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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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ンダライの掟

●登場人物

・ココロ…「はじまりの存在」と呼ばれる全ての起源、根源であるANTIQUE、ゲンムに選ばれた能力者。テレパシストとして他の仲間を集めるため旅だった。

・吉田大地…土のANTIQUE、テテメコに選ばれた能力者。地球に暮らす高校生であったが、魔族との戦いに参加するため、時空を超えココロの下に集った三番目の能力者

・シルバー…鋼のANTIQUE、デュールに選ばれた二番目の能力者。ココロと同じくアスビティ公国の公軍隊士で警備隊の隊長を務めていた。剣の腕は公軍随一と言われる達人。

・キイタ…火のANTIQUE、フェルディに選ばれた四番目の能力者。ココロ達の生まれたアスビティ公国の隣国、ンダライ王国の第二王女。



●前回までのあらすじ

 宿屋で介抱かいほうを受け意識を取り戻したンダライの王女キイタは、ココロの放つ召集しょうしゅうの声を受け取った能力者だった。

 仲間である事を証明する為キイタに召喚しょうかんされ姿を現した火のANTIQUE、フェルディ。ココロ達が見た事もない究極的に恐ろしい姿をしたANTIQUEであった。

 一言の言葉を発する事もなく消えたフェルディに、仲間達は声も出せない程の恐怖と衝撃を受けたのであった。







 火のANTIQUEであるフェルディが姿を消した後も、ココロ達はしばらく声を出す事ができなかった。過去にネビュラを見た大地でさえ、これ程恐ろしい姿のANTIQUEを見た事がなかった。

 静寂せいじゃくの中に大きく息をつく音が彼らを現実に引き戻した。ため息の主はココロだった。ココロは顔を上げると、満面まんめんの笑みでキイタを見た。

「キイタ、あなたは私達が探していたANTIQUEの能力者で間違いないわ」

「探していた?」

「キイタはどこまで知っているの?」

「どこまでって?」

「フェルディから、何かを聞いたでしょう?」

 ココロに言われたキイタは少し首をかしげ、考え込むような素振そぶりを見せてから口を開いた。

「私がフェルディに会ったのは、もう七年位前の事」

「七年?」

 大地が思わず声を上げる。七年前と言えば大地がテテメコと出会うよりも以前の話だ。現在十三歳だと言うキイタがまだ六歳だった頃と言う事になる。

「初めて会った時、フェルディからANTIQUEの事は聞いたわ。フェルディは自分の姿を見る事のできる私をバディに選ぶと言った」

 うんうん、と言った具合ぐあいに聞いている三人はうなずいた。

「それ以来、フェルディと話しはしていないわ」

「えぇ!?」

 ココロと大地が大きな声を出す。

「じゃあ、七年も一緒にいて、それ以外何の話も聞いていないの?」

 大地もつい前のめりになってキイタに問いただした。

「何も…ごめんなさい」

 何故なぜみんながこんなに驚くのかもわからないまま、申し訳なさそうにキイタは謝った。

「いや…キイタが謝る必要はないんだけど…」

 言いながら大地も戸惑とまどいを隠せずにいた。そんな空気の中、突然ココロの胸に下がる石が光り始めた。ゲンムが出現するようだ。

「困ったものだ」

 ココロとキイタの間に姿を現したゲンムが言った。突如出現したゲンムの姿を見て驚いたキイタは、小さく悲鳴を上げてベッドの上で後退あとずさった。

「あ、大丈夫。この子はゲンム、私のANTIQUEよ」

 ココロが慌ててキイタに説明する。この世界と同時に生まれたゲンムを“この子”呼ばわりするのもどうかと思われたが、まるで童話どうわに出てくる妖精のようなゲンムの姿を見ればそれも仕方ない事と思われた。

「火のANTIQUEはもともと極端きょくたんに口数が少ないのだ、そのうえバディがANTIQUEに対して強い拒絶の意思をいだいているとしたら、コミュニケーションがはかれなくても当然」

