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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
168/440

ガールズトーク

●登場人物

能力者

・ココロ…始まりの存在のバディとして仲間を先導する旅のリーダー。

・吉田大地…土の能力者。冷静さを売りにしているが実は隠れ熱血漢。

・シルバー…鋼の能力者。頑固で生真面目な軍人。剣の腕前は国一番。

・キイタ…火の能力者。大国の第二王女。控え目で大人しい女の子。

・ガイ…雷の能力者。豪快で明るい性格だが皆が頼る戦闘力を持つ。

・アクー…水の能力者。賢く冷静な少年。現在意識を失い療養中。

・ナル…生命の能力者。仲間内では一番の長身だが優しく大人しい。


フェズヴェティノス

・ハナ…祖父であるオヤシロサマから一族の統率を任されている若きリーダー。シュベルにより蘇ったがココロとの友情に触れ彼を裏切り味方についた。

・タマ…ハナを慕いどこまでもついてくる狂暴な化け猫。普段は妹キャラを自認する色白の美少女。


・タテガミ…かつて大規模な戦争を終結させる為自ら敵の軍門に下った国王、カンサルクの使用していた剣。精霊タテガミを宿しており人語を話す。



●前回までのあらすじ

 シルバーについて夜の街に買い物に出た大地はハナやタマを信じきれないシルバーに対し自らの過去を語って聞かせる。

 六年前の幼少期、ましろがいなくなった事を笑って級友の前で怒りのあまりテテメコの力を発動してしまった大地は翌日から皆から恐れられ、避けられる存在となってしまった。

 その現実を受け入れた大地はテテメコの語るANTIQUEと魔族の話だけを頼りに人との関りを避け、勉学にはげむようになる。そんな暗い体験が、大地の知識と性格形成に大きく影響していた事をしったシルバーは自分の思いを改めるのだった。







