表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ANTIQUE  作者: OOK&YOK
175/440

機械の国

●登場人物

・ギルザード…アテイル四天王の一人ズワルドが開発した非常に高性能なエクスヒャニク。戦闘に特化とっかした技術が詰め込まれている。エクスヒャニク三賢人の一人。

・ディベロ…同じく。知識と人間とのコミュニケーション能力に特化とっかしたエクスヒャニク。

・メトレオ…同じく。主に機械工学に特化とっかした知識と技術を持ち合わせたエクスヒャニク。

・ジュランド…イシリアル半島統一を目論もくろむザシラル王国国王の息子。遠征軍の将軍として近隣部族を戦力を以って次々と傘下さんかに収めている。

・レーチェ…ギルザードの妹として作られた高性能なエクスヒャニク。その用途は現在のところ不明。



●前回までのあらすじ

 ンダライ王国シュナイドリッツ五小隊すべてにおいて隊員の進退しんたいが確定したその日、マーニー達小隊長達は示し合わせ、昼休みを迎えたアリオスを訪ねる。

 彼らに迫られアテイルの正体を明かすアリオスであったが、俄かには信じられない内容に他隊の小隊長達は皆 一様いちように言葉を失ってしまった。

 そんなアリオスの元に一通の手紙が届けられる。それは今もアスビティ公国に残る信頼するかつての部下パッキオからの速達だった。







 プレアーガ北東の半島、イシリアル。多くの人間達が境界を設けそれぞれのエリアで都市を形成している。人口は多く、諸外国しょがいこくとの交流をいとわない陽気な彼らは文明も他の国と比べ決して劣るものではなかった。

 半島全域を見れば国として成っておかしくない規模を誇っていた。しかしそこに暮らす人々に国と言う概念がいねんはまだなく、多数部族がテリトリーを隣り合わせながら独自の文化をはぐくんでいた。

 そんなイシリアル半島は今歴史の大きな転換期てんかんきを迎えていた。半島の中で最も広い領土と最も多い人口をほこる大都市ザシラルが突然にしてザシラル国を名乗り、王国としての国家形成を打ち上げたのだ。

 ザシラルはより強固な国造りを目的とし、イシリアル半島に属する多くの都市に対し半島統一をかかげ次々に攻め込んだ。

 同じ東側諸国に属するミルナダ、フェスタルド、そしてココロ達が目指すクナスジアと言った大国は等しくこれに反発をした。

 温暖な気候と充分な領土。豊富な資源を持つイシリアル半島が未だ未開発な部族の集団であるのをいい事に、プレアーガの先端を行くこれら文明国はどこかでイシリアル半島を自分達の植民地と考えている節があった。

 貿易を持ちかけるにしろ、戦争を仕掛けるにしろイシリアルには国主がいない。それでも土地の風土なのか無暗むやみに気のいい半島の住民達は大国にとって実に扱いやすい人種であった。

 大国のおさ達は皆、いずれは半島の都市を味方に引き入れ、自国の領土とする事を目論もくろんでいた。そんな中での立国宣言であった。

 勝手にザシラル王国国王を名乗るのは大都市ザシラルの領主であったバルデンチ・モルドアの息子、デンタシリウルであった。

 デンタシリウルは自分の一人息子であるジュランドを将軍とし手あたり次第に近隣の都市に攻め込ませこれを陥落かんらく、自らの配下としていった。

 連戦連勝のジュランドは既に半島のほとどを手中に納め、ザシラルの半島統一の目的は間もなく達成されようとしていた。

 狭い国土ながら十分な資産を持つイシリアル半島が一つの国として立ち上がれば、それは先に挙げた大国をもおびやかす存在になり兼ねない。それもまた近隣諸国を慌てさせる理由の一つであった。

 現在そんなザシラルの蛮行ばんこうを食い止めようと他国に先駆さきがけて制裁攻撃せいさいこうげきの準備を整えているのがフェスタルドだと言われている。

 しかし、鍛え上げられた文明国家であるフェスタルドの対応も追いつかない程ザシラルの半島征服の野望は驚異的な早さで進行していた。その勢いは大国の力を持ってしてもとどめる事はできなかったのだ。

 そして今日。ザシラルはまた一つ半島に属する都市を落とした。はげしい抵抗を見せたその大都市に大いなる打撃を与え、永久的、絶対的な服従を誓わせたジュランドは、大隊をひきいて今 意気揚いきようよう々とザシラルへ凱旋がいせんした。