「拒絶?私、フェルディを拒絶なんてしていないわ」

「今はね。しかし火のANTIQUEを初めて見た時、お前は激しい恐怖を感じた。そしてその思いは、ANTIQUEの存在を理解した今も、胸の中のどこかに残っているはずだ、違う?」

「………」

 ゲンムの冷静な言い方にキイタはそれ以上言い返せなかった。

「ココロ、この人間にも伝えるしかなさそうだよ、我々が旅をする意味を」

 それは、あの恐ろしい夢を見た日から第二境界警備小宮での戦いに至るまでの恐ろしい体験をもう一度思い起こす、ココロにとっては辛い苦行くぎょうであった。

 しかし、四人目の仲間を得るにいたったココロは、旅の始めの頃に比べはるかに強くなっていた。

「わかった。キイタ、今から渡しの話す事をよく聞いて」

「う、うん」

 ココロの真剣な眼差しに気圧けおされたように、キイタも緊張した表情でうなずいた。

「今からひと月位前…」 

 ココロが話始めると、シルバーは静かに部屋から出て行った。それっきりシルバーは、ココロの話が終わるまで、戻っては来なかった。





 ココロは再び、自分の体験と、知り得る現状とを語った。大地に話した時よりも感情の起伏きふくおさえられ、所々大地が補足ほそくしていく事で以前よりも要領ようりょうよく、短時間で話し終える事ができた。

 それでも、現在の差し迫った状況はキイタには十分伝わったらしく、話を聞き終えたキイタはその内容の深刻さに愕然がくぜんとした様子ようすを見せていた。

「そんな事になっていたなんて…」

「アスビティ公国の辺境部隊へんきょうぶたいには、もう大分アテイルの手が回っていた。それでも少なくとも私が中央にいる間はまだはっきりと怪しい様子が見られた訳ではなかったわ」

 ココロが言おうとしている事をさっした大地が後を引き継ぐ。

「それに比べてこのンダライはここ一年の間に大きく変化している。恐らく、政治のかなり最深部さいしんぶにまで敵が潜入せんにゅうしていると思える」

「敵が…」

 あまりのショックにキイタはそうつぶやくのが精いっぱいだった。

「とても言い辛いんだけど…。恐らく、キイタのお父さんとお母さんが亡くなったのは単なる病気のせいではないと思う」

「父と母は、暗殺されたと言う事ですか?」

「そう言う事、かな?」

「なんと言う事…」

 そう言うとキイタは両手に顔をうずめてしまった。その時、部屋の扉が開かれ姿を消していたシルバーが静かに入ってきた。

 大地は一度シルバーを振り返る。シルバーも大地を見返したが、すぐに目をそらし、ココロと大地のやや後方に腰を下ろした。

「キイタ、今度は俺の方から質問していいかな?」

 シルバーが座るのを確認した大地は、キイタに顔を戻すと言った。しかしキイタは大地の声が聞こえているのかどうか、両手に顔をうずめたまま動こうとしない。それでもかまわず大地は続けた。

「辛いと思うけど大事な事なんだ、教えて。君のお母さんが亡くなった段階でこの国の王は君のお姉さんであるイリアに引き継がれるはずだ。その王位継承おういけいしょうが未だに果たされていないのは、何故なぜ?」

「………」

 大地の質問に対してキイタは不動無言ふどうむごんのまま返事をしなかった。それでも三人は待った。この質問に答えてもらえない内は次の話に進む事ができない。キイタの中で衝撃しょうげきおさまり、返事ができるようになるまで辛抱強しんぼうづよく待った。

