新たなる旅立ち
●登場人物
・ココロ…始まりの存在に選ばれた公国公女。姫らしく頑固で我儘なところもあるが仲間想いの性格。
・吉田大地…土の能力者。クールを装いながら実は熱血漢。実力もないのに無茶しがち。
・シルバー…鋼の能力者。最年長にして戦闘力は一番。常に先頭に立つ実質的リーダー。
・キイタ…火の能力者。大国の王女で最も強力な火の能力を操るが控えめな性格が災いし戦闘は不得手。
・ガイ…雷の能力者。戦闘力、ANTIQUEの能力共常にナンバーツーではあるが気の優しい力持ち。
・アクー…水の能力者。身体能力が高く弓の名手。その上知恵が回り賢い。性格はやや捻くれて者。
・ナル…生命の能力者。元々剣術を極めてはいたが戦闘は素人。タテガミと言う伝説の剣を初期装備した。
・クロウス…三百年前に滅んだアガスティア王国近衛隊の隊長。現在は幽霊となりレメルグレッタと言う洞窟に囚われている地縛霊。
前回までのあらすじ
幽霊となった自分に代わり且つての王、カンサルクが愛用した剣を供に連れて行って欲しい、そんなクロウスの願いを聞きココロは三百年間誰にも抜く事のできなかった伝説の剣、「タテガミ」を引き抜こうとする。しかし自ら持ち主を選ぶと言う精霊の宿った伝説の剣はココロに引き抜く事はできなかった。
大地、アクー、シルバー、ガイ、キイタと次々とタテガミに挑むも敢え無く挫折。タテガミ奪取の望みは仲間になったばかりのナルに託された。
ナルを応援するココロやキイタ、ガイ。大地とアクーがその行動に力を貸す。長い時間を孤独に過ごして来たナルに新たな仲間達が笑顔で接してくれる、剣が抜けようが抜けまいが、その事に幸せを感じたナルは、一緒になって笑いながらタテガミを手に持ち、引いてみた。
「ぬ、抜けたあぁぁぁぁぁっ!?」
ガイが大声を上げて立ち上がる。どうやら全身に残る痛みも忘れる程 驚愕したらしい。
「なんと!」
クロウスも目を剥き、思わず声を上げる。
「うそ…」
過去に誰一人引き抜く事のできなかったアガスティア王、カンサルクの愛刀タテガミを手にしたナルは、自分のした事が信じられないと言った顔で呟いた。
「凄いナル!一体どうやったの!?」
いち早くナルの元に駆けつけたココロはその腕に掴まるようにしてタテガミを覗き込んだ。
「どうって、僕は別に何も…」
「選ばれたのだ」
戸惑い、言葉に詰まるナルにクロウスが静かな声で語り掛けてきた。
「ナルよ、あなたは選ばれた。王に次いでこのタテガミの持ち主として。姫をお守りする剣士として」
「僕が…」
そう言われてもナルはまだ何が何だかわからないと言った様子でいた。
「すげぇ!」
突然大地が叫んだ。新たな仲間があれ程までに頑なだった剣をいとも簡単に引き抜いた事に呆然としていた仲間達はその声にビクッと肩を震わせた。
「すげぇ!すげぇよナル‼」
大地は興奮して叫んだ。
「剣の覚えはあるか?」
転がっていた鞘を拾ったシルバーがそれをナルに差し出しながら訊ねた。
「覚えと言う程は…。ただ、僕の国ではスポーツとしての剣技が盛んで、僕もやってはいたけど」
「ああ、優秀な運動選手だったってガイアが言っていたのは、それの事?」
大地が思い出したように訊いてきた。
「うん。優秀って言うか、まあ。それなりには…」
「なるほど、その腕を見込まれてタテガミに選ばれたって訳か」
ようやく驚きから立ち直ったガイが頭を掻きながら言うと、ナルは慌てて否定した。
「そんな!確かに剣は扱えるけど、僕がやっていたのはあくまでもルールのあるスポーツで、戦争や殺し合いで剣を振るった事なんかないよ!」
「それでも、あなたは選ばれたのだ」
クロウスが冷静な声で言う。
「さあ」
シルバーが笑顔で尚も鞘を突き出してくる。ナルは戸惑った顔でココロを見た。ココロは満面の笑みで答える。
もう一度シルバーに目を向けると彼も、その横に立つ大地やアクーも笑っていた。ナルはシルバーの手から静かに鞘を受け取った。
「忠告しておく」
クロウスが重々しい声でナルに言った。
