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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
181/440

結束

●登場人物

・ブルー…誰よりも早く魔族やANTIQUEの存在を知り、ココロの協力者となった。その事を買われ現在は特殊遊撃班と言う新設隊を任されている。

・パッキオ…かつて筆頭隊士としてガイの部隊に所属していた。戦闘能力のみならずその高い知識と人間性からブルーが最も信頼している人物。

・ウルカ…公軍大臣を父に持つ公軍唯一の女性隊士にして分隊長。各国の不穏ふおんうわさを耳にした事からANTIQUEの存在を知る事となった。

・ハリス…元はガイの部下だった隊士。幼年部隊から抜擢ばってきされた実力を持つ最年少隊士。八歳年上のウルカにほのかな恋心を抱いている。

・コスナー…理解力のある良き兄貴分。山岳さんがく地域の出身でロープ術にけている。喧嘩けんかぱやく短気なうえ酒豪しゅごう

・エミオン…少々気の弱い隊士であるが火薬術の知識を持ち、現在は新設火砲隊の役員班長に任命された。俊足が自慢。

・ユーリ…やや天然なところのあるムードメーカー。ごくたまに的を得た事を言うが本人には自覚がない。



●前回までのあらすじ

 ドナル侯爵こうしゃくとの謁見えっけんを終えたブルーはいち早く援護部隊の仲間達にその結果を伝えたいと考え侯爵官邸こうしゃくかんていの中を歩き回っていた。

 声を掛けて来た部下のパッキオから全員が食堂でブルーを待っていると聞かされ急ぎ会合を開く。そこでブルーはドナルとの会話一切を仲間達に披露ひろうするのだった。






 

「待ってくれ」

 ブルーは立ち上がったパッキオの服をつかんだ。

「何か?」

 パッキオが不審ふしんげな顔でブルーを見下ろす。

一刻いっこくも早く取り掛かってもらいたいのはやまやまなのだが、一つ、私に助言して欲しい」

「助言?」

 言いながらパッキオが再び椅子に腰掛ける。

「そうだ」

 ブルーは目の前にいる仲間達の顔を見回した。

「さっきも言ったように、私は自分で広げた風呂敷ふろしきのたたみ方がわからずに困っている。恥ずかしい話だが、みんなの知恵を借りたい」

「俺達に班長に貸し出せる知恵なんかあるんかな?」

 コスナーが自虐的じぎゃくてきな笑いをふくんだ声で言った。

「皮肉はやめてくれコスナー。私は真面目まじめに困っているんだ」

「一体何をそんなに困っているのです?」

 人事異動発令の驚きからようやく立ち直ったハリスがいて来る。

勿論もちろんケシミ大臣に立てていただく遠征訓練の内容だよ。一体どこへどれ程の期間行く事ができれば閣下かっかに満足していただけるだけの結果を持って帰って来られるのか…」

