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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
171/440

シュナイドリッツA隊

●登場人物

・アリオス…元アスビティ公軍特別行動騎馬隊第四分隊の筆頭隊士としてガイの下で働いていた。非常に冷静かつ優秀な軍人で大隊長を務めるシルバーからも厚い信頼を得ていた。現在は故郷アスビティを離れ隣国ンダライ王国へと亡命。そこでシュナイドリッツと呼ばれる国防軍小隊の隊長を任されている。かなり早い段階からココロ達と関っており、ANTIQUEや魔族の存在を知る数少ない人間の一人である。同じ志を持った仲間を「ANTIQUE援護部隊」と称し、ココロ達能力者のため陰ながら奮戦ふんせんしている。

・タスニット…ンダライ王国シュナイドリッツA小隊の一等兵。生真面目きまじめで優秀。学級委員長タイプの青年。テリアンドスからの帰国途中ンダライに立ち寄ったアリオス達七人に馬を用立てた事があり顔見知り。



前回までのあらすじ

 夜更よふけを迎えようやく寝静まった安宿街にある大きな宿へと投宿した能力者達一行はひと時の平安を楽しんでいた。

 そんな中、ガイとナルは三種の精霊の武器について他の仲間達にも知ってもらおうとタテガミに話しをさせる。

 一方フェズヴェティノスであるハナとタマの二人と同室に休む事となったココロとキイタは激戦の疲れからか早々に眠りについてしまう。

 何の疑いもなく深い眠りにつく二人の顔を見つめ、ハナとタマは例えこの身が滅びようとも最後まで人間を守って戦い抜く事を誓い合うのだった。







「小隊長」

 ンダライ王国国防軍、通称シュナイドリッツA小隊室内訓練場に張りのある声が響いた。

 一人椅子に腰かけ物思いにふけっていたアリオスが振り向くと、両手に資料の束を抱えたタスニット一等兵が立っていた。

「ご依頼のものをお持ちしました」

 言いながらタスニットは手にした束をアリオスの前に置いた。

「ご苦労。君の分も入っているか?」

「はい」

 タスニットの返事を聞くとアリオスは早速目の前の資料に手を伸ばした。屋外からはアリオスに命じられた隊員達がけ足訓練を行っている声がかすかに聞こえてくる。

怪我けがをした四人は、医務室に連れて行きました」

「様態は?」

 タスニットの遠慮がちな報告に、手にした資料から目を離さずアリオスがき返す。

「全員それなりに重症ですが、元気です」

 タスニットの回答にアリオスは口元をゆがめた。

「私の悪口を声高に叫んでいたか」

「ええ、マルコまで一緒になって」

「結構な事だ」

「はあ?」

「他隊の者同士、いがみ合うよりよっぽどいい」

「そんなものでしょうか?」

 アリオスの率いるA小隊に所属しているアスビティ以来の仲間であるマルコとC小隊の厄介者やっかいものアッカラが私闘をり広げてから一時間程経過していた。

 懲罰ちょうばつとしてせられたけ足をする他の兵士の様子ようすを暫く見ていたアリオスだったが、後をマーニー小隊長へ頼み、自分は今こうしてタスニットに頼み持ってきてもらった資料に次々と目を通していった。

「間もなく小隊長の指示したけ足が終わります。その後はどうしたら?」

「C隊の連中はマーニー小隊長が連れて帰るだろう。うちの連中はもう一度ここに戻してくれ」

「了解しました」

 タスニットが短く答えると、訓練場の中に静寂せいじゃくが戻って来た。射し込む昼の日差しが男臭い室内に舞うほこりを白く光らせる。

 静かな室内に、アリオスがる紙の音だけが休む事なく響き続けていた。タスニットは黙って書類をめくり続ける異国から来た小隊長の背中を見つめていた。

「小隊長…。今更我々隊員の経歴書を見て一体何を?」

 沈黙に耐え切れなくなったタスニットはアリオスに声を掛けた。彼が運び込んだ書類の山はアリオスの部下達、ンダライ王国王政軍主力大隊の要、A小隊々員三十一名の詳細を記録した経歴書であった。

