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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
172/440

シュナイドリッツの小隊長達

●登場人物

・アリオス…アテイルの存在を知り祖国アスビティを捨てンダライに渡ったガイの元部下。上からも下からも信頼される理想の軍人。

・マーニー…ンダライ王国国防軍C小隊の小隊長。アリオスの人心掌握術じんしんしょうあくじゅつれ込み良き理解者となった。

・ソジュン…同じくB小隊の小隊長。寡黙かもくな軍人で小隊長の中で最年長ながら剣術に優れている。アリオスの前任者。

・ボリア…同じくD小隊の小隊長。大柄で力自慢。小隊長の中では最年少であるが豪快な性格で部下を引率する。

・ゼルビッツ…同じくE小隊の小隊長。平民の出身で実力のみで小隊長にまで上り詰めた現場人間。口が悪く貴族出身のソジュンとはりが合わない。



●前回までのあらすじ

 ンダライ王国国防軍の小隊長に任命されたアリオスは、他国から来た自分に対して反発心を消せない部下達に対し、ただの兵士ではなく一人の人間として接する事で信頼を得ようと試みる。

 それは敬愛するかつての上官、シルバーのやり方を踏襲とうしゅうするものだった。シルバーのように部下の心をつかむ事ができるか不安に感じながらもアリオスは二十九名の部下を前に静かに話し始めた。

 この世界に危機が迫っている。その危機の正体を教える事はできない。しかし、その危機から守るべきものは一人一人の中にあるはずず)だ。そう説くアリオス。

 家族のため、恋人のため、誰のためでもいい。何に倒されるかは知らなくとも、誰のために倒れるのかは自分自身で決めるのだ。そう真剣に語るアリオスに、シュナイドリッツA小隊員達の不満や不平はじょじょ々に薄れていった。

 アリオスはそんな彼らに三日間の休暇きゅうかを取ろうと持ち掛ける。それぞれ故郷へと帰り、自分の最も大切な人に、二度と会えない覚悟を持ってもう一度会ってくるようにと。

 それを受け入れ休暇きゅうかを取得したものは自分の部下となり、きたる大戦で命を捨てる覚悟ができた者であると理解する。そうアリオスは部下達に結論をゆだねるのだった。







 午後の訓練を全て中止としたシュナイドリッツA小隊の隊員達はその夜、言葉も少なくそれぞれにあてがわれた部屋の中で思考しこうふけっていた。

 異国から来た新小隊長の言う事がおどしや根拠のない世迷言よまいごとでない事はわかった。それが何かは教えてもらえなかったが、想像を絶する巨大な危機が目の前に迫っている事は理解できた。

 そして小隊長はそれに対する自分達の身の振り方を自分達で考え、自分で選ぶようにと言った。

 戦えば死ぬ。しかし誰もがそれを拒否すればこの世界は滅ぶ。いずれにしても自分達に未来はない。そして何よりその悲劇を阻止そしするため、今この瞬間も王女キイタは命懸けで戦っている。そればかりかこの国の正式な王位継承者であるイリアまでもが敵の手に落ちていると言う。

 ただそれだけをもってしても自分達には戦う理由がある。それは自分達が勝利するための戦いではない。キイタを援護し、キイタに勝利と無事なる帰国をもたらすための捨て石となる戦いだ。

 アリオスはこの件につき箝口令かんこうれいいた。軍人である以上この命令を破れば懲罰ちょうばつまぬかれない。

 隊員達は誰に相談する事もできず正に自分の進退を自分自身で決めるよう義務付けられたのだ。

 それは常に誰かの命令一下めいれいいっか行動し続けて来た彼らにとって、国を守るべく個を捨て一兵卒いっぺいそつとなった彼らにとって余りにも重たい作業であった。

 しかしいずれにせよ数日の内には答えを出さなくてはならない。その時、全てを受け入れてアリオスの元で戦う事を決めた者こそ、正しく世界の未来を切り開くいしずえとなる事を選んだ軍人達であるのだと言えるだろう。

 考えれば考える程、隊員達の口からは重たいため息が何度となく吐き出されるのだった。



 その頃、自分の部下達を深い悩みのふちに叩き落とした当のアリオスは、仄暗ほのぐらい会議室で他隊の隊長達との話し合いにのぞんでいた。

 隊長達を集めてくれたシュナイドリッツC隊の隊長であるマーニーにうながされるまま、今、世界が滅亡の危機にさらされている事を説明し、それを阻止そしするためにはシュナイドリッツが一丸いちがんとなる事の重要性を説いた。