「これは生前王が申されていた事だ。そのタテガミ、刀身は重く、硬い。一振りで敵三人を屠る威力を持つとか。その分扱いは難しく、すぐに刃滑りを起こすらしい。下手に振るえば敵のみならず仲間、或いは自分自身をも傷つける恐れのあるじゃじゃ馬との事。扱いには細心の注意を払う事だ」
「じゃじゃ馬…」
ナルは緊張の面持ちで怪しく光る片刃の剣を見つめた。
「安心した」
再びクロウスが言葉を漏らした。
「王の形見を新たな持ち主に引き渡す事ができた。その上、王を未来の姫にお連れいただけるとあれば、これ以上の喜びはない。これで何一つ、思い残す事はない」
「ナルの他にもう一人仲間ができたね」
明るいな声で言ったココロの肩に、ミニートが駆け上がり一声鳴いた。
「そうだ、お前もいたよね」
みんなが声を上げて笑った。ナルはそっとタテガミを鞘に納める。まるで新品と見紛うように音もなく滑り、最後にキンっと高い音を立ててタテガミは鞘に収まった。
ナルの胸から迷いは消えていた。精霊の宿る王の剣。これを振るい魔族と戦う。ココロを守る為、未来を守る為に。ナルはそんな決心を胸にタテガミを腰のベルトに挟んだ。
「ナルにタテガミにミニート。何だか一気に頼もしいチームになった感じ」
キイタが晴れ晴れしい声で言った。
「伝説の騎士、ゲドマンの剣も手に入れたしな」
ガイが腰につけた細身のアガスティアの物とは正反対に大振りな剣を叩いて言った。
「羨ましい限りです」
そう言ったクロウスの口元には静かな笑みが浮かんでいたが、その声はどこか寂しそうに聞こえた。
クロウスは顔を上げると、自分を見つめる七人の能力者一人一人を見つめた。
「ココロ姫、ナル殿、大地殿、シルバー殿。そして姫をお守りする約束の戦士達…。私は皆さんの事を決して忘れはしないでしょう」
「クロウスさん…」
ココロがクロウスに近づく。手を伸ばしても、その光る体に触れる事はもうできない。クロウスは微笑みを絶やさぬまま、ココロの肩に止まるミニートを見た。
「姫を頼んだぞ」
言われたミニートが高い声を上げた。
「何とお礼を言ったらいいか」
クロウスはココロに目を戻すと静かに首を振った。
「旅の安全をお祈り申します。お困りの時はクロウスをお呼びください。このような姿で、このレメルグレッタに囚われたまま、それでも、そんな私でも何かのお役に立てる筈。いや、必ずやお役に立って見せます。お傍にはおられませんがこのクロウス、想いは常に姫と共にある事をお忘れなきよう」
「こんなにも心強い事はありません。クロウスさん」
「はい」
「私は必ずまたあなたに会いに来ます。その時はどうか、どうか私の話しを聞いてください」
クロウスはこの上ない優しい笑顔を向けた。
「その日を楽しみにお待ちしております」
ココロはクロウスの目を見上げたまま動けなかった。いつまでも、いつまでも名残は尽きなかった。
「さあ姫、旅立ちの時間ですぞ」
そう言って背中を押したのはクロウスだった。たった一人、暗い洞窟に取り残されるクロウスであった。それでも彼は笑顔を絶やさなかった。
「ありがとう、クロウスさん」
ココロはもう一度言うと、未練を断ち切るように彼に背を向け地上へ向かう階段へと歩き始めた。
すぐに後を追い歩き出したシルバーがクロウスを振り向く。二人の戦士はほんの一瞬見つめあうと互いに小さく頷きあった。
ココロを追ったシルバーに続いてガイ、アクーも歩き始める。キイタが泣きそうな顔でクロウスを見つめる。クロウスは心配無用、とでも言いたげに笑顔で頷いた。キイタは軽く頭を下げ、クロウスに背を向けた。
「じゃあクロウスさん、また」
大地が明るい声で別れの挨拶を送る。これにも無言でクロウスは頷き返した。それを見た大地は小走りにみんなを追って階段を上った。
「クロウスさん…」
最後に残ったナルがクロウスに声を掛ける。
「必ずもう一度ココロをここへ連れて来ると約束します。だから、少し休んでいてください」
言われたクロウスはやはり笑顔で頷いた。そして、静かに口を開いた。
