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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
155/440

悲しみの生み出したもの

●登場人物

・ココロ…アスビティ公国侯爵の娘。始まりの存在に選ばれ能力者を率いるリーダーとなった。

・吉田大地…幼馴染を救う為地球からやって来た少年。土の能力を宿している。

・シルバー…アスビティ公国の公軍で大隊長まで務めた軍人。鋼の能力者。

・キイタ…アスビティの隣国ンダライ王国の第二王女。火の能力者として戦う。

・ガイ…元シルバーの部下。アスビティ公国公軍分隊長を務めた。雷の能力を得る。

・アクー…ここ三ヶ月以前の記憶を全て失ってしまった少年。水の能力者。

・ナル…過去の経験から闇に堕ちたがココロに救われ仲間になった。生命の能力者。



前回までのあらすじ

 エミカ王女を弔った一行は早速ジルタラス東端にあると言うジスコーの町を目指す事になった。

 しかしここでナルが馬に乗れない事が判明し、そこからナルの身の上が明らかにされる。何とナルは大地と同じくプレアーガ人ではなかったのだ。

 地球よりも更に文明の進んだ他の惑星、若しくは次元から来たと言うナルの話にまったくついていけないココロ達はとにかくもそれぞれ馬に別れまずはクロウスを一人残して来たレメルグレッタへと向かうのだった。







「ようナル」

 後方から掛けられた声にナルが馬上で体をひねる。見ればすぐ後ろについていた馬が自分達の横に並ぶようにして歩いていた。

 馬の手綱たづなつかんでいるのは確かガイと言う名の男だ。見るからにたくましい体つきに大きな剣。シルバーから真っ先に最後尾を任される程だから相当の信頼を得ているのだろう。

「あ、えっと…ガイ、だよね?」

「ああ、雷の能力者だ。こっちは火の能力者、キイタ」

 言われて目を移すと、ガイの前に収まる小さな少女が自分を見て微笑んでいた。

「よろしくね」

「こちらこそ、よろしく」

 ナルもキイタに向かって微笑み掛けた。

「それでな、ナル。聞きたいんだけどよ」

「ん?」

「お前の生命の能力な、今日 随分’ずいぶん)手を焼いたけどよ」

「ごめんなさい」

「いや、そりゃいいんだ。そうじゃなくてよお前。ああ言う技、いつでも使える訳?」

 ガイは馬の速度をゆるめないままいてくる。

「ああ言うって言うのはどんな事だろう?巨木で戦うとか?」

「そうそう。あんなでっかい木を自由に生やしてよ、それで根っことか枝とかブンブン振り回したりとか、あれがお前の戦うスタイルな訳?」

 ガイの質問を受けたナルは苦笑いを浮かべながら首を横に振った。

「まさか。あれは僕の中の闇が暴走していたからできた事だよ。何もないところから自在に巨木を伸ばすなんてとても無理」

「何だ、そうなのか?」

 ガイは拍子抜ひょうしぬけしたような声を出した。

随分ずいぶんと強力だったからよ、こりゃあ仲間になったらさぞかし心強いと思ったんだが…」

「それは期待に沿えなくて申し訳ないけど。今の僕にあんな力はないよ」

「それじゃあ、生命の能力はどんな事ができるの?」

 キイタが屈託くったくのない声で聞いてくる。

「え?」

「だって、私の火とかガイの雷、アクーの水の能力とかはもう何のひねりもなくその性質のまま攻撃するじゃない?大地の土の能力やシルバーの鋼の能力もそう。でも、生命の能力って一体どんな戦いをするのかな?って思って」