 古く大きいだけが取り柄と思われた宿であったが風呂は思いのほか広く、湯量も豊富であった。

 視界を奪う真っ白な湯気にされながら、ココロは気の遠くなるような解放感にひたっていた。旅を始めた日から今日までの疲れがじんわりと湯に溶け出していくようであった。

「タマちゃんちゃんと入らないと風邪ひくよ?」

 高い天井にキイタの声が響く。風呂の縁に座ったまま湯につかろうとしないタマがすぐに答える。

「お風呂なんか入るから風邪ひくんだよ。さっさと寝ちゃう方がいいのに」

「だって汚いままベッドに入るなんて嫌じゃない」

「タマちゃん汚くないもーん。グルーミング欠かさないもーん」

 澄ました顔で言うタマの言葉にキイタは眉根まゆねを寄せてハナを振り返る。

「グルーミングって、何?」

「聞かない方がいいよ」

 メガネを外したハナが湯気の向こうから笑顔で答える。

「って言うか裸でそこに座られてると落ち着かないの!」

「やだなあ、何照れてるの?女同士でないの」

「女同士でも!人になりたいんだったらちょっとは恥じらい覚えなさい」

「キイタちゃんキビシィ~。見られても大した体じゃないし」

「そんな事ないよタマちゃん綺麗きれいじゃない。お肌とか真っ白だし」

 キイタが少し照れ臭そうな声で言うと、タマはまんざらでもなさそうに目を細めた。

「白の巫女だからねー。でもやっぱヒカルちゃんみたいなナイスバデイの方が受けるかなー?」

「タマは妹キャラなんだからそれでいいんだよ」

 湯気越しにハナの声が割り込んで来る。

「そっかな~、もっとこうバインとしてドゥンってなってた方がかっこいい気もすんだがなー」

「タマちゃんは充分可愛いって。髪の毛も真っ黒でサラサラだし」

 キイタがそう言うと一瞬ぽかんとしたような顔をしたタマはすぐに笑顔を作るといきなり額が触れる程顔をキイタに近づけて来た。

「ちょ…、な、何よ?」

「キイタちゃんだってお肌真っ白じゃない。私以上だよ。それに私キイタちゃんの髪の毛好きだなー。ほんっとに綺麗きれいで真っ直ぐな赤毛」

「や、やめてよ」

「や~、可愛い。照れちゃってる。これでおどりもうまいんだから超アイドル向きだと思うんだけどな~」

「な、何言ってるのかわからないけど、もう二度とおどりなんかしませんからね」

「えーなんで~?また一緒におどろうよ~」

「する訳ないでしょ!」

 キイタはいきなり両手いっぱいにすくった湯をタマに浴びせかけた。タマの絶叫が他に誰もいない風呂の中に響き渡る。

 そんな二人の掛け合いを微笑ましく見ているココロをハナはじっと見つめていた。

「それにしてもいい度胸だね、ココロちゃん」

「え?」

 ハナの声にココロが湯の中で振り向いた。リラックスしたように手足を伸ばしたハナが笑顔で自分を見つめている。

「こんな私達の前で素っ裸でいるなんて。ちょっと警戒心なさ過ぎじゃない?」

 ココロはわずかに首をかしげるような仕草を見せ、笑顔のまま言った。

「何で?」

「だって…。私達フェズヴェティノスだよ?見たでしょ?私達の姿。聞いたでしょ?私達の正体…」

 ココロはゆったりと顔を正面に戻した。れる湯がその胸元に波紋を広げた。

「怖くないの?」

「何で怖いの?」

「私達は、人を殺した。とてもたくさんの人を…」

 いつものハナらしくない顔でポツリとつぶやく。うつむいた顔は、波打つ湯面を見つめている。

「昔の事を私は知らない」

 少し間を置いてココロが言った。その声は笑いを含み、薄い背中をハナに向けたままだ。その背にハナが爪を立てれば一たまりもないだろう。

「私達は友達になれるって言ったでしょう?今のハナちゃんは私の友達。それだけだよ」

「ココロちゃん…」

 ココロは今度は真っ直ぐに体ごとハナに向き直った。湯気にかすむその顔は、満面の笑みにあふれていた。

「違うの?」

 ハナはゆらりと湯の中を移動し、ココロに近づいた。その間もココロは何を疑う事もない表情で寄って来るハナを待ち、迎え入れた。

「何も違わない。私達は友達だよ」

「よかった」

 ハナの言葉にココロは更に大きく笑って見せた。ハナもつられて笑顔を作る。

「友達は絶対に守る」

「うん」

 暖かい湯の中で、ココロは今までにない程の安心と優しさに包まれていた。人間とフェズヴェティノス。異種族同士の二人の娘は胸の中まで一糸 まとわぬまま寄り添った。

「友達は絶対に食べません!」

 ハナの言葉が耳に届いたのか、タマが大きな声で物騒ぶっそうな宣言をした。

「友達じゃなくても食べちゃだめなの!」

 キイタがきびしい声でしかりつける。

「え~、そうなのぉ?」

「いいから入りなさい!」

「え?」

 キイタは床についたタマの手を思いきり引いた。突然支えを失ったタマの体はぐらりとれると見事に頭から湯の中に落ちた。

「ぎゃあああああああああっ‼」

 タマがその可憐かれんな姿からは想像もつかない悲鳴をあげる。手足をばたつかせながら必死に湯から上がろうとするタマの体にキイタが両手でしがみついた。

「ちょっとキイタちゃん!?おやめになって!」

「ちゃんと肩までかる!」

「キイタちゃんどうしたの?そんなの君には似合わない!!」

「十数えるまで出ちゃ駄目!」

「今日のキイタちゃんは何だかすごくバイオレンス~~~~!!た~すけ~てぇ~~~~!」






 暗い部屋の中にガイののどが鳴る音が嫌にはっきりと聞こえた。しゃべる剣、タテガミの話す国王の武器。その顛末てんまつにガイは声を失っていた。

「確かに…」

 ナルがかすれた声を出した。

「クロウスさんはそんな風に言っていたよね?マウニールの軍隊はカンサルク王の死を確実に伝えるため、レメルグレッタの中にあったものをほとど持ち出したって。地に突き刺さったタテガミだけは、どれだけ屈強くっきょうな兵士が何人で引いても抜けなかったからここに残ったんだって…」

