表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ANTIQUE  作者: OOK&YOK
139/440

集結

●登場人物

・ココロ…はじまりの存在に選ばれたANTIQUEのリーダー。わずか十四歳の公国公女。

・吉田大地…土のANTIQUEに選ばれた能力者。唯一の地球人。

・シルバー…鋼のANTIQUEに選ばれた能力者。公国の公軍大隊長を務めた戦士。

・ガイ…雷のANTIQUEに選ばれた能力者。元はシルバーの部下だった男。


・エルフィン…三百年前に滅んだアガスティア王国の王妃。自らが既に死んでいる事に気が付かず永遠の今日を過ごし続けている。

・マヌバラ…アガスティア国王一家に仕える女中頭。自らの死に気づかぬエルフィン王妃の為架空の城を築き整然と変わらぬ日常を整えている亡霊。

・クロウス…アガスティア国王近衛隊の隊長。マヌバラと同じく架空の城であるラディレンドルブルットの維持を使命と考えている亡霊。

・ジーン…近衛隊の副隊長。国王一家と上官であるクロウスに忠実な男。普段は気の優しい好青年である。


前回までのあらすじ

 キイタの語るアガスティア王国滅亡の事実を受け入れられず戸惑うエミカ王女の前に突然負傷の為動けなかった筈のガイが現われた。驚くキイタ達を余所にガイは、死して尚エミカの為に洞窟を守り続けた伝説の騎士、ゲドマンの最期を語って聞かせる。

 ガイは託されたゲドマンの剣をエミカに渡し、祈りを成就させようと持ち掛ける。ガイの助言に力を得たキイタはアガスティアの兵士達は未だ浮かばれぬまま戦い続けている事、そしてその兵士達の手にエミカの妹ココロの直系の子孫が襲われている事を説明する。

 その話しに衝撃を受けたエミカだったが、自分は三百年、ゆっくりと成長する鉱石に身を蝕まれ動く事ができないと打ち明ける。その言葉にエミカは亡霊ではなく、今も尚生きている人間なのだと悟ったアクーは突然の涙に暮れた。

 暗い洞窟の中、たった一人動く事もできないまま三百年の時をただ祈りを捧げる為だけに生き続けたエミカの姿に神を見たアクーは我知らず膝をつくと懇願した、「ココロを助けて」と。

 キイタ、ガイ、アクーの訴えに心を動かされたエミカは自らの肉体と引き換えにエイクを含めた四人を連れ、霊体となってレメルグレッタへと向かう決意をするのだった。








 迫り来るアガスティアの近衛兵このえへい達をシルバーに任せ、一人階段に飛び込んだ大地は渦を巻くように下っていく螺旋らせん階段を躊躇ためらわずにけ下りて行った。

 背後の光が届かない場所まで下りると、そこは唐突とうとつに真の闇へと変化した。さすがに足元が覚束おぼつかなくなった大地は速度を落とした。

 疲労の為と言うよりは興奮の為だろう、闇に飲まれた階段に自分の激しい息遣いと石を踏む足音だけが響いている。

 まだそんなに下りた訳でもないのに、上階で起こっている筈の戦闘の音はなぜか耳に届いてこない。向かっている先からも何一つ聞こえてこない。

 上も下もなく、進んでいるのか立ち止まっているのかすらよくわからなくなってきた。大地はまるで無限回廊むげんかいろうにでも迷い込んだような心細い気分になっていた。

 それでもココロを助けるべく大地は足を止めようとはしなかった。歩きながらの当たりにしたシルバーとジーンの戦いを反芻はんすうし、この後に起きる戦闘のヒントをつかもうと記憶を辿たどる。

 体なら攻撃を仕掛ける事ができる。顔や手など素肌がき出しになっている部分は恐らくまやかしでありどんな攻撃も通用しない。そんなシルバーの言葉が頭に蘇る。

 そう言えば、余りの速さにはっきりと見る事はできなかったが、ジーンの顔面を狙ったシルバーの第一刀、あれはかわされたのではなく、単にジーンのまやかしの顔をシルバーの剣が突き抜け、通過してしまったのではないか?

 シルバーは自分の予想の真偽しんぎを確かめる為にわざとジーンの顔めがけて剣を振るったのではないか?そして、その予想は的中した。そう言う事ではなかったのか?

