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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
147/440

激闘の果てに

●登場人物

能力者

・ココロ…始まりの存在に選ばれた公国公女。すべての能力者を集める事のできる唯一の存在。

・吉田大地…土のANTIQUEに選ばれた能力者。今のところただ一人地球から来た少年。

・シルバー…鋼のANTIQUEに選ばれた能力者。ココロに絶対服従を誓う剣士。

・キイタ…火のANTIQUEに選ばれた能力者。

・ガイ…雷のANTIQUEに選ばれた能力者。

・アクー…水のANTIQUEに選ばれた能力者。


ANTIQUE

・ゲンム…主に時を司るANTIQUEのリーダー。すべての根源にして始原の存在。公国公女であるココロをバディに選んだ。

・デュール…鋼のANTIQUE。生真面目で一番にゲンムの呼び掛けに応えた。公国の剣士であるシルバーをバディとする。

・フェルディ…火のANTIQUE。寡黙かもくで意思の疎通そつうが難しいが戦闘能力は全ANTIQUEの中で一番高い。王国王女のキイタをバディとした。

・ウナジュウ…雷のANTIQUE。少々がさつなところがあるが比較的フレンドリーな性格。火に次ぐ実力の持ち主で戦闘能力は非常に高い。ガイのバディ。


レヴレント

・クロウス…アガスティア王国近衛隊の隊長。三百年前の戦争に敗れた際に同国の仲間を惨殺した後自害をしている。その後生命の能力により蘇り今日まで王妃を慰める為偽りの日常を作り出して来た。

・ジーン…クロウスの部下。自らが死んだ事も忘れクロウスとマヌバラが作り出したラディレンドルブルットの中で暮らして来た。気の優しい青年。



前回までのあらすじ

 突如乱入してきたクロノワールに対し挑み掛かるシルバーを援護しようと満身創痍まんしんそういのガイまでもが剣を手に参戦する。シュベルを離脱させようとしたダキルダは大地の思わぬ攻撃に手を焼きシュベルを瞬間移動させる事ができずにいた。

 そのすきにシュベル自体を倒そうと矢を構えるアクーであったが、そんなアクーに地獄の門から飛び出して来た蠅の集団が襲い掛かる。蠅の群れは人語を話し、自分こそは第三の魔族、ゼクトゥム一族のおさであるラビュートだと名乗った。

 生命のANTIQUEとレヴレント達、そして他のANTIQUE達との壮絶そうぜつな戦いが繰り広げられる一方で、シュベルを狙う能力者達とその邪魔をせんとするアテイルとゼクトゥムと言う魔族の出現。

 レメルグレッタの地下大空洞での戦いは混沌こんとんとし、その行く先は混迷こんめいを極めた。そんな中、ラビュートは自分を倒したければ早く海を渡れと謎の言葉を残し何処いずこかへと去って行く。

 ガーディアンクロウジャルの光のよろいの攻略を見出したクロノワールはその剣で大地をよろいごとつらぬこうと試みるも、寸でのところで怒りに我を忘れたダキルダの暴走によりそれを果たす事ができなかった。

 クロノワールの叫びに正気に戻ったダキルダは、シュベルとクロノワールを瞬間移動で離脱させると、大地の名をその胸に刻み、自らも静かに姿を消して行った。

 ダキルダを倒す事ができなかった悔しさに歯噛はがみする大地だったが、シルバーにさとされ再び大樹の攻略に戻る。怒りの余り岩で固めた右手の拳で樹をなぐり破壊していく大地の姿に、結局それしか方法はないのではないかと悟ったシルバーとアクーも剣を手に巨大な生命の樹へ挑み掛かって行くのだった。







 


(ココロ)

「ゲンム!?」

 突然ココロの頭の中にゲンムの声が響いた。ゲンムの声は落ち着いているように聞こえたが、その内容はかなり切迫せっぱくしていた。

最早もはや限界だ。このままでは天上への階段が破壊される。いや、それよりも天上の門自体が襲われる可能性がある)