「ある…」

 今度はガイがつぶやいた。

「アスビティには確かにカンサルク王の遺品が歴史的資料としてたくさん保管されている。アガスティア人の気持ちを考慮こうりょして一般公開はされてはいないが…」

「未だに?」

 戦争終結から三百年が経った現代では純粋なアガスティア人などいなはずだ。ナルは少し驚いた声を出した。

「まあ、今は慣習のようなもんだがな」

 ナルが納得してうなずくと、部屋は再び闇と静寂せいじゃくに包まれた。夜半を超え、さすがに外の喧騒けんそうも収まってきたようだ。

 そんな沈黙の中、ガイは何とも言えない奇妙な違和感を感じていた。じっと黙ったままガイは胸に引っかかるその違和感の正体を見極めようとしていた。

「ちょっと待て」

 やけに長い沈黙の末、ガイはようやく口を開いた。

「マウニールの兵団が持ち帰った遺品の中に精霊の武器があったとしたら、そりゃ今アスビティにあるって事じゃねえか」

「そう、だよね?それを何でこのジルタラスの東でタテガミが感じる事ができるの?」

 ナルはガイから壁に立てかけられたタテガミに顔を移して言った。

「そんな事俺が知るか!だが遠かぁねえぞ?確かにそう遠くねえどこかに俺と同じカンサルクにつかえた精霊の武器がいる。俺達は互いの存在を感じ取る事ができるんだ」

 ナルは困ったような顔でガイを見た。人語を話す剣などそれ自体が常識の範疇はんちゅうを超えている。それが言う「近く」が、どの程度のものかなどはかりようもない。

 アスビティとジルタラスと言う人間にとっては途方もない距離が、タテガミからすればほんのすぐ近くと表現できる距離なのか?

 だが、国土の大きなジルタラスから見れば、アスビティ公国は南西に位置する小国だ。レメルグレッタのある地域がわずかに接しているに過ぎない。

 シルバーは東端とうたんの町ジスコーへ向かうと言っていたが、ジルタラスの東端とうたんへ向かう半島状の地域はわずかに上向いている。つまり正確には今一行は東ではなく東北東を目指しているのだ。

 レメルグレッタこそ最もアスビティに近い場所であり、タテガミはココロ達と共にそこを出てアスビティから離れるように旅をしてきたのだ。

 そして今も尚その行程はアスビティ公国から遠ざかり続けている。にもかかわらずタテガミがこの先に、と言うのはどう考えてもおかしかった。

「アスビティには、ないのかもしれんな…」

「え?」

 ガイの言葉にナルがき返す。

「国へ引き返す際に落としたとしてもおかしくはない。あるいは、盗賊の集団に襲われ奪われたか…」

「そんな記録が?」

「いや、ない。だが四百人と言う大隊だ、どんなに急いだところで帰国には数週間は掛かったはず。それに彼らはレメルグレッタ攻略後で疲弊ひへいしきっていた上に戦利品の大荷物だ。カンサルク王の首を持った先発隊を先に出立させ、その後は中隊規模に分散してゆっくりと帰ったと考える方が自然だ」

 ガイはどこともつかない場所に目を泳がせながら独り言のように言い続けた。

「そうだ…、その方が自然だ。戦闘後の戦場は宝の山だ。討伐隊とうばつたい近衛このえ兵の戦いを遠巻きに見ていたジルタラスの人間が、牛歩ぎゅうほのように進む中隊規模の隊列を見れば良からぬ考えを起こしたとしてもおかしくはない」

