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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
122/440

日没と夜明け

●登場人物

・ココロ…始まりの存在に選ばれた能力者。まだ十四歳の公爵令嬢であるが芯は強く、魔族打倒の為に仲間を捜し続ける。

・吉田大地…土のANTIQUEに選ばれた能力者。仲間唯一の地球人であり、幼い頃闇のANTIQUEに攫われた幼馴染を助け出す為異世界にやって来た。

・シルバー…鋼のANTIQUEに選ばれた能力者。自国の公爵令嬢であるココロには絶対忠実な公軍隊士。


・マヌバラ…謎の城、ラディレンドルブルットに務める女中頭。



●前回までのあらすじ

 シルバーの前に現れたアカツキはコクヤとの戦いを悔いるシルバーに怒りの刃を向けた。卑怯であれ何であれ目の前の勝利に拘る剣士に誇りなど不要とアカツキはシルバーを諭す。

 敵であるアカツキの言葉にシルバーはこの宇宙を守るANTIQUEの能力者として新たな覚悟を決める事ができた。シルバーはアカツキに自分がもっと強くなる事を誓うのだった。

 そんな二人の戦いを傍観していたハクザサはシルバーに大地の捕らえられた場所のヒントを残し飛び去って行く。

 シルバーがココロと大地の二人を追って走っている頃、残されたキイタ、ガイ、アクーの三人は近所の村に暮らす青年、エイクの案内で伝説のソローニーアへとやって来た。

 重症を負い未だ傷の癒えないガイを残し、キイタ、アクー、エイクの三人は悲しい逸話の伝わる「悲しみの畔」、ソローニーアの中へと足を踏み入れるのだった。









 誰かが呼んでいる声が聞こえた。ほんのかすかな声だ。何を言っているのか明確にはわからない。ただ、その声が自分を呼んでいる事だけはわかった。


(誰―――?)


 ココロはその声に問いかけた。しかし声の主はココロの声が聞こえないのか、ただ同じ言葉をり返すばかりだった。耳障みみざわりなノイズの中で、小さな声がり返している。


――ス…テ…――


(またそれなの?あなたは、一体誰?)


 そこでココロは目を開いた。顔の半分を埋める枕の感触が伝わってくる。段々と像が結ばれてくる。隣のベッドでこちらに顔を向けて眠っている大地が見えた。

「大地…」

 そう呼んだつもりだったがのどからみ、かすれた声しか出なかった。ココロは両手をついてゆっくりと身を起こした。周囲を見回す、部屋の中だ。ぼんやりとした記憶が徐々にはっきりとしてくる。

「大地」

 ココロは一つ咳払せきばらいをすると、もう一度大地の名を呼んだ。大地はピクリとも動かず、まるで死んだように眠り込んでいた。

「大地、起きて。大地!」

「う…ん…」

 ココロがやや強い声で呼ぶと、ようやく大地は眉間みけんしわを寄せて声を出した。まぶたが薄く開き、やがてその目がココロをとらえた。

「ああ、ココロ…」

 そうつぶやくと大地はさも辛そうに身を起こし始めた。しばらうつむいたまま動かずにいた大地がゆっくりと顔を上げる。ココロがしたのと同じように部屋の中を見回す。

「あれ?ここ、どこだっけ?」

「覚えていない?私達ほら、何だか怖いものに追いかけられて、馬車に乗って…」

 ココロの説明をぼんやりとした顔で聞いていた大地の表情が急にはっきりとし始めた。

「ああ何だか、どこかのお城に連れて来られたんだ…」

「そう。よく寝ていたわね」

「うん、良く寝た…。何だかとてもよく寝た気がするよ」

 その割に頭はまだ半分夢をみているようにぼうっとしていた。

「どの位眠ったのかしら?私達」

「どうだろう?確か、ここに着いたのは夜中だったはずだけど…」

 そう言うと大地は後ろの窓を振り返った。

「そう、だったかしら?」

「え?」

「何だか、夜明けが近かったような覚えもない?」

「何言ってんのココロ、そんなバカな」

 大地はモゾモゾとベッドから降りると窓のそばへと歩み寄った。

「確かほら、この部屋に案内された時空は一面の星だったじゃないか。それでここの城主様ももう休んでいるから挨拶あいさつは明日夜が明けてからって」

 確かに大地の言う通り、そんな話を聞いた記憶もある。しかし、それとはまた別の記憶もココロの中にはあった。夜明け前の空と朝靄あさもやとを見上げたような記憶…。しかし、それをはっきりとした形で思い出す事がどうしてもできなかった。

