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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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幻獣

●登場人物

・キイタ…西の大国ンダライ王国の第二王女。魔族にさらわれたと思われる双子の姉、イリアを救出する事を目的に仲間になった火の能力者。人見知りで大人しい性格。

・アクー…失われた自身の記憶を取り戻す事を目的に仲間になった水の能力者。非常に冷静で頭が良いうえずば抜けた身体能力と百発百中を誇る弓の名手でもある。性格はややひねくれ者。


・エイク…ココロ達がレヴレントに襲われている場面に偶然居合わせてしまった村の青年。行きがかり上キイタ達をソローニーアまで案内する事になった。



●前回までのあらすじ

 ラディレンドルブルットの王女であるエルフィン王妃との謁見えっけんのぞんだココロと大地。話し好きのエルフィンとの再会を約しその場をしたココロは案内の兵士に一度自室に戻りたいと申し出る。

 部屋に戻った途端とたん何故か大粒の涙を流すココロに大地は慌てるが、すぐに泣き止んだココロはゲンムの能力を発動させテレパシーで大地に語り掛けて来た。

 ココロは一人この城のどこかにいる七人目の能力者を捜しに行くと言う。その為に大地には部屋の外で自分達を待っているこの城の兵士を引き離して欲しいと頼む。ココロのいつになく真剣な眼差しに承知した大地にココロは更に指示を出した。

 それは、この城の中で出された物を一切口にするなと言う奇妙なものだった。しかし質問する事を禁じられた大地は黙ってそれに従うしかなかった。ココロの「二人で新しい仲間を連れてみんなのところへ帰ろう」と言う言葉を受けた大地は何が何だかわからないまま作戦を決行する事に。

 一方、村の青年エイクの案内でソローニーアの洞窟どうくつ内へと入り込んだキイタとアクーはその行く先に立つ奇妙な人影に思わず足を止めてしまう。








 アクーとエイクはぎょっとしたように目を見開いたまま動けなくなってしまった。キイタの指さす先には彼女の言う通り、立ち尽くす人らしき影が見えていた。

 その人物は洞窟どうくつ右端みぎはし、景色の開けた方に背を向け、アクー達に左側を見せたまま立っていた。

 陽はまだ高い、観光客がここまで入り込んでいたとしても決して不思議ではない。しかし、最近ではレヴレントの出現がうわさになってこの地を通りたがる人は少ないと聞いていた三人は一度 不審ふしんげな視線を交わすと、それぞれうなずいた。アクーを先頭に、恐る恐るその人物に近づいていく。

「あ、あの…」

 立ったまま動かない人物に声が届くと思われる距離まで近づいたところでアクーが相手に話掛けた。いつの間にか持っていたカンテラをキイタに預け、空いた手はさりげなく背中の弓に添えられていた。最後尾についたキイタの右手もうっすらと小さな炎を上げている。

「すみません…、あの…!」

 聞こえていないはずはないのだが、アクーがいくら呼び掛けてもその人物はピクリとも動かなかった。じりじりとその人影に近づいて行った三人は相手の姿が完全に見えた時、一様に息を飲んだ。

 その人物は全身を銀色のよろいで固めた兵士であった。何も持たない両手をダラリと下げ、強靭きょうじんそうな剣は腰のさやに収まったままであった。かぶとは首から上をすっぽりと全て包み込むフルフェイス型。頑丈がんじょうそうではあったが重々しく、古めかしい。

「あ…あの…」

 アクーはゆぎの矢に右手をかけながら更に二、三歩近づいた。その時、彼の背中に張り付くようにしてついてきていたエイクが突然アクーを追い越しよろいの兵士に手を伸ばした。

「エイク!」

 エイクの無謀な行動に驚いたアクーとキイタは同時に叫んだ。アクーは叫びながら一瞬にして弓に矢をつがえていた。

 エイクはよろいの腰辺りに触れたかと思うと素早く飛び退いた。エイクの触れたタシットと呼ばれる前あて部分がカシャリと高い音を立ててれた。

 弓を構えたアクーの後ろに隠れるようにしてキイタとエイクが息をつめてよろいを見つめる。しかしよろいの兵士はそれでも動く事はなかった。

 エイクはチラリと後方のキイタを振り向く。キイタも緊張した顔でエイクを見つめ返す。エイクはもう一度アクーの前に出ると今度はさっきよりもゆっくりとよろいに近づいて行った。