 大地はそこにレヴレントとの戦闘における攻略の一部を見出みいだそうと考えたが、そうすればする程頭をよぎるのは、やはり彼らは実体を持たない幽霊なのだと言う事実ばかりであった。

 呼吸が整うに従い、鳴りをひそめていた不安や恐怖が再びふくらみ始める。行く先の見えない闇と、そこに響き渡る単調な自分の足音。大地の苦手とする何とも典型的なホラー環境であった。

 そもそも大地が幽霊嫌いになったのは幼馴染おさななじみのましろが原因だ。ましろは大地と違い怖い話が大好きだった。小さい頃に彼女の家に泊まったおり、ましろはしばしば自分の父親に寝物語ねものがたりをねだった。リクエストは決まって「怖い話」だ。

 その話し振りに幼い二人を夕暮れの山へといざない、遂にはネビュラの封印を解かせてしまう程、ましろの父親は話しが上手かった。

 絵本を読むにしろ、創作話を語るにしろ、その語りはたくみで真に迫っていた。目をキラキラさせて聞き入るましろの横で、大地は布団をかぶって震えていたものだ。

 いびきをかいて布団を跳ね飛ばし爆睡ばくすいするましろの隣で、幼い大地はいつまでも眠る事ができず、結局泣きながら布団からい出すのが常であった。

 思い出したくない時に限ってそんな記憶ばかりが蘇る。シルバーにほおを張られ、ココロの想いに覚悟を決めたはずの大地であったが、やはり苦手は苦手。怖いものは怖かった。

 しかし、ここで恐怖にすくみ立ち止まっている訳にはいかない。ここからココロを連れ出せない限り、世界を守る為の戦いに復帰する事はかなわないのだ。自分を信じ、ココロをたくして一人残ったシルバーの為にも今ここで投げ出す事はできない。

 決して大袈裟おおげさではなく、今この瞬間、世界の平和は自分の手に掛かっているのだ。そう決心した大地は、無理に明るい事などを考えて自分の恐怖をごまかす事を止めた。真向まっこうから挑み乗り越えるしかない。

 大地はえて自分を苦しめる幼い記憶に向き直った。恐怖の余りトイレに行けず、ましろの家の布団を寝小便で汚した。

 恐怖と恥ずかしさと悔しさがないまぜになった想いの中で涙を流した。そんな時、ましろの母親はいつも寛大かんだいで優しかった。

 大地の母親のように豪快で、明るい優しさとは違う。上品に包み込むような慈愛じあいに満ちた笑顔でなぐさめ、大地が眠るまでそばにいてくれた。

 そんな時、ましろの母親は大地に歌を歌ってくれたものだ。まるでおまじないのような、勇気のく歌。つい笑ってしまうような、微笑ほほえましい歌。

 あれはどんな歌だったっけ?

 ましろの父親に聞かされた怖い話、幼い胸に芽生めばえた大きな恐怖心。そのせいで流した涙…。嫌な記憶から目をらす事なく立ち向かったお陰で、更なる記憶に辿たどり着く事ができた。



 あれは、どんな歌だったっけ?







 階段に取り付いたココロは一度上を見上げるとその一段目に足をかけた。今は背後にある自分が下りて来た階段よりもはるかに傾斜けいしゃがきつい。足を置く面も狭く、ココロは両手も使い、まるでクライミングでもするように岩の階段に挑んだ。

