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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
138/440

●登場人物

・キイタ…西の大国ンダライ王国の第二王女。ANTIQUE最強と言われる火の能力者として共に旅に出る。

・ガイ…元はアスビティ公国公軍の分隊長。雷の能力者としてココロに従う。シルバーとは過去共に戦場を駆け抜けた旧知の仲。

・アクー…イーダスタの森の中で発見された少年。水の能力者として仲間になった。過去の記憶を全て失っている。


・エイク…偶然にもココロ達がレヴレントに襲われているところに居合わせてしまった青年。キイタ達をソローニーアへと案内する内事件に巻き込まれてしまった。

・エミカ…三百年前、アガスティアとマウニールの争いを収めようと祈りに自らの命を捧げたアガスティア王国の王女。

・ミニート…既に絶滅したヴィゼレットと言う鼬科の動物。非常に賢く大人しい。キイタ、アクー、エイクの三人をエミカ王女の元まで導いた。



前回までのあらすじ

 ジーンに自分が既に死んでいる事を思い出させようとシルバーは自分の知り得る限りの歴史を語る。三百年前の八月、彼らのいるレメルグレッタで起きたマウニール討伐隊との死闘。その戦いの果てにカンサルク王は亡くなり、残された王妃、兵士、女中もみな自害したのだと。

 共にその話しを聞いていたマノエはシルバーの説明を激しく否定する。そんな彼女の口から、その日本当に起きた事が語られた。

 マウニール討伐隊が去った後、生き残った自分達は仲間である同国の兵士達により殺されたのだと。自分を殺したのは目の前にいるジーンであると、そう語ったマノエは次の瞬間には恐ろしいレヴレントの姿へと変わり、蘇る痛みと死の恐怖の中、自らの死を思い出したマノエはシルバーの腕の中で苦しみながらも天上へと還って行った。

 忠誠を重んじるジーンは自らが亡霊であると気が付いて尚昇天する事なく王と王妃を守ろうと戦いの意志を見せる。シルバーがジーンに飛び掛かったその隙をついて大地は一人、ココロを救出すべく暗黒へと続く階段に飛び込んだ。







「三百年…」

 水晶のように輝く緑の石に体を同化させたエミカ王女はつぶやいた。自分の知り得る限りの歴史を語り終えたキイタはまだ緊張の解けぬ表情のままそんなエミカ王女の途方とほうに暮れた顔をじっと見上げていた。

「あの戦争から三百年の時が流れたと、そう言うのですか?」

「はい」

 キイタが強い眼差しのままうなずく。

「それを、この私に信じろと?」

「はい」

 キイタはもう一度 うなずいた。場所は悲しみのほとり、ソローニーア。戦争終結を願い祈

りを捧げ続けてきたアガスティア王国第一王女であるエミカの前で、キイタは全てを語り終えた。

 彼女の後ろではアクーとエイクが地面に腰を下ろし一言も口を挟まぬままキイタの長い長い話を聞いていた。

「初めに申し上げたはずです。王女には、受け入れがたい話であると…。それでも、理解していただかなくてはなりません」

 まだ戸惑とまどいの色を見せるエミカの顔を見つめたままキイタが言った。エミカは困ったような顔でキイタを見るが、その強すぎる眼差しに再び目をそむけてしまった。

「その事実をご理解いただいたうえで、聞いていただきたい事がございます」

「このうえまだ何か?」

 たった今聞かされた話の衝撃しょうげきから立ち直ってもいない内から、キイタは更に次の話をしようとしているのだ。エミカはちぢ々に乱れた自分の気持ちを持て余し、狼狽ろうばいしていた。

「王女の国の兵士達が、救いを求めております」

 キイタの言葉にエミカの表情が変わった。今度こそ逃げる事なくキイタの赤い瞳をしっかりと見つめ返す。

「我が国の兵士が?」

「はい。アガスティアの近衛このえ兵達はみな、その身に起きた悲劇を忘れ未だに御父上、御母上の御身おんみを守らんがため、救われぬ魂のまま地上を彷徨さまよっております」

「何と!我が兵達は未だ浮かばれずに…」

「それはアガスティアの兵士達だけではございません」

 突然 洞窟どうくつ内に響いた声に、その場に居合わせた全員が驚いて声の方を見た。そこに立っていたのはひどい怪我けがの為一人 洞窟どうくつの入り口に残ったはずのガイであった。

「ガイ!」

「ガイ!?

