表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ANTIQUE  作者: OOK&YOK
140/440

ラディレンドルブルットの崩壊

●登場人物

・ココロ…はじまりの存在に選ばれたANTIQUEのリーダー。

・吉田大地…土のANTIQUEに選ばれた能力者。

・シルバー…鋼のANTIQUEに選ばれた能力者。

・キイタ…火のANTIQUEに選ばれた能力者。十三歳の王国王女。

・ガイ…雷のANTIQUEに選ばれた能力者。

・アクー…水のANTIQUEに選ばれた能力者。一切の記憶を失っている謎の多い少年。


・エルフィン…三百年前に滅んだアガスティア王国王妃。

・エミカ…三百年の間平和の為に祈り続けたアガスティア王国の第一王女。

・マヌバラ…アガスティア国王一家につかえる女中頭。

・クロウス…アガスティア王国近衛隊の隊長。

・ジーン…近衛隊の副隊長。クロウスの部下。



前回までのあらすじ

 自らの恐怖に真向から挑み、苦手な幽霊を克服こくふくしようと決意を固めながら大地は一人ココロを救うべく地下大空洞への階段を下りていく。

 一方、エルフィン王妃を目覚めさせ、自らの死に気づいてもらう事こそこのラディレンドルブルットを崩壊ほうかいさせる唯一の手段だと悟ったココロは、何とか王妃の元へ行こうと石でできた階段をけ上がり始めた。

 しかしそんなココロをマヌバラが執拗しつように妨害してくる。遂にはつかまり地面に倒されたココロに、彼女を殺害し仲間に引き入れようとするマヌバラの手が伸びた。

 そこへ現れた大地はテテメコの能力を使いマヌバラを翻弄ほんろうようやくココロとの再会を果たした。必ずココロを守ると宣言した大地は更に迫り来るマヌバラ、更には突入したシルバーを追い攻め込んで来た五十人の近衛このえ兵の亡霊達を相手に奮闘ふんとう、遂にココロをエルフィンの元へと辿たどり着かせた。

 策を講じココロのそばへとけつけた大地は、大勢の敵に囲まれたシルバーを心配するが、その時突然洞窟内に正体不明の少女の声が響き渡った。それと同時に出現したまばゆい光の中から、負傷していたはずのガイが剣を振り上げながら現れたのだった。







 何もない空間に突如とつじょ現れ飛び降りてきたガイは、振りかざした大剣を躊躇ちゅうちょなくクロウスの右肩に振り下ろした。

 ガツンと言う鈍い音と共にクロウスが態勢をくず片膝かたひざをつく。着地したガイもそのまま尻餅しりもちをついた。

「痛ぇっ!畜生ちくしょう!」

 まだ体の自由が利かないガイは悔しそうに叫んだ。その背後では唐突とうとつに出現した激しい水流と強烈な火炎が兵士達の体をぎ倒していた。何人かはその勢いに押され再び崖下へと落ちていく。

「キイタ、アクー!」

 遠目に戦場を見ていた大地が叫ぶ。その戦場の真ん中で、呆然ぼうぜんとしたていたたずむ青年は大地がまだ知らないエイクだ。

「大地!王妃が!」

 ココロの叫び声に大地が振り向く。見ればこの大騒動の中、こんこん々と眠り続けていたエルフィンの眉間みけんしわが寄っているのがわかった。目覚めようとしているのだ。

「王妃…」

 マヌバラが絶望的な顔で対岸からその様子ようすを見上げている。

(戦いをめるのです、アガスティアの兵よ!)

 再びあの声が響いた。りんとして優しい、少女の声だ。

「戦いを…、める訳にはいかない…」

 苦し気な声を出しながらクロウスが立ち上がる。シルバーは慌てて剣を向けた。

「た、戦いをめてしまったら、我等の存在は消える…。我等は永遠に、約束を果たし、続けるのだ…」

「誰と交わした約束でありますか?」

 剣を構えたまま、静かな声でシルバーが問い返す。

「何のための約束でありますか!?」

「王との約束だ!」

 キイタの攻撃を振り払ったジーンが振り返り叫んだ。よろいに引火したまま、その火をものともせずにジーンは静かに歩み寄って来る。その姿にガイは痛みをこらえ立ち上がった。

