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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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シュベルの願い

●登場人物

能力者

・ココロ…アスビティ公国の侯爵令嬢こうしゃくれいじょう。始まりの存在ゲンムをバディとし、共に宇宙を守る仲間を捜し旅を続ける。

・吉田大地…土の能力者。ココロの声に導かれはるか時空を超えて地球からやって来た青年。地球では高校に通う十七歳。

・シルバー…鋼の能力者。アスビティ公国公軍大隊長を務めた実力を持つ軍人。最も早くココロの仲間となった能力者。

・キイタ…火の能力者。アテイル一族の標的となった大国ンダライ王国の第二王女。傾いた国を立て直し新たな国造りを目指している。

・ガイ…雷の能力者。四年間行方不明となっていたアスビティ公国の軍人。元はシルバーの下で活躍する分隊長だった。

・アクー…水の能力者。三か月前にイーダスタ共和国の森の中で倒れているところを発見された青年。それ以前の記憶がない。

・ナル…生命の能力者。ココロの声を頼りこの世界にやって来た異星人。ある事故が元で両親と自身の両足を失った。



フェズヴェティノス

・ハナ…三種の魔族の一つフェズヴェティノスの次期首領。性格は底抜けに明るく我儘わがまま。自由過ぎる性格。

・ヒカル…ハナの面倒を見る係を自任しており、首領であるオヤシロサマと別れ戦いを続けるハナについて行く事を決意した。

・タマ…ヒカルと同じくハナを親友と認めそのかたわらにとどまる。明るい妹キャラだが正体は狂暴な化け猫。

・ラプス…最も残虐な一族とされるオオグチの長。巨大な狼のような姿をしており狂暴な性格。しかし戦士としてのほこりは高い。

・テン…フェズヴェティノス一の戦闘集団と呼ばれるオウオソの民の一人。オウオソ十一騎の一人に数えられる実力者。



前回までのあらすじ

 時折火のぜる音が響く静かな小屋の中、テンの独白どくはくは続いた。人を操り、世界を動かす事を何よりの楽しみとしてきた彼らは長い人の歴史の中で暗躍し、時にひどい戦争を引き起こして来た。

 自らの楽しみのためだけに人の命すらかえりみず世界を遊び場としてきた自分達は、しかしそのようにして人と関わる中でいつしか人の存在を愛するようになっていた。

 人とフェズヴェティノスとの混血がいると言うおぞましい話にシルバーのみならず普段は大人しいナルまでもが感情をき出しにして彼らを拒絶した。

 人と共にある事。それこそが最大の喜びと感じるフェズヴェティノスは世界の全権をにぎる事に興味は持てなかった。そして勿論もちろん、人間を滅ぼす事など考えもしていない。そう言うテンの話に大地一人だけが納得し、共感を示す。