 負けを知らない将軍の帰国に、ザシラルは国を上げて大いに盛り上がっていた。

 国王の居所きょしょである城の周りは国中の人間が集まったのではないかと思える程の賑わいを見せていた。

 いさましくも華々しい音楽の鳴り響く中、馬の背にまたがり城へと向かうジュランドを出迎える国民の振りまく花吹雪が視界をさえぎる程に降り注いでいた。

「見ろギルザード。同胞達が我らの勝利を喜び、あのように出迎えてくれているぞ」

 馬上でこの様子ようすを見たジュランドが浮かれた声で言いながらすぐ後ろについていた馬を振り返った。

 ジュランドに半歩遅れて歩いていた大きな馬の背には一人の男がまたがっていた。ジュランドが呼び掛けた彼の名はギルザード。

「皆、将軍をたたえているのです」

 答えたギルザードの声は思いの他若かった。しかしその声がくぐもって聞こえたのは、ギルザードが頭からすっぽりと布をかぶっていたからに他ならない。

 美しくもないその布を全身にまとい、頭をおおった頭巾ずきんは顔の前でい付けられていた。

 彼らの凱旋がいせんを喜ぶ国民達の誰一人として、ギルザードの本当の姿を見る事はできなかった。

「私だけではない。皆私とお前をたたえているのだ」

 ジュランドが愉快ゆかいそうに言う通り、出迎える群衆は口々にジュランドとギルザードの名を叫んでいた。

 隊をひきいる将軍はジュランドであったが、実際戦場にあって最も活躍しているのは大将のギルザードである事を彼らは知っていた。

 敵の攻撃に一切 ひるむ事なく突き進むギルザードの戦いぶりは、鬼、若しくは悪魔と呼ばれ広く半島に響き渡っていた。彼の存在なくしてジュランドの勝利は考えられなかった。

「ギルザード!」

 何一つ怖いものなどないと言った顔でジュランドが大声を出す。群衆達の叫びの中では、そうしなければすぐ隣のギルザードにさえ声が届かなかったのだ。

 呼ばれたギルザードは心持ち顔を持ち上げたが特に返事はしなかった。そんな事は気にもせずジュランドが続ける。

「あと二つだ。あと二つの都市を落とせば、いよいよイシリアルは一つの国となる事ができる…。我らの名を叫ぶ彼らのためにも、ここで立ち止まる事はできない!半島統一、その日は近いぞギルザード!!」

 熱に浮かされたように目を輝かせ言うジュランドに、ギルザードは無言を返し続けた。

 その時だった。城へ向かう階段の上から長いスカートをひるがえしながら一人の少女が大隊の先頭を行く二人に向かいけ寄って来るのが見えた。

「おおギルザード、うるわしき姫君の出迎えだぞ!」

 ジュランドの言葉に顔を上げたギルザードも髪を乱して走る少女に気が付いた。少女は群衆の声に負けない大きな声で叫んだ。

「お兄様!」

 その声を聞いたギルザードは無言のままその場で馬を降りた。地に立ったギルザードはかなりの巨体だった。

 叫びながら走り寄って来た少女は躊躇ちゅうちょなくギルザードの巨体に抱きついた。

「お帰りなさいお兄様!」

 晴れやかな笑顔を上げた少女は心の底から嬉しそうな声を出した。

「レーチェ殿、兄上はこの度の戦いでも殊勲しゅくんをあげられましたぞ」

「そうなの!?」

 ジュランドが馬の上から笑顔を向けるとレーチェと呼ばれた少女はますます々嬉しそうに顔を輝かせた。ギルザードは少女の顔に自分の顔を近づけるように身を屈めた。

「ディベロは?」

「神殿よ」

 聞き取れない程の声でたずねたギルザードの問いにレーチェは笑顔のまま即座に答えた。

「さあ馬に乗れギルザード、共に父の所へ参ろう!」

 ジュランドに呼ばれたギルザードはゆっくりと身を起こすと抑揚よくようのない声で言った。

「申し訳ないが、王への報告は将軍からお願いしたい」

「何だと!?」

ジュランドが驚いた声を出したが、ギルザードは気にもめず背を向けるとレーチェの肩を借りるようにして凱旋がいせんパレードの外へ向かい始めた。

「ギルザード!!国王陛下がお待ちだぞ!あれだけの功績こうせきを果たしながら報告にも行かぬと言うのか!!」

 ギルザードは静かに振り返った。

「私は少々疲れた」

 ジュランドはあきれたような笑いをこぼす。

「休みなく敵を倒し続けるギルザード大将が、疲れただと?」

 その言葉にギルザードは返事もせず再び背を向けた。ジュランドがその大きな背中に更に大声をぶつけてくる。

「ならばゆっくりと休むがいい!だが時間はないぞ!すぐに次の遠征に出る!」

「お兄様…」

 レーチェの声にギルザードは気が付いた。自分の行動に周囲を取り囲んでいた群衆がいつの間にか静かになっていた。

 ギルザードは突然力強くジュランドを振り向くと、右の拳を高々と天へ突き上げた。その身を隠していた布地の中から伸びた太い腕は真っ青なよろいで固められていた。美しい青色が降り注ぐ陽光にまぶしく輝いた。