「ほう、タスニット。君には兄上と妹御いもうとごがいるのか?」

 アリオスはタスニットの質問には答えず一枚の書類を手にしたまま逆にたずねてきた。

「はあ」

「兄上も軍人かね?」

「兄は、討伐隊掃討班とうばつたいそうとうはんの班長に就任しゅうにんしております」

 くまでもなくその事も書いてあるはずなのに、そう思いながらもタスニットは素直に上官の質問に回答した。タスニットの答えを聞きながらアリオスは背中のまま満足そうに何度もうなずいている。

「兄弟 そろって優秀なものだ」

「いえ、そのような事は…」

「御父上は?」

 タスニットの謙遜けんそんの言葉を最後まで聞かずアリオスは続けて質問した。

「父はしがない職人です。王政軍との関りはありません」

 タスニットが背を伸ばして答えると、アリオスは初めて背後の部下を振り返った。

「しがないなどと、そんな風に言うものではない。その腕一本で君達三人を育てるために働いたのだろう?」

 そう言うとアリオスは再びタスニットに背を向け、改めて彼の事が書かれているらしい書類に目を落としながら言った。

「私にはとても真似のできない事だ。尊敬に値する」

「そんな…」

「妹殿は?」

「い、妹はまだ一人で、両親と共に家におります」

「いくつだね?」

「十八になりました」

「そうか…。たまには会うか?」

「休暇には家に帰りますが…。妹からは時折近況を知らせる手紙が参ります」

 アリオスはタスニットが答える都度うんうんとうなずいて見せる。

「小隊長、あの…」

 問われるままに答えていたタスニットだったが、よく考えれば質問をしているのは自分の方だった事を思い出した。

「今まで私は…」

 背中のままアリオスが低い声でつぶやいた。

「私は、君達を兵士としてしか見てこなかった」

「はあ…」

 言われたタスニットは少し間の抜けた返事をしてしまった。兵士としてしか見ていなかったと言われても、確かに自分達は兵士である訳で、今更改めて言われる事に違和感いわかんを覚えた。

「私に与えられた大切な部下達を、人として見つめる事をおこたっていた」

「小隊長…」

 アリオスの意外な言葉にタスニットが驚いた声を上げる。アリオスは手にした書類の束を机に倒した。

「声が止んだ…。訓練が終わったようだ。タスニット、みんなを集めてくれ」

「はい」

 返事をしたタスニットは気味の悪いものでも見るように何度かアリオスを振り返りながら階段を上がって行った。

 タスニットの気配が消えるとアリオスは立ち上がり、目の前のテーブルに積まれた書類の山を小脇に抱えた。そのまま階段付近の壁に口を開けた物置まで行くと、その中に手にした書類の山を放り込んだ。

(シルバー隊長…。私は、あなたのようになる事ができるでしょうか…?)

 薄暗い倉庫の中を見つめたままアリオスは胸の中でつぶやいた。



 十五分後。シュナイドリッツA小隊三十一名の内、医務室へ向かったマルコ他一名の二人をのぞいた二十九名はまだ汗の引かない体のままアリオスの前に顔をそろえていた。

 アリオスの指示により急遽きゅうきょ並べられた会議用の長テーブルを前に全員が椅子に座り、一人階段を背に正面を向くアリオスの顔を見つめていた。

「小隊長。A小隊員全員集合いたしました」

 タスニットが堅苦かたくるしい声でアリオスに告げる。

「うん」

 アリオスは一度 うなずくと静かに椅子を引いて立ち上がった。座ったまま自分を見つめ返して来る隊員の顔を見回したアリオスは、低い声でゆっくりと話し始めた。

「マーニー小隊長の監視下であれだけの走り込みをしたにも関わらず、誰一人息も切らせていないとは大した体力だ」

 アリオスは口元のひげゆがませて言った。その言葉を皮肉と受け取った何人かの隊員が不愉快ふゆかいそうに眉根まゆねを寄せる。

「君達のその強靭きょうじんさを頼もしく思う」

 アリオスが次に口にしたそんな言葉に、あからさまな反発心を見せていた部下達の顔が今度は戸惑とまどった表情に変わった。しかしアリオスはそんな部下達の心情に構う事なく話を続けた。

