第三の魔族
●登場人物
能力者
・ココロ…始まりの存在に選ばれた公国公女。仲間を率いるANTIQUEのリーダー格。
・吉田大地…土のANTIQUEに選ばれた能力者。唯一の地球人。
・シルバー…鋼のANTIQUEに選ばれた能力者。
・キイタ…火のANTIQUEに選ばれた能力者。大国の王女。
・ガイ…雷のANTIQUEに選ばれた能力者。
・アクー…水のANTIQUEに選ばれた能力者。
魔族
・シュベル…虚無の世界に封印されていた三種の魔族を解き放った男。その目的も正体も不明だが、普段は時の狭間に暮らし、自分に従う魔族達に人類の殲滅を命じている。
・クロノワール…三種の魔族の一つアテイルの首領。剣技に於いては種族 随一の腕を誇る。冷静かつ冷酷ながら誰よりも強くアテイル一族による地上の征服を望んでいる。
・ダキルダ…敵でありながらココロのテレパシーを傍受する事ができる。その能力を活かし陰ながらアテイルに協力する。
・ラビュート…今まで謎とされていた第三の魔族、ゼクトゥム一族の長。
前回までのあらすじ
大樹に囚われ暴れまわっているのは生命の能力者、そんなココロの推測にテテメコ、ハルの二体のANTIQUEは賛意を現す。それが本当ならば、命を持たないレヴレントがどれだけ束になってかかろうと勝利を得る事は絶対に不可能とも。
このまま敗北し、奈落と呼ばれる地獄に堕ちてしまえば、そのレヴレント達には二度と天上の門を叩く機会は巡ってこないと言うハルの言葉にココロは大いに慌てた。
その時、生命の樹が再び巨大な根を持ち上げ攻撃を仕掛ける。その時飛んだ石の一つがエイクに向かって行く。ガーディアンクロウジャルの鎧を身に着けていないエイクはその石を喰らえば一たまりもない。
咄嗟に彼を庇ったキイタのお陰で無傷だったエイクだが、何故か彼はそんな状況の中、可笑しそうに笑い声を立て始める。
エイクの様子に気が付いたキイタがエイクの名を呼ぶと、益々高く笑い声を上げたエイクは自分こそシュベルであると衝撃の告白をする。
迷う事なく矢を射るアクーだったが、突如現れたクロノワールによりその矢は簡単に弾き返されてしまう。
クロノワールに呼ばれ姿を現したダキルダはこの場からシュベルを離脱させるべく即座に彼の体を黒い球体に包み込むのだった。
「あれが…、シュベル」
呟いたのはダキルダだった。ダキルダの能力を使えば、この瞬間にもシュベルをこの大空洞から元いた時空の狭間へ避難させる事もできた。しかし何故かダキルダはそうはしなかった。
「何をしているダキルダ!急げ!私とシュベル様を離脱させるのだ!」
思いも寄らぬシルバーとガイからの激しい攻撃に手を焼いていたクロノワールが叫ぶ。しかし、それでもダキルダはクロノワールの命令に従おうとはしなかった。ただ、呆然としたように宙に浮いたまま動かなかった。
ダキルダは急に口元を引き締めると、右手を静かに動かした。何をしようとしているのかはダキルダ本人にしかわからなかったが、結局ダキルダは何もする事ができなかった。
ダキルダが右手を動かしたその瞬間、巨大な石の柱が地面から自分目掛けて伸びてくるのに気が付いたからだ。
明らかに攻撃の為に伸びてきた石の柱を辛うじて交わしたダキルダは、何事かと下に目を移した。
「ダキルダァァァっ!!」
「お前は!?」
ダキルダの名を叫びながら怒りの形相で駆け寄ってくるのは、ドルストの町で一度言葉を交わした土の能力者だ。
ゴムンガの下に現れたクロムから、土の能力者は死んだと聞かされていたダキルダは激しく動揺した。
絶叫しながらダキルダに迫る大地の右腕は、通常時の五倍程の大きさに膨れ上がっている。戦闘時はその右腕だけが薄黄色い光を放っていたが、今日に限ってその光は大地の全身を包み込んでいた。