「ジュランド将軍に果てなき栄誉えいよを!!」

 空を割らんばかりに響き渡ったギルザードの声に、再び群衆が歓声を上げ始めた。全員がジュランドをたたえ、その名を叫んだ。

 熱狂の中、ギルザードは静かに群衆の中に消えて行った。その背を見送っていたジュランドは、後ろに控える部下達に顔を向けると張りのある声で命じた。

「前へーっ!!」

 兵士の一人が慌ててけ寄るとギルザードの乗り捨てた馬のくつわを取る。若き将軍に続いて再び進み始めた隊列に、群衆の熱は更に増していった。



「ギルザード、戻ったのか?」

 家程もある巨大な機械と機械の間からエクスヒャニク三賢人の一人であるディベロが顔をのぞかせた。

「たった今だ」

 レーチェと共に部屋に入って来たギルザードは言葉少なに答えた。

「首尾は?」

「言うまでもない」

「結構だ。将軍も無事か?」

「当然だ。今父親の所へ行っている」

「それはよかった」

 ディベロは無表情のまま感情の起伏きふくを一切感じさせない声で言った。

 レーチェが神殿と呼んだ部屋。ここでディベロ達三賢人は闇を精製し、新たなエクスヒャニクを生み出していた。

 彼らはここに人間でも、アテイルでも他の種族のものでもない自分達だけを導くための神を創造し、鎮座ちんざさせようと目論もくろんでいた。だから彼らはこの円形に作られた広い部屋を“神殿”と呼ぶのだった。

「今はまだ人間達を浮かれさせておいた方がいい」

「ジュランドはそれなりに戦果を上げている。イシリアル半島統一を皮切りに、本気で東諸国制圧に打って出る勢いだ」

「調子づいた人間は時に神すら予想できぬ力を発揮するものだ。だが、調子に乗りすぎて足元をすくわれる事もままある」

 ギルザードはディベロの言葉を聞きながら顔の前でい合わされた布に手を掛けるとぶちぶちと音を立ててその糸を引きちぎった。

「今、彼ら親子に倒れられては困る」

 ギルザードは身にまとった布地を放り捨てた。そこに現れたのは、青く光る巨大なよろいだった。

「そんな事にはならん。この三賢人の一人、ギルザード様が付いている限りそのような事はさせん」

 太い腕、張った肩。隙間すきまなくその身を守るよろいに見えるその体こそ、ギルザードの本来の姿だ。その輝くよろいの下に守るべき血の通った肉体はなかった。

 その証拠に三角に近い形をした顔の真ん中についた視界を得るため隙間すきまからは、人の目とは似ても似つかぬ黄色く輝く光が一つだけギョロギョロと動いていた。

 メタリックブルーに光るよろいの下は鍛え上げられた肉体の代わりに、このプレアーガには存在すらしない様々な機械が詰め込まれ、その強靭きょうじんな体力を維持いじするため終始稼働しゅうしかどうし続けているはずだ。

 エクスヒャニク。四天王の一人、「智の竜」と呼ばれるアテイルの参謀さんぼう、ズワルドが時空を超えてき集めた化学のすいを結集して作られた無敵のロボット兵士達。

 その中でも最上の人工知能を搭載とうさいし、自己学習能力、自己回復の機能を持った三体の機械人形達は生みの親であるズワルドから「三賢人」と呼ばれ作戦 遂行すいこうの指揮権を移譲いじょうされていた。

充填じゅうてんを頼む」

 言いながらギルザードは部屋の奥にある一人掛けの肘掛ひじかけ椅子に深く腰を下ろした。ディベロが太く長い管に繋がれた巨大な機械を引き寄せるとギルザードの近くへと移動してきた。

