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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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土の能力者 ~テテメコ~

●登場人物

・吉田 大地 …現代日本に暮らす17歳の高校生。六年前に幼馴染の白雪ましろが星雲の竜にさらわれるのを目撃した日から土のANTIQUEのバディとしてましろを救出に向かう日を待ちわびている。

・白雪 ましろ…大地の幼馴染。11歳の夏、星雲の竜にさらわれいずこかへと姿を消す。その生死は未だに不明だが、生きていれば大地と同じ十七歳となっているはずである。

テテメコ …大地をバディに選んだ土のANTIQUE。大地とは地球にて六年を共に過ごし、その間にANTIQUEや魔族の事を大地に詳しく伝えている。




●前回までのあらすじ

アスビティ公国 公爵こうしゃく令嬢であるココロは、ある夜自分を"始まりの存在"と名乗る妖精と出会う。ココロにゲンムと名付けられた始まりの存在は、悪しき闇の存在からこの宇宙を守る為十二の自然の精霊、ANTIQUEを集めると言う。

ゲンムは自分の姿を見る事のできるココロに共に戦う事を要請ようせいする。時空を越えた全宇宙に散らばるANTIQUEと、彼らに選ばれた十一人の能力者を呼び寄せる為、ココロはゲンムと共に戦う決意を固めた。






 首都東京都心部から電車にられおおよそ二時間。埼玉県西部の町。面積はかなりの広さがあるが、その大半は豊かな山林におおわれており面積にして人口は少ない。

 そんな町にその山はあった。山と言っても標高はせいぜい200m。子供の足でも一時間もあれば登って降りて来られる程度の低山ていざんであった。

 しかしその山の歴史は古く、平安時代に書かれたとされる文献には既にその名が見られる。

 書かれた時代を問わずあらゆる文献や地図にその山の名は記されていたが、この町に住む誰もこの山を正式な名称で呼ぶ事はなかった。

 「神隠しの山」、あるいは「人攫ひとさらい山」と言うのが住民達がこの山を呼ぶ時の名前だ。

 そんな俗称がついた要因と思われる事件は、長い歴史の中でいくつか報告されていた。しかし、山にこのような(まがまが)々しい呼び名がつけられた理由としては、実際に起きた事件よりも山の中腹に建てられた一つのほこらの存在が大きい。

 山について書かれた最も古い記録によれば、そのほこらには「星雲の竜」が閉じ込められていると記されている。

 星雲の竜とは、現在でも「東征とうせいに向かう征夷大将軍せいいだいしょうぐんの悪竜退治伝説」としてこの地で語り継がれる昔話の中に出てくる竜の事だ。

 この時退治された竜の死体を埋めたとされる場所や、その鎮魂ちんこんの為に建立こんりゅうされた神社はガイドブックに載る程有名ではあった。

 しかし古文書には実はその竜は退治などされておらず、この山の小さな(ほこら)に閉じ込められているのが事実であると記されていた。

 この町に暮らす高校二年生、吉田大地は今、その(ほこら)の前に広がる草原の上に仰向けていた。

 大地はこの(ほこら)に星雲の竜が封じ込められている事を記したその古文書を見た事があった。

 それは今から六年前、大地が小学五年生の時の事である。幼馴染の白雪ましろの生家。その敷地内に建つ倉の中でその文献を見た。

 勿論もちろん当時は大地もましろもまだ幼く、そんな古文書を見たところで内容を読み解く事などできなかったのだが、話の概要はましろの父親が話して聞かせてくれた。

 今からおよそ1230年前。天皇の身内に不幸が続いたうえ、地震、洪水などの天災が重なった。

 これは12年程前に暗殺された現天皇の弟がたたっているものか、或いはその事件に巻き込まれ斬首ざんしゅの刑にしょされた八人の人間の呪いではないかと当時の人々は疑ったらしい。

 しかし、その時天皇の側につかえていた百済くだらから渡ってきた陰陽師はこれを否定した。いわく、

「我が帝よ。これは星雲の竜と呼ばれる死者の怨念などより遥かに大きな悪意により引き起こされた厄災でございます」

 そう進言したと記録にある。陰陽師の言葉を信じた天皇は、彼に竜退治を命じた。

 この頃の陰陽師の実体は、祈祷きとう悪霊封(あくりょうふう)じなどよりも建造物の建立(こんりゅう)や、播種(はしゅ)の時期を占う事が主な役目であった。

 天下を乱す悪竜退治(あくりゅうたいじ)を請け負った陰陽師は張り切った。

 得意とする方位学、易学えきがく、地質学、天文学を駆使くしし、最も竜が現れやすい場所や日時、そしてその竜を封じ込めるのに最適な場所を見つけ出した。それが、今大地が寝そべっている山の中腹であった訳だ。