「エイク…、エイク!」

「気を付けて!」

 アクーとキイタが交互に声を掛ける。エイクはもう一度 よろいのタシットを叩くように触った。相変わらず反応はない。エイクはすぐにでも逃げられるようにとっていた構えを解き背を伸ばすと、今度は鎧の左手のガンドレットに触ってみた。

「エ、エイク…」

 アクーが緊張した声で呼ぶがエイクはそれを無視してカノン、ブレストプレート、ポールドロンと手を伸ばしていき、そこでようやく二人を振り向いた。

「人形だよ、これ」

 エイクの言葉を聞いた途端とたんキイタとアクーは大きく息を吐きだした。エイクが突然 甲高かんだかい笑い声をあげた。

「アクー、あの~、すみませんーって」

「うるさいな、笑うなよ!」

「わりぃわりぃ」

 謝りながらも笑いがおさまらないエイクにアクーは不機嫌な顔で矢をゆぎに戻した。

「大体この鋼鉄のよろいにそんな矢が通用する?」

「ふんっ、ちゃんと間接部分を狙えば簡単に倒せるさ」

 茶化ちゃかすように聞くエイクにアクーが答える。

「それにしても…何でこんな物がこんなところに?」

 人形と聞いて安心したのか、キイタが射し込む陽に輝く白銀の甲冑かっちゅうに近づきその姿を見上げながらつぶやいた。

「さあ?遭難そうなんが多いから警告の為に置いたんじゃない?」

 アクーがつまらなそうに言うのをエイクがすぐに否定した。

「違うよ。これはあれだよ、ほら、ガイが言っていた、エミカ王女を守る為にソローニーアに残ったマウニールの騎士だよ」

「え?」

 キイタがエイクの顔を見る。確かにガイが語るアスビティ公国 創建史そうけんしの中にはアガスティアの第一王女エミカを敵国王の娘としりつつも守る為に運命を共にしたマウニールの騎士が出てきた。

「いや、勿論もちろん本物なんかじゃないよ?」

 エイクはキイタに真剣な目で見つめられ慌てたように言った。

「よくあるじゃない観光地とかで、その場所に伝わる伝説をかたどった人形を設置するとかさ」

「でもだったらガイが知っているはずじゃないか?」

「よっぽど興味がなきゃわかるもんか。それにこれはきっとあれだよ、アスビティじゃなくてこのジルタラスの人が置いたんだよ、観光PRの一環いっかんとして」

「そ、そうかなぁ?」

「そうだよ、ジルタラスとしちゃ何の関係もないのに戦争に巻き込まれて領土を荒らされたんだ、その古戦場跡こせんじょうあとを観光地にして一儲ひともうけしたってばちはあたらないでしょー」

「なるほど…。そんなもんかねぇ?」

 エイクが確信を持って話す内容に釈然しゃくぜんとしないものを感じながらも他に思いつく事もなくアクーが答えた。

「ねえアクー」

 すでによろいから興味が薄れ洞窟どうくつの奥へ進みかけていたキイタが声を掛けてくる。

「ん?」

「あれを見て」

「うん…」

 キイタが指さす洞窟どうくつの奥には立派な岩壁が立ちふさがっていた。三人が歩いてきた広い道は一際広いこのよろいの置かれた空間で終わっていた。行き止まりになった壁を見上げる二人の後ろからエイクが更に声を掛ける。

「だからほら、ここが今のソローニーアの終点なんだろうね」

「そんな…、だってエミカ王女のところまで辿たどり着けていないどころか、こんな…まだ入り口からすぐじゃない!」

 エイクの軽い口調に抗議こうぎするようにキイタが振り返って言った。

「多分、それは途中にあった小さな脇穴わきあなに入る必要があるんでしょう?でもそれは危険過ぎる…。ここは陽の光も入って明るいし、風は抜けるし、景色はいいし、弁当を広げるには丁度いい」

「弁当って…」

 アクーも悲壮感ひそうかんただよう声で言った。

「すっかり観光地化されたって事なんじゃないかな?そうそう、ここからだと多分もう一つの洞窟どうくつ、レメルグレッタも見えるはずだよ確か…、あれ?」

 よろいのすぐ横に口を開けた場所からアガスティア国王の一団が逃げ込み、悲惨な最期を遂げたと言うレメルグレッタを遠くに探していたエイクは、突然変な声を出した。

「どうしたの?」

 キイタも外の見えるそばまで来ると、眉間みけんしわを寄せて難しい顔をしているエイクに声を掛ける。

「いや、そのレメルグレッタがある辺り…何でだ?」

 最後はひとり言のようにつぶやいたエイクの目線を追って、キイタとアクーも顔をめぐらせた。視界には高台から見下ろす限りどこまでも石の山が続いていた。それらが午後の陽ざしを浴びて白く輝いて見えていた。