「我等は誓った…、あの日。晴れがましくも栄光に満ちた入隊式の日に我等は誓ったのだ!王と王妃の前で!この命は国王 皇后こうごうに、この国へささぐものなりと!」

「その通りだ…」

 そうつぶやいたクロウスが完全に立ち上がる。遠くエルフィンのそばで大地とココロもそんなやり取りを聞いている。ココロは狭い足場で静かに立ち上がった。

「ココロ…」

 大地が代わってエルフィンのそばに寄る。

「我等は誓ったのだ…、未来永劫みらいえいごう、アガスティアの繁栄はんえいが続くよう国王一家をお守りするのだと」

 不意打ちをかけた当初こそ優勢であったアクーとキイタであったが、結局は不死身の亡霊が相手、きりのない攻撃に徐々に後退を余儀よぎなくされ始めていた。

「国王の血筋を守り続ける、カンサルク王家の血族が残っている限り…」

 マヌバラが静かに振り向き苦し気につぶやき続けるクロウスを見つめる。訳の分からないままエイクも黙って彼を見つめていた。

「アガスティアは滅びはしない!」

 クロウスは剣を振り上げシルバーに襲い掛かった。しかしガイの一撃が効いているのか、その速度は目に見えて落ちていた。

 やすやす々とその剣を受けたシルバーは一歩詰め寄ると、クロウスの顔に自分の顔を近づけ言った。

「ならば今こそ、その日の約束をお果たしください!」

「何!?」

「今こそ、アガスティアの血を引く者のためにお働きください!アガスティア第二王女ココロ様の血を引く者のために!」

 シルバーがそう言うのを聞いたココロは、突然その身にまとった臙脂色えんじいろ外套がいとうを脱ぎ捨てると大声で叫んだ。

「我が名はキイタにあらず!我こそはアガスティアの血を継承する者なり!我が兵よ、この紋章もんしょうの元に我は命ずる、剣を納めよ!」

 その声に戦場に立つ全員の目がココロに向けられた。

「あれは…」

「あの紋章もんしょうは…」

 キイタやアクーと戦っていた兵士達の口からそんな声ががれる。そして遂に、一人の兵士が叫んだ。

片陰かたかげのアステリア!」

 兵士達を見下ろす位置でココロは胸を張り、ここぞと服に刺繍ししゅうされた紋章もんしょうを見せつけた。

片陰かたかげの、アステリア…」

 シルバーと競っていたクロウスの手から力が抜けていく。

「う…ん…」

「あ!王妃!」

 大地の声にココロが振り向く。エルフィンが軽く額に手を当てながら身を起こし始めた。

だまされるな…」

 そんな声に全員が振り向く。見ればジーンが怒りに満ちた顔でこぶしを震わせている。

「ジーン…」

「三日月と星をかたどるなど、ふざけるにも程がある…。だまされるな!あれは片陰かたかげのアステリアにあらず!真っ赤な偽物にせものだ!」

 怨敵おんてきマウニールの紋章もんしょうと共に並び描かれる二色の星。それはアガスティアの紋章もんしょうではなく、現アスビティ公国の国章こくしょうだ。いち早くその違いに気が付いたジーンは、ますます々怒りをつのらせ、突進を始めた。

