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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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闇に蠢く者達

●登場人物

ブルー…アスビティ公国警備隊々士。鋼の能力者であるシルバーからは絶大な信頼を得ている。ココロ直筆の密書を胸に、故国中央を目指し彼女と別れたが…。

アローガ…同じく。シルバーの直近である第三警備隊副隊長を務める隊士。ブルーと行動を共にしている。


クロノワール…復活した三種の魔族の一つ、アテイル一族の首領格。大変美しい姿をしているが、”剣の竜”の異名をとる冷徹な男。

マニチュラー…三種の魔族がいた世界”空虚”から今いる現実世界え続く扉の鍵を握っている男。銅色に光る不気味な仮面をかぶっている。



●前回までのあらすじ

 あらぬ誤解を受け、友であるロズベルからも追われる身となったシルバー。しかし大地の機転と古い部下であるブルーの協力を得、何とかココロを連れ無事にダルティスの宿屋から脱出をする事に成功した。

 この脱出のため、遂に大地とシルバーの二人はその身に宿ったANTIQUEの能力を発動。これを見事に使いこなして見せた。

 更に逃げ延びたた先ではシルバーのもう一人の部下であるアローガが現れ、心強い協力を申し出る。ココロは自分の父親である現アスビティ公国公爵、ドナル三世へ向け現状を書きつづり、これをブルーにたくす。この任を受け去って行くブルーとアローガを心細い思いで見送るココロ、大地、シルバーの三人は、気持ちも新たにンダライ王国首都を目指し馬を進め始めるのだった。







 ココロ達と別れたブルーとアローガは無事にダルティスの町へ戻ると二頭の馬にわかれ、一路アスビティ公国首都を目指していた。

 途上で手に入れたマントについたフードをすっぽりとかぶり、顔も、軍服に記された国章も隠していたので一見して誰と知られる心配はなかった。

 ンダライとの国境を成す山道を行く最中、日はとっぷりと暮れ、既に暗夜行あんやこうとなっていた。

 並走のできない細い山道、闇の中に見る事はできないが左側は深い崖となっている事を二人は知っていた。速度を上げる事もできず、ブルーを先頭に一列になって進む二人の間に言葉はなかった。

 馬のひづめが一歩一歩、土や小枝を踏む音を聞きながら、どれ程進んだ時だろうか?ふいにアローガが言った。

「ブルー、すまん。小便だ」

 アローガの言葉にブルーは馬を止めた。振り向けばアローガが馬を降りて暗い林の中へ消えていくのが見えた。

「副隊長殿、気を付けてくださいよ」

 闇に向かって声を掛ける。

「大丈夫だ!どうだ?お前も」

 そんなアローガの声だけが返ってきた。

「いえ、私は平気です」

 (しばら)く何の音もしなかった。ブルーはもう一度、そっと胸元に手を当ててみる。その服の下には、ココロから預かった命よりも大切な書状が入っていた。

(何としてもこれを公爵様に届けなくては…。しかし隊長は一体どうなってしまったのだろうか?それにあの少年…。能力ちから、と呼んでいたようだが…)

 ブルーは自分の中にある疑問へと思考を向けた。勿論(もちろん)、考えたところで答えは出ない。

(仲間だったはずの隊士が突然 襲い掛かってきた。やつらは人間とは思えなかった。そう言えば、姫がアテイルと言ってはいなかったか?何だろう、アテイルとは…)

 思考にふけっていたブルーであったが、突然強く頭を振ると次々に湧き出す疑問を振り払った。

 考えたところで自分に何がわかる訳でもない。自分の使命はとにかくこの手紙を公爵様へお届けする事。それ以外、今の自分にできる事などないのだ。

 そう思い直し、馬上のまま空を見上げた。黒々とした木々の間にわずかに覗く天空には、秋の星空が広がっていた。

 しばらくの間、そうしたまま虫達の声を聞いていたブルーは、ふと思い当たった。

(副隊長殿…いやに遅いな…)

