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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
200/440

夜襲

●登場人物

・ココロ…アスビティ公国 侯爵こうしゃくの娘。天真爛漫てんしんらんまんで明るい少女であるが、始まりの存在に選ばれ能力者達のリーダーとなってしまった。

・シルバー…鋼の能力者。アスビティ公国の公軍隊士。ANTIQUEに選ばれココロと共に旅に出た最初の仲間。

・キイタ…火の能力者。アスビティ公国と隣接する大国、ンダライ王国の第二王女。敵の手に落ちた姉イリアを捜すため仲間に。

・アクー…水の能力者。三か月前に意識不明のまま森の中で発見された少年。それ以前の記憶をすべて失ってしまっている。


・アンバー夫妻…豪華客船の中でココロ達と同部屋になった優しい老夫婦。



●前回までのあらすじ

 船内で同部屋となったアンバーに詳細を聞かれ答えにきゅうしたシルバーはこの際事実の一部を打ち明けてしまおうと、仲間が三人三等客室にいる事を話してしまう。

 それを聞いたアンバーは何と船長に掛け合いその三人を三等から出してあげようと提案をしてくる。しかし万が一に備えタテガミ達のいる貨物室のそばに三人を置いておきたいシルバーはそれを丁重ていちょうに断りながらも、そんな事ができてしまうアンバーと言う人の好さそうな老人の正体をいぶかししむのだった。

 一方、ココロ達を乗せた豪華客船を海上で襲うべく海賊船を手に入れたメロは自身の乗り込んだ船の航海士に作戦の全容ぜんようを話す。周りを恐ろしいアテイルに囲まれた航海士はメロの求めるまま周遊航海しゅうゆうこうかいに出た豪華客船を目指す事を約束する。

 航海士の予想から対決の時は夜である事を知ったメロは、眼前に広がる海原を見つめながら憎きANTIQUEの殲滅せんめつを胸に誓うのだった。







  昼間と変わりないスピードで波を越えて行く豪華客船。二等客室層の甲板かんぱんでアクーは手摺てすりに寄り掛かり頭を大きくらせながら夜空を見上げていた。

 見上げる空には星が輝いている。その手前、アクーの見上げるすぐ上の一等客室層からはまばゆい光とにぎやかな音楽、楽し気な笑い声が降りそそいでいた。

 ぼうっとそれらを見上げていたアクーの目の前にものすごい勢いで何かが落ちてくる。それはみるみるアクーの顔めがけて近づいて来たが、慌てる事なく彼はそれを右手で受け止めた。

 それはまだ飲み掛けの酒瓶さかびんだった。中に残った酒をき散らしながら落ちて来たのは、この寒い中 甲板かんぱんに出てはしゃいでいた一等客がたわむれに放り投げたものだろう。

(やれやれ、まったく…)

 アクーは手の中に残る冷たい酒瓶さかびんを見つめてため息をついた。

(テリーも今頃はあのバカ騒ぎにきょうじているのかな?)

 昼間出会った真っ青なドレスの少女を思い出す。鮮やかなブロンドヘアをなびかせドレスアップしたテリーはパーティー会場でも注目の的だろう。もしかすると若い男に誘われてダンスの一つも披露ひろうしているかもしれない。

