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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
193/440

今、守るべきもの

●登場人物

・ココロ…魔族の存在を知り世界を守るために戦う覚悟を決めた公国の公女。侯爵こうしゃくの娘として育ったせいか少々我儘わがままで世間知らずなところがある。

・吉田大地…土の能力者。冷静かつ広いジャンルに才能を発揮する秀才。実は隠れ情熱家でありこうと決めた事は何があってもやり)げなくてはいられない性格。

・シルバー…鋼の能力者。かたくななまでの忠誠心と義務感で仲間を守り戦う根っからの戦士。しかし本人も気が付かない優しさを持っている。

・キイタ…大国の王女で極度の人見知り。ネガティブな思考を持っているが人には優しくしんは強い。自覚はないが相当な負けず嫌いである。

・ガイ…雷の能力者。豪放磊落ごうほうらいらくな性格で細かい事は気にしない。しかし仲間を思う気持ちは強く常に先頭を切って敵に挑み掛かるため怪我けがが絶えない。

・アクー…水の能力者。大地以上に冷静で現状分析げんじょうぶんせきけている。大人びた振りをしているが記憶を失っている不安からか非常にさびしがり屋。

・ナル…生命の能力者。自己否定のくせがあるが心根は純粋で素直な青年。自分に与えらえた力が他人を傷つける事を恐れ自らを封印していた。



●前回までのあらすじ

 大地を放り出して宿に戻ったココロを出迎えたのは怒り心頭しんとうのシルバーであった。一方的に怒鳴どなるシルバーに対しつい堪忍袋かんにんぶくろが切れたココロはシルバー以上の言葉を駆使くしして反論する。

 大地が町に出て行ってしまった事を知ったシルバーはココロを置いたまま大地を捜すために部屋を出て行ってしまう。

 町へ走り出たシルバーは偶然にであったスティアから大地の向かった方角を聞き出すとすぐにけだして行く。

 部屋に残ったココロはキイタに胸の内を明かす。自分はただ、大地に能力者としての使命を忘れてほしくないだけなのだと。そこへカンサルク王第二の武器を携えたガイとナルが意気揚々と帰って来た。

 スティアと別れたシルバーはにぎ)わう人込みの中、ようやく大地の姿を見つけたシルバーは力づくで彼を宿へと連れ戻すのだった。







 無表情なまま部屋に入って来るシルバーの迫力に押されるようにガイは思わず身を退いてしまった。空いた隙間すきからシルバーがズンズンとへの中へと入って来る。

「シ、シルバー?」

 訳が分からず戸惑とまどっているガイの横をすり抜けてアクーがオロオロとした顔で部屋に入って来た。

「離せって言ってんだろう!!」

 どうやらその肩の上でわめき散らしているのは大地らしかった。騒ぎを聞きつけたココロが隣の寝室から飛び出して来る。

 次の瞬間、シルバーは肩の上にかつぎあげた大地を力いっぱい目の前の壁に叩きつけた。

「痛ぇっ!」

 大地の顔が苦悶くもんゆがむ。

「大地!」

 キイタが叫ぶ。

「シルバー!これはどう言う事!?」

 そう叫ぶココロを無視してシルバーはつかつかと大地に歩み寄る。怒りの表情を浮かべた大地が立ち上がると同時に、シルバーが左手の甲で思いきり大地の横面を張った。

 大地の体がココロの足元に吹っ飛んでくる。

「大地!」

 慌てて大地を抱き起そうとしたココロの手を押しのけた大地が挑み掛かるような目でシルバーをにらみながら身を起こす。

「まだ目が覚めないか?」

 言うやいなや更に大地に近づいたシルバーは今度は反対のほおを思いきり叩いた。再び大地の体が今度は反対側に飛ぶ。

「シルバーよせよ!」

 ようやく驚きから立ち直ったガイが叫ぶ。

「シルバー…」

 暗い声で言いながら大地が立ち上がる。

「てめえ…」

 そうつぶやいた大地の体が薄黄色い光に包まれる。

「やるか?」

 答えたシルバーの体も銀色の光を放ち始める。

「上等だ」

 大地はシルバーをにら見上げたまますぐ後ろの壁に右手をつける。シルバーは左手で腰の剣をつかんだ。

「やめて!!」

「いい加減かげんにしろ二人とも!」

 ココロとガイが同時に叫んだ。次の瞬間大地とシルバーの体を包む光が一瞬の内に消え失せてしまった。自分の意思とは裏腹に能力の発動が制御された事に驚く大地とシルバーの耳に少年の声が聞こえた。

