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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
196/440

牧場主

●登場人物

能力者

・ココロ…始まりの存在に選ばれた能力者のリーダー。強力なテレパシーと予知能力を持っている。

・吉田大地…土の能力者。僅かな土や元が土でできているものであれば自在じざいあやつる事ができる。

・シルバー…鋼の能力者。自らの肉体を鉱物こうぶつや鉄製の武器に変える事ができる。

・キイタ…火の能力者。ANTIQUE最強と言われる灼熱しゃくねつの火炎を生み出す。

・ガイ…雷の能力者。義手である左腕から強烈な電撃を生み出し攻撃する。

・アクー…水の能力者。水を自在じざいあやつるほか、空気中のわずかな水分を集め水を生み出す。

・ナル…生命の能力者。地上にある生命を意のままに動かす事ができる。


乗客達

・エルドナ…三等客室で大地達と乗り合わせた東諸国の牧場主。豪快ごうかいで気のいい男。

・ブライアン…エルドナの部下。

・牧童達…エルドナの部下。エルドナを含め全部で七人程いるらしい。



●前回までのあらすじ

 いよいよ大型客船への乗船が始まった。夜明け前の寒空の下、三等客室へ入るため乗船の列についた大地、ガイ、ナルの三人はそこで荷物検査を受ける事になる。

 三等客に対しては非常にぞんざいな態度を見せる乗務員はタテガミとキバを無下むげあつかいナルを怒らせる。トラブルを回避するため必死にこらえるナルの姿に大地は得意の口八丁で乗務員に猛省もうせいうながす事に成功する。

 何とか三等客室へと入った三人は、そこで数人の荒くれ者達と出会った。ガイの人柄にれ込んだ彼らはあっという間に意気投合いきとうごうし、仲良く酒をみ交わし始めた。

 そんな中貨物室に入れられたタテガミとキバの事が気掛かりで仕方のないナルは落ち着かな気分のまま貨物室の場所を探し求めるのだった。








「大地達はもう船に乗っているのかな?」

 宿での最後の朝食を食べ終えたアクーがふとつぶやいた。

「乗船は夜明け前に終わっているだろう」

 シルバーが口元をナプキンでぬぐいながら答えた。

「でもさみしいわね、同じ船に乗っているのに三日間も会えないなんて」

 ココロがポツリと言った。

「僕らも船に乗ったらさココロ、三人にメッセージを送ってよ」

 アクーの提案にココロがにっこりと微笑む。

「そうね、そうしてみるわ」

 ココロとキイタは三等客室の過酷かこくな状況を知らない。単に同じ等級のチケットが手に入らなかったとしか認識していなかった。

 シルバーはココロやキイタの無邪気むじゃきな顔を見るにつけ、夜も開けぬうちから極寒ごっかんの三等客室へと入ったであろう三人を想い気持ちが暗くなった。

「さて、では我々もそろそろ出発の準備を始めましょう」

 シルバーの言葉にココロ達はそれぞれ席を立った。彼らが乗り込んだ後、最後に一等客室の乗船を待ち、船は昼前には東諸国の玄関口、三大国家の一つミルナダに向かって出航する予定であった。