「先ずは、マルコを助けてくれた事に礼を言わせてくれ。君達全員が、好きか嫌いかではなく正しいか正しくないかで倒すべき相手と守るべき者とを見極める判断力を持っている事がわかり私は大いに安心した」

 静かな声でつむがれる称賛しょうさんの言葉に聞いている隊員達は、それが真実自分達をめているものなのか、それとも何かの皮肉なのかつかみ切れずにいた。

 と、アリオスは唐突とうとつにストンと椅子に腰を落とした。ゆっくりと目の前のテーブルに両肘りょうひじをつくと、全員の顔を見回しながら言った。

「今日の訓練は終わりにしよう」

 この言葉にはさすがに戸惑とまどいを超えて室内に小さなざわめきが起こった。タスニットが少し慌てた声でアリオスに言った。

「しかし小隊長、せられた訓練メニューはまだ消化していませんが…」

「気にするな。その日の訓練メニューは俺が決める。ここは俺の隊だからな」

 アリオスは静かだがかたくなな声でタスニットに答えた。顔を向ける事すらしないが、その表情からは一切の口答えを許さないきびしさがにじみ出ていた。

「今日君達は普段の一日分の訓練をした。もう十分だ」

「さっきはみっともねえ訓練って言ってたじゃないか…」

 誰かがぽつりと抗議じみた言葉を発した。それを耳にしたアリオスはにやりと笑った。

「ああ、確かにありゃぁひどかった。まあしかしあんなのは訓練じゃねえただの喧嘩けんかだ」

 アリオスは背もたれに体を預けると、一度大きく天井を見上げた。すぐに椅子をきしませて部下達に顔を戻すと更に話し続けた。

「一つ、みんなに提案がある」

 やっぱり…。そんな表情が部下達の顔に浮かんだ。急に自分達の事をめ始めたりして気持ちが悪いと思っていたが、この他国の新米小隊長は自分達に何やら不利な条件を突きつける気だ。誰もがそんな風に考え、アリオスの次の言葉を警戒と共に待った。

「来週から我らA小隊は、休暇きゅうかを取ろうと思う」

 アリオスの口から出たそんな言葉に目の前に居並ぶA隊の猛者達もさたちはみな口を開けたまま何も返事をしなかった。

「とは言え、その間A隊が機能を完全に停止する訳にもいかんから…。そうだな、十名ずつ順番に三日間の休みを取ろう。そうすれば二週間程度で全員が休暇きゅうかを取れるだろう。みんな、一度家族のところへ帰るといい」

「お言葉ですが隊長」

 アリオスのすぐ脇に座るタスニットが楽しそうに話すアリオスを慌てて止めた。

「ん?何だ、何か不満か?」

 アリオスが言うとタスニットは急いで首を振り答えた。

「そうではありません。その、小隊長は来る前だったので知らないのも無理はありませんが、我々はついひと月前に夏季長期休暇かきちょうききゅうかをもらったばかりです」

「それがどうした?」

「どうしたって…」

長期休暇ちょうききゅうか程の休みはやれん、三日間だけだ。せいぜい親元に一泊して帰って来る程度だな」

「そう言う問題ではなく。その、我々はついこの間里帰りを果たしたばかりです」

 アリオスは意味がわからないと言うような表情でタスニットを見た。

「だからそれがどうした?親の顔を見るのにひと月前に会っていようがなんだろうが関係ないだろう?」

「許可が下りる訳がない」

 そんな声が別の場所から飛んできた。アリオスは声の方を見る。若い隊員がアリオスの方へ身を乗り出していた。

「たったひと月前に休みをもらったばかりでまたすぐに休暇きゅうかだなんて、そんなの小隊長がいいって言ったって軍のほうが許さないですよ」

 そう言う若い隊員の必死な表情を見てアリオスは笑った。

「何がおかしいんですか!?」

「そうカリカリするな。安心しろ、許可なら俺がちゃんと取ってやる」

「どうやって?」

「代行執政官にじかに取り合ってやるよ」

 そんな言葉に隊員達はあっと言う顔で息を飲んだ。C隊のアッカラが言っていた通り、理由はわからないがこの小隊長は執政官に取り入りしょっちゅう二人で話しをしていると聞く。

