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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
157/440

激突

●登場人物

・ココロ…始まりの存在と出会い世界の危機を知った少女。公国の公女と言う立場を捨て世界を救う為に共に戦う仲間を探して旅に出た。

・吉田大地…土の能力者。ココロに導かれ地球からやって来た少年。高い知識と持ち前の根性で異世界の戦いを切り抜けていく。

・シルバー…鋼の能力者。最も早くココロの前に現れた能力者。経験豊富な軍人であり戦闘に於いては常にリーダーシップを取る。

・キイタ…火の能力者。ココロの生まれ育ったアスビティ公国に隣接する大国ンダライ王国の第二王女。慈愛に満ちた優しい少女。

・ガイ…雷の能力者。当初シルバーの命を狙っていたが誤解が溶け仲間に。元はシルバーの部下で優秀な軍人だった男。

・アクー…水の能力者。イーダスタ共和国の深い森の中で倒れていた少年。失われた記憶を取り戻そうと仲間になった。

・ナル…生命の能力者。闇にちていく自分を封印するためココロの声にすがりプレアーガへやって来た異星人。ココロを慕い仲間に。


・ゴムンガ…三種の魔族の一つアテイル一族四天王と呼ばれる首領格の一人。無類の戦闘好きで剛腕。しかし戦術に長け軍団での戦いを得意とする策士。



前回までのあらすじ

 町への道を急ぐ一行の前に突如現れたのはアテイル一族四天王の一人ゴムンガだった。怒りに任せ部下のエクスヒャニクをすべて破壊してしまったゴムンガは単身能力者達の前に立ちはだかったのだ。

 満身創痍まんしんそういのガイを戦わせるべきか、司令官である自らが戦うべきか、あるいは着実に実力を上げている大地、キイタ、アクーを前線に上げるべきなのか?思わぬ強敵の出現にシルバーは判断に迷う。

 その時、ナルの腰に吊るされたカンサルク王の愛刀タテガミが突然 しゃべり始めたのだった。







「ナル…」

 小さくつぶやいたアクーは青い目をいっぱいに見開き、両手でタテガミを構えたナルを見つめていた。

「あれが、タテガミ…」

 一瞬恐るべき大敵ゴムンガの存在すら忘れ、大地が驚きの声を上げた。

「面白いモノを持っているな」

 シルバーの頭越しにナルをにらみつけたゴムンガが抑揚のない声で言った。次の瞬間、キイタが渾身こんしんの力を込めて目の前に立ちふさがるシルバーの体を押しのけた。呆然ぼうぜんとナルを見つめていたシルバーは不意をつかれ体を動かした。

「キイタ様⁉」

 シルバーの叫びも無視してキイタが振るった右手から赤く燃える火球が飛び出し、真っ直ぐにゴムンガに向かって行った。

 敵味方なく全員がナルの異変に目を奪われている間に、キイタだけが戦闘の準備を整えていたのだった。絶好ぜっこうの機会と見て取った彼女は果敢かかんにゴムンガへ攻撃を仕掛けた。

 瞬時に気が付いたゴムンガは、咄嗟とっさに腰の剣を抜き放つとキイタの放った火球をその剣で受け止め、脇へと払った。その勢いのまま剣を振り上げたゴムンガから強烈な殺気が放たれる。