 それを成すには全隊員に制圧術を習得させ、シュナイドリッツが先陣を切って血路を開く事。それはすなわち最大の犠牲をこうむ先鋒せんぽうを務める事を意味していた。

「どうにも、雲をつかむような話しだな」

 しばらくの沈黙の後、最初に口を開いたのはD小隊の小隊長、ボリアであった。

 五人の隊長の中では一番の巨体をほこるボリアは、その体格に見合った太く大きな声で感想を述べた。

 黒々としたくせのある頭髪をガリガリとむしっているボリアに続いて、B小隊小隊長のソジュンが静かな声で言った。

「確かに。アリオス殿の話しを疑う訳ではないが、内容が余りにも突飛とっぴ)に過ぎてついて行けないのが正直なところだ。まずもってイリア様、キイタ様の現状を聞くのも我々はこれが初めて。そこを自分自身で確認したいものだが…」

 白髪に近い真っ直ぐな髪の毛を胸元まで伸ばしたソジュンは小隊長達の中では最も年次の長い男だった。

 しかし最年長にも関わらず無駄な肉のつかない細身の体は誰にも負けない程に鍛え上げられていた。

「私はこう思うのですよ」

 戸惑とまどいの色を隠せない小隊長達に向かっておだややかな声でそう言ったのはマーニーだった。

「理由はどうあれ、せっかくアスビティ公国から優秀な軍人であるアリオス殿が赴任ふにんされたのだ。この機に異国の戦闘技術を教わるのも悪い事ではないと」

 マーニーは一度言葉を切り他の小隊長達の反応をうかがうようにその顔を見回した。ボリアやソジュンが顔を上げ、黙って見つめ返して来るのを確認したマーニーは続けた。

「アリオス殿の言うような脅威きょういが実在する、しないの議論は特に必要はない。要は我らシュナイドリッツが更に一つレベルを上げ、世界のどの軍隊にも負けない最強の軍団となるためにも、アスビティの制圧術を学んでおいて損はないのではないかとね」

 マーニーはそう言ってにっこりと笑った。聞いている誰もをけむに巻く笑顔であった。

 マーニーは常時じょうじおだややかで笑顔を絶やさない男だ。恵まれた体格と美しく黒い髪。白く端正たんせいな顔には常に優し気な笑みを浮かべている、そんな男だ。

 しかし、自身のひきいるC小隊の隊員達からは鬼隊長と渾名あだなされている。戦闘技術にけているばかりでなく、彼には人の心がないと部下達は揶揄やゆする。

 どのような厳格げんかくな軍人だとしてもどかにはわずかながら人情や他人を思いやる心があるものだ。

 しかしマーニーと言う男にはそれが一切見当たらない。必要とあらば肉親であっても冷静に切り倒すであろう。それもあのおだややかな笑顔のまま。そんな風に思わせる冷徹さを持った人物であった。

 もっとも、幼くして親に捨てられたらしい彼には倒すべき肉親すらもいなかった。それが彼の心を氷に変えた一つの要因ではあったが、彼のそんない立ちが彼が正しく鬼の子なのではないかと周囲の者達に思わせるのだった。

 技術や知識だけであれば当然A隊の小隊長に就任しゅうにんしておかしくない彼がC隊をひきいているのは、ひとえにアッカラのような問題児集団を預かったと言う事に他ならなかった。

「そんなにすげえのか、その制圧術ってのは?」

 マーニーの言葉にD隊小隊長のボリアが興味深げにいてきた。

「さあ、私もまだ正式に拝見した訳ではないので何とも」

 マーニーは相変わらず無邪気むじゃきな笑顔のまま答えた。

「うむ…。取りえずその制圧術とやらの概要がいようだけでもアリオス殿からご教授いただきそれから決めるのはどうだろう?」

 如何いかにも慎重しんちょうな言い回しでソジュンが提案する。年長者である彼の言葉にマーニーは嬉しそうに何度もうなずいた。

「気に入らねえな」

 ソジュンのげんを受け、アリオスに制圧術の説明をするように言いかけたマーニーの言葉をそんな声がさえぎった。

 四人の目が部屋の奥へとそそがれる。蝋燭ろうそくの炎だけに頼った薄暗い部屋の隅、片膝かたひざを上げた行儀の悪い恰好かっこうで座っていた男がにらみ返すように目を光らせていた。