 ましろの父親の話しによれば、この武蔵の国に星雲の竜を封じ込めた後、陰陽師も帝の兵士達も都へと戻り、その後この(ほこら)の番を山のふもとに暮らすある一族へゆだねたと言う。

 何人なんぴとたりともこのほこらへ近づけさせるべからず。との命を受け平安の昔から代々その勅令(ちょくれい)を守り続けてきた一族こそ、ましろの先祖となる白雪家の者達であった。

 確かにその古文書に記された「神隠しの山」の位置は、実際のそれと照らし合わせてみてもかなり正確なものであった。

 17歳になった大地の胸にも届かない小さなほこらは、しかし陰陽道いんようどうに伝えられる知識のすいを集めその作りから、建てられた位置まで完璧に風水に従いり上げられていた。

 その事がこの話しをただの伝説にはさせなかった。事実、ましろの祖父は町の人が気軽にこの山に入る事を極端に嫌った。

 しかし、ましろの父親程の年齢ともなればそんな古臭い言い伝えなど子供に語って聞かせる昔話程度にしか思えなかったのだろう。

 いずれにせよ、そんな伝説を持つ(ほこら)がある為にこの山はあまりありがたくない別名をつけられた訳だ。

 だが大地はその名の通りこの山で神隠しが起きるのを目撃した。被害にあったのはほかでもない、幼馴染の白雪ましろ、その人であった。

 古文書を見た後、興味本位でましろと二人この山に入り、この(ほこら)の扉を開けてしまった。そして…その日以来ましろは今日まで帰って来ない。

(あの時――)

 と、大地は思い返す。あまりにも一度に色々な事が起こり過ぎた。

 夏だったと思う。ましろと二人、ましろの父親の話しを聞いた後で庭に建つ倉を開け古文書を探し出した。

 幼い二人に書いてある文字を読む事はできなかったが、山の位置を記した地図や(ほこら)の作りを示した設計図、そして黒と白の勾玉(まがたま)を合わせたような文様(もんよう)の絵などが二人をますます興奮こうふんさせた。

「山へ行ってみよう」

 先にそう言ったのは大地だったか、それともましろの方だったか。今となってはその記憶も定かではないが、どちらが先に言ったとしても二人ともその意見に反対する気持ちはなかった。

 果たして息を切らせ二人が山中の(ほこら)辿たどり着いた時にはそこら中でヒグラシが鳴いていた。

 夏の日は長く、辺りはまだ十分に明るかったと記憶している。とは言え子供が二人だけで山に入る時間でもなかったと思う。

 それでもそこに古文書に描かれていた通りのほこらを見つけた時、二人ともあまりの嬉しさに時間の事などまったく頭になかった。

「これが、ネビュラの(ほこら)…」

 ましろが大粒の汗をぬぐいもせずにつぶやいた。

「ネビュラ?」

 聞き慣れない言葉に大地がき返す。

「そう、ネビュラ。星雲の事だよ。ここに閉じ込められているのは星雲の竜、だからネビュラ」

 そう言うとましろはまっすぐに大地を見つめてきた。大地がましろのその真剣な眼差しにうなずき返すと、二人は一緒に(ほこら)の扉に手を掛け、開けた。

 そこには人の手の平に乗る程の石が一つ置いてあった。古文書に描かれていた黒と白、二色の石。陰陽いんよう紋章もんしょうだ。

 それは冷たく光沢を放ち、美しい程完璧に丸い形をしていた。もし、ましろがその石に手を伸ばさなかったとしたら大地がそうしていただろう。そうしないではいられない魅力がその石にはあった。