「ココロ様、お下がりください!」

 叫びながらシルバーがキイタの小さな体を抱きかかえ横に飛ぶ。言われたココロはすぐに馬の向きを変えると、ゴムンガの攻撃範囲からの離脱を試みた。

 シルバーの叫びにゴムンガの意志を悟った大地、ガイ、アクーの三人もゴムンガの攻撃を回避しようと身をひるがえす。

 シルバーが予感した通り、ゴムンガは大木のような右腕一本で振り上げた剣を、そのまま真っ直ぐに切り下ろした。

 空を切る剣の先に倒すべき相手はいなかった。しかしゴムンガの剣から放たれた気のかたまりはそのまま地面を割り、目には見えぬ鋭い刃となって能力者達の間をけ抜けた。

 一振りで岩の山をくずし、配下であったエクスヒャニク達をその下敷きにしたゴムンガの剣。そこから生まれた見えない刃は地面をえぐりながら真っ直ぐに走る。

 走る先に立っていたのは、タテガミを構えたナルだった。全力で二百mを疾走しっそうした直後のように汗を流し肩で息をするナルは、迫る敵の攻撃を全身で感じていた。

「来やがれ、久しぶりの合戦だぁ!」

 しゃべる刀、タテガミが浮かれたような声を上げる。空気と共に自分の体を真っ二つにしようと迫る見えない刃を目に捕らえたナルは、その刃に向かって強く地面をると右回りに体を回転させた。美しく長い髪がその動きに合わせ彼の体を包み込む。一周回って両足を地に着けたナルは、全身に力を込めてゴムンガの攻撃を真正面から受け止めた。

「うわ…」

 伝説の剣タテガミはゴムンガの化け物じみた攻撃をまともに受けて立ち、見事にこれを食い止めた。その刃には傷どころか曇り一つつきはしなかった。

 しかしこれを手にした人間であるナルの体はそうはいかなかった。斬撃ざんげきはすべてタテガミが受け止めてくれたものの、その衝撃に彼の体は後方へと吹き飛ばされた。

「受けたか!」

 一言発したゴムンガが地をさぶる音を立て吹き飛んだナル目掛けて走り始めた。どうやらタテガミの特殊性に気が付いたゴムンガはその剣との一騎打ちを望んだようだ。

 しかしそれを許す気はシルバーにはなかった。

「ゴムンガァっ‼」

 シルバーの叫びにゴムンガが振り向く。その目の前に鋭く光る切っ先が迫っていた。不意を突かれたゴムンガが手にした剣でこれを払いける。しかし、払いけたその剣を持つ相手はいなかった。

 ゴムンガがハっとして見上げた頭上から、銀色の髪を広げ一人の男が襲い掛かった。

「シルバー‼」

 ガイが叫んだ瞬間、剣と剣がぶつかる激しい音が響き渡った。ゴムンガと真向から切り結んだシルバーの体は後方へと吹き飛ばされた。が、シルバーは慌てる事なくひざをついて着地した。

 ゆっくりと立ち上がったシルバーの両腕は、ひじから下が光り輝く鋭い剣へと姿を変えていた。咄嗟とっさに手に持つ剣をゴムンガに投げつけすきをついてデュールの能力を発動、襲い掛かる作戦であったがゴムンガには見事に受けられてしまった。

「ほう…」

 異様な姿で目の前に立つシルバーを見てゴムンガが愉快ゆかいそうな声を上げる。

「その能力、鋼のANTIQUEか…。しかも俺の剣を受けて無傷とは、既に鋼以上の硬度を手に入れたと言う訳か」

 テリアンドスでの戦いで大地が推理した通り、シルバーが宿すデュールの能力は現存するあらゆる鉱物へと変化できる。しかし、ANTIQUEの能力者として修業を積んでこなかったシルバーはなかなか鉄以上の硬度を扱う事ができないでいた。

 かろうじて大地と共闘する事で大地の土を硬度の高い物質へと変化させた事はあったが、単身で鉄以上の物質に変化させる事はなかなかに難しかった。

 今、シルバーの腕は怪しくれる薄い赤を溶かしたような色になっている。それは大地のよく知る鋼鉄の色ではなかった。

 どうやら強敵を目の前にし、シルバーの能力が一段成長を見せたようだ。メロの剣に無残に切り裂かれた鋼鉄の体は、今同じ四天王と対峙たいじする中でそれをしのぐ鉱石の性質を目覚めさせた。

