間が掛かる。
漸く周囲の景色が像を結び、はっきりと見えてくるのと同時にこれまでの記憶が鮮やかに蘇ってきた。ハっとして顔を上げ、声の方を見る。
「ココロ!よかった、気が付いたのね?」
そこにはキイタが、椅子に縛り付けられた状態で顔だけをこちらに向けていた。
「キイタ!」
ココロは縛られたキイタを助けようと立ち上がりかけ、そこで初めて自分も拘束されている事に気が付いた。改めてキイタを見ると、キイタは悲しそうな表情で首を振った。
恐らく先に目覚めたキイタも、自分の戒めを解こうと散々に手を尽くしたのだろう。無駄と知りながらもココロは、自分を縛り付ける紐に抗ってみた。
「だめだ…」
どんなに身を捩ろうと、自由を奪う紐はびくともしない。諦めたココロは天井を見上げながらキイタに訊ねた。
「ここは?」
「はっきりとはわからないけど…。多分、ンダライの塔の中だと思う」
キイタの答えに、ココロは見える範囲に顔を巡らせてみた。贅沢の粋を極めた大理石の床に、古風なデザインの柱が建っている。アーチ形に作られた天井は高く、微かな声すら反響させた。
部屋全体は丸い作りとなっており、角がない。壁には三百六十度明り取りの窓が切られており、朝の光と空気が流れ込んでいた。とにかく広い。荘厳で、美しい部屋であった。
「お察しの通り、ここはンダライの塔」
突然、二人の死角から女の声が聞こえた。ココロとキイタは不自由な状態のまま、声の方へ顔を向けた。
高々と足音を天井に響かせながら一人の女が現れた。濃い栗色の髪を長くなびかせながら、女は二人の座らされている椅子の前に立ちはだかった。
女としてはかなりの長身だ。しかしンダライ特有のゆったりとした、地味な色の服を着ていても尚そうと知れる程その体の線は細かった。きつい印象を持つ顔立ちではあったが、目鼻立ちのはっきりとした素晴らしく美しい女だった。
女はココロとキイタを交互に見ながら血のように赤い唇を歪め、残忍な笑顔を見せた。突然芝居掛かった声で話し始める。
「アスビティ公国公爵令嬢ココロ殿。ようこそ、ンダライの塔最上階、執政官室へ。それに…」
そう言って女は余裕のある表情でゆっくりとキイタに目を移した。
「我がンダライ王国第二王女、キイタ殿。よもや、隣り合う二つの国の王女が揃いも揃ってANTIQUEの能力者とは、いささか驚いた」
「なぜそれを!?あなたは誰?」
初めて会う女の口からANTIQUEの名が飛び出した事に驚いたココロが訊ねる。
「これは失礼、私の名はメロ。撃の竜と呼ばれるアテイル四天王が一人」
「メロ?アテイル四天王って…」
「メロ殿」
ココロが言いかけた時、どこからともなくメロを呼ぶ声が聞こえた。突然何もない空間に黒い光の球体が現れたかと思うと、その中からダキルダが飛び出してきた。
「ダキルダ!」
ココロが叫ぶ。その声に気付いたダキルダはチラリとココロの方を見たようであったが、相変わらず目深に被った兜によってその表情は読み取れなかった。
ダキルダはココロの呼び掛けを完全に無視したままメロに向き直ると言った。
「塔内の人間共はすべて退出いたしました。現在塔の中にはアテイルの者しかおりません。各階への配置も終わり、いつでも能力者を迎え撃つ事ができます」
「そうか」
言い終えるとダキルダは、今度はしっかりとココロの方へ顔を向けた。静かにココロの方へ向かって来る。
「何よお前!ココロに近づかないで!」
勇気を振り絞ったキイタがダキルダに向かって叫ぶ。だがダキルダは、そんなキイタを気に留める事もなく、ココロのすぐ目の前まで来た。
「公爵令嬢殿、手荒な真似をして失礼した。取り敢えず身の安全は保障しよう」
「え?」
「さぁ呼ぶがいい、このンダライの塔へ。ANTIQUEの能力者達を」
腰を屈めたダキルダは、息のかかる距離までココロに顔を近づけた。最初は顔を逸らしていたココロがダキルダの言葉にその顔を見た。
その瞬間、ココロは自分でも驚く程、急激に気持ちが冷静になっていくのを感じた。ココロは慌てる事なく、すぐ隣にいるキイタにテレパシーを送り始めた。
(キイタ)
(ココロ?)
