生命の樹
●登場人物
・ココロ…始まりの存在にバディに選ばれた少女。唯一他の能力者とテレパシーで会話ができるANTIQUEのリーダー。
・マヌバラ…アガスティア国王の女中頭。王妃への忠誠は絶対でその権力は兵士を上回る。
・クロウス…アガスティア国王近衛隊の隊長。三百年前、国王一家を守護する為ジルタラスへと渡った。
前回までのあらすじ
マノエの案内を受けココロを捜し城の中を調べ回っていた大地とシルバーは、マノエも入った事がないと言う廊下を見つけ迷う事なくそこへ足を踏み入れて行った。
果たして辿り着いた階段の前では近衛隊の副隊長であるジーンが誰一人階段を下ろすなとの命を受け一人そこに立っていた。
城の者すら立ち入りを制限されている階段。その場所へ来てからココロの送って来るテレパシーは確実に強くなっていた。力づくでもそこを通ると言い放つシルバーに、ジーンは悲し気な顔で剣に手を掛けた。
石でできた城の中では間違いなく大地の土の能力が活きる筈と判断したシルバーは大地を階段下へと向かわせる為一人ジーンへと立ち向かっていく。
三百年前のアガスティア国王軍と現在のアスビティ公国公軍に属する二人の剣士が火花を散らす。自分達の正当性を理解してもらう為にはまず自分が既に死者なのだと知り、この地上から消えてもらうしかない。
そう考えたシルバーはジーンの腹を刺し、そして訊ねた。「痛みはありますか?」と。
一方一人地下大空洞へと入り込んだココロの前に近衛隊々長のクロウスと女中頭のマヌバラが現われる。何とか二人に既に自分達が死者である事をわからせようと話すココロに、自分達が死んでいる事は知っていると言うマヌバラ。
王妃を始め生き残った全ての者がカンサルク王を追って覚悟の自害をした。そんな歴史を聞かされていたココロに、マヌバラは衝撃の事実を伝えた。
残った者の全てが自害をした訳ではない。特に女中は国王よりも王妃に仕える者達。王妃が自害をしなければ自分達も死ぬ事はない、と。
「王妃は、自害をしなかった?」
マヌバラの意外な言葉にココロはそのまま問い返した。
「ええ」
「では、では何故エルフィン王妃は…」
死んだの?ココロにそこまで言わせずにマヌバラが答えた。
「殺されました」
「殺された?」
「はい」
「一体誰に?」
「…」
答えはない。
「まさか、マウニールの討伐隊が…」
「そうではありません」
今度はマヌバラが即座に答えた。
「既にお互いが疲弊しきっていたあの段階では、マウニールの方こそこの戦争を終わらせたがっていたのです」
続けてクロウスが口を開く。
「カンサルク王が自らの命と引き換えに停戦を申し出たのだ。一日でも早い終戦を希望していた奴らは渡りに船と王の首を国へと持ち帰った。残った我々などには目もくれず…」
「残った、我々…?」
ココロの胸に言いようのない恐怖が頭をもたげ始めた。彼らはここに取り残された。王を失い、国からの救援も望めず、敵にすら相手にされぬまま、この不毛の地に。
それでは一体誰が、誰がエルフィン王妃を…。ココロは俯いたままのマヌバラをじっと見つめた。三人とも黙ったまま、長くも感じる時が過ぎた。
やがてマヌバラが静かに顔を上げた。その瞳が自分を見つめるココロの目を真っ直ぐに見返してくる。マヌバラは静かに微笑んだ。見ているココロが全てを悟るに十分な、絶望を極めた冷たい笑顔だった。
「最早、自我を保つ事すら困難な状態でした。私達はこれ以上陛下を苦しめる訳にはいかなかったのですよ」
その言葉に全身が総毛立つ。ここで言う陛下とは国王陛下の事ではない。皇后陛下、つまりはエルフィンの事だ。
「な、何をしたの…?」
誰がしたのか?それはマヌバラ。ではマヌバラは一体何をしたのか?王妃をこれ以上苦しめない為に、一体何をしたのか?