気合の声を上げながら大地が巨大な腕を振り下ろすと、一瞬の間を置いていくつもの岩がボコボコと地面から浮き上がってきた。小さく揺れながら空中に静止していた複数の岩が、次の瞬間そのすべてがダキルダめがけて打ち出された。
イーダスタの森で初めてフェズヴェティノスのオウオソ達と戦った際に見せた技だが、あの時は小石を機関銃の弾のように撃ち出すのがせいぜいであった。
しかし今ダキルダに迫る岩は、それとは比べ物にならない巨大な岩石ばかりであった。ダキルダに対する大地の怒りの感情がテテメコの能力を爆発的に急成長させたようだった。ダキルダは慌てて迫る岩石群を躱そうと瞬時に場所を移動した。
「逃がすかぁっ!!」
そう叫んだ大地が体ごと肥大した腕を振り回すと、その動きに合わせたように宙に浮いた岩石が四方八方に飛び散った。
大地が闇雲に放った岩石は壁や地面に当たり、更にあちこちへ飛んだ。いくつかは緑の光を放つ巨木に命中し、その体から木片を飛び散らせた。
跳弾どころではない。飛び回っているのは小石ではなく大砲の弾のような岩の塊だからたまったものではない。ココロやキイタの足元にまでそれは飛んできた。
「やめろ!落ち着け大地!」
シュベルに狙いを定めていたアクーが弓を下ろし叫んだ。しかし、ダキルダを討ち取る事に我を失った大地にその声は届かなかった。
一瞬の判断で場所を移動したダキルダだったが、次に姿を現した丁度その場所に大地の飛ばした岩の集団が飛んできた。
「………っ!」
避ける間はなかった。ダキルダは咄嗟に交差した腕で自分の頭を守ろうとした。体を小さく丸め、直撃の率を下げようとも試みた。
しかしすべては無駄であった。大地の放った岩石の一つが、容赦なくダキルダの交差した腕を跳ね飛ばし、別の一つががら空きになった頭部に直撃した。
その細い体にも岩が立て続けに着弾する。身に着けていた鎧は瞬く間に変形し、衝撃に耐えきれずダキルダは地面へと落下した。
どうやらダキルダの身に着けている鎧はアクーの矢を弾き飛ばしたクロノワールの漆黒の鎧や、大理石をも削り落とすメロの鞭に比べ、その強度は余り高くないらしい。
或いは、大地の土の能力がそんなアテイルの武具をも凌ぐ強さを持ったと言う事なのかもしれなかった。
それでもダキルダに致命傷を負わせるまでは至らなかった。それどころか、肉体自体へのダメージは少なかったのか、地面に落ちるとすぐにダキルダは立ち上がった。
「おりゃあぁぁぁ―――っ!」
大地は間髪入れずに地に降り立ったダキルダ目掛け太い腕を振り上げ走り始めた。
両手を腰に回したダキルダがもう一度その手を体の前に戻した時、その手にはそれぞれ剣が握られていた。いずれも細身で然程長くはない剣であったが、右手は順手、左手は逆手に持った二刀流で、迫る大地に向かって奇妙な構えを見せた。
今までアテイルの補佐、斥候と名乗り遂に戦いに参加する事のなかったダキルダであった。しかし、鬼気迫る表情で襲い掛かる大地を相手に、ここは戦わざるを得ない状況と判断したらしい。
目まぐるしい展開を見せる戦いの中で漸く冷静さを取り戻したアクーは、周囲の状況を見回した。
シルバーとガイが果敢にクロノワールと剣を交えている。大地は標的をダキルダに絞り挑み掛かっていく。
突然響き渡った絶叫に目を向けると、雷のANTIQUEウナジュウが雄叫びを上げながらその動きを封じようと生命のANTIQUEの足にタックルの要領で組み付いたところだった。
アクーはそんな阿鼻叫喚の混沌とした戦場の真ん中で、静かに顔を上げた。頭上に漂う黒い球体。その中ではエイク、いや、全ての元凶であるシュベルが、まるで子供のように瞳を輝かせて地上で繰り広げられる戦いを食い入るように見つめている。
地面は相変わらず揺れている。それでも、冷静に狙えば外す距離ではない。
アクーは腰の靫から引き抜いた矢を弓に番えると、ゆっくりと弦を引き絞り、その狙いを浮かぶ球体に定めた。
(大丈夫…)