(キイタ、落ち着いて聞いて。今、この声はあなたにしか聞こえていない。胸の中で私に語り掛ける事に意識を集中して)
今までANTIQUE特有のこの能力を利用した経験がないキイタに対して、ココロはゆっくりと話し掛けた。
(わかった)
(いいわ、ちゃんと聞こえている。いいキイタ?これは罠よ。私達をンダライの塔に攫い、幽閉して、そこから私にメッセージを発信させる。それを聞いたANTIQUEの能力者をここへおびき寄せ、迎え撃とうと言う作戦だわ)
(何て汚い…)
(でも安心してキイタ。今このダキルダが言った通り、少なくとも能力者が揃うまでは私達の身の安全は保障されているわ)
(うん)
(今、シルバー達はきっと私達を助けようとにここへ向かっている筈)
(何も知らないまま来たら、こいつらの思う壺ね?)
(そう。でも、敵の待ち伏せを初めから知っていれば、攻める二人も何かしら作戦を立てられる筈…)
ココロが無言のままそうキイタに言った瞬間、目の前のダキルダがにやりと笑った。ダキルダは体を起こすと大きな声を出した。
「メロ殿!残りの能力者は二名でございます!」
「何!たったの二人だと!?」
ダキルダはココロを見下ろし、笑みを消さぬまま答えた。
「ええ、間違いございません。恐らく今のところ集まっている能力者は、こちらの姫君達を含めて四人、と言う事なのでしょう」
ココロは目を見開いた。全身に鳥肌が立っている。キイタも愕然とした顔でダキルダを見た。ダキルダは相変わらず勝ち誇ったような顔でココロを見下ろしている。
(こいつだ!デュールの感じていた敵の正体!シルバーが私のメッセージを聞き取る敵がいると感じていたのは、このダキルダの事だ!)
(ココロ、何で…)
再びココロの頭にキイタの声が響く。
(キイタ、だめ!私達の声は聞かれている!)
(え!?)
キイタのその声を最後に、ココロは通信を閉ざした。ココロは震える顔を上げ、ダキルダを見た。
(どうして?ゲンムのメッセージはANTIQUEにしか届かない筈…。なのに、何故?)
「さて、何故だと思う?」
再びダキルダが顔を寄せ、囁くように言った。
(また読まれた!)
ココロの顔から見る見る血の気が引いていった。それを見つめながらダキルダが笑う。
「私はどこへでも入っていくよ、ココロ姫。あなたの夢の中でも、頭の中でも…」
そう言ってダキルダは、相手を小馬鹿にしたように自分のこめかみ辺りを指で突いた。
ココロにしか聞き取れない程の小さな声で囁くダキルダは、醜い顔をした体の大きな他のアテイルよりも数段恐ろしく感じられた。
「チビ」
ダキルダの後からメロが声を掛けて来た。その瞬間、ココロの目の前でダキルダの表情が消え失せた。
「ご苦労だった、お前はもう下がってよい」
「は?」
ダキルダはメロの方を振り返りながら訊き返した。メロの言っている意味がわからなかった。
「お前はもう用済みだと言ったのだ。そうだな、ゴムンガの所へ行き、ANTIQUEを殺したければンダライの塔へ行けとでも伝言してやれ」
「お言葉ですがメロ殿、これからの戦い、私がいた方が…」
「同じ事を何度も言わせるな」
言葉少なに言ったメロであったが、その殺気の籠った声はとても逆らいきれない迫力に満ちていた。
「…承知しました…」
まったく納得はいっていなかったが、ダキルダは唇を噛みしめる思いでそう答えた。
「では、私はこれで…」
「ご苦労であった」
もう一度言うと、メロは右手を勢いよく頭上へと振り翳した。その途端、今までメロの纏っていたンダライの服は一瞬で消え失せ、そこには体のラインを鮮やかに浮き立たせた鎧で身を固めたアテイル四天王の一人、撃の竜が妖艶な姿で現れた。
本来の姿に戻ったメロが腰に巻かれたベルトをするりと解く。ベルトは重々しい音を立てて床に垂れた。
数十枚の銀色に輝く鋭い刃物を蛇の鱗のように幾重にも重ねて作られた、斬撃の鞭だ。
「さぁ来いANTIQUEの能力者達、ここまで上がって来い。このメロ様が直々に血祭に上げてやる」
そう言い放ったメロは、窓から下界を見下ろしながら高らかに笑った。
「生憎でしたな、ンダライの姫」
メロが一人、残虐な妄想に浸っているその後で、ダキルダがそっとキイタに耳打ちをした。
「え?」
キイタが自分の背後に回り込み話し掛けてきたダキルダを横目で見た。
「あなたの短剣は預からせていただている。ンダライの織物技術は正に世界一だ、こんな組紐一つとっても素手ではどうにもなりますまい」
(わざわざそんな嫌味を言う為に近づいて来たと言うのか!なんて嫌な奴!)