「やめとけよ、大地」

 いつの間に現れたのか、ココロの足元でそう言ったのはテテメコだった。

「テテメコ…、何で?」

「デュールを傷つける力なんか僕は持っていないよ」

「私もだ」

 続いて聞こえた低い声に振り向くと、反対側の壁近くにデュールが静かに立っている。

 ANTIQUEの手を借りられないとわかった大地は、再びシルバーをにらみつけると、その目を部屋の中に走らせた。手近にあったコート掛けを手に取る。

「大地!」

 小さな体でシルバーに挑み掛かろうとする大地の姿にナルが驚いた声を上げる。シルバーはシルバーで、それを受けて立とうとますます々剣をにぎる手に力を込めた。

 その時だった、いきなり二人の顔面に猛烈もうれつな勢いで水が浴びせかけられた。

「キャっ!」

 き散らされた水飛沫みずしぶきにココロが思わず悲鳴を上げる。大地が驚いた顔のまま動きを止めた。慌ててけ寄ったナルがその手からコート掛けを奪い取った。

 シルバーは長い髪からポタポタと水滴をらしながら黙って立っている。

「いい加減かげんにしろっ!」

 叫んだのはアクーだった。見れば二人に向けられた彼の両手からはやはり水がしたたっていた。

「頭を冷やすんだ二人とも」

 アクーが大人びた声で言うと、大地はそのまま背後の壁に背中を預けたままズルズルと座り込んでしまった。

「あ…」

 部屋にいる全員が言葉を失っていると、ガイがようやく口を開いた。

「あ~あ、びっちょびちょだよ。参ったなこりゃ」

「ぼ、僕、雑巾ぞうきんをもらってくるよ」

 そう言って部屋を出ようとしたナルは、自分がまだ両手でコート掛けを持っている事に気が付くと、困ったような顔を周囲に向け、結局大地から一番離れたドアのそばにそれを慎重しんちょうに置いた。

「大地…」

 ナルが部屋を出てしばらくすると、シルバーが静かな声で大地の名を呼んだ。大地はまだ呆然ぼうぜんとした顔のままあらぬところを見ている。自分を見ようとしない大地に構わずシルバーは続けた。

「お前はましろを家に連れて帰るためにこんなところまでやって来た。お前が六年前ましろを助けられなかった事を今も後悔し続けているのを私は知っている」

 シルバーの言葉に大地の目に色が戻って来た。大地はそのまま顔を伏せてしまった。長い前髪がその顔を隠した。

「そんなお前がこの町でましろの姿を見たとしたら、心中 おだやかでいられないのはよくわかる」

 すると突然シルバーは大地の前にひざをついた。

「だがお前にもわかって欲しいのだ、今すべき事は何なのかと言う事を。今お前がすべき事はましろを捜す事じゃない、魔族を倒す事だ、私達と一緒に!」

 シルバーは大地の両肩をにぎった。痛そうにしかめた顔を大地はまだあげようとしない。

「今ここでましろを見失ったとしても、魔族を倒せばまた捜す事ができる!だがもし私達が敗北してみろ、いずれこの町も魔族によって滅ぼされるんだ!」

 大地の目が何かを捕らえようとでもするように左右に泳ぐ。

「やつらはましろごとこの町をつぶすだろう。それだけじゃない、ましろが暮らすこのプレアーガを、そしてやがてはお前がましろを連れて帰ろうとしている地球にも魔族の手は伸びて来るんだ!」

 大地が顔を上げた。驚いたように目を見開き、目の前にあるシルバーの顔を見る。

「今お前が守るべきものは何だ大地!ましろか?違う!ましろが暮らすこの世界だ!ましろを連れて帰るお前達の故郷だ!魔族を倒し、世界の平和を守る事ができれば、その後いくらでもましろを捜す時間は作れる!私も協力しよう、この戦いが終わった後でならば、お前と一緒に、ましろが見つかるまでいつまででも、どこまででも捜す!だから今は…、今はこらえてくれ…」