「反対です」

 また別の隊員が声を上げた。

何故なぜだ?」

「隊長がなぜ執政官に贔屓ひいきされているのかは知りませんが俺達までその恩恵おんけいを受けたら他の隊のやっかみを食うに決まってる」

「そうだ、休みが欲しいなら隊長一人で取ればいい」

「そうだそうだ」

 一人が言い出した途端とたん、それに力を得たのか他の隊員達もここぞとばかりにさわぎ始めた。

「こら、みんなやめろ!静かにするんだ!」

 タスニットが椅子をって立ち上がり、声を荒げる仲間達をたしなめた。しかし、大騒おおさわぎする隊員達を前にアリオスは先程のようにげきする事もなく静かな笑みを浮かべたまま黙っていた。

 やがてアリオスの右手がゆっくりと動き、初めに許可が下りるはずがないと発言した若い隊員を指さした。アリオスのこの謎の行動に、さわいでいた隊員達が潮が引くように静まっていく。

「ヒューイ」

 アリオスは静かな声で指さした隊員の名を呼んだ。

「ご両親は健在けんざいだな。姉上は嫁ぎ、君まで軍の宿舎に入ってしまったのでさぞさびしがっておられるだろう」

「な…」

 ヒューイと呼ばれた隊士が驚いて何かを言い出す前にアリオスは休暇きゅうかの提案に反対を唱えた隊員に指を移した。

「フォン、君は確か母上を亡くし故郷には父親一人だったな。ヒルーク、バックス。それにテッドもか。君達にはまだ幼い弟や妹がいただろう」

 アリオスはA隊員の一人一人を名指しし、その家族構成を言い当てていった。

「何のつもりですか…」

 誰ともなくつぶやきがれる。不快感を隠そうともしない声だった。

 アリオスは小さなため息とともに手を下ろすと全員の顔を見回しながら静かに言った。

「先の休暇きゅうかが終わる時、君達は家族や恋人に何と言って出て来た?手紙を書くよ、か?年末にはまた戻るよ、か?」

 アリオスは億劫おっくうそうな声を出しながらゆっくりと立ち上がった。そのまま横を向き、壁の上部に取り付けられた明り取りの窓を見上げた。

 射し込んで来る昼の日をまぶしそうに見上げながらアリオスは続けた。

「君達が私をよく思わないのは一向に構わない。しかし私は君達に何としても知ってもらわなくてはならないのだ。今、君達が置かれている立場を」

 ゆらゆらと空気の流れにのってただようほこりしに、アリオスはやわらかな秋の日差しを見つめ続けた。

「再会の約束をして別れた人達ともう一度会ってきてくれ。今度は、もう二度と会えない覚悟を持ってな」

 アリオスは静かに部下達の方を振り返った。二十九人全員の目が声もなく自分を見つめ返している。

「こう言えば、事の重大さをわかってもらえるだろうか?」

 アリオスはゆっくりと自席に戻ると椅子に掛ける事なく続けた。

「今夜、我がシュナイドリッツA小隊からE小隊まで五隊の隊長が一同に会し話し合う。そこでの結果が出される前にこうして君達に話しをするのはルール違反なのだろうが構うものか。誰が何と言おうと、我がA小隊はこの休暇きゅうか明けから本格的な訓練に入る。実戦にそくした訓練にな」