「もう一つ、約束をしてくれないか」
「え?」
大地は階段の途中で振り返った。クロウスに別れの挨拶をしているらしいナルの背中が見える。その時、誰に対しても無言で見送っていたクロウスが口を開くのがわかった。
大地のいる場所からはクロウスがナルに何を言ったかまでは聞き取れなかったが、クロウスの言葉を聞いた途端ナルが俯き、続いて腰を折って深く頭を下げた。ナルは暫くの間その体制のまま動かなかった。
「ナル!」
痺れを切らした大地がその背中に大声で呼ぶと、顔を上げたナルはクロウスに背を向け大地の方へ駆けてきた。
ナルは長い脚で階段を二段ずつ飛ばしながら上がってくる。凄い速さで大地に追いつくと、そのまま彼の横をすり抜けて追い越して行った。
「え?」
すれ違い様ナルの顔を見た大地は驚いて声を出した。ナルの目に新しい涙が光っていたのだ。
何があったのかとクロウスを振り向く。彼は相変わらず佇んだまま大地を見上げていた。
束の間大地と見つめあったクロウスは、突然右の拳を突き上げた。旅立っていく自分達を励ますように力強く腕を天に向けて真っ直ぐに伸ばしている。
困惑気味にそれでも大地はクロウスに手を振ると、駆け上がっていったナルを追って階段を上り始めた。
地上に出た大地は久しぶりの太陽に目を細めた。昼夜が逆転していたラディレンドルブルットにいた大地は、実際現実世界の今が夜なのか昼なのかもわからずにいた。
どうやら現在は夕刻前のようであった。秋の日差しが西に傾き始めているのが見えた。
大地はそっと後ろを振り返ってみる。あの日、豪華な馬車に揺られて辿り着いたラディレンドルブルットは跡形もなく消え去り、巨大で武骨な洞窟が大きく口を開けていた。
「遅ぇぞ大地!」
ガイと思しきそんな声に大地が顔を向けると、枯れ葉を散らす不可思議な森の中で仲間達が円陣を組むようにして集まっていた。大地は慌てて仲間達の元へと走った。
円陣に加わった大地はすぐにナルの顔を見た。彼の顔にもう涙はなかった。別れ際にクロウスに何を言われたのか、気にはなったがここで訊ねるのも憚れた。
「あれ?シルバーは?」
仲間を見渡した大地は、その中にシルバーの顔が見当たらない事に気が付いた。
「馬を取りに行ってるよ」
大地の質問にアクーが答えてくれた。
「それでね、少し困ってるの」
キイタが言う。
「困ってるって?」
「俺達はエミカ王女の元からこのミニートの不思議な力で一気にレメルグレッタまで瞬間移動をしたんだ」
ガイが言うと、大地は驚いたようにココロの肩に乗っかったミニートを見た。
「へー、お前 凄いんだねぇ?」
「結局僕達の乗っていた馬はソローニーアに置きっぱなしなんだよ」
「あ、そうか」
アクーの言葉に大地ははたと気が付いた。
「でもさ、ミニートの力でみんながここまで来たんなら、もう一回同じ事をしてもらえばいいんじゃないの?」
「できる?ミニート」
ココロが自分の肩に止まるミニートに声を掛けると、ミニートは高く一つ鳴き声をあげた。
「何だって?」
「そ、そんなのわかんないわよ!」
大地がココロに訊くと、ココロは慌てた声で言った。そんな彼らの耳に早足の蹄の音が近づいて来るのが聞こえた。振り向くと森の奥からシルバーがやってくるのが見えた。
「申し訳ございません、お待たせしました。すっかり城の外観が変わってしまい少々迷いました」
シルバーが馬から降りながら言い訳めいた声を出す。しかし、仲間達の戸惑った顔を見るとシルバーはココロに訊ねた。
「何か、問題でも?」
「あのね…」
ガイ達がミニートの能力で一瞬にしてレメルグレッタまで移動した為に馬がソローニーアに残ったままである事をココロが説明した。
「だからさ、その時みたいにまたミニートが俺達を一瞬でその、ソローニーアとか言う場所まで運んでくんないかな?って話し合っていたんだ」
「なるほど。もしそうできるのならこれは大変な事だ」
みんなの輪の中に入りながらシルバーが言った。
「あのダキルダの能力と拮抗する力を手にする事になるのだからな」