 大地が再び顔を伏せる。シルバーの言う事は理解できた。筋の通ったその説得に折れようとする思いと、ようやくつかみ掛けたましろへの手掛かりをあきらめる事への恐怖とに表情が目まぐるしく変化する。

「大地…」

 静かに歩み寄って来たキイタが、床がれている事もいとわずシルバーのすぐ横にひざをついた。

「六年間、それだけを思ってきたんだもんね?苦しいよね?でもね、今は…、今は私達と一緒にいて欲しいの。土の能力者として、一緒にいて欲しいの…。大地、戦いが終わったら、ましろさんを捜す旅に私も連れて行って」

 キイタに向けられた大地の顔がゆがむ。それを隠すようにすぐに顔を伏せた大地の右手がキイタの肩をつかんだ。空いた左手は自分の肩に乗せられたシルバーの腕を取った。

「…ごめん…」

「大地」

「いいんだ大地」

 言いながらシルバーは大地の体を引き寄せた。大地が顔を埋めたシルバーの胸元がじんわりと熱くなる。

 まった水をんで今度はアクーが近づいて来た。小さなため息をついたアクーは水溜みずたまりの中にしゃがみ込んだ三人を見下ろしながら言った。

「さあ、れた服を着替えよう。出航を前に風邪でもひいたら困る」

 シルバーはアクーの顔を見上げた。

「おかげで頭が冷えたよ。助かった」

 言われたアクーは肩をすくめた。

「お安い御用ごようさ」

 シルバーは笑顔を作ると、大地の手を取って立たせた。

「さあ行こう大地、着替えたら昼飯だ」

 シルバーに肩を支えられた大地は無言でうなずいた。二人は仲良く寄りいながらココロ達の部屋から出て行った。

 入れ違いに入って来たナルは部屋を出て行く二人のために身を退き、その背中を見送った。

「終わったの?」

 両手いっぱいに古雑巾ふるぞうきんを抱えたナルが部屋に入るなりガイにいて来た。

「ああ、終わったみたいだな」

「あ、じゃあ床をかなきゃ!急がないと下の階にれたら大事になっちゃうよ!」

「おお、そうか!そりゃまずいな」

 いいながらガイもナルから雑巾ぞうきんを受け取ると慌てて床にった。そんなガイの鼻先に人の足があった。

「あん?」

 見上げるとアクーが冷めた目で自分を見下ろしていた。

「何 ました顔して立ってんだアクー!お前のいた水だろうが、手伝え!」

 するとアクーはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「いかにも、僕の出した水ですよ」

 言うなりアクーが両手を差し出すと、ぶちかれた水が低い場所へ流れるようにアクーの足元へと集まって来た。

「おお!?」

 驚いて立ち上がるガイのまたくぐって水は次々とアクーのそばへと流寄って来た。やがて一か所に集まった水は突然大きな球体になって持ち上がると、差し出されたアクーの手の上に乗った。