「どうしたら…」

(もう待てぬ、我等は力づくであのANTIQUEを地中へ戻す)

「待って!そんな事をしたら」

(そうだ、奴の周りにいるレヴレント達も共に奈落へとちるだろう。あの暴れまわるANTIQUEの動きをふうじ、目を覚ます事ができたならば我等は再び奴を地上へと導き上げる。その時、何人かのレヴレントを共に引き上げる事はできるかもしれぬ、しかし…)

 全員を救う事はできない。ゲンムの言おうとしている事はわかった。そこで助け上げる事のできなかった兵士達の魂は二度と天上へ上がる事は許されず永遠に地獄の業火ごうかに焼かれ続ける。

「そんな事は許されない…」

 死して尚王との約束を果たそうと三百年。彷徨さまよい続けた彼等が今日ようやくむくわれようとしているのだ。その全員が救われる事以外の結末を、ココロは受け入れる事ができなかった。

 ココロは右手でにぎったガーディアンクロウジャルに目を落とした。

「いい加減に出てこい!」

 叫んだ大地は大樹の根本の地面を思いきり叩いた。地面がめくれ上がりその地中に張りめぐらされた根の一部が露出ろしゅつする。大樹がグラリとかたむいたように見えた。

 白刃の短刀を振るい、幹の一部に拳大こぶしだいの穴を開けたアクーは、その穴から自分の片腕を差し込んだ。入り組んだ枝をくぐり、腕を上方へと伸ばす。

「ハル!」

 アクーが叫ぶと同時にその体は真っ青な光に包まれた。にぎりしめた右手の先から勢いよく水柱が立つ。

 樹の内部をけ抜けた急流が大樹のあちこちを突き破る。内側からの水圧に耐えかねた枝が折れ飛び、頭上から次々と落ちてくる。

「駄目だ、とても歯が立たん」

 大地とアクーの活躍にシルバーは大汗をかきながら身を退いた。

「デュールがいてくれたなら…」

 シルバーが悔しそうにつぶやく。テテメコとハルの力を注いで尚、大樹を完全に破壊するには及んでいない。それ程の相手にANTIQUEの能力を失っている自分がいくら剣を振るおうと焼け石に水であった。

 頼みのデュールは暴走している生命のANTIQUEを食い止めるのに必死だ。指示を出している能力者を止めない限りANTIQUEは暴れるのをやめない。かと言ってこの堅牢けんろうな大樹の中から能力者を引き出すのに時間を取られれば天上への階段が破壊されてしまう。

 シルバーは思わず大声を出した。如何いかんともしがたいジレンマに怒りのぶつけどころがわからなかった。

「シルバー!」

 そんなシルバーに声を掛けたのはココロだった。呼ばれたシルバーは慌ててココロのそばけ寄る。

「供をしなさい、レヴレント達を止めます」

「ココロ様!?」

「ココロ!」

 驚いたシルバーとキイタが同時に声を出す。キイタが慌ててココロの両腕をつかみ説得を始める。

「待ってココロ、能力者に言葉を送れるのはココロだけなのよ?」

「キイタ様のおっしゃる通りです。テテメコとハルの力を使ってもあの大樹を破壊するのは容易よういではありません。何卒なにとぞココロ様のお言葉であの能力者を止めてください!」