 大地は魔族から宇宙を守るためにフェズヴェティノスとの共闘を推奨すいしょうする。大地は改めて怨敵おんてきシュベルの目的をテンに問いただすのだった。







「シュベルの事のお」

「そう。真の闇の王と呼ばれるシュベルとは一体何者で、何を目的として魔族を蘇らせたのか」

 テンのつぶやきに大地がうなずく。

「そんなの、こいつら魔族を配下につけてこの世界を征服しようとしているんでしょう?」

 ナルが悪意のこもった声でテンを指さす。

「ヒカルの話しを聞いていなかったのかナル?フェズヴェティノスは世界を征服しようなんて考えた事はないって…」

 ガイがごろりと体の向きを変えて言った。どうやら倒れたまま動かなかった彼も、話だけはしっかりと聞いていたらしい。

「そんなのわかるもんか!仮にフェズヴェティノスにその気がなくてもシュベルがそのつもりなら結局は同じ事じゃないか!」

 ナルはガイにすべてを言わせずに怒鳴った。テンの告白はナルにフェズヴェティノスに対する相当の不信感を抱かせたようだった。

 どちらかと言えばおだやかな性格であるはずのナルがかなりきつい言い方でフェズヴェティノスを否定するのを、ココロとキイタは複雑な表情で見つめていた。

 ココロはフェズヴェティノス、と言うよりはシキの巫女三人に対し強い友情を感じていた。しかしナルやシルバーの怒りも理解できた。

 キイタはココロ程ハナ達に胸襟きょうきんを開いている訳ではないが、それでも少なくとも今は心強い助っ人であると言う認識はあった。そういう意味ではココロに思いは近い。

 しかしガイをこうまで痛めつけたのがヒカルである事におさえきれない不快感を感じるのも事実だ。だからキイタにはナルの気持ちもよくわかった。

「我らはこの世界をべる事に興味はない。興味の対象はあくまでもお前達人間だ」

 テンがおだややかな声で言う。それでもナルはそれを鵜呑うのみみにはできなかった。世界征服に興味がないと言うその言葉を吐くのは、あらゆる時代の裏側で人知れず世界を動かしてきたオウオソの幹部なのだ。はいそうですかと簡単に信じ、受け入れる事などできるはずがなかった。

「では何故、今回に限りシュベルの配下につきこの世界を狙ったのだ?」

 ナルは更に何か言い返そうと口を開きかけた。しかしそれよりも早くシルバーがテンに質問をしたせいで、ナルの想いは開きかけた口と共に半端はんぱに取り残されてしまった。

「虚無の世界とこちら側の世界との境は以前程 曖昧あいまいではなくなった。我らも虚無へと還ればおいそれとまたこちらへ来る事はかなわなくなったのだ」

「なぜ?」

 大地がたずねる。

「なぜかのお?それこそ、神のみぞ知る事かもしれんが…。あるいはこの宇宙もお前達と同じく進化を続けているのかもしれん」

「進化?」

「初めは形も成さぬ不安定な世界だったのだ。時が生まれ、光が生まれ…、やがて生命が根付き、お前達の世界は今のように発展してきた。その進む先に、異世界の存在を完全にこばむ何かしらの力が作用しているのかもしれんな」

「それが、ANTIQUEの意思?」

 テンは言ったココロの顔を笑顔で見つめた。

「ANTIQUEに意思などあるものか。奴らはこの世界の決まり事に当てはまらぬ連中がこの世界を牛耳ぎゅうじろうとした時にのみ抵抗の姿勢をのぞかせる」

「それが、今回のお前達の行動とどのように関わると言うのだ?」

 質問を重ねるシルバーの口調は、かなり落ち着きを取り戻していた。どうやらこの世界を守るためなら過去はこだらないと言う大地の言葉が深く胸に響いたようだった。

「人はある時はANTIQUEと手を組み、ある時は自らの力で我ら異種の存在を封印し、虚無の世界へと送り返して来た。もっとも、そのような知恵を授けたのも、お前達に深く同情の念を寄せた我らの仲間であったのだがな」

 妖怪に苦しめられた村人が、たまたま立ち寄った旅の僧の助言で化け物退治をするような話しは大地の国でも山のようにある。テンが言っているのはそう言う事だろうか?

此度こたびシュベルなる者は、長きに渡り虚無の世界に封印されていた我らがおさ、オヤシロサマを呼び覚ました。この世界に残った我らの仲間は狂喜した。再びオヤシロサマの元、この世界に遊ぶ事ができるとな。しかし…」