アクーは静かに長く息を吐き、吐ききったところで息を止めた。ポーラーと暮らしている時、頭上を飛ぶ鳥を射ち漏らした事など一度もなかった。それに比べて、地面が揺れているとは言え、今狙う獲物は動く事なくそこに止まっているのだ。落ち着いて狙えば外す筈がない。
胸の中で自分に言い聞かせながらアクーは、絞った矢の先に宿敵の姿を捕らえた。
矢羽を掴む右手の指を開こうと、そう思った瞬間だった。生命のANTIQUEが這い出てきた赤い光を放つ巨大な割れ目から、突然黒い霧のようなものが湧き上がるように出てきたかと思うと、アクーに襲い掛かってきた。
「うわっ!」
シュベルに集中しきっていたアクーは、この突然の攻撃に激しく動揺し矢羽を離してしまった。
顔に纏わりつく黒い霧振り払おうとを咄嗟に頭を振ったアクーの手から放たれた矢は、大きく狙いを外れあらぬ方へと飛んでいく。
「アクー!」
キイタが叫ぶ。目の前で黒い霧に巻かれたアクーは、何とかそれを追い払おうと暴れ、挙句は地に倒れのたうち回った。
キイタは自分の上着を脱ぐとアクーに駆け寄り、黒い霧に向かって闇雲に上着を振り回した。
その甲斐があったのか、霧はアクーの体を離れると上昇を始め、シュベルを包む黒い球体の傍まで来ると止まった。
肩で息をしながら上体を起こしたアクーにココロが駆け寄る。
「アクー、大丈夫?」
「う、うん…」
「あれは一体…?」
上着を片手に黒い霧を見上げたキイタが言った。
「蠅だ」
アクーが小さく答えた。
「蠅?」
「ああ、蠅の群れだよ」
言われれば、小さく震えるように揺れる黒い霧からはうるさい程の羽音が聞こえていた。
それに気づいた三人の目の前で、蠅の群れが何かの形に集まり始めた。それは見る間に人のような姿に変形していく。
「これはこれはシュベル様、よもやこのような場所でお目にかかれるとは光栄の至り」
人型に集まった蠅の群れから声がした。ゆったりとした、優雅な響きを持つ高貴な男の声であった。
「何だ君、ラビュートか」
球体の中からシュベルが蠅の群れに向かって言った。
「ご無沙汰いたしております」
「そっちこそ何やってんの、こんなところで?」
「私めは奈落の館主。突然に地獄の門が開かれたものでかわいい私の兵隊達に様子を見に行かせてみれば…。何とも呆れ果てたカルマっぷり。これは一体何の騒ぎです?」
「凄いだろう?天上と地獄の門が一度に開いて、ANTIQUEとレヴレント達と人間とアテイルが戦ってるんだぜ?」
能天気な声でシュベルが答えると、人型になった蠅の群れはため息をつくような仕草を見せクロノワールに語りかけてきた。
「アテイルの首領が付いていながら、何とも情けない」
すると言われたクロノワールが珍しく感情的な声で言い返した。
「黙れラビュート!私の落ち度ではない!」
「随分と苦戦をしているようだが、助太刀は必要かな?」
蠅の集団が冗談のように尊大な態度を見せる。クロノワールの表情がその一言で一変した。
「いらぬ心配だわ!」
そう一喝し振るった剣の先でシルバーとガイの巨体が吹き飛ばされる。地に転がったガイは、痛みの余り今度こそ動けなくなった。しかしシルバーはすぐに起き上がると、戦意を失う事なく即座にクロノワールへ剣先を向けた。
無傷のシルバーを見たクロノワールは、彼が纏う光の鎧の防御力にたじろぎ目を剥いた。
「ほらほら、そんな事で本当にシュベル様をお守りできるのかな?」
ラビュートと呼ばれた蠅の集団がからかうような声を出した。その時、一本の矢が風切り音と共にラビュートの顔面を通過した。
「おっと」
人型の蠅がジロリとアクーの方に顔を向ける。
「無駄ですよ坊や。私の実態はここにはない」
「あなたは誰?」
ココロが叫ぶ。
「私?私は誇り高きゼクトゥム一族の王、名はラビュートと申します。どうぞお見知りおきを、ANTIQUEのお嬢さん」
「ゼクトゥム?」