「心身共に疲れ切っていたのでしょう。深い、深い眠りについておられました…」
「あなた…」
「苦しむ暇もなかった事でしょう」
ココロは辛そうに目を瞑り顔を伏せた。何と言う事だ、エルフィン王妃は殺された…。歴史の教科書に載っているように夫を追って覚悟の自害をした訳ではなく、北の大地まで逃げ延び、寝食を共にした忠義の者達の手によって、就寝中に暗殺されたのだ。
「その時から私達の時間は止まったまま…」
ココロから目を逸らしたマヌバラは最後にそう小さく呟いた。衝撃の事実に震える想いを堪えココロは尚も質問を重ねた。
「では…、他の者達も…」
しかしその問いに答えたのはクロウスであった。
「忠義の兵士達は次々に王の後を追った。しかし我等は王妃がここにいる以上、先に逝く事はできなかった…。そして苦しみにもがき、刻々と我を失っていく王妃を愛する王の元へとお送りした後、私とマヌバラは話し合った。このまま戦争が終わり、我々が生き残ったとして一体誰が喜ぶ事かと…。忠義を誓ってここまで共をしたのだ、最後まで付き従わずに何とするものかと…」
「殺したのね?」
ここまで聞けばココロにも全容は見えた。
「生き残った兵士も、女中達も、全てあなた達が殺したのね?」
「陛下をお一人には、できぬではありませんか」
相変わらず笑みを湛えたままマヌバラが呟く。
「隊長、副隊長、分隊長、女中頭…生き残った幹部達の使命であった…」
そして、そして二人だけが残った。
この城には何人のアガスティア人がいた?確か女中が二十一名、兵士は五十か六十か…。そうマヌバラが説明してくれた事を思い出す。
王妃を囲むそれらすべての亡骸の中で、使命を果たした二人の心中とは如何ばかりであったか?
狂気…。すぐに頭に浮かんだのはそんな言葉だった。そもそも戦争自体が正気の沙汰ではないのだ。その末期にあって行われたこの局地的な同胞同士による悲劇的な虐殺行為。
それが全て正しい事、必要な事と信じられ実行された。その歴史の上に現代を生きるココロにとって、それは狂気と言う言葉以外で言い表す事はできなかった。
何故だ?何故みんなで一緒に国に帰ろうとは思わなかったのだ?二人の言う通り、むしろ戦争を終結させたかったのは国力を削がれたマウニールの方だ。
カンサルクの首を取った後、残党を狩るような事はなかった。それどころか、両国 僅かに生き残った者達が手を取り合い、平和な国を築いたのだ。アスビティ公国と言う名の小さな国を。最早互いに恨みを重ね更に戦う程の力も、気力も残ってなどはいなかったのだ。
ココロにもわかっていた。全てが終わった後であれば何とでも言える。彼らの存在を歴史上の出来事として見る事のできるココロならば、彼らの行為がどれ程愚かな事であったかはわかる。
しかし当時の彼らには他に選択の余地などなかったのだろう。生きて国に帰ったところで、待っているのは戦勝国からの激しい非難と賠償責任、誇りを砕く罪人としての生活だと考えて絶望したとしても仕方がない。
日に日に自我を失っていく主君を見るに見かねず、それならばいっそと思い立った彼らの行動はむしろ自然な成り行きであったのかもしれない。しかし、そうと納得して尚、ココロの胸には口惜しさが溢れる。
あとひと月、一週間でも彼らが生きながらえていたのであれば。この人達に、あと少し生きる勇気があれば、また歴史は大きく変わっていた事だろう。それでも、史上最悪と言われる戦い終結後の歴史が、それ以上に悪くなる事などなかった筈だ。
「しかし…」
ココロの想いなど知る由もなくクロウスは続けた。
「残念ながら、思い通りにはならなかった」