「出したものは回収もできちゃう。ガイには無理でしょ?」

 アクーはそう言って悪戯いたずらっ子のように笑った。

「こりゃあ大したもんだ」

「便利ですねえ」

 両手に雑巾ぞうきんをぶらさげたままナルも感心した声を出す。

「じゃあ表に捨てて来るね」

 そう言って部屋を出ようとするアクーをガイが慌てて止めた。

「バカバカバカバカ!そんなもん持って歩いてたら目立ってしょうがないだろうが!」

「えー?じゃあどうするのさ?窓から捨てる?」

「それはそれで問題があると思います先輩」

「じゃあどおすんのさ!」

 両手に大きな水のボールを乗せたままアクーが怒ったような声でく。

「え、ええ~っと…。あ、そうだお風呂!お風呂に捨てましょう先輩!」

 そう言ってナルが先導する。

「こ、転ぶなよ?ほら!足元に気を付けて!」

「わかってるよ、うるさいなあ。耳元で怒鳴どなんないでよ」

 アクーが不快ふかいそうな声を出す。

「それよりガイ、君さっき僕の事をバカって言ったね?それも何度も」

「そうだったか?忘れたなあ」

 そんな事を言い合いながら三人が部屋の奥へと消えていく。後に残ったココロは何かを考え込むように難しい顔をしたままたたずんでいた。

「ココロ」

 キイタが声を掛けるとココロが顔を上げた。

「自分達の部屋でやればいいのにね?何でシルバーがわざわざ大地をこの部屋に連れて来たかわかる?」

 ココロは無言でキイタの顔を見返している。

「ココロにも聞かせたかったんだよ。シルバーはココロを怒鳴どなれない、なぐれない。だから目の前で大地にお説教せっきょうしたり、お願いしたりする事でココロにもわかってもらおうとしたんだよ、私達が今守るべきものは何かって事を」

 ココロは無表情なまままだキイタを見つめている。次の言葉を待っているようだった。

「今私達がしている事全部、信頼し合う事も、頼る事も、こうして息をしている事ですら、そのすべてが一つの目的のために行われている事なんだって、シルバーはそう言いたかったんだと思うの。そして、私達の中で誰よりもその身を大事にしなくちゃいけないのはココロ、あなたよ?」

 ココロが再び眉間みけんしわを寄せてうつむくのを見て、キイタは更に続けた。

「ココロ、もう一度言うわ。私は戦いが終わるまであなたのそばを離れたりしない。今この瞬間、私の命は私のものではない、ンダライの民のものでもない。私の命は、この宇宙のためだと覚悟して旅を続ける。火の能力者として。だからお願い、私を信じて」

 ココロは目をつむ)ると小さく息を吐いた。そのままキイタに向かって両手を伸ばす。キイタはすぐに自分も手を伸ばしココロを抱きしめた。

「大丈夫よココロ。私だけじゃないわ、みんな同じよ。みんなあなたを信じてついて行くわ。私達はみんな、あなたの声を頼りに集まった仲間なんだから」

 ココロは最後まで無言のまま、ただキイタを抱く腕に強く力を込めた。





 夜明け前。こごえるような寒さの中、大地はそっとベッドを抜け出した。つもりだったがその気配に気が付いたシルバー、ガイ、アクーはすぐに目を覚ました。

「大地」

 シルバーの呼び掛けに振り向いた大地は微笑んだ。

「ごめん、起こしちゃった?」

「どこへ行く気だ?」

 ガイが問い詰めるような声を出す。

「うん、ちょっとね…」

「大地、駄目だよ」

 アクーが言うのに大地は安心させるように答えた。

「違うよ、ましろを捜しに行くんじゃない」

 ガイは一度アクーの顔を見てから言った。

「じゃあどこへ行く気だ?便所か?」

「そうじゃないけど…。そうだな、せっかくだからシルバー、一緒に来てくれないかな?」

 大地がそう言うと、理由も行先も聞かずにシルバーはすぐにベッドから降りた。

「すぐに戻るよ」

 何かを言い掛けたガイとアクーに向かって大地は笑顔で手を振った。





 宿の外へ出ると冬のんだ空気が二人を包んだ。見上げた空に輝く星にため息をつけば、真っ白な煙となって虚空こくうへと千切ちぎれて行く。

「シルバー、ありがとうね」

 大地が後ろからついて来るシルバーに言った。

「何がだ?」

なぐってくれた」

「ああ…。その、なんだ…済まなかったな」

「いいんだよ」

「痛かったか?」

「そりゃ痛かったさ」

 そう言って大地は振り向いた。

「それでようやくシルバーの声が聞こえた。ラディレンドルブルットの時もそうだったけど、シルバーのビンタは本当によく効くよ。また俺が駄目になりそうな時は、遠慮なくやってくれ」

 笑顔で言った大地は再びシルバーに背を向けると歩き始めた。


(結局あなたは大地の事が大好きなのね?)