「だが、例えどれだけ硬度を上げたところで無駄な事。所詮しょせん地上の鉱物では我らの武具を超える事は不可能」

 興味の対象を変えたゴムンガがずいっとシルバーに迫る。シルバーは鋭い剣と化した両手をだらりとらしたままゴムンガをにらみつけていた。

「竜のうろこに勝る強度なし」

「ん?」

 シルバーのつぶやきにゴムンガが眉根まゆねを寄せる。

「親切にもメロが教えてくれた」

 そう言うとゴムンガがニヤリと笑った。

「メロか…。功をあせってお前達に敗れ去った愚か者が。しかし、ならば話は早い。メロの言う事は間違いない。貴様の剣では俺は切れん」

 ゴムンガの言葉に今度はシルバーが不敵な笑みを浮かべる番だった。

「それはどうかな?メロはもう一つ私に教えてくれた」

「ほう?」

「お前の武器、お前を守るよろいを貫く事は私にはできない。いや、ここにいる誰にもそのような事はできはしないだろう。しかし…」

 言いながらシルバーは全身に殺気をみなぎらせ、両手を上げて攻撃の態勢を取った。

「お前達の体自体は貫く事ができる」

 頑丈がんじょうに固められたよろいかぶと隙間すきまからのぞくゴムンガの肉体。そのわずかかな隙間すきまを狙ってピンポイントの攻撃を仕掛ける。

 しかし、守るべき場所があらかじめわかっているその攻撃はゴムンガにとって弱点にすらならなかった。ゴムンガはますます々口元をゆがめ、自分のき出しになった肉体を狙う小さな能力者にあわれみの言葉を掛けようと口を開いた。

 次の瞬間、自分目掛けて飛び掛かって来るものと思っていた鋼の能力者が大きな声で叫んだ。

「アクー‼」

 ゴムンガは背後から迫るかすかな羽音を耳にした。間違いない、かぶとよろい隙間すきまわずかに見える自分の首を狙い、背後から矢が迫っている。

 ゴムンガは振り向きざま横 ぎににした剣で襲い来る矢を叩き落とした、はずであった。

「ぬう…っ⁉」

 初めてゴムンガの余裕が消えた。確かに払ったはずだった。事実、自分の首を狙い飛んできた細い矢はもろくも折れ、地に落ちた。

 しかしアクーは初めから弓に二本の矢をつがえて放っていた。一本はゴムンガに弾き飛ばされた軽い木製の矢。そしてもう一本は、ハルの能力で生み出した水の矢だった。

 木の矢は空気を切る矢羽の音で水矢の存在を隠すためおとりだ。しかも手を離れた後もアクーの意志により自在に動くANTIQUEの水矢は彼の命令に従い、途中で大きく軌道きどうを変えた。

 まるで切れ味鋭いフォークボールのように急降下した水矢は、狙い通りゴムンガの左足の付け根、よろいよろいわずかな隙間すきまに突き刺さった。

「ガイ‼」

 見事な射手振りを見せたアクーが叫ぶと同時に、返事もせずにガイが動き出す。長いマントを払いのけ姿を現したみにくい鉄の左手は、既に溜め込まれた電気が小さく放電していた。

「うおりゃぁあ!」

 気合と共にガイの五指から放たれた細い稲妻は、ゴムンガの足に突き刺さったアクーの水矢を目指し走った。

 ゴムンガは下段に構える要領でこれを受けようと剣を繰り出した。しかし、ガイの指から放出された五本の稲妻のすべてを捕らえる事はできなかった。

 ゴムンガの剣をすり抜けた一本の稲妻がアクーの水矢に命中する。ANTIQUEの水を介し、ゴムンガの巨大な体に強烈な電撃が流れる。

 その衝撃にゴムンガの巨体がらぐ。その傷口から煙をき上げながら、それでもゴムンガは立っていた。

「何ぃ…、俺とアクーの攻撃が効かねえだと?」

 水と雷の合わせ技を喰らい立っていられたのはオオグチ一族のおさ、ラプスだけだ。あの時はガイもアクーもその直前のオオグチ一族との戦いに疲弊ひへいし、ANTIQUEの能力が半減していた。

 勿論もちろん今も体力は万全ではない。それにしてもあの時よりはましなはずだった。

「いや…、十分に効いた」

 そう言いながら顔を上げたゴムンガはアクーの顔を見て続けた。

「小僧、水の能力者か…。見事な腕前…。貴様は雷の能力者だな?」

 ゴムンガは自分の横から攻撃を仕掛けてきたガイに顔を向け言った。ゴムンガはゆっくりと丸めていた背中を伸ばすと背後を振り返りキイタを見つめた。

「そして、真っ先に攻撃を仕掛けてきたそこの小娘が火の能力者と言う訳だ。寄せ集めとは思えぬなかなかの連携れんけい…。よい隊だな」

 効いたと言いながらゴムンガにはダメージの様子ようすは見られなかった。メロ、クロノワールとアテイル四天王を名乗る連中とは過去に戦っていたシルバーであったが、このゴムンガはそれらとは全く異質の実力が見て取れた。

