友達
●登場人物
能力者
・ココロ…始まりの存在に選ばれた公国の令嬢。
・吉田大地…土のANTIQUEに選ばれた唯一の地球人。
・シルバー…鋼のANTIQUEに選ばれた公軍の隊士。
・キイタ…火のANTIQUEに選ばれた王国の王女。
・ガイ…雷のANTIQUEに選ばれた元はシルバーの部下だった男。
・ナル…生命のANTIQUEに選ばれた青年。大地と同じく異星人。
フェズヴェティノス
シキ(巫女)
・ハナ…僅かな仲間と戦いの中に残ったフェズヴェティノスの次期首領。眼鏡を掛けた少女の姿をしている。
・ヒカル…ハナを慕い残った蛇型の魔物。普段はスタイルのよい美しい娘の姿をしている。
・タマ…同じくハナとの友情から戦いに残った猫型の魔物。肌の白い可愛い娘の姿をしている。
オウオソ
・モリガノ…精鋭である十人の部下と共にハナの下へ残った戦闘集団の大将。
・テン…オウオソの知恵袋、モリガノの懐刀と呼ばれる知性の高い老齢のオウオソ。
・ハクザサ(イシキリ)…その腕前から二つ名を持つただ一人白い羽を持つオウオソ。
・ミドリマル…モリガノの下に残った十人の中では最も若いオウオソ。ココロを救出し戦場を離れた。
・コウガ…同じく十人の中の一人。ミドリマルに次いで若く、飛翔のスピードに定評がある。
オオグチの一族…狼型のフェズヴェティノス。残忍 且つ獰猛な性格で群れを成して闘う。
前回までのあらすじ
自分を救い出したラプスの腕の中で意識を取り戻したアクーは現状を知るや否やその腕を抜けラプスに攻撃を仕掛けた。
ラプスがアクーの異常なまでの自分達に対する憎しみの理由を問うと、アクーは支離滅裂な事を喚き散らした挙句再び意識を失い高い木の上から落下してしまう。
慌てて木から飛び降りたラプスだったが、アクーはそのまま闇に乗じてラプスの前から忽然と姿を消してしまう。
混乱し取り乱したアクーの姿を目の当たりにしたラプスは戸惑い、アクーが背負っているものに思いを馳せるのだった。
一方 漸くココロの下へと追いついたシルバーはフェズヴェティノスの次期首領であるハナとオウオソの一人ミドリマルが命がけでココロを救ってくれた事を知り困惑する。
同じ疑問を口にしたココロにハナは笑顔で答えるのだった。
「だって私達は友達になれる筈、なんでしょ?」と。
夜の森の中を小さな灯かりが揺れている。その灯かりは進むべき道を求め大きく動いていた。
「だめだ…。完全に道を見失った」
悔しそうな声で呟いたのはガイだった。せっかくヒカルの援護を受けキイタと共にゴムンガとの戦闘の場から馬で離脱したガイだったが、先に出たシルバーを追っているつもりでいつの間にか逸れてしまったようだった。
「ガイ…」
右手にフェルディの炎を灯しながら周囲を照らしていたキイタが小さな声で呼んだ。
「ココロとつながった」
「本当っすか?で、ココロ様はいまどちらに?」
「それがそのぅ…」
キイタは不安そうな顔を上げてガイを見ると、小さな声で言った。
「わかんないって」
「は?」
「ココロも今自分のいる場所がどこだか全然わかんないんだって」
ガイは何とも返事のしようもなく大きなため息をついた。
「参ったなあ…。と、とにかくキイタはそのままココロ様と通信を続けていてください。その声を頼りに進んで行くしかないだろうし…」
「うん、そうだね」
「取り敢えずどっちだ?ざっくりした方角位わかりますか?」
「う~~~~ん…。こっち。あ、いやあっちかな?」
キイタの何とも頼りない案内に、ガイはもう一度大きなため息をついた。
「あっ!」
ガイが絶望感に打ちのめされていると、突然キイタが短い声を上げた。驚いたガイが慌てて顔を上げる。
「何だ!?どうした?」
「あの子…」
キイタは右手を頭上に掲げると、少しだけ火を強くした。照らされる範囲が広がり、闇が退いて行く。
照らし出された先に、一頭の犬がいた。静かに佇み、じっと二人の方を見つめている。これと言って特徴のない、灰色の毛をした中型犬だった。
「何だ、ただの犬じゃないっすか」
「ガイ、覚えていない?」
「え?」
キイタの言葉にガイが怪訝な顔で訊き返す。キイタは前方で動かないでいる犬を見たまま答えた。
「ほら、私達がイーダスタの森でココロ達と逸れた時」
