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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
180/440

援護部隊稼働

●登場人物

・ブルー…アスビティ公国の主力部隊特別行動騎馬隊の中に新設された特殊遊撃班を任された若き班長。シルバーが公軍の中で最も信頼する隊士。

・パッキオ…元はガイ、アリオスの部下であったが現在はブルーの片腕として働く。禿頭とくとう巨漢きょかんの軍人だが非常に冷静で頭の切れる人物。

・ウルカ…アスビティ公国公軍大臣の娘にしてデューカ守備隊第三分隊をひきいる女分隊長。幼少期から軍人になるべく男性として育てられた。

・ハリス…現在は特別行動騎馬第一分隊に所属する最年少隊士。医学の心得を持つ。幼年部隊から抜擢ばってきされた実力者。八つ年上のウルカにほのかな恋心を抱く。

・コスナー…現在は特別行動騎馬第八分隊の所属。ハリス達の良き兄貴分で山岳さんがく活動を得意とする。気の良い青年だが無類むるいの酒好き。

・エミオン…現在は特別行動騎馬第四分隊の役員班長を務める。火薬の知識にけておりまた仲間の中では一番の俊足しゅんそく

・ユーリ…現在は特別行動騎馬第七分隊の所属。コスナーとは同郷どうきょうでやはり山での活動が得意。理解力に欠け、発言は天然なところが多い。



●前回までのあらすじ

 ウルカの父であるアスビティ公国公軍大臣を務めるケシミは娘ウルカの提案に従いブルーを引き連れついにドナル三世 侯爵閣下こうしゃくかっかとの謁見えっけんのぞんだ。

 魔族、あるいはANTIQUEと言ったまるで夢物語のような話をドナルに理解してもらおうと言葉を尽くすがドナルはそれらすべてについて先刻せんこく承知をしていた。

 ココロからの手紙によって世界の危機を知ったドナルは即時特別行動騎馬の編成改革へんせいかいかくに乗り出したものの、それ以上に何ができるのか思いつかず一人悩み続けていたのだ。

 ドナルの苦しみを理解したブルーは主君の信頼を得るため、次々と新たな提案を口にするのだった。その提案に光明を得たドナルは早速さっそくブルーの進言を受け入れ実行に移さんがためケシミに命令を下すのであった。







 ドナルとの謁見えっけんを終えたブルーはケシミと別れると暗い廊下を急ぎ足で隊士宿舎へと向かった。

 たった今下された公爵閣下こうしゃくかっかからの命令をいち早く部下のパッキオに伝え、アリオスへ宛てた手紙を書かせなくてはならない。そして明日の朝にはそれを閣下かっかにお目通しいただかなくてはならないのだ、一刻の猶予ゆうよもならなかった。

 しかしそれだけではなく、ブルーはできれば他の援護部隊の仲間達にも事の次第を伝えておきたかった。

 真剣な表情で夜の公爵宮を急ぎながら、各自室にいるはずの援護部隊の仲間達をどう呼び出すかを考えていた。

 宿舎に寝泊まりする隊士の部屋は基本的に大部屋だ。ハリスやコスナーなど一般隊士は通常八人から十人が一部屋に詰め込まれている。副班長のパッキオですら四人部屋に入っているのだ。

 ドナルの前で自分を頼れなどと大見得おおみえを切ったはいいが、具体的な方法などは何も考えついてはいなかった。

 既に帰宅したであろうウルカはともかく、せめてこの隊士宿舎にいる連中とだけでも今後の方針について話したかった。いや、もっと正直に言えば、この後自分がどう動けばいいのか助言して欲しかったのだ。

 夜と言ってもよいの口だ、若い一般隊士達はまだ部屋には戻らず食堂辺りで群れている事だろう。そうであれば特定の人間だけを連れ出すのはそう難しくはないのではないか?

 とは言え今度の騎馬隊改革で頼りになる仲間達は皆 所属部署しょぞくぶしょが別れてしまっている。先ずはパッキオを連れ出し、順次手分けをして声を掛けるとして、他隊の正副が宿舎まで押し掛けたら他の同部屋の隊士達が変に思うだろうか?