「ここにいるアテイルの連中と同じく、この度シュベル様のお力をお借りし久々にこの宇宙へと舞い戻ってまいりました」
「魔族か?」
アクーが叫ぶ。アテイル、フェズヴェティノスに続く三種の魔族、最後の一族がこのラビュートの率いるゼクトゥム一族と言う事らしい。
「そう言う呼ばれ方は好きではありませんねえ。あなた達などよりも遥かな昔から存在する一族の王ですよ?敵とは言え、もう少し敬意を表していただいても良いと思うのですが?」
いちいち癇に障るラビュートの言い草に、アクーは怒りを込めて次の矢を番えた。その姿を見たラビュートが高笑いを上げる。
「無駄だと言ったでしょう?私に矢を打ち込みたいのならば、早く海を渡っていらっしゃい」
「何!?」
「海の向こう、東の大国であなた方をお待ちしております。それではご機嫌よう、いずれまた。シュベル様、これにて失礼いたします。さあ帰っておいで、私のかわいい兵隊さん達」
「待て!」
アクーの叫びも空しく、蠅の集団はいきなりその形を崩すと、ココロが降りてきた階段を通って地上へと姿を消してしまった。
「ダキルダ!私の声が聞こえぬか!シュベル様の離脱を!」
クロノワールが再び叫んだ。その叫びを掻き消すような雄叫びにクロノワールが振り向くと、地に降りたダキルダに向かい土の能力者が突進しているのが見えた。
クロノワールは突然 踵を返すと大地を追って駆け出した。
「待て!」
突如背を向け走り出したクロノワールにシルバーが叫ぶ。
大地が巨大な右手を振り下ろすと地面罅割れ、その亀裂の先に立つダキルダの足元が大きく隆起しだした。ダキルダはその崩壊に巻き込まれまいと大きく飛び上がった。
ガラガラと音を立てて地面が崩れていく。大地が地に打ち付けた腕をもう一度頭上に向け振り上げると、崩れてできた石の破片達が空中へ逃れたダキルダを追うように宙に舞い上がった。
「ぐっ!」
下から襲い来る石片に再び撃ち抜かれたダキルダは体を丸めてその衝撃と痛みに耐えた。
大地の背中から高く跳躍したクロノワールが剣を振りかざし襲い掛かる。
「大地!!」
シルバー、アクー、ココロ、キイタの四人が同時に大地の名前を叫ぶ。その声に振り向いた大地は、頭上から襲い来るクロノワールに気が付き慌てて右腕で自分の頭を庇った。
振り上げた大地の腕にクロノワールの一撃が炸裂する。ガーディアンクロウジャルが生み出した光の鎧を纏っていたにも関わらず、大地の右腕を守る岩のプロテクターは一瞬で粉微塵になって砕け散った。
激しい衝撃に大地が悲鳴を上げて地に倒れる。着地すると同時にクロノワールは片膝をついた大地の顔面に切っ先を向けた。光の鎧は纏っていた。しかし、どのような武具も必ず貫く自信がクロノワールにはあった。
クロノワールの瞳が爬虫類のように縦に細長く変形した。一瞬で極限にまで集中力を高めたその瞳は、大地を包む光の目を読み解いた。クロノワールは一点に向け剣を突き出そうとした。
その時、突然大地の体が黒い球体に包まれた。
「何!?」
クロノワールが驚きの声を上げた瞬間、大地の姿は目の前から消え去った。
慌ててクロノワールが振り向く。ダキルダのすぐ傍に球体に包まれた土の能力者がいた。
「土の能力者、よくも…!」
ダキルダが珍しく感情的な声を出した。どうやら怒りの余りクロノワールにとって千歳一隅のチャンスを潰してしまったようだった。
「何をしているダキルダ!取り乱すな!」
クロノワールの一喝にハッと我に返ったダキルダが顔を向ける。その瞬間ダキルダはクロノワールの背後で起きる事態に気が付き叫び返した。
「クロノワール様、シュベル様が!」
ダキルダの叫びにクロノワールがシュベルを振り仰ぐ。剣を交える事はない、シュベルを取り戻すのみと言っておきながらANTIQUEが身に纏う光の鎧の攻略にいつしか我を忘れていた。取り乱していたのは自分自身だった。
「水の能力者がお命を狙っています!」
