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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
153/440

埋葬

●登場人物

・ココロ…始まりの存在に選ばれた能力者達の指導者。仲間を集める旅に出ている。

・吉田大地…土の能力者。ココロの声を聞きプレアーガにやって来た地球人。

・シルバー…鋼の能力者。ココロの生まれたアスビティ公国の軍人。

・キイタ…火の能力者。ンダライ王国の第二王女。人見知りで恥ずかしがり屋の少女。

・ガイ…雷の能力者。元はシルバーの部下。怪力自慢の明るい軍人。

・アクー…水の能力者。記憶を持たないが冷静沈着なチームの知恵袋。

・ナル…生命の能力者。不幸な過去に闇に堕ちたがココロに救われ仲間になった。


・ミニート…エミカ王女に飼われていたヴィゼレット。アガスティアの不思議な力を身に着け能力者を守るガーディアンクロウジャルを発動する。

・エミカ…三百年前に滅んだアガスティア王国の第一王女。世界の平和を願い生涯を祈りに捧げた。



前回までのあらすじ

 クロウスとの辛い別れを乗り越えココロは漸くレメルグレッタを後にする。一人一人が名残惜しそうにクロウスに別れを告げる中、最後に洞窟を出たナルはクロウスに何事かを告げられる。

 全員が揃ったところでキイタ、ガイ、アクーの三人がミニートの力で瞬間移動してきた事でソローニーアに馬が取り残されてしまっている問題に気が付いた。

 もう一度ミニートの力でソローニーアに向かう事ができればと大地が提案するが、それができるならばいっそミニートの力で一気にクナスジアまで飛んでしまおうと仲間達が口々に提案する。

 しかしココロは頑としてそれを許さなかった。仲間は自分自身の足で探して歩く。ゲンムの能力を使いただ呼び掛けるだけでは仲間を集める事はできない、そう言うココロにキイタ、ガイ、アクー、ナルの四人は自分達が仲間になると決心したのはその時ココロが掛けてくれた言葉だった事を思い出すのだった。







