生命の能力者 ~ガイア~
●登場人物
能力者
・ココロ…アスビティ公国の公女。お転婆で負けず嫌いのお姫様だが始まりの存在と出会いANTIQUEの能力者を捜す旅に出る事になった。
・吉田大地…土の能力者。六年前目の前で闇のANTIQUEに攫われた幼馴染を助け出す為単身地球からやって来た少年。
・シルバー…鋼の能力者。アスビティ公国の公軍大隊長を務めた人物。自国の姫であるココロには絶対服従の剣士。
・ガイ…元はシルバーの部下だった男で分隊長まで務めた。馬術と剣術に長け、チーム一の怪力を誇る。
ANTIQUE
・ゲンム…ココロをバディに選んだANTIQUEのリーダー。万物の始祖であり始まりの存在と呼ばれる時を司るANTIQUE。
・テテメコ…大地をバディに選んだ土のANTIQUE。元気な少年の姿で現れる。
・ハル…水のANTIQUE。ゲンムに知恵の者と呼ばれる理論的なANTIQUE。
・ガイア…生命のANTIQUE。十二のANTIQUEの中では最も若く未熟な存在。
前回までのあらすじ
生命のANTIQUEをもう一度地中へと押し戻そうとする三体のANTIQUEに天上へ還る事を諦めたクロウスが加勢する。一方、大地とアクーの地道な攻撃に生命の大樹も漸く崩壊を始めた。
しかし生命のANTIQUE、生命の大樹共に最後の抵抗を見せてる。長い枝に絡めとられ宙吊りにされたアクーは、遂に生命の能力者が身を潜めているであろう場所を見つけ出す。
大地の攻撃に怯んだ大樹の戒めから脱出したアクーは身の危険も顧みず七人目の能力者の元へと急ぐ。アクーからの通信で能力者の存在を確信したココロはゲンムと想いをリンクさせ、生命の能力者へ最後のアプローチを試みた。
クロウスの加勢により遂に生命のANTIQUEは地中へと没する。そして時同じくして大地とアクーの攻撃に大樹も真っ二つに折れ地へと倒れるのだった。
しかし生命のANTIQUEと共にクロウスもまた奈落へと落ちる。折れた大樹はアクーを宙へと放り投げ、崩れ落ちる大量の破片は傷ついた大地の頭上に降り注いだ。
多くの犠牲を払い暴走する生命の能力者を食い止めたココロの前に地中に没した筈の生命のANTIQUEが姿を現す。生命のANTIQUEは静かな声でココロに言った。
「我が名はガイア…」と。
「あ…」
驚きの声をあげたココロが慄き数歩身を退く。木屑の山から大地を引きずり出した他の仲間達も慌ててココロの元に駆け寄る。
六人の見つめる正面には、元の姿から比べれば数十分の一にまで小さく折れてしまった光る幹が立っている。それでもその大きさは優に三mを超えていた。
その光る樹の後ろに巨大な影が現れた。生命のANTIQUEだ。ガイアと名乗ったANTIQUEは今、眠る猫のように体を丸めていた。
まるで光る大樹の一部を守るように蹲り、目を瞑るガイアの様子はその恐ろしい見た目とは裏腹に少し可愛らしくすら見えた。
「とんだ騒動を起こしてくれたものだな、生命よ」
ココロの上を飛んでいたゲンムが可愛い風貌に似合わぬ厳しい声を出した。
「済まない。闇に囚われた我がバディと共に、私の意識も闇に落ちた。私の力では抗う事ができなかった…」
「ふん。新参者のお前が私に次ぐ古参である闇の力にかなう筈がなかろう。何という体たらくだ、恥を知れ」
「ちょっとゲンム言い過ぎ。かわいそうだよ」
ポンポンと言いたい放題のゲンムにココロが口を挟む。しかしゲンムは反省の色も見せずに続けた。
「かわいそう?何がかわいそうだ、これだけの大惨事を引き起こしておいて。だからお前達生命は目が離せないのだ。無知無謀、凡そ見当のつかぬ愚かしい事ばかりをする。そのくせ無駄に強い力を持っているだけに始末が悪い」
「何だか私が怒られているみたい」
「あながち間違いでもないよココロ」
「はいはい」
苦笑いを浮かべながらココロは大量の枝の山を踏んで再び折れた幹へと近づいて行った。ガイアのすぐ傍までやってくる。
ガイアは静かに大きな目を開いた。飛び出した片方の眼球が動き、ココロの姿を捉える。巨大だ、改めてそう感じる。頭の高さだけでココロの身長でも足らない。ココロはそっとガイアの鼻の頭を撫でた。ガイアが静かに目を細める。
黄土色の鋼鉄のような皮膚。体中のあちこちから飛び出した鋭い角。噛み合わせの悪そうな下顎の突き出た口からは互い違いに不格好な歯が覗いている。一体、どのような心理状態であればこのような怪物の姿を思い浮かべる事ができるのだろう?