 少なくともメロやクロノワールは自分達と同じような姿で現れた。使う武器は強力で、その腕前もとてもかなわないと思える程であったが、ゴムンガには彼らとは違う対処のしようのない恐ろしさがあった。

「火、鋼、水、雷…。その実力、しかと見た。やはりANTIQUEとは先に潰しておくべき存在」

 ゴムンガのつぶやきに立っている能力者全員が身構え、次の攻撃に備えた。彼らの張り詰めた緊張を察知したゴムンガは再びニヤリと笑いを浮かべる。

「とは言え、俺はメロのような能無しではない。これだけの実力者集団に無策で挑むような真似はせん」

 ANTIQUEの能力者達に囲まれなお慌てる様子ようすも見せないゴムンガは、ゆっくりと顔をめぐらせた。

「まあせいぜい、一人倒せればそれでよし…」

 そう言いながらゴムンガの見つめる先に気が付いたシルバーはハッとして叫んだ。

「ココロ様!お逃げください!」

 剣を大きく頭上に振り上げたゴムンガの捕らえた先には、遠く馬にまたがったままこちらを見つめるココロの姿があった。

 ココロに照準を合わせたゴムンガの首に突如とつじょ太いくさりからみついた。それは姿を変えたシルバーの右腕だった。

「ガイ‼」

「おう!」

 シルバーの呼びかけに応じたガイはけ寄るとシルバーの肩をつかんだ。このままウナジュウの能力を発動させれば、シルバーのくさりを伝い再びゴムンガの体に強烈な電撃を流し込む事が出来る。

「ウナジュウゥっ!!」

 叫んだガイはシルバーの体に一気に電撃を流し込もうとした。しかし、雷の能力は発動されなかった。

「何!?」

「どうしたガイ!!」

「で、出ねえ…」

「ガイ!!」

 ゴムンガは空いている左手で自分の首に巻き付くくさりつかんだ。シルバーがハッとして手に力を込める。しかし、ゴムンガの怪物じみた腕力には到底かなわなかった。

 ゴムンガは怪力にものを言わせ力づくで首のくさりを引きがした。そのまま力任せに引くと、シルバーの体が宙高く舞い上がった。ガイは勢いよく飛びあがったシルバーのから出に振り払われ地に倒れる。

「どのような優れた隊も、司令官を失えば烏合うごうしゅうよ」

 左腕を振り下ろした先で、シルバーの体が地面に叩きつけられ大きくバウンドする。

「消えろ、始まりの存在…」

 改めてココロを見据みすえたゴムンガが、今度こそ剣を真っ直ぐに振り下ろした。ナルを弾き飛ばした見えない刃がココロ目掛けて撃ち出される。

 その時、走るゴムンガの刃の前に一頭の馬が飛び込んできた。途中で宙に舞った乗り手を置き去りに空馬はそのまま走り抜ける。

 ゴムンガの攻撃の前に突然飛び出した騎手は巨大にふくらんだ腕を振り上げながら叫んだ。

「テテメコォ!!」

 大地の腕が地面を叩く。まるで早回しの映像のようにものすごい速さで彼の目の前に石の壁が立ち上がる。

 ゴムンガの技が大地の作り出した石壁に激しく激突した。土の能力に呼応こおうし立ち上がった岩石の厚い壁は一瞬にして粉々に吹き飛び、その後ろにいた大地の体までも強烈に弾き飛ばした。

「大地‼」

 叫んだココロは軽く五、六mの距離を飛び背中から地面に叩きつけられた大地の元へ急いだ。

「うう…」

 ココロは馬から飛び降りると苦しそうにうめく大地のそばけ寄る。

「ココロ、怪我けがは?」

「ない!ないよ!」

「よかった…」

「ほう…。あれが、土の能力者か…」

 自分の技を防いだその能力に、ゴムンガが興味深そうな声を出す。

「やってくれたじゃねえかこの野郎‼」

 聞きなれない中年の声が響く。吹き飛ばされたナルが体勢を立て直し、再びタテガミを上段に振り上げながらゴムンガに挑み掛かった。

 陽は地平に落ち、ほんのかすかなきらめきを空に残した戦場は間もなく闇に支配されようとしていた。

 その暗がりの中、タテガミとゴムンガの剣が激しく打ち当たり火花を散らした。

「ナル!」

 アクーが叫びながら何本もの水矢をその手に生み出し弓につがえた。ゴムンガの背後からキイタの炎が襲い掛かる。

 殺気を感じたゴムンガがナルを押し返しつつ振り返る。迫り来る火球を受け止めようと左手を上げる。しかしキイタのあやつるフェルディの能力は、如何いあかにゴムンガと言えど片手で対処できる威力ではなかった。