「そっか、いつの間にかあと四人なんだね」

 ココロの言葉に改めて大地はそんな感想を覚えた。

「何だか先が見えてきた感じ?」

「七人 そろうまでの苦労を忘れたか?能天気のうてんきめ」

 シルバーがあきれた声を出す。

「ポジティブシンキングと言って欲しいね。さて、それじゃあ話しは決まった。問題はミニートが果たして俺達を運んでくれるのかどうかだけど?」

 大地がココロの肩から顔を出す愛くるしい仲間を見つめて言った。

「もし駄目だったら僕とシルバーがひとっ走り馬を取りに行くよ」

 アクーが頼もしい代替え案を提示した。

「そう言やシルバーはソローニーアからレメルグレッタまで走っているんだったな」

「うむ、道は大体わかる」

 ガイの言葉にシルバーがうなずく。

「あのね…」

 突然今まで黙っていたキイタが話し始めたのでみんなは彼女の顔を見た。

「もしミニートの力で移動できなかったら、その…。できれば大地にもソローニーアに行って欲しいの」

「え?俺?」

 大地がき返す。

「うん」

「僕は走ればいいけど、あの馬にシルバーと大地の二人を乗せるのはちょっと無理がない?」

 アクーがすぐに否定的な声を出す。シルバーが乗って来たのは、アスビティ公国第二小宮から連れて来た小柄な馬だった。

「ここまでの道は平坦でした。心配されなくとも私が二頭を引いて戻れますが」

 シルバーもアクーに続いた。ソローニーアに残された馬は三頭。キイタはそれを心配しているものとシルバーは考えたようだ。

「あの…、あのね。私、大地にお願いしたい事があって」

 消え入りそうな声でキイタが言う。

「何をお願いしたいの?キイタ」

 キイタが一生懸命に何かを伝えようとしている事を感じ取ったココロが先をうながした。

「その、私…。大地にエミカ王女を、とむらって欲しいの」

「え?」

 ここに来てキイタの口からエミカの名が出た事に皆驚いて次の言葉が出てこなかった。キイタは仲間達の顔を見ながら続けた。

「これからもソローニーアには伝説を証明しようとしてたくさんの人が入り込むと思うの。今までソローニーアには術が掛けられていて迷路のようになっていたけど、今は…」

「そうか、ゲドマンがいなくなった今は誰でも簡単に王女の元へと辿たどり着けてしまう」

 ゲドマンが開いた歩きやすい道を思い出しながらガイがつぶやいた。

「エミカ王女は肉体を捨てて霊体となって私達をレメルグレッタへと導いてくれた。王女の体はまだソローニーアに眠ったままなの」

 キイタは必死の表情で訴えた。

「三百年前、戦争終結を願いソローニーアに入ったエミカ王女。祈りの乙女伝説として伝えられるその伝承が証明されれば、それは世紀の大発見ではないですか?」

 その何が悪いのかわからないと言った様子ようすでシルバーがき返す。エミカ王女の行為を証明する歴史的資料はその内容に大きな疑問を有するオルテジア文書だけだ。

 もしも今エミカ王女の肉体がソローニーアで発見されれば、あの日何故エミカ王女が一人レメルグレッタを出たのかと言う疑問を紐解ひもとく大きなヒントとなるにちがいなかった。

 それは公国創建の歴史に残された空白を埋める重要な発見ではないだろうか。しかしキイタは大きく頭を振り、そんなシルバーの考えを否定した。

「私、エミカ王女の体を見世物のようにして欲しくはないのよ」

「それは僕も賛成だ」

 アクーがすぐに言った。

「僕達が会った時、王女はまだ生きていたんだ」

「はぁ?」

 アクーの言葉にシルバーが裏返った声を出す。

「大丈夫かアクー。エミカ王女と言えば三百年前の人物だぞ?」

「いや、シルバー。アクーの言っている事は本当だ」

 ガイが擁護ようごするように口をはさむ。何か言い返そうと口を開きかけたシルバーを見て、慌ててアクーが続けた。

「王女の体はソローニーアで発生する特殊な水晶のような鉱石こうせきに包まれていた。その石は三百年の時をかけて徐々に王女の体を包み込んでいたんだ」

「俺達が出会った時、エミカ王女の顔と右手だけがまだ石に飲み込まれずに残っていた」

「だから私達は直接エミカ王女と話しをする事ができたの」

「そ、それじゃあ王女は、キイタ達をここに連れてくるために命を捨てたと言う事?」

 アクー、ガイ、キイタが交互に語る説明に大地が驚いた声を出す。

「それは…」

「そうだよ」

 大地の質問に答えを逡巡しゅんじゅんしたキイタに代わり、アクーが答えた。

「とは言っても戦争を止める為に三百年、独りぼっちで死ぬ事も出来ずに祈り続けた王女にとってそれは決して不幸な事ではなかったと僕は思う。何よりも王女は、未だに救われないアガスティアの兵士と妹の血を引くココロを助けたいと強く願ったんだ。だからあの奇跡は起きた」

 アクーはエミカの行動が一人不幸になって自分達を助ける捨て身の行為だと思って欲しくはなかった。天上の階段を上り、両親や妹と手を取り合ったエミカが見せた笑顔は本心からのものであったと信じたかった。

「僕にはとても無理だよ、とても耐えられない。三百年、たった一人あの洞窟どうくつの中で祈り続けるなんて。僕なら一年ともたずに殺してくれと叫び、発狂しているはずだ」

 実際その場にはいなかった他の四人は何と言ってよいかわからず複雑な表情を見せ合った。

「王女は幸せだったはずです。最期の最期に、ココロ様の力となって天上へとかえれた事が」

 ガイが静かに言った。きっとそうだったに違いない。そう思わせてくれる深い言葉だった。

「私は、エミカ王女にゆっくりと眠ってほしいの」

「王女の体が発見されれば、その石の成分や、三百年を生きた肉体の秘密を探ろうとあらゆる分野で研究の対象になるだろう。それは人類の発展に大きく貢献こうけんする事だとは思うけど…。僕も心情的にはそれはちょっと、嫌かな」

 キイタの言葉をおぎなうようにアクーが言った。

「だから、大地の土の能力でソローニーアを埋めて欲しいの。エミカ王女が誰にも見つかる事がないように。静かに、眠れるように」

 美しく輝く水晶に取り込まれ三百年を生きた少女は、少女の姿のままそこにあり続ける事だろう。光の力を持って生まれた悲劇の王女。その壮絶そうぜつな生き様を、どのような理由があっても汚して欲しくはなかった。