 しかし、数歩も登らぬ内にその足を捕らえられ階段に張り付くようにして身を倒した。

 ハッとして下を見る。そこにあるものを見たココロは、恐怖に自分の理性が吹き飛んでいくのを感じた。

 長い髪を振り乱し、歯をき出したマヌバラが自分の足をつかんでいる。いや、両手で抱え込むようにしがみついていると言った方が正確だったかもしれない。

 食いしばった歯の間からうなるようなうめき声を発して自分を見上げるマヌバラの瞳は、まるで漆黒の闇のように白目のない黒一色に染まっていた。

 ココロは悲鳴を上げ、必死に空いた足でマヌバラを蹴った。その内の何発かはマヌバラの肩辺りに当たったが、大半は空しく空を蹴っていた。

 ココロの稚拙ちせつな抵抗に笑いを浮かべたマヌバラは、身を起こしながら渾身こんしんの力を込めてココロの体を引いた。

 ココロの悲鳴が洞窟どうくつ内に響き渡る。彼女の体は強い力に引かれ登った数段を引きずり落とされた。

「キイタ様…」

 マヌバラのかすれた声が耳に届く。ココロは地面にいつくばったまま顔を上げた。

「ここは王妃の寝所、どうかお控えください」

 妙な響きをもって聞こえてくるマヌバラの声にココロは勢いよく体を反転させた。つかまれていない方の足を大きく振り上げ、回し蹴りの要領ようりょうで相手の頭を狙う。

 仰向あおむけになったココロの視界に、自分の足が当たったマヌバラの頭がまるで蜃気楼しんきろうのように一度大きくゆがみそしてまた一瞬の内に元に戻るのが見えた。

 その驚愕きょうがくにもめげず、ココロはすぐにマヌバラの胸辺りを思いきり蹴った。今度は手応えがあった。自分の足の裏に、確かに相手の体の感触が伝わる。

 それを証明するようにマヌバラが体を大きくらせて後方に吹っ飛んだ。捕らえられていた足が軽くなる。ココロはすぐに再び体を反転させると、四つんいのまま階段に向かってけ出した。

 仰向あおむけに倒れたマヌバラは、地面に手をつく事もなく立ち上がった。まるで人形が糸に釣られて起き上がるように。

 起き上がったマヌバラは悲鳴にも聞こえる高い叫びを上げると、再びココロ目指して飛ぶように走り出した。

 階段に取り付こうとしたココロの腰をつかんだマヌバラは、そのままココロの体を後方に向けて放り投げた。

 ココロとさして体格差もない中年女とは思えぬその怪力にココロの体は軽々と宙に舞い、背中から地面に落ちた。

 ゆくりと振り向いたマヌバラが白目のない瞳でじっとココロを見つめる。

「キイタ様…」

 したたかに背中を打ち一瞬息が詰まったココロは、マヌバラの呼びかけに薄く目を開く。次の瞬間、目にも止まらぬ速さで迫ったマヌバラがココロの体にし掛かってきた。

 筋だらけの震える手が、ココロの体をつかみ、い上がってくる。

「覚悟をお決めくださいませキイタ様。決して苦しくはいたしません、痛くはいたしません。どうか我等と共に…」

「やめて…」

 ズルズルと自らの体を引くようにココロの顔近くまでマヌバラがい上がってくる。その手がココロの首に掛かる。

 軽い脳震盪のうしんとうでも起こしたのか、抵抗しようにも手足に力が入らない。真っ黒な瞳が無抵抗なココロの顔に近づいてきた。

 その時、ココロの耳にこの場にそぐわない妙なものが聞こえてきた。迫り来るマヌバラの手も止まる。ココロからは見えなかったが、ひざまずいたクロウスもそれに気づき顔を上げていた。

 歌だ。この洞窟どうくつの中に低く、小さな歌声が響いていた。決して美しい声ではない。上手い歌でもなかった。かすれたような、つぶやくような、そんな歌声だった。

「おばけのくにでは おばけだらけだってさ そんなはなしきいて おふろにはいろう だけどちょっと だけどちょっと ぼくだってこわいんだ」

 マヌバラがココロの上から身を起こし辺りを見回す。クロウスも立ち上がり声の主を探した。

 ココロは両肘りょうひじをついて上半身を起こすと、やはり歌声の元を求めて顔をめぐらせた。そして見つけた。ココロが下りてきた階段の上、テラス状になった場所に彼は立っていた。

「大地…」

 ココロがつぶやく。大地の目が自分をとらえた。しかし彼はまだ歌っている。

「…おばけなんてないさ おばけなんてうっそさ♪」

 マヌバラが呆然ぼうぜんとした顔で大地を見上げていた。相手を見下ろしていた大地の顔がみるみる怒りの形相ぎょうそうに変わっていく。それにともない大地の体全体が薄黄色い光に包まれ始める。

「離れろ…」

 大地が心持ち体を沈めた。

「その人から離れろぉ!」

 大地がそう叫んだ瞬間、足元に伸びる下りの階段がせり上がり始めた。大きな地鳴りのような音を響かせながら階段が下からせり上がり、大地の立つ場所に迫ってくる。

「ああ!?

「きゃあ‼」

 マヌバラとココロが同時に声を出す。二人が倒れていた地面も一つ大きくれたかと思うと、まるで地面から成長する植物のように上に向かって浮き上がり始めた。

 ココロの体を乗せたまま地面はせり上がって行く。しかし半ば身を起こしていたマヌバラはその場から転げ落ちてしまった。

 元の位置に取り残されたマヌバラを囲むように彼女の立つ位置以外の地面が次々と隆起りゅうきし、四方に大きな壁を作っていくようだ。

 自分だけを残して周囲の地面が上へと向かい盛り上がっていく様にマヌバラは取り乱したようにただ顔をめぐらせた。

 この異変は二人がいた場所にとどまらず、地下空洞全体に起こり始めていた。クロウスもやはり元の場所にたたずんだまま自分を囲むようにせり上がって行く地面を声もなく見上げていた。