「夜中に押しかけてそのまますぐ寝こけちゃうなんて、何だか悪い事しちゃったみたいだね」

「そ、そうね」

 夜中に到着した事を微塵みじんも疑わない大地の能天気のうてんきな物言いに、ココロは何となく言葉を詰まらせた。その時だった、不意に今まで経験した事のない強い衝撃がココロの頭の中に走った。

「っつ…!」

 たまらずココロはこめかみをおさえて顔を伏せた。

「ココロ!どうしたの!?」

 心配した大地が慌ててベッドを回って近くへ()け寄ってくる。今まで奇妙な声と共に頭の中に反響していた嫌なノイズ、今ココロの頭の中に走った衝撃は、それを数十倍にふくらませたような不快(ふかいな音を立てて、そしてすぐに消えた。

「大丈夫…、大地」

「ん?」

 自分の肩をつかむ大地の手をにぎりながらココロが顔を上げる。目の前には心配そうな大地の顔が自分をのぞき込んでいた。

「聞こえない?」

「え?」

「声が、聞こえない?」

 大地はふとココロから目をらし、何かに耳をそばだてるように押し黙った。しばらくそうしていた大地は、再びココロの顔を見つめると首を横に振った。

「俺には、何も…」

「そう…」

「あの時も言っていたね?あのがけの上でも。声みたいなものが聞こえるって」

 そう言われればそうだ。まきを探そうと歩いて行ったがけふちで、やはり誰かの声を聞いた。そのすぐ後でレヴレント達の声が聞こえ始め、そして大地と共に(がけ)の下に落ちてしまった…。そのままその時の声の事はすっかり忘れてしまっていた。

 あの声は、それまで聞こえていた正体不明の声と同じだっただろうか?ココロはあのがけの上で聞いたかすかな声を思い出そうと目を閉じた。

「ココロ、深呼吸して」

「深呼吸?」

「今ココロが聞いている声は俺には聞こえない。つまりそれは能力者の、仲間の声なんじゃないのかな?」

「仲間…。そうね、そうかもしれない」

「落ち着いてよく聞いて。その声は何て言っているの?」

 しかしココロはその大地の質問にすぐに首を振って答えた。

「わからないの。何だかひどい雑音の中にかすかに聞こえるだけで。私が呼び掛けても全然答えてくれないし」

「本当にわからない?気を静めて、もう一度集中して。何か一言でも聞き取れる言葉はない?」

「一言でも?」

「そう、一言だけでも。単語一つでもいいんだ、何かわからないかな?」

 ココロはゆっくりと息を吐くと、もう一度静かに目をつむった。


―――ス…テ…―――


「す、て」

「は?」

「それしか聞こえないの。ううん、他にも何か言っているみたいなんだけど、雑音がひどくてそれしか聞き取れないのよ。す、て、しか。何だか、ひどく遠くから聞こえている感じ」

「す…て、すて、すて…。何だろう?すて」

 大地は(かろ)うじてココロが聞きとってくれた言葉の中に答えを見出みいだそうと必死に考えをめぐらせた。しかし相手の言い分を予測するには、「す」と「て」の二言だけでは余りにヒントが少な過ぎた。

「とにかく、ココロはもう少し注意深く相手の声を聞く事に集中して。俺、邪魔じゃましないようにするから」

「うん」

 大地の言葉にココロがうなずきかけたその時、二人の部屋の扉をひそやかに叩く音が聞こえた。大地とココロはハッとしてそろって顔を音のした方へと向けた。

「お客様、お目覚めですか?お客様」

 扉の向こうから中年の女の声が聞こえてきた。

「我が城の主が目覚めました。朝食の前に是非ぜひにもご挨拶あいさつを申し上げたいとのよし。よろしければお受けいただく訳には参りませぬでしょうか?」

 大地はそっとココロの顔を見た。ココロはそんな大地に気が付かぬように扉を見つめたまま黙っている。

「ココロ?」

 扉の向こうの人物に聞かれない程度の声音こわねで大地がココロを呼ぶと、彼女はすぐに大地の顔を見上げ、そして一つうなずいた。その仕草が一体何を意味するのか大地がわからずにいる間に、ココロは突然大きな声で扉の向こうへ返事を返した。