「おやめくださいジーン殿!」

 叫ぶシルバーの前にガイが立ちふさがる。しかし怒りに燃えたジーンを満身創痍まんしんそういのガイでは抑えきれなかった。

 ガイの巨体を吹き飛ばしたジーンは猛然もうぜんとシルバーに襲い掛かる。その剣を受けたシルバーは尚も叫んだ。

「お聞きくださいジーン殿!アガスティアはマウニールと手を結んだ!戦争は終わり、二国はより強固盤石きょうこばんじゃくなる国を築かんと手を取り合ったのです!」

「そのような世迷よまよい事を!」

「あの方の名はココロ様!戦争終結後の姫!ココロ様の血と名を正式に継承するお方です!」

「この上ココロ様の名までもかたるか!」

 目にも止まらぬ速さでジーンは何度も何度もシルバーの剣を上から打った。息をもつかせぬ連続した攻撃に、シルバーは防戦一方で押し切られている。

「ココロ様…」

 一方でシルバーの話を聞いていたマヌバラは、呆然ぼうぜんとした様子ようすで上を見上げた。そのココロは自分に背を向けると、再びエルフィンを起こしに掛かっている。

「王妃!エルフィン王妃!」

 エルフィンの黒く長い睫毛まつげれ、その瞳がゆっくりと開く。

「王妃!」

「…キイタ、殿?」

 エルフィンがココロの顔を認め小さくつぶやく。

「お目覚めですか、王妃!」

「ココロ!」

 大地の声にハッとしたココロは振り返った。狭い階段の途中、視界全てをおおうようにマヌバラが立っていた。

「くっ!」

 大地は咄嗟とっさに右手でマヌバラの脇腹めがけて拳をり出した。しかし、それはあっさりとつかまれ、防がれてしまった。

「お願いマヌバラさん、邪魔をしないで。もう、終わりにしましょう…」

「どのようにして?王妃がお目覚めになったからと言って、それでどうするおつもりか?長々とあなた達の歴史を語り、それをご理解いただこうとでも?」

 マヌバラが歯をき出す。不敵に笑ったようだ。

「それを我等がただ黙って見ているとお思いか?キイタ様」

「私はキイタではない。我が名はココロ!」

 ココロが強い眼差しと共に言うと、マヌバラは一瞬 ひるんだようにわずかに身を退いた。

「マヌバラ?」

 エルフィンがまだ半分夢の中にいるような声を出す。

「王妃様…。まだ、お目覚めになるには早過ぎます。どうぞ今一度お眠りください、今一度」

「だめよ!王妃、もう寝てはいけない!」

 ココロが叫ぶ。

「お黙りなさい!」

 マヌバラが思いもかけぬ大きな声を出した。

「王妃の寝所を犯す狼藉者ろうぜきもの、退治してくれる!」

 ココロの横面よこつらでも張ろうと言うのか、マヌバラは巨大な手を振り上げた。確かに、それが当たればココロの体は奈落の底へと消えてしまうだろう。そしてこの狭い場所に、ココロが逃げ隠れするような所はなかった。

 大地はあせった。しかし自分の手を鷲掴わしづかみにするマヌバラの力は、どう足掻あがいても振りほどく事ができなかった。

「ココロォ!」

 大地の声が空しく地下空洞に響いた。何とか進軍を食い止めようと必死に能力を発動するアクーとキイタ、痛みのために立ち上がれずにいるガイ、ジーンの猛攻を受け続けていたシルバー。全員が大地の叫びに目を向けた。

「さあ今こそ、我らの仲間に!」

 全身を緑に染めた化け物となり果てたマヌバラが、歓喜かんきにも似た声を出し今正にその手を振り下ろそうとしたその時、謎の声が三度みたび空洞内に響き渡った。

(我が名はエミカ)

 マヌバラの手が止まる。

(我が兵達よ、剣を引きなさい)

 マヌバラ、クロウス、ジーン、そして多くのアガスティア兵士達の動きが止まる。みな一様に戸惑とまどった顔で周囲を見回していた。

(カンサルク王息女にして、アガスティア国王第一王女の名の元、皆に命ずる。我が兵達よ、剣をお引きなさい!)