「いないの」

 やがて、キイタは顔も上げぬままくぐもった声で答えた。

「え?」

 キイタが何の事を言っているのか掴めなかったココロは前かがみになってき返す。

「イリアは…いないの」

 一瞬、ココロと大地は目を見合わせた。キイタの小さな声を聞き逃すまいと、シルバーが遠慮えんりょがちに近づいてくるのが背後の気配でわかった。

「いないって、イリアはどこに行ったの?」

 三人を代表するようにココロがく。するとキイタはようやく顔を上げ、大きく一つ息を吐き出した。

母様かあさまが亡くなったその日の夜中だった…。イリアの寝室から妙な音が聞こえたの。眠れなかった私はベッドを抜け出し、イリアの部屋に向かった」

 無理に自分を落ち着かせようと天井てんじょうを見上げ、誰の顔も見ようとしない不自然な姿のままキイタは話し続けた。

「イリアのベッドは空だった。どこにもイリアの姿はなかった…。そして、ベッドのわきの窓は開け放たれ、そこから吹き込む風にカーテンがれていた…」

 冷静な声だった、落ち着いているように見えた。しかし、感情を押し殺し、機械のように話すキイタの声は、部屋に異様いような緊張感を生み出した。

 キイタがゆっくりと大地に目を向ける。ゾッとするような目だった。見開かれたまま涙すら流れない、途方とほうに暮れた者の目だった。

「それ以来、イリアは帰って来ていないの…」

 最後にキイタは、少し笑ったような顔をしてつぶやいた。聞いている三人は、そのキイタの様子に声を出す事すら忘れていた。

 キイタは一度目線を落とすと、今度はココロの顔を見て言った。

「ンダライの継承権けいしょうけんについては、知っている?」

「え、ええ。長子ちょうし継承けいしょう…よね?」

「そう。王位は姉のイリアが継ぐはずだった」

「イリアが行方不明になったのならキイタ、君が次の継承者けいしょうしゃになるんじゃないの?」

 大地がたずねると、キイタは静かに首を振った。

「何があっても、長子ちょうし継承けいしょうがンダライのならわし。唯一の例外は、継承者けいしょうしゃの死亡が確認された場合だけ。つまり…イリアの死体が見つかった時よ」

 ココロと大地は再び言葉を失った。それがンダライ王国の習わし、それが…ンダライのおきて…。

「イリアの死亡が確認されない以上、私に継承権けいしょうけんは回っては来ない。だから代行執政官だいこうしっせいかんが立つ事になる」

「ポルト・ガスですね?」

 今まで一言も話さなかったシルバーがキイタに向けて言った。キイタはシルバーを見ないまま、顔を伏せたまま、それでも何度も首をたてに振って肯定こうていの意を示した。

「ガスは父王生前中ちちおうせいぜんちゅう、その側近そっきんとして最も王の近くにいた男。政治のあり方についても、父の国営方針こくえいほうしんについても何もかもを知りくしていた男よ。代行執政だいこうしっせいが必要となった場合、誰もが当然のようにガスがその役をになうのだと信じて疑わなかった。私だってそうだった。私が、私達姉妹が生まれた時からいつも一緒にいてくれた、家族同然の男だった。なのに…」

 そこでキイタは一度言葉を切り、更に続けた。

「予想通り代行執政官だいこうしっせいかんとなったガスは、政権を握った途端とたん父や母の方針を次々とくつがえし、共に国営こくえいになってきた側近そっきんの者達をすべて政治の中心から遠ざけてしまった。そして、今まで直接政治に関わってこなかった者達ばかりを自分のそばに置き、あのみにくとうを建てた。あの男は、そのとうの上からとても正気とは思えない経済変革けいざいへんかくを進めだした。その結果…わずか一年の間にンダライはつてない程の貧困状態におちいる事になった…」

 何かに取りかれたようにキイタは話し続ける、しかし、その内容は終盤しゅうばんに差し掛かっている事がわかった。

「私は、ガスに政権せいけん返還へんかんを求めた。でもあの男は、嫌な笑いを浮かべながら私にそれを命ずる権利はないと言った。任期中にんきちゅうの大臣以上の交代は、王政内おうせいない不信任案ふしんにんあんが出され再選出を行うか、国王 じきじき々の下命かめいのないかぎり執行しっこうする事ができない。自分の手下ばかりで固めた今の内閣ないかくでは、イリアが戻るまで自分を今の座から降ろそうとする者など一人もいないのだと…」