 一方その頃、既に乗船を終えていた大地達三人は、シルバーの心配を余所よそにたまたま出会った男達とすっかり打ち解け、リラックスした時間を過ごしていた。

 差し出されたびんから躊躇ためらう事なく酒をあおるガイの姿に男達はますます々盛り上がりすっかり気を許し合っていた。

「礼だ」

 ガイはナルの置いて行った荷物の中から干し肉を引っ張り出すと男達の前に広げた。

「大地」

「ん?」

「それはお前とナルで食っちまえよ」

 ガイは大地が大事そうに抱えている包みを指して言った。それは宿を出る時にシルバーに渡された三人分の朝食だった。

「こっちの坊やは酒は飲まねえのか?」

 男の一人が柄悪くいて来る。

「ああ、そうだ。すすめねえでくれ。酒は俺がいただく」

 ガイは荒くれ者達の興味が大地に向かわないように大声で言った。

「で?あんた達は何でこんな船に乗ったんだ?」

 固い干し肉を食い千切りながらガイがくと、ガイに酒をすすめて来た男が言った。

「俺は東で牧場をしているんだ。こいつらはみんな俺の手下でな。今回は牛を三十頭ばかりジルタラスに運んだんだ。その帰りさ」

「へえ。じゃあ船にはよく乗るんだ?」

「おうよ。今回はたまたまタイミングが合ったんでな、この新しい船に乗ってみようって事になった」

「舟券は安くなかっただろうに」

 ガイが言うと男は周囲を見ながらそっとガイに耳打ちをした。

「まあここだけの話しよ、この船会社とは懇意こんいな訳よ。何せよく使うんでな」

「ほう、じゃあ安く回してもらえるって訳か?」

 ガイが同じく声をひそめると、男は突然大声で笑いだした。

「まあ、そう言うこった」

「なるほどな」

 ガイが言うと、男は無言で手を差し出して来た。

「エルドナだ」

 ガイは出された男の手を強くにぎり返した。

「三日間よろしくな、エルドナ」

 さすがはあのアリオス達七人をたばねていただけの事はある。ガイはすっかり東諸国の牧童ぼくどう達を手なずけてしまったようだ。

 何にせよ出航前からトラブルに巻き込まれなくて良かったと豪快ごうかいに笑う男達を見ながら大地はほっと息をついた。



 その頃、一人その場を離れたナルは細く暗い廊下を真っ直ぐ船尾に向かって歩いていた。

 左右に並んでいた扉は今は全て解放されており、そこここにうごめく人々の姿が見えた。

 陽気にはしゃぐ者、ひそひそと話し合っている者、何も言わずただうつむいて座っている者、激しく泣く赤子をあやす若い母親の声も聞こえてくる。

 暗い船内にも大分慣れて来たナルは、そんな人々の動きを見るでもなく船の奥へ奥へと進んで行った。やがて廊下の先は突き当たり、木でできた壁にふさがれ、そこが行き止まりだった。

 ナルはそっと肩越しに後ろを振り返る。にぎやかな三等客室の声が聞こえてくるが、自分に注意を向けている者はいないようだった。

 ナルは目の前の壁に耳を近づけ、それを手で叩いてみた。

「タテガミ、キバ、聞こえる?」

 返事はない。

「タテガミ、キバ」

 再度声を掛けるがやはり二人の精霊が答える事はなかった。ナルは薄暗い中天上まで行く手をさえぎる壁を見上げた。



「しかしまあ色々な船に乗ったが、こいつは大した船だ」

 すっかりくだけた口調で牧童主ぼくどうぬしのエルドナが言った。

「まあちょっとやそっとじゃあ沈む事はねえな」

「けど三等の扱いはよくない」

 最初にガイに殴りかかった男がすぐに文句を言って来る。

「そうか?俺は想像していたより随分ずいぶんマシだと思うがな」

 ガイが素直な感想を言うと、男はぶんぶんと強く頭を振った。

「今まで乗った三等じゃあ取りえず飯位出してくれる船もあった」

「まあしつは大した事はねえがな」

「だけどほら、前に乗った船の飯は量だけはすごかったじゃねえか」

「確かに」

 エルドナの部下達が口々に話し出す。

「まあ確かに値段の割にサービスはよかあねえ。それに、三等の客が多すぎる」

「客が多い?」

「ああ。実はこれだけの客船を動かして一等の連中に贅沢ぜいたくさせるにはちと資金が足りていないらしいぜ?これはうわさだがこの会社は一人でも多く三等に客を乗せて乗船料を得るためにわざと中型貨物船の舟券を売らなかったって話もある」

 大地はそんなエルドナの話しを聞いて中型貨物船の券が三枚しか買えなかった事を思い出した。スティアにいたっては一枚すら買う事もできず、仕方なくパンをあきらめてこの三等客室の券を買ったのだ。

