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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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謎の階段

●登場人物

ANTIQUE

・吉田大地…土のANTIQUEに選ばれた地球の少年。時空を超え三人目の能力者としてココロの仲間になった。

・シルバー…鋼のANTIQUEに選ばれたアスビティ公国の軍人。領主の娘であるココロには絶対服従ぜったいふくじゅうの姿勢をくずさない。


レヴレント

・クロウス…三百年前に滅んだアガスティア王国 近衛隊このえたいの隊長。その正体は亡霊であるが何かしらの秘密を抱いている様子。

・マヌバラ…同じくアガスティア王国王妃付き女中頭。クロウスと共に幽霊城となったラディレンドルブルットの秘密を知っているらしい。

・ジーン…クロウスの部下で近衛隊このえたいの副隊長。真面目で気のい若者。

・マノエ…ラディレンドルブルットで働く若い女中。国へ残して来た家族友人をいつも気に掛けている。


前回までのあらすじ

 部屋から姿を消したココロを捜す名目で二人きりになる事ができた大地とシルバーは、物陰ものかげに身をひそめながら互いの持つ情報を交換こうかんした。シルバーの話しからこの城にいる全員が自分が最も苦手とする幽霊である事を知った大地は一気に戦意を喪失してしまう。

 そんな大地をシルバーは張り倒し一人で探索に出掛けたココロの心情を伝える。シルバーの愛のむちを受けた大地は気を取り直し、シルバーと二人改めてココロを捜す決意を固めた。

 一方その頃、たった一人ラディレンドルブルットの内部を彷徨うココロは自分の頭の中に話し掛けてくる七人目の能力者が助けを求めている事に気が付きその場に蹲ってしまっていた。

 必ず助けて見せると決意したココロが自分を導くよう謎の能力者に呼び掛けると、今まで隠されていた謎の階段が現われた。

 その先に新たな仲間がいるのだと確信したココロは突然現れたその階段を下り始めるのだった。







 大地の力強い目を見て微笑んだシルバーは、すぐにその笑顔を消すと真剣な表情で大地に言った。

「さっきも言ったが奴らの正体はレヴレント、つまりは亡霊だ。あの荒野でお前とココロ様を襲った連中も同様。私やキイタ様は、あいつらと戦った」

「ええっ!?」

 大地は驚きの余りひっくり返った声を出した。あの見るだに恐ろしい化け物とキイタが戦った?

「アクーも一緒だ」

 大地は三度みたび顔を伏せると大きくため息をついた。お化けが苦手な自分が怖くて震えている間にココロやキイタ、アクーと言った自分よりも小さな仲間達はそれに立ち向かっていた。大地は今更ながらに自分への嫌悪感けんおかんに気持ちがえてしまった。

「落ち込んでいる場合か」

 そんな大地の様子(ようす)にシルバーがあきれた声を出す。

「いいか大地よく聞け。その時の経験からレヴレントについて私が考えている事をいくつか教えておく」

「わかった」

 落ち込みつつも大地は顔を上げるとうなずいた。

「荒野のレヴレント達は、実際に剣や弓で戦う事ができた。それは、あいつらが肉体を持っていたからだ」

「肉体?」

「そう。とは言え、浮かばれない魂を土に宿し自らの手足とした、言わばしろだ」

しろ…」

「そうだ。だが命を持たないあいつらを実際に殺す事は出来ない。刺しても切っても死にはしない。キイタ様のフェルディの炎ですら、奴らを倒す事はできなかった」

「マジか」

「マジだ」

 大分大地の扱いに慣れてきたらしいシルバーが真剣な顔で答える。

「ただあいつらは不慣れな体を持て余し動きはそうじてにぶい。土でできた仮初かりそめの肉体を破壊すれば、死なないまでも動けなくはなる。あいつらの攻略は肉体を破壊し、行動不能にさせる以外にない。本当にあいつらを撃退できるのは、陽の光以外にはないのだ」