そんなダキルダの言葉にアクーは思い出したように慌ててシュベルに矢を向けた。そうだ、今なら奴を討てる。そう考えたアクーは再度狙いを定める。
「離脱を!」
ダキルダはもう一方の手から生み出した球体でクロノワールを包み込むと、一気にシュベルの傍まで舞い上がらせた。
シュベルを狙って放たれたアクーの矢は、突然現れたクロノワールの鎧に当たり跳ね返された。
「ああ!」
惜しかった。あと一秒、いや〇・五秒でも早く矢を放っていればシュベルに命中していた。見ていた全員が悔しい悲鳴を上げた。
射ち漏らしたアクーが弓を下ろした時、既にシュベルとクロノワールの姿はそこにはなかった。
「大地!」
シルバーが叫びながら走り寄ってくる。しかし、当の大地を囚われてしまっては手も足もでなかった。
「やいこらダキルダ!ここから出せ!てめえぶん殴ってやる!俺と勝負しろこの野郎!」
普段の冷静さはどこへ行ったものか、黒い球体に囚われながらも大地はダキルダに向かって叫び続けた。
シルバーを見つめていたダキルダが、地面より少し上で漂う大地を見上げた。
「大地…」
ダキルダがポツリと呟いた。
「あぁっ!?」
「土の能力者、お前の名は大地と言うのか…?」
「それがどうした!」
「覚えておこう」
「おう!覚えておけ!俺の名前は大地だ!吉田大地だ!お前の事を一番ぶん殴りたいと思っている男だ!よく覚えておけ!」
ダキルダが憎々し気に歯を食いしばった。
「余計な事を…」
「何!?」
目深にかぶった兜の影から、ダキルダの片眼が光った。
「今すべき事に集中しろ!」
ダキルダが叫んだ途端大地の姿は再び消え、次の瞬間にはシルバーの頭上に姿を現した。
既に球体はなく、突然上から降ってきた大地の体を受け止めたシルバーはバランスを崩し二人 揃って地に転がった。
慌てて起き上がる大地の目線の先でダキルダが浮いていた。
「待てダキルダ!」
大地は再び右腕にテテメコの力を溜め始めた。その腕が黄色い光を放ちだす。すぐさま戦闘態勢に戻ろうとする大地の姿にも慌てる事なく、落ち着いた様子で地面を離れていくダキルダは、自分を見上げる能力者達一人一人の顔を順に見回した。
大地、シルバー、アクー、ガイ、キイタ…。最後にココロと目を合わせた。
「ココロ…」
「え?」
ダキルダの口がそう動いたように見えた。そう思った時、ダキルダの姿は一瞬にして目の前から消え失せた。
「ダキルダ!戻ってこいこの野郎!ダキルダァー!」
「大地、大地!落ち着け!」
ダキルダの消えた辺りに向かい手足をばたつかせて毒づく大地をシルバーが慌てて宥める。
「大地、どう言うつもりかはわからんがあいつの言う通りだ。今はアテイルよりも生命のANTIQUEが優先だ」
大地にもわかっていた。それでもこの胸の奥底から湧き出てくるような怒りを抑える事ができなかった。
「くそっ!!」
短く叫んだ大地はシルバーを押しのけると大股で大樹に歩み寄って行った。歩きながら大地の右腕がどんどん大きく膨らんでいく。
大樹の傍まで来た大地は、いきなり言葉もなくテテメコの力を宿した右手の拳で大樹の幹を思いきり殴りつけた。
岩石に覆われた拳を喰らった大樹の幹が細かい木片を飛ばす。
「いい加減にしろこの根暗野郎!いつまでそんなところに引きこもって我がままぶっこき続けるつもりだ!」
大樹を見上げ叫んだ大地は、再び拳を振り上げると二度、三度と幹を殴り続けた。
「言いたい、事が、あるなら、俺達の前に出てきて、はっきりと言いやがれ!腐れ根性のひねくれ者がぁ!」
大地が殴りつける度、幹を形成する絡み合った細い枝が折れ飛ぶ。大地の余りの激情振りに唖然としていたシルバーが、ふとアクーと目を見交わす。
「結局、これしかないのかもね」
「ああ…」
アクーの呟きに頷いたシルバーは、一度大樹に左手を添えると、右手で振り上げた剣を力の限りその幹に叩きつけた。