 二人の必死の表情を見てもココロの決意は変わらなかった。

「二人の言う事はわかる。でもレヴレントが先よ。間もなくANTIQUE達は最後の手段に打って出ます」

「最後の、手段?」

 ココロは静かにゲンム達の方を見た。つられてシルバーとキイタも同じ方向に目を向ける。

「天上への階段は既に限界にきている。生命のANTIQUEに組みついているウナジュウももうもたないでしょう」

 ココロはもう一度二人の方を振り返ると力強く言った。

「ゲンム達が実力行使に出る前に、レヴレントをあのANTIQUEから引き離す!」

「ココロ…」

「わかって、これは絶対にしなくてはならない最優先事項なの」

「で、でも…」

「わかりました、急ぎましょう。時間がありません」

 まだキイタが何か言いかけたが、それを言わせずシルバーが同意を示した。ココロはシルバーの目を見つめ小さく微笑むと力強くうなずいた。

「シルバー!」

「御心配には及びませんキイタ様。ココロ様の身は、何があろうとこのシルバーがお守りします。それに…」

 シルバーはそこで一度言葉を切ると、泣き笑いのような表情を見せココロに目を向けた。

「我が国のお転婆てんば姫は、一度言い出したら聞かないもので」

「あら!よくわかっているじゃない」

「二人とも…」

 尚も心配げな声を出すキイタに、ココロは笑顔を向けて言った。

「大丈夫、これが終われば後はゲンム達がどうにかしてくれる。もうすぐ新しい仲間に会えるわよ、キイタ」

「ココロ…」

「キイタはガイをお願い」

 その言葉にキイタは後ろを振り返る。狂ったように拳を振り回す大地の近くに倒れたままのガイは意識があるのかないのか、全く動かずにいた。

「行きましょう」

「は!」

 そんな声にキイタがもう一度振り返ると、大地とアクーが作った泥沼を避け、戦場に向かって歩き出す二人の姿があった。

「ココロ…」

 人智じんちおよばぬおよそ常識外れの戦いに挑む二人の背中は、いつもよりずっと小さく見え、キイタは心細い声を出した。

 体形に似合わずウナジュウは怪力の持ち主であった。ケが枯れ電撃は繰り出せないまでも、単身生命のANTIQUEに組み付きそれ以上の進行をさまたげていた。

「雷め、なかなかねばるな」

 火のANTIQUEフェルディがそんなウナジュウの活躍に皮肉めいた声を出す。

「さすがは武闘派ANTIQUE」

 ウナジュウに足を取られ動けずにいる生命のANTIQUEの背中にレヴレント達の振り下ろす剣が次々と突き刺さる。

「これ以上は待てない」

 ゲンムの横についたデュールが暴れるANTIQUEを見下ろしながら言う。

「わかっている、私も待つ気はない。もう十分に言葉はくした。説得の時間はおしまいだ」

 生命のANTIQUEは大きな口を開けると首を上げ、正に怪獣のような声を上げた。

「何がギャオーンだ!」

 必死に足にしがみついたウナジュウが叫ぶ。

「言葉すら失ったか…」

 そうつぶやいたデュールが大槌おおづちを振り上げると、生命のANTIQUEの背中めがけ急降下を始めた。

 デュールは大槌おおづちの先端についたやりのような穂先ほさきで生命のANTIQUEの背中を突き刺した。そのまま一気に押し込むように圧力をかける。

 フェルディもデュールに続きその巨体に突進する。更なる衝撃にその下の地面が大きくひび割れ、新たな奈落への入り口が開き始める。

 一度上空に戻ったデュールとフェルディは、再び勢いをつけると降下の態勢に入った。

「うぉいこら!」

 突然フェルディの目の前にウナジュウが姿を現す。ウナジュウは目にいっぱいの涙をめてうったえた。

「何だよお前らやるならやるって言ってくれよ!下に俺がいるって忘れてただろう!」

「すまん、しかし忘れてなどいない」

 感情のない声でフェルディが答える。

「忘れてないのに攻撃するってのはそれはむしろどう言う事ないのかなあ!?」