「副隊長?アローガ副隊長!」

 急に不安に襲われたブルーが背後の闇へ顔を向け大きな声を出した時、突然前方からアローガの声がした。

「いや~、すっきりした…あれ?」

 その声にブルーは全身が怖気立おぞけたつような驚きを感じた。目の前のアローガはそんなブルーにはお構いなしにキョロキョロと周囲を見回している。

「あっれ~?何でこっちに出て来たんだ?」

 ブルーは自分が必要以上に取り乱した事を恥じ、急いでアローガに声を掛けた。

「副隊長、馬へ。急いでここを離れましょう」

「まぁまぁ、そう慌てるな。時にな、ブルー」

「はい?」

 アローガはニヤニヤ笑いを浮かべながら、のんびりした足取りでブルーに近づいた。

「さっきも言ったが、その手紙、あたしが預かっていた方が安全だとは思わんか?お前は今のところ重要参考人として指名手配されている身だ。この先狙われる事もあるだろう。引き換えあたしはそんな事もない。公爵様にはあたしが届けた方が確実だと思うが?」

 ブルーはじっとアローガの目を見下ろしながら(しばら)く考え込むように黙っていた。

「副隊長の考えは、もっともだと思います」

「だろぉ?じゃあよお」

 そう言いながらアローガは手紙を受け取ろうと手を伸ばし、もう一歩ブルーに近づいた。

「いえ」

「あ?」

 近づくアローガからわずかに身を退く仕草しぐさを見せながら、ブルーが拒否の声を出した。

「もっともだとは思いますが、姫様から直々に私の手で直接公爵様へ手渡すよう言われました。その命令にそむく訳には参りません」

「無事に届けば同じ事だ。それに姫は行っちまった。わかりゃあしねぇさ」

 アローガがさらに一歩近づくと、ブルーもまた馬と共に身を退いた。

「副隊長、どうかこればかりは…」

 アローガは無言のまま、じっとブルーの目を見つめた。ブルーもアローガを見つめ返す。

「ま、そう言うなら…」

 アローガは伸ばした手をそのまま頭に持っていくと、バリバリと音を立てて髪の毛をむしった。そうしながらブルーの脇のわずかな隙間すきまを通り後で待つ自分の馬へと歩き出した。

「気遣いをいただき、ありがとうございます」

 ブルーは心持ち顔を後方に向けながら、自分の横を通り過ぎていくアローガに礼を言った。

「な~に、気にするな。そう言う事なら仕方がないな!っと」

 アローガがそう言った途端とたん、突然ブルーの乗っていた馬が甲高かんだかいななきと共に崩れるように倒れた。それと同時に馬にまたがっていたブルーも地面へと叩きつけられた。