 やがて地面は大地が立つ位置と水平になる場所までせり上がるとその成長を止めた。今、大地とココロは地続きとなる同じ高さにいた。

「大地!」

 まだ起き上がれずにいるココロが名を叫んだ途端とたん、大地は大声を上げてココロ目掛けて走り始めた。

 ココロも必死に立ち上がる。顔を上げた彼女の目の前に、全力疾走ぜんりょくしっそうで大地が近づいてくる。

 ココロは両手を広げると走ってくる大地の首に思いきり抱きついた。大地の両手もしっかりとココロの体を抱きとめた。

「来てくれたんだね?」

 ココロは心底安心しきった声で叫ぶように言った。

「ココロごめん…。俺が幽霊が怖いなんて言ったから、君に無理をさせたね?」

 ココロは大地から身を離すとその顔を見た。大地の怖い程真剣な目がそんな自分を見つめ返している。

「ココロ、もう俺の心配なんかしないで。頼むから一人で行こうなんて思わないで。俺はANTIQUEの戦士だ、土の能力者だ。だから俺は、俺は何があっても、誰が相手でも始まりの存在を守る…。ココロを守る!」

「大地…」

「おのれ…」

 二人の足元で声が聞こえた。ハッとして下を見る。まるで奈落の底のようになった元の位置からマヌバラが二人を見上げている。

 その形相ぎょうそうは、あの優しかったマヌバラからは想像もできぬ程恨みに満ち満ちていた。

 ココロは何かに気がついたように慌てて後ろを振り返った。今自分と大地が立つ場所からならば、エルフィンのいるところまでそのまま走っていく事ができる。

「大地!王妃を起こすわよ!」

「え?」

「いいから走って!」

 事情がわからず戸惑とまどった声を出す大地を無視してココロは走り出した。向かう先では相変わらずおだやかな顔でエルフィンが眠りについている。

「王妃の元へはいかせませぬ!」

 そんな声が聞こえたかと思うと、大地の背後にマヌバラとクロウスが現れた。

振り返った大地は空間を無視して移動してきた二体の亡霊と対峙たいじしたまま叫んだ。

「走れ!立ち止まらずに走れ!」

 ココロは大地の声を背中で聞きながら走り続けた。

 クロウスが剣を抜いた。大地は歯を食いしばり、テテメコの力を右手に集めた。周囲の岩が小さく震え始める。

 クロウスとマヌバラの体が怪しい緑色の光に包まれた。その瞬間、三人の横にそびえる大木もそれに応えるように輝き始めた。

 レヴレント達が発する光よりも深く濃い緑色の輝きだ。細い枝を幾百いくひゃくからめたような大木の発する光に、にらみあう三人の体がシルエットに変わっていく。

 クロウスの剣が怪しい光を放ち、対する大地の右腕はますます々大きく肥大ひだいしていく。正に一触即発いっしょくそくはつのはち切れそうな緊張感が三人の間に満ちていた。

 その時、クロウスとマヌバラの背後から怒声どせいにも似た沢山たくさんの叫び声が聞こえてきた。何事かと二人は後ろを振り返った。

「大地ぃぃっ!」

「シルバー‼」

 今正に階段をけ下りてきたシルバーが銀色の髪を振り乱しながら飛び込んできた。

「うおおおおおおおおおおおおおおっ‼」

 動物じみた雄叫おたけびを上げながらシルバーは入って来た時の勢いそのままにクロウスに向かって挑み掛かって行った。

 その背後からやはり口々に叫びながら数えきれない程のアガスティアの兵士達がなだれ込んでくる。

 何を思ったか大地は、手に手に剣を振りかざしながらシルバーを追ってくる兵士達に向かって走り出した。

 マヌバラとクロウスの脇を走り抜ける。シルバーとすれ違った大地はクロウスとシルバーの剣が激しく打ち合う音を背中で聞きながら、大きくふくれ上がった右手を地面に叩きつけた。

 彼らが立つ地面に大きな亀裂きれつがものすごいスピードで伸びていく。先頭を走る副隊長ジーンの足元まで伸びた亀裂きれつは、そこで一気に放射線状に広がると、飛び込んできた近衛兵このへい達の足元でその地面を細かい瓦礫がれきへと変えていった。