「エミカ様!」

「エミカ王女…」

 再び兵士達が口々にその名をつぶやく。ガシャンと言う大きな音にシルバーが振り向くと、呆然ぼうぜんとした顔のジーンが剣を取り落とし、震えていた。

「まさか…、そんな…」

 クロウスが言葉もなくゆっくりと立ち上がる。彼らの見上げる頭上ではまばゆい光が今、一つ所に集まりつつあった。

 一か所に集まった光はその輝きを失わないまま、人の形へと姿を変えていく。それは少女の姿をしていた。それを見た途端とたん、ジーンが両のひざを地面につけた。

「エミカ様」

 そう言って頭を下げる。

 光をまとった少女は宙をただよい静かにココロ達の前に移動した。マヌバラがおののいたように身を退く。

「母上…」

「エミカ…」

 三百年の時を超え再会を果たした母娘は静かに見つめあった。

「母上、私の姿が見えますか?」

「見えます、見えますよエミカ…。何故、あなたはそのような…」

 するとエミカはにっこりと微笑ほほえみ、母親に向かって言った。

「それは母上とて同じ事。どうぞ、ご自分のお姿をよくご覧ください」

 その言葉にエルフィンは自らの両手に目を落とし、そして驚愕きょうがくした。その手が透けて向こう側が見えていた。

 エルフィンは静かに顔を上げると、光に包まれた愛娘まなむすめの顔を見た。

「私は、死んだのですね?」

 エミカが無言でうなずく。エルフィンの丸いほほに涙が伝った。

「お前も…」

 再びエミカがうなずく。その顔はあどけなくも優しい笑顔のままであった。すっとエミカの手が伸ばされる。

「さあ母上、参りましょう。お迎えが参ります」

「エミカ…」

 エルフィンの震える手が差し出される。



「ベッドはこれでよし」

 王妃の寝室の掃除をしていた女中のマリーは元気な声を出すと、後ろにいるジュディを振り向き声をかけた。

「ジュディ、枕を取って」

「枕?ああ、これね?」

 ジュディはベッドメイクの為に一度外しておいた枕を手に取ると、マリーを振り返った。手を伸ばしてくるマリーの顔を見たジュディはショックの余り手にした枕をそのまま足元に取り落とした。

「マ、マリー…、まあ、あなた、あなたのその顔…、一体何があったの?」

 目の前に立つマリーの顔はまるで老婆、いや、数百年前に死んだミイラのような容貌ようぼうに変わっていた。

「あ…」

 茶色く変色し、一切の水分を抜き取られたような顔のマリーがかすれた声を出した。まるで枯れ木のような手を伸ばし、ジュディを指さしている。

 ぎこちない動きで近づいてくるマリーに恐れをなしたジュディは数歩後ろに下がった。すぐに背が壁に当たる。

「あなたこそ…」

 マリーのわずかに歯ののぞく口からしわがれた声がれた途端とたん、彼女の体は一瞬にして砂と化しくずれ去った。

 ジュディは声にならない悲鳴を上げて両の手で口をおおった。かすかな違和感を感じる。

(あなたこそ…)

 マリーのつぶやいた言葉が頭の中をよぎる。ジュディは恐る恐る自分の両手を見る。まるで枯れ木のような二本の腕。かすかにそれと判る爪があきらめ悪く張り付いている。

 それが自分自身の手である事を認めるまで数秒の間があった。ジュディは慌てて後ろを振り向いた。そこには壁に掛かった鏡があった。

 鏡の中から、まるで数百年前に死んだミイラのような顔が自分を見つめ返している。

「いや…」

 そう言ったつもりだった。しかし、声は出なかった。

「いやあああああああああっ!」

 ジュディはのどを震わせてかすれ切った音を発した。その瞬間、壁の鏡は一塊いっかいの砂となって落ち、それと同時にジュディの体も同じように砂へとかえった。

 二人分の灰色の服が無残な姿で落ちている。そのすぐ脇で、たった今整えたばかりのベッドが砂へと変わっていく。

 ジュディが取り落とした枕も、王妃のために無理をして運んだ大きな鏡台きょうだいも、わずかな服やそれを掛けていた棒も、床に敷かれた絨毯じゅうたんも、鏡を失った壁も、灰色の服が落ちている床も、その部屋に入るためのドアも…。全てのものが次々と砂となって消えていく。

 城のあちらこちらで女達の悲鳴が聞こえた。ザーっと何かが流れるような音がするたび、城の中から何かが消えていった。

 裏庭ではボロボロの外套がいとうが風に吹かれ、そのかたわらにはち果てた剣が一振り、ほとんど砂のようになって落ちていた。

 馬をつないでいたらしいくつわのようなものもあった。四輪の豪華な馬車が、元の姿も想像できぬ程のあり様で傾いている。

 鳥の声も聞こえず、城を囲むへいくずれ去っていた。そんな中、ジルタラスでは考えられない巨木達だけが消える事なく取り残されていた。



 地下空洞の内部に連続して大きな音が響き渡る。そのたびに地面がれた。

「何だ…?」

 不安げな顔で頭上を見上げていたアクーがつぶやく。キイタもエイクもその恐ろしい音に声も出せずにいた。

「時が、動き始めた…」

「え?」

 クロウスのつぶやきにしゃがんだままのガイがき返す。答えたのはシルバーだった。

「城が消えているのだ。まやかしのラディレンドルブルットが…」

 なげきの洞窟どうくつ、レメルグレッタのその上に建てられたラディレンドルブルット。

迷い人を救い、むくわれぬ魂達をなぐさめ続けててきた幻の居城きょじょうは、そこに住まう王妃の目覚めと共に今、永遠にその役目を終え姿を消した。

















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