 テンはそこで一度言葉を切ると、ため息をついて暗い天井を見上げた。小屋の中にいる全員の影が大きく揺れていた。

「その代わり、奴は我らに自分の願いをかなえる事を条件として提示した」

「シュベルの願い?」

 キイタはソローニーアを共に旅したエイクのあどけない笑顔を思い出しながらテンにたずねた。テンはキイタに目を移すと小さくうなずいた。

「シュベルの願い、それこそが奴の目的…」

「その、願いとは?」

 シルバーの問い掛けにテンが今度はシルバーを見る。

「その願いとは、お前達人間の殲滅せんめつ容赦ようしゃのない、完璧なる排除はいじょ

 テンの言葉を聞いた六人の人間達はその衝撃に息をする事すら忘れ押し黙った。

「それも徹底的にだ。この宇宙にただ一人の人間も残すなと、そうシュベルは我らに命じた」

「なんで…?なんでそんな恐ろしい事を!」

 キイタがなげくように言い、両手に顔を埋めた。

「何でかのお?その真の理由は我らにはわからんし、興味もなかった。ただ一つ言える事は…」

 テンが更に続けた言葉に能力者達は再び顔を上げた。

「シュベルの目的は人間の排除はいじょ。ただその一点のみ。奴は我らに言った。人がいなくなった世界を誰がどのように扱おうが、自分には興味がないとな」

「何だって?」

 ナルが思わず足を進め大きな声を出す。テンが今度はナルの顔を見上げて言った。

「シュベルの願いは世界の、宇宙の覇者はしゃとなる事ではない。ただ、人間と言う存在の完全なる消滅。それだけだ。その言葉に嘘を感じ取る事はできなかった」

 その余りにも壮大そうだいで恐ろしいシュベルの目的に、大地は脱力したように再び腰を下ろした。

「何て…、何て恐ろしい…」

 そう言うココロとその隣に座るキイタは体の震えを止める事ができなかった。

「何故シュベルがそのような事を願ったのかはわからんが、お前達、相当に恨まれているようだな?」

 テンの言葉にシルバーは勢いよく立ち上がった。

「馬鹿な!こんな事は馬鹿げている!私達は、私達人間は理由もわからず一人の男の手によって絶滅させられようとしていると言うのか?」

「させるか」

 突然ガイは低くつぶやくと、体を起こし板の間に胡坐あぐらをかき、更に言った。

「断じて容認ようにんできん」

「当たり前だ!そんな事、許される訳がない!」

 小屋の中にシルバーの興奮した息遣いが響いた。

「それにしても…」

 静寂せいじゃくを破って口を開いたのはナルだった。

「その目的のために虚無から魔族を呼び出す事ができるシュベルとは、何者なんだろう?」

「まったくだ。一体どこでそんな力を手にいれたもんやら…」

 大地が賛同しうなずく。

「誰だって構うもんか。自分は手を汚さずにこの世界を餌にして魔族をあやつり俺達を皆殺しにしようって、そんな奴だ。決めたぜ、俺は何が何でもそのシュベルって奴をこの手でぶっ殺してやる」

 ガイが暗い決意を口にする。彼の落とす視線の先で焚火にあぶられ黒く光る義手が耳障みみざわりな音を立てる。

「そうだね…」

 ぽつりとナルが言った。

「ガイの言う通りだ。僕もシュベルを許さない。どんな理由があれこんな事は許されちゃいけない。僕達の命はこの自然のものだ。僕達の運命は、ANTIQUEがつかさどり形成する自然のみにゆだねられるべきものだ。こんな不自然な力で無理やり絶滅なんかさせられてたまるもんか!」

 ナルがガイに続いて決意の言葉を吐くと、その顔をじっと見つめていたハナがいてきた。

「あんたさあ、何の能力者?」

「え、僕?」

 ナルは顔を上げ、ハナを見た。

「そう、あんた」

「あんたじゃない、僕の名前はナル。僕は、生命のANTIQUEの能力者だ」

 ナルが名乗ると、ハナとテンがひゅっと息を吸い込むのがわかった。戸口の外でラプスの体が小さく反応する。仰向あおむけに寝転んでいたヒカルも驚いたような顔をナルに向けた。

「ほう…生命の…」

 フェズヴェティノスから一斉いっせいに注目されナルは戸惑とまどった。

「な、何だよ?」

 ナルが気勢を張った声で言い返すと、フェズヴェティノス達はすぐにナルから目をらした。ハナだけが、変わらずナルの顔をじっと見つめていた。

「私達が、最も望んだ力だよ」

「え?」

 その言葉の意味がわからずナルがまゆを寄せると、テンが笑顔でそれに答えた。

「時の流れも、光も、闇もない精神世界に暮らす我らが求め、あこがれた力…。はかない有限の時を旅する生命と言う存在。破滅はめつに向かいただ生き続ける存在。自然と言う名のおきてしばられたあわれなお前達が生きるそんな地に我らは降り立ち、人と言葉を交わし、心を通わせてきた」