「ここは、陽の光はささない」

「ああ。本気で倒すつもりなら本物の朝が来るまでねばり屋外に誘い出すしかない。だが我々の目的はココロ様を連れ旅に戻る事だ、何もレヴレントを全て倒す必要なんかない」

「それもそうだね」

 そこでシルバーは一度顔を伏せると、一瞬話す事を躊躇ためらうような仕草を見せた。そのまま何事か考え込むように沈黙する。

「シルバー?」

 大地の声に顔を上げたシルバーは何もなかったように続けた。

「荒野のレヴレントはそうやって倒す事ができた。しかし…、ここの連中はわからない。お前にもわかると思うが、荒野の連中とこの城の者達とでは見た目が余りにも違う」

「う、うん…」

「私はお前のところまで私を案内してくれた娘の肩に触れてみた」

 そう言いながら、いつか平和になった国へ帰り、弟と再会したいと夢見るような目で語ったマノエと言う名の若い女中の顔を思い出した。

「それで?」

 なかなか続きを話そうとしないシルバーにしびれを切らした大地が促した。

「ん?ああ、すまん。それで、その娘の肩には…触れたよ。しかし、だからと言って剣や私達のANTIQUEの能力が通用するのかどうかはわからない。これは、私の予測でしかないのだが…」

「うん」

「いずれにせよ奴らは肉体を持たない魂の存在だ、何かしらしろがなければ活動はできない。それは奴らが身に着けている服や甲冑かっちゅうあるいは剣などこの世の物体であるはずなんだ。つまり、顔や手など素肌が見えているところに攻撃を仕掛けても、恐らくは通用しない…」

「逆に言えば服やよろいなら、攻撃が効くと言う事?」

「少なくとも衝撃は与えられるはずだ。突き刺す、ぶん殴る、吹っ飛ばす…。それで死ぬ事はなくとも、距離を取ったり動きを封じる事はできる…はず…」

はず、かぁ~」

「確証などない」

 しれっとした声でシルバーが言う。

「俺も思うところあるんだよ」

 大地の言葉にシルバーが聞く姿勢を見せる。

「この城は多分その、レヴ…レント?だっけ?そいつらの本拠地だと思う。どんな仕掛けか知らないけど、ここはあいつらの活動を活発にさせるなんらかの力があるみたいなんだ」

「何らかの、力?」

 シルバーがき返すと大地は何度もうなずきながら続けた。

「そう、だからあいつらはあんな生き生きとした姿を保っていられるし、ココロのテレパシーを阻害そがいする事ができる」

「ココロ様の能力を阻害そがいだと?」

「うん、これはココロが言っていたんだ。ここには良くない気が満ちているって。だから自分の声は聞きにくいかもしれないけど、必ずメッセージを送るから集中して受け取ってくれって」