「あ!」
「そうか」
シルバーの言葉に、そんな事を考えてもみなかった能力者達が声を上げる。
「ちょっと待って」
突然アクーが言い出した。全員が彼の顔を見る。
「と言う事はさ、何もソローニーアなんかに向かわなくてもいいんじゃない?」
「何で?」
ガイが怪訝な顔をする。
「だってもしミニートに瞬間移動の能力があるなら、わざわざ馬を取りにソローニーアなんか行かなくても一気にクナスジアまで飛ばしてもらえばいいんじゃないの?」
「それはダメよ」
すぐにココロが否定した。
「どうして?」
「だって、クナスジアは取り敢えずの目的地なだけで、私達の本当の目的は旅をする事で他の仲間を見つけやすくする事だもの」
「ああ、そうだったね」
言われたアクーもすぐそこに思い当たり素直に自分の思い付きを引っ込めた。
「いやでもどうだろう?アクーの言う事も一理あると思うけど?」
大地がアクーの案を捨てきれずに食い下がる。
「人の多いクナスジアで拠点を定めてそこからメッセージを送れば?」
「確かに。安全な場所で能力者がココロ様の元へ集うのを待つ方が無暗に動くよりも危険は少ない。いかがでしょう?」
シルバーが大地の意見に賛同しココロに提案したが、ココロは迷いなく首を横に振った。
「駄目よ、駄目駄目。あのね考えてもみてよ大地。今私の前に六人の能力者がいるわ」
「うん」
「でもその中で私の声を聞いてまともに集まってくれた能力者が何人いると思う?」
「えと…」
大地が輪を作る仲間達の顔を見回す。確かシルバーは境界警備第二小宮で…。
「大地だけよ!」
大地が一人一人との出会いを思い出す前にココロが言った。
「あら?」
「シルバーは第二小宮から動けずにいた。キイタはそもそも私の声が何なのかもわからなかった、ガイなんか私達を襲おうとしてたのよ?」
「い、いや、俺が狙ってたのはシルバーだけで…」
ガイがしどろもどろに言い訳をし始めたが、ココロはそれを無視して進めた。
「アクーとナルに至っては無視よ?無視!」
「無視って」
「いや、ココロ…」
アクーとナルも慌てたように口を開いた。しかし言い方はともかくココロの言い分は正しい。ゲンムの能力により放たれたココロのテレパシーに答えその声を目指して自らココロの前に現れた能力者はこの中では大地だけだ。
「まあ俺はそもそも呼ばれるのを待ってた身だし…」
「だから」
ココロがこれで結論、と言いたげに強い声を出す。
「あと四人の仲間も歩いて探さなきゃ駄目。敵に襲われるとか、魔族の動きが活発になるとか…、とにかくアクーや大地が言うような作戦は最後の手段よ。それまでは仲間は私が探す。私の目で見て、耳で聞いて、この足で歩いて私から彼らを迎えに行く」
「ココロ…」
頑なに態度を崩さないココロの顔を見て大地が呟いた。
「そうだね、僕はココロの意見に賛成だ」
そう言ったのはナルだった。
「ココロが迎えに来てくれれば、能力者は必ず仲間になる」
「ナル」
ココロが隣に立つナルの顔を見上げる。ナルはにっこりと微笑んで続けた。
「だって僕は嬉しかったもの。ココロが僕を迎えに来てくれて」
ナルの言葉に他の仲間達は何となく決まり悪そうにお互いの顔を見合った。
(これからは一人じゃないよ。私達があなたに来て欲しいの)
キイタの中にいつかのココロの声が蘇った。
(約束しよう、部下達の未来はアスビティが守る。だからついて来て欲しい)
同じようにガイの脳裏にココロの声と泣き崩れるアリオス達の顔が浮かんだ。
(戦いが終わっても私達は仲間よ!)
自分自身が何者であるかもわからないアクーは、ココロのその言葉にどれだけ救われた事か。
そんな自分達と同じくまた一人、ココロの言葉に動かされ新たな仲間が加わった。決して合理的ではないかもしれないが、ANTIQUEの能力者はただ出会えれば済むと言うものではない。仲間となり、命を賭けて敵と戦う為の決意と強固な結束が必要だ。
最早ココロに反対する者は一人もいなかった。