 キイタの悲鳴にも聞こえる声にアクーの声が重なる。ガイはそんな二人を無視してエミカ王女の前まで来ると背筋を伸ばし、片膝かたひざをついた。

「エミカ王女…。お会いできて光栄です。我が名はガイ。アガスティアとマウニールの血を引く者でございます」

 そう言ってガイはうやうやしく首をれた。

「何?」

 ガイの名乗りにエミカは更に取り乱した声を出した。ガイはそんなエミカに静かな声で答えた。

「後のアスビティ公国に生を受けその庇護ひごの下で育ち、今は国を警護するため公軍の隊士となった者にございます」

 たんたん々と話すガイの後ろでアクーとエイクの二人は軽いパニックになっていた。自分達が踏破とうはしてきた道はどう考えてもガイの体躯たいくでは通れない場所ばかりであったはず

 そう思って振り返った二人は思わず叫び声を上げた。自分達が通り抜けてきた細いトンネルようの道の脇に、いつの間にか広々とした見るからに歩きやすそうな道が出来上がっている。

 ここへ入るなりエミカの姿に目をうばわれて周りが見えていなかったのは確かだった。とは言えこれだけ立派な道がすぐ近くにある事に今まで気が付かない訳がない。

 ガイがここまで辿たどり着けた理由がわかった途端とたん、アクーとエイクは余計に頭が混乱してきた。

「ま、間違いなく」

 突然キイタがエミカを振り返り言った。

「この者は我が連れ。この者の言う事に、相違そういはございません」

 予想だにしなかったガイの出現に慌てながらも、キイタは弁明べんめいするように言った。ただでさえ衝撃しょうげきの事実に驚いているエミカにこれ以上無用な混乱を与えたくはなかった。

 自分達は本人の道ずれであるミニートの導きでここまで辿たどり着いたのだからそれでもまだ信用はあるはず。だがガイは違う。必死にガイの身の上を証明しようとするキイタですら、何故なぜ彼がここに現れたのかわからない状態なのだ。

「しかし…、何故ンダライの王女とアガスティアの兵士が共に…?」

 本来はアスビティの兵士なのだが未だ混乱が収まらないのか、エミカはそんな言い方で不審ふしんあらわにした。

「これには、深い事情がございます。しかし今はそれまでもお話するいとまはございません。王女、どうか…」

 キイタは何とかエミカの不審ふしんを取り除こうとあらん限りの言葉を並べ釈明しゃくめいを試みた。しかし、言葉を重ねれば重ねる程言い訳めいて、話しているキイタ自身、何とも自分が怪しくなってくるのを感じた。

 汗をかきながら何故なぜよりにもよってこんな時に現れたのかとガイに対して少々恨みがましい気持ちすら抱いた。

 しかし、そんなキイタの狼狽ろうばいぶりも意にかいさず、ガイは腰の剣をさやごと抜くと無言のままその先を強く地に打ち付けるようにして立てた。

「その、剣は…」

 ガイの手ににぎられた重々しく巨大な剣を見たエミカの目に今までと違う色の光が宿った。

亡者もうじゃとなり果てて尚誓いを果たそうと彷徨さまようは、アガスティアの兵士だけではございません」

 キイタは驚いた顔でガイの横顔を見つめる。そう言えば現れた時もそのような事を言っていた。ガイは一体何を言い出す気なのか?

「我が時代において、伝説の騎士と呼ばれるマウニールが兵士、ゲドマンよりたくされし一振り」

「ゲドマン…彼はまだ、まだ私のために…」

 エミカのただでさえ白い顔がますます々血の気を失い透き通るような色に変わっていく。わなわなと震える唇から何度もゲドマンの名がこぼれた。

おっしゃる通り。ゲドマンは御国みこくためのみならず、世界のため、真の平和のために王女の祈りを成就じょうじゅさせるべくこの地に残りました。三百年の時を数え、洞窟どうくつを迷路にする程の力を持ったあやかしにまでその身を変えて尚、王女を守り続けて参ったのでございます。今日、この日まで」