 前を歩く大地の背中を見つめながら、シルバーの頭の中にココロの声が蘇る。

「大地」

「んー?」

「どこへ行く気なんだ?」

 立ち止まった大地が無言のまま前方を指さす。

「あ…」

 大地の指さす方向では、暗い中旅立ちの準備をしている一組の家族の姿があった。

「大地!シルバー!」

 近づいて来る二人に気づき声を上げたのはスティアだった。

「母ちゃん、この人達だよ、今日の舟券をゆずってくれたのは!」

 言われたスティアの母親らしき女が慌てて二人に礼を言って来る。まるで命の恩人にでも会ったようなその恐縮振きょうしゅくぶりに大地の方が慌ててしまった。

「大丈夫です大丈夫です。俺達丁度客船の券が欲しかったところなんです。それよりご主人の怪我けが、大した事ないといいですね?」

「ええ…」

 大地の言葉にスティアの母親少しさびし気に微笑んだ。

「皆さんの顔を見たらきっとすぐに元気になりますよ」

 故郷に帰る事すらできないのだ、大した事ないはずがないのだが、希望も込めて大地はそんな事を言ってスティアの母親をはげました。

「それで大地どうしたの?こんな時間に」

「連絡船の出航は早いってシルバーに聞いてさ」

「まさか、見送りに来てくれたの?」

 大地は得意そうに笑った。

「船出に見送りはつきものだろう?それに荷物も多いと思ってね、力自慢を連れて来た」

 そう言って大地は後ろに立つシルバーを気安く指さした。

「もしかして私の事か?」

 シルバーが低い声で大地に言うと、聞いていたスティアは慌てた。

「いいよそんな!これだけ世話になってその上荷物持ちなんて頼めないよ!」

「何だ私では頼りにならないか?」

 シルバーが不満そうな声で言いながら近づいて来る。

「あ、スティアいけないな~。シルバー傷ついちゃうよ?」

「そんな!そう言うつもりじゃ…」

「子供が遠慮何てするもんじゃない」

 そう言うとシルバーは家族の足元に転がる大きな荷物を一度に二、三個もつかみ上げると、軽々と肩に担いだ。

「君がジョシュアだね?」

 大地はもじもじとした態度で立っている小さな少女に腰をかがめて笑い掛けた。

「お兄ちゃんはお母さんを連れて行かなきゃいけないから、ジョシュアは俺と一緒に行こう。俺は大地、お兄ちゃんの友達だ」

「何で?」

「え?」

 ジョシュアの手を取った大地に突然スティアが言った。

「何でそんなに優しくしてくれるの?」

 大地はにっこりと笑顔を作った。

「スティアには頑張って欲しいんだよ。怪我けがをしたお父さんの代わりに働くんだろう?二人位応援する奴がいてもいいじゃん」

「大地…」

「ああ、それに…」

 大地は幼いジョシュアの手を引きながら歩き始めるとスティアに背中を見せたままで続けた。

「俺は君をやとったんだからね。約束を忘れていないかもう一度確かめにきたんだ」

 大地がわざとそんな意地悪いじわるを言うと、スティアは顔を赤くして言った。

「そ、そんな!忘れる訳がないじゃないか!」

 すると大地は笑顔のままスティアを振り返った。

「そうか、なら安心した」

 重たい荷物を抱えながらシルバーは微笑んだ。いつもの大地に戻っている。

 これはきっと大地の自己満足なのだ。殺伐さつばつとした戦いの毎日の中で自分をなぐさめるためわずかな楽しみなのだ。

 大地は自分より弱い物を守ろうとする。自分だってそんなに強い訳でもないくせに、それこそ命掛けで誰かを守ろうとする。

 自分には真似まねのできない事だ。軍人である自分は命に代えてもココロを守る。だがそれは命令だからだ、そのように教え込まれたからだ。

 しかし大地は違う。誰に頼まれた訳でも、命令された訳でもない。ただ、自分の感情のおもむ)くままに弱き者を守ろうとするのだ。

 そのために本当に命を落とし掛けた事もある。今回のように大切なものを見失い掛ける事もある。感情のまま動くその行為こういは時に危うさも見せる。

 だが、それが大地なのだ。吉田大地と言う男なのだ。

 シルバーはよようやく認めた。自分にはないそんな性分を持ったこの男を、自分は本当に好きなのだと。そして、そんな男だからこそ、決して失ってはいけないのだと改めて強く思った。

















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