「ああ、ありましたねえ、そんな事も」
「あの時もやっぱり灰色の毛をした犬が私達をココロの元まで案内してくれたじゃない」
キイタの言いたい事が何となくわかったガイは前方に目を向けた。犬はまだその場を動かず、相変わらずこちらを見つめている。
「あれが、あの時の犬だって言うんですか?」
「だってどう見たってそうじゃない」
「そうですかぁ?あいつはもっと大きかったような…。って言うか犬は縄張りを重んじる動物ですよ?イーダスタにいたあの犬が、こんなジルタラスまで遠征してくる訳ないじゃないっすか」
「ううん。間違いない。あの子はあの時の子よ」
「そうかなぁ?」
キイタの確信を持った言い方にガイは不審を拭いきれず思わず呟いた。
「あ、ほらガイ。行っちゃう」
キイタが慌てた声で言う通り、犬はイーダスタの時と同じようにゆっくりとした足取りで二人の前を歩き始めた。
「追って、早く!」
まだ疑わしそうな顔をしたままガイは、それでもキイタの命令に犬の後について馬を進め始めた。二人が見失わない程度の距離を置いて犬はゆっくりと先行して歩いて行く。その後ろ姿を見つめ続けていたガイも、何となくこれはあの時の犬で間違いないかもしれないと、そんな風に思い始めていた。
「ガイ」
「え?」
「気が付いた?」
「何が?」
「あの子、首輪をしている…」
キイタの言葉にガイは目を細めた。豊かな毛に覆われはっきりとは見えないが、確かに犬は首の辺りに何かを嵌めているようだった。銀色をした小さな突起物がキイタの掲げる炎に照らされ、時々小さく光った。
「やっぱりあの子、誰かに飼われているのね」
ならば人の姿を見て怯えないのはわかる気がした。しかし、飼い主がいると言うのなら尚更こんなに遠くまでは来ないのではないか?
ガイは首輪の存在を知り、益々訳がわからなくなったがその思いをキイタには言わないでいた。
ココロはハナの言葉に驚いたような顔のまま何も言い返せずにいた。揺れる焚火の炎が照らし出すハナの顔は静かな笑みに満たされていた。
「ココロちゃんがそう言ってくれたから」
ハナが最後にポツリとそう言うと、ココロは板の間に駆け上がりハナの近くに走り寄った。ココロの突然の行動に驚いたハナが慌ててポケットから抜き取った両手をココロは強く握りしめた。
「そうだよハナちゃん!私達は友達になれる!ううん、私達は、もう友達だよ」
「エ…エヘヘヘヘ…」
ココロの勢いに圧され驚いた顔のまま固まっていたハナが、照れたように顔を上気させて笑い声を上げた。
急に走り出したココロに一瞬 肝を冷やしたシルバーとミドリマルだったが、手を握り合ったまま笑う二人の少女の姿に、ため息をついて再び肩の力を抜いた。
なるほど、とシルバーは思った。この狸の少女は人類の味方になった訳でも、我らANTIQUEを助け出そうとした訳でもない。ただただ、ココロと言う友人一人の為にあのような危険を冒してまで自分達に手を貸したと言う事だ。
主君と手を取り合って無邪気に笑う魔族の娘を、シルバーは複雑な顔で見つめた。
その時だった、膝をついて焚火の番をしていたミドリマルが急に手にした薪を放り投げると勢いよく立ち上がった。ココロの手を振りほどいたハナも引き締めた表情で明り取りの窓に身を寄せる。
「どうした?」
「しっ!」
シルバーが鋭く訊くが、すぐにミドリマルに止められてしまった。
「誰か来る…」
ハナが緊張した声で言った。しかしココロとシルバーの耳には何も聞こえなかった。
「二騎だ」
ミドリマルが言葉少なに呟くと、シルバーは素早く腰の剣に手を掛けた。
一分か、二分だったか。長くはない時間であったが、痛い程張り詰めた空気の中で四人は身を固くして待った。
やがてココロ達の耳にもはっきりと数人の人が話す声が聞こえてきた。会話の内容までは聞き取れなかったが、声は段々と自分達のいる小屋へと近づいて来る。
「あー!」
「ハナちゃん!?」
突然大きな声を上げたハナは、ココロが止める間もなく小屋の外へと飛び出していった。
「おーい、ここ、ここぉ!」
やがて小屋の外からハナのそんな声が聞こえてきた。続いてそれに応える若い女の声も届いた。