「そうだね」

 そう言うとナルは心持ち顔を上げ、少し考える表情を見せた。

勿論もちろん、そこに木や草があればさっきみたいな事もできなくはないよ。不動の大木を生き物のように動かして見せたり」

「へえ」

「あとは、動物に助成を頼んだり」

やつれるって事?」

 黙って三人の会話を聞いていたアクーが口を挟む。

「まあ、ある程度は。でも、余り他の生き物を戦いに巻き込んだりはしたくないんだけど」

「じゃあそれってもしかして、人をあやつる事もできるの?」

「え?」

 キイタの質問にナルは戸惑とまどった。

「ど、どうだろう?そんなの、試した事もないけど」

「やってみろよ!もしも敵を意のままにあやつる事ができたら俺達の勝利は間違いねえ!」

 ガイが期待に満ちた声を出したが、そんな彼の考えにアクーが水を差す。

「そんなの、能力の有効範囲ゆうこうはんいだって限りがあるでしょう?」

 確かに。他の能力もそうであるように、発動されたANTIQUEの能力が影響を及ぼすのは限られた範囲の中だけだ。

 もしもナルの能力で敵の意識精神をあやつれたとして、それが数百、数千の敵を相手に同時に影響するならばまず負ける事はない。

 しかし、数人から十数人しかあやつれないのであれば目の前の危機を脱するには有効かもしれないが、戦争に勝利するまでは至らないであろう。

 ANTIQUEの能力の中で距離を選ばないのは、唯一ココロのテレパシストとしての力だけだ。

「そもそもあいつらはこの宇宙の生命体とは根本的に違うんだ。生命の能力で操れるとは思えないよ」

「そうかあ…」

 ガイがさも残念そうな声を出す。

「しかしそうなると益々わからねえなあ。生命の能力って、どう戦いに生かすんだ?」

「ANTIQUEの能力は成長する。それに、仲間と協力する事でより強い力を発動する事がある」

 アクーが今までの経験から言った。

「今はまだわからなくても、その内戦い方もわかってくるさ」

「大体、自然現象は元々戦闘をする為の力ではないものね?」

 キイタも笑顔で言った。

「あといて言えば毒、かな?」

「え?」

 ナルのつぶやきに三人は同時にナルの顔を見た。

「植物の毒、動物や昆虫の持っている毒を自分で精製する事はできる。その威力を自在に増減もできる」

「本当⁉」

 アクーが馬の上で無理やり振り向いた。

「先輩あぶ、危ない」

 ナルが言うと、アクーは慌てて前を向いて手綱たづなにぎり直した。

「どうしたのアクー?」

 突然の狼狽ろうばいぶりを見せたアクーに、キイタが声を掛けた。アクーは前を向いたまま早口に答える。

「今の話しが本当だとすれば、敵によっては強力な毒を浴びせかける事でその活動を停止させる事ができる」

「だけど、それだって有効範囲は有限だろ?」

「いや、濃度を上げて大量にけばかなりの範囲はんいを一度に攻撃できる」

 ガイの質問にアクーが答えた。

「そんな事したら周りのみんなまで巻き込んでしまいますよ」

 ナルがおびえた声で言った。

勿論もちろん、戦場で咄嗟とっさに出すような技じゃない。風向きや地形、相手の数なんかを十分に検討した上で計画的に行うべき攻撃だろうね」

 一瞬期待しかけたガイは、またしても白けた顔を見せた。

「あんまりそう言う戦いにはならねえような気もするがなあ」

「だけどそれだけじゃない」

 アクーはすぐに言葉を続けた。

「それだけじゃないって?」

「ナル、毒の濃度を自在に変えられるって言ってたよね?」

「はあ、まあ」

「それが本当なら、症状によっては薬と同じ効力を期待できるよ」

「え?」

「毒と薬なんて元々は同じものさ。使い方や量を変えるだけで植物の成分は毒にも薬にもなる。事によっては頑張って薬草を捜したり、高いお金を払って薬を買う必要がなくなるかもしれない」

「毒と薬は、同じ…」

 ナルはそっと自分の手を見つめた。

「つまりナル」

 キイタが明るい声で言った。

「あなたの能力は、人を傷つけるだけではなくて、人を救う力も持っていると言う事よね?」

 ナルは馬の背にられながらキイタの顔を見た。

「僕の能力が、人を救う?」

「なるほど、そりゃあ今までにはなかった力だな」

「そうだね」

 ガイの言葉にアクーが賛同する。

「ANTIQUEの能力は相手を攻撃するものだけではないのかもしれない。それぞれの能力の性質を組み合わせれば、この旅を無事に乗り切る全ての条件がそろうのかもしれないね」

「ココロがよく言う、十一人 そろえば必ず勝てると言う言葉の根拠こんきょはその辺にあるのかもしれないわね」

「先輩…」

 今までずっと自分の手を見つめていたナルが、不意ふいにアクーの耳元で呼んだ。

「あ?」

「先輩は薬草とかにくわしいですか?」

「まあ、ある程度は」

「僕は色々な毒の成分を理解しています。それが、どんな薬になるか調べるのを、手伝ってはもらえませんか?」

 アクーは答えず、しばらく真っ直ぐに馬を走らせていた。

「そうだね、やってみようか?」

 ようやく返事をしたアクーに、ナルはうれしそうな声を出した。

「ありがとうございます、先輩!」

 二人のやり取りを見ていたキイタとガイは、何となく気の合いそうな二人の様子ようすに笑い合った。

 先頭を走るシルバーが手綱たづなを引いた。すぐ後ろを走る大地が慌てて馬を止める。

「どうしたの?」

 大地はシルバーのすぐ横に馬をつけた。後ろからアクーとガイの馬も近づいて来る。

 シルバーが馬を止めたのは、岩でできた広大なジルタラスの荒野を見下ろすがけの上だった。シルバーとココロが無言で見つめる先に目を向けた大地だったが、二人が何をそんなに真剣な目で見つめているのか皆目かいもくわからなかった。

「何だどうした?」

 ガイががけの下を見渡しながら誰ともなくたずねた。大地もアクーもキイタも、シルバーとココロが一体何を見つめているのかわからなかった。眼下に広がる景色は、見渡す限り似たような岩石群ばかりだった。