 国を想う決め事が今、国をめ付けほろぼす原因になろうとしていた。アテイルとは人間界の政治的ルールを理解したうえで作戦を立て、実行しているのだろうか?だとすれば、かなり知能の高い連中であり、また用意周到な策士の集団だと言える。キイタの話しを聞きながら、大地はそんな事を考えていた。

「だから…私はイリアを探す為に旅に出た。誰にも言わずたった一人で。追手はすぐに放たれたわ。私は必死に逃げた…そして、あなた達と出会ったの…」

 これですべてはつながった。アテイルは少なくとも一年以上前からンダライに入り込み、秘密裡ひみつりに王宮の最深部さいしんぶにまで辿たどり着いていた。

 そして、どのようにかして当時の国王を暗殺し、その王のきさきにして女王となったキイタの母親をも殺害した。

 その上で次の王位継承者おういけいしょうしゃであるイリアの身柄みがらさらい、自分達自身でこのンダライ王国を自由に動かし始めた。

 恐らく、現在の代行執政官だいこうしっせいかんであるポルト・ガスもすでにアテイルに取って代わられているのだろう。

「ココロ…」

 突然キイタがココロの腕を掴んだ。その力強さにココロは思わず顔をしかめた。しかしキイタは気に掛ける様子もなく、ベッドの上をうようにココロに近づくと、もう片方の腕も同じように掴んだ。

「キイタ…」

 そうココロが言いかけた時、キイタの大きな目から前触れもなく涙があふれ落ちた。

「どうしよう…、ンダライが…父様と母様の愛したンダライの国が消える…。このままでは、全国民の絶望の内に、滅び去ってしまう…」

「そんな事はさせない!」

 ココロはキイタの腕を握り返すと力強く言った。

「キイタ、辛かったね?そんな事があったんだね?今までたった一人で戦っていたんだ、そんな小さな体で…」

 見ればココロも今にもこぼれ落ちそうな程目にいっぱいの涙を溜めていた。

「でも、これからは一人じゃないよ。今の話しを聞いてわかった。イリアはアテイルの一味いちみさらわれたんだよ。だから私達と一緒に行こう。アテイルにさらわれたイリアを助け出す事と、アテイルを倒してこの世界を救う私達の目的は同じだから!」

 しかしその言葉を聞いた途端とたん、キイタはココロの腕を振り払い、背中を向けてしまった。ココロに背を向けたままキイタは首を激しく横に振った。

「違う…!違うの…」

「何が違うの!?」

「ココロ様」

「何!?」

 声を掛けたシルバーにココロは苛立いらだったような声を出した。

「キイタ様は、イリア様を助け出そうとしている訳では…」

「え?」

 シルバーは辛そうに顔をしかめながらボソボソとした声で言った。

「王位にくべき者がわずかな期間に次々と謎の死をげたとなれば、他国の者でもおかしいと考えるでしょう。そのように目立つ行動を、アテイルは嫌ったのだと思われます。ですから、次期王位継承者じきおういけいしょうしゃであるイリア様が実際に王位にく前に連れ去った…。それはココロ様の考える通りだと思います、しかし…」

「しかし?」

 大地もシルバーもココロの問い掛けに対する答えを持ってはいたが、背中で泣いているキイタを前にしてそれを口に出す事ができないでいた。部屋に重たい沈黙ちんもくが流れた。

 やがてその沈黙は、キイタ自身の衝撃的しょうげきてきな言葉で破られた。

「きっともう、イリアは生きてはいない…」

「な…、何を言っているのキイタ!」

 ココロはキイタの言葉に驚き再び顔を彼女に戻した。

「私はイリアを助けようと考えた訳じゃない、イリアの死体を連れてンダライに戻るつもりでお城を出たの。イリアの死を万人ばんにんに認めさせて…」

 そこでキイタはようやくココロを振り返った。暗い目をしていた。しかし、決意に燃えた目だった。

「私は、王位を継承する…。ポルト・ガスからこの国を、国民を取り戻す!」




















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