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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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地獄の門

●登場人物

・ココロ…この世の根源である始まりの存在に選ばれた能力者。成人前の公国公女。

・吉田大地…土のANTIQUEに選ばれた能力者。唯一の地球人。

・シルバー…鋼のANTIQUEに選ばれた能力者。

・キイタ…火のANTIQUEに選ばれた能力者。

・ガイ…雷のANTIQUEに選ばれた能力者。

・アクー…水のANTIQUEに選ばれた能力者。


・クロウス…アガスティア国王近衛隊の隊長。

・ジーン…クロウスの部下。副隊長。


・生命の樹…死の闇の中からクロウス達をレヴレントとして蘇らせた謎の大木。



前回までのあらすじ

 エルフィン王妃の目覚めと共に彼女の夢と妄想もうそうに支えられ形成されていたラヴレンドルブルットは一気に崩壊ほうかいを始めた。それと同時にそこで生活していた多くのレヴレント達も次々にその肉体を失い天上へと還って行く。

 天上界から迎えに来た亡きカンサルク王と幼い息子達の姿にエルフィンは自ら現世に別れを告げ夫の元へと上がって行く。エミカに命じられラヴレンドルブルットの維持いじ執念しゅうねんを燃やしていたマヌバラもまた王妃に従いこの世を去って行った。

 エミカとその妹である初代ココロは現世を生きる自分達の子孫であるココロに一本の錫杖しゃくじょうたくす。それは三百年の時をエミカに従いミニートと名付けられた幻の珍獣ヴィゼレットが変化した姿だった。

 エミカと初代ココロは血族であるココロにこの錫杖しゃくじょうを使い仲間を守れと言い残し両親の待つ天上へと還って行った。

 戦闘においてはただ仲間に助けてもらう事しかできなかったココロは、こうしてガーディアンクロウジャルと呼ばれるアガスティアの血を引く者にしか扱う事のできない錫杖しゃくじょうを新たなる武器として手にしする事となった。

 天上へと還って行く国王一家の姿を見たクロウスは、部下である兵士達全員に王の元へ向かうよう命令を下す。五十名の近衛このえ兵の幽霊達は緑に輝く巨大な光の珠となって天上へと続く階段をけ上がって行く。

 部下の昇天を見届けたクロウスとジーンは、剣を交えたシルバーに今生こんじょうの別れを告げ、やはり王を追って天上への階段を登って行った。

 その時、突然ココロの頭の中に七人目の能力者の声が響き渡った。







 

「隊長?」

 ジーンは、急に立ち止まった上官に向かって声を掛けた。夢にまで見た王との再会まで、あとほんの数歩だった。それでもクロウスは足を止めると振り返った。

 はるか見下ろす先では、巨大な生命の樹が今までにない程強烈な光を放ち始めていた。

(マタミンナボクヲオイテイク。モウイヤダ、オイテイカレルノハモウイヤダ。モウヒトリハ…イ、ヤ、ダ…)