「ゲドマン…、あなたは…」

 エミカは不自由な体をじり、震える手をガイに向けて伸ばしてきた。痛みをこらえ静かに立ち上がったガイは緑の石に近づくとエミカに向かって剣を差し出した。

「ああ、ゲドマン…。あなたはまだ、ここにいてくれたのですね」

 エミカの震える指先がゲドマンの剣に触れる。やがてわずかに自由の残る右腕に、その剣をしっかりと抱きとめ、そのつかほほを当てた。

「国でもなく、王にでもなく…。彼は最後まで、我らの生きるこの世界の、その限りない未来への可能性に、忠誠を尽くしたのです」

 やがて開かれたエミカの両の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。泣きながらエミカは笑顔を作った。

「このような姿になってもまだ、私の中に落ちる涙は残っていたのですね?」

 見上げるガイは小さくうなずくと言った。

「その涙を蘇らせたものは、ゲドマンのとうと気高けだかい平和への想いに他なりません」

 ガイの言葉にエミカは何度も何度もうなずいて見せた。そしてもう一度愛おしそうに剣に顔を押し当てると、優しい声でつぶやいた。

「ありがとう、ゲドマン」

 そばで話を聞いていたキイタには一体何が起きているのかわからなかった。その後ろでアクーとエイクはそれ以上に混乱し、ただポカンとした顔でたたずんでいた。

 ただ三人とも、ガイとエミカをつなげている一本の剣が、散々に自分達を苦しめたあのよろいの持ち物である事、そしてエミカの疑念ぎねんはどうやら全て氷解ひょうかいしたらしい事だけは理解できた。

 再び目を開けたエミカは、まだ涙の一杯にまった瞳をガイへと向けた。それでもさっきより一層その笑顔は生き生きとした喜びに満ちていた。

「さあ、未来の騎士よ…。伝説の騎士より受け継がれし誓いのつるぎを取るがよい。この私からも頼みます、我が心の友であるゲドマンの意志を継ぎ、どうか、平和を未来へ手渡すためいしづえとなってください」

 唯一自由に動く右腕をいっぱいに伸ばし剣を下ろしたエミカの顔を見ながら、ガイは力強く答えた。

「この命尽きるその瞬間まで、あい務めてご覧にいれます」

「頼みましたよ」

 剣を受け取ったガイは素早く身を引くと再びひざを折り頭を下げた。

「キイタ様」

 力強く忠義の姿勢を見せるガイを頼もしく見つめていたエミカは、ふとキイタに目を移した。

「は、はい!」

 見ればその澄んだ瞳に、もう涙はなかった。

「我が妹ココロは終戦後、敵国へ嫁ぎ、新たなる平和な国を創建そうけんするべく奔走ほんそうしたと申されましたね」

「その通りです王女」

 キイタの返事を聞くとエミカは小さなため息をついた。その顔には自嘲気味じちょうぎみな笑みが浮かんでいる。

「何と、情けない話でしょうね。姉であるこの私がこんなところへこもりただ祈りを捧げている間、あのやんちゃだったココロが、現実の世界で事もあろうに国を作るために命を燃やしていたとは…」

「恐れながら、エミカ王女は巫女の資質を色濃く持って生まれたと聞き及んでおります。ココロには到底とうてい真似まねのできぬ所業しょぎょうと心得ます」

 低頭のまますぐ様ガイが言う。それにエミカは無言のまま笑顔で返した。

「エミカ様」

 キイタがエミカの名を呼ぶと、その瞳は再び彼女を捕らえた。

御令妹ごれいまいココロ様の血を受け継ぎし者が、今 苦境くきょうに立たされております。どうか、お力をお貸しください」

 キイタの必死の叫びにエミカは困惑の表情を見せた。

「我が妹の血を受け継ぎし者…」

「はい、その者の名はココロ。御令妹ごれいまいした偉業いぎょうにあやかりその名を引き継いだ、現アスビティ公国領主ドナル三世がご息女そくじょ

「ほう…。三百年後の国主は怨敵おんてきドナル殿の名を受け継ぎし者か」

「今となっては…」

「わかっておりますよ、キイタ様。ドナルの娘ココロ…。私達には何とも不思議な響きをともなって聞こえてくるのです」

 そう言ってエミカは何とも複雑な笑顔を見せた。

「さて、そのココロなる姫が苦境くきょうに立っていると?」

「はい!」

「力を貸したいのは山々ではございますが、この私に一体何ができましょう?私はこの洞窟どうくつとらわれた身。この輝く石は、長い時をかけて我が体をむしばみ、やがては全てを飲み込んでしまう…」