 そう思う事で特に感情を動かされる事はなかったが、単純にあの楽し気な輪の中に入ってみたいと言う好奇心は抑えられなかった。

 日没と共に二等に泊る客は上層への出入りができなくなる。頭上の階では、正に選ばれた特権階級の人々が気の狂ったような享楽きょうらく最中さなかにいるはずだ。

 アクーはもう一度頭上を見上げると小さくため息をついた。吐いた息が真っ白な煙に変わり黒い夜空へと昇り、消えて行く。

 アクーの見上げる上層階のにぎわいの、更にその上には高い見張り台が設けられていた。今、その見張り台には二人の船員が寒さにこごえながら暗い海を見渡していた。

たまんねえな」

 見張りの一人がぼやいいた。

「寒いな」

 もう一人もそれに答える。一際ひときわ高い位置にある見張り台では甲板かんぱん以上に寒さが身に応える。

 しかもすぐ足元では暖かそうな光の中で高い船代を払った乗客達が楽し気な声を上げているのだ。

 華やかな音楽を耳にする程、より一層いっそう体を刺す空気が冷たく感じられた。愚痴ぐちの一つもこぼさなければやっていられなかった。

 しかし、悪態あくたいをつきながらも二人は自分の仕事を忘れる事はなく、その目が海から離れる事はなかった。

 だがどれだけ目をらし、望遠鏡をのぞいたところで真っ暗な海に何かを見つけられるはずもない。見張り台から照らし出す範囲はんいなどたかが知れていた。

「ん?」

 望遠鏡に目を当てていた船員が何かに気がついて声を出した。

「どうした?」

 もう一人の仲間が興味もなさそうにいて来るが、船員はそれには答えず望遠鏡を外したり、またのぞいたりをり返した。

「何だあれは…」

 やがてつぶやいた仲間の声にもう一人の船員もようやく顔を向けた。暗い海原の先にぼんやりと光る灯かりを見つけたのだ。

「船だ…」

 望遠鏡を見ていた船員が言うと、もう一人の船員は何も言わずすぐに脇にあった交信用の投光器を手元に引き寄せた。

 航行法こうこうほうに定められた通りの手順に従って信号を送る。一方の船員が鳴らす頭上の鐘が高い音を上げる。

 激しく鐘を叩いた男は手摺てすりについた船内連絡用のパイプのふたを開けると大きな声で叫んだ。

右舷うげん謎の船団が接近!三時の方向、真横です!船団は三隻さんせき、いや…四隻よんせき!こちらからの問い掛けに応答はなし!船籍せんせき不明!」

「違う…」

四隻よんせきじゃない…五隻ごせきだ!」

 投光器を操作していた船員が叫ぶと、もう一人は再びパイプに口を近づけた。

「訂正、訂正!謎の船団は全部で五隻ごせき四隻よんせきではなく五隻ごせき!未だ応答なし!り返す!船籍せんせき不明の船団せんだん五隻ごせき三時の方向より接近中!未だ応答なし!」



 見張りに立った船員の叫ぶような声が響き渡った操舵室そうだしつ騒然そうぜんとなった。手の空いた船員は全員が右舷うげん側の窓にけ寄った。

「うわっ!!」

 窓に寄った船員が叫ぶ。思いのほか近くに巨大な船体が迫っていた。

取舵とりかじ一杯!」

 船員の必死の操作に客船が大きく左に舳先へさきを向ける。

「おお!?」

 二等 甲板かんぱんに出ていたアクーは、大きく向きを変えた船のれに足を取られ慌てて手摺てすりつかんだ。

 船底に作られた三頭客室にいた大地、ガイ、ナルの三人も大きなれに床を転がった。

 左に旋回せんかいした客船に対し、突如とつじょ目の前に現れた謎の船は右に進路を変え、客船と並走へいそうするようについてきた。

「回り込む気だ!」

 操舵室そうだしつの船員が叫ぶ。

「我々の進路を妨害するつもりか!?」

 すぐ横に並んだ正体不明の船を、自船じせんの灯かりがぼんやりと照らし出す。その横腹には四角い切込みがいくつも見える。

 この豪華客船に比べればはるかに古臭い木造船だ。毒々しいカラーリングに、手の込んだ装飾が闇夜に浮かぶ。

「か、海賊だぁ!」

 船員が叫んだ。

「海賊だと!?」

何故なぜこの海域に?」

「しかも五隻ごせき同時とはどう言う事だ!?」

 操舵室そうだしつは一瞬にしてパニックにおちいった。

「ふ、副船長…」

 船員の一人がりり々しい顔つきのまだ若い副船長に判断をあおぐべく声を掛けて来た。

 厳しい目つきで横を走る正体不明の船を見上げながら、副船長は小さな声で指示を出した。

「船長を呼べ」

「はい!」

 指示された船員は短く答えると慌てて操舵室そうだしつから飛び出して行った。彼が呼びに行った船長は今、一等客室の乗客達を相手に愛想よく夕食のテーブルについているはずだった。





「ああ、びっくりしたわ」

 一等客室で船長同席の名誉に授かったよく太った中年の女が大袈裟おおげさに胸に手を当てた。その太い指全てに目を見張る程の大きな宝石が色とりどりの光りを放っている。

「船長、今のは一体…?」

 中年女の隣に座った頭の薄いせた男が食事用のナイフとフォークをにぎったままおびえた声を出した。

 彼らに対し真っ白なひげを生やした船長は紳士的な笑顔のまま柔らかな声で答えた。

「何、真っ暗な海の上では岩礁がんしょうの発見が遅れる事もあります。大方慌てた操縦士そうじゅうしが急いでかじをきったのでしょう」

「だ、大丈夫なのでしょうか?」

 船長の説明に余計に不安を覚えた男客がいて来る。船長はますます々笑顔になって答えた。

衝撃しょうげきはありませんでした。衝突しょうとつまぬかれ、航行こうこうすでに正常に戻っております。何も心配はありません。この船は多少岩にこすった位で沈む船ではありません。操縦士そうじゅうしには慌てないようよく言い聞かせておきましょう。ご心配をお掛けしてしまい失礼しました」

