ANTIQUEの正体
●登場人物
能力者
・ココロ…始まりの存在に選ばれた公国公女。
・吉田大地…土のANTIQUEに選ばれた能力者。
・シルバー…鋼のANTIQUEに選ばれた能力者。
・キイタ…火のANTIQUEに選ばれた能力者。
・ガイ…雷のANTIQUEに選ばれた能力者。
・アクー…水のANTIQUEに選ばれた能力者。
ANTIQUE
・ゲンム…ココロをバディに選んだ始まりの存在と呼ばれるANTIQUEのリーダー。
・テテメコ…大地をバディに選んだ土のANTIQUE。
・デュール…シルバーをバディに選んだ鋼のANTIQUE。
・フェルディ…キイタをバディに選んだ火のANTIQUE。
・ウナジュウ…ガイをバディに選んだ雷のANTIQUE。
・ハル…アクーをバディに選んだ水のANTIQUE。
レヴレント
・クロウス…アガスティア王国 近衛隊の隊長。
・ジーン…クロウスの部下。副隊長を務める。
・七番目の能力者…大樹の中に身を隠す七人目の能力者。その正体は未だ不明。
・謎のANTIQUE…巨大な恐竜のような姿をしたANTIQUE。正体不明の能力者に操作され暴走を繰り返している。
前回までのあらすじ
エイクが口にした「地獄の門」その大穴の中から現れたのは恐竜のような姿をした恐ろしい巨大生物だった。優に十mはあろうかと言うその生物は巨大は体を引きずり、エミカ達が登った天上への階段へと向かって行った。
突如出現した謎の巨大生物に矢を射かけようとしたアクーの耳に、バディである水のANTIQUE、ハルの声が響く。ハルはアクーに言った、あの巨大生物はANTIQUEであり、物理的攻撃は一切通用しないと。
同じ頃、アクーとは離れた場所から怪物の動向を見ていた大地もまた怪物のつける足跡からそれがANTIQUEである事を察知する。
ゲンム、デュール、フェルディの三体のANTIQUE達は謎の巨大ANTIQUEの進撃を食い止めようとそれぞれのバディの元を離れ集結する。誰も望む事のないANTIQUE同士の戦いが始まろうとしていた。
その時、レヴレントを全員レメルグレッタに閉じ込めようと考える生命の樹が振り上げた巨大な根が信じられない力で地面を叩いた。
巨大地震のように地面は揺れ、飛び散った岩石が容赦なくココロ達能力者に襲い掛かる。ANTIQUEが離れた事で能力を発動できないシルバーは生身のままココロを庇い背中に石片を喰らって倒れてしまう。
テテメコが離れずにいたお陰で何とか石片の攻撃を防いだ大地は、ANTIQUEと違い大樹は物理的攻撃が通用する事を知り、一人アクーの元へと走り出す。しかしそれを待たず大樹は再び根を振り上げ二度目の攻撃態勢に入った。
止まない揺れの中、ココロは大空洞に散らばる仲間達の姿を求めて顔を巡らせる。揺れに足を取られながら必死に走る大地。ガイは倒れたまま未だに動く気配を見せない。大樹の幹に掴まっていたキイタは宙吊りとなり、岩石の破片を顔面に受けたらしいアクーは大出血を起こしている。そして自分の足元には自分の身代わりとなり倒れたままのシルバーが動けずにいた。
傷ついていく仲間達の姿にココロは狼狽えた。何とかしなければと必死に考えた。しかし、ゲンムも離れ、何の力も持たないココロにできる事など何も思いつかなかった。
その時、笛のように高いミニートの声がココロの頭の中に響き渡った。
ココロの耳に高い声が響いた直後、続いて鈴を鳴らすような美しい音色が連続して聞こえ始めた。
シャン、シャン、シャン…。
ココロはそっと音のする方に目を移した。そこではココロの手を離れ地に倒れた錫杖が、地面の揺れに合わせ鉄輪を鳴らしていた。
シャン、シャン、シャン…
ココロはシルバーから離れ、這うようにしてアガスティアの王女姉妹から託されたガーディアンクロウジャルへと手を伸ばした。
膝立ちになったココロは、自分の目の前にガーディアンクロウジャルを突き立てた。
(アガスティアの力よ、その血を引く正式なる継承者の名の下において命ずる。聖なる光をもて、漆黒の脅威より、今ここに集いし約束の勇者達を守護せよ!)