「見ろ」

 ウナジュウの言葉を無視してデュールが下を指さす。見れば第一の攻撃で沈みかけた生命のANTIQUEが再び地上へとい出そうとしていた。

「何と言う強さだ…」

「お前が手を放すからだ」

「何だとこの野郎この上まだ俺のせいにする気か」

 感情のこもらないフェルディの言い草にウナジュウは更に怒りの声を上げた。

「ゲンム、言葉を続けろ!」

 デュールはそう叫ぶと再び生命のANTIQUEに向かって再突撃を開始した。

「行くぞ雷!」

 フェルディが追って攻撃を仕掛ける。

「行・く・わ・け・な・い・だ・ろ!」

 その場に残ったウナジュウは最早もはや相手に聞こえないのを承知で怒りを込めた声を出した。

 デュールの第二弾を喰らった生命のANTIQUEが大きく首を振り上げた。

「ちぃっ!」

 その口に飲まれそうになったフェルディは慌てて旋回せんかいし、これを回避する。フェルディの二度目の攻撃は不発に終わった。

「また地獄の門が開く…」

 ココロがANTIQUE同士の壮絶そうぜつな戦いを見て暗い声を出した。彼女はシルバーを引き連れ、生命のANTIQUEが出現した最初の地割れのそばに立っていた。

 ココロは静かに目をつむると気を集中し始めた。ココロの体を守る光のよろいゆがみ、ふくらんでいく。それに合わせて地に立てたガーディアンクロウジャルも同じような光を放ち始める。

 奇妙な感覚にとらわれたクロウスはその気配に目を転じた。ココロがガーディアンクロウジャルを手にたたずんでいるのが目に入る。

「姫…」

 やがてココロの体を包む光とガーディアンクロウジャルから伸びる光がココロの前でつながり、融合ゆうごうした。

「シルバー」

「は」

「彼らに私の声を聞くように伝えてください」

 ココロの命令を受けたシルバーは巨大な怪物の周りを飛び回る緑の光達に向かい、大声を張り上げた。

「アガスティアの兵士達よぉーっ!!」

 かなはずのない強大な相手に挑み掛かる兵士達、そんな彼等を押し留めようと必死に叫び続けるジーンさえ一瞬動きを止めそちらを振り向く程、シルバーの声は大きく戦場にこだました。

「姫のお言葉である!」

 シルバーの言葉が終わるやいなやココロは目を開き、続けて叫んだ。

「我は主君の末裔まつえいなり!未来をたくされし我が名の下に命ずる!剣を下げよ!」

 ココロの声を聞いた兵士の亡霊達は一様いちよう戸惑とまどった顔で、それでも動きを止めたままでいた。

 これに勇気を得たジーンが再び叫び始める。

「姫の命令だ!一同剣を下げろ!身を退け!戦場を離れよ!」

 集中力を維持いじする事に全精力を注ぎこんだココロは肩で息をしていた。

(ココロ)

「ゲンム!?」

 ココロの頭の中に再びゲンムが話しかけてきた。

(離脱させるだけでは駄目)

「え?」

(このままこの謎のANTIQUEが天上への階段を上り続けたら、破壊される事を察した天上の門は閉じられてしまう)

「天上の門が、閉じる?」

「そうだ。天上の門が破壊されるなど決してあってはならぬ事。彼等を迎え入れるために開かれた天上の門は、破壊の脅威きょういから逃れようと再び固く閉ざされ、その脅威きょういが完全に去るまで二度と再び開く事はない」

「それじゃあ…」

(門が閉じてしまえば、彼等は最早もはや天上へ上がる事はできないだろう。もしも彼等を救いたいのであれば的確に言葉をつむぎ、命ずるのだ。伝える、それがあなたの戦いなのだから。もっとも、我等には関わりのない事ではあるがな)

「ゲンム…」

 そう、ANTIQUEにとって人間個々の命など取るに足らないものであるのだ。忠誠に生き、忠誠に死に、死んで尚忠誠の中で三百年を彷徨さまよった亡霊達が天上に上がるか地獄にちるかなど、暴走するANTIQUEを止める目的の前では何の意味も持たない関わりのない事柄なのだ。

「ゲンム」

(何?)