 その目は真っ直ぐにアリオスに向けられている。これまで発言のなかったシュナイドリッツE小隊の小隊長、ゼルビッツだった。

 その出自しゅつじからシュナイドリッツの末端まったんであるE隊をひきいてはいるが一兵士から実力のみで小隊長にまで成り上がった強者だ。

「何が気に入らないんだい?ゼル」

「ゼルビッツだ、勝手に略すな」

 マーニーのおだややかな問いに不機嫌な声で答えたゼルビッツは腰かけていた長テーブルから床の上に飛び降りるようにして立った。

 短く刈り込んだ髪、全身筋肉かと思われる程鍛えられた体。しかしその身長は異様に小さかった。

「アスビティから学ぶ事なんか俺達に本当にあるのか?」

「そりゃああるさ。どんなに小さな国の軍隊だってみんなそれなりの訓練をしているんだ、そこから得るものは必ずあるよ。私はあらゆる国の格闘技術や戦闘理念の全てを知りたい位なんだ」

 マーニーが笑顔で答えると、すぐにソジュンがそれに同調した。

「賛成だ。学び取ろうと言う思いで聞けばそこから新たな知恵や技術を開発する事もできるはずだ」

「部下が納得しねえだろ」

「それを納得させるのが我々小隊長の役目だ」

 ソジュンが冷たい声で言い返す。すぐにボリアが取り成すように続けた。

「まあ何もアスビティの技術だなんて公言する必要もないだろう?まずは俺達が覚えて、各隊で俺達にあった形に改良すりゃあいいんだ」

「その俺が納得できねえ」

 ゼルビッツがすぐに言った。

「君はアスビティをあなどりすぎている。それは過信と言うものだよ」

 マーニーが初めて少し不愉快ふゆかいそうに眉間みけんしわを寄せて言った。

「ああ違う違う、そうじゃねえ」

 ゼルビッツは急いで首を振りながら言った。

「アスビティ公軍の実力は合同演習でわかっている。あの国は後方支援しかしねえと言っておきながらその実隊士一人一人の実力も意識も驚く程高い。実際、戦争放棄国と抜かしておきながらいつか寝首をかかれるんじゃないかと不安になった位だ」

「そんな事はしない」

 ゼルビッツの言葉にアリオスは立ち上がると強く反発した。その声の大きさに全員の目がアリオスに向く。

 小隊長達の視線に気が付いたアリオスはすぐに冷静さを取り戻すと思わず激した事をびた。

「失礼。しかしゼルビッツ殿、アスビティは自国が小さく弱い事を認識している。建国の由来となった大戦を反省し、二度と剣を持たぬと誓ってから三百年…。もはや戦闘の意志などは誰一人持ち合わせてはいないのだ」

 アリオスは真剣な声で訴えた。その真っ直ぐに過ぎる眼差まなざしから目をらしたゼルビッツはため息をつくように笑うと言った。

「それも、わかっちゃいるさ。俺が言いたいのはそんな事じゃない」

「回りくどい男だな、結局何が言いたいんだ?」

 ソジュンが結論をうながすべくゼルビッツをにらみつけた。言われたゼルビッツは大きな息を一つつくと全員の方へ顔を向けて口を開いた。

「俺が気に入らねえのは、その何とか術を学ばなけりゃならねえ程の敵がどこの何様かわからねえ事だ。部下にはちゃんと習得させる。だがそのためには何故なぜその必要があるのかを俺自身が知っておきてえ」