一気に緊張を解いたミドリマルが再び囲炉裏の傍にしゃがみ込む。ココロは土間に降り、シルバーの横で小屋の入り口を見つめていた。暫くそのまま様子を見ているとやがてハナが笑顔で入って来た。
「到着だよ~」
そう言うハナの後ろからどやどやと三人の人物が入って来た。
「大地!ナル!」
小屋の中に入って来たのは戦場で離ればなれになっていた大地とナルであった。
「ココロ!」
大地とナルの二人は同時に叫ぶと、笑顔でココロに駆け寄った。
「無事だったか」
シルバーもホッとした声を出す。実はココロに次いで心配の種であった二人の元気そうな姿にシルバーは心底安心した。
「うん、タマちゃんが助けてくれたんだ」
言いながら大地が振り向く方に目を向けると、イーダスタで白の巫女と名乗っていた娘がハナとの再会を喜んでいる姿があった。
「タマちゃん、ありがとう」
「にゃん」
ココロの言葉にタマは笑顔で答えた。
「シルバー、他のみんなは?」
ナルが小屋の中を見回しながら訊ねた。
「キイタ様にガイ、それとアクーはまだ現れてはいない」
シルバーが急に声を落として答えた。
「何だって?」
シルバーの返事に、入り口から新たな声が飛んできた。小屋の中にいた全員が声の方に目を向ける。
「ヒカルちゃん‼」
ハナとタマが揃って叫ぶと、ヒカルは崩れるように小屋の中に転がり込んできた。二人が慌てて駆け寄る。
「ガイは随分前に戦場を離れた筈だ…。せっかく助けてやったってのに何をぐずぐずしていやがるんだあの男は…」
ヒカルが顔をしかめながら言った。
「ヒカルちゃんどっか痛くしたの?」
ハナがヒカルに手を貸しながら聞く。額に汗を滲ませたヒカルが苦し気に答えた。
「あのアテイル…、とんでもない馬鹿力だよ」
「ヒカルちゃん痛いの?痛いの?」
「ああ、痛いよ、べらぼうに痛い。私はちょっと休むぞ」
泣きそうな声で聞くタマに笑顔を作ったヒカルは、二人の手を借りて立ち上がるとそのまま板の間に倒れ込んだ。
「ココロ、ガイから連絡は?」
大地がココロの顔を見て聞いた。
「ガイからはないけど…。でもキイタからはあったの。ガイと一緒にいるみたい」
「キイタと言えば、私達と一緒にステージで踊った火の能力者だな?」
ヒカルが僅かに首を持ち上げて訊いてきた。
「なら間違いない。二人は一緒に馬に乗り、戦場を離脱した」
「そうか、なら安心だね」
ココロの答えに大地は笑顔を見せた。しかしココロの顔は晴れなかった。
「二人とも、道に迷ってしまったみたいで…」
「でも、テレパシーが届くならここを教えてあげれば…」
「だけど私もここがどこだかよくわからないから、うまく案内できなくて…」
「あ、そうか」
今更ながらそんな当たり前の事に気が付いた大地が言うと、ココロは益々不安そうな顔になった。
「誰かアクーを見てはいないか?」
シルバーが仲間の顔を見回しながら言うと、すぐにナルが反応した。
「先輩は黒い、狼みたいな奴が連れて行きました」
「ラプスだ」
ナルの説明にハナが声を出した。ココロ、大地、シルバーの三人は、ガイとアクーを散々に痛めつけたオオグチを思い出した。
特にココロはアテイル同様、かなり初期の段階からラプスの姿を悪夢の中で見ていただけに、その姿を思い描いただけで体が震えだすのを止められなかった。
「先輩を始まりの存在の元へ連れていくから心配するなと、そう言っていました」
アクーを連れ去ったラプスの言葉をナルが伝える。すると急に大地は大きくため息をついた。
「何だかピンとこないなあ。ついこの間までフェズヴェティノスに殺されそうになっていたってのに」
「同感だ」
頭をガリガリ掻きながら大地が言うと、シルバーも頷いた。
「私、もう一度キイタ達に声を送ってみる」
不安にいてもたってもいられなくなったらしいココロは言いながら小屋の木戸に向かった。
「ココロ様、表は危険です」
シルバーが慌てて声を掛けると、ココロは立ち止まり振り返った。
「うん、でも今三人にとっては私の声だけが頼りの筈だから…」
そう言われると、シルバーもそれ以上止める事ができなかった。シルバーが次の言葉を口にできないでいる内にココロは木戸を開け、すっかり暗くなった小屋の外へと出て行った。
(キイタ、ガイ、アクー。今どこ?お願い、何とか私の声を捕まえてここまで辿り着いて!)