「な…!」

 突然の事に何が起きたかわからないブルーは、それでも咄嗟とっさに地面の上で体を反転させ、即座に片膝をついた状態で身を起こした。

 暗がりを透かして見るまでもなく、倒れた馬の向こうに立つアローガの右手にはにぶく光る剣が握られているのがわかった。

「副隊長、一体!?」

 混乱したブルーが問いかけるが、アローガはニヤニヤ笑ったまま剣を振りかざすと、大股でブルーに向かってきた。

 頭上に振り下ろされるアローガの剣を寸でのところで地を転がりかわしたブルーだったが、すぐに第二、第三の攻撃が襲い掛かり、なかなか立ち上がる事ができない。

 地面を転がり続けながら何とか剣を抜こうとするが、その暇すらも与えないアローガの連続攻撃であった。

「やめてください副隊長!気を確かに!」

 剣をかわしながら叫んだがアローガの攻撃は止まなかった。

「素直に手紙を渡しておけばよかったものを…」

「どういう事ですか?副隊長!」

「その手紙を公爵の元へなど届けさせはせんぞ!」

 さけぶアローガの目が、闇の中で赤く燃えるように光っていた。体をぶつけるように迫るアローガをかわしたブルーは、その勢いを利用して遂に立ち上がった。

 しかしブルーが剣を抜いた瞬間、一刀をかわされたアローガは振り向き様にブルーを下から切り上げた。闇夜の森にブルーの血飛沫ちしぶきが散る。

「ぐあ!!」

 苦悶くもんの声を上げたブルーは、そのまま漆黒しっこくの谷へと背中から落ちていった。

「しまった!」

 慌てて崖の下をのぞき込んだアローガであったが、闇の中、深い崖下に落ちたブルーの姿を見つける事はできなかった。

 その時だった。舌打ちをして悔しがるアローガの背後から突然気味の悪い、押し殺したような笑い声が聞こえてきた。

 怪しい笑い声を耳に捕らえたアローガの動きが止まる。声の主は一人ではない。連鎖するようにその笑い声は森のあちこちかられ聞こえてきた。

 笑い声が増えるに従い、二頭の馬が異常な程 おびえ始めた。特にアローガに後足をられた馬は、起き上がろうと必死にもがき、転げまわっている。

 アローガの乗ってきた無傷の馬は耳を倒し、歯をき出して、逃げる事もできずに立ったままただ震えていた。余程恐ろしい身の危険を感じ取っているらしい。

「しくじったなぁ」

 やがて暗い森の中から、笑い声の主と思われる一人が話し掛けてきた。

「…フェズヴェティノスか…」

 アローガがゆっくりと振り返りながら問いかけるが、振り返った先の闇の中にその相手の姿はなかった。アローガは相手の居る場所を特定できなまま、闇に向かって強がった声を張り上げた。

手応てごたえはあった!手紙は奪えなかったが、あの傷でこの崖から落ちたのだ、生きている事はあるまい。それより貴様ら、こんな所で何をしている?」

 すると、アローガがフェズヴェティノスと呼んだその一団の中から一つの声が答えた。

「なに、我らの受け持ちの場所へ向かう途中であっただけさ」

 その言葉が終わらぬ内に、突然闇の中で茂みが音をたててれた。地に倒れた馬が大きく一ついななくと、茂みの中からその闇よりもなお黒いかたまりが複数、目にも止まらぬ速さで飛び出してきた。