「え?」
ココロが顔を上げ訊き返すと、クロウスもやはり自嘲気味な笑顔を浮かべた。
「事が我々の思惑通りに運んでいれば、我等が未だにここにいる訳がございません。そうであれば今頃、王妃と共に天上へとあがり、我が敬愛する王がお側にてお使い申し上げているところ…」
確かに。最後まで国王一家に尽くし、付き従わんが為に同胞の命を奪い、自らも追って死を選んだのであれば未だにこの地に縛られている必要などない筈だ。
「王妃は、天上へはあがられなかったのね?」
ココロが問い掛ける。二人は答えない。更にココロが追及する。
「王妃は…、自分が死んだ事にお気付きになっていないのね?」
ふっとマヌバラが笑いを零す。
「お察しのよい姫様ですね。本当に、賢くていらっしゃる」
クロウスがため息混じりに続けた。
「王妃がおあがりにならぬのであれば、我等もまたこの地に留まるほかありませんでした。戦死した者も、自害した者も、我等が手を下した者も等しく、まるで生者が如く振舞う王妃の側に使え、やがて彼らもまた自らの辿った運命に抗うようにその記憶を失っていった…」
「それでまやかしの城を建て、嘘で固めた毎日を送らせていると言う訳?」
クロウスは静かに頭上に伸び行く大木を見上げて言った。
「この木が…」
「え?」
的外れにも聞こえるクロウスの言葉にココロは訊き返した。しかしそれに答えたのはマヌバラであった。
「ある日突然、この不毛の大地にこの巨大な木が生えたのです。そう、正に突然。僅か一日にして木は、今の姿にまで成長しました」
ココロもつられるように木を見上げる。クロウスがまるで独り言でも呟くように続ける。
「この木は闇の中で震える我等を呼び覚ました。我等に、再び生者と見紛う肉体を与えその闇の深淵より光射すこの地上へと蘇らせたのです。正に奇跡。全ては、この木から始まった。既にこの世の者ではない我等にとって、この木こそが命の縁…。これは正しく、“生命の樹”なのです」
「生命の樹…」
巨木を見上げたまま呆然とした声で呟いたココロは自分の声にハッと我を取り戻した。
「そんなの、おかしいとは思わなかったの?一度闇の住人に身を堕とした者が、どんな方法を使ったって再び命ある者として日の光を浴びる事などできる筈がないと、そうは思わなかったの?」
またしても答えはない。この二人にはわかっているのだ。今送っている毎日に終わりは来ないと。
「どんなに偽ったって、どんなに飾り立てたって、そんなものまやかしでしかないじゃない。そんな果てのない無限の日々に王妃や部下を巻き込んで…」
いつ敵が来るかと怯え、国を、国に残した家族を思いながら過ごすこの毎日が、完結する事はない。
「そこに何か救いはあるの?」
やはり答えはない。答えられる筈がないのだ。場当たり的に始めたこの奇妙な共同生活の行く先など、この二人にもわかる訳がなかった。
だがココロにはわかる。少なくとも彼らは全員救われなくてはならないと。そして、その方法もまた容易に思いつく事ができた。
押し殺すような声でココロは二人に訊ねた。
「エルフィン王妃は、どこ?」
答えはない。二人とも顔を上げない。しかし、そのココロの問いに激しく動揺している事は感じられる。
「全ての鍵は、王妃が握っているのね?そうなんでしょう?教えて、王妃はどこ?」
必死の想いを込めて強い口調で言うと、漸く二体の亡霊はゆっくりとココロを見た。血の気のない、真っ白い顔をしている。その表情にココロは改めてゾクリと寒気を覚えた。
「それを聞いて、何とするおつもりか?」
クロウスが抑揚のない声で訊いてくる。ココロは精いっぱいの気勢を張って答えた。