 結局その石を取ったのはましろだった。いや、大地も手を伸ばしかけていたはずだ。

「だめだ!!」

 突然背後から響いたそんな声に大地は思わず手を引いて振り返った…、と思う。この後の事はもう全てが一瞬のできごとで、どれがどの順番に起きたものかはっきりとしない。

 振り向いた大地はそこに小さな男の子の姿を見た。そう思った次の瞬間、ましろの大きな悲鳴が響き渡り、大地はすぐにもう一度 (ほこら)の方に向き直った。

 そこには竜がいた。ましろの父親が語ってくれたものと寸分(すんぶん)たがわぬ姿の竜が。

 長い体をくねらせて竜が昇っていく空は、いつの間にか黒く厚い雲に(おお)われていた。

 六年の歳月の中で大地の記憶はとっ散らかってはいたが、その竜の姿だけは今も完璧に(まぶた)に焼き付いていた。

 二本の角、鋭い牙が無数に並ぶ大きな口の中で血のように赤い舌を震わせ放つ声は、人間の悲鳴に似て本能的な恐怖を呼び起こした。

 顔中に血管らしき筋が浮かび、本来目があるべき顔の中心に開いた穴からは黒いもやか、霧のような闇があふれ出していた。

 青黒い、腐った魚のような色をした体。たてがみ、体をおおうぬらぬらと光るうろこ。鋭い爪を持つ四肢ししに、尾の先端は鎌状(かまじょう)の刃物になっていた。

 星雲の竜――――ネビュラ。これ程までに醜く、恐ろしい姿をした生き物が他にいるだろうか?

「僕の力を使って!あいつを止めるんだ!早く!」

 そんな事を言われた気がする。さっきの男の子が叫んでいるのだと言う事はなぜかすぐに理解できた。しかし何の事を言っているのかその意味まではわからなかった。

 大地もましろも、動く事もネビュラから目を()らす事もできなかった。そもそも大地は足の力が抜け、地面にぺったりと座り込んでしまっていた。

 天に向かい一つ大きくえたネビュラは、突然頭を下に向けるともの凄いスピードで大地とましろをめがけ降下してきた。

「立って!大地、このままじゃ…!」

 もう一度見知らぬ男の子が叫んだ次の瞬間、ネビュラの姿は消えた。ほこらの前に立ち尽くしたましろ、その後ろで腰を抜かした大地。夕暮れが近づきヒグラシの声が更に数を増していた。

「ま、ましろ」

 大地はようやくましろの背中に震える声を掛けた。ましろがゆっくりと振り返る。胸にしっかりと陰陽(いんよう)の石を抱いたましろが大地と目を合わせる。

「大地…」

 ましろも同じく震えた声で言った。その時、突然ましろの目が大きく見開かれた。

「何、これ?」

 ましろが何を言っているのかはすぐにわかった。ましろの足が見えない力に引きずられるように後ろに滑り出したのだ。

 足を引かれたましろが、高い悲鳴を上げて前のめりに地に倒れる。

「大地!!」

 ましろは引きずられていく自分の体を止めようと必死に地面の草を(つか)んだ。(つか)んだ草を引きちぎりながらましろの小さな体はどんどんと後ろへ向かってと引きずられていく。

「大地!大地!」

 ましろは何度も大地の名を叫んだ。

「大地!立て!あの子を助けるんだよ!」

 また男の子の声が、さっきよりももっと近くで響く。

「ほら、僕の力を使って!早く!」

 しかし大地は動く事ができなかった。目に見えぬ力に引かれ(ほこら)に向かっていくましろの姿を茫然ぼうぜんと見ている以外、11歳の大地に何ができただろうか?

 その時、また別の声が大地の耳に届いた。男の子の声とは正反対の、低く、恐ろしい声だった。

「お前の血が我が分身の元へと導くであろう。さあ、案内をしてもらおう」

 一 瞬 (ほこら)を振り返ったましろはそこに一体何を見たのか?一際ひときわ大きな悲鳴を上げると、自分を連れて行こうとする見えない力にあらがい更に必死の表情で地面をむしり始めた。

 だがそこまでだった。ましろはもう一度顔を上げ大地を見た。大地もましろを見た。ましろの顔は恐怖に(ゆが)んでいた。

「大地…」

 絶望を悟ったようなましろの小さな声が聞こえた瞬間、ましろの体は宙に浮き上がり、小さな(ほこら)の中へと吸い込まれて行った。



 それからどれだけの時が過ぎたのだろう?しゃがみこんだまま石のように動かない大地が大人達に発見された時、山はすっかり夜の闇に染まっていた。





 