 思えばそんなスティアからチケットを盗もうとしたあの男も大型客船の券を買う事ができずあのような暴挙ぼうきょに出たのかもしれない。

 それを思えばエルドナの言う話しもあながちうわさばかりではないのかもしれない。

「ねえエルドナ」

 大地は酒盛りをする男達の輪ににじり寄った。

「何だ坊や?」

「あの荷物は何?」

「あ?」

 エルドナは大地が指さす部屋のすみに目をやった。大地が示す一角には一辺が二mはあろうかと言う大きな木箱が天井近くまで積み上げられていた。

 暗い中目をらしてみれば、そこだけではなく壁際には一定の間隔かんかくを置いて同じような木箱が積まれている。

「あんなのを置いて場所をふさぐよりもっと人を乗せた方が船会社はもうかるんじゃないの?」

 初めは単に貨物室に入りきらなかった荷物を三等客室に持ち込んだものと思っていたが、今のエルドナの話しを聞く限り随分ずいぶんと無駄な事に感じた。

「ありゃあ縁起担えんぎかつぎのまじないみたいなもんさ」

 エルドナがぐいっと酒をあおりながら教えてくれる。

まじない?」

「ブライアン」

 ガイがき返すと、エルドナがかたわらに座る部下の名を呼んだ。どうやらブライアンと言うらしい牧童の一人が代わって話し始めた。

「昔な、やっぱりこんな風な大きな客船が事故にあったんだ、この会社のな」

「うん」

 縁起担えんぎかつぎのまじないと聞いた大地は俄然がぜん興味がき身を乗り出した。

座礁ざしょうして、船底に大穴が開いた。船は沈没する事はなかったんだが、三等客室への浸水しんすいは防ぎようがなかった…」

「それで?」

「船体を大きくかたむけながら船は何とか最寄もよりの港についた。上層にいた客や乗組員は無事だったが、水に沈んだ三等の客は絶望視ぜつぼうしされていたんだ。ところがだ…」

 話し上手なブライアンはそこで一度 ためを作り聞き手の興味をきつけた。

「三等の客達はたまたま貨物室に入りきれず客室に積まれていた大きな荷物によじ登り、そのほとんどが助かったのさ」

「へえ~」

 大地は感心したようにため息をついた。

「まあ全員が助かった訳じゃねえがな。全滅と思われた客の半数以上が荷物と天井のわずかな隙間すきまで生き残っていたんだ。それ以来この会社の客船にはああして三等客室の壁に大きな箱を積むようにしたのさ」

「そうなんだ…」

 大地は周囲を見回した。壁際に天井近くまで積み上げられた木箱に目をやる。

「本物の荷物じゃねえからな、箱ごと壁に打ち付けられていてくずれる事もない。中には黒土が詰められてるって話だ」

 そう言ってブライアンは箱の由来を語り終えた。

「わかったかい?坊や。しかし坊やの言う通りあんなもんなけりゃもっと客も乗せられるだろうしな、そうすりゃ舟券だってもっと安くなるはずなんだがよ」

「沈まねえまじないなんかするより本当に沈まねえ船を作れってんだよな?」

 一人の男が言うと、それに吹き出したエルドナにつられて再び笑いが座を包んだ。

 周囲も気にせず笑い転げる男達を余所よそに大地は再び壁際に積み上げられた木箱を見上げた。牧童の語る過去の話しと、それを由縁ゆえんとしたこの縁起担えんぎかつぎに何となくロマンめいたものを感じていたのだった。

 静かにたたずむ木箱の山を見ながら大地が遠い過去に起きた海難事故かいなんじこに思いをせていると、その横に帰って来たナルが無言で座った。

「ナル」

「ただいま」

 声を掛けて来た大地にナルが笑顔で答える。

「ナル食おうぜ、ガイは酒があるからこれいらないんだってさ」

 大地は朝食の包みを開けながら言った。

「うん」

「それでどうだった?貨物室はわかった?」

 大地は包みの中のパンを一つつかむと早速さっそくぱくつきながら言った。差し出された食べ物を受け取ったナルが答える。

「うん、場所は多分わかった。でも壁にふさがれているんだ。声を掛けたけど二人は応えなかったよ。僕の声は届かなかったみたいだ」

「そうか」

「まあ壁の厚さもわからないし、本当にすぐ隣に二人が入れられたとも限らないからね」

 二振りの剣を二人と表現するナルに大地は可笑おかしそうに笑いながら答えた。

「まあ貨物室だって相当広いだろうしね。あ、そう言えば馬達だって同じ階層かいそうに入れられてるんじゃないのかな?」

「そうだね、多分」

 ナルは終始しゅうし笑顔であったが、そこには隠し切れない不安と、親にはぐれた子供のようなさびしさがのぞき見えた。

 その時、突然大地、ガイ、ナルの三人の頭の中にココロの声が聞こえて来た。

(みんなー聞こえる?)