「なるほど…」

 シルバーは、ココロにメッセージを送ろうとする度に脳内を走る嫌なノイズを思い出した。

「アテイルもフェズヴェティノスも戦うのに随分ずいぶん戸惑とまどったが…。このレヴレント程やり辛い相手もいないな」

「そうだね…」

 自分の言葉に答えた大地の表情を見たシルバーは幽霊嫌いの大地を相手に余計な事を口走ったかと一瞬後悔をした。

「大地…」

 シルバーは大地の肩に手を置いてその名前を呼んだ。大地が顔を上げると、シルバーはその目を見つめ真剣な顔で言った。

「忘れないでくれ、私はその…お前の能力をひどく、あてにしているのだ」

 言われてつかの間ぽかんとした顔を見せた大地は、すぐにいたずらっ子のような顔で笑った。

「何だか気持ち悪いの」

 言われたシルバーも吹き出すと乱暴に大地の頭をり回した。

「相変わらず可愛かわいげのない奴だな」

「おかげ様でね」

 しばらく笑い合った後、シルバーが不意に口を開いた。

「なあ大地…。ンダライの塔を、思い出すな。あの時もこうしてお前と二人、戦いにおもむいた」

「そうだね」

 笑顔でうなずいた大地が急に何かを思い出したような表情を作った。

「どうした?」

「大事な話しをし忘れていた。ココロが一人で何をしているかって事」

「ん?」

「ココロはね、新しい仲間を捜しに行っているんだよ」

「何?」

 シルバーは急に真面目まじめな顔になると大きな声を出した。慌てて自分の手で口をふさぐ。

「新しい仲間だと?」

「うん。実はあの荒野にいる時から何か聞こえていたらしいんだ。それがこの城に入ってからますます々はっきりとした声になって聞こえてきたみたい」

「で、では、この城の中に七人目の能力者が…?」

 シルバーは我知らず取り乱した声を出した。

「多分ね。別れ際にココロが言っていた…、私達二人で新しい仲間を連れてみんなのところへ帰ろうと。だから、間違いないと思う」

「そうか…」

 そう言ったシルバーは大きくため息をつくと、ひざに手を置いて立ち上がりながら鬱陶うっとおしそうな声を出した。

「やれやれ、まったく。とんだお転婆娘てんばむすめだな!」

「え?」

 今のがココロを指して言った事だとすれば、今日まで一緒にいて初めて聞くココロへの愚痴ぐちだった。忠誠のかたまりのようなシルバーの口からこんな言葉が出るとは意外だった。

 驚いた顔で自分を見上げる大地を見下ろしながらシルバーはにやりと笑ってみせた。

「新しい仲間を連れて帰るだって?面白おもしろい。その話、私にも一枚 ませろ」

 その言葉を聞いた大地も同じく笑みを浮かべ元気に立ち上がった。

「シルバー頼みがある」

「ん?」

 振り返ったシルバーに大地はきびしい顔で言った。

「その…、さっきの、もう一発お願いできない?」

 何の事かと一瞬ぽかんとしたシルバーだったが、自分を見つめる大地の強い目にすぐに思いいたり、もう一度笑った。

「お安い御用ごようだ」

 そう言った瞬間、シルバーの左手が目にもとまらぬ速さで今度は大地の右頬みぎほほを打った。高い音が暗い廊下に響く。大地は壁まで吹き飛ばされた。

「痛~~~。手加減とかなしかよ!」

半端はんぱな優しさが何になる?愛だよ、愛」

 まし顔で言ったシルバーが背を向けて歩き出す。

「まったく、その愛でいつか殺されるぜ」

 そんな悪態あくたいをつきながらそれでもおかげで覚悟が決まった大地は、け足で先を行くシルバーの後を追った。



 暗い廊下で、クロウスとマヌバラの二人は呆然ぼうぜんと立ち尽くしていた。彼らが見下ろす先には、壁にぽっかりと口を開けた穴から下に向かって階段が伸びていた。

「見つけて、しまわれたのか…」

 クロウスが階段の下る先を飲み込む深い闇を見つめたまま低くうめいた。

「あのご令嬢はここを降りたと思いますか?」

 マヌバラも同じく階段を見下ろしながらく。

「他に考えようもあるまい」

「恐れ多くも、王妃の寝所しんじょへ…」

「王妃の眠りを妨げる事もそうだが、それ以上に木を見つけられてしまうのは何ともうまくない」

「そうねあれこそ私達の命の源…。私達の、秘密そのもの…」

 そんなにも心配ならばすぐにでも階段を下ればよいものを、二人はお互いにつぶやくように言葉を交わすばかりで一向に動こうとはしなかった。

 そんな二人の耳にはげしい足音が聞こえてきた。クロウスは近づく音に顔を上げた。マヌバラはまだ階段の先から目を離さずにいる。

「隊長!」

 そう叫びながらけ寄ってくるのは、部屋の前で大地、シルバーに置いてきぼりを食ったジーンだった。

「どうしたジーン?そんなに慌てて」

 普段、取り乱すと言う事の殆)ほとん)どないジーンが珍しく動揺どうようしている姿に、クロウスはやや不安そうな声を出した。

「申し訳ございません!そ、その…、大地殿、シルバー殿と、はぐれてしまいました…」

「何、はぐれた?」

「はい、まずはキイタ様のお部屋をもう一度 検分けんぶんしようとお二人を連れ行ってみたのですが、一体どこではぐれたものか、部屋の前につき振り向いた時にはもう…。まるできりかすみごとく…」