 あれから六年。今大地はましろを飲み込んだ小さな(ほこら)の前でその時を待っていた。

 幼かったあの日、助けを求め自分の名前を呼び続けたましろを、連れて行かれまいと必死に地面を掴んだましろを自分は助ける事ができなかった。ただ何もできないまま目の前でましろをさらわれた。

 だが今は違う。もう何もできない11歳の少年ではない。今度こそ必ずましろを助け出す。その決意を胸に大地は毎日ここでましろの連れて行かれた世界へ呼ばれる日を待っていた。

「なぁ、テテメコ」

 大地は仰向けに寝そべったまま、右手をズボンのポケットの中に入れて(つぶや)いた。

 ポケットの中の指先に(なめら)らかで固い感触がある。六年前、大人達に連れられて山を降りた大地がいつの間にか右手でしっかりと握っていた石がそこには入っていた。

 ほこらの中にあった陰陽の石ではない。黒と白に彩られたあの美しい石は、ましろと共に消えてしまっていた。

 大地のポケットに収まっている石は、土色をしたどこにでも転がっているような石だった。

 いつ拾ったものかはまったく記憶にないが、今ならそれは拾ったものではなく“自ら大地の手の中にやってきたもの”である事がわかっている。

「光は、闇に追いついただろうか?」

「まだだろうね。状況はあの日から何も変わっていない」

 姿なく答えるその声は、ましろが消えた時に大地の前に現れた少年のものであった。

 少年の名前は「テテメコ」。名付けたのは大地だ。テテメコは大地をバディに選んだ「土のANTIQUE」だった。

 ましろが消えた時、少年の姿で現れたテテメコはその後、長径十cm程の楕円形(だえんけい)の石に姿を変え、普段は今のように大地のポケットの中に納まっていた。

 大地の前に現れる時の姿は身長約1m。長い前髪が両目を隠していて表情は読み取れないが、よく動く大きな口からはなぜか鋭い二本の牙が覗いていた。

 フリルのついたシャツに海老茶色えびちゃいろの蝶ネクタイをしめ、黒いズボンをズボン吊りで吊った何ともお洒落しゃれさんだが、どういう訳だかその両手にはいつも細い短剣を握っていた。

 実体を持たないANTIQUEであるテテメコがどれだけその剣を振り回そうと、ねずみの子一匹傷つける事もできないのだが…。

 ましろがネビュラと呼んだ闇のANTIQUEが平安時代に人の手によってあの(ほこら)に封印された時、テテメコも一緒にそこいた。

 それは偶然ではあったが、それ以来テテメコはこの地を離れようとしなかった。

 そして千年以上の時を過ごす中でテテメコは見続けてきた。伝説を聞き、興味本位でこの地を訪れ(ほこら)に手をかけた人間や、闇の力を手に入れようとよこしまな想いを持ってその扉を開いた人々がそのまま闇に取り込まれ、その内の何人かはどことも知れぬ時空の狭間はざまへと消えて行ったのを。

 今から60年程前にはましろの大叔父おおおじ、ましろの祖父の弟に当たる男も19歳と言う若さでこの山から消息を絶っていた。

 彼の名前は白雪 わたる。ましろは渉に続く白雪家では二人目の「消失者」であった。

 ましろの祖父がなぜあれ程までにこの山に人が入る事を厳しく禁じたのか、それはその話でようやくわかった。

 いずれにせよ大地はその瞬間、ネビュラとテテメコと言う二体のANTIQUEを同時に目撃すると言う極めて珍しい体験をした訳だが、その後のテテメコの話によると実は大地はこの時、更にもう一体のANTIQUEを見ていると言う。それが光のANTIQUE。

 ましろがネビュラに連れ去れてからほぼ間を置かずにそれは大地の前に現れたと言う。正直、大地にはそれを見た記憶は全くない。おそらくショックの余りそのあたりの記憶が一部欠け落ちてしまったのだろう。

 光のANTIQUEは闇のANTIQUEと対をす存在。まったく同時に誕生した光と闇は本来二体で一体の存在だ。

 だから闇が封印された時、光も共に封じられ同じ時を過ごしたし、闇が暴走し、ましろを連れていずこかへと去った時にはすぐにその後を追って行ったのだとテテメコは話してくれた。

 闇に追いつき、その暴走を止めるキーパーソンは間違いなくこの光のANTIQUEである(はず)だ。だから大地はテテメコに「追いついただろうか?」と聞いた訳だが、テテメコの答えはノーだった。