「あなたには私がいる!」

 ココロは突然話し始めた生命の樹に向かって叫んだ。いや、実際は生命の樹に取り込まれている七人目の能力者の声なのだ。それはココロにしか届かない声だった。

「私達がいる!あなたを一人になんかしない!私達と一緒に来て!あなたは私達の仲間よ!」

「ココロ…能力者なの?能力者と話しているの!?」

 突然一人叫び始めたココロの様子ようす戸惑とまどっていた大地にもようやく事情が呑み込めたらしい。そしてココロもやっと大地の問い掛けに答えた。

「ええ、あそこ」

 そう言ってココロは指をさす。

「彼は、あの樹の中にいるの!」

「ええっ!?」

「そんな!」

 大地とシルバーが同時に声を上げた。

「な、何だ?一体何の話をしているんだシルバー!」

 ガイが怒ったような声でく。シルバーは目の前で光を増していく大樹を見上げたまま答えた。

「ココロ様は、初めからこの城に七人目の能力者がいると感じておられた」

「何!?」

「七人目の、能力者?」

 ガイの叫びとキイタの声が重なる。シルバーは吸い寄せられるように生命の樹へと近づきながらうなずいた。

「そして今、ココロ様は言ったのだ。その能力者は…、この樹の中にいるのだと」

「樹の中に?」

 アクーもつられるように見上げる。

「ココロ、彼は何て言っているの?」

 大地が期待を込めてココロにたずねるが、ココロは困ったような顔を大地に向けると、何と言ってよいのかわからない様子ようす口籠くちごもった。

「それが…」

 そう言いかけた時、再び謎の能力者が話し始めた。ココロは慌てて大地から顔をらせると、一言も聞き逃すまいと意識を集中させた。

(ダレモイカセナイ、モウヒトリハイヤダ、ヒトリハイヤダ…)

「私の話しを聞いて!お願い!あなたは一人なんかじゃない!ANTIQUEの声に耳を貸して!」

(…アンティーク…)

「そうよ!あなたのそばにいるでしょう!?あなたを選んだANTIQUEが!!」

 ココロが叫ぶと、能力者は突然苦し気にうめき始めた。

「一体、何のANTIQUEの能力者なんだ?」

 ガイがぽつりとつぶやく。

「それよりも、一体どうやってこの中から出したらいいんだよ?」

 アクーがその光輝く幹に手をあて、途方とほうに暮れた声を出した。樹の周りに集まる四人の能力者の背を、少し離れた場所からエイクが無言で見つめている。

 クロウス達兵士の亡霊がみな主君を求め天上への階段へ殺到さっとうしたため、大地の作ったこの広い場所には今、彼等五人の人間だけが取り残されていた。

 その時、沈黙していた能力者が再び声を上げた。怒りにも似た、それでいて悲しみを含んだような声で彼は叫んだ。

(ダレモイカセナイ、ミンナ…、ミンナボクトイッショニココデクラスンダ!)

 その声を聞いたココロはハッとした。樹のすぐそばに四人の仲間が集まりつつある。

「みんなダメ!そこから離れて!!」

「え?」

 ココロの声にキイタが振り向いたその瞬間だった。突然五人が立っている場所が大きな音を立ててくずれ始めた。

「うおっ!?」

「きゃあ!」

「うわあああ!」

 シルバー、キイタ、ガイ、アクー、エイク。それぞれに叫び声を上げながら、くずれる地面と共に落ちていく。

「テテメコ!」

 咄嗟とっさに能力を発動させた大地がその手を足元の階段に打ち付けた。地面の崩壊ほうかいが止まる。それと同時に下からせり上がってきた新たな地面が落ちていくガイの体を受け止めた。

「痛ぇ!」

 大地の作った地面の上に背中から叩きつけられたガイが悲鳴を上げる。ガイを乗せた細く高い柱のような岩は、そのまま大地達がいるのとは反対側にゆっくりと倒れて行った。

 同じような巨大な柱の頂点にはシルバーが取り付いている。シルバーを乗せた柱は、こちらもゆっくりとガイとはまた違う方向に倒れ始めた。

 どうやら大地が作り上げた地面だけがくずれだしているようだ。テテメコの力で一度は崩壊ほうかいを止めた地面が、再び不気味な地鳴りと共にくずれだす。ココロや大地がこの大空洞に入って来た時にあった入り口付近の長い階段が姿を見せ始めた。

 その階段の頂点にあったテラス状の足場から左右に空洞内の壁に沿って走る、回廊かいろうのような細い出っ張りを残したまま、大地がせり上げた地面があちこちで抜け落ちるようにくずれていく。

 アクーは身軽に砕け落ちる岩を渡り、くずれずに残る回廊かいろうへと自力で辿たどりついた。

「みんな‼」

 必死に壁にかじり付いたアクーが振り向きながら叫ぶ。そんな彼のすぐそばに巨大な柱が倒れ掛かってきた。

 柱はアクーのすぐ脇の岩壁に激突して粉々に砕け散った。いくつもの岩と化した柱がはるか足の下へと落ちていく。

 砕けた柱の上に乗っていたらしいガイの体がアクーの足元に転がってきた。アクーは必死に手を伸ばし、ガイの服をつかんで落下を防いだ。ガイは痛みの余り声も出せないようだった。