 大きな悲鳴を上げながら、数十人の兵士達が下へと落ちていく。

「エルフィン王妃!」

 そんな声にマヌバラが顔を上げる。見れば、遂にエルフィン王妃の元へと辿たどり着いたココロがその肩に手をかけすり起そうとしている。

「王妃に、手を触れるでない!」

 歯をき出してで叫んだマヌバラは、ココロに向かって走り始めた。その声に振り向いた大地は、そのまま再び地面に右腕を打ち下ろす。

 マヌバラの向かう先が轟音ごうおんを上げて崩れ落ち、ココロとの間に深いみぞを作る。落ちたところで何の影響もないはずであるが、生前の記憶のせいかマヌバラは一瞬 ひるみ、足を止めた。

 すぐに起き上がり走り出した大地は剣を交えるシルバーとクロウスの横を再びすり抜けると、マヌバラの背中に突進していった。

 大地の攻撃を予測したマヌバラが髪を乱して振り返りながら身構える。

「テテメコ!」

「おうっ!」

 大地が叫んだ瞬間、姿を見せないままテテメコの声だけが答える。途端とたん、大地とマヌバラの間に岩の壁が出現した。地面から伸びた岩は大きなアーチを描いてマヌバラの頭上を越えていく。

 大地はそのアーチの上にけ登った。どんどんと伸びていく岩は、ココロとマヌバラをさえぎみぞを渡る太鼓橋たいこばしのような形を作っていく。

 伸び続ける岩の上でバランスを取りそこねた大地は、走るのをやめ両手でそのへりつかんだ。

 やがてみぞを渡り切った岩の橋から飛び降りた大地は、ココロの足元にひざをついて止まった。

 大地が渡り切った途端とたん、テテメコの力で作り上げた太鼓橋たいこばしがバラバラに砕け奈落の底へと落ちていく。

「やめろ!王妃を、起こしてはいけない!」

 シルバーの剣を受けたまま体を入れ替えたクロウスが叫ぶ。その足元からジーンの叫ぶ声が聞こえた。

「全軍戦闘用意!隊長をお救い申すぞ!」

 奈落の底から、文字通り地をるがすような大勢の男達の上げる雄叫おたけびが響く。次の瞬間、五十からの兵士の姿がクロウスの背後に浮かび上がった。先頭に立つは副隊長のジーン。

「お前ら…」

 シルバーの力に振り向く事もできないままクロウスがつぶやく。彼らは高いがけ墜落ついらくした。にも関わらず一瞬にして再びこの場まで戻ってきた。無論、生ける人に成せる技ではなかった。

 尊敬する隊長の背に向け、ジーンが静かに笑みをこぼす。

「隊長…。我らは栄光のアガスティア近衛兵このえへい。最後まで、お供申し上げます」

「ジーン…」

「我等が既に死人であったとして、それがどれ程のものでありましょうか?近衛隊このえたいに入隊したおり、この身果つるまで王にお使い申し上げると誓った。しかし、今ここに訂正ていせい申し上げます…」

 ジーンは静かに足を進めた。それに続き、後方に控える数多あまたの兵士が近づいてくる。

「我等 近衛隊士このえたいし一同、この身果てようとも、お使い申し上げる!」

 何たる執念しゅうねんか。最早もはや盲信もうしんと言っていいまでの忠誠心。自らが亡霊となっている事を受け入れ、その上で尚王の為に剣を持ち立ち向かってくる。

 アガスティアの執念しゅうねん、王への愛…。シルバーは全身を鋼鉄に変え、彼等からの攻撃に備えた。

「隊長!ただいまお救い致します!」

 どこで手に入れたものか、新たな剣を手にジーンがシルバーに向かって来る。続いて残りの兵士達も一斉に走り出した。

 彼等があげる雄叫おたけびが周囲の空気を震わせて響く。

「シルバー!」

 対岸で五十の敵を前に一人残された仲間の背に大地が叫ぶ。その時だった。


(剣をお引きなさい!我が兵士達よ!)


 地下空洞に耳をろうする程の大音声だいおんじょうが響き渡った。と同時に天井からまばゆい光が降り注いだ。緑の大樹が放つ光を凌駕りょうがする、正に目も開けられぬ強烈な光であった。

 その光の中から人影が降ってくる。一つ、二つ、三つ…四つ。

「シィルバーァァァっ!」

 頭上から落ちてくる人影の一つが叫ぶ。まぶしさにえシルバーが見上げる。その人物は大上段に剣を振り上げながら落ちてくる。

 逆光に逆巻く長い髪が金色の輝きを放った。

「ガイ!?

 そんなバカな、そう思いつつもシルバーは思わず叫んでいた。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