ココロは暗い森を見つめながら三人にメッセージを送った。その時だった。突如ココロの周りにいくつもの黒い影が現れた。目の前で数えきれない程の黄色い光が自分を取り囲んでいる。
驚いて息を飲んだココロは、影の正体を知ろうと小屋から漏れる僅かな明かりを頼りに目を細めた。薄明りに浮かび上がったのは、数十と言う数のオオグチの一団であった。
今やフェズヴェティノスは敵ではない。そうわかっていても、その恐ろしい姿にココロは思わす短い悲鳴をあげてしまった。
「ココロ!?」
「ココロ様!」
ココロの声が聞こえたらしく、すぐに後ろの木戸が激しく開き、大地、シルバー、ナルの三人が飛び出して来る。シルバーもナルも剣の柄に手を添えていた。
「こらー、オオグチ!」
三人の後ろからハナが怒鳴りながら出て来た。
「ココロちゃんを驚かせちゃダメじゃないか!」
命令に従い帰還しただけの彼らは、突然の叱責の意味がわからず慌てた。
「い、いやお嬢。俺達そんなつもりは…」
「うるさい!そんなつもりがなくってもあんた達見た目が怖いんだからどっか隅っこ行ってなさい!」
「そ、そんなぁ…」
オオグチの一人が情けない声を出すと、後ろでタマが大爆笑の声を上げた。
「だからちゃんと人間に化けれるようになれって言ったじゃーん」
「やかましいタマ‼」
オオグチの怒鳴り声にタマは更に笑い声を高くした。
「随分と賑やかだな」
そんな声にシルバーが後ろを振り向くと、いつの間に舞い降りたのか小屋の屋根にハクザサが座って自分達を見下ろしていた。
「イシキリ!」
シルバーの上げた声に、小屋からミドリマルが飛び出して来る。
「大将!!」
ミドリマルが夜空を見上げながら叫ぶ。彼の見つめる先からオウオソの一団が高く羽音を響かせながらゆっくりと地面に舞い降りてきた。
「ご苦労だったな、ミドリマル」
ミドリマルは労いの言葉を掛けてきたモリガノの元へ駆け寄ると、甘える子供のように不満をまくしたてた。
「大将、俺もうこんな役やだよぉ。俺もみんなと一緒に戦いたかった」
「そう言うなミドリマル。誰かがやらねばならんこれも大切な仕事だったんだ」
「だったら次はコウガにやらせてくれよ」
「な!」
ミドリマルは自分と同じく若いコウガを名指しにした。自分の名前が出た事に驚いたコウガは思わず大きな声を出した。
「わかったわかった。今回のところはまあ堪えろ」
モリガノは吹き出すと、ミドリマルを宥めるようにその肩を叩いて言った。
「お嬢、オウオソ十一騎無事 帰還した。ANTIQUEは全員離脱、あのアテイルを倒す事はできなかったがな」
モリガノはハナの前まで進むと低い声で報告した。
「うん、ご苦労様。でも逃がした筈のANTIQUEはまだ全員ここに揃ってないよ」
「そりゃあ…。また随分とのろまな連中だ」
オウオソ十一騎、二十はいそうなオオグチ一族。ハナ、ヒカル、タマのシキの巫女。フェズヴェティノスの集団の輪の中で、四人の能力者は緊張の面持ちで立ち尽くしていた。
「余り、いい気分ではないな」
「生きた心地もしないよ」
シルバーの呟きに大地が続ける。つい数日前に彼らと命懸けの激闘を繰り広げてきた二人としては当然の感想であった。
「ココロ、彼らは…?」
フェズヴェティノスの事を知らないナルが隣にいるココロにそっと訊ねる。
「うん、彼らはフェズヴェティノス。シュベルの力によって蘇った三種の魔族の一つよ」
「え!?」
ココロの答えにナルは驚いた声を出した。その声に周囲のフェズヴェティノス達が一斉にココロの方を見た。
「三種の魔族ねえ」
ハナが少し呆れたような声で言った。
「あたし達はそんな風に呼ばれているんだ」
「シュベルの力で蘇った虚無の住人は三種族。竜の一族アテイル、君達フェズヴェティノス。そして、東諸国にいると言うゼクトゥム一族。私達はこれらの種族を総じて魔族と呼称している」
「失礼な奴らだな」
シルバーの説明にコウガが不機嫌な声を出す。
「そうか?魔族なんて、何かちょっとカッコいいじゃんか?」
屋根から飛び降りたハクザサが能天気な声を出す。
「レヴレントの城に現れたゼクトゥム一族の長からも同じような事を言われたわ。遥か昔から存在する一族だ、もっと敬意を払えと」