「レメルグレッタだよ、ここ」

「え?」

「そんな!」

 ナルがポツリとつぶやくと、大地とキイタが驚きの声を上げた。

「私達がソローニーアまで行き戻って来るまでの間に…」

 シルバーが目の前の景色を睨むように見つめたまま独り言のようにつぶやいた。

「森が…、消えている…」

 大地が呆然ぼうぜんとした声で言う通り、今能力者達の見下ろすレメルグレッタの周りには森はおろか草の一本を見つける事さえできなかった。

「僕が、ここを離れたから…」

 ナルが言う。

「闇の力に支配され暴走した生命の能力が、あの森を作っていたのか」

 シルバーの言葉にナルが無言でうなずく。鮮やかに色づいた葉を雨のように降らせていたあの巨大な森はナルの旅立ちと共に全てなくった。見渡す限り岩だけの荒野。そこには生あるものの気配すら感じる事はできなかった。

 レメルグレッタが大きな口を開けている。あそこも、つい先程までは鬱蒼うっそうと茂る森におおかくされていたのだ。

 冷たく乾いた石の群れ。その中にはクロウスがただ一人、取り残されているはずだ。皆その事実に一様に口を閉ざしていた。

「元に戻っただけよ」

 不意に明るい声で言ったのはココロだった。全員が彼女を見る。ココロはうっすらと口元に笑みを浮かべ、遠くレメルグレッタを見つめながら続けた。

「元々ここはこんな景色だった。ナルの能力の影響で森に囲まれた姿しか見ていない私達には不自然に映るかもしれないけど、これがレメルグレッタの本来の姿」

 ナルの気持ちを思いやったのか、自分自身に言い聞かせるつもりだったのか、ココロは独り言のように言った。

「シルバー、行きましょう」

「は」

 ココロの声に短く答えたシルバーは馬の顔を右に転じると、やや早足で馬を進めた。腕の中にいるココロは無言のままれに体を任せている。

 シルバーの馬が行った後もしばらくレメルグレッタを見下ろしていた大地だったがやがて無言で顔をそむけると、前の馬を追ってけ出した。

「行くよ」

「…はい」

 アクーが背中のナルに小さく声を掛けると、ナルはそれよりももっと小さな声で答えた。

 最後尾についていたガイは、全員が立ち去った後もなお動かずにいた。

「ガイ?」

 動こうとしないガイをキイタが見上げる。ガイは考え込むような顔つきで相変わらずレメルグレッタを見下ろしている。やがて静かに口を開いた。

「奴は、自ら望んでここに残ったんだ。奴自身言っていたように、これに勝る喜びはないはずさ」

「うん…。でも、ココロやナルにそう言ったところで、すぐに受け入れる事は難しいと思うわ。私達がいくら言葉を尽くしても二人は自分を責める事をやめはしないでしょう。ナルは生み出してしまった事を、ココロはかえしてやれなかった事を…」

 無言で口を開けたレメルグレッタを見下ろすキイタの赤い髪を、吹き上げる風が巻き上げた。

「レヴレント…。悲しい存在だった」

「それもこれも、悲しい歴史があり過ぎたからだ。悲しい歴史の果てに、悲しいレヴレント達が生まれたんだ。戦いの歴史なんてのは、そんなものしか後に残しやしねえ」

「そうね。戦いが産み落とすものは悲しみばかり。だから私達は戦う。他の誰も悲しませないために…。この戦いが終わってココロとナルがもう一度ここへ来る事ができたら、その時こそ、二人の後悔は本当の意味で終わりを告げる事ができるのかもしれない」

 ガイは二、三歩馬を進めたところでもう一度レメルグレッタを振り返った。

「だったら…、一日も早くこのクソみてえな戦いを終わらせて、俺がもう一度ココロ様をここへ連れて来る!」

 決意を込めた声で言ったガイは前を向くと、仲間の後を追って勢いよく馬を走らせた。




 後に残されたのは、遠く足元に見えるレメルグレッタ。静かにたたずむその巨大な洞窟どうくつの中には、三百年前に倒れた兵士の霊が今なお浮かばれず彷徨さまよっている。


 不気味な色の光を発し、自らの行いにおののき、おびえ、震えている。


 しかしその霊は強く、優しく、勇敢ゆうかんだ。独りぼっちになりながら、それでもまだあるじを想い、友を想い、どこまでも気高けだか高潔こうけつだ。



 その洞窟どうくつには一人の幽霊が巣食っていた。、おびえ、なげき、それでも胸を張り、姫の行く先を想い、その帰りを待ちわびる一人の幽霊。


悲しく、むなしく、おろかしく。無残な血の匂いが染みついた洞窟どうくつで、敵味方双方の血が流された洞窟どうくつで、自らの手が流させた血が汚した洞窟どうくつで、自らの血が、流れ落ちた洞窟どうくつで。




ここはレメルグレッタ。なげきの洞窟どうくつ

















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