「お前達が本当にいなくなってしまったら、何を楽しみにせっかくの命を燃やしたらいいんだ?」

 再び仰向けに寝転んだヒカルが天井を見上げたままつぶやく。テンがナルへと顔を向け直し静かに言った。

所詮しょせん私達のしている事は真似事まねごとだ。子供のごっこ遊びでしかない。本当の意味でお前達になる事はできない。それは我らが虚無の世界の住人であるからだ」

「ナル」

 ハナがナルの名を呼んだ。

「あなた達生命もこの宇宙を形成する活動の一部なんだよ。あなた達の存在それ自体が、この自然の一部なんだ」

「…僕達が、自然の一部…」

「そう。それは私達がどれ程追い求めても、結局は手に入れる事のできないとても貴重な力なんだ」

「我らフェズヴェティノスはほこり高き種族だ。我らがおさであるオヤシロサマは蘇らせてもらったと言う恩義おんぎがあろうがシュベルと言う一人の男の配下に収まる事をよしとはしなかった。ヒカルの言う通り、お前達があってこそこの世は我らの遊び場となり得るのだ。だから我らはお前達を消しはしない、何があっても、消したりはしない」

 それが人間達のわだかまりに対する異形いぎょうの種族からの答えであった。

 許される相手ではない、好きになれる相手ではない。長い歴史の中で人間達は散々にフェズヴェティノスに傷つけられ、もてあそばれてきた。それは間違いがない。

 それでも彼らは時に仲間として、時に友として、人の世の歴史を共に歩んできたのだ。そんな彼らなりの理屈で自分達の敵ではない事をここに証明してみせたのだ。

「だが、残りの種族は我らとは違う。アテイル一族、ゼクトゥム一族。奴らはこの世界そのものを手中に収めようと言う念にとらわれておる。お前達と共存しようなどと言う思いは欠片かけらも持ってはいない」

「あいつらは私達みたいにみんなに興味がある訳じゃないからね。時の流れが存在するこの世界に自分達の新たな王国を築きたいと言う考えに支配されちゃってるんだよ」

 テンの言葉にハナが続けると、更にヒカルが言った。

「あいつらにはプライドがないのさ。どいつもこいつもシュベル様シュベル様ってな」

「シュベルのめいを受けた二大種族は全力でお前達を排除はいじょしようとしてくるだろう。特にお前達がまだ出会っていないゼクトゥムの一族は過去にも再三にわたりこの世界を狙い蜂起ほうきしてきた」

「そうなの!?」

 大地の驚いた声にテンはうなずく。

「ああそうだとも。お前達人間の歴史を紐解ひもとけば、どこかにその名残なごりを見つける事ができるはずだ。もっとも、その度にANTIQUEが立ち上がりお前達人間と共闘の末、撃退しているがな」

 そうだったのか…。自分達が初めてのANTIQUEの戦士ではなかった訳だ。ANTIQUEは過去にも人間と手を組み、異世界の脅威きょういからこの宇宙を守っていたのだ。その事実に大地は驚きと共にかすかな希望を見出した気がした。

「タマ‼」

 わずかにわだかまりの解ける空気が流れ始めた小屋の中に、ラプスの鋭い声が響いた。驚いたナルが戸口を全開にして外の様子ようすに目を向けた。暗い森を背に恐ろしい形相ぎょうそうの獣がこちらに向かって走って来る。

「タマちゃん!?」

 ナルの脇から顔をのぞかせた大地が、苦しそうに舌をだして走り来る巨大な猫に向かって叫んだ。

「え!?」

 タマの正体を始めて見たナルが大地の声に驚いた目を向ける。

「アクー‼」

 必死に走るタマの後ろから、青い髪を振り乱しながら迫り来るのは間違いなくアクーだった。

「先輩!」

 大地に続いてアクーの姿をとらえたナルも大きな声で呼んだ。しかしその声が聞こえていないのか、アクーは天高く跳躍ちょうやくすると、走るタマ目掛けて何本もの矢を射ち放った。