「ラビュートかぁ、私あいつ嫌いだなぁ」
ココロの言葉にハナが苦い薬でも飲んだような顔で言った。
「私達はANTIQUEからの情報のみで戦っている。この世界を形成する自然現象の象徴であるANTIQUEにとって、自分達の生業によって生み出された訳ではない命はすべて不自然な存在なのだと、そう教えられた」
「それは間違いではない」
シルバーの話しに、オウオソの知恵袋であるテンが穏やかな声で答えた。
「でも別にだから敵って訳じゃないし」
「今の私にならそれがわかる」
ハナの言葉にシルバーは頷いた。
「我らは別種の存在だが種の隔たりを超えわかり合う事ができる。私にそれを教えてくれたのは…、ココロ様とハナ殿だ」
シルバーが言うと、暗がりの中でココロとハナは黙って目と目を見交わした。
「私はあなた達を敵だとは思ってはいない。だが一度はシュベルの下に集い、我らを倒そうと考えた」
「そりゃあ…」
「いや、それを責めているのではない」
ハナの不満そうな声にシルバーは慌てて続けた。
「その経験から知り得た事を、教えていただきたいのだ」
「何が知りたいのだ?若いの」
シルバーの必死の声に応えたのはテンであった。シルバーはテンの顔に目を移して更に言った。
「あなた達虚無の住人とは、一体どのような存在なのか…。それと、あなた達を蘇らせたシュベルの本当の狙いは一体何であるのか。それを教えていただきたい」
シルバーはテンの目を真っ直ぐに見つめながら言った。
「あ!」
キイタとガイは同時に叫んだ。自分達を導くように先行していた灰色の毛をした犬が、突然馬では到底登れそうもない崖の上に跳躍したのだ。
「何だよ畜生!ここまで来てそりゃないでしょうよ」
ガイが自分達を見下ろす犬を見上げて情けない声を出す。
「ガイ、あれ」
「え?」
言われたガイは自分の前に座るキイタを見下ろした。彼女はあらぬ方を指さしている。ガイがキイタの指さす方に顔を向けると、上り坂になった先に微かに灯かりが見える。
「あれは…」
「家があるみたい」
キイタの声にガイは思い出したようにもう一度犬に目を向けた。
「いない…」
遠くに揺れる小さな灯りに目を向けたその僅かな間に、犬は忽然と姿を消してしまった。
「あいつは、ここに俺達を連れて来たかったのか?」
「わからないけど、でもココロの声もどんどんはっきりとしてきたし、やっぱりあの子、私達をみんなの所まで案内してくれたんだよ」
「何とも信じられん話しだがなぁ。けどまあ人家があったのは確かだし、取り敢えずあの灯かりを目指してみますか?」
キイタは何を思ったかガイの問い掛けには答えず突然馬の背から地面に降り始めた。
「キイタ何してるんです?」
驚くガイを余所にキイタは、遠くに見える人家の灯かりを目指して坂を上り始めた。
「お、おいキイタ…」
ガイが慌てて馬を進めようとすると、キイタは坂の上からガイを振り向き、笑顔を見せて言った。
「私が様子を見てくる。ガイはここで待っていて」
「そんな、駄目だ。様子なら俺が見てくる」
「駄目!」
キイタは突然怒ったような声を出した。
「キイタ…」
驚いた顔で自分を見つめるガイにキイタはもう一度笑顔を作ると落ち着いた声で言った。
「大きな声を出して、ごめんなさい…。でもお願い、私に行かせて。ガイはここを動かないで。ココロ達がいたらすぐに呼びに来るから」
言い終えるとキイタはすぐにガイに背を向け再び坂を上り始めた。ガイは慌てて馬から飛び降りるとキイタを追った。
「待ってください、キイタ待って。あそこにいるのは敵かもしれない、一人じゃ危険だ」
ガイの言葉にキイタはもう一度坂の上から振り返った。右手の炎に照らされたキイタの顔はやはり静かな笑みを浮かべていた。
「もしそうだったら、危なそうだったらすぐにガイを呼ぶから。そうしたら急いで助けに来て、いつもみたいに」
「キイタ…」
キイタが何を思ってそんな事を言うのか理解できず、ガイは困惑した声を出した。しかしキイタはそんなガイには構わず暗い坂道を急ぎ足で登って行ってしまった。
どうしていいか決めきれずにガイはただ呆然とした表情で遠ざかって行く赤い火を見つめていた。