巨大、重厚、頑健、怪力…。それはどれも強さの象徴だ。未だ樹の中に眠るこの能力者は、生命のANTIQUEに何を見、何を求めたのだろうか?
「辛かったでしょう」
ココロはガイアの鼻を撫でながら優しく呟いた。ガイアは大きく鼻息を吐くと、低い声を出した。
「辛かったのは我がバディ…。闇に囚われ、闇に魅入られてしまった。自分の中の闇が無限に増幅し自分を飲み込んでいく様は、自分が自分でなくなっていくの感じ続ける事は、どれ程に恐ろしかった事か…」
ココロはガイアから離れると、能力者を取り込んでいる筈の樹の幹へと歩み寄った。絡み合う枝の一本を掴むと、片足を幹に掛けて力いっぱいに引く。
ギシギシと鳴りながら枝がしなる。やがて乾いた音をたてて枝は見事に折れた。
「きゃあ!」
勢い余ったココロはそのまま後ろ向きに山の下まで転げ落ちた。
「ココロ!」
それまで黙ってココロの行動を見守っていた仲間達の中から一番に大地が駆け寄ろうと動き出した。
「来ないで!」
助けに来ようとした大地に向かい、ココロは背中のまま叫んだ。大地の足が止まる。追って動き出そうとした他の仲間達もたたらを踏んで立ち止まった。
決意を秘めた目を上げココロは立ち上がると再び枝の山に足を掛けた。
「私が助けると言ったの、私が彼を助けると言ったのよ!」
「ココロ様…」
シルバーが呟く。大地、キイタ、ガイ、アクー。仲間達が見守る中、ココロはその細い腕で能力者を包み込む枝を一本一本折り取ってい行った。
枝が高い音を立てて折れる度にココロの体は山の下に転げ落ちた。何度転げ落ちてもその度にココロは立ち上がると山を登り、新たな枝に手を掛けた。
「ココロ様…!」
汗だくになって幹に挑むココロの姿を見かねて駆け寄ろうとするガイの肩をシルバーが強く掴んだ。驚いて振り向くガイに、シルバーは小さく首を振った。
これはココロの禊なのだ。クロウスを本当の意味で救う事のできなかった自分への、ココロが自身に課した禊なのだ。
自分自身の手で生命の能力者を助け出す。せめて、クロウスはその為に奈落に落ちたのだと言う事実を残してやりたかった。
クロウスの死に本当の意味を与えられるのは自分しかいない、そう考えたココロなりのけじめなのだ。合理的ではない、スマートでもない。本当は、そんな事には意味などないのかもしれない。それでもやらなくてはならなかった。
何本目の枝を折った時だっただろうか?幹の中が覗けて見えた。そこには人の髪らしきものがあった。
いた、彼は本当にここにいた。ココロは溢れそうになる涙を堪え、更に枝に手を添えた。
泣くのはまだ早い。大いなる威厳と、母のような慈愛を持って彼を迎えるのだ。新しい仲間を私が導くのだ。決して涙で出迎えるような真似をしてはならない。ココロはそう何度も自分に言い聞かせた。
「私が、助けるの…。そう約束、したもの…ね?」
ココロは枝を折り続けた。両手は擦りむけ、手折った枝は彼女の血で汚れた。胸を大きく波打たせ、まるで男のように荒い息を吐きながら、それでもココロは挑み続けた。ココロがやる、そうしなければそれこそ全てが無意味になってしまう。
「う~~~~~~~~~~ん」
すでに体力は尽き、握力も失われていた。ココロは自分自身の手に爪をたて、全身の体重を掛けて枝を引いた。
「いい加減に、出てきなさい!」
再び高い音と共に太い枝が一本折れて飛んだ。その瞬間、まだ数本残っていた枝がまるで花が開くように一気に倒れた。
「あ!」