(どこに敵がひそんでいるかわからない。できればあまり目立つ行動は取りたくないものだ)

 早足で進みながらブルーはそんな事を考えていた。

「班長」

 仲間を呼び出す良い方法が思いつかないまま公共館に足を踏み入れたブルーは、従事者専用食堂の前で声を掛けられ足を止めた。二日前、仲間達と一緒にロズベルからの報告を受けた場所だ。

 見れば食堂の入り口前にパッキオの巨体があった。ブルーはけ足で彼に近づいた。

「待っていてくれたのか」

「他の連中もそろっていますよ」

 パッキオは無表情のまま自分の背後を親指でさした。

「助かったよ。正直どうやってみんなを集めようかと思案しあんしていたところだったんだ」

首尾しゅびは?」

「上々だよ、でき過ぎな位だ。みんなは?」

「それぞれ散らばって飯を食ってますよ。今日も表にしますか?」

「冷えるだろう?」

「そんなにやわじゃありません」

 ブルーは一瞬 思案顔しあんがおをしたが、すぐに顔を上げると言った。

「表にしよう。目立つかもしれないが、話しを聞かれる訳にはいかない」

「俺達が出れば全員出て来ます。そう言う手筈てはずにしてありますんで」

 ブルーはうなずくと率先そっせんして食堂の中に入って行った。

「茶で言いですか?」

「ああ」

 ブルーの答えを聞いたパッキオはさりげなく離れて行った。その大きな背中を見送ったブルーは、一人暗い庭へと進み出た。

 空気が冷たい。あの日、全員でロズベルの話しを聞いたテーブルに近づく。木枯らしの吹き抜けるテーブルに今は誰も座っていない。

 円卓えんたくを二つ並べたような形をしたテーブルを見つめていたブルーは、すぐ目の前の椅子に手を掛け、思い直したようにぐるりとテーブルを回り込むと、一番奥の席に腰を下ろした。

 目の前にはガラス張りの明るい食堂の中がよく見える。中で食事をする何も知らない隊士達からも自分の顔が見えるだろう。

 初めは彼らに背中を向ける位置に座ろうとしたが思いとどまった。自分の話しを聞き驚いた顔を見せるハリス達を見れば、関係のない隊士が興味を持つかもしれない。

(落ち着け)

 誰かに見られている事を意識したブルーははやる気持ちを抑えようとつとめた。とにかく冷静に、自分が正面で取り乱した仕草を見せなければ誰かの注目を集める事もないはずだ。

 背もたれに体を沈め目をつむると、大きく吸った息をゆっくりと吐く。ブルーの熱い吐息といきが白い煙のように風に千切ちぎれた。

 椅子を引く音がした。静かに目を開く。丁度ちょうど斜向はすむかいにハリスが座っていた。二日前と同じ席だ。

 食堂から射すまばゆい光を背負いよくは見えなかったが、ひどく真剣な顔をしているのはわかった。

 やがてパッキオが湯気の立つカップをブルーの前に置くと無言で隣に掛けた。彼も二日前と同じ席を選んだ。

「ありがとう」

 茶を持ってきてくれたパッキオに礼を言ったブルーは、食堂から慌てた様子ようすで出て来る人影に目を見張みはった。

 柔らかい髪が大きくれている。小柄こがらなその影の正体はウルカだった。ブルーは驚きの余り思わず立ち上がり掛けた。

 空いた椅子の背もたれに両手をついたウルカは息を弾ませていた。

「分隊長まで…。てっきりご帰宅されたものかと…」

「今夜班長が閣下かっかとお会いになると聞きました。結果を聞かぬまま帰る事などできはしません」

 緊張のせいかウルカは少し怒ったような顔で椅子を引くとそのままハリスの隣へと座った。

 そこへようやくエミオンとユーリがけつけてきた。

「こんばんは!」

「何か急に冬っすね」

 わざとなのか、嫌に緊張感のない声で口々に言いながら席につく。最後に大きなジョッキを片手にぶら下げたコスナーが慌てる様子ようすもなくテーブルに歩み寄ると、ハリスを挟んでウルカとは反対側の席にどっかりと腰を下ろした。

 アスビティに残る援護部隊全員が顔をそろえた。結局みんな二日前と同じ席に座っていた。

ずは班長、大役お疲れさまでした」

 コスナーが首だけを倒してブルーをねぎらった。

「ウルカ分隊長がお膳立ぜんだてをしてくれましたからね、何とか」

「本当、あの大臣をよく説得できましたね」

 エミオンがウルカの顔を見て言う。

「あの事件のせいでなしくずし的に説明する事になりましたが逆に変に策を練らず真正面からぶつかったのが幸いしたようです」

「大臣も少なからず動揺どうようされていたでしょうからね」

 ウルカの答えにブルーが付け加えた。ユーリが愉快ゆかいそうに笑った。

「なるほどー、そのどさくさにまぎれて一気に押し切っちゃった感じですかぁ?」

「そう言うと聞こえは良くないが、まあそう言う事ですね」

 ウルカが顔をほろばせた。どうやらやって来た時の緊張が少しは解けているようだ。

 話すたびにみんなの口から白い息が伸びる。全員がほほを赤くしていたが、誰一人寒さを感じてはいなかった。

「それで…」

 ハリスが遠慮がちにブルーに話の先をうながした。ブルーは心持ち胸を張るように姿勢を正すと落ち着いた声で言った。

「動いたよ。閣下かっか英断えいだんを下された」

 ブルーの言葉に全員が無言で顔を向けてくる。悪いしらせでない事はわかったがドナルに求める事は多すぎた。一体どの事案についての英断えいだんが下されたのかしぼる事ができなかった。仲間達のそんな思いに気が付いたブルーは最初から説明する事にした。