「そのANTIQUEは、そのANTIQUEはね、“生命”よ」

(………。なるほど、道理どうりで未熟で、しぶとい訳だ)

「そうよ、私達生命は未熟でその上とてもおろかよ。でもあきれる程にしぶといわ。あなた達にどう思われようと、どれ程 間尺ましゃくに合わなくても、それが例え既に失われた命であろうと、私達は彼等を救わなくてはならないの。無意味に生まれる命がないのと同じように、無意味に失われた命など一つしてありはしない、あってはならない。彼らは、むくわれるべき”命“なのよ」

 ココロは高々と振り上げたガーディアンクロウジャルの底を思いきり地に叩きつけた。鉄輪が鳴り、大空洞に共鳴し余韻よいんを引いて響き渡る。

「我が兵士達よ!我が王を守れ!我が国王一家を守れ!今こその日の約束を、たがえた誓いを果たすべき時っ‼」

 そう叫ぶとココロはもう一度鉄輪を激しく打ち鳴らした。その瞬間、ココロとシルバーの頭上から一筋の光が飛び立った。

 長く尾を引く緑の光は真っ直ぐに天上の門へと向かった。やがて門の前に降り立った光は振り向くと、大声で戦場の兵士達に命じた。

「栄光のアガスティア近衛このえ兵士達よ!姫の命に従い一同戦場を離脱せよ!これは撤退てったいでは断じてない!王をお守りするため、我に続けぃ‼」

「クロウス殿…」

 叫んだのはクロウスだった。隊長の叫びに兵士達はみなその方を見た。

「隊長に続けぇ‼」

 ジーンがここぞとばかり声の限りに叫んだ。ようやくその声を耳にした五十を超える近衛このえ兵士達は答えるように雄叫おたけびを上げると天上の門へと一斉いっせいに押し寄せた。

「行け!行けぇ!王をお守りしろ!王をお守りするのだぁ!」

 次々と兵士達を階段の上へと送り込みながらジーンが叫ぶ。

「門が…」

 その様子ようすを見ていたココロが思わず言葉をらす。彼女の見つめる先で天上の門がゆっくりと閉まり始めた。未だ半数以上の兵士達が戦場に取り残されている。

 生命のANTIQUEがようやく地割れから抜け出し、再び階段へと前足を掛けた。

「急げ!貴様らそれでも近衛このえ兵士か!」

 階段の上からクロウスが怒鳴どなる。ジーンも負けずに声を張り上げた。

「我等 近衛このえ兵士はあきらめない!何としても王の下へと行くのだ!誓いを果たすのだ!」

 最後の兵士がジーンの前を通過する。走る部下の背を見送るジーンのすぐ後ろまで生命のANTIQUEが迫っていた。大きな口から雄叫おたけびを上げ威嚇いかくしてくる。ジーンは振り向き剣を抜き放つと、生命のANTIQUEと向き合った。

「振り向くな!急ぎ王の下へと!真っ直ぐに走れ‼」

「ジーン!お前もだ!急げ!上がって来い!」

 クロウスが両手を広げ巨大なANTIQUEの前に立ちふさがる副隊長の背に向かって叫んだ。

「ジーンさん、行って!」

「ジーン殿!」

 ココロとシルバーが交互に叫ぶ。

「デュール!フェルディ!」

「おう!」

 ゲンムの声に答えた二人は生命のANTIQUEへ最後の攻撃を仕掛けるべく上昇した。デュールが手にした武器を大きく振りかぶる。フェルディの体は燃えたぎる溶岩のように真っ赤に輝いた。

「ここから先は通しはしない!」

 迫り来る巨大な口の前でジーンは一歩も退く気はないようだった。次の瞬間、上空から突撃した二体のANTIQUEの攻撃に生命のANTIQUEの巨体が大きく沈んだ。

 ジーンはきびすを返すと目の前に伸びる階段を一気にけ上がった。

「ジーン急げ!」

 門の中からクロウスが手を伸ばす。既に天上の門は人一人がかろうじて通り抜けられる程の隙間すきましか開いていない。

 閉じようとする門の中からクロウスが手を伸ばす。ジーンもそれを目指して手をいっぱいに伸ばした。ココロとシルバーは固唾かたずを飲んで門へと向かい走る緑の光を見つめていた。