「ああっ‼」
枝を折った勢いで山の下まで滑り落ちていたココロは仲間達の声に顔を上げた。何層にも積み上げられた枝の山の頂上で、ガイアの前に一人の人物が膝を抱えていた。
顔は自分の膝に埋めたままだ。その頭から真っ直ぐに流れ落ちる髪は艶やかに黒く、そして常識外れに長かった。
肩を通り背を抜けて落ちる髪はそのまま地面へと広がり能力者の足元で渦を巻いていた。大地はここまで長い髪は漫画かアニメでした見た事がない。
「じ…女性…?」
その余りにも美しい黒髪に思わず大地が呟く。輝く幹が割れ現れたるは漆黒の髪の美しいかぐや姫…。大地の頭の中に思わずそんなイメージが湧いた。
能力者の体は緑の光を纏っていた。今もって心を閉ざし、ガイアの能力を発動し続けているのだ。光の奥にある体にはボロボロの布が巻き付いているだけであった。
「はじめ…まして。私はココロ、始まりの存在の、能力者です…」
息が上がり切れ切れではあったが、ココロは這うようにして山を登りながらそれでも笑顔で声を掛けた。
(ナンデキタノ…?)
ココロの頭に能力者の声が響く。ココロは相手と一定の距離を置いて止まると、テレパシーで問われた言葉に肉声で答えた。
「あなたが、呼んでくれたからよ」
(ヨンデナイ…、ヨンデナンカイナイ…。ボクハダレニモアイタクナイ。ホウッテオイテ、ボクヲサガサナイデ)
「でも、あなたが呼んでくれたから私達は今こうしてあなたの前にいるのよ?」
(イヤダ、イヤダ、ダレニモアイタクナイ)
「あなたが、助けてって言ってくれたの。私に助けてって求めてくれたの。だから私は来た」
(チガウ…チガウ…ボクハヨンデイナイ…)
「どうして誰にも会いたくないの?」
大地達能力者は固唾を飲んでこの様子を見ている。彼等には生命の能力者の声は聞こえない。ただ、迷子をあやすようなココロの優しい声が聞こえているだけだ。
(ダッテ…ミンナボクヲオイテイク…ボクヲオイテイッテシマウ…。イヤダ、モウヒトリニナルノハイヤダ…)
「そうね、一人になるのは嫌ね。一人になるのが嫌だから、誰にも会わず一人でいるのね?」
「何だそりゃ?」
ココロの言葉にガイが小さく呟く。何だか随分と矛盾しているような事を言っている。
「一人が嫌だから、一人でいる…。私にはわかるわ、その気持ち」
ココロは少しだけ相手との間合いを詰めた。
「でもね、あなたはもう決して一人になんかならないの」
(ウソダ、ドウセミンナイナクナル)
「そんな事ないわよ。信じて。どうしてまだそんなところにいるの?みんながあなたを待っているわ。さあ、そこから出てこちらへ来て」
それでも能力者は動かなかった。声を出す事もなかった。
「怖がらないで、あなたとお話しがしたいのよ?言葉を紡いで話しがしたいの。顔を上げるのは嫌?そこから出るのも嫌?ならいいわ、そうね、せめてあなたの名前を教えてくれないかしら?」
ココロの声が高くなってきた。少なからず興奮しているのか、楽し気にすら聞こえる声だった。それでも能力者の沈黙は長かった。
「名前を忘れてしまった?あなたのお父さんとお母さんからの、最初の贈り物でしょう?ねえ聞いて、名前はね、単なる記号なんかじゃないのよ?名前を呼び合えば、分かり合える事はたくさんあるの。同じ話しをしても、相手の名前を知っているかいないかで全然変わっちゃうんだから。本当よ?」
(オトウサン…オカアサン…)
「そうよ」
(オトウサン、オカアサン…キライダ…)
「あら、どうして?」