「ありがとうございます。すぐに支度したくをいたしますのでしばら猶予ゆうよをいただけますか?」

身支度みじたくなど…。仮住かりずまいの城でございます、ご遠慮なく今のまま」

「いいえ、そうは参りません。然程さほどのお時間は取らせませんので、少しだけお待ちになってください」

 そう言うとココロは相手の返事も聞かずにベッドの足元に転がる荷物を(つか)み上げた。あの闇の中、大地が拾ってくれた自分の荷物だ。それを手にココロはけるように風呂場へと向かった。

 大地の耳にかすかな衣擦(にぬず)れの音がしたかと思う間もなく、着替えを済ませたココロが部屋に戻って来た。

 ンダライ王国でココロは旅に不要なドレスのたぐいは一切町の衣料品店にくれてしまっており、一国の令嬢として他国の王と謁見えっけんするに相応ふさわしい服など一枚も持ち合わせていなかった。

 結局、気安いパンツスタイルではあったがそれでも上に着た白地に金刺繍きんししゅうほどこした厚手の服には、二色に色分けされた星と細い三日月をかたどったアスビティ公国の国章、「ヘルブストレリャ」が胸いっぱいに描かれていた。

 国章の刺繍ししゅうがされた服の上から足までをおおう身のたけ程の臙脂えんじ外套がいとうまとった姿で現れたココロは、気持ち胸を張り、そんな姿でも堂々と扉の前に立った。

「あ…」

 ココロが全身からただよわせる高貴な雰囲気に気圧けおされていた大地は、気が付いたように慌てて扉を開いた。

「これはこれは…」

「おはようございます、マヌバラさん」

 昨夜と変わり美しい服に身を包んだココロの姿に、二人を部屋まで案内してくれたこの城の女中頭、マヌバラは目を丸くしていた。

「ゆっくりとお休みはいただけましたでしょうか?」

 ココロのりんとした立ち姿に思わず腰を折ったマヌバラが頭を下げたまま()いて来る。

「お蔭様かげさまで、二人とも十分に疲れをいやす事ができました。さて、城主様をお待たせするのは心苦しい、早速さっそくですが案内をいただけますか?」

勿論もちろんでございます。さあ、どうぞこちらへ」

 そう言うとマヌバラは手を前方へ差し向けながら二人を先導して歩き始めた。後に続いて一歩を踏み出しながら、ココロはチラリと大地の顔を見た。

 急な展開にココロが何を考えているのかわからない大地は呆気あっけにとられた顔で立っていたが、ココロと目があった事でハッと我を取り戻し、歩き出したココロに続いて部屋を出た。

「マヌバラさん」

「何でございましょうか?」

 廊下を歩き始めてすぐ、前を行くマヌバラにココロが声を掛けた。

「このお城には今どれだけの人が働いているの?」

「この城でございますか?さて、私ども女中が二十一名いる事は把握はあくしておりますが、王を警護する兵士の数となりますと五十なのか、六十なのか私にもわかりかねますが」

「そう…」

 何の(ため)にそんな事を()いたのか、明確な答えが得られなかったにも関わらずココロは特に気にする風でもなく、もうマヌバラに話し掛ける事を止めてしまった。



 大地とココロが城の主との謁見えっけんに向かおうとしていた丁度同じ頃、二人を追ってジルタラスの荒野を馬でけていたシルバーは、未だにその途上とじょうにいた。

 (かろ)うじて消えずに続いている馬車のわだちを見失わぬよう注意深く進んできたシルバーであったが、慎重しんちょうに過ぎたのか、思いの外時間を食ってしまっていた。

 あんなに高かった日が午後に差し掛かりかたむいてきた。まだ初秋なのであろうがアスビティの北にあるジルタラスは日中にも関わらず冷え込み、気のせいか太陽の進みも早く感じる。