「王妃にご理解いただくのよ。既にご自分が亡くなられているのだと言う事を。そのうえで天上におあがりいただくの。そうすれば、今王妃に使えているあなた達も、他の兵士達も女中さん達も全てを思い出し、共に天上へとあがる事ができるのでしょう?違う?」
クツクツと言う奇妙な音が空洞に木霊する。笑い声だ。見ればマヌバラが、今度は声を出して笑っている。その肩が笑い声に合わせて小刻みに震えている。
反してクロウスは、怒ったような形相のまま一歩ココロへと歩み寄ってきた。
「確かに賢い…。本当に賢い姫様だ。しかし、そうとわかってお教えする事はできぬ」
「何故?いつまでもこんな事を続けたいの?」
「続けるしかないのだ!闇に帰る事はできぬ!」
「天上へあがるの!」
「それはどこにある!死の世界は闇だ!真の闇だ!身動きも取れぬ程の闇の中、それが死だ!わかりますか?今生きているあなたにわかりますか?死んだ事のないあなたにわかりますか?」
ココロはまるで自分が死者にでもなったかのように顔色を失いながら身を退けた。しかしその度クロウスは近づいてくる。
「あなたにもわかります。こちら側へお越しくだされば」
マヌバラが静かな声で言う。
「このようなまやかしの毎日にも救いはあったのだと、きっとご理解いただける筈…」
巨木の周りを回るように、ココロはクロウスとの距離を取ろうと下がっていく。しかし、クロウスは常に自分の正面にいた。体がガクガクと震える。
「この城の秘密に気が付いてしまった以上、仕方がございません。キイタ様には我らの仲間となっていただきます」
ココロを捕らえるのはクロウスに任せたと言わんばかりにマヌバラは元の位置を動かぬまま話す。
「仲間?」
「ええ、そう。仲間にね」
「王妃の眠りを妨げはさせぬ…。そう、姫には話し相手にでもなっていただこうか?王妃の退屈をお慰めする為の話し相手に。さあキイタ様、どうぞこの手をお取りください。あなたはここで我らと共に暮らすのだ!」
「冗談じゃないわ!」
ココロはいきなり踵を返すと走り出した。走りながら逃げ場を探した。目の前に再び人の手が入ったと思われる階段を見つけた。自分が下りてきた階段ではない。その対面に位置する場所に、その階段は上へと続いていた。
上へと伸びる階段の先を見ようと顔を上げたココロは、そこにあるものを見つけ声を上げた。
「エルフィン王妃‼」
その階段の中段辺りだろうか?そこにはエルフィン王妃が蹲り、自分の両手を枕にするように眠っていた。
微かに微笑んだように見える寝顔は、母親に抱かれ安心して夢の中に遊ぶ赤子のように穏やかであった。
「エルフィン王妃‼」
ココロはもう一度大声で叫んだ。その時、後ろから強い力で首を絞められた。クロウスの太い腕が自分の首に巻き付いている。
「王…妃…」
ココロはすやすやと眠るエルフィンに向かって手を伸ばした。
(起きて、お願い。エルフィン王妃!気が付いて!あなたは、もうここにいてはいけない…。あなたは、あなたを慕う全ての人々を連れて、あるべき場所に帰らなくてはならない…。王妃、王妃!)
ココロは叫んだ。しかし、クロウスの腕に締め上げられた喉からは掠れた音が漏れるばかりであった。
(何と言う力…。これが本当に、命を失い肉体を持たない亡霊の力なの?)
クロウスはエルフィンから目を逸らさせようと力づくでココロの顔を横に向ける。そんなココロの霞(かす)んだ目に、揺れるように巨木が映る。
(あなたは一体誰?闇から亡霊を呼び覚ますあなたは誰?闇の住人に、こんな力を与える事のできるあなたは一体…誰?)