「え?」

 エミカの言葉にアクーが顔を上げる。この水晶のような物体は鍾乳石しょうにゅうせきのように成長し、徐々にエミカの体を包み込んでいるとでも言うのだろうか?そうであるのだとしたら…。

「ま、まさか…」

 突然色を失い歩み寄ってくるアクーに、キイタとガイは顔を向けた。

「まさか、あなた、あなたは…」

 狼狽うろたえたように言葉をむアクーを、エミカは静かな微笑みで迎えた。

「どうした?アクー」

 アクーの突然の狼狽ろうばい振りにエイクが心配そうな声を出す。

「あ、あなたは…、生きているのですか?」

 普通に聞けば何ともおかしな質問であった。しかしエミカはその問いに不審ふしんな顔も見せず、しかしやはり答える事もなく、ただもう一度静かに微笑んだ。

 そんなエミカの様子にアクーは大きく息を吸い込んだ。

「どうしたんだ?」

 ガイもついに声を掛けた。キイタも不安げな顔をアクーに向けている。

「私に残された祈りの時間は、この石が私の体をおおいつくすまで。やがてこの命を捧げきったその時に真の平和が訪れると、そうお導きを得たのです」

 アクーは体を震わせた。エミカは生きているのだ。他のレヴレントのように歩く死者として現世げんせにあるのではない。真実、三百年前の肉体を維持いじしたまま、今もこうして話し、現代の自分達と意志を交わしているのだ。

「奇跡だ…」

 この石のせいか?他に考えようもない。食べる事も、飲む事もなく三百年。老化する事もないままエミカは今も生きている。

 そう考えた瞬間、アクーはそこにひそ驚愕きょうがくの真実に気付いた。

「アクー!どうしたの!?」

 キイタが突然叫んだ。ガイも驚いてアクーの方に向き直る。そんな二人の反応に、エイクは慌ててアクーの前に回り込みその顔を見た。そしてやはり言葉を失くした。

 アクーは泣いていた。真っ青な瞳を見開いたままバラバラと滝のように涙をこぼしていた。

「な、何故なぜ?」

 涙に震える声でアクーが言う。

何故なぜたえられたのですか?」

「どうしたんだ?おい、どうしたんだよアクー!」

 両肩をつかむエイクの手を振り払ったアクーは、エミカから目を離さないまま叫んだ。

「祈りの乙女は生きているんだよ!レヴレントなんかではなく、正真正銘しょうしんしょうめい、今も生きた人間なんだ!」

「な…」

 アクーの言葉を聞いた三人は驚きの余り何も言わずエミカを見た。

「三百年、たった一人で…。身動きも取れないまま、じょじょ々に体の自由を奪われながら、目に見える形で自分の命がけずられていく様を見続けてきたんだ…。僕だったらとっくに気が触れている…」