 生命のANTIQUEがえた。レヴレントがいなくなり、何の遠慮もなく放ったデュールとフェルディ渾身こんしんの一撃を喰らって尚完全に地中に戻す事はできなかった。

「いい加減にしやがれこの野郎!」

 ただ見ているだけで居ても立ってもいられなくなったウナジュウは叫ぶと、体をまぶしい金色に輝かせ、生命のANTIQUEに向かって突進していった。

「隊長!」

 伸ばされたジーンの手をつかんだ瞬間、クロウスは力いっぱいその手を引いた。ジーンの体がわずかに開いた門の隙間すきまから天上へと滑りこむ。

 勢い余って両手をついたジーンはハッとしたように顔を上げた。目の前にはたたずむ部下達。その向こうには光り輝く天上の世界が広がっている。ジーンは慌てて後ろを振り向いた。門は閉じられようとしていた。その隙間すきまには最早もはや人の通れる幅はなかった。

 そのわずかに開いた隙間すきまの向こうに、クロウスが立っていた。

「隊長…」

 ジーンは混乱した。クロウスは門の中にいた、確かにいた。門の中から自分に手を伸ばしてくれていたのだ。この手をつかんでくれたのだ。そして、強い力で門の内側に引き入れてくれたのだ。自分の身と、引きえに。

「隊長‼」

 ジーンは叫んだ。狂ったように立ち上がり門へと走った。扉が閉じていく。その隙間すきまからは静かに微笑むクロウスの顔が見える。

 ジーンは何とか閉まる門を止めようと両手を掛けた。しかし、たかが兵士の亡霊に、天上の門を押し留める力などあろうはずがなかった。

「ジーン…。王を、頼む」

「隊長‼」

 うつむ加減かげんつぶやいたクロウスが、顔を上げ何か言いかけるように口を開くのが見えた。それが最後だった。クロウスを地上に残したまま、天上の門は再び固く閉ざされた。

「ああ…」

 ココロはその場にひざをついた。

「ココロ様!」

 シルバーが慌ててココロの体を支える。ココロはシルバーの腕に取りすがって叫んだ。

「何だったの?何だったの!こうまでして、それでも救えなかった!!救えなかった!!」

 正に絶叫ぜっきょうと呼べる悲鳴を上げてココロはシルバーに取りすがり泣いた。

 ココロの絶望の声を聞いたクロウスは階段の上から静かに振り返った。光輝いていた美しい階段は、天上の門が開く前の冷たく粗末そまつな石の階段に戻っていた。

 そのふもとでは、三体のANTIQUEに抑え込まれた巨大な生物がそれでもまだもがき暴れている。

 クロウスは静かに剣を引き抜くと、遠く正面に見えるココロへと目を向けた。抜いた剣を胸の前で真っ直ぐに構える。

「クロウス殿…」

 シルバーがつぶやいた。

「何をする気だ…。何をする気だクロウス殿!!」

 シルバーの叫びにココロも顔を上げた。光を失った階段の上で、薄く緑に輝くクロウスが直立していた。

「クロウスさん…」

 クロウスは静かに微笑んでいた。

「我が王、偉大いだいなるかなカンサルク王よ…。未来にて、誓いをお果たし申し上げる」

 クロウスはゆっくりと剣を頭上へとかかげた。

「姫と、姫の暮らす世を、お守り申す!」

「クロウスさん‼」

 ココロはシルバーの手を離れ、クロウスの方に向かってうように進んだ。しかしその距離は絶望的に遠かった。ココロとシルバーの見つめる先で、小さな緑の光は地面でのたうつ巨大生物の背に向かって一直線に突っ込んで行った。








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