「馬鹿者!」

「申し訳ありません!」

 鋭く叱責しっせきされたジーンは首をすくめて恐縮した。

「クロウス殿、参りましょう」

 突然ジーンとのやり取りを無視するようにマヌバラが声を掛けてきた。

「マヌバラ殿…」

 クロウスがマヌバラを振り向いた時には、彼女はもう片足を一段下ろし始めていた。

「隊長…」

 そんな声に再びジーンを見ると、彼は怪訝けげんな顔つきでマヌバラが下り始めた階段を見つめている。

「この、階段は?」

「…」

「私は築城ちくじょう時よりおつかえしておりますが、このような階段がある事を今日まで知りませんでした」

「…」

 そこでジーンはようやく何も答えぬ上官の顔を見た。クロウスは怒ったような、泣き出しそうな、困ったような何とも言えぬ複雑な表情をして自分を見つめ返していた。

「隊長?」

「ジーン副隊長!」

「はっ!」

 クロウスのきびしい声に、ジーンは条件反射のように背を伸ばし返答した。

「この階段を守れ」

 命令の意図いとつかみかねたジーンは眉間みけんしわを寄せ、疑問の表情を見せた。

「これより先、何人なんぴとたりとも通してはならん!部外者は勿論もちろん、城内の者であろうと誰一人としてだ!猫の一匹通すな、何があろうと死守するのだ」

「は…は!」

 二人がそんなやり取りをしている内、マヌバラは更に先へ進んでいる。振り向いたクロウスからその背中が闇に飲み込まれようとしているのが見えた。クロウスも片足を階段に下ろした。

「あ、隊長…」

 け寄ろうとするジーンを振り向き、その眼力だけで部下を制した。ハッとしたようにジーンがその場で止まる。

「ジーン、お前は軍人だ。ほこり高きアガスティアの軍人だ。何もかず上官の命令に従え!いいな?」

「はっ!」

「ここは任せた」

 そう言うとクロウスは黒く長い髪をなびかせながらジーンに背を向けると、マヌバラを追って階段を下りて行った。

「隊長…」

 階段の降り口まで歩み寄り、クロウスの着ている輝くよろいが深い闇へと沈んでいくのを見送りながらジーンはつぶやいた。



「でもシルバー、この広い城の中でどうやってココロを捜すの?」

 大地は、先を行くシルバーの背中に向かってたずねた。

「ココロ様のおっしゃる通り、集中してその声を聞き取る以外にはないだろうな」

 廊下の暗がりを抜け出た二人はジーンの姿がないのを確認し、ココロと大地が泊まった部屋の前へとやって来た。

 部屋を出て左に向かうと食堂へ向かう螺旋らせん階段がある。クロウスに案内された大地が向かった方なので恐らくココロはその反対、部屋を出て伸びる廊下を右に行ったと想像できた。

 そんな推理とも呼べない考えを元に二人は部屋の前を通り過ぎ、廊下を奥へ奥へと進んだ。今朝(本当は夜だが)までは何とも思わなかった廊下の暗がりや、壁に掛かる華やかな女達の肖像画しょうぞうがも、この城の住人が全て命を持たぬレヴレントと知った後ではどうにも薄気味悪く見えて仕方がない。

 おっかなびっくりお化け屋敷を進む子供のように、大地はへっぴり腰でシルバーの後をついて歩いた。

 しばらく行くと、下へ向かう階段を見つけた。こちらは螺旋らせん階段ではない。しっかりとした手摺てすりが設けられた立派な階段だった。

 シルバーは一度キョロキョロと周囲を見回した後、迷わずその階段を降りた。いくつかの踊り場を過ぎ、どうやら一階へと戻ってきたようだ。

 大地とシルバーは差し込む光に誘われるように明るい方に向かって歩き始めた。燦燦さんさんと光の射し込む大窓が開いた廊下に突き当たる。そこはシルバーがあのマノエと言う若い女中に案内されて歩いた廊下だった。

 日の光に照らされた床を見つめたシルバーの脳裏に、マノエの無邪気むじゃきな声が蘇る。

(アスビティの兵隊さんは弱いけど、優しいのね)

 そう言って自分を見上げ、にっこりと笑った彼女の笑顔までも思い出された。シルバーは我知らず感傷的かんしょうてきな思いで床を見つめ続けた。その時だった。

「シルバーさん?」

 そんな声に顔を上げたシルバーと大地の前には、食堂へと向かう長い廊下が続いている。その先に、今正にシルバーが考えていたマノエ自身が立っていた。

「マノエ殿!」

 彼女は大きなかごを両手で抱えるように持ち、目を見開いてシルバーを見つめていた。











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