(オトウサン、オカアサン、僕を…)
「僕を置いて行ってしまうから…」
突然能力者が肉声を発した。思いのほか低い、男性と思われる声だった。ココロは戸惑ったようにガイアを見た。
「彼の両親は亡くなったんだ。事故でね」
ココロは目を見開いた。
「彼もその事故に巻き込まれ、両足の機能を失った。彼は優秀な運動選手であったが、その選手生命もその事故の為に絶たれた。病院の窓から見えるのは、元気に走り回り、思う存分に体を動かす友人達の姿。一度に親を失い、動く事すらできなくなった彼の中に、彼自身気づかぬ内に暗い闇が広がり続けていたのだ」
ガイアの言葉に誰もが声もなく息を飲んだ。顔を両膝に埋めたまま人形のように動かない目の前の能力者に、そんな悲惨な過去があったとは。
「彼は非常に鋭敏で繊細な感覚の持ち主だ。その鋭い感性で私の声と姿を捉えた。魔族との戦いが迫る中、私は迷いもなく彼の能力者としの資質に飛びついた。その身内に、孤独と共に膨れ上がる強大な闇を内包しているなどとは夢にも思わなかったのだ」
「迂闊な奴め」
ゲンムが冷たく言い放つ。ココロは黙っていろと言わんばかりに一度ゲンムを睨むと、すぐに顔を元に戻した。ガイアが続けた。
「自分の身に起きた不幸を受け入れる事のできなかった彼は、彼を置いて死んだ両親を恨み、ただ五体満足で走り回る友人達に激しく嫉妬した。ある日、彼の中に溜まりに溜まった闇の力は爆発的に成長し、彼自身をも飲み込んだ」
「何故、そんな事が?」
「可能性はいくつか考えられる」
ココロの疑問にゲンムが答えた。
「先程のシュベルのような輩が、彼の中に膨れ上がった闇の力を悪用しようとしてその成長に手を貸したか…、或いは…」
「或いは?」
「不幸にも偶然彼の側を闇のANTIQUEが通過したのかもしれんな」
「闇のANTIQUEが、通過って?」
「闇の影響を受け、彼の中に元々あった闇の力を一気に開花させた」
「そんな!じゃあ彼をこんな姿にしたのは、闇のANTIQUEだって言うの!?」
ココロがゲンムの言葉に驚き叫んだ。
「勘違いはしないでよココロ」
答えたのはテテメコだった。
「僕達自然現象は君達に何ら干渉したりはしない。ただ君達の感性は僕らの存在に大きく左右されやすいんだ」
「その通り、気温、気圧、風の音、炎の熱、雷鳴、地磁気、月の満ち欠けそして光と闇…。あらゆる自然現象にお前達の心と体は敏感に反応する」
テテメコの言葉をついて話し始めた水のANTIQUEハルの言葉に大地は思い当たる事があった。気圧の変化で頭痛が起きたり、出生と死に潮の満ち引きが大きく関わったり、地震が起こる直前にある種の動物が異常行動を起こしたり。とかく生き物は自然現象に心理的、肉体的変調を起こす場合が多い。
「特に闇は象徴的だ。長い歴史の中で君達の骨の髄まで沁み込んだ遠い記憶が喚起される事は多い。闇に紛れその日の糧を得る者もいれば、闇に守られ生き抜く者もいる。闇に狩る者は攻撃性が高くなり、闇に狩られる者は闇そのものに恐怖を感じる」
「僕ら自身に、君達の中の誰かをどうにかしようなんて意志は欠片もないんだよ」
ハルの説明を補足するようにテテメコが締めくくった。
「欲、怒り、妬み、嫉み、悲しみ…。負の感情が精神の器の臨界点を超えた時、折悪く闇に触れた者は自我を崩壊させ、闇の住人に身を堕とす事になる」
ゲンムが感情のない声で説明すると更にガイアが続けた。