「私もお腹すいちゃった」

「二人同時はだめだ」

 レーチェが指をくわえてつぶやくのが聞こえたのか、別の場所から顔を出したのはもう一人の三賢人、メトレオであった。

「ギルザードに充填じゅうてんするなら余計な電源を落とさなくてはならない」

 言いながらメトレオは周囲を取り囲む巨大な機械についたいくつかのレバーをつかみ次々に引き下ろしていった。

 メトレオが重々しい音と共にレバーを引き下げるたびに小さな音が部屋のあちこちで起きては波が引くように消えていく。

とぼしい電力でやっているのだ、気を付けてくれ」

 ディベロ、メトレオ、そしてギルザード。三者三様に起伏きふくのない平坦へいたんな声で話す。

 発する言葉は言葉以上の何でもなく、その裏には喜びも怒りも悲しみも、およそ感情と呼べるものは何一つ見当たらなかった。

 小さな体に真っ白な大きな頭を乗せたディベロは特に知能が高く、コミュニケーション能力にけていた。物事を理論的に構築こうちくし、多種多様な言語でそれを表現する事ができた。

 学習能力にも優れ、一つの事象から多少の未来予測を行う事もできる。三賢人の中では特に知能に重点を置かれて作られたエクスヒャニクだ。

「いいぞ」

 不要な電力を全て落とし終えたメトレオがディベロに合図する。ギルザードへのエネルギー補充ほじゅうの許可を出したらしかった。

 メトレオは体は巨大だったが、それは必要な機械を詰め込んだ末、スリム化ができなかっただけの事で決して戦闘を意識して作られた訳ではない。

 三賢人の中でも機械工学に特化して作成されたエクスヒャニクだ。学習能力に特に優れ、計画的に仲間を増やし続けていた。三賢人以降のほとどのエクスヒャニクは彼の手によって生み出されていた。

 ギルザードを兄と呼ぶレーチェについては、メトレオが現在持ち得る知識と技術の全てをそそぎ込んで生み出した最高傑作さいこうけっさく言って過言かごんではなかった。

 そしてもう一つ、アテイル最大の目的であるシュベルのみが持つと言う闇の精製もまた彼の双肩そうけんたくされていた。そして彼は間もなくその期待に見事答える段階にまで技術を高めていた。

 ディベロの助けを借りて戦争で使い果たしたエネルギーを補充ほじゅうしているギルザードは言うまでもなく戦闘を目的に作り出された文字通りの殺戮さつりくマシーンだ。

 しかしテリアンドスの荒野でココロ達ANTIQUEに敗れた低能な兵士ではなかった。人間達に溶け込み、隊を指揮して作戦を遂行すいこうできる程際限なく戦闘についての知識がインプットされている。

 彼の人工知能にはこのプレアーガにおけるあらゆる戦闘術がインプットされている。名のある騎士、剣士の記録を自らの記憶として持ち、それら知識を技として発露はつろできるだけの駆動くどう系技術が嫌と言う程に詰め込まれていた。

 話す事、作る事、戦う事。世界的に見れば決して大きくはないザシラルの立国とそのため侵略しんりゃく戦争、イシリアル半島の内戦を足掛かりにフェスタルド以下世界に名をとどろかせる大国を動かし、人間同士の巨大な戦争を引き起こそうと言うズワルドの狙いを完遂かんすいするためにそれぞれの役割を持って生み出された特別なエクスヒャニク達であった。

「戦場でも補充ほじゅうがしたい」

 エネルギーの充填じゅうてんをしながらギルザードがつぶやく。

「お前の体を動かし続ける電力を持ち運ぶ手段がない。これだけのエネルギーを軽量化する事は不可能だ」

 開発担当のメトレオが無感動に言い返す。

「発電力にとぼしい」

 メトレオが誰にともなく愚痴ぐちつぶやいた。

 ハナ達フェズヴェティノスが使った電球を灯した電気はイーダスタを流れる豊かな水を利用した水力発電だ。メトレオが生み出す電力もそのほとんどを周囲の海へと流れ込む川をき止めて作られていた。

 しかしそれはイーダスタで生み出される電力の百分の一程度の力しかなかった。

「ならば、次はもっと早く戻ろう」

 億劫おっくうそうな声でギルザードが言った。彼はディベロの顔を見ると更に続けた。

「聞かせてくれ。私のいない間に何かあったか?」

「そうだね…」

 問われたディベロは充填じゅうてん具合ぐあいを確認しながら言った。

「ああ、そう言えば君が遠征に出ている間にアテイルはANTIQUEと交戦したよ」

「何?」

「それも二度」

「詳しく話せ」

「興味があるかい?そう言う事なら」

 前のめりになっていて来るギルザードを見たディベロは後ろを振り返った。

「彼女から語らせよう」

 ディベロが見つめる先、そこに立っていたのは小さな体をした彼らの仲間、銀の仮面をつけたクロムだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