「じゃあ、精霊の武器は盗賊に奪われてどこかに売りさばかれたとか?」

 ナルの言葉にガイは何度も首を細かく縦に振った。

「ああ、恐らく真相はそんなところだろう。タテガミ」

「何だ金髪」

「タテガミ、彼の名前はガイだ。雷の能力者ガイ」

「ほほう、大層たいそうな名前を持っているじゃねえか?それでどうしたぃ、ガイよ?」

「ああ、さっき俺達は存在を感じ合うって言ったよな?」

「そうともよ。その方が戦場に出る時は何かと便利だからな。俺達三人は随分ずいぶんと働いたもんさ。ある時なんざ…」

「と、言う事はだ」

「あん?」

 ガイが始まり掛けたタテガミの武勇伝をさえぎるように言うと、タテガミは少し不服そうな声を出した。

「あっちもあんたを感じ取っていると言う事だよな?」

「そりゃあそうだろうな。俺様が近くに来ている事をあっちも今頃はわかっているはずだ」

「場所はわかるのか?」

「今はまだ無理だな。だが、もっと近づけば絶対にわかる」

「じゃ、じゃあよ…」

 ガイが更に聞こうとした時、部屋のドアが開かれる音がした。ハッとしたガイとナルはそれで夢から覚めたように現実に引き戻された。

 ドアを開けて入って来たのは買い出しに出かけていた大地とシルバーであった。

「ただいま~」

「あ、お帰り」

 大地の声に立ち上がったナルは大股おおまたに近づくと両手いっぱいの荷物を大地から受け取った。

「ひゃ~重かった」

「ご苦労様」

「ココロ様は?」

 床に荷物を置いたシルバーは部屋の中を見回しながら開口一番ナルにたずねた。

「え?ああ、まだお風呂だと思うけど」

「何?長過ぎはしないか?」

「女の子の入浴なんてそんなもんじゃない?」

「いや、心配だ。様子ようすを見てくる」

「見てくるってちょっとシルバー?」

 大地の声も聞かずシルバーはすぐに回れ右をするとそのまま今来た廊下を急ぎ足でけて行ってしまった。

「またどやされるよ~」

 半身を表に出した大地が声を掛けるが、その先に既にシルバーの姿は見えなかった。部屋に戻った大地は荷物を持ったままたたずむナルに肩をすくめて見せた。

「風呂場に女の子を迎えに行くなんて、聞いた事ある?」

「アハハ…」

 ナルは困ったような顔で苦笑を浮かべた。

「アクーは?」

「うん…、まだ」

「そっか…。あ、ごはん買って来たから、準備をしよう」

「うん」

 そう言ってナルは両手の荷物を下ろすと、大地と手分けをして中身を広げ始めた。



 一方、勢い込んで風呂場まで来たシルバーであったが流石さすがに浴場まで押し入る訳にもいかず風呂場の前で立ったままやきもきとしていた。

 しかし迷う間もなく扉の開く音と同時に華やいだ若い娘達の嬌声きょうせいが近づいて来た。

「わ!」

 先頭に立って風呂場から出て来たタマが目の間に立ちふさがるシルバーを見て驚いた声を出した。

「シルバー!何をしているの?こんなところで」

「え?あ、いや、その…。お帰りが少々遅いと思い…」

 ココロに言われたシルバーは慌てて口を開いたがうまく言葉が出てこなかった。

「スケベ」

 タマが冷たい声で言い放ちながらシルバーの横をすり抜けていく。

「な!」

「変態」

 ハナも同じくシルバーに一言投げつけるとそのまま部屋に向かって言った。

「貴様ら獣の入浴を見て欲情する趣味などないわ‼」

 長い廊下の先でハナとタマが振り向きながらシルバーに向かって大きく舌を出した。

「あいつら…」

「シルバー」

「あ…」

 呼ばれて振り向いたシルバーは自分を見上げるココロの目に気まずそうに言葉を詰まらせた。

「も、申し訳ありません」

 しかしココロは別段怒った風でもなく言った。

「大丈夫よ」

「は?」

「ハナちゃんは、大丈夫」

 その言葉に落ち着きを取り戻したシルバーはため息と共にうなずいた。

「はい。わかっています。わかっては、いるのですが…」

「そう、わかっているならそれでいいわ。部屋に戻って食事にしましょう」

 ココロは笑顔で言うとシルバーの前に立ち歩き始めた。難しい顔のままたたずむシルバーの手が優しく二度叩かれた。見ればキイタが自分を見上げにっこりと笑っている。

「行こ、シルバー」

「は」

 頭を下げたシルバーは、キイタに手を取られたまま背中を丸めて廊下を歩き始めた。























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