「あれ?」

 そんな景色を見渡していたアクーもエイクと同じように妙な声を出した。

「あそこは?」

 見れば、キイタも既にその違和感いわかんに気が付いているようであった。アクーの指さす一点にだけ、この地には珍しく深い森が見えているのだ。

「うん…、あの辺りが、レメルグレッタだと思うんだけど…」

「レメルグレッタは森の中にあるの?」

「いや、ジルタラスの南西部に森なんかない、はず…」

 エイクはしきりに首をかしげ悩んでいる風であったが、ジルタラスをよく知らないキイタとアクーの二人は何とも言えず黙っていた。

「ま、まあとにかく」

 説明のつかない現象には目をつむる事にしたらしいエイクは元気な声を出すと、再びよろいの前へと向かった。

商魂しょうこんたくましいと言うか何と言うか…。だけどこっちはお蔭でおったまげたっつーの!」

 と悪態あくたいをつきながらよろいの胸を一つ強めに小突こづいた。ガシャリと金属の触れ合う音と共によろいがグラリとれた。その時だった、鎧の足元から小さな影がエイクに飛び掛かるように現れた。

「うぎゃあああぁぁぁぁぁぁー!」

 緊張から解放され油断しきっていたエイクは不意を突かれ、思いもよらない悲鳴を上げてしまった。

「なに!?」

 キイタが驚いて声をあげる。その瞬間にはもうアクーの両手には背中に戻したはずの弓と矢がにぎられていた。イーダスタの森で狩人として生きてきたアクーの目はエイクの側から走り出た小さな影を捕えていた。

「何かいる!」

 アクーは反射的に矢をつがえた弓を構えると、視界のすみかすめる影を追って顔をめぐらせた。誰の目にも止まらぬ速さで動くオオグチ一族を難なく仕留しとめてきたアクーでさえ、今目の前を走り抜ける影を追うのが精いっぱいでその正体まではつかめなかった。

「エイク!大丈夫か!」

 影を追いながらアクーが叫ぶ。

「いててて…。何なんだよ、まったくもお!」

 驚きの余りひっくり返ってしまったエイクが毒づきながら立ち上がる。その元気そうな声に一安心したアクーだったが、エイクを気に掛ける余り洞窟どうくつ内をけ回る影を見失ってしまった。

「どこへ行った?」

「アクー、何なの?」

 あせりながらもアクーはキイタの問いに首を振った。

「わからない!危険な奴かもしれない、気を付けて!二人とも僕の側に!背中合わせになって!」

「あの~」

「エイク!早く!」

「いやその、あれ」

「え!?」

 エイクの間延まのびした声にアクーはいらついた様子ようすで振り返る。エイクがポケっとした顔で洞窟どうくつの奥を指さしている。それを見たアクーとキイタが同時にエイクの指さす方を見た。二人の正面、洞窟の奥に一匹の小さな動物が両手をそろえてちんまりと座っていた。

 大きさは猫程か、しなやかな体つきをしていた。顔の鼻より下から腹までは白い毛でおおわれ、それ以外の頭頂部から背中にかけては美しくつややかな紫色の毛が生えそろっていた。くりくりとした愛らしく大きな黄色い目がじっと今三人を見つめている。

「な…なんだありゃ?」

 アクーは弓を構えるのも忘れてつぶやいた。自然動物の宝庫とも言えるイーダスタの森でも目の前に座っているような動物を見た事がなかった。

「猫?たぬき?」

「い、いや、いたちじゃないかな?」

 エイクの言葉に動物から目を離さないままアクーが答えたその時、突然キイタが大きく息を飲んだ。

「何て事…」

「え?」

 つびやいたキイタにアクーがき返すが、キイタはそんなアクーには目もくれず腰を折り、右手を差し出すとゆっくりと動物に向かって進みだした。ペットを呼び寄せるように小さく舌を鳴らしている。どうやらその動物を捕まえようとしているようだ。