「ニャーっっっ‼」

 走りながら後ろを見上げたタマは、迫り来る無数の水矢に恐怖の声を上げた。

「危ない!!」

 何人かが同時に叫ぶ。大地がナルの腰に組み付きその体を押し倒した。明り取りの窓から外の様子ようすを見ていたココロとキイタをハナが突き飛ばす。

 的を外れたアクーの矢が次々と小屋に撃ち込まれる。その内の一本はココロ達が表をのぞいていた窓から小屋の中に飛び込むと真っ直ぐに焚火たきびに突き刺さった。

 ANTIQUEの水で作られた矢が当たった瞬間、あかあか々と燃えていた焚火たきびは一瞬にして巨大な白煙を上げて消えてしまった。

 闇が支配した世界で瞬時に立ち上がったキイタが右手に炎を上げながら小屋の外に走り出る。

「アクー!」

 地に降りたアクーにラプスが呼び掛ける。着地と同時に左手に転がったアクーは、立ち上がると再び何本もの矢をつがえた弓を小屋に向けた。

「ギャーーーー‼」

 大泣きしながら叫んだタマがラプスの後ろに身を隠す。

「アクー!駄目!」

 言いながら走り寄ったキイタの両手から丸い円盤状の炎が生まれ彼女の体を守るように広がった。しかしアクーは躊躇ためらう事なく矢を射た。ANTIQUEの水と炎が激突する。

「きゃあ!」

 フェルディの火が生み出した炎のたてに突っ込んだアクーの水矢は一瞬にして蒸発したが、同時に真っ赤に燃える炎も消えてしまった。キイタの小さな体はその衝撃をまともに受け後方へと吹っ飛んだ。

「アクー‼」

 叫ぶと同時にナルの上から身を起こした大地は自分の両手を地面へと打ち付けた。アクーが立つ地面から土の壁が立ち上がり、またたく間にアクーの体をおおい隠してしまった。

 しかし次の瞬間、アクーを包み込んだ土の壁が内側から幾筋もの水をにじませたかと思うと、瞬時に泥水と化してくずれ落ちてしまった。

 流れ落ちる泥のどろの中から無表情なアクーが再び姿を現す。

「やめるんだアクー!落ち着け!」

 小屋から飛び出したシルバーが叫びながらアクーにけ寄る。その体は頑強がんきょうよろいのように鈍く銀色の光を放っていた。

 後方の仲間を守ろうと両手を広げ立ちふさがるシルバーの体に、無情にも射ち出されたアクーの水矢が次々と命中する。

「ぐわ!?」

 体をつらぬきはしなかったものの、そのすさまじいまでの衝撃はシルバーの巨体を地面に倒した。シルバーが倒れるのを見たアクーは、呆然ぼうぜんたたずむラプスをその視界に捕らえた。

 ギリ…とめられた歯が鳴る。弓を頭上に大きく振りかぶったアクーは、弦を引きしぼりながら真っ直ぐラプスに矢じりを向けた。

「アクー…」

 すぐに小屋の中に逃げ込んだタマと反対に、ラプスは一歩も動けずにいた。このままでは格好かっこうの標的となって射貫かれてしまう。

 いかにラプスの体が頑健がんけんであろうと、この距離でANTIQUEの水矢を喰らえばただでは済まない。そして、アクーの実力からして矢が外れる事は絶対になかった。

 血走った眼で標的を捕らえたアクーが、右手を離そうとしたその瞬間だった。闇夜に一閃いっせん、謎の光が走るとアクーの体は一つ大きく痙攣けいれんするように跳ね上がった。

 しっかりと矢をつかんだままアクーの体は地面に倒れる。うつぶせに倒れたアクーの体はまだ小刻みに震えていた。よく見れば髪の毛が逆立ち、かすかに白い煙が立ち上っているのがわかった。

 かっと目を見開いたまま体の自由を奪われたアクーに一体何があったのか?それを知ろうと全員が周囲を見回す。

「ガイ!」

 キイタが叫んだ。見れば小屋の戸口に身をあずけるようにして立ったガイが、右手の指先をまるでピストルを構えるようにアクーに向けていた。















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