 ココロ達までの距離が想定できないシルバーの胸を、日没への恐怖とあせりが支配し始めていた。

 わだちが続くのは荒野に伸びる一本道だ。その痕跡こんせきを見るに、エイクが言っていたように馬車はそれなりに大きいと想像できた。

 夜道を走ったのだとすればこの道を外れて岩だらけの荒野に入り込む事はないはず、そう自分に言い聞かせながらわだちを確認する頻度ひんどを落とし、シルバーは馬の速度を上げていった。

 そんなシルバーが突然 手綱たづなを引き、馬を止めた。先を急いでいたはずであったが、今目の前に現れた光景は一瞬そんな思いを忘れさせる程、意外なものであった。

「な、なぜ…?」

 誰が聞いている訳でもないと言うのに、我知らずそんな言葉が口かられる。馬の背に乗ったまま息を切らせたシルバーは、茫然ぼうぜんと前を見つめている。それ程以外な光景が目の前に広がっていた。

 シルバーが走ってきた荒野をうねる一本道は、その先を深い深い森の中へと伸ばし消えていたのだ。

 ここまでかたくななまでに固い岩盤がんばんの地が続き、低木の一本すら見せなかったこの北の大地に、余りにも唐突とうとつに巨大な森が行く手をさえぎるように立ちふさがっていたのだ。

 それは、森と川の国と自称するアクーと出会ったイーダスタ共和国の森におとらぬ、十五m級の巨木におおわれた見事な森であった。

 その森に吸い込まれるように消える一本の道。シルバーは手綱たづなつかむ手に力を込めた。どう考えてもおかしかった。今自分の立つ荒野と目の前にする森との間を埋める相関性そうかんせいがどうしても見出みいだせなかった。

(目に見えるものが、全てではない…)

 シルバーの脳裏に別れ際にハクザサが残した言葉が蘇る。あるいはこの森は、ココロを連れ去った敵の罠なのではないのか。

 しかし、そうと知ってなお引き返す事などできはしない。日没に追われるシルバーに、別の道を探す猶予ゆうよもなかった。

 シルバーはそっと腰のメダルに手を触れると、意を決したように森へ向かって勢いよく馬を進めた。

(これが敵のまやかしであったとして、それが何だと言うのだ。アテイル、フェズヴェティノス、あるいはレヴレント…。敵が何者であれ、私の行く手をはばむ者は剣のつゆと変えてやる!)

 コクヤの兄と名乗るオウオソ、アカツキの指摘を受けたシルバーは勝利する事に今や微塵みじん躊躇ためらいを抱かなかった。

 そして今のシルバーにとって目の前の勝利とは、ココロを無事に連れ戻しれてしまった旅の行程を修復する事に他ならなかった。

 その勝利をつかむ為 一切いっさいこだわりを捨てたシルバーに迷いはなかった。秋の弱い日がこぼす森の中をシルバーはただ一心に馬を走らせた。シルバーの悲壮ひそうなまでの決意に反し、森は美しく輝いていた。

 シルバーにあおられ息を切らせる馬がけるに合わせ、降り積もった色とりどりの落ち葉が舞い上がり秋の陽光に照らせれながらひるがえる。

 天に向かって真っすぐに伸びる巨木達は思い思いに枝を伸ばし、その指先からけ抜けていくシルバーの頭上に新たな落ち葉の雨を降らせ続けた。

 風が抜けるたびれる枝葉はザワザワと音をたて、人間 ごとき小さな存在を優しくあわれむように命の強靭きょうじんさを鼓舞こぶしている。

 低木すら生えぬれたこの国で、今走り抜けるこの森だけが生命に満ち溢れ、その営みを謳歌おうかするかのごとくに茂っていた。まるでジルタラスのすべての生命がこの森一点に集められでもしたかのように。

 どれだけ走っても一本道、迷う事はなかった。敵のふところに飛び込んだ事を認識しつつもシルバーは無策むさくのままただ走り続けた。敵が出たならその時はその時と覚悟を決めていた。とにかく少しでも早くココロ達の居場所を突き止めたかった。


 再び夜に追いつかれる前に…。













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