 あっという間に倒れた馬に飛び掛かったかと思うと、次の瞬間にはもうそこから離れ、姿を消していた。その動きはこの世の生き物とはとても思えなかった。

 倒れた馬は既にうめき声すら上げず体をバタつかせている。アローガはゆっくりと地を転げまわる馬に近づこうとした。

 その時、アローガの背後で鋭い馬の声が上がると同時に、脱兎だっと(ごと)く逃げ出すひづめの音が聞こえた。

「あ、こら!待て!」

 振り向いたアローガが必死に闇へ手を伸ばすが、空しく馬の足音は来た方角へ向けて遠ざかって行ってしまった。

 ため息をついたアローガは自分の足元を見下ろす。倒れた馬はまだ体を微かに震わせてはいたが、その首から上はすっかり無くなっていた。

 一瞬で首をき切られ、激しく痙攣けいれんを起こしていたものらしい。

「やれやれ、参った、馬がいなくなっちまったよ。まったく行儀の悪い奴らだぜ」

 すると闇の中からフェズヴェティノスが答えた。

「そうでもないさ。ここであの若造を殺す事くらい簡単だったが、この辺りはあんた達の縄張りだと思って、手は出さなかった」

「そりゃぁありがたいね、感謝するよ」

 ふてくされた声でアローガがつぶやく。その途端、再びあちこちから忍び笑いがれ始めた。

「せいぜい頑張るんだな。何せあんたらが今、一番ANTIQUEに近い場所にいる。まあ、その内にまた会おう」

 その言葉を最後に、フェズヴェティノスと呼ばれた者達の気配は闇に溶けるように森の中から消えていった。









 プレアーガ未開の地、ハドリア国。そこにあるプレアーガ最大と言われるライドマリネ渓谷けいこくは今、満天の星の下、静寂の夜に沈んでいた。

 アテイル一族のおさ、クロノワールが住む漆黒しっこくに塗られた死者の城も、その渓谷けいこくの中で同じように闇と同化し、音一つなくたたずんでいた。

 数日前、アテイル一族の同胞であるメロ、ズワルド、ゴムンガ等と会った謁見えっけんの間に鎮座ちんざする玉座に、クロノワールは一人座っていた。

 メロとズワルドが作戦実行のためにこの地を去り、その補佐をする事を目的として復活からほぼ間をおかず共に暮らしてきたダキルダも旅立っていった。

 ダキルダの力を利用してANTIQUEを先回りし、打ち倒そうと狙うゴムンガもまた城を去り、今この城の中に居るのはクロノワールただ一人であった。

「マニチュラー」

 椅子のひじあてにかけた手の上にあごを乗せたままの姿勢で、突然クロノワールがつぶやいた。

 火の光が届かない謁見えっけんの間の隅で、何かの影がごそごそと動きはじめる。その影はやがて、音もなくクロノワールの座る玉座を見上げる階段の下まで進んできた。

 長いマントを身に着けたその者の顔は、フードで隠され見る事はできない。しかしクロノワールにはその正体がわかっていたようだ。

「相変わらず鋭い事だな、クロノワール」

 笑いを含んだ声をらしながらマントの男が言った。

「いつこちらへ着いた?マニチュラー」

 姿勢を変えぬまま気怠けだる様子ようすでクロノワールがたずねる。どうやらこの男の名はマニチュラーと言うらしい。

「つい先程だ。何とか間に合ったようだな?」

「そうだな、お前の力が必要だ」

「任せておけ。今いる程度の数ではこれからの戦いはすぐに苦しくなる。私が来たからには安心したまえ。すぐに数多の兵士を呼び醒まし、最強の軍団をそろえてやろう、”生産者”の異名に賭けてな」

 そう言う彼の頭上で鈍く光るものがある。マニチュラーの手に握られた長いの先についた巨大な鎌の刃が蝋燭ろうそくの明かりを反射したようであった。

 柄の先端には一際大きく美しい光を放つ鉱石こうせきが取り付けられていた。それらの光にぼんやりと照らし出され、マニチュラーの顔が闇に浮かび上がる。

 フードの中に見える顔は異様であった。楕円形だえんけいの仮面を被っている。仮面の中央を縦に対称線として、右の顔は泣き、左の顔は笑っていた。

 銅色に鈍く光る仮面のデザインは単純であったが、それがなおさらに不気味な雰囲気をかもし出していた。

「楽しみな事だな、マニチュラー。だが、まだ早い。まだ軍隊を出す時ではないのだ」

「そうか、それは残念だな。ではしばらくは戦況を見物させていただこう。いつでも呼んでくれ。私のこの鎌の一振りで、あのうつろの中からいくらでも兵士を生み出してご覧にいれよう。肉体を持ち、血塗ちぬられた剣を振るう事のできる、恐れを知らぬ兵士達をな」

「そう願いたいものだな。ところで、中にはかなりできの悪い者もいると聞くが?」

表情も変えず言うクロノワールの言葉に、マニチュラーは耳障りな笑い声を上げた。その笑い声が唐突に止む。

「千もの命を生み出せば、時に不良品が混じる事もあるさ。誰に聞いたか知らんが気にする程の事ではない」

 自信家であるらしいマニチュラーは、クロノワールの指摘にあからさまに不機嫌な声を出した。

「まぁ見ているがいい。お前が必要とする最高、最強の一団を用意してやるさ」

 そう言うとマニチュラーはクロノワールに背を向け、気味の悪い笑い声をらしながら謁見えっけんの間を出て行った。

 マニチュラーの出て行った扉を見ながら、クロノワールは鼻を鳴らした。常に自信に満ちた話し方をするマニュチラーをクロノワールは好きではなかった。しかし、好き嫌いにかかわらず、いずれは彼の力が必要になる事もまた理解していた。

 再び深い闇の中に一人となったクロノワールは、マニュチラーの助けを受けなくてはならぬ日の事を思い小さくため息をついた。



















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