「そっか…」

 大地は軽くため息をつく。空が高くなってきた。まだまだ暑い日が続いているが、大地の暮らす日本には間もなく秋がやってくるのだろう。そんな季節だった。

「だったら…」

 早く自分をあっちの世界に行かせてくれればいいのに。そう言うつもりだった。この六年の間に何度となく吐き続けた恨み言だ。

 だが、大地はその言葉をみなまで言う前にはじかれたように起き上がった。

「大地!!」

 それと同時にテテメコが叫びながら姿を現した。相変わらず両手には無意味な短剣を握ったお洒落しゃれな姿で…

「今、呼ばれた…」

「大地にも聞こえたか!?」

「気のせいじゃ…」

「ないね、今のは間違いなく僕らを呼んでいた」

 大地は(ほこら)の方に向き直りゆっくりと立ち上がった。(ほこら)に近づきながら言う。

「女の子の声に聞こえた。俺に、“答えろ”と言っていた…。ましろか?」

 同じように(ほこら)を見つめたままテテメコは首を振った。

「違う。ましろは闇のANTIQUEに取り込まれている。僕らにメッセージを送る事ができるのはこの世界でたった一人、“始まりの存在”だけだ」

「“始まりの、存在”…」

「そう、僕らANTIQUEはみな、全ての根源こんげんである始まりの存在の元に集まる。今僕らが呼ばれたと言う事は、始まりの存在がバディを見つけたと言う事だ」

 そこでテテメコは一息つくと続けて言った。

「戦いの準備が、整ったと言う事だ」

「つまりこれは“始まりの存在”に選ばれたバディの声って事か…。どうやって答えればいい?」

「ここからじゃまだ遠すぎて僕らの声は届かない。せめて同じ世界、いや、同じ土地の上に立たなくっちゃ」

 次の瞬間、(ほこら)の扉が一人でに勢いよく開いた。六年前、しゃがみこんだ大地からその中は見えてはいなかった。風が吹き付けてくる。

「どうやら、あの時ましろが通った道を辿たどって僕らも行くらしいね」

 テテメコの声を聞きながら大地は更に一歩 (ほこら)に近づき中を(のぞ)き込む。六年前、おそらくはましろも見たのであろうそこは、青いような、黒いような、そんな世界が渦を巻いていた。

「大地、行くのか?」

 決まっている。大地はこの六年、ただただこの日を待ち続けたのだ。その間にテテメコから十分過ぎる程話しを聞いていた。

 ANTIQUEの事、別の世界の存在、闇の力の事、そして、その闇の力によって目覚めた三種の悪しき存在、「魔族」の事。

 自分達はその魔族と戦わなくてはならない。今この(ほこら)を通れば、自分もましろと同じように二度とこの世界に帰って来られないかもしれない。

 魔族との戦いで傷つき、あるいは命を落とす事になるかもしれない。それでも、行かない訳にはいかなかった。

「俺はあの時の吉田大地じゃぁない。今は“土の能力者”だ。そうだろ?」

「そうだよ。僕の姿を見る事のできる大地は僕のバディだ」

「だったら何も心配はいらないさ。俺はもう逃げない、何があっても絶対にましろを連れ戻す!」

(そうともましろ、俺は今度こそ君を守ってみせる。だから、待っていてくれ)

 大地が片手を(ほこら)の扉にかける。風はますます強く大地の髪を乱した。

「テテメコ!!」

「おぅ!」

 テテメコは大地の背中にしっかりとつかまり、左肩から顔を覗かせると大地と同じく(ほこら)の中に広がる奇妙な世界を見つめながら叫んだ。そうしなければ声が聞こえない程、一段と激しい風が二人を包んだ。

「覚悟はオゲェ?」

「オゲーオゲー、いつでもオゲェよぉ!!」

「じゃ、いっちょう行きますかぁ」

「おぅよ、行きましょう!!」

 テテメコの返す声をきっかけに、大地は渦巻く世界へ向け大きく踏み出した。とても大人が入れるとは思えない小さな(ほこら)であったが、両手を広げた大地の体はまるで大空に飛び立つ鳥のようにその中へと吸い込まれていった。

 






 大地とテテメコが消えた後の山は何事もなかったかのように静かだった。穏やかに吹く風が二人を飲み込んだ(ほこら)の扉を再び静かに、ゆっくりと閉ざした。
















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