 その言葉に部屋の中がわずかにざわめいた。

「アスビティの、制圧術と言うものですか?」

 タスニットが緊張した声で問う。

「その通りだ」

「実戦にそくすると言いますが、仮想敵国かそうてきこくは一体?」

 その質問にはアリオスも無言で首を振るしかなかった。

「君達は軍人だ。それもこのンダライを守るかなめであるシュナイドリッツの軍人だ。命令に従えばいい」

「それでは…」

「正しくないものがすなわち悪だ!故郷を破滅すなわはめつ)に導く者こそが倒すべき相手だ!それ以外は何も知らなくていい!」

 アリオスの上げた大きな声にタスニットはおびえたような表情で黙り込んだ。アリオスは気まずそうに彼から目をそむける。

「我らはただ、命令に従い目の前の敵を倒す事だけを考えればそれでいいんだ…」

 この場で自分の口から魔族の名を上げる訳にはいかなかった。ガスが未だに重い口を開かない内から無責任に発言する事はできなかった。

「ただ…」

 アリオスはテーブルについた両手を見つめながらポツリと言った。

「何と戦うかは不明だとしても、何のために戦うのかはめいめい々が決めればいい」

 その言葉に部屋にいる全員が顔を上げた。しかしうつむいているアリオスにはそれがわからなかった。わからないまま続けた。

「私は、君達の国が何故なぜ代行執政をいているのかを知っている…。国王、皇后こうごう両陛下が立て続けにみまかり、第一継承権を持つイリア様が謎の失踪しっそうげたからだ」

 アリオスがそう言った一瞬後、椅子を蹴倒けたおす音が室内に響いた。

「はぁっ!?」

「イリア様が失踪しっそう!?」

「そんなバカな‼」

「何をいい加減かげんな事を!」

 訓練場の中は一気に混乱におちいった。

「小隊長!我々はご長子ちょうしイリア様はお体の調子がすぐれずせっておられると聞いております!」

 タスニットがアリオスの顔を下から見上げるようにして言った。アリオスは目だけでジロリとタスニットの顔を見た。

「そうでは…ないのですか?」

 そこでアリオスはようやく身を起こすと顔に掛かる長い髪を払いけながら言った。

「王妃様のご逝去せいきょされた同日、イリア様は自室より忽然こつぜんと姿を消し今日までかた知れず。イリア様の部屋の窓は外から破られていた。恐らく、不埒ふらちな者の手により連れ去られたのだと思われる」

「何ですって!?」

「第二王女のキイタ様は、姉上の行方ゆくえを捜し城を出られた」

 驚愕きょうがくの余り立ち上がっていた数名が呆然ぼうぜんとした顔のまま再び力なく椅子にくずれ落ちる。

「キイタ様まで…」

「私はンダライに亡命する以前、テリアンドス帝国の地で旅支度たびじたくのキイタ様とお会いしている。それを伝えるために以前、ンダライの城を訪ねたのだ」

 タスニットはアリオスひきいる七人の男達を馬房ばぼうに案内した日の事を思い出した。

「キイタ様は戦っておられる…。この世界を滅ぼそうとする悪にあの小さな体で立ち向かっておられる。私はキイタ様より大恩たいおんを受けた。私はこの世界と、キイタ様を守るために戦う!君達は一体何のために戦う?国のためか?親兄弟のためか?故郷に残して来た恋人のためか?…何のためであってもいい。掛け替えのない自分自身の命を賭けるのだ。誰に倒されるかは知らなくとも、せめて誰のために倒れるのかは、自分で決めればいい」

 二十九名のA小隊々員達は声もなくただ愕然がくぜんとした顔でアリオスの言葉を聞いている。

「私を好きになれなどとは言わん。しかし、そんな小さく下らない事を言っている場合ではない事がわかったか?そこでどうだ?来週から休暇きゅうかを取ろうと言う私の提案への答えは、やはりみな反対か?」

 アリオスはまだ話しが呑み込めず戸惑とまどう部下達の顔を見回した。

「どうやら反対の者はいないようだな。もう一つ言っておく。私について来る者は全員名誉ある死を迎える事となるだろう。隊を抜けたい者がいたら、今週中に申し出ろ。止めはしない。休暇きゅうかを取った者はそのまま私の部下になる事を選んだのだと理解するからそう思え」









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