「ココロ!」

「うん!」

 大地は呼びかけに応えたココロの手をにぎると、大樹の生えている方とは別の方向に広がる自分の作った地面を走り始めた。二人のけ抜けるすぐ後から、地面が次々とくずれ落ちていく。

 そんな二人の向かう先に、巨大な柱がゆっくりと倒れてくる。大地が仲間を救うために作り出した石の柱の一本だ。

「ココロ様ぁー!!」

 倒れ来る柱の先に乗ったシルバーがけ寄ってくるココロに向かって叫んだ。シルバーは自分の乗った柱がココロと大地が走る地面に激突する間際で宙に舞った。

 うまく地面に着地した、はずだった。しかし、倒れた柱が激突したその場所からシルバーの降り立った地面それ自体がくずれ始めた。

「うわ!」

 バランスを失ったシルバーが瓦礫がれきと共に落下を始める。シルバーのすぐそばまで走り寄ってきていたココロと大地も同じくその崩壊ほうかいに巻き込まれた。

「ココロ!」

 大地は咄嗟とっさにココロを突き飛ばした。

「わ、わ、わ…」

 必死に空をくが、そんな抵抗も空しく大地の体は地に倒れ、くずれていく地面の傾斜けいしゃともない下へとすべっていく。

「いやあ!大地‼」

 必死に伸ばしたココロの手は届かなかった。大地はそのままシルバーと共に何もない空中へと放り出された。そこには、大地が叩くべき地面はなかった。

「ジーン!」

 階段の上からこの様子ようすを見ていたクロウスが叫んだ。次の瞬間、彼の体は階段を蹴り、崩壊ほうかいしていく眼下の景色に向かって飛び出していた。

「はっ!」

 すぐに上官の意志を察したジーンもそれに続く。

「大地!シルバー!」

 キイタは落ちていくシルバーと大地の姿を見て叫んでいた。彼女は足場がくずれ始めてすぐ、目の前の大樹につかまっていた。

 キイタの足の下に既に地面はなかった。しかし直径五~六㎝程の枝がからみ合ってできた幹にはつかまるところも足を掛けておける場所も豊富にあった。

 気が付けば、最も樹から離れていたはずのエイクも、十m程下の幹に自分と同じようにしがみついていた。

 そんな状況の中でキイタは見た。くずれ落ちる岩と一緒に闇に飲み込まれていく二人の仲間の体が、何もない空中で緑色の光に包まれるのを。そしてその瞬間、緑に輝く二人の体は重力に逆らい上昇を始めていた。

「ジーン殿…」

 死を覚悟したシルバーは自分の体を包み込む緑の輝きの中に、先程剣を交えた相手の姿を見た。同じく大地もクロウスの腕の中に抱かれ、信じられない事に宙を飛んでいた。

 二つの光はそのまま取り残されたココロの元へと舞い降りる。それと同時に大地とシルバーの体も無事に地に降り立った。

「大地!シルバー!」

 ココロが泣き顔で走り寄って来る。そんなココロを抱きとめた二人は同時に叫んだ。

「ココロ、危ない!」

「ココロ様、危険です!こちらへ!」

 まだ崩壊ほうかいの止まらない地面を走り、三人は壁際の回廊かいろうまでやって来た。今まで自分達が立っていた場所が跡形あとかたもなくくずれ、はるか足の下へと落ちていく。

「危なかった…」

 ココロの体を抱きとめたままシルバーがつぶやく。大地もこわごわ々と足の下をのぞき込んた。地面は見える、しかし落ちて助かる高さとも思えなかった。

「命拾いをした、ジーン殿。礼を言う」

 ようやく落ち着いたシルバーがすぐ脇に立つジーンに向かって言った。それを聞いた大地も思い出したようにクロウスに礼を言う。

「クロウスさんもありがとう。ほんと、死んだと思ったよ」

「私は隊長に従ったまでです」

 ジーンが控えめに言う。自分の手をじっと見つめていたクロウスが独り言のようにつぶやいた。

「まだ、私達の手で救える命があった…。このまやかしの手で…」

 マヌバラ達女中とは違い、兵士達は手甲てっこう籠手こてを着けている。彼らの想いがこもったこれら武具には実体があった。

「私達の、血塗られたこの手でも…」

 上官のそんなつぶやきにジーンも自分の手を見つめる。多くの敵をほふり、最後には同胞どうほう達の命までも奪った罪深き手。彼らの見つめるその手に、温かく血の通った手が重なった。

