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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
150/440

地獄からの帰還

●登場人物

能力者

・ココロ…始まりの存在のバディに選ばれ仲間を捜す旅に出る事となった公国の公女。

・吉田大地…土の能力者。闇のANTIQUEに攫われた幼馴染を救い出す為地球から来た少年。

・シルバー…鋼の能力者。馬術と剣術に秀でた優秀な軍人。ココロに絶対の忠誠を誓う。

・キイタ…火の能力者。大国の第二王女。魔族の手に落ちた姉を助け出す為仲間になった。

・ガイ…雷の能力者。元はシルバーの部下。怪力無双の大男でチームのムードメーカー。

・アクー…水の能力者。記憶の殆どを失っている謎の少年。しかし知恵に長け弓矢の名手でもある。

・ナル…生命の能力者。過去に起きた悲惨な事故の為心を閉ざしていた青年。七人目の仲間となった。


ANTIQUE

・ゲンム…時を司る始原の者。魔族の来襲を予測し、バディを連れたANTIQUE達を呼び寄せる。

・ガイア…生命のANTIQUE。巨大な体をしているが新参者のANTIQUE。


レヴレント

・クロウス…三百年前に滅んだアガスティア王国の近衛隊々長。現在は幽霊となってレメルグレッタを彷徨う。

・ミニート…百年前に絶滅したと言われるヴィゼレットと言う動物。飼い主であるエミカ王女に寄り添い命を失ったと思われる。



前回までのあらすじ

 クロウスを天上に還す事のできなかったココロは、せめて彼の行動に報いる為にと木の中に隠れる生命の能力者を自分の手で救い出そうと考える。

 ココロの想いを知った仲間達が黙って見守る中、両手を血に染めながらも能力者を包み込む木を取り除いたココロは、それでもまだ自分を閉ざし続ける能力者に必死に話掛けた。

 彼の正体は不幸な事故で両親と自らの両足を失った青年であるとガイアから聞かされたココロは母親のような慈愛に満ちた言葉で凍りつき、闇に堕ちた彼を救い出す。

 ココロの想いが届いた時、能力者は顔を上げ、ココロに問われるまま自分の名前を口にしたのだった。新たなる仲間、生命の能力者。彼の名は、「ナル」







 止めどなく流れ続ける涙をぬぐいもせず、それでも満面の笑顔を向けるココロを見つめながらナルも同じようにほほを涙でらしていた。

「ココロ…」

 ナルがささやくような声でその名を呼んだ。

「ずっと僕に、呼び掛けてくれていたね?」

「そうよ」

 笑顔のままココロが大きくうなずく。

「なのに僕は怖くて…何も応えなかった…」

「そうよ。あなたが答えてくれないから、みんなで迎えにきたわ」

 ナルはココロの顔から、その後ろにたたずむ能力者達に目を移した。何も言わずに山の上にいる自分達を見つめる彼らは、みな一様に傷つき、服は破れ泥とほこりまみれていた。

「…な、さい…。ごめんなさい…」

 涙にれたナルのほほに、新たな涙が流れ落ちる。

「あなたが謝る事なんて、何もないの」

 ココロが言うと、ナルは何度も頭を横に振った。

「でも、僕のせいでみんなは傷ついた。僕の力は、みんなを傷つけてしまう…」

 ナルは自分の手を見つめて言った。ココロがナルの手を自分の両手で優しく包み込む。

「体の傷は時と共にえるわ。私達はみんな、怪我けがの痛み以上に今日あなたと出会えた事に喜んでいるのよ?」

「でも…」

「あなたは悪くない。私だってあなたと同じ立場だったらきっと闇に落ちていたはず。魔族の復活から今日まで、私は辛い事ばかりを経験した…。ゲンムと出会ったばかりの頃は、何度自分の使命を投げ出してしまおうと考えたか…」

 ココロは自分の顔をおおうとするナルの手を強く引き寄せて続けた。

「それでも私はあきらめなかった。なぜそうできたと思う?それはね、仲間がいたからよ」

 ナルが驚いたような顔を上げた。

「仲間…」

 ココロが静かにうなずく。

「そう、仲間。みんながいてくれたから、私は今日まで頑張ってこられた。あなたのように独りぼっちでいたら、一日だってもちはしなかったわ。それでも、それでもね?そんな仲間達ともいつかは別れなくてはならない日が来るの」