ココロの命令に応えるように、いくつも重なり取り付けられた鉄輪が一つ大きく音を鳴らした。
美しい装飾の施されたガーディアンクロウジャルの頭部が眩い光を放ち始める。光は大きく膨らみ、見る間に成長していく。
はち切れんばかりに膨らみきった白い光は次の瞬間、ココロの手に軽い衝撃を伝えながら一気に破裂するとその光を四方へと飛ばした。
ガーディアンクロウジャルから飛び出した光の玉の一つはすぐ足元に倒れるシルバーの体に当たった。その瞬間、シルバーの体が眩しい光に包まれた。
呆然とその様子を見つめていたココロ自身、いつの間にか体全体を光の膜に包まれていた。
細い回廊を走る大地、その先で倒れたままのガイ、必死に樹の幹に掴まるキイタ、ふらつく足取りで大樹の根本に佇むアクー。
光の玉は次々とANTIQUEの能力者達の体を包み込んでいく。
「これは…」
立ち止まった大地は、自分の体を覆う光の鎧に目を奪われた。その瞬間、ひと際大きな音と共にまた地面が大きく揺れた。大樹が再び無数の太い根を地面に叩きつけたのだ。
「大地!」
テテメコが叫ぶ。もの凄いスピードで人の頭程の大きさの岩が大地めがけて飛んできた。土の能力を発動させる暇もなかった。
「うわぁ!」
大地は叫びながら咄嗟に両手で頭を庇った。しかし生身の腕で防げるような衝撃ではない筈だ。大地は次に襲い来る痛みを覚悟した。
しかし、意に反して大きな石の塊は大地の体にぶつかった瞬間粉々に砕け散った。まるで鋼鉄に叩きつけた泥玉のようにいとも簡単に。
恐る恐る顔を上げた大地は自分の体を調べた。どこも怪我をした様子はない。痛みも全く感じはしなかった。
「これが、ガーディアンクロウジャルの力…」
ココロは自分の発生させた能力の威力に驚き、声を失った。
自分の無事を確認した大地はすぐに顔を目指すべき先へと向けなおした。その目線の先で、ガイがゆっくりと体を起こし始めるのが見えた。
「ガイ!」
大地は叫ぶと階段を一度素通りし、その奥に倒れるガイの元へと駆けつけた。彼の大きな体も今、ココロの放った光の鎧に守られてる。
「大地…、こりゃ一体何だ?」
「アガスティアの聖なる力だ。ココロの中に流れるアガスティアの血が、俺達を守ってくれているんだよ」
大地の答えにガイがまだ何か言いかけたその時、大勢の男達の怒声にも似た雄叫びに二人は驚いてその方を見た。
見れば、丁度対岸にあたる天上への階段の登り口で、緑色に光る巨大な塊と地中から這い出して来た謎の生物が今正に激突し、交戦を始めたところであった。
近衛兵の一団に襲い掛かられた巨大生物は大きな口を開け威嚇の声を上げると、意外にも俊敏な動きで体を反転させ、ハンマーのような巨大なこぶがついた尾を振り回した。
緑色の光の玉が散り散りに飛散する。その内の一つを口に咥えた巨大生物は頭を振り、遠方に投げ飛ばした。
放り投げられた近衛兵の亡霊は、叫び声を上げながら地面に開いた巨大な割れ目から奈落へと落ちていく。
「これでは動きを止める事ができない!」
謎のANTIQUEの真上につけたゲンムが苛立った声を出した。
「奴に直接私の声を伝えたいが、レヴレントの攻撃に興奮し我を忘れてしまっている」
「俺が抑え込む」
デュールが大槌を持ち直すと上空から襲い掛かる構えをとった。
「無駄だ、暴れまわっている内はお前の力でも奴を抑え込む事はできない。私の声を聞かせる為には何とか隙をついて地中へ押し戻すしかないが、それには一度奴の足を止めなくては…」
黙ってゲンムとデュールの会話を聞いていたフェルディは、一度その場を離れると大地とガイの元へとやって来た。
「雷!力を貸せ」
「あ?」
フェルディの言葉に、疲弊しきった顔を上げたガイが訊き返す。その時、ガイの右手に嵌められた指輪が光り雷のANTIQUE、ウナジュウが姿を現した。
「あのなあ…」
出てくるなり不満げな声をあげたウナジュウを無視してフェルディは話し始める。
「お前の“ケ”が枯れかけている事は承知の上だ。雷の力を貸せとは言わん、あの間抜けの足を抑えろ」
ウナジュウは瞳のない鋭い目で暴れまわる謎のANTIQUEを見た。
「あいつは何だ?」
「それはまだわからん。私やデュールの力で抑え込めるものでもない。足を取れ、動きが止まれば私とデュールが攻撃を仕掛ける」
「けっ、ANTIQUE最強の戦士が、聞いて呆れるぜ…」
「泣き言なら後で始まりの存在に聞いてもらうがいい。今は黙って働け」
言うだけ言うとフェルディは再び背を向け元の位置へと戻って行った。
「ふざけやがって、俺は戦わねえ、戦わねえからな!」
そう言ったウナジュウはふと自分を見つめる大地の目線に気が付いた。
「何だその目は?あ?土の能力者。言っておくがお前の仲間であるこの男のせいだからな!ガイが自分の体力も考えずに戦ってばかりいるからこう言う事になっているんだ。文句ならこいつに言え!俺は知らん!」
「…戦わないの?」
「だから何だよその目は!俺を責める気か!?俺が悪いっつうのか?いいか、もう一度言うが…わかったよ、わかったからその目をやめろ、その目を!」
自分を見つめ続ける大地の無言の圧力に屈したウナジュウは、それでもまだブツブツ文句を言いながらフェルディの後を追って飛び出していった。
「すまん大地、ウナジュウの言う事は本当だ。俺も、ちょっと無理をし過ぎた…」
「いいさ、そんなガイに俺達が甘え続けてきただけなんだから」
「大地…」
「いい?ここは俺達に任せて、ガイはここを動かないで。何かしようなんて、絶対に思わないでね?約束だよ?」
そう言うと大地はガイの答えも聞かずにその場を離れ、一度通り過ぎた階段まで戻ると駆け足でそれを下って行った。
「やめろー!みな王の元を離れるな!戻れ!戻れ―!」
クロウスの命を受けたジーンが階段を駆け下り、果敢に巨大ANTIQUEへと挑み掛かる近衛兵士達に向かい怒鳴り声を上げる。
「みんな退けぇ!隊長の命令だ!王の下へ戻れ!」
(イカセナイ、ダレモドコヘモイカセハシナイ!)
「彼は完全に闇に飲み込まれてしまっているわ」
大樹に取り込まれている能力者の声は、一方的な怒りに駆られ最早ココロの呼び掛けに応える事もない。
「彼の屈折してしまった精神を元に戻す事はできない。その為には、我等がここに残る他手はありますまい」
クロウスが低く呟くのを聞くと、ココロは怒ったような声を出した。
「そんなのは駄目!あの能力者は私が救い出す、必ず私の仲間にしてここから一緒に出るのよ。そしてあなた達は一人残らず国王一家に従い天上に上がるの!それ以外のどのような結末も、私は許しません」
「姫、どちらへ?」
ガーディアンクロウジャルを手に立ち上がったココロにクロウスが声を掛ける。
「私は何としてもあの能力者を救い出してみせる。クロウスさん、あなたは部下達を連れて王の元へ。あの暴れている怪物は私達の仲間に任せて早く」
そう言ってココロも大地が向かった方へ足を踏み出した。そんなココロの前に立ちはだかるようにシルバーが起き上がった。
「シルバー、あなたはまだ動いてはだめ」
シルバーは苦し気に息をしながらココロに言い返した。
「そうは参りません」
そう言ってシルバーは下で展開する想像を絶する戦いに目を向けた。見た事もない巨大な怪物が大口を開け、巨大な尾を振り回しながら暴れ狂う周りには、幾十もの緑に輝く兵士の亡霊が取り巻いている。
地面は次々に割れ、その中から地獄の業火が顔を覗かせている。天上から射し込む美しい光と、奈落の底から獲物を待ちわびる真っ赤な光が彼らの戦う地上で交差し、混ざり合う。
空間は常に揺れ動き、竜のような姿をした怪物が獣の雄叫びを上げていた。その頭上ではゲンムを中心としたANTIQUE達が、実際の戦闘の為集結している。正に混沌とした収集のつかない状況に陥っていた。
「このような戦いに、我等の出る幕はございません。ANTIQUE同士の戦い、そこに加わるは肉体を持たぬレヴレント…。最早、我等には手も足も出せぬ状況となってしまっている…」
「そうよ、あなたが剣を振るう場はここにはないの。だから動かず、ここで待っていて」
シルバーは胸を押さえ、痛みに耐えるように大きく呼吸を繰り返している。ココロが見つめる額には大量の脂汗が滲んでいた。
どうやらガーディアンクロウジャルの力は能力者達の肉体を物理的攻撃から守る効力はあるものの、傷ついた体を回復させる効果は発揮できないようであった。
弱った彼等の力を回復させるには、やはり光のANTIQUEの出現を待つしかないようだ。光のANTIQUEは闇のANTIQUEと一対の存在。即ち、闇のANTIQUEを仲間にする事ができれば、自ずと光のANTIQUEも仲間になると言う事だ。
それを知っている以上、今暴れまわっているANTIQUEが本当に暴走した闇のANTIQUEなのだとしたら、ここで逃す訳には決して行かなかった。
「ココロ様…」
シルバーは心配そうに自分を見上げる主君に声を掛けた。
「私は誓ったのです。もう二度と、あなたの傍を離れはしないと。例え足手まといであろうとこのシルバー、命ある限り、ココロ様をお守りいたします」
「シルバー…」
「ココロ様」
二人のやり取りを傍で聞いていたクロウスが静かに声を掛けてきた。
「彼をお連れください。これが兵士の性。主君に従い主君を守り抜く。その為に生き、その為に死する事が兵士にとって何よりの幸せであり、何よりの生き甲斐である事をご理解ください」
ココロはクロウスから再びシルバーに顔を戻した。
「どうか、約束を果たさせてやってください」
クロウスの声を背中で聞いたココロは、溢れそうになる涙を必死に堪えた。そう呟いたこの男は、そんな約束を果たす事ができずに地上に残った兵士。
天上へも地獄へも逝く事を許されず、三百年の時を無念と後悔に苛まれながら彷徨い続けた亡者。
そして、今自分の目の前に立つのは命を賭けて自分を守ろうとする兵士。この石の地下空洞に巣食い、闇に生きてきた亡霊の末裔。
ココロは急に表情を引き締めると、厳しい声でシルバーに向かって言った。
「私に従いなさいシルバー。私を守る為に戦い、私を守る為に生きなさい。揺るぎない忠誠と服従を改めて今ここに命じます」
シルバーは青白い顔のまま、静かに微笑んだ。
「ただし!」
ココロは更にきつい声音で続けた。
「死ぬ事だけは許しません。これは全てに優先する絶対的命令です。違える事は断じて許しません。万が一にも命令に背き、非願成就を見ずに落命するような事あらば、お前の名と名誉は地よりも深い奈落へ堕とされるものと心得よ!」
シルバーとクロウスは驚いたように口を開けた。従い、戦い、しかし死ぬ事は許されない。凡そ兵士に下される命令ではなかった。
「厳しい主殿だ…」
クロウスが目を逸らしながら口元を歪めて呟く。シルバーが痛みを堪え浅く低頭する。背中に鈍い痛みが走ったが、シルバーの顔から微笑みが消える事はなかった。
「身命に賭けて、お誓いいたします」
シルバーの返事を聞いたココロは、その体を押しのけるようにして走り出した。顔を上げたシルバーの目に黙って自分を見つめるクロウスの姿が映る。
「ご武運を」
クロウスが静かに呟く。シルバーは一つ力強く頷くと、ココロの後を追って駆け出した。
一人その場に残ったクロウスは足元に展開する非常識極まりない壮絶な戦いに目を戻した。その瞳は何か重大な決意を秘め、怪しく輝いていた。
「キイタ!」
ようやく樹を下りてきたキイタに手を伸ばしながらアクーが叫んだ。残り一m程を飛び降りたキイタはそのままアクーの腕の中に倒れ込んだ。
「エイクは?」
命懸けで地上に降りてきたキイタは何よりも先にエイクの身を案じた。
「大丈夫、あそこに」
アクーの見つめる先にエイクが立っていた。呆けたように口を開け、目の前で展開する常軌を逸した戦いを眺めている。
「アクー!キイタ!」
呼ばれて振り向いた二人の元に、大地が駆けつけてくる。
「大地!」
三人は再会を喜び手を取り合った。僅か一日離れていただけであったが、もう随分と長い時間会っていなかったように感じた。
「大地、あの怪物は…」
キイタが恐ろしい叫びを上げながら纏わりつくアガスティア兵士達を蹴散らす怪物を見上げて言った。
「あれは、ANTIQUEだよ」
「え!あれがANTIQUE?」
キイタの反応にアクーが頷いた。
「そう、だから僕達の攻撃は一切効かないんだ」
「それでフェルディ達が向かったのね?」
「ANTIQUE同士が戦うなんて…」
大地が歯ぎしりするように言った。
「奴の目を覚まさせなくてはならない。少々手荒な真似をしてでもね」
三人の背後に立つハルが言った。
「あいつ、完全に自分を見失っちまってる。あんな風になったANTIQUEを見るのは僕も初めてだよ」
大地の肩の上でテテメコが言う。
「テテメコとハルは行かないの?」
大地が素朴な疑問をぶつけると、ハルがキュッと目を細めて答えた。
「荒っぽい事は彼らに任せておきましょう。こちらはこちらで解決すべき問題があるでしょう?」
そう言ってハルは緑に輝く大樹を見上げた。
「能力者が闇に囚われ、ANTIQUEを暴れさせている」
「なら、能力者を止めれば、あの怪物の動きも…」
「止まるだろうね」
アクーの言葉にハルが答えた。
「さあ、ここに残るは三人の人間と二体のANTIQUE、水と土…。どうしたものだろうね?」
ハルが大地を見つめて言った。言われた大地はアクーの顔を見た。アクーも自分を見つめ返している。二人の少年はお互いが知恵の者である事を理解し合っていた。
どうする?見つめ合う目がそう言っていた。この状況で自分達に一体何ができる?
「ココロ!」
突然キイタが叫んだ。見ればココロとシルバーが二人 揃って階段を下り、こちらへ向かって来るのが見えた。
「アクー」
大地はそっとアクーの傍に寄り声を掛けた。アクーは声もなくその顔を見つめ、聞く姿勢を示した。
「今ANTIQUEを連れているのは俺達二人だけだ。このばかでっかい樹の中から能力者を引きずり出して一発ひっぱたいてやる為には、どうしたらいいと思う?」
アクーは大地の質問に少し考えるような顔をして見せた後、逆に訊いてきた。
「大地は?何か考えがある?」
「…それが、何も思いつかない」
「実は僕もだ」
二人がコソコソとそんな話をしているところへ、ココロとシルバーが追い付いてきた。
「ココロ…」
キイタが涙ぐんだ声でココロを出迎える。ココロはそんなキイタに思いきり抱きついた。
「無事でよかった…」
「ごめんね、心配掛けて」
ココロは深い安堵のため息をつくキイタに優しく言った。
「ココロ、ここにいる能力者は一体誰?」
キイタはココロの手から離れるとその顔を見上げて訊ねた。
「それが、まだはっきりとしておりません」
傍にいたシルバーがココロに代わって答えた。ココロは改めて目の前に聳える大樹を見上げた。
「死者を闇から蘇らせる能力といい、今現在のこの暴走ぶりと言い、私は十中八九闇のANTIQUEであると思っているのですが…」
「だからそれは早計だってばシルバー」
大地がすぐに異議を唱える。
「ではお前は何だと思うのだ?」
「いや、それはわからないけどさぁ」
「大地の言う通りよ」
ココロがポツリと呟いた。
「え?」
全員の目がココロに向けられる。
「彼は闇じゃない…。だって、光を連れていないもの…」
その彼女の一言に全員がハッと息を飲んだ。そうだ、これがもし闇のANTIQUEであるならば、それと対で存在する筈の光のANTIQUEが近くにいなくてはおかしい。しかし、今彼らの周りにその気配は一切なかった。
「じゃ、じゃあ一体あいつは何のANTIQUEなの?」
アクーが暴れる怪物を指さしながらココロに訊く。それでもココロは樹を見上げ続けていた。
「あの能力者はまともにココロ様と話そうともしないのだ。わかる訳がなかろう」
「いいえ、わかるわ」
シルバーの答えをココロが否定した。再び全員がココロを見る。
「能力者が、答えたの?」
大地の質問にココロは黙って首を横に振る。
「じゃあ…」
「でも、わかるの。私にはわかる」
「ココロ…」
何かに憑かれたように上を見上げながら呟くココロに、キイタが心配そうな声を出す。
ココロの頭の中にマヌバラやクロウスから聞かされた言葉が渦を巻く。
(僅か一日にしてこのような姿に成長したのです…)
(この樹こそ我等の縁。この樹は正に…)
「ココロ?」
急に黙り込んだココロにキイタが声を掛ける。ココロは一度キイタの顔を見ると、その目を背後で暴れる怪物に向けた。
「これだけの巨木を僅か一日で芽生えさせる力強さ、ANTIQUE最強である火の力をもってしも抑え込む事のできない強かさ…。間違いない、彼は私達のANTIQUE…」
そこでココロは一度深く息を吸い込むと、はっきりとした声で言った。
「彼の名は…“生命”」