 食堂ではすで楽団がくだんの音楽が再開し、方々できたえ上げられたウェイター達が柔らかな物腰で倒れたグラスなどをキビキビと片付けている。

 回復した会場の雰囲気に、中年の男女はようやくホッとした表情に戻った。

「船長の言う通り、この船が沈むはずがありません。さあ変な心配をしていたら勿体もったいない」

 同席していた如何いかにもやり手実業家と言う風体の若い男が中年男のグラスに酒をそそいでくる。

 笑顔でそれを見つめている船長の背後に立ったウェイターが、そっと耳元でささやいた。

 浮かべた笑顔をくずさないままその声に耳をかたむけた船長は優雅ゆううが物腰ものごしで立ち上がった。

「皆さん、中座ちゅうざ非礼ひれいをおびいたします。どうかこの後も存分に快適な船旅をお過ごしください」

 そう言って船長は一礼すると席を離れて行ってしまった。中年男はまだ不安そうな顔のまま歩き去って行く船長の大きな背中を見送った。





「ココロ様、大丈夫ですか!?」

「あいたたたた」

 突然の進路変更に、ベッドから転がり落ちたココロを心配したシルバーが大きな声を出した。

 ベッドと壁の間からココロがい出して来る。

「何今の?」

「お怪我けがは?」

「大丈夫」

 ココロの返事にため息をついたシルバーは窓から外を見てみた。しかし、窓の外は正に墨を流したような暗闇で、何も見つける事はできなかった。

「何だか急に船が向きを変えたみたい…」

 キイタがおびえた声で言った。

「大きな障害物しょうがいぶつでもあったのだろうか?」

「それはないな」

 シルバーの推理すいりをいち早く否定したのは同室のアンバーだった。見れば彼は妻の肩をしっかりと抱いたまま今まで見せた事もない真剣な眼差しでシルバーを見返していた。

「では、今のは一体?」

 シルバーの問いにアンバーは首を振った。

「それはわからんが、就航しゅうこう前に航路こうろの確認は充分にされている。岩礁がんしょうの位置は完全に把握はあくされているはずだ。この船は新しいが処女航海と言う訳でもないし、この航路こうろに氷山や流氷もない。慌てて回避しなくてはならないような障害物しょうがいぶつなどありはせんのだ」

「では…」

定点障害物ていてんしょうがいぶつの場所は把握はあくされているにも関わらず緊急回避きんきゅうかいひをしなくてはならないとすれば、考えられるのは一つ。突発的とっぱつてきに現れた流動的障害物りゅうどうてきしょうがいぶつだ」

流動的りゅうどうてき障害物しょうがいぶつ?」

左様さよう。一番考えられるのはくじらの群れだろうな。しかしこの季節この辺りを回遊かいゆうするくじらはいない。あとは密航みっこう密漁みつりょうなどを目的にぎ出していた就航しゅうこう予定表にない小型船の存在か…」