「そりゃあ…。トランの死体が見つかるまで何度でも遠征をり返すしかないんじゃないの?」

「大臣に当てずっぽうだとしかられたよ。何年も時間が掛けられる訳ではないんだ」

 ユーリの発言にブルーは首を振った。

「ピンポイントで死体を見つけようって事っすか?」

 コスナーがくとブルーは真剣な顔を彼に向けてうなずいた。

「理想はその通りだ。時間を掛ければ敵に怪しまれる。できれば一発で決めたい」

 ブルーは彼らしくもない必死な顔で仲間の顔を順に見た。

「どうだろう?何かいいアイデアはないかな?」

 ウルカが戸惑とまどったような顔を隣のハリスに向ける。ハリスも同じようにウルカを見つめ、その後でパッキオを見た。

「本気で言ってますか?」

 パッキオが低い声で言った。

「え?」

 ブルーは怪訝けげんな表情を浮かべた顔をパッキオに向ける。

「俺達が安易あんいに考えすぎなのかなあ?」

 コスナーが伸びでもするように椅子の背もたれにに体重を掛けた。

「コスナー?」

 ブルーが彼に顔を向けるとそのすきにパッキオがゆっくりと椅子を引いて立ち上がった。

「パッキオ」

「班長、お言葉に甘えて部屋を借りますよ。一刻いっこく猶予ゆうよもならない。質問の答えなら、どうぞ他の連中にいてください」

 パッキオはない声でそう言うと仲間の輪から抜け食堂に向かって歩み去って行った。

「ええ?ちょっとあの態度は冷たくない?」

 パッキオの大きな背中を振り返りながらユーリが言う。

「え~っとごめん。俺も班長の心配に答えられないんだけど、コスナーはわかるの?」

 エミオンが言うとコスナーは後ろ手を組みながらチラリとハリスを見た。

「私は、何か変な事を言っているか?」

 ブルーが不安げな顔を向けてくる。

「コスナーが安易あんいと言うより、班長が難しく考え過ぎなのではないでしょうか?」

 ハリスが苦笑いを浮かべながら言う。すぐにウルカが続ける。

「父は、味方なのですよね?」

勿論もちろん

 ブルーは急いでうなずいた。

「では、その…、トラン隊士の行動記録を見せてもらっては如何いかがでしょう?」

「あ!」

 ブルーは大きな声を出した。ウルカの言う通りだ。公軍大臣が味方にいるのだ、各隊の行動記録は逐一ちくいち報告されているはず

「ブルー班長が襲われた時、トランは既にアテイルにすり替わっていたのだとしたら少なくとも一か月位前から以前の記録を見て見れば…」

 ハリスが遠慮がちな声で言う。

勿論もちろん一発で正解に当たるとは限りませんが中央の治安部隊に所属するトランが町を出る事は滅多にないと思います。公務で遠出をした記録がなければ、あとは休暇で帰郷したとか、旅行に出掛けた時にアテイルに襲われたと考えるのが順当と思います」

「いずれにしてもそう数は多くないはずですから、場所や条件を吟味ぎんみした上で場所をしぼり込めば…」

「そっかー、俺ら旅行の時も居場所は明確にしておけと言われているもんね?」

「なるほどねぇ」

 ハリスとウルカが交互に言うのにエミオンとユーリが感心した声を上げる。ブルーはそうしている間にもテーブルに置いた両手に顔を埋めてしまった。

「そんな事にも気が付かないとは…。パッキオがあきれる訳だ」

 ブルーが大きなため息をつくとコスナーが体勢を戻しながらはげますような声を出した。

「ま、班長がった大任を思えば多少テンパっても仕方ないですよね」

 空になったジョッキをテーブルに戻したコスナーは、顔を伏せたまま肩を落とすブルーを見て尚更なおさら大きな声を出した。

「落ち込んでいる場合じゃないでしょう班長。仮にドンピシャでトランが襲われた場所に行き着いたとしても、そこからどうやって彼の遺体を見つけだすんです?見つかった遺体がトランのものだとどうやって断定するんですか?」