閣下かっかはすべてを承知しておられた」

「すべて、ってのはつまりどの辺りまでです?」

 コスナーが思いとは裏腹に興味のなさそうな声でいて来る。

「すべてだ。ココロ姫は私にたくした手紙の中ですべてを語っておられた。魔族の事、ANTIQUEの事。今この世界で起きている事、今ご自分が置かれているお立場」

閣下かっかはそれを信じたのですか?」

「そうだ」

 ハリスの質問にブルーはうなずいた。何とか落ち着いて話そうと努力するがつい声が高くなってしまうのが自分でもわかる。

「お信じになったうえで、一人悩んでおられた。誰にも相談できず、何をどうしていいものかと」

「おいたわしい…」

 ウルカがまゆひそめながら小さくこぼした。

「その通り、見ていてもわかる程に閣下かっかは苦しんでおられた。私は言った、どうか私達援護部隊を頼ってくださいと」

 ドナルの胸中きょうちゅうを知りしんみりとうつむいていた一同は、ブルーの言葉の意味を理解するなり一斉いっせいに顔をあげた。

「それって、俺達の事ですか?」

「当たり前だろうユーリ。私は君の名前も閣下かっかに申し上げた」

「ええ!?

「ここにいる全員、ロズベル隊長、アリオス、マルコ…。私達ANTIQUE援護部隊全員の名を閣下かっかに申し上げた。何を信じられなくとも、この十人は間違いなくお味方であると伝えて来た」

「…何てこった…」

 言いながらエミオンは仲間達の顔を見た。他の者も皆 戸惑とまどい互いを見合っている。二日前にはロズベル隊長が座っていた席だけが空いていた。

「この国の窮状きゅうじょうとココロ様の現状をお伝えしようとしたが閣下かっかは既にそれらすべてを十分に承知されていた。伝えるべき事を失った私は閣下かっかに求めた。無我夢中むがむちゅうだった…」

「…って、え?一体何を?」

 なかなか先を話し出さないブルーにユーリがたずねる。ブルーは顔を上げると話しを続けた。

「この国に入り込んだアテイルを見つけ出すための具体的な対策について思うに任せて話し続けたんだ。ずは我が遊撃班の班員に事実の一部を公表する」

「事実って、魔族やANTIQUEの事を?」

 ハリスが目を見開いてく。

「そうだ。その上で遊撃班は遠征訓練に出る。それに必要な要請ようせいはケシミ大臣がってくれた」

「父が?」

「ええ」

 目を大きくしたウルカにブルーは笑顔でうなずいた。

「遠征先で必ずや重要な情報をつかんでみせると閣下かっかに約束した。そのためには遊撃班の連中にも協力してもらう必要がある」

「一体どこへ行って何をする気です?」

 身を乗り出すようにしてたずねてくるコスナーにブルーは顔を向けた。

「一昨日チャーザー補佐官に切られた隊士は治安部隊のトラン隊士だとわかった。だが彼は既にアテイルだ、それはロズベル隊長の証言で間違いがない。私はねコスナー、見つけたいんだよ」

「見つける?一体何を?」

「決まっているじゃないか、トランの死体だよ」

 言われたコスナーだけではなく、その場にいた全員がぎょっとした顔を上げた。

「一昨日切られたトランはアテイルが化けた偽物にせものだ。私が見つけ出したいのはアテイルに殺されたはずの本物のトランの方だ」

「い、一体どうやって?」

 エミオンがかすれた声を出す。緊張の余りのどが張り付いていた事に気づいたエミオンは目の前のカップを取ると慌てて一口中の液体を流し込んだ。

「本物のトラン隊士がいつどこで殺害されたかわかっているのですか?」

 ウルカの質問にブルーは無言で首を振った。

「何もわかりません。そこが悩みどころです。アスビティが小国であるとは言え人馬で進める距離は限られています。御父上が遠征計画を立てるにあたり、私は具体的な場所や期間について希望を出さねばなりません…」