 緊張したナルの手に力が入る。

「そう、いつか別れは来る…。でもね、一緒にいる今が未来に意味を持たせるのだとしたら…。出会いを喜び、共に命を燃やす一時ひとときを過ごせるのだとしたら…。私達の別れは、決して悲劇にはならない」

 ナルと目線を合わせるためひざをついていたココロが静かに立ち上がる。

「あなたのご両親がそれを証明してくれたじゃない。出会い、同じ時を過ごした二人は、あなたと言う掛け替えのない命を生み出し、その果てに今私達はここでこうした出会ったの。今生きている私達は、一緒にいられなかった時を悔やむより、一緒にいる事のできた時間を感謝しましょう。そうして未来永劫みらいえいごう、命をつなげていくのが私達生命に課せられた使命なのだから」

 ナルが顔を伏せた。ポロポロと光る涙が落ち、乾いた地に吸い込まれていく。

「別れを恐れないでナル。その時、今日以上の笑顔と幸福に満ちたさようならができるように、今私と共にいて。今日あなたが見せたあなたの力を、今度は私達仲間と、この世界を守るために使って。あなたが私達と心を合わせて守り抜いた輝かしい未来の中で、私はあなたに世界で一番幸せなさようならを送ると、約束するから」

「僕が…、ついていってもいいの?」

「ついてきてほしいの。ナル、私達はみんな、あなたと一緒にいたいのよ」

 次に顔を上げたナルの泣き顔は、晴れやかな笑顔に包まれていた。

「あなたは、僕を助けてくれた。自分でもどうにもできない闇の深淵しんえんから、手を伸ばして僕を連れ出してくれた…。あなたに、ついていきます」

「はあ」

 大地がいやにはっきりとしたため息をつき、その場にどっかりと座り込んだ。

「七人目、だろ?」

 大地の横に立ったシルバーが笑いながら言った。

「まったく、今までで一番苦労したんじゃないか?」

「酒に酔ったココロ様と同じ位にはな」

「言う~」

 大地が笑いながら答えた。本来の目的である七人目の仲間を得る事はできた。大きな安堵感あんどかんに包まれ、全身の緊張が一気に溶けていくようであった。

 ダキルダは逃してしまったが、今はこれでよしとしなくてはならないだろう。大地は素直な笑顔のままココロとナルを遠巻きに見つめていた。

「よいしょ」

 そう言って山を登り、ココロとナルに近づいたのはアクーだった。二人はそろって彼の方に顔を向けた。

「僕はアクー。水の能力者だ」

 自分を見上げるナルの顔を見下ろしながらアクーが言った。大樹が飛ばした石片を喰らった額がざっくりと切れ、固まった血が顔の左側をおおっているのが目に入った。

「あ、あの…」

「ごめんなさいはもういいよ。僕達は始まりの存在に従う。ココロが君を仲間にしたんだから、それ以上の事はもう何もいらない」

 アクーは特に感情も込めず本音を言った。

「それより君、足は動くの?」

 そうだ、生命のANTIQUEであるガイアが言っていた。ナルは両親と一緒に事故に巻き込まれた際、両足の機能を失ったのだと。ココロがすっかり聞き流していたその言葉を、アクーはしっかりと覚えていたらしい。

「私が付いている限り、問題はない」

 ナルの後ろに控えていたガイアが低い声で答えた。

「俺の左腕も、ウナジュウと出会ってから自在に動くようになったからな」

 鋼鉄でできた左腕をグルグル回しながら、ガイが大きな声で割り込んできた。どうやらANTIQUEが憑依ひょういしている間、能力者の身体は戦闘のさまたげとなる不具合ふぐあいを一時的に解消するらしい。