「ぐお!?」

 動物のような声を上げ火球に弾かれたゴムンガの体が大きくかしぐ。そこへ間髪かんはつ入れず大蛇のようにうねる炎の帯が襲い掛かった。

 かすめた炎に体を焼かれながらもかろうじて地を転がりこれを避けた。対峙たいじするゴムンガとナルの間を、長く伸びたキイタの炎が走り抜けていく。片膝かたひざをついて起き上がったゴムンガに、再びナルが攻撃を仕掛けた。

 彼らの戦いを遠くから見守っていたココロが大地を残して立ち上がった。

「コ、ココロ…」

「ミニート!」

 ココロが片手を上げて叫ぶと、彼女の肩の上でミニートがクルリと体を回した。途端とたんにココロの体はまばゆい光に包まれ、次にその光が失せると、その右手には長い一本の錫杖しゃくじょうにぎられていた。アガスティアの王女姉妹から託された聖なる錫杖しゃくじょう、ガーディアンクロウジャルだ。

 意図いとせずゴムンガと一騎打ちの形となったナルは想像以上に健闘した。アクーの矢やキイタの炎が援護してくれていたとは言え、実力者であるゴムンガを相手に引けを取らぬ剣技を見せた。

 地面に叩きつけられたシルバーは起き上がり、ナルの戦いに目を奪われた。美しい剣技であった。基本に忠実な体捌たいさばき、流れるようなその動きは攻守を兼ね、時と共にやがては相手を追い込んでいくすきのない戦いぶりであった。

 しかしシルバーはそんなナルの戦闘スタイルに危ういものを感じ取ってもいた。余りにも美しすぎる。並の相手ならばたとえ相手がアテイルであったとしても勝てるだけの実力を確かにナルは持っていた。しかし今日の相手は四天王の一人。それも規格外きかくがいの体型と怪力をほこるゴムンガだ。

 異世界に来て初戦の相手としては悪すぎた。正々堂々公平な立場でポイントを奪い合うスポーツではない。ウエイトによる階級もなければ、反則を裁く審判もいない。そもそも、ルールなどない殺し合いをするにはナルの剣は上品過ぎたのだ。

 シルバーはすぐに立ち上がるとそのままナルの助勢に向かった。

 ナルの思いのほか素早く力強い太刀筋たちすじと、まるで自分の剣に吸い付いてくるような異様いような動きをするタテガミにゴムンガは押され気味になり防戦を余儀よぎなくされていた。

 珍しく心を乱したゴムンガに向けてキイタの炎とアクーの水矢が同時に放たれた。ゴムンガは体ごと巨大な剣を振り回しこれらを弾き飛ばす。一瞬のすきが見えた。

「ナル!今だ!!」

「もらったぁ!」

 タテガミの声にナルが繰り出した切っ先がゴムンガのき出しになった首をかすめる。鮮血が飛び散るのが闇の中でもわかった。

「エミカ様、ココロ様、私に力を…。仲間を守る力を!!」

 叫びと同時にココロが錫杖しゃくじょうを地に打ち付けた。

「ナル!」

 首筋に深手を負ったゴムンガの背後からシルバーが飛び掛かった。ゴムンガは地に足をつき、右腕一本でこれを弾き返した。体を戻す勢いのまま、空いた左手がこぶしを作り、上段から切りかかって来たナル目掛けて突き出される。

 ゴムンガの巨大なこぶしがナルの体に食い込むより一瞬早く、ココロの放った光のよろいがナルの体を包み込んだ。

 しかしゴムンガのこぶしを止める事はできない。左脇付近に強烈な衝撃が走ったのを感じた瞬間、ナルの体はものすごい勢いで吹き飛ばされた。










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