 コスナーの言葉にブルーはようやく顔を上げた。

「しっかりしてくださいよ班長。遠征に行く前にトランの体格や身体的特徴、性格なんかも合わせてできるだけ情報をき集めるとか、やる事はいくらでもあるでしょう?」

「…そう、だな…」

「あ!」

「わあ、びっくりしたなあもお!何だよ?」

 突然ユーリが頓狂とんきょうな声を上げたので驚いたハリスが文句を言った。

「トランの死体が見つかったらさあ、チャーザー補佐官の行動記録も調べてみたら?」

 ユーリが我ながら名案だと言いたげに手を叩く。他の仲間達は黙ったまま全員が彼の顔を見つめている。仲間達の無言の反応にユーリは何となく気まずい空気を感じ取った。

「あ、あれ?俺、また何かバカな事を言いまして?」

「ユーリお前…」

 コスナーがポツリとつぶやいた。

「天才か?」

「君の言う通りだよユーリ。そうだ、チャーザーの行動記録ならトラン以上にケシミ大臣が把握はあくしているはずだ」

 ブルーが独り言のようにつぶやくとすぐにハリスが続いた。

「だったらギース外務大臣なんかもっとはっきりしてるんじゃない?」

「確かに」

「外務大臣は国外に出る事は珍しくないからしぼり切るのは難しいと思うわ」

「しかしトラン、チャーザーと捜査が進めばいずれギースも追い詰める事ができる…。勿論もちろん彼がアテイルだとしての話しだが」

 ブルーの中で次々と今後の行動計画が組み上がって行く。絶妙な提案をしたユーリだけがその展開について行けずに笑顔のまま仲間達の顔を見回していた。

「こうしてはいられない」

 そう言うとブルーは椅子を蹴倒けたおす勢いで立ち上がった。

「コスナー、確かに落ち込んでいる場合ではないようだ」

 コスナーが笑顔で肩をすくめる。ブルーはユーリに顔を向けると勢い込んで言った。

「ありがとうユーリ、君のおかげで今後の方針が立った」

「ど、どういたしまして…」

 お礼を言われた意味がよくわかっていないユーリは慌てて答えた。そんな様子ようすにウルカとハリスがそっと笑い合う。

「エミオン、ユーリ」

 コスナーの声に二人が顔を向ける。

「前にパッキオが言った事を覚えてるな?俺達は今まで以上に周囲に怪しい奴がいないか注意しておく必要があるぞ。閣下かっかの動きはいずれ敵に知られる。その時奴らがどう動くか…」

「それ、意外と難しいんだよね」

 エミオンが情けない声を出す。

「怪しいと思って見れば誰でもそう見えるし、でも普段はみんないい奴ばかりだし」

「トラン隊士も普段は明るく仲間の多い人物だったらしいわよ?」

 ウルカが早朝会議で得た情報を披露ひろうする。その場にいる全員の脳裏に仲間達と談笑するトランの姿が浮かんだ。

 彼らの背後で明るい光を投げ掛けてくる従事者じゅうじしゃ食堂。二日前、あの一角で仲間達と一日の疲れをいやため酒をわしていたトラン隊士。

 毎日を共に過ごしていたはずの治安部隊の仲間達は誰一人として気づいている様子ようすはなかったが、あの時、トランは既にアテイルが化けた偽物にせものだったのだ。

 その事を思い起こし、何となく食堂の灯かりに顔を向けたブルーの目に、こちらに近づいて来る人影が映った。同時にコスナーもその人影に気づいたらしく、大きなため息をついた。