 しかし、ココロはすぐに別の事に気づき、顔色を失った。

「じゃあ、ガイアがいなくなったら…」

 そんなココロの言葉に、ナルは小さく微笑んだ。

「多分、僕の体は元に戻ってしまう」

「そんな…」

 ココロが悲痛な表情でつぶやく。キイタも呆然ぼうぜんとした顔で隣のガイを見上げる。それでも、ガイもナルも微笑んだままだった。

「ガイアが僕の体を離れる時、それは全ての戦いが終わった時だ。魔族を倒し、この世界が平和になった後なら、僕の足なんか動かなくなったってかまわない」

「まあ、そう言う事だ」

 ガイが自分の左手を見下ろしながらつぶやいた。ナルはもう一度ココロの顔を見上げた。

「例えそうなったとしても、それでも今日より幸せなさようならを、僕にくれるんでしょう?」

 答えを逡巡しゅんじゅんしたココロにナルはうなずいて見せた。

「大丈夫。僕はもうそれをなげいたりはしない。いつか来る別れの日に、今日よりももっと笑えるように僕は、みんなと一緒に今を全力で生きるよ」

「ナル…」

 ココロは言うと、急に表情を引きめた。

「約束は、絶対に守るわ」

「うん。約束通り、ココロは僕を助けてくれたものね?僕も約束する。この戦いが終わるまで、能力者として僕は君に従う。どこまでも、連れて行って」

 もう泣いてはいなかった。初めて見せる力強い表情でナルは言った。

「とは言え、プレアーガ(ここ)に来てからずっとうずくまっていたんだろう?すぐに立ち上がる事はできる?」

 アクーが疑わしそうな声で聞いてくる。ナルはチラリと後方のガイアに目を向けた。

「大丈夫だナル、私を信じろ。お前は自分の足で立ち上がる事ができる」

 ナルは緊張した表情で地に手を置いた。両足に力を込める。その時差し出されたアクーの手にナルは戸惑とまどった表情を見せたが、反対側からすぐにココロが手を差し伸べると明るい笑顔を作った。

 ココロだけではない、掛け替えのない仲間を得たのはナルも同じだった。心底嬉しそうな笑顔でナルは遠慮なく二人の手につかまった。

 両手に力を込めたナルは、歯を食いしばって立ち上がった。美しい緑色の髪が流れる。長い事伸ばしていなかったひざきしんだ音を立ているようだった。

 山の下から見ていた大地達も、我知らず手に力を込めていた。実際に手を貸しているココロとアクー以外の仲間達も、全員が同じ気持ちで立ち上がろうとするナルの姿に無言のエールを送っていた。

 しばらくの間、ひざの震えが止まらなかった。それでもナルはあきらめず、遂には自分の足で地を踏みしめ、自力で立ち上がった。

「立てた…。立てたよ!」

 子供のように無邪気むじゃきな声で言ったナルは、驚いたような顔で自分を見つめるココロとアクーに気が付いた。

「何?」

 一緒に喜んでくれる事を期待していたナルは、そんな二人の反応に怪訝けげんな声を出した。

「でか…」

 山の下から見上げていた大地がポツリとこぼした。うずくまっている時はわからなかったが、ナルは長身だった。仲間内では最も背の高いガイよりも更に大きい。その身長は優に二m以上はあった。

 鋼のANTIQUEデュールと並んで見劣みおとりがしない。いや、いつも軽く背を丸めたような体形のデュールよりも大きく見える程だった。

「ココロ、アクー、どうしたの?」

 未だに口を開けたまま自分を見上げる二人にナルがたずねた。ココロがまばたきもせずナルを見つめたまま言った。

「ナルは、その…、背が高いのね?」

「え?そ、そうかな?僕の国では標準体型だけど…」

 ナルは二人の反応に戸惑とまどいを覚えた。ナルの生きていた世界では特段珍しい程の身長ではない。機能を失った両足で立ち上がった事より、まさか身長の方に食いつかれるとは思いもしなかったのだ。

「な、何だよ!」

 突然アクーが叫んだ。

「せ、背が高くたってえらい訳じゃないんだからな!」

「わ、わかってるよ」

「だったらえらそうに僕を見下すな!」

「見下すなんて、そんなつもりは…」

「能力者としては僕の方が先輩なんだぞ!敬意を払え!」

「う、うん…勿論もちろん。これから色々教えてください、アクー先輩」

「…アクー先ぱ…。わ、わかればいいよ!」

 その呼び名に一瞬照れたような顔をしてみせたアクーは、必要以上に胸を張ると言った。その様子ようすを見ていたキイタが大きく吹き出した。

「何がおかしいのさキイタ!?」

「だって、アクー、必死なんだもん」

「そ、そんな事はない‼」

 自分を指さして笑い転げるキイタに、顔を真っ赤にさせたアクーが怒鳴どなる。それでもキイタの笑いは止まらなかった。それどころかつられてガイや大地、果てはシルバーまでが笑い出した。