 どうやらゼルビッツの反発がつまらぬ自尊心じそんしんから出ている訳ではない事を知った小隊長達の目が一斉いっせいにアリオスに向いた。

 アリオスは慌てたように彼らの目から逃れた。今度はアリオスがため息をつく番だった。

「…大きな敵がいる…」

 自分の爪先つまさきを見つめながらアリオスがポツリとこぼした言葉をゼルビッツは聞き逃さなかった。

「それは聞いたよ!で?その敵ってのは一体誰なんだよ?そいつらは今どこにいるんだ?」

 マーニーを始め先程までアリオスを擁護ようごしてくれていた他の小隊長達は誰も口を挟もうとしない。皆思いはゼルビッツと同じらしかった。

「話せる事は少ない」

「それでもいいさ」

 苦しそうなアリオスの言葉に即座に反応したのはボリアだった。その声にアリオスが顔を上げる。腕組みを解かないままのソジュンが冷静な声で続いた。

「あんたにも色々と事情はあるのだろう。すべてを語ってくれとは言わん」

「俺らが気持ちよく訓練できるようにさ、ちこっと触りだけでもよ」

 陽気な声で言うボリアの声に、アリオスは再び視線を彼に移した。

「どうだろう?アリオス隊長」

 最後にマーニーが静かな声で言った。あらがいようのない、優しい顔だった。彼らの言い分はもっともだった。自分が彼らの立場でも、きっと同じように求めた事だろう。アリオスは観念かんねんするしかなかった。

かえって、思わせぶりな言い方になってしまうかもしれないが、許していただきたい」

「いいよ」

 すぐにゼルビッツが答える。見ればソジュンもうなずきアリオスの話しを聞く姿勢を取った。

「聞かせてくれ」

「あなた達にも心当たりがあるはずだ。ンダライの塔が立てられる前と後では国王軍に対する国の対応は大きく違っていたと思う」

「ンダライの塔があった時はそりゃあひどかったぜ」

 ボリアが大声を出す。ゼルビッツもここぞとばかりに不平をまくし立てた。

「何の命令もねえ、何の指示もねえ。誰も来もしねえ」

「あの時我らに与えられた命令はただ一つ。ここを出るな、それだけだった」

 後を次いだのはソジュンだ。

「それでも隊をおとろえさせる訳にはいかなかった。だから私達は私達にできる訓練に明け暮れていた」

 マーニーの言葉にアリオスは小さく微笑ほほえんで見せた。

敬服けいふくいたします。ンダライの塔を建てたのは執政を代行したポルト・ガス殿。しかし、その裏で糸を引きこのンダライを堕落だらくさせようとした者は他におります」

 ゼルビッツが手近にあった椅子を引き寄せ、背もたれを前にしてどっかりと座り込む。

「その時執政官殿は敵の策にまり操られておりました。この王国を内から腐らせようと企む悪しき連中の言うがままにまつりごとを行っていた。しかし、さる方々の活躍によりンダライの塔はくずれ去った。正気を取り戻したガス殿は今自らを罰するように全身全霊を賭けて、この国を立て直そうとしておられる」

「その敵って言うのはまだンダライにいるのかい?」

 ボリアが不安そうな声でたずねる。アリオスは強く首を振り否定した。

「いや、ンダライの塔の崩壊ほうかいと共に敵はこの国を離れた」

「だったら何のために俺達は制圧術なんか覚えるのさ?」

 ゼルビッツが両手を広げて聞く。アリオスはその言葉に辛そうにまゆを寄せると強く目をつむってうついた。

 どう言えばいいのか?ANTIQUEの事、魔族の事、何よりガスが犯した最大の罪を口にしないまま、どう言えばこの窮状きゅうじょうを目の前の男達に伝える事ができるのだろうか?

 言葉をつむげばつむぐ程思わせ振りになり、謎は深まるばかりだろう。彼らの興味を強く引いてしまえば問われるままにすべてを話してしまいそうになる。

 まだ言えない。ガス自身が自らに与えられるであろう罰を恐れている限り何も言えない。自分は彼に罰を与えるためにこんなところにいる訳ではない。

 アリオスの頭の中に多くの想いがすさまじい速さでめぐった。しかし、そのあふれる程の言葉の中から次に言うべき一言を見つけ出す事はできなかった。

「わかっていただきたい!」

 突然顔を上げたアリオスは強い口調で訴えた。四人の小隊長達が一様いちように驚いた表情を作る。その顔を見ながらアリオスは続けた。

「確かに敵はンダライを去った!だが、その脅威きょういは未だ続いている。敵はンダライを狙ったのではないのだ。ンダライを足掛かりに、この世界すべてを手中に収めんと企てたのだ!」