キイタの顔が不機嫌に歪んだ。
「ココロ姫の能力では紐どころか、糸くず一本を断つ事もできないでしょう。おとなしく助けが来るのを待つのが得策かと…」
キイタは怒りに満ちた目ですぐ横にいるダキルダを睨みつけた。その時、部屋の片隅からふらふらと中央へ歩いてくる者が現れた。その人物に気が付いた途端、ダキルダはキイタから離れ、メロに声を掛けた。
「これはこれはメロ殿、まだ塔の中に人間が残っておりましたぞ」
そこに立っている魂の抜けたような顔をした男を見てキイタが叫んだ。
「ガス!」
それは、精気を抜かれ、メロの言うがままにこのンダライ王国を壊滅的状況に追い込んだ張本人、現在の代行執政官であるポルト・ガスだった。
キイタに名を呼ばれても聞こえていないのか、何の反応も示さぬままポルト・ガスはふらふらと部屋の中央を横切り、傍らの椅子へ身を投げ出すように腰を下ろした。
「ガス!お前は、こんな者共の言いなりになって!父上から受けた恩も忘れ!ガス!答えぬか!ガス!」
キイタが涙を滲ませながら血を吐くような声で罵っても、ガスは表情を変える事もなく、ただ人形のように動かなかった。
「メロ殿」
ダキルダが続ける。
「塔の中は能力者 迎撃の為アテイルの兵士のみで固めた筈。大臣をはじめ、人間は一人残らず出せとメロ殿自身の命令であったと思いますが?」
するとメロは一際大きな笑い声をたてて言った。
「よいのじゃ、よいのじゃ。こいつは特別だ。何せこの男は私のペットのようなものだからな」
それを聞くとダキルダもにやりと笑った。
「なるほど、さしもの人間もメロ殿にかかればペット同然、この体たらく言う訳ですか。さすがでございますな」
「つまらん世辞はよい。さっさと行け、チビ。ここからは私の舞台だ。この手で直接憎きANTIQUE共を始末してくれる」
「ではエルーランを残しましょう。エルーラン!」
ダキルダが呼ぶと、大きな体のアテイルが部屋の中にのっそりと入って来た。ドルストの宿からココロとキイタを攫ったアテイルであった。
「エルーラン、お前はここに残り能力者 討伐に限り、メロ殿の命令下に入れ。ドルストから馬を飛ばせば数時間、余り時間がないぞ」
エルーランは軽く頭を下げて承知を示すと、そのまま何も言わずに部屋を出て行った。間もなく到着するであろうANTIQUEの能力者を迎え撃つ為、配置についたものと思われた。
「メロ殿、先程の件確かに承った。その旨ゴムンガ殿にしかとお伝えしよう。くれぐれも、早まって始まりの存在までも退治してしまいませぬよう」
「ええい、わかっておる!さっさと行け!」
「では」
ダキルダはそう言うと同時に自らの体を黒い球体に体を包み込み、次の瞬間にはもう消えていた。