「な、何だよみんな!わ、笑うなよ!笑うなってば‼」

 アクーは木片の山をけ下りると、元凶であるキイタに飛びついて行った。

「おおっと、乱暴はやめてくれアクー先輩」

 ガイが笑いをふくんだ声でキイタをかばう。それを見た大地が更に大きな笑い声をたてる。

 にぎやかにじゃれ合う仲間達をココロは笑顔で見つめていた。ようやく終わったと言う実感がいてきた。ふと足元を見ると、ヴィゼレットの姿に戻ったミニートがちょこんと座り、首をかしげるようにしてココロを見上げていた。

 ココロがしゃがみ込み手を伸ばすと、ミニートはその腕をけのぼりココロの肩に止まった。

 立ち上がったココロがもう一度仲間の方に目を向けると、ハルの姿が消え始めていた。その横にうずくまっていたウナジュウも霧散むさんするように消え、ガイの右手に吸い込まれていく。

 ハッとして振り向いた先にガイアの巨体は既になかった。頭上を振りあおぐと、上空にとどまっていたデュールとフェルディもやはり静かにその姿を消すところだった。

 見上げるココロの前にゲンムが静かに降りてくる。

「よもや人の念がこのような力をさずけるとはな」

 ゲンムはミニートを見ながらつぶやいた。ミニートがゲンムを見て首をかしげる。

「これでみんなを守ってあげる事ができる」

「確かにANTIQUEにはない力だ。しかしココロ、あなたの使命は戦闘ではない。その事だけは忘れないで」

「ココロは僕が守る」

 ココロの後ろに立つナルが力強くゲンムに言った。

「当たり前だ」

 冷たくも聞こえる声で言った後、ゲンムは小さく微笑んだ。

「頼りにしているぞ、生命の能力者」

 その一言を残し、薄桃色の光に包まれたゲンムはココロの胸に下がる石の中へと消えていった。

「歩ける?」

 しばらくゲンムが消えた辺りを見つめていたココロは、ひときわ元気な声でナルを振り返った。

「うん、多分大丈夫」

「じゃあゆっくり、みんなのところへ行こう」

「ちょっと待って」

 そう言うとナルは服のポケットから木でできた髪留めを取り出した。

「それは?」

 ココロの問いにナルはその髪留めを差し出した。

「うん。今、ガイアはこの中にいる」

「ガイアが?」

 ココロは自分の胸に下がる宝石とナルの掌に乗った木製の髪留めとを見比べた。深い茶色をした髪留めだった。ナルの手に少し余る程度の大きさで楕円形だえんけいをしている。見事なアーチを描いて艶やかに光る表面には美しい彫刻がほどこされていた。