「今夜の話しは以上でいいですね?」

 コスナーはそう言うと席を立った。それを合図にしたようにエミオンとユーリも立ち上がる。

 みんなの雰囲気にようやく背後の気配に気が付いたウルカとハリスが振り向くと、鬼のような形相ぎょうそうで近づいて来るレバルフトの姿がそこにあった。

「隊長…、またしてもこのような場所で」

 貴族の位にある者だけで構成されているウルカの隊に属する彼は公爵家の遠縁とおえんに当たるだけに特に階層意識かいそういしきが高かった。

 そんな彼は自分の上官が庶民しょみんの出であるハリス達とたびたび々席を共にしている事が気に入らなくて仕方がないのだ。

 事あるごとにハリスのみならず上役に位置するブルーやロズベルまでをも見下した態度で侮辱ぶじょくする発言をり返していた。

「おや?もう解散かな?」

 自分が来るなり席をたったコスナーとすれ違いざまレバルフトは皮肉な声を出した。

「ああ、何故なぜか急に酒がまずくなったんでな」

「安酒だからだろう」

「また痛い目に会いたいか?あ?おぼっちゃまよ」

「下品な言葉だな、まるでチンピラだ」

「レバルフト」

 一触即発いっしょくそくはつの二人の間に割り込むようにウルカが席を立った。

「は」

「近々あなたの驚くような事が起こるでしょう。その時になって慌てないよう、今から覚悟をしておきなさい」

「私の驚くような事?一体どのような覚悟をしろと?」

 つい先日コスナーに片腕一本でねじ伏せられた事も忘れたのか、レバルフトは皮肉な態度を改めようともせずに余裕のある笑顔で言った。

「あなたの言う庶民しょみんと肩を並べて働く覚悟よ」

「はっ」

 突然レバルフトは馬鹿にしたような笑い声を上げた。

「何を言い出すのかと思えば隊長。そのような事、天地が逆さになっても起きようはずがないではないですか。この私が、庶民しょみんと一緒に働く?」

 いちいちしゃくさわる言い方に短気なコスナーが手をあげかけたその時、突然伸びて来た手がレバルフトの鼻を強くまんだ。

「いだだだだだだだだだだだだだだだっ‼」

「班長!?」

 コスナーが驚いた声を上げた。レバルフトの鼻を万力まんりきのような力でじ上げているのはブルーだった。

 涙をにじませながら叫んだレバルフトはそのまま地面にひざをついたがブルーはまだ手の力をゆるめようとはしなかった。

「レバルフト隊士」

 ブルーがいんこもった声を出した。誰一人聞いた事のない迫力のある声だった。

「や、役員班長だ!」

 じ伏せられながらレバルフトは言い返したがブルーの表情は変わらなかった。

「そうですか。だがあなたの役職などに興味はありません。ここにいる一般隊士にもおとるあなたの階級などにはね」

「ぶ、無礼な‼」

 わずかな根性を見せたレバルフトにブルーは更に手に力を込めた。無様ぶざまに天をあおいだレバルフトののどから悲鳴と共にゴロゴロと血の鳴る音がれた。

「私達は大切な時間を過ごしているのだ。今後一切邪魔をしないでいただきたい」

 そう言うとブルーはレバルフトを投げ出すように手を離した。大きな悲鳴を上げたレバルフトはそのまま仰向あおむけにひっくり返った。

 コスナー、エミオン、ユーリの三人はまゆ一つ動かさないブルーの顔を恐ろしい物でも見たような目で見つめていた。

「ウルカ隊長」

 ポケットから出したハンカチで指先をきながらブルーがウルカの名を呼ぶ。

「上官の前で出過ぎた真似まねをいたしました。お許しください」

「隊士の教育は我ら分隊長共通の使命。あなたがしなければ私がしていたところです。むしろうちの隊士がご迷惑をお掛けしました」

「痛そ~。ましょうか?」

 血まみれの顔を両手でおおったレバルフトに近づきながらハリスが言う。鋭い目で彼はハリスの顔をにらみ返した。

「立ちなさいレバルフト。私は帰宅します」

 ウルカは地面に倒れたレバルフトの横を澄ました顔で行き過ぎた。慌てて立ち上がったレバルフトは急いでウルカの後を追った。

「ウルカさん」

 食堂に向かうウルカの背中にハリスが声を掛ける。ウルカは柔らかい髪をひるがえして彼を振り返った。

「お休みなさい」

 その馴れ馴れしい口調にレバルフトが更に怒りの表情を浮かべる。言われたウルカもハリスの言い方に少し驚いたような顔をしてみせた。

「お休みなさい」

「お休みなさい」

 エミオンとユーリ、コスナーも口々に言う。

「お休みなさい、ウルカさん」

 最後にブルーが静かな笑顔で言うと、ウルカも嬉しそうな笑顔になって答えた。

「お休みなさい」

 そう言って背中を見せたウルカの後ろを最後までにくにく々し気な目をこちらに何度も向けていたレバルフトが追いかけていく。

「やるねえ班長」

 二人が食堂に入るのを見届けたコスナーがブルーを振り返って言う。

「何、あいつが弱すぎるだけさ」

 澄ました声でブルーはいつかのコスナーのセリフを真似まねて言った。その言葉にコスナーが吹き出す。ブルーも笑顔を見せると、それが伝播でんぱしたようにハリス、エミオン、ユーリも愉快ゆかいそうに腹を抱えて笑い出した。

 冷たい木枯らしが吹き抜けていくのも気づかず、五人は大声で笑い続けた。













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