「起こしてはいけない…」
ココロの背中に張り付くクロウスが耳元で囁く。
「王妃の眠りを、妨げてはいけない」
ココロは死力を振り絞って言い返す。
「違う…。本当に、王妃の眠りを妨げているのは、あなた…」
そう言った途端、クロウスの力が一瞬弱まった。ココロは胸いっぱいに息を吸い込んだ。
「このふざけた夢から覚めていただかなくては…。このままではあなた達は、いつまでも救われる事がない…」
ココロはクロウスの腕から完全に開放された。地に両手をつき、激しく咳込む。
クロウスは小さく震えながら自分の両手を見つめていたが、やがてその両手で頭を抱え始めた。
「救われる事などない…。多くの仲間の血で汚れたこの両手を持つ我等が、救われる事などないのだ…」
苦し気に息を弾ませたココロは這いつくばるようにしてクロウスから離れた。見ればクロウスはまだ悩まし気に頭を抱えている。
「だからと言って…、王妃や、あなたの部下達までここに縛り付ける事はないじゃない!」
ココロは叫んだ。恐怖よりも胸に湧き上がる怒りが勝った。
「あなたの罪はあなたが償いなさい!せめて部下達に、救いを与えたいとは思わないのですか?」
クロウスは頭を抱えたまま首を大きく左右に振った。
「我等は王に仕える近衛の兵士だ。国王のお側を離れる訳にはいかない…」
「王はここにはいない!」
「いやいる!偉大なるカンサルク王は未だここにおられるのだ!」
「いないわよ!覚悟の死を迎えたカンサルク王は国民を救う大義を果たし、心おきなく天上へあがられた!」
「違う!」
「違わない!だから国王の席はいつも空席のままなのよ!」
「…違う…、違うそうではない。王はいるのだ、あの日からずっと、そこに!」
そう言って目を見開いたクロウスは、ゆっくりとココロの後ろを指さした。ココロは恐る恐る後ろを振り向く。
しかし、そこには何もなかった。巨木が見える、その脇に佇むマヌバラの姿も見える。だが、クロウスの指さす先はただ灰色の岩が作りだす地と壁のみが続いている。
ココロは眉根を寄せた。そこに王がいる?一体クロウスは何を指してそう言っているのか?その時、近づいてくる足音に気が付いたココロは慌てて目を戻した。クロウスが何かに憑かれたように目を見開いたままフラフラと近づいてくる。
ココロは後退ったが、まだ足に力が入らない。手足をばたつかせ、尻をついたままいくらも下がらぬ内に、もう目前にクロウスが迫っていた。
捕まる―――!
そう思い、両手で頭を庇った。膝を曲げ、僅かでも抵抗しようと体中に力を込めた。
しかし、我を失ったように歩く足音はココロの前をゆっくりと通り過ぎて行った。恐る恐る開けた目に、遠ざかっていくクロウスの背中が見える。
クロウスはユラユラ揺れながら、マヌバラの脇もすり抜け更に奥へと進んで行く。無表情なままマヌバラはそんなクロウスを見もせずにただ立ち尽くしていた。
長い髪を揺らしながら歩く少し丸められたクロウスの背中は、荒野で大地と自分を襲ったあの恐ろしい化け物達を思い出させた。
やがて石の壁に辿り着いたクロウスは両手でその壁を一度 撫でると、その場に膝をついた。
「我が王…偉大なるかな、我が、主君…」
冷たい石壁の前で大国の王を称えるようにクロウスは恭しく頭を下げた。
「申し上げた通り、我等女衆は王妃へお仕えする身。王妃がおられる以上、どこにも参りはしません。同じように彼ら兵士にもここに留まる理由が必要であったと言う事です」
マヌバラが憐れむような表情で静かに語る。その言葉の意味はわからなかった。しかし、今のココロにその意味を考えている暇はなかった。
クロウスの戒めから解放されたのだ。ココロは素早く立ち上がるとエルフィンの元へ向かおうと走り出した。
「王妃の元へは行かせません」
その声に振り向くと、そこにマヌバラの姿はなかった。ハッとして周囲を見回す。木の裏側に、その姿があった。ココロが目を離した一瞬で、そこまで移動したのだ。
急激に膨らむ恐怖に抗おうとココロは再び走り始めた。
「あなたは我等と共に、この地で悠久の時を生きるのですキイタ姫!」
長い髪を振り乱したマヌバラは、両手を前に突き出したまま真っ直ぐにココロに迫ってきた。