「母の、形見なんだ」

「そうなんだ」

 ナルはうなずくと、器用に自分の長い髪を頭の上でまとめ、髪留めで止めた。相当の量をアップにしたが、それでも髪の先は背の高いナルの足首辺りまであった。

「お待たせ」

 ナルが微笑む。

「うん、じゃあ行こっか」

 そう言って仲間の方を振り返ったココロは、その目線の先に以外な人物の姿を見つけ声を失った。

「あ…」

 ナルもその人物に気が付いたらしい。急に顔色を失くすと震え始めた。

「クロウスさん‼」

 ココロの叫びに、ふざけ合っていた五人の能力者が顔を上げる。ココロはナルの側を離れるとつまづきながら山を下り、クロウスの元へとけつけた。

「クロウスさん…」

 クロウスの大きな体に抱きつくかと言う勢いで走り出したココロであったが、実際はその数歩手前で足を止めた。

 息を切らせたココロが見つめる先にたたずむクロウスは、薄い緑色の光に包まれた完全な霊体であった。例えココロが抱きつこうとしても、その体はすり抜けてしまうだろう。

 クロウスはうつむけていた顔を上げ、ココロを見つめた。

「奈落には、ちずに済みました…」

 クロウスは聞き取れない程の小さな声でつぶやいた。その顔には少しさみしそうな微笑みが浮かんでいる。

 恐らく、一度奈落へとちたガイアを引き上げる際共に地上へと導きあげられたのだろう。

「でも…、天上の門は閉じてしまった…」

 ココロの今にも泣きそうな顔を見たクロウスは、大した事でもないと言った風に更に笑顔で続けた。

「何、今までと変わらぬと言うだけの事でございます」

「でも今まではみんながいた。マヌバラさんや、ジーンさんが…。これからは、あなた一人で…」

 如何いかいつわりであったとは言え、この三百年クロウスはエルフィン王妃を囲み、百名近い仲間達と共に時を過ごしてきたのだ。

 それが今日からは一人。このレメルグレッタにとらわれたまま、たった一人で終わりのない悠久ゆうきゅうの時を過ごしていかなくてはならないのだ。それを思うと、はしゃいでいた仲間達もみなしゅんとした様子ようすで口をつぐんだ。

 クロウスが静かに山の上にたたずむナルを見上げる。その視線に気が付いた大地がハッとしてナルを振り向く。

 ようやく再会できた主君の元へも行けず、再びこの生と死の狭間はざまに、今度はたった一人で取り残されたクロウス。彼をそんなめに合わせたのは他でもないナル自身なのだ。

 見ればナルは自分の犯した罪を悔い、その罪を恐れて立ったまま動けず蒼白そうはくな顔で震えている。

 しばらくそんなナルを見つめていたクロウスは、フッと息を吐くように笑うと、再びココロへと目を落とした。

「仲間がいたとは言え、果てのないいつわりの時を過ごす事に比べれば、すべきをした後に与えられた孤独などむしろ望むところ。今私は、途方もない充実感で満ち溢れております」

「でも…」

「一つ、お教えください。このクロウス、姫とそのお仲間達がこれから進んで行く未来に、わずかにでもお役にたてたのでしょうか?」

 一度顔を伏せたココロはすぐに顔を上げると言った。

「あなたがいなければ、私達の未来は失われていた事でしょう」

 その言葉を聞くとクロウスはまるで少年のような笑顔を見せた。

ようやく、誓いを果たせました。これ以上に望む事など何一つとしてありはいたしません」

「でも、私達はあなたに何もできない…」

「何をしていただく必要もございません。信ずる者の為、何かをさせていただく事こそ、我等の本懐ほんかい

「いいえ、限りない未来が、この広大な宇宙が滅ぼされようと言うこの時に、小さな国の主従しゅじゅう関係など何の意味も持たない。クロウスさん、あなたは私の部下ではありません。あなたは…、あなたは私の仲間です!」

 ココロの言葉に、クロウスは驚きの表情を見せた。

勿体もったいない…。勿体もったいなくも…、光栄であります…」

「クロウスさん…!」

 そう叫んだのはナルだった。ナルはクロウスの名を呼ぶと、慌てた足取りで山をけ下り、ココロの隣に立った。クロウスが静かに見上げるナルの顔もまた、今にも泣きくずれそうにゆがんでいた。

「ナル殿、我等が求めたのです。強き生命の力に我等が頼ったのです。今一度肉体を得、お妃と共に日々を送りたいと…。ナル殿はそんな我等の願いを聞き届けてくれた…。礼を申す」

 ナルは激しく頭を振った。

「違う…!僕があなた達の眠りをさまたげたのです。あなた達を、呼び覚ましてしまったのです。そのせいであなたは…」

「大半の者が王の元へとかえる事ができました。長くこの地にとらわれ続けてきた近衛このえ兵士達が。全ては、ナル殿のおかげ

 いたたまれない思いでナルは顔を伏せた。クロウスは優しい笑顔でナルを見つめていたが、ふと何かを思い出したように顔を上げると、ココロに目を戻して言った。

「では、あつかましくも姫のお言葉にすがり、一つこの化け物の願いを聞いてはいただけませぬか?」







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