「わかったよキイタ」

 やがて大地が静かに言った。

「大地」

 キイタが嬉しそうに顔を上げた。その顔を見た大地がにっこりと笑顔を作る。

「王女にはゆっくり休んでいただこう。誰にも見つからないように、俺がしっかりとその洞窟どうくつを閉じてやるさ」

 それが本当にいい事なのかどうかはわからなかった。現実主義の大地は、むしろその謎の石を専門家に調べて欲しいと思う位だ。

 だが、霊体とは言え大地自身も目の前でエミカを見ている。魂魄こんぱくとなってまでココロを助けようとした二人の王女。お陰で大地自身ガーディアンクロウジャルの恩恵を受けたのだ。その想像すらできない究極の愛に、自分なりにむくいたいと思う気持ちもあった。

 その時、ココロの肩に乗っていたミニートがちょろちょろと素早い動きで地面に降りた。

「あ、ミニート」

 人間達の輪の中心に座り込んだミニートが一声細い鳴き声を上げた。次の瞬間ミニートの体がゆっくりと宙に浮き始めた。

 見る見る間に大地達が見上げる高さまで浮遊ふゆうしていく。

「こ、こりゃあ…」

 驚いたガイが口を開けたまま思わずつぶやく。

「あれあれ?何だかできちゃいそうな雰囲気じゃない?」

 大地がワクワクしたような声で言うと、シルバーが慌てて輪から外れ、後ろで待機している馬の手綱たづなを持って仲間の方へいてきた。

 そうしている間にも、浮かんだミニートの体がまばゆい光を放ち始めた。

「移動する時ってどんな感じ?」

 大地がガイの方を向いてたずねる。

「どうと言う事もなかったぞ。一瞬だったし、ちゃんと先は見えた」

 そうか、雪崩なだれ込んできた近衛このえ兵士の亡霊達に襲われそうなシルバーを見つけたガイは移動しながら剣を抜き放ち、シルバーのピンチを救おうとその戦いに飛び込んできたのだ。

「シルバー、早く早く!」

 ココロが振り向いてシルバーを呼ぶ。

「ちょ、ちょっとお待ちを…」

 あせった声を出しながらシルバーが戻って来る。ミニートの発する輝きは増していき、巨大な光の玉となって能力者達の体を包み込む。

 寸でのところでシルバーが馬を連れてその光の中に飛び込んだ瞬間、彼らの体はその場から消え失せた。



 大地はそっと薄く目を開いた。光の洪水こうずいの中に自分の体が浮いているのを感じる。まばゆい光の渦が、ものすごい速さで後方へと飛び去って行く。光を透かして見つめる先に、緑色に光る小さな光点を見つけた。

「あれが…」

「そう、あれがエミカ王女」

 思わず大地が口にすると、すぐ近くでキイタの声が聞こえた。しかしその姿は見えない。

「エミカ王女…」

 次の瞬間、大地の体は暗い洞窟どうくつの中に放り出された。思いきり尻餅しりもちをつく形で着地する。

「あ痛っ!いってぇ~~~~」

 強かに打った尻をでながら大地が情けない声を出す。

「こ、これが…」

 大地の背後でナルが驚愕きょうがくの声を出すのが聞こえた。その声に大地も顔を上げる。目の前に、巨大な緑色の水晶のかたまりそびえていた。

 十m以上はあろうかと言う洞窟どうくつの天井いっぱいにまでその鉱石こうせきは伸び上がり、冷たく光り輝いていた。

 その中腹より上の辺り、一人の少女が眠るように浮かんでいた。まるで水中にいるように長い髪や美しい装束しょうぞくがたなびいている。

 両の細い指を組み、長い睫毛まつげの影を丸いほほに落とした少女は、何かを一心に祈るような姿で時を止めていた。その姿を見た大地はただ素直に美しい、とそう思った。

「エミカ様…。何とおいたわしい…」

 シルバーがひざをつき、深く頭を下げた。

 まだ地面に座ったままの大地のすぐ脇をトトト、と軽い足音を立ててミニートがけ抜け、その水晶へと近づいていく。

 ミニートは可愛らしい前足でカリカリと何度か水晶の壁をくと、エミカを見上げるように顔を上げ強く一つ鳴き声を上げた。

 高く、長く響くミニートの声は、三百年を共に過ごした主をいたむように洞窟どうくつ内にこだました。

 そんなミニートの体をそっとココロは抱き上げた。はるか頭上に浮かぶエミカの体を見上げたココロのほほに涙が流れていた。

「王女…」

 どれだけ声を掛けても、長い睫毛まつげおおわれたその瞳が開かれる事は二度となかった。それでも涙を流しながら微笑むココロは、魂の抜けがらとなったエミカを見上げ話し続けた。