 エミカはやはり微笑んだまま、ゆっくりと胸の前で右手を左手に合わせた。ぴったりと、両の手は神に祈るような形で合わさった。

 そのほとんど動かない左手は、祈りの姿を続けたまま石に飲まれ固まってしまったのだ。

 アクーはその場に両膝りょうひざをついた。ポーラーと出会って以来こんなにも激しく心を動かされた事はなかった。ヤック村の宗教戦争など正直何も興味がなかった。

 アクーは神など信用していなかった。しかしいた。天上などではない、神はこの地上にいた。神に祈るその者こそが、等しく神であった。

 アクーは地に手をついた。どうしようとも考えなかった。自然と体が動いた。恐怖にも似た感情だった。

 神はいた。こんなところに今、自分の前で神々しくも笑みをたたえ静かに浮いている。

「お願いです…」

 我知らずアクーの口から言葉がれた。もしかするとシルバー以上にプライドが高く負けず嫌いのアクーが、何かにかれたように頭を地につけ懇願こんがんした。

「ココロを、助けて…」

 それを見たエミカはますます々困ったような笑顔を作り首を軽くかしげた。

「お願いします!ココロを、僕の仲間を助けて!助けてください!」

 その途端とたん、キイタもアクーの隣で頭を下げた。同じくガイも痛む両足を地につけ、手をついて懇願こんがんした。

「どうか、顔をお上げください皆さん…。私には何も、何もできはしないのです…」

 エミカの弱り切った悲し気な声にキイタが声を上げた。

御令妹ごれいまいが子孫ココロ姫は今、アガスティアの兵士の手にとらわれております!」

 キイタの叫びにエミカの表情が変わった。

「我が兵士達の手に?」

「終戦を知らぬまま、体が朽ち果てた今も尚、王のそばに寄る者に襲い掛かっている様子」

「何と」

 ガイの説明にエミカは驚きの声を上げた。

「王女…、今こそ祈りの成就じょうじゅを」

 ガイも静かに顔を上げる。キイタが続けた。

「どうか、あなたの兵士達にもう戦いは終わったのだとお伝えください。あの、勇敢ゆうかんなる兵士達に、永遠の平和と救いを、お与えください」

 そう言ってキイタは再び深く頭を下げた。

「それは…」

 ひれ伏した三人を呆然ぼうぜんと見下ろしていたエイクは、そんなエミカのつぶやきに顔を上げた。

「それはゆゆ々しき事。何とかしなくてはなりませんね?」

 そんな言葉にキイタとガイは勢いよく顔を上げた。アクーはまだ顔を伏せたままだ。

「我が妹ココロの血を持つ者が、我が国の者の手により苦境くきょうに立たされている…。それを見過ごしては、私の賭けたこの長い月日は全て水泡すいほうす」

 今まで隅の方で大人しくしていたヴィゼレットのミニートが一声高く鳴くと、エミカの足元にけ寄ってきた。

「まだこの私にできる事があるのだとすれば…もう惜しくなどはない…」

「あっ!」

 エイクのそんな叫びにアクーも顔を上げた。その足元にけ寄ったミニートの体がふわりと宙に舞い、またたく間にエミカの右肩辺りにとまった。

「あいつ、やっぱ足がねえ…」

 エイクがぼそりとつぶやく。よく考えれば三百年前からの道ずれだと言うミニートもやはり生きているはずがないのだ。

 あの賢い小動物もまた、平和の祈りを捧げるためにその身を投げ出したエミカにつき従おうとこの地に残ったレヴレントの一種なのだろう。

「共に参りましょう未来の友人達よ。我が妹の後裔こうえいを助け、同胞どうほうに救いをもたらさんがため!」

「ま、参りましょうと言われますが…」

 戸惑とまどった声を出すガイに、エミカは再び美しい笑顔を向けた。その時、彼女の右肩にとまったミニートが空中でくるりと身を丸めた。

 次の瞬間、ミニートの体は目を開けていられない程のまばゆい光に包まれた。慌てて目を伏せる面々に、エミカの声だけが聞こえてくる。

「場所ならわかっております。あのいままわしきつい住処すみか。呪われし仮城かりじろに今も彼らは思いを残している事でしょう。さあ、お連れください、今こそこの古き衣をはらい、この命、お捧げいたします!」

 一瞬後、更に輝きを増したミニートの発する光が全員の体を包み込み、そして消えた。その光と共に、包まれた四人の姿も一緒に消えていた。

 ミニートの姿もない。ただ岩にむしばまれたエミカの体だけがそこには残されていた。

 両手は変わらず祈る形で合わされている。その首がグラリとれ、前へと落ちる。長い髪が彼女の端正たんせいな顔を隠した。うついたまま祈りを続けている、そんな姿のままエミカは二度と動かなかった。

 やがて誰もいない洞窟どうくつ不穏ふおんな音が響き始める。ビシッ、ビシッと断続的に響く気味の悪い音。

 その音が響く度、エミカの体を包む緑の石が成長していく。三百年を掛けて目には見えぬ程の緩慢かんまんさで育ってきた緑の石は、今その時を一気に押し進めるように急成長を始めた。

 自由に動いていた右手がおおわれる。左手の指先も既に美しく輝く石の中だ。

 ビシッ、ビシッ、ビシッ

 動かないエミカの体をい上がるように緑の石が育つ。肩が飲み込まれる。美しい髪が固まる。やがて、長い睫毛まつげが影を落とす白い顔にまで石が上り詰める。

 そうしてついに、宝石のごとく緑に輝く供犠くぎの石は、歴史に翻弄ほんろうされた悲劇の王女の全身を包み込んだ。

 後には一切の音もなく、ただその美しい体内に祈り続ける乙女の姿をとどめ抱く巨大な石だけがたたずんでいた。







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