「キイタ?キイタやめなよ、野生の動物はどんな雑菌ざっきんを持っているかわからないよ?下手に引っかれでもしたら変な感染症にかかるかも…」

「それどころじゃないわ」

 キイタはアクーの助言を最後まで聞く事なく言い出した。

「あれは…、あれはヴィゼレットよ」

 キイタの言葉にアクーとエイクはキョトンとしたような顔を見合わせた。

「ヴィ、ヴィゼレット?」

「ええ。見て、あの額の角…」

 そう言われて見ればなるほど、確かに動物の大きな目の間やや上部に小指の先程の小さな角が二本並んでえていた。

「間違いないわ…、嘘でしょう?だってそんな、何て事…まさかこんなところでヴィゼレットに出会えるなんて…」

 キイタは余程よほど動揺どうようしているのか、支離滅裂しりめつれつに言い散らかしながら目の前の小動物をじっと見つめている。

「珍しい動物なの?」

 エイクが何気なく聞いた言葉にキイタは目を見開いて振り向いた。

「知らないの?」

「知らない」

 エイクとアクーが同時に首を振る。

「ほ、本当に?」

「キイタ目が落っこちちゃうよ」

 大きな目を更に広げるキイタを心配したエイクが声を掛けると、キイタは一つ大きく息を吐いて背を伸ばした。顔はまだそのまま動かない小動物に向けられている。

「あれはね、ヴィゼレット。アクーの言う通りいたち科の動物ね」

「ほら」

 アクーが少し誇らしげにエイクを見る。

「ヴィゼレットはね、美しい毛並みから人に乱獲らんかくされてその数を劇的に減らしてしまったの。それで保護対象になったんだけど、もともと物凄ものすごく賢いうえにおとなしい性格から高貴な立場の人達の間で愛玩あいがん動物として飼われる事が多くなったの」

「ああ、貴重な動物を飼うのが金持ちのステータス、みたいな?」

 キイタの説明にエイクが相槌あいづちを打つ。キイタは相変わらず目の前に座ったまま動かないヴィゼレットに目を向けたままうなずいた。

「そうね。ところが百年位前、庶民の貴族に対する暴動が起きた際、富裕層ふゆうそうの象徴であるヴィゼレット達は一斉に殺されてしまったの」

「何てひどい…」

 弓を下したアクーがまゆひそめて思わずつぶやく。

「人間の欲望に翻弄ほんろうされて数奇な運命を辿たどった動物か…」

「じゃあ相当珍しいんだ?絶滅危惧種ぜつめつきぐしゅとか?」

 エイクがたずねると、ようやくキイタは二人の方をゆっくりと振り向き言った。

「いいえ、違うわ。ヴィゼレットは、ヴィゼレットはね、絶滅危惧種ぜつめつきぐしゅではなくて、絶滅種、なのよ」

「え?」

 キイタの言葉にアクーとエイクが同時に声を上げる。キイタはもう一度ヴィゼレットに顔を向けた。ヴィゼレットは自分の事が話題になっている事がわかっているのか、小さく首をかしげキイタの目を見つめた。その仕草しぐさに思わずキイタの口元に笑みが浮かんだ。

「約百年位前、保護対象だったヴィゼレットは最後の個体の死亡が確認されて以来、一匹たりとも発見されていないわ」

 既に絶滅した種である、と聞かされたアクーとエイクは絶句した。この百年、死に絶え、もはや世界中のどこにも存在しないと言われてきた正に幻の動物が今目の前で生きて動いていた。

「やべぇ…」

 しばらく声も出せずにいたエイクがポツリと言った。

「そんな貴重なの、そりゃ捕まえないとやべぇでしょ?」

「動かないでエイク、私が…」

 今にもつかみかかりそうなエイクを手で制したキイタは再び腰をかがめ、ヴィゼレットに近づいて行った。

「捕まえて、それでどうするの?」

 二人揃って前かがみでヴィゼレットに向かって行くキイタとエイクにアクーがく。

「どうするって、そりゃお前…」

 エイクがアクーの顔を見て言いかけたが、その後がなかなか出てこなかった。

「どぉしよう?」

「いや、どうしようってお前ねえ…」

 そんなエイクの返事にアクーがため息をついて答えようとしたその時、今まで大人しく三人を見つめていたヴィゼレットがキュっと目を細めると、上を向いて一声鳴いた。ピューっと聞こえるまるで笛のような声であった。

「ちょっと二人とも静かにして…」

 怒った声で言いながら振り向いたキイタの言葉が止まった。次の瞬間、静かにしろと言った当のキイタが洞窟どうくつ中に響き渡る大声で怒鳴った。

「アクー!後ろ!」












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