 どうやらゲンムの力を発動したココロがメッセージを送ってきているらしい。いつまでも暗い大部屋の中で不安をぬぐいきれない大地とナルは、目の前にぱあっと明るい光が射したように感じた。

(ココロ?)

(ココロ!もう船に乗ったの?)

(どう?そっちは)

(ああ、もう!みんなで一斉いっせいに話さないでよ)

 大地とナルは目を見合わせた。二人はそろってガイを見る。ガイにもココロの声は聞こえているのだろうがエルドナ達を不審ふしんがらせないためか、何もなかったように酒盛りを続けている。

 メッセージで会話ができるのはココロとだけだ。ココロは一度に全員にメッセージを送る事ができるが他の能力者達にその力はない。

 ココロに答える大地の声はナルには聞こえないし、同じようにナルの声を大地が聞く事はできないのだ。

 つい自分だけがココロと会話をしているつもりで二人が同時に話せば、ココロの頭の中には大地とナル二人分の声が響く事になる。

 大地はジェスチャーでナルと自分を交互に指さす。その意をんだナルが「どうぞ」と言う風に大地に向かって手を差し出す。

(ココロ、大地だよ)

(ああ大地。みんなそばにいるの?)

(うんいるよ。ガイはここで出会ったおっさん達と楽しく酒盛りしてるけど)

(へえ、何だか楽しそうね?)

(うん、まあ聞いていた程悪くはないよ)

「そんなに悪いところじゃないって」

 ココロはシルバーを振り向いて笑顔で言った。

 二等客室の券を持った四人はすでに船室へと入っていた。すっかり夜も開け、部屋の中は差し込む陽光ようこうで明るかった。

 めいめい々荷物を置きながらキイタやアクーもそんなココロを見て笑っている。部屋はそれ程広くはない。それぞれカーテンで仕切られたベッドが六つあり、その作りは美しく高級感があったが、形としては病院の大部屋のようだった。

 しかし入り口の対面に位置する壁には大きな窓があり、そこからは太陽の光を受け美しく輝く大海原おおうなばらが見渡せた。景色がある、それだけでも大地達の入った三等よりはるかに良い環境だった。

(私達が乗船している間からもう一等のお客さん達も続々と乗り込んでいたから、もう間もなく出航だと思うわ)

 ココロはついウキウキとした声で大地に言った。

(ココロ)

 大地の返事が聞こえないと思ったら、今度はナルが話し掛けて来た。

(ナル?)

(うん、僕。あの、シルバーに伝えて欲しいんだ)

(シルバーに?何?)

 言いながらココロがシルバーの顔を見ると、呼ばれたシルバーが近づいて来るところだった。

(あのね、貨物室の位置はわかった。もし何かあったら僕達がすぐにみんなの武器を持って階段を上がるから、そっちも一度三等客室の入り口を確認しておいて欲しいんだ)

 ココロはすぐ近くまで来たシルバーの顔を見ながら口を開き掛けたが、後で説明しようと思い直しすぐにナルに返事をした。

(わかったわ、必ず伝える。でも乗員の目もあるし、そこで長々と話しができるとは思えないの。時々メッセージを送るから、そっちも何かあったら私に呼び掛けて)

(うん、そうするよ)

(ココロ)

 再び大地の声が返って来た。

(たった三日の辛抱しんぼうだよ。僕らの心配より、ココロは次の仲間への呼び掛けを続けて)

(大地…)

(ここにもこんなに人がいる。どこに仲間がいるかわからないだろう?)

(そうね、うんわかった)

 ココロは少しさみしい想いを感じながらも笑顔を作って答えた。それを最後にココロは通信を終える事にした。

「ナルは何と?」

 ココロにシルバーがいて来る。

「あ、うん」

 ココロは顔を上げるとシルバーにナルの残した伝言を伝えた。

「なるほど、もっともですね。後で入り口まで行ってみましょう」

 シルバーがそう言った時、背後の扉が音を立てて開かれ、大きな荷物を持った壮年そうねんの男女が入って来た。


















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