 アンバーが独り言のようにぶつぶつつぶやいていると、突然部屋のドアが勢いよく開けられた。

「ココロ!」

 叫びながら飛び込んで来たのはアクーだった。

「みんな無事?怪我けがは?」

「大丈夫だ。お前は?」

 シルバーの問いにアクーはうなずいて答えた。

「僕は大丈夫」

「アクー、一体何があったの?」

「船だよ」

「え?」

 ココロの質問に答えたアクーの言葉に部屋にいる全員が眉間みけんしわを寄せた。アクーは続けた。

「大きな船がこの客船の進路を妨害するように現れたんだ。それも五隻ごせきも!」

「大きな、船?それも五隻ごせきもだって?…まさか…」

 アクーの報告を聞いたアンバーは暗い声を出した。その額にじんわりと冷たい汗が浮かんでいた。





「船長!」

 帽子ぼうしかぶりながら操舵室そうだしつに入って来た船長に副船長が呼び掛けた。早足でブリッジに寄った船長はすぐに現況報告を求めた。

「どうなっている?」

「海賊です。それも一度に五隻ごせきも」

何故なぜ…?いや、そんな事より緊急通信は!?」

すで打電だでんしました。ミルナダからの救援は一時間以内に来ます」

 船長は報告する副船長から前方へと目を移すと、食いしばった歯の間から声をらした。

「それまで、耐えねばならんのか?」

「すぐに乗り移ってきます」

防御態勢ぼうぎょたいせいに入れ!」

 船長の号令に操舵室そうだしつの中はにわかにが慌ただしくなった。船内には指示指令が飛び交い、船員は船の中をけずりまわった。





「海賊?」

 シルバーがき返すと、アンバーは顔を上げうなずいた。怖い程真剣な目をしていた。

「通常、たった一隻いっせきの船を襲うのに五隻ごせきもの船団せんだんで来る事などはない。しかもこの海域はミルナダ王国の膝元ひざもとだ」

「では何故なぜ?」

 アンバーは今度は首を横に振った。

「わからん。しかし普通の襲撃だとは思えない」

「アクー!」

 シルバーは叫びながら立ち上がった。厳しい顔でうなずいたアクーはすでにドアから半身を出していた。

 続いてココロとキイタもベッドから飛び降りる。

「どこへ行く気だ!?」

 アンバー夫妻が大きな声を出しながら立ち上がる。廊下に飛び出たキイタとその後に続こうとしたココロが振り返った。

「乗員の指示に従うんだ!勝手に動いては行けない!」

「アンバーさん、ここにいてください」

「ココロちゃん…」

「私達、行かなくてはならないんです」

「ココロ!」

 廊下でキイタがココロの名前を呼ぶ。一度そちらに顔を向けたココロはまたすぐに部屋の中を振り返った。不安げな顔のアンバー夫妻が見える。

「私達が守ります。絶対に部屋を出ないで」

「何を…」

「優しくしてくれて、ありがとう」

「ココロちゃん!!」

 メアリが叫んだが、ココロはもう廊下へと飛び出した後だった。



「本当に海賊だと思う!?」

 船内の廊下を走りながらアクーがシルバーにたずねる。

「そうだったとしても普通の襲撃だとは思えないとアンバー氏が言っていた。魔族がからんでいると考えておいて損はない」

 隣を走りながらシルバーが答える。

「それにしてもあのおじさん、何であんなに船の事に詳しいんだろう?」

「うむ、ガイ達を三等客室から出すなどと言っていたな…」

「シルバー!!」

 背後からココロの大きな声が追い掛けて来る。

「どこへ向かっているの!?」

 シルバーは足を止めて振り向くと、ココロが追い付くのを待って言った。

「二等の甲板かんぱんからでは全容ぜんようつかめません、一等 甲板かんぱんへ上がります!」

「え!?」

 ココロ、キイタ、アクーの三人は同時に声を上げた。

「だってシルバー一等には上がれないんじゃ…、シルバー!!」

 ココロが言い掛ける間にもシルバーは再び背を向けて走り出していた。

「おい、君達!何をしている‼」

 せまい廊下の先に立っていた船員が猛烈もうれつな勢いで走り来るシルバー達に向かって叫んだ。

「この先へ行ってはいかん!部屋に戻るんだ!」

 次の瞬間、船員の目の前まで迫ったシルバーは左腕一本で船員の体を弾き飛ばした。

 顔面を激しく壁に叩きつけられた船員は、一瞬で気を失い後ろを走るアクーの前に倒れ込んだ。

「うわ!」

 急に倒れて来た船員の体に慌てた声を上げながら、アクーは咄嗟とっさにその体を飛び越えた。

 そうしている間にもシルバーはどんどん先へと走っていく。いつしか客室を抜け、最上階へと上がる階段のある中央 甲板かんぱんへと差し掛かかっていた。

「ああ!」

 ココロの上げた叫び声にキイタとアクーが顔を向ける。ココロは右手に広がる暗い海をながめて愕然がくぜんとした顔をしていた。

 夜の闇の中にぼんやりと大きな船影せんえいが浮かび上がっている。正確な数まではわからなかったが船団せんだんである事に間違いはない。

 こちらをうかがうように音もなく波間に浮かぶ何隻なんせきもの巨大船の影は、まるで不気味な海の化け物のように三人の目に映った。

「ぐわ!」

 前方から聞こえた悲鳴に顔を向けると、若い船員が帽子ぼうしを飛ばしながら階段から転げ落ちて来た。

「シルバー!」

 いつになく乱暴な行動を取るシルバーをたしなめるように叫びながらアクーがけ寄る。階段の上からこちらをのぞき込むようにしてシルバーが大声で三人を呼んだ。

「上がってしまえば何等の客かなどわかりはしません!さあ早く!」

 一瞬顔を見合わせた三人は、申し訳なさそうに気を失っている船員をまたぐと階段をけ上がって行った。

 
















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