「ありがとうございました。あなたがその生涯しょうがいの全てを賭けて守り抜いたこの世界を、これからは私達が守っていきます。どうか安らかに、お眠りください」

 緑に輝く美しい水晶の壁に向かい誓いの言葉を掛けるココロの背を見つめながら、六人の能力者達も同じ思いを胸に強くしていた。



 ガイの案内でソローニーアの外へと出た一行は、感慨深かんがいぶか面持おももちで巨大な岩を見上げた。土の能力でその入り口をふさがれたソローニーアは周囲の巨大な岩石群と同化し、一目で洞窟どうくつと知られる心配はなかった。

「よし」

 地面についていた両手を離し起き上がった大地は、自分の仕事の出来栄できばえを確かめるようにその巨岩を見上げた。

「うん」

 納得したらしく一つうなずいた大地は背後にたたずむ仲間達の中からキイタを見つけ、声を掛けた。

「これでいい?」

「ありがとう、大地」

 そう言うとキイタは静かに大地の隣に立った。ココロもミニートを両手で抱いたままその後に続く。

「本当にこれでよかったの?」

勿論もちろんよ」

 大地の質問に躊躇ためらいなく答えたキイタはその場にひざを折ると、エミカの眠る巨大な岩の一部にほほを当てた。その顔は心底安心した穏やかな笑顔を浮かべていた。

「キイタ汚れるよ」

「いいの」

 すると反対側でココロもしゃがみ込み、片手を岩に当てている。大地はそんな二人を見て肩をすくめると、後ろを振り返った。

 アクーとガイが静かに黙祷もくとうささげている。大地は岩を下り彼らの方へと歩み寄った。

「謎が全て解ければよいと言うものでも、ないのかもしれんな」

 大地がそばに来ると、シルバーがぼそりとつぶやいた。

「そうだよ」

 答えたのは顔を上げたアクーだ。

「人々に知られない歴史があってもいいはずだ。無理に全てを知る必要はないさ」

「馬の様子ようすを見てくるよ」

 大地はそんな仲間達に声を掛けると更に下に向かって歩き始めた。

「あ、じゃあ僕も」

 ナルが大地を追って動き出した。まだ離れがたいのか、ココロとキイタはなかなか動こうとしない。シルバー、ガイ、アクーも、そんな二人の少女の背中を見つめ、たたずんでいた。

「ねえナル」

「え?何?」

 意図いとせずナルと二人きりになった大地は今が聞き時と後ろのナルに声を掛けた。

「レメルグレッタを出る時、何て言われたの?クロウスさんに」

「あ…」

 大地に見られていたとは思いもしなかったナルは一瞬言葉を失った。

「いや、言いたくないんなら別にいいんだけど。その…、何か嫌な事を言われたのかな?って、思ったもんだからさ」

 大地は階段をけ上がっていくナルの目に光る涙を思い出しながら遠慮気味えんりょぎみに言った。

「そんな、ちがうよ。そうじゃないんだ…。クロウスさんは、クロウスさんはね。僕に、とても大切な事を教えてくれたんだ」

 独り言のようにつぶやくナルの脳裏に、クロウスの最後の言葉が蘇った。

「もう一つ、約束をしてくれないか?」

 その後に続いたクロウスの言葉…。ナルはこの旅が終わるまで、いや、恐らくその生涯しょうがいを閉じる日まで、あの時のクロウスの言葉を忘れないだろう。クロウスは言った。

「決してもう、不幸にはならないでくれ」

 戦いの旅を続ける先に辛い事はたくさんあるだろう、苦しい事もあるだろう。それでも、自分が不幸になるのはそんな様々な事象ではなく、不幸だと感じる自分自身の想いなのだ。

 もう二度と、自分で自分を不幸にするような生き方をしないと約束してくれと、クロウスはそう言いたかったに違いない。

 ナルは改めて胸に誓った。世界で一番幸福なさようならをするその日のために、自分は決して不幸になってはいけないのだと。

「そっか。それなら、まあいいんだ」

 なかなか答えないナルに、大地は笑顔を見せるとまた岩を下って行った。








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