「けど、具体的な事は何もわからないと?」

「そうだ。みんなには包み隠さず正直に打ち明けるよ。私は必死だったのだ、閣下かっかの信用を得ようと…。本当のところ、何一つ確証などないままさもずっと考えて来た事のように提案したのだ」

閣下かっかはそれを受け入れたのですね?」

 ウルカの問いにブルーは無表情のままうなずいた。

わらをもつかむ思いだったのだろう。閣下は私の目を見つめたまま黙って聞いてくださった。沈黙する訳にはいかなかった」

「他にも何か安請やすうけ合いをしたの?」

「言葉に気をつけろエミオン」

 隣に座ったコスナーがエミオンの頭を小突こづく。

「いや、エミオンの言う通りだ。私は矢継やつばやに提案をした。後先も考えず…」

「一体何を言ったんです?」

 いてきたユーリの不安そうな顔を見たブルーは、答える前にその目をハリスに向けた。

「ハリスを、ウルカ分隊長の隊に編入へんにゅうさせるようお願いした」

「え!?」

 ウルカが驚いた声をあげたが、エミオンとユーリはそれよりももっと大きな声で驚きをあらわにした。大声に慌てたパッキオとコスナーがそれぞれ隣にいる二人の頭を思いきり叩いた。

「って~~~~」

 ユーリが涙目で頭をさする。

「一両日中に人事異動の発表がされる。ハリス、準備をしておけ」

 名指しされたハリスは驚きの余り声も出ないようだった。

「班長、他にもまだ何か?」

 コスナーの質問に、ブルーはドナルに挙げた自分の提案を一気に説明した。

「第二小宮に残った警備隊を全員中央に引き上げる事、ンダライのポルト・ガス執政官と早急に会談をする事、そのための使者としてアリオス殿に間に立っていただく事…」

「そりゃ…随分ずいぶんとまた…」

 コスナーがあきれた顔でつぶやいた。信頼を勝ち取るためとは言えよくもまあそれだけのでまかせが口から飛び出したものだ。

「我ながら驚いている」

 そう言うブルーの顔が照れ臭そうに赤くなっていた。

「でも結果オーライだよね?これで遊撃班は遠慮なく自由行動ができる。何せ閣下かっかじきじき々の許可をいただいている訳だもんね」

 エミオンの言葉に全員の注目が集まる。

「ウルカ隊長とハリスの二人がそろって閣下かっかそばにいられるようになるし、ロズベル隊長も中央に来るならこんな心強い事はないよね?その上で閣下かっかがンダライの代行執政官の話しをちゃんと聞いてくれるならもう怖い物ないって言うか、少なくともここに入り込んだアテイルももう滅多な事はできないはずだと思わない?」

「うーむ…」

 エミオンのまとめを聞いたコスナーが難しい顔をしながらブルーを見る。

「必死に大風呂敷おおぶろしきを広げた割にはきっちりツボはおさえてますね、班長」

「や、やめてくれ。お陰で広げた風呂敷ふろしきのたたみ方がわからなくて困っているんだ」

 ブルーは汗を飛ばしてコスナーの賛辞さんじこばんだ。

風呂敷ふろしきの、たたみ方?」

「ンダライとの会談実現にはやはりギース外務大臣を挟む必要がありますよね?」

 ブルーの心配を先読みしたウルカが言うがブルーは首を振ってその心配を否定ひていした。

「いえ、閣下かっかはギース外務大臣の関与を禁止しました。それだけではなく、他の誰が関わる事も禁じ、すべてをケシミ公軍大臣一人で行うように命じました」

「すべてを父に?」

「そうです。遊撃班の遠征訓練計画、第二境界警備小宮付き警備隊とハリスの人事異動発令、そしてンダライとの国家主席会談の段取り、そのすべてをです」

「そりゃあ荷が重そうだぁ」

 ブルーは声を上げたユーリを見てうなずいた。

「うん、だからンダライとの交渉だけは任せていただいた」

「ンダライとの交渉を?班長が?」

「正確にはアリオスへの仲立ちの依頼だ。パッキオ、アリオスへの手紙はまだ書いていないな?」

「はい」

「今の事を前提において今夜中に書き上げて欲しい。明日の公務開始の前には閣下かっかにお目通しをいただく、すぐに取り掛かってくれ。私の部屋を使ってくれて構わない」

 そう言うとブルーはパッキオに自室の鍵を渡した。班長であるブルーはこの中でただ一人個室を与えられていた。

 鍵を受け取ったパッキオがニヤリと口元をゆがめた。

「何か、おかしいか?」

「いえ、いつの間にやら俺もアリオスも呼び捨てにされているなと思いまして」

「あ…」

「気にしないでください、大変光栄な事です。では早速さっそく

 そう言うとパッキオは席を立った。








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