「彼の負のエネルギーは凄まじく、遂には私を呼び出し操った。しかし、まだ微かに自我が残っていた彼は、生命の能力が周囲の人々を傷つける力がある事に恐怖を覚え、アスビティの姫が発する呼びかけを頼りにその身をプレアーガへと飛ばした。そして、辿り着いたこのジルタラスの地で見つけた巨大な洞窟へと入り込み、深い眠りについたのだ」
「彼は、自分自身を封印したのね?」
ココロが呟く。
「だが、彼の中から溢れ出す闇の力は留まるところを知らなかった。孤独に怯え、永遠に別れる事のない仲間を欲する彼の欲望はこの地に眠るレヴレント達を呼び覚ました」
全てがつながった。発端はたった一つの事故だった。そこから連鎖するように歯車が狂い、いや、むしろ悪い方へと見事に噛み合い、果てはこのような大騒動に発展してしまった。
そしてそんな中で闇のANTIQUE、生命のANTIQUE、生命の能力者、洞窟に巣食ったレヴレント…。誰一人として悪と呼べる者はいなかったのだ。
「私の手を取って」
ココロが再び優しく言葉をかけ手を伸ばした。
「う…うぅ…」
生命の能力者はガクガクと目に見えて震える手を豊かに伸びる黒髪を抱えるように頭に乗せた。
「アスビティの姫よ、彼はまだ闇に囚われている。迂闊に手を出すのは危険だ」
ガイアが静かな声で窘めるが、ココロは笑顔を消さないまま尚も能力者に近づいた。
「あなたは、誰も傷つけたくなくてこんなところに一人でいたのね?淋しくて、辛くって、誰かと一緒にいたいと強く念じながら、それでも自分の抑えきれない力が誰かを傷つける事を恐れて、ここに自分を閉じ込めたのね?」
ココロは言いながら手を伸ばした。激しく震える能力者の手にそっと触れる。動物が唸るような声を上げながら細い黒髪を掻き毟る手がふと止まった。
「大丈夫」
ココロはもう一方の手もその頭に乗せた。
「あなたは誰も傷つけたりはしない。だってあなたは、こんなに優しいじゃない」
ココロは静かに能力者の頭を胸の中に抱きしめた。耐え切れず零れた一筋の涙が艶やかに光る黒髪に落ちた。
その瞬間、能力者の体が強い光を放ち始めた。その光の海に染まるように、彼の髪の色が見る見る内に変化し始めた。
見事なまでの黒髪は、ココロが落とした涙が触れた場所から足元へ広がるように翡翠のような美しい緑色に変わっていった。
髪の色だけではない。まるで死人の衣のようにボロボロだった彼の服もその光の中で美しく変化していった。
ココロの体を包む薄桃色の輝きが、抱きしめる能力者の発する美しい緑の光と融合する。
「闇が…溶けていく…」
ガイアが驚きの声を上げる。ココロの胸の中で能力者が顔を上げた。涙で濡れた頬に思いきり笑顔を浮かべたココロがその緑色に輝く瞳を見つめて言った。
「ようこそ、生命の能力者。あなたも私の命の一部です」
「ぼ、僕は…」
能力者は激しく嗚咽しながら言葉を発しようとした。しかしココロは静かに首を振り、その言葉を遮った。
「あなたから一番初めに聞きたいのは、あなたの名前。あなたを誰よりも愛し、あなたを残していく事を何よりも嘆いた筈のご両親があなたに贈った最初の贈り物…」
能力者の食いしばった歯の間から益々激しい嗚咽が漏れる。それでもお互いに見つめあった目を離そうとはしなかった。
「教えて。あなたの名前は、何と言うの?」
能力者の震える唇がゆっくりと開いた。
「…ル…」
「ん?」
「僕の名前は…ナル…」
ココロの輝くような笑顔の上に後から後から涙が伝い落ちた。
「よろしくね、ナル」