 アリオスの必死の声に四人の小隊長達は呆気あっけにとられたように口を開けたまま何も答えなかった。

 静寂せいじゃくが支配する部屋の中に突然場違いな笑いがれた。アリオスが目を向けると、笑い声の主はボリアだった。

 ボリアは一度他の小隊長達の顔を見回した。自分の他誰一人笑っている者などいない事を知ると、彼はもう一度アリオスへ顔を向けた。

「世界?」

 まだ顔に薄い笑いを張り付けたままボリアがく。

「世界って言ったか?」

「その通りだ」

 アリオスが強くうなずくと、ボリアは困ったようにもう一度笑いをこぼした。

「これはまた…」

 そう言ったきり次の言葉が出なかった。アリオスは必死の思いで言葉を続けた。

「信じられないのも無理はない。しかしこれはまぎれもない事実!奴らはこの世界を、プレアーガを征服しようと目論もくろんでいる!ンダライの攻略はそのほんの一部に過ぎないのだ」

 マーニーがチラリとソジュンの方に目を向けるのがわかった。彼までもが余りの話しの大きさに疑いの気持ちを抱いているのだと知ったアリオスはますます々声高く訴えた。

「ンダライの危機は一先ひとまず去った。だからこそ我らはこのすきに準備をしなくてはならないのだ。いずれ必ず戦いは起きる。それはンダライ国内の争いではない。いくつもの国が立ち上がり、この世界すべてを巻き込む未曽有みぞうの大戦争になるのだ」

 ソジュンが困ったような顔を向けてくる。しかし彼に何も言わせまいとアリオスは更に続けた。

「その時は近い!あらゆる国が立ち上がる。その時、このンダライは世界に先駆さきがけ敵の襲撃を受けた大国として真っ先に声を上げ、他の国をひきいる存在とならなければいけないのです!」

「アリオス殿…」

 マーニーが興奮するアリオスをなだめるような声を出した。アリオスは鋭い目でマーニーをにらみつけた。その力強い目にマーニーの笑顔が凍りつく。

「私は正気です!この事は祖国アスビティ公国の公爵も、ンダライの代行執政官であるポルト・ガス殿も承知の事!それでもアスビティは戦争放棄国の名の下立ち上がろうとはしなかった!だから私はンダライへ渡ったのです!根も葉もない世迷言よまいごとために誰が祖国を捨ててまで亡命などしましょうか!?」

 アリオスの言い分は筋が通っていた。マーニー、ボリア、ソジュンの三人は不安げな表情を見合わせるばかりだ。 

「世界を、支配しようだって?」

 独り言のように言ったのはゼルビッツだった。

「そりゃあ一体どんな奴だ?クナスジアか?それともフェスタルドか?」

 そんなゼルビッツの顔を他の四人が驚いた表情で振り返った。自分に注目する小隊長達に向かってゼルビッツは軽く手を広げて見せた。

「何だよ?この世界を制圧したがっている奴なんてな腐る程いるさ。いや、誰もが本当は世界の覇者はしゃになりたいとどっかで考えているはずだ」

 ゼルビッツは高く足を上げて椅子をまたぐと立ちあがった。

「そうならねえためにでかい領土を持った大国同士が条約を結び均衡きんこうたもとうとしているんだ、そうだろう?それを破りこの世を混乱におとしいれようとする奴が現れれば当然他の国は制裁せいさいに立ち上がるだろうよ」

 口調も風貌ふうぼうもまるでチンピラのようなゼルビッツの口から語られる世界論に、優秀な小隊長達は誰一人口を挟む事ができなかった。

「相手が一国の執政官を操り内紛ないふんあおるような非人道的ひじんどうてきな手段で来るなら、当然 良識りょうしきある大国同士は手を取り合うべきだ。だが相手も傘下さんかに治めた国を引き連れて立ち向かって来るって言うなら…。そりゃあもう世界大戦にだってなるだろうさ」

 長々としゃべって見せたゼルビッツの話しを聞く限り、どうやら彼はアリオスの説明にもならない説明に納得をしたようだった。

「おもしれえじぇねえか、俺は気に入ったぜ」

「ゼルビッツ殿…」

「ゼルでいいよ」

 思わずこぼれたアリオスのつぶやきに、ゼルビッツは初めて笑顔を見せた。

「私は駄目なのに?」

 ゼルと愛称で呼んでしかられたマーニーが抗議をすると、ゼルビッツはにやけた顔のまま答えた。

「あんたは駄目だ、信用ならねえ」

「ひどいなあ」

 マーニーが言うとゼルビッツは大きな笑い声を立てた。














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