 驚いたクロウスが顔を上げる。そこには涙をいっぱいにあふれさせたココロの顔があった。

「ありがとう…。彼らは私の命です。今あなた方は、彼らと共にこの私の命も救ってくれたのです。ありがとう…」

「姫…」

 呆然ぼうぜんとした顔のクロウスの手に大地の手が重なる。シルバーも強くジーンの手を取ると、共にクロウスの手にその手を重ねた。

「エイク!」

 突然聞こえたキイタの悲鳴に近い叫び声に、三人の能力者と二人の亡霊は同時に声の方に顔を向けた。

「何をしているのエイク!戻って!」

 見れば、樹の中程にしがみついていたキイタが自分の下方に向かって叫び続けている。大地はキイタの見つめる先へ目を移した。

 キイタよりもずっと下の方で同じように樹につかまっている青年の姿が見えた。青年は今、地面を目指し慎重な手つきで樹を下り始めていた。

「彼は?」

 大地が青年の姿を見つめたままく。シルバーも同じようにしながら答えた。

「名前はエイク。大地がココロ様と消えてしまった後、あの荒野で出会ったのだ。近所の村に住む若者と聞いていたが…」

 キイタはエイクの身を案じ、自分も彼の後を追おうと手を離した。その瞬間、大樹が根を張る地面が大きくれた。

「きゃあっ!」

 その振動に振り落とされそうになったキイタが悲鳴をあげながら必死に樹につかまりなおす。

「キイタ!」

 大地が叫ぶ。その様子ようすを見ていたアクーも同じく大声を張り上げた。

「だめだキイタ!動かないで!」

 今、回廊かいろうに立つアクーの真正面に位置するキイタとの間には何もない空間が広がっている。さっきまで地続きだったその場所は、突然の崩壊ほうかいにより跡形あとかたもなくくずれ去っていた。

 尚もキイタに向かって叫ぼうとしたアクーの服が強い力でつかまれた。何事かと足元を見ると、苦し気に顔をゆがめるガイが震える手でアクーのズボンをにぎりしめていた。

「アクー…」

「ガイ?」

「頼む…、キイタ、キイタを…助けて…」

 そう切れ切れに言うと、ガイは再び力なく手を離した。アクーは慌てて周囲を見回す。左側に目を転じると、はるか遠く自分達と同じように壁際の回廊かいろうに立ちすくむココロ達三人の姿が見える。

 自分や彼等が立つ回廊かいろうは壁に沿って大空洞の中を一周している。しかし、その円のほぼ中心に立つ生命の樹までは、どこから行っても辿たどり着く事はできそうにない。アクーのずば抜けた跳躍力ちょうやくりょくをもってしても、とても届くとは思えなかった。

 ココロ達から目を手前に戻したアクーは、そこに下へと伸びる階段を見つけた。あそこを下ればエイクが目指している地面に降りる事ができる。

 巨大な大樹の中程にいるキイタを即座に救い出す事はできないだろうが、取りえず樹の根本までは行く事ができる。それに、エイクの身を守る事ができればキイタも無理をして樹を下りようとはしないだろう。

 瞬時にそう判断したアクーは足元に倒れたガイの体を飛び越えると、風のような速さで階段へと向かいけ下り始めた。

「変だわ…」

 突然ココロがポツリと言った。

「え?」

 キイタの様子ようす注視ちゅうししていた大地とシルバーがココロの顔を見る。

「何が変なの?ココロ」

「あの能力者、言っている事が滅茶苦茶めちゃくちゃなのよ」

滅茶苦茶めちゃくちゃ?」

 シルバーがき返すとココロは無言のまま一つうなずいた。その目はキイタのつかまっている大樹の幹にそそがれている。

「彼は私をこばんでいるわ、私がここに来た時からずっと。でも私がここへ来る前には助けてと言ったのよ」

「ああ、あの”ステ”って、もしかして助けて?」

 大地はココロから教えてもらった能力者の言葉を思い出した。

「そう、最初彼は私に助けを求めた。その声に導かれて私はこの場所まで辿たどり着いたの…。なのにここへ着いた途端とたん彼は私をこばみ始めた。僕のそばに来ないで、放っておいてって」

支離滅裂しりめつれつだな」

 シルバーの声にココロは彼の顔と大地の顔を交互に見ながら続けた。

「それだけじゃないわ。今彼が言っているのは、一人になりたくないと言う事。彼は今怒っている。自分一人を置いてラディレンドルブルットの住人がいなくなってしまう事に怒りを感じている」

「助けてくれと言ってみたり、放っておいてくれと言ってみたり。挙句あげくの果てには一人にしないでくれって?本当に滅茶苦茶めちゃくちゃだ」

「彼は、私達がずっとここにいる事を条件に私達を目覚めさせたのです」

 クロウスがポツリと言った。ジーンが驚いた声を上げる。

「隊長には、聞こえているのですか?」

 クロウスは小さくうなずいた。

「最初に死の闇から蘇った私とマヌバラ殿は彼と約束したのだ。永遠に、共にあろうと」

「その約束を守らずにみんなが天上へ向かおうとしているから、あいつは怒っているって事?」

 大地が納得できない口調で言う。

「死者を闇から蘇らせる能力とは…、まさか闇のANTIQUE…?」

「闇?」

 シルバーの予測に、大地が顔を向ける。

「闇のANTIQUEが暴走を続けていると言うのが事実なのであれば、今の彼の行動も納得ができる」

「闇…」

「エイク!」

 足元から聞こえたアクーの叫びに大地は次の言葉を飲み込み今や崖となった足元から下を見た。そこでは階段をけ下りたアクーが一人 れる地面の上を走り、大樹の根本へと近づいて行く。向かう先では、もうほんの数mで地面に着く辺りまでエイクが下りてきていた。

「待って!何をする気なの!?」

 突然ココロが叫んだ。ココロとクロウスの頭の中には樹の中にとらわれた能力者の声が響いていた。

(マタボクヲオイテイクトイウノナラ、イッソ、イッソ…ミンナジゴクニオチレバイイ!)

 アクーの手を借りエイクが無事地面に降り立ったその瞬間だった。二人の立つ地面の上に幾筋いくすじもの亀裂きれつが広がった。まるで地中をもぐらが走り抜けるように地面に何本もの隆起りゅうきが広がっていく。

「うわ!」

 早いスピードで走るその盛り上がりに足を取られたアクーとエイクが地面に倒れる。そんな彼らの見る先で、地面が今度は大きく持ち上がって行き、大量の土をき散らしながら細長い触手しょくしゅのようなものが何本も姿を現した。

 よく見ればそれは長い樹の根であった。次々と地面を割って伸び上がって行く根はまるで生き物のように周囲に土を跳ね飛ばしながらうねうねとうごめいている。

 と、突然その根より更に奥の地面が耳をろうするような大きな音と共に陥没かんぼつし、そこに途方とほうもない大穴が開いた。大規模だいきぼな地割れを起こしたのだ。

 アクーは余りにも壮大そうだいな自然の猛威もういを前に言葉もなく立ち上がった。十m程先で大きな口を開けた地割れの中から突如とつじょ真っ赤な光があふれ出す。それと同時に、赤く燃えるように輝く穴の中から巨大な獣の雄叫おたけびが聞こえてきた。

「地獄の門が、開いた…」

 まだ地面に両手をついたままエイクがつぶやく。

「え?」

アクーがエイクの顔を見る。彼の顔は何故なぜか愉